ヤマトの残業代未払いと財務諸表 [著者ID: 10]
すべてつながっている話ではありますが、特に残業代未払いの問題が、どの程度、企業の経営に影響を及ぼすのか、財務諸表が見たくなります。
それでは、クロネコヤマトのヤマトホールディングスの財務諸表を見てみましょう。
過日、ヤマトホールディングスが、未払い残業代を今期40億円追加計上 (日本経済新聞) という報道があった。2017年3月期の190億円に続き、2017年度(2018年3月期)にも40億円の未払い残業代を計上する。
営業利益は、2016年3月期の685億円(売上高営業利益率4.8%)に対し、2017年3月期は348億円(同2.4%)、また、当期純利益は、2016年3月期の396億円に対し、2017年3月期は183億円となっている。
純利益が昨年比で、△213億円だから、未払い残業代が、純利益の減少を説明する理由のほとんどになる。
純利益が前年の半分になるという、インパクトは非常に大きい。
2017年4月28日、この経営責任を取る形で、役員の処分がなされている。
その内容は、下記の通りである。
新たに認識した労働時間及びその管理に対する対策の遅れと、多額の一時金を発生させた経営の責任として、下記の通り役員の処分を決定しました。
[ヤマトホールディングス株式会社]
代表取締役会長 1名 減俸6か月間(月額報酬の3分の1)
代表取締役社長 社長執行役員 1名 減俸6か月間(月額報酬の3分の1)
代表取締役副社長 副社長執行役員 兼ヤマト運輸株式会社 代表取締役会長 1名 減俸6か月間(月額報酬の3分の1)
執行役員兼ヤマト運輸株式会社 代表取締役社長 1名 減俸6か月間(月額報酬の3分の1)
上席執行役員(人事戦略担当) 1名 減俸6か月間(月額報酬の5分の1)
[ヤマト運輸株式会社]
代表取締役 専務執行役員(人事担当) 1名 減俸6か月間(月額報酬の5分の1)
国土交通省の2015年度の宅配便取扱実績に関する調査資料(下にグラフと表を転載)を見ると、扱う荷物の総量は、ほぼ右肩上がりに急速に増え続けている。加えて、ヤマトが扱う荷物は業界全体の46%と約半分を占める。
2017年3月期のヤマトの有価証券報告書によれば、
・2016年度 17億3千万個
・2017年度 18億6千万個 (前年比7.9%増)
と、さらに取扱量が増えている。
今回は、一時金ということでの対応となったが、この物流の量が増えている状況、売上の伸び、従業員の働き方、人材確保の難しさが現状と変わらないとすれば、法定の過去2年間で発生した230億円の未払い残業代は本来支払い義務があったわけなので、これと同様の人件費を毎期計上しなければならない状況が続き、経営が厳しくなっていくことが予想される。
そこで、ヤマトは、
・宅配ロッカーの設置
・「正午から午後2時」指定を廃止
・正社員の労働時間の年間目標を引き下げ
・料金値上げ
など、直接的間接的なさまざまな改革を実施しようと動いている。
ヤマトは、2020年の東京オリンピックのオフィシャル荷物輸送サービスパートナーで、「世界が驚く、物流を作ろう。」というビジョンを掲げている。
改革を推し進めることで、「世界が驚く物流」の実現が可能になっていく、と信じたい。
そして、できれば、私の財布をびっくりさせないままに、世界を驚かせてほしいというのが本音である。
【参考リンク】
ヤマト運輸、正社員の労働時間の年間目標を引き下げへ 来年度以降 (産経ニュース 2017年3月3日)
ヤマトの成長に必要なラストワンマイル改革 (日経ビジネスONLINE 2017年3月8日)
ヤマト運輸 未払い残業代支給 法定の過去2年分 (毎日新聞 2017年4月13日)
ヤマト、未払い残業190億円で利益半減の驚愕 (東洋経済ONLINE 2017年4月19日)
ヤマトの27年ぶり宅配便値上げ-浮き彫りになる構造問題と課題 (Bloomberg 2017年6月13日)
「ヤマト運輸」が、時間帯指定配達で一部見直し 19日から「正午から午後2時」指定を廃止 (東洋経済ONLINE 2017年6月19日)
法人向け15%以上値上げが大前提…ヤマト社長 (読売新聞 2017年6月20日)
ヤマトHD、未払い残業代を今期40億円追加計上 (日本経済新聞 2017年6月21日)