クラウドワークスとランサーズ(クラウドソーシング対決) [著者ID: 10]
営業赤字の年が散見されること、売上がそれほど伸びていないこと、営業キャッシュフローがマイナスの年が少なくとも直近5年で2年あることなどから、ざっと見、クラウドソーシング自体が、なかなか厳しい状況におかれていると言えそうです。
■ クラウドワークス
まず、目につくところでは、2018年度に有利子負債が大きくなっているので、これは買収なり合併なりがあったことが伺えたので、2017年と2018年の事業概要を見て違っている部分を見ると、下記、2つの事業が増えていました。どうやら、フィンテック事業を始めたようですね。
(投資育成事業)
投資育成事業では、有価証券の売却による利益獲得を目的として国内外のベンチャー企業への出資を行っております。投資の対象となる事業は、クラウドソーシングをはじめとしたシェアリングエコノミー関連サービスの他、個人の報酬獲得に寄与する周辺サービスを中心としております。
(フィンテック事業)
フィンテック事業は、個人がクラウドソーシングをはじめとしたシェアリングエコノミー関連サービスで獲得した報酬の決済、使用、運用等を行うための金融サービスの提供を目指し、新設した事業セグメントです。
当連結会計年度において、フリーランスの報酬取得を保証するサービス「フィークル」を提供開始した他、三菱UFJフィナンシャル・グループとの合弁により報酬を店舗などでの決済に利用できるデジタルウォレットアプリを開発する株式会社クラウドマネーを設立しております。
関係会社の状況を見てみると、
(1) 2017年9月期
株式会社クラウドワークスベンチャーズ 投資事業
株式会社graviee クラウドソーシング事業
株式会社3スタ クラウドソーシング事業
(2) 2018年9月期
株式会社電縁 システム開発受託事業,SES事業
アイ・オーシステムインテグレーション株式会社 システム開発受託事業
株式会社ブレーンパートナー 顧問のマッチング事業
株式会社ビズアシ オンラインアシスタントのマッチング事業
株式会社クラウドマネー ウォレットアプリの開発
株式会社graviee SES事業
になりますので、新しく増えた関係会社は、新しい事業に関連してそうです。
ちなみに、直近の2021年9月期の有価証券報告書では、関係会社は、
株式会社OPSION 「クラウドオフィスRISA」の開発、運用
の1社のみとなっており、事業内容は、下記の2つとなっていて、投資育成、フィンテック事業が消えています。
(マッチング事業)
マッチング事業では、日本最大級のオンライン人材プラットフォームである「クラウドワークス(https://crowdworks.jp)」を運営しております。同サービスに企業が登録した仕事の依頼に個人が応募し、個人のスキルや条件が仕事依頼に合致すればマッチングが成立します。企業は470万人(2021年9月末現在)もの個人の登録ユーザー(クラウドワーカー)の中から、必要な時に必要なスキルを持つ人材に仕事を依頼でき、個人は自ら顧客開拓を行うことなく仕事をする機会を得ることができます。マッチング後も、原則的にオンラインで成果物の納品・検収、報酬の決済が行われるため、個人にとっては時間や場所にとらわれることのない働き方が実現できます。これにより、子育てや介護を理由にフルタイムで働くことが難しい方や、より自由なライフスタイルを求めるエンジニアやクリエイター、昨今、需要が拡大している副業・兼業希望者などに新たな活躍の場を提供いたします。また、プロフェッショナルなエンジニアやデザイナーに向けたマッチングのサポートを提供する「クラウドテック」や、事務アシスタント向けの「ビズアシスタントオンライン」など、専任スタッフが個人と企業のマッチングをサポートするサービスのほか、トップ企業の人材を副業でマッチングするプラットフォーム「クラウドリンクス」も提供しております。これらのサービスでは「クラウドワークス」に登録しているクライアント76万社(2021年9月末現在)およびクラウドワーカー470万人をプラットフォーム資産として活用し、事業を展開しております。
(ビジネス向けSaaS事業)
ビジネス向けSaaS事業では、企業向けの業務管理ツール「クラウドログ」を運営しております。同ツールの導入社数は順調に伸長しており、さらなる成長に向けた投資を継続しております。
この結果から見ると、クラウドワークスは、色々事業規模を大きくするために、企業の合併などを行ったが、あまりうまくいかず、原点回帰をしたというのが現状ではないかと読み取れます。
■ ランサーズ
2020年3月期が下記3つの事業で、2022年3月期の直近の有価証券報告書でも変わらずで、これといって大きな変化はありません。
(マーケットプレイス事業)
オンラインで企業が直接利用するサービスで構成されており、主力サービスは「Lancers」です。
「Lancers」は方式によって、オンラインスタッフィングプラットフォーム領域、クラウドソーシング領域に分類されます。
「Lancers」はオンライン上で、企業と個人が直接マッチングするサービスで、様々なクライアントニーズに対応しております。クライアントの依頼(発注)に対して、ランサーから見積り(納期や予算等)が提案され、クライアントは見積りや評価・実績から1名(1社)を決定して、案件を開始します。進捗確認・納品・支払いは、「Lancers」の「プロジェクト管理」から行うことができます。また、プロジェクト方式では報酬を「固定報酬」と「時間報酬」から選択できます。「固定報酬」とは依頼(発注)された仕事が最終的に完了した時点で、予め決めた額の報酬が支払われる形の契約です。長期にわたる仕事では、完成までの段階を区切って報酬を分割して受け取る提案を行うことも可能です。一方、「時間報酬」は、ランサーが実際に仕事をした時間に対価を支払う形の契約です。プロジェクト方式は、特定のランサーに仕事を依頼(発注)するモデルであるため、オンラインスタッフィングプラットフォーム領域に分類されます。当該サービスにおいては、クライアントの依頼金額(流通総額)に対する当社グループの取扱手数料が、売上高として計上されております。
コンペ方式は、クライアントが複数の提案の中から意向に沿ったものを選ぶ方式です。プロジェクト方式との違いは、(1)コンペ方式は最終完成物に近い形でランサーからクライアントへ提案が行われること、(2)採用された場合の報酬額が予め決められていることの2点です。
タスク方式は、多数のランサーが同時に1つの依頼作業を行う仕事方式です。簡単なテキスト作成やデータ入力、アンケートへの回答等、1人当たりが行うべき仕事量は少なく、専門性も高くない仕事に向いています。単純作業のため、クライアントによる事前の審査はなく、ランサーは決められた条件の範囲で自由に仕事を開始できるようになっております。また、タスク方式の場合、自由に仕事を開始できますが、クライアントは成果物を随時確認して、1件ごとに承認の可否を判断し、承認した件数の分だけ報酬を支払います。コンペ・タスク方式は、不特定のランサーに仕事を依頼(発注)するモデルであるため、クラウドソーシング領域に分類されます。当該サービスにおいては、クライアントの依頼金額(流通総額)に対する当社グループの取扱手数料が、売上高として計上されております。
ビジネスカテゴリにおいて個人のスキルに基づいた商品をパッケージとして出品できる形式として、2021年11月にリリース(フルリニューアル)いたしました。スキルを350種類に細分化することで、ニーズに合わせた発注を促すとともに、マッチング精度の向上を目指します。(1)国内最大級のビジネスカテゴリ数(2)最低価格1万円(3)安心安全のサポートの3つを特徴とし、ビジネス利用を促進します。パッケージ方式は、特定のランサーに仕事を依頼(発注)するモデルであるため、オンラインスタッフィングプラットフォーム領域に分類されます。当該サービスにおいては、クライアントの依頼金額(流通総額)に対する当社グループの取扱手数料が、売上高として計上されております。
(マネージドサービス事業)
当社グル―プが介在し案件を受託・管理する事業であり、主力サービスは「Lancers Assistant」、「Lancers Outsourcing」です。当社グループを介在し特定のランサーに仕事を依頼(発注)するモデルであるため、オンラインスタッフィングプラットフォーム領域に分類されます。
クライアントによるBPOニーズもしくは定額での業務委託ニーズに対応して当社グループが厳選したフリーランスチームに一括で依頼(発注)していただけるサービスです。アシスタント業務、Web制作、資料制作、広報活動など様々な業務を依頼できる「アシスタントプラン」やWebサイトやECサイト運用、営業資料、チラシ、イラスト制作を代行する「クリエイティブプラン」があります。当該サービスにおいては、当社グループが直接契約主体となっているため、クライアントの依頼金額(流通総額)が、売上高として計上されております。
依頼内容の要件定義ができない、適切なランサーの見つけ方が分からない等の理由で「Lancers」での直接依頼が困難なクライアントや大量・複雑な案件を一括で依頼(発注)したいクライアントに対して、当社グループが直接依頼(発注)を引き受ける法人向けのサービスです。単純なルーティン作業からクリエイティブ制作まで様々な領域の業務を当社グループが一括して受託し、当社グループが「Lancers」のサービスを用いて厳選したフリーランスに再委託しております。クライアントとランサーとの間に当社グループのディレクターが入り、要件定義から案件の体制構築、納品物のクオリティ管理まで行うため、品質を担保した制作物を作成しております。当該サービスにおいては、当社グループが直接契約主体となっているため、クライアントの依頼金額(流通総額)が、売上高として計上されております。
(テックエージェント事業)
当社グル―プが介在しIT人材を紹介する事業であり、主力サービスは「Lancers Agent」です。当社グループを介在し特定のランサーに仕事を依頼(発注)するモデルであるため、オンラインスタッフィングプラットフォーム領域に分類されます。
「Lancers Agent」におけるLancers Agentは、クライアントのエンジニア、デザイナー、マーケター等の求人ニーズに対応して、フリーランス人材をエージェントを介して紹介するサービスです。クライアントとランサーとの間に当社グループのエージェントが介在し、クライアントからの業務委託内容や当該業務を再委託するランサーの要件やスキルレベルを明確にした上で、マッチングを成立させております。当該サービスにおいては、クライアントの依頼金額(流通総額)が、売上高として計上されております。
また、「Lancers Agent」におけるPROsheetは、クライアントの案件をランサーが直接受注するモデルのサービスです。そのため、クライアントと当社グループが契約した手数料(サービス利用料)が売上高として計上されております。
■ クラウドソーシング事業会社の現状
クラウドワークスは、事業の拡大路線をとったと言えそうですが、有価証券報告書の財務諸表が、個別→連結→個別と変化したことからも、拡大路線は一旦終結していると言えそうです。
その結果、直近の有価証券報告書(2021年9月期)では、クラウドワークスは今までにない営業利益を出しています。
実際に、有価証券報告書の中でも、
『当社はコア事業であるマッチング事業への投資を集中する方針を定め、成長率増加と生産性向上の両輪により収益性の増加を図ってまいりました。その結果、当事業年度においては、マッチング事業の流通取引総額、売上高、売上総利益の全指標が業績予想を達成したことに加え、生産性向上の取り組みが進展したことにより営業黒字を実現いたしました。』
ということを述べています。
一方、ランサーズは、クラウドソーシングの事業に、一貫して集中していますが、売上は、クラウドワークスの約半分、また、営業利益は出せていない状況が続いています。
総じて、世間で騒がれるほど、クラウドソーシングの事業会社自体は儲かっていないというのが、厳しい見立てですが、現状ではないでしょうか。
一方で、クラウドソーシング自体の取引総額が上がっていくことで、多様な働き方を実現した結果ととらえることができるとすれば、クラウドソーシングの事業会社の利益最優先という考え方自体が、そもそも違うとも言えそうです。
そういった意味では、クラウドソーシング事業をやっている会社の本当の事業規模は、売上だけでなく、顧客からの預り金(おそらく、前払性で動いているシステムなので、顧客が発注したとき、まだ仕事が完了していない状態の一時的に事業会社が預かっている金)の規模あたりも、評価のポイントに加えるべきなのかもしれません。
ちなみに、直近の預かり金は、
クラウドワークス ・・・・ 1,119,373千円
ランサーズ ・・・・・・・ 838,791千円
です。
たまに、私もクラウドソーシングを利用していますので、ここからの飛躍を期待したいところです。