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有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100XSIT (EDINETへの外部リンク)

有価証券報告書抜粋 株式会社Veritas In Silico 事業の内容 (2025年12月期)


沿革メニュー関係会社の状況


当社は「どんな疾患の患者さまも治療法がないと諦めたり、最適な治療が受けられないと嘆いたりすることのない、そんな希望に満ちたあたたかい社会」を実現し発展させるため、AI創薬によってメッセンジャーRNA(mRNA)を標的とする各種医薬品の創出に取り組んでいます。
当社はこれまで、インフォマティクスと実験技術を融合させmRNAへの創薬を可能とする独自の創薬プラットフォームibVISⓇを用いておりましたが、その基礎となる複数のルールベースAIを抜本的に改良し、あわせて新たにデータ駆動AIも複数実装することによりバージョンアップを図ったaibVIS(エイアイビス:以下「aibVISプラットフォーム」と表記)として、より効率的かつ確実なmRNA標的創薬を可能としております。
mRNAを標的とする低分子創薬は、医薬品市場において最大のセグメントを形成する低分子医薬品をもって、従来のタンパク質を標的とする創薬技術では狙うことが難しかった様々な疾患にも対応可能な新しい創薬アプローチで、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療薬や治療法がなく未だ満たされない医療ニーズ)の充足に貢献することが期待されます。当社は、mRNA標的低分子創薬により、より多くの医薬品を患者さまにお届けするため、当社独自のaibVISプラットフォームを活用し、複数の製薬会社と共同でmRNA標的低分子医薬の創薬研究を進める「プラットフォーム型」のビジネスを展開しております。
加えて当社は、自社でパイプラインを保有する「パイプライン型」のビジネスを展開しており、現在、核酸医薬品の自社創薬研究に取り組んでおります。核酸医薬品は、医薬品市場において最も成長率が高いセグメントと見なされています。aibVISプラットフォームの応用により迅速な創出が可能であり、主に希少疾患のアンメット・メディカル・ニーズの充足につながることが期待されます。
なお、当社の事業セグメントは創薬プラットフォーム事業のみの単一セグメントであります。

(1) 事業の背景

現在の医薬品市場は、主に疾患の原因となるタンパク質(以下「疾患関連タンパク質」という)に直接結合し、その機能を制御することで異常な働きを止める医薬品(低分子医薬品、抗体医薬品※6など)が主流です(図1)。しかし、これらの医薬品が創薬標的として狙うことのできる疾患関連タンパク質の数はもともと限られており、長年にわたる医薬品の研究開発※7の結果、新薬開発が求められている医療ニーズの高い疾患に対して新たに医薬品を創出することが難しくなっています。このように、創薬標的となりうる疾患関連タンパク質が限られてきている現状、すなわち「創薬標的の枯渇」が、製薬業界共通の課題となっています。
mRNAは、DNA※8から個々のタンパク質の遺伝情報を書き写した個々のタンパク質の設計図です。疾患関連タンパク質の設計図であるmRNAを制御することができれば、疾患関連タンパク質の機能を医薬品で直接制御する場合と同様に、その疾患を治療することが可能になり、これまで創薬標的とできなかったタンパク質を標的にできることから、「創薬標的の枯渇」の解消につながることが期待されます(図1)。
mRNAを標的とする医薬品は、核酸医薬品によって実現されています。核酸医薬品は研究開発期間を短くできる可能性があり、患者数が少ない希少疾患の治療に適しています。しかし、経口投与が難しく、製造コストが高いため、多くの患者さまに広く治療を提供するには適していないと考えられます。当社は、低分子医薬品のように経口投与が可能で患者さまの負担が少なく、開発・製造技術が確立している安価で供給に問題がない医薬品でmRNA標的創薬を実現することが製薬業界の真のニーズであり、そのためmRNA標的低分子医薬品は今後の大きな市場になる可能性があると考えております。それにもかかわらず、mRNA標的低分子医薬品はこれまでほとんど創出されておりませんでした。低分子創薬では、創薬標的全体の構造を精密に解析し、創薬標的上に低分子医薬品が結合して薬効を示すことが期待できる構造を最初に特定すること(このプロセスを、以下「ターゲット探索」という)が重要です。しかしながら、mRNAは1つの決まった構造をとらず、創薬研究を始める際に精密な構造の解析を行うことが困難であるため、mRNAを創薬標的にして低分子創薬を実施することは難しいという業界の認識がありました。このような状況において、当社の創業者である中村が2000年代前半より技術開発してきたインシリコ※9RNA構造解析技術により、mRNAを創薬標的としたターゲット探索が可能になり(詳細は「(2) 当社の事業領域 ③ aibVISプラットフォーム」を参照)、ターゲット探索の結果を活用した実用的な低分子化合物のスクリーニング※10法と合わせて、当社の創薬プラットフォームの基礎となっていました。そして現在、ibVISⓇの根幹をなす複数のルールベースAIを抜本的に改良しつつ、起業後に実施した社内研究および製薬会社等との共同研究によりRNAに関する独自の解析データを蓄積し、そのデータを利用するデータ駆動AIを装備することにより、AIと生物学を組み合わせた創薬プラットフォームaibVISに発展させています。

図1. 現在の主な医薬品市場(タンパク質標的医薬品)と当社が取り組む今後の成長市場(mRNA標的医薬品)




(注) mRNA標的低分子医薬品の研究開発は世界的に見てもほとんどが研究段階であり、
本創薬で上市された低分子医薬品はありません(2025年12月末現在)。

mRNAを標的とした創薬(低分子医薬品及び核酸医薬品)は、タンパク質を標的とした従来の創薬手法では医薬品の研究開発が不可能もしくは困難であった様々な疾患に適用できる潜在性を秘めています。そして疾患関連タンパク質において大きな割合を占めるブルーオーシャン(競争相手のいない又は競争相手の少ない未開拓な市場)を開拓できる創薬アプローチであると考えております(図2)。特に、mRNA標的低分子創薬は、患者さま、製薬業界及び医療経済的な観点からも社会に望まれる低分子医薬品の創出に取り組めることから、次世代創薬の本命の一つとして期待されています(詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4) 経営環境」を参照)。

図2. mRNA標的創薬によるブルーオーシャン開拓の可能性


出典:The Human Protein Atlas, DrugBank, KS analysis, 2018 をもとに当社にて作成


現在の医薬品市場の中心の一つであるタンパク質標的低分子医薬品とその創薬標的であるタンパク質の関係は、ちょうど「鍵」と「鍵穴」の関係に例えられ、低分子創薬とは、創薬標的上に「鍵穴」を探索し、様々な工程(「鍵候補」を見つけるスクリーニングなど)を経て「鍵穴」にピタリとはまる「鍵」を創出する一連のプロセスであると言えます(図3)。
当社は、独自のインシリコRNA構造解析により、多くのmRNA上には局所的に低分子医薬品(「鍵」)が結合できる構造(「鍵穴」)があること(当社では、mRNA上に局所的に存在する構造を「部分構造」、そのうち標的として定める構造を「ターゲット構造」と呼んでおり、「鍵穴」は「ターゲット構造」に該当します)、しかも多くの場合、複数の「鍵穴」が存在することを見いだしました。また、これらの「鍵穴」に対して「鍵候補」を見つけるために当社が独自改良したスクリーニング法の確立等により、従来のタンパク質標的低分子創薬と同様に、新しい創薬アプローチであるmRNA標的低分子創薬の実施が可能になっています(図3)。

図3. 低分子創薬のターゲット探索(鍵穴の探索)とスクリーニング(鍵候補を見つけるプロセス)


(注1) 様々な化合物の中から一定の基準を満たす化合物を選択するためのプロセス(鍵穴に対して鍵候補を見つけるプロセス)
(注2) スクリーニングで一定の基準を満たした化合物(鍵候補)



(2) 当社の事業領域

当社は、インシリコRNA構造解析技術をはじめとした複数のルールベースAIと創薬技術(biology)を統合したaibVISプラットフォームを活用したmRNA標的創薬を主事業としており、製薬会社との共同創薬研究等を通じて、mRNA標的低分子医薬品の創出に取り組むとともに自社による核酸医薬創薬にも取り組んでいます。
その他、将来の事業の多角化のため、インシリコRNA構造解析技術を応用した農薬事業への取り組みや、オンリーワンとなる核酸医薬品の創出の際に核酸医薬品の根本的な課題克服を目指したドラッグデリバリーシステムの事業化についても進めています(図4)。

図4. Veritas In Silicoの事業領域




私たちの体は、各部位の機能に応じて、その機能を発揮するために必要なタンパク質で構成されています。各部位の細胞内では、細胞の核の中にあるDNAがもつ全ての遺伝情報から必要なタンパク質の遺伝情報のみがmRNAに書き写されます(転写)。mRNAは核内から外に運び出された後、リボソーム※11というタンパク質合成機構によってタンパク質の合成の設計図として用いられます(翻訳)。翻訳の際、まずリボソームが一本のひも状であるmRNAの一方の端(5'末端)に取り付き、このリボソームがもう一方の端(3'末端)に向かって進行しながらmRNAの遺伝情報を読み取り、遺伝情報に対応するアミノ酸(タンパク質の構成要素)をつなげていくことでタンパク質が合成されます(図5)。このように、mRNAは私たちの体に必要なタンパク質の設計図として体内に存在しています。
当社は、そうした設計図であるmRNAに対する創薬として、低分子医薬品創薬と核酸医薬品創薬を行っています。低分子医薬品は、製造コスト(変動費)が低い一方、医薬品候補化合物を取得するまでの研究期間と費用(固定費)は高くなる傾向があります。核酸医薬品は、製造コストが高い一方、医薬品候補化合物を取得するまでの研究期間と費用は低減される傾向があります。すなわち、低分子医薬品が患者数の多い慢性疾患や一般疾患に治療を提供することに適しているのに対して、核酸医薬品は患者数の少ない希少疾患に治療を提供することに適しています。

① mRNA標的低分子創薬
a mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム
当社のmRNA標的低分子創薬では、当社独自のAIにより、ある程度安定で存在確率の高い(低分子化合物が結合しうる)部分構造をmRNA上に見いだしてターゲットとし、そのターゲット構造に結合し安定化する低分子医薬品を見出します。そしてその低分子医薬品がより強固でほどけにくい構造体をmRNA上に構築することで、リボソームによる(そのmRNAという設計図に対応した)タンパク質の翻訳を阻害もしくは制御することを狙っています。これにより、疾患の原因となる疾患関連タンパク質の生成を抑えられれば、従来の低分子医薬品や抗体医薬品等で直接疾患原因タンパク質の機能を阻害もしくは制御する場合と同等の効果が得られると考えています。(図5)

図5. mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム


(注) 通常、ある程度安定なmRNA構造があっても、リボソームは構造をほどいてタンパク質を合成する。ある程度安定なmRNA構造が低分子医薬品によってより安定で強固になると、リボソームは構造をほどけずタンパク質の合成がストップする。

b 当社のmRNA標的低分子創薬の特徴 ― 研究開発 ―
一般的に医薬品の研究開発は、創薬標的を決定した後、医薬品候補化合物※12を創出するまでの創薬研究(研究段階)、非臨床試験、臨床試験、承認取得(開発段階)を経て、完了までに長い年月を要します(表1)。当社が製薬会社と実施しているmRNA標的低分子創薬では、従来のタンパク質標的低分子創薬と標的は異なりますが、最終目的物は同じ化学的特性をもつ低分子化合物であることから、表1に示す創薬研究以外の非臨床試験、臨床試験、承認審査、さらには承認後の製造・販売で必要となる技術及びインフラは従来の低分子創薬と共通しています。mRNA標的低分子創薬で臨床試験以降の開発に進んでいる例は世界的にみてもまだ限られておりますが、化学的特性が従来の低分子創薬の医薬品候補化合物と同等であることを鑑みると、開発以降のリスクや成功確率は概ね従来の低分子創薬の医薬品候補化合物と同程度であると考えられます。また、低分子医薬品の場合には開発ガイドラインも確立されているため、開発段階以降の障壁は他の新規創薬技術と比較して小さいと考えられます。
以上のことから、mRNA標的低分子創薬で重要なことは、医薬品として十分な効果・安全性等を示す医薬品候補化合物を創出するまでの創薬研究であると言えます。

表1. 一般的な医薬品の研究開発プロセス


プロセス期間主な内容
研究(注1)創薬研究2~4年創薬標的を決定した後、医薬品候補化合物創出までの創薬研究
開発(注2)非臨床試験3~5年ヒトに用いる臨床試験を前提に、実験動物等を用いて有効性及び安全性等を国際的な基準のもとで最終確認する試験
臨床試験3~7年第I相少数の健康な方を対象に安全性等を確認する試験
第II相少数の患者さまを対象に有効性及び安全性を探索的に確認する試験
第III相多数の患者さまを対象に有効性と安全性を検証的に確認する試験
承認審査1~2年各国の規制当局による審査

(注1) 研究は、医薬品として十分な効果・安全性等を示す医薬品候補化合物を創出するまでの段階
(注2) 開発は、創薬研究で取得した医薬品候補化合物の効果・安全性等を規制当局に証明していく段階


c 当社のmRNA標的低分子創薬の特徴 ― 薬物動態・安全性 ―
医薬品の創薬研究では、疾患関連タンパク質の機能を抑制する効果など、医薬品の主作用(薬効)だけではなく、医薬品が投与されてから血中へ吸収されるか、血中から目的とする組織・細胞へ移行するかといった点や(分布)、医薬品が体内で代謝や排泄される過程、さらには安全性を確保するための毒性の低減、といった様々な課題について検討し、最適化する必要があります(医薬品を投与してから「吸収」「分布」「代謝」「排泄」される過程を「薬物動態」という)。
mRNA標的低分子創薬の創薬研究においても同様に薬物動態や安全性等の検討・最適化が必要ですが、従来のタンパク質標的低分子創薬と比べてmRNA標的低分子創薬の研究過程に特有の検討課題は、細胞内で標的とするmRNAに作用して疾患関連タンパク質を減少させられるかという「細胞内での効果」の工程のみであり、それ以外は従来の低分子創薬と共通しています。つまり、創薬研究段階におけるmRNA標的低分子創薬の新規創薬技術として特有のリスクは、概ね「細胞内での効果」が得られるか、という点になります。もちろん他の工程にもリスクはありますが、そのリスクは従来の低分子創薬と同様であると考えられ、この点については、長年の創薬研究を通じて各製薬会社には技術やノウハウが豊富に蓄積されています。逆に言うと、「細胞内での効果」は十分にあっても、従来の低分子創薬と同じ薬物動態や安全性の課題により、創薬研究が中断するリスクがあります。そのため、mRNA標的低分子創薬により患者さまに医薬品を届けるためには、従来の低分子創薬を通じて蓄積された各製薬会社の技術やノウハウが重要です。当社では、mRNA標的低分子創薬により患者さまに医薬品を届けるためには、より多くの製薬会社と共同創薬研究を実施することが重要であると考え、「プラットフォーム型」のビジネスに注力しています(詳細は「(3) ビジネスモデルの特徴」を参照)。
aibVISプラットフォームを活用した当社と製薬会社との共同創薬研究において、当社が担当するのは表1の創薬研究の中でも標的とする「細胞内での効果」に関するものであり、「ターゲットの探索」「スクリーニング」「ヒットtoリード」「リード化合物最適化」で構成されます。それ以外の薬物動態や安全性研究、動物を用いた化合物の効果を検証するための実験、非臨床試験以降の開発段階については、従来の低分子創薬での経験や知見が豊富な提携先の製薬会社にて実施されます(製薬会社との役割分担の詳細は、「③ aibVISプラットフォーム b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得」を参照)。

② mRNA標的核酸医薬創薬
当社のAI創薬は、mRNAの構造を詳細に解析できるという一般性から、核酸医薬品の創出への応用が可能です。当社は、自社でパイプラインを保有するハイブリッド型ビジネスにビジネスモデルを転換しており、mRNA標的低分子創薬に続く事業として、当社単独で実施可能な核酸医薬品の創出に向けた取り組みを進めています。
当社では、これまで理論的な配列設計が困難とされてきた核酸医薬品の一種であるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)※13の配列設計にインシリコRNA構造解析を応用します。当社のインシリコRNA構造解析により、短期間で医薬品候補化合物となるASOを取得でき(当社では最短8カ月で取得)、その結果研究開発費を抑えることが可能になると考えております。加えて、後述する当社独自のドラッグデリバリーシステム 「Perfusio (パーフュージオ)」を用いて、抜本的な臨床試験期間の短縮とコストの削減を目指します。自社パイプラインの対象疾患については、当社の株主価値の向上につながるかどうかを基準に、オンリーワンとなる医薬品の創出のために具体的な検討を開始しています(詳細は「d パイプライン創出と開発の方針」参照)。

a 核酸医薬品の作用メカニズム
当社のmRNA標的核酸医薬創薬では、mRNA上に核酸医薬品が効果的に結合しうる部分構造を当社独自のAIにより見いだしてターゲットとし、そのターゲットに対応するASOを創出します。ASOがmRNA上のターゲットに結合すると、それを異物であると認識するRNase HがmRNAを切断します。これにより、疾患の原因となる疾患関連タンパク質の生成を抑えられれば、従来の低分子医薬品や抗体医薬品等で直接疾患原因タンパク質の機能を阻害もしくは制御する場合と同等の効果が得られると考えています(図6)。


図6. mRNA標的核酸医薬品の作用メカニズム

(注) mRNAに対してASOが結合すると、それを異物とみなすRNase Hによって認識されてmRNAが切断される。mRNAの切断によって、疾患関連タンパク質の生成は終了させられる。

b 核酸医薬品創薬の特徴 ― 研究開発における三つの課題と当社独自の解決策 ―
核酸医薬品が臨床試験を終え、承認申請を経て実際に販売に至った例はこれまでのところ限定的です。当社では「 第II相試験終了後、 第III相試験を開始・終了し、申請等を終えて市場に出る」までの確率は、低分子医薬品がおおむね40-50%程度であるのに対し、核酸医薬品は8-10%程度にすぎないと分析しています。つまり、核酸医薬品における最大の課題の一つは、第III相試験で初めて明らかになる毒性(「毒性」)です。具体的には、タンパク質への予測不可能な結合による毒性や、ヒトにおいては重篤になってしまう核酸医薬品に施された各種化学修飾による化学毒性が挙げられます。加えて、第III相試験を始められないことも上記の確率を下げています。すなわち、第III相臨床試験という商業レベルと同じ大きさで始まる製造によってようやくわかってくる商業生産時の製造コスト(「製造」)、および第III相臨床試験前に行われることの多いバイオテクが持つ核酸医薬品の製薬会社へのライセンスアウトの不調(核酸医薬の事業領域の「魅力))だと考えております。核酸医薬品を市場に出すためには、臨床後期に判明するこれらの三つの課題を回避ないし解決することが最も重要というのが当社の考え方です。

これら「毒性」「製造」「魅力」の三つの課題に対し、当社はこれまでシンプルなASOを創出することで毒性と製造コストを抑え、その結果として競合品があっても価格競争力の面で魅力を持たせる方針でした。日本の規制当局との議論を通じて、この方針の有効性を確信しております。加えて2025年には、この考え方をさらに一歩進めることとしました。すなわち、シンプルなままで薬効等をさらに向上させるECM型核酸医薬品という新たな方法論を創出しました。さらに、QbD(Quality by Design)の考え方を採り入れ、医薬品を創出する時点から製造に難点がないかを検討して品質向上や製造コストダウンを図るとともに、三菱ガス化学株式会社と核酸医薬の製造検討を初期段階から行うことにより臨床試験に入る確度とスピードを上げる方針としました。そして、今まで医薬品を特異的に届けることが難しかった臓器に効率的に医薬品を届け、また回収できるドラッグデリバリーシステムとしてPerfusioの実用化に取り組んでおり、これをもってアンメット・メディカル・ニーズを抱える疾患に対して核酸医薬品を創出することで、核酸医薬品の事業領域の魅力を高めようと考えております。これら三つの施策は、どれ一つ矛盾することなく、核酸医薬品が直面する三つの課題を解決するものと考えています(図7)。


図7.核酸医薬品の創薬研究で検討が必要な課題



c 当社の核酸医薬品創薬の特徴 ― 開発期間の短縮による株主価値向上へ ―
当社が主として自社で実施している核酸医薬品創薬では、当社独自のAI創薬によって医薬品そのものを直接設計できます。そのことによって研究期間を大幅に短縮することができます。開発期間においては、少ないながらも核酸医薬品に関する許認可が進んでいることから、開発ガイドラインも確立されつつあるため、開発段階以降の障壁は他の新規創薬技術と比較して小さいと考えられます。また、希少疾患に対する開発期間は一般的に短くなる傾向があります。
また、当社では、主として核酸医薬品のドラッグデリバリーに用いることができるPerfusioの実用化に取り組んでいます。これは、血管用のカテーテルを用いて特定の疾患臓器に動脈側と静脈側の双方からアクセスし、患者さまの体内において対象の臓器を独立させ、医薬品を灌流するというシステムです。このシステムを使う事で、通常のドラッグデリバリーと異なり、医薬品を対象の臓器に直接届け、そしてそれらを対象の臓器から回収することができます。これは、これまで先進医療として行われていた閉鎖循環療法でもみられる発想で、非常に治療効果が高いだけでなく副作用を軽減できることが知られています。この対象臓器を的確に選び、さらに最後に本治療を終了した際に全身への漏出を極限まで抑えることにより全身への医薬品の暴露をほとんどなくすことができれば、医薬品の開発期間を大幅に短縮することが期待できます。当社では2026年1月に専属部署として新規事業開発室を設置し、このPerfusioの実用化と開発期間の短縮の試みに取り組んでいます。
このPerfusio実用化により、当社が取り組む核酸医薬品のパイプラインの研究開発期間とそのコストを削減し、当社の株主価値の向上につなげることを目指します。

d パイプライン創出と開発の方針
自社パイプラインの対象疾患については、特に市場性を重視することで、現在の株主価値に資する現在価値の高いものを選定する方針です。すなわち、(i)将来価値の総額が大きく、(ii)販売開始までの期間が短く、そして(iii)直近のコストを低減させる施策を採れるものです。これら三つの観点は、将来の医薬品の価値を販売開始までの期間や成功確率からディスカウントキャッシュフロー(DCF)法により現在の価値に換算する際、高い現在価値を形成するために重要です。
市場性を基準に自社パイプラインを選定することは、製薬会社にとって事業性の高い魅力あるパイプラインを創出することにもつながります。これにより、将来的に行うパイプライン導出の成功確率も高まることが期待できます。
さらに、Perfusioを利用することで、これまでに核酸医薬品を適用できると考えられていなかった疾患臓器に対する核酸医薬品を創出することができれば、アンメット・メディカル・ニーズに応えるだけでなく高い事業性を持つパイプラインが創出でき、製薬会社への円滑なライセンスアウトが期待されます。今後は、当社が創出するパイプラインの現在価値が当社の株主価値に織り込まれるように、パイプラインの創出と開発に関する情報は適時適切な開示等に努めます。
当社においては、三菱ガス化学株式会社と当社で権利を共同保有する自社パイプラインにおいて、三菱ガス化学株式会社に共同研究費の一部を負担いただいております。これは、これまで研究初期段階ではあまり注目されてこなかった、核酸医薬品の商業生産時の製造権を、共同研究開始時点より三菱ガス化学株式会社が保有することを確約することによりマネタイズを図ったものとなります。
以上の方針にもとづき、製造コストを低減しつつ、毒性リスクを第III相試験に持ち越さず、さらに隠された市場性の問題にも対応することで、アンメット・メディカル・ニーズにお悩みの患者さまにまで医薬品として届く可能性の高いパイプラインの創出に取り組みます。

③ aibVISプラットフォーム
a 多種多様な疾患に適応可能
当社は、これまで国内外の多くの製薬会社に、当社のibVISⓇプラットフォームの創薬技術及びデジタル技術を紹介してきました。これらの製薬会社より、ibVISⓇプラットフォームでmRNA標的低分子創薬を実施したいと開示をうけた創薬対象遺伝子の数は既に100を超え、そこから推定される疾患領域は、がん領域、中枢神経、各種希少疾患の順に多く、その他は循環器疾患、免疫疾患、感染症など多種多様です(図8)。これは、製薬会社という創薬の専門家から見て、ibVISⓇプラットフォームが様々な疾患に適応可能と理解されていることを示唆するものと当社では分析しております。中でも市場の大きいがん領域の割合が突出しており、医薬品が血液脳関門(神経細胞に影響のある物質をブロックする保護システム。Blood Brain Barrier;BBB)を通過する必要のある中枢神経疾患の割合ががん領域に続いております。これらは、製造コストが低く巨大な市場にも供給可能であり、BBBを通過できる低分子医薬品の強みを活かせる疾患領域であると考えられます。この特徴は、AI創薬をより推進したaibVISプラットフォームにおいても変わりません。

図8. 創薬対象遺伝子からわかるmRNA標的低分子創薬の適用疾患領域

(注) 2025年9月末現在において製薬会社から開示された創薬対象遺伝子に基づき当社にて作成

b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得
当社のaibVISプラットフォームは、mRNA上に存在する低分子医薬品の「鍵穴」の候補となる部分構造を網羅的に解析し、その中から標的に適した「鍵穴」すなわちターゲット構造を定める「ターゲット探索」から、数多くの低分子化合物の中からターゲット構造に対して結合が認められる化合物を実験的に選択する「スクリーニング」、スクリーニングで取得したヒット化合物※14とターゲット構造の結合の強度や結合の特徴を詳細に検証する「ヒットtoリード」、ヒットtoリードにより取得したリード化合物※15を医薬品レベルにまで効果を高める「リード化合物最適化」により、最終的に非臨床試験以降に進める医薬品候補化合物を取得するまで、mRNA標的低分子創薬に必要な全ての創薬技術とデジタル技術を備えていると当社は考えております(図9、表2)。さらに、それらの創薬技術とデジタル技術が単に個々の技術としてではなく、一つの創薬システムとして統合されており、各製薬会社はaibVISプラットフォームを活用することで、mRNA標的低分子創薬で直面する多くの課題をワンストップで解決することが可能になると当社は考えております。
特に当社の「ターゲット探索」は、当社が独自開発したルールベースAIを活用したインシリコRNA構造解析ソフトウェアMobyDickⓇにより、製薬会社が任意に選択したmRNAから高速かつ正確に複数のターゲット構造を探索することが可能であり、当社の競争優位性の一つとなっています。この優位性は、数多くの製薬会社と共同研究あるいは共同創薬研究を行ってきた当社において、製薬会社の真のニーズに応える挑戦を通じてさらに強化されています。

図9. 創薬技術とAIを備えたワンストップAI創薬プラットフォーム




(注)共同創薬研究において製薬会社は、当社が技術供与したスクリーニング法を使ったスクリーニングの実施及び細胞実験を主に担当します。加えて製薬会社側では、化合物の合成展開※16、薬物動態及び安全性研究、化合物の効果を検証する動物実験などが実施されます。

表2. aibVISプラットフォームの創薬技術とAI

創薬研究プロセス内 容
ターゲット探索・NCBIデータベースよりmRNA配列データ取得
創薬対象とするmRNAを定め、NCBI※17(National Center for Biotechnology Information;国立バイオテクノロジー情報センター)の遺伝子データベースよりmRNA配列データを取得します。
・コンピュータによるmRNA構造解析
独自のRNA構造解析ソフトウェア「MobyDickⓇ」により、創薬対象に定めたmRNA上の部分構造を網羅的に解析します。
・コンピュータによるターゲット構造の評価
「MobyDickⓇ」に含まれる熱力学のエネルギー計算により、存在確率及び安定性の高い部分構造の中からターゲット構造候補を探索します。
・NMRによるターゲット構造の確認
ターゲット構造候補の妥当性を主としてNMR※18(Nuclear Magnetic Resonance;核磁気共鳴)により実験的に確認し、ターゲット構造と定めます。
・実験的スクリーニング系の確立
次のプロセスのスクリーニングで、各種低分子化合物とターゲット構造の結合を検出するため、蛍光性のある物質を目印として付けたターゲット構造を合成し、そのターゲット構造がmRNA構造解析どおりの構造を実際に取っているか、スクリーニングで正常に動作するか等を実験的に確認します。
[製薬会社との役割分担]
当社協力のもと製薬会社が創薬対象とするmRNAを定めた後の工程は、全て当社で担当します。



創薬研究プロセス内 容
スクリーニング・化合物ライブラリーの設計・準備
製薬会社が保有する莫大な数の化合物を収める化合物ライブラリーからスクリーニングにかける化合物を選定します(フォーカストライブラリー)。
・スクリーニング
FRET※19(Fluorescence Energy Transfer;蛍光共鳴エネルギー移動法)による一般的なスクリーニング法を定量的解析ができるように改良した、当社独自のqFRET※20(Quantitative Fluorescence Energy Transfer;定量的蛍光共鳴エネルギー移動法)により、数万から数十万の低分子化合物の中から、陽性を示す(ターゲット構造への結合が検出された)化合物(ヒット化合物)を取得します。
・統計解析
高精度かつ定量的なスクリーニング及びスクリーニングの結果得られるデータの統計解析を可能とするために、複数の自社製作ソフトウェアとルールベースAIであるplot2tm、Guppy および Viper を利用します。
[製薬会社との役割分担]
当社協力のもと製薬会社が化合物ライブラリーの設計と準備をします。スクリーニングは製薬会社もしくは当社、あるいは両者で実施します。
ヒットtoリード・細胞実験による効果の測定
スクリーニングで取得したヒット化合物の妥当性を検証するため、細胞レベルでの効果の確認を行います。
・BLI/ITCによる結合の強度測定/NMRによる結合の特徴測定
細胞実験にくわえて、BLI※21(Bio-Layer Interferometry;バイオレイヤー干渉法)、ITC※22(Isothermal Titration Calorimetry;等温滴定熱測定)などの熱力学的測定法※23、NMRなどの分光学的手法※24により、ターゲット構造に対するヒット化合物の結合の強度や特徴を解析します。
・NMRによる結合の特徴測定
NNMRなどの分光学的手法により、ターゲット構造と低分子化合物の結合の強度について確認するとともに、その結合の特徴を解析します。さらに、それぞれの低分子化合物の結合の特徴から、低分子化合物のグループ分けを行います。これについても、当社のルールベースAI Snowpeaks が支援します。
・量子化学※25計算
上記の結果をもとに、ヒット化合物から次段階の化合物(リード化合物)を設計するために必要な量子化学計算を行います。
・リード化合物取得
上記の結果をもとに、ヒット化合物から次段階の化合物(リード化合物)を獲得するための基礎となる化合物を複数選択します。これらを出発化合物として化合物の合成展開及び本プロセスの検証を繰り返し、低分子医薬品として好ましい特性を持つリード化合物を獲得します。
[製薬会社との役割分担]
細胞実験による「細胞内での効果」の測定は、製薬会社によって行われる事が多いものの、当社で実施する場合もあります。その他の解析については、基本的に全て当社が担当します。また、本段階の進展に伴い必要となる化合物合成(合成展開)は、主として製薬会社が担当します。




創薬研究プロセス内 容
リード化合物最適化・RNA-低分子の三次元構造決定
ターゲット構造と化合物の複合体の三次元構造を、NMRやX線結晶構造解析※26により実測します。
・量子化学計算による化合物最適化(医薬品候補化合物の取得)
複合体の構造情報をもとにした量子化学計算を用いて医薬品を設計する手法等による化合物の最適化研究を行います。これにより、低分子医薬品としてリード化合物よりもさらに好ましい活性と物性を示す医薬品候補化合物の理論的創製が可能になります。
・コンピュータによる副作用予測
自社製作ルールベースAI search4loop を使ったインシリコ副作用予測により、ヒット化合物の副作用を規制当局への説明に使用可能なレベルで評価します。
[製薬会社との役割分担]
複合体の構造解析と量子化学計算による化合物の最適化研究は、当社が担当します。最適化研究に伴い必要となる化合物合成は、製薬会社が担当します。



c mRNA標的低分子創薬を可能にするRNA構造解析ルールベースAI
mRNAは分子内で相互作用して立体構造をとる巨大分子であり、細胞内の環境下では1つの決まった立体構造をとらず、様々なパターンの構造をとってそれらが混在するという性質があります。よって、一般的に一定の構造をとるタンパク質を標的とする従来の創薬と同様の理論では、mRNA標的低分子創薬を実現することはできませんでした。
当社の中村は、約20年にわたる創薬研究の経験に基づき、1つの決まった状態をとらない事象を取り扱う統計力学※27理論及び熱力学※28理論がmRNAの性質を解析する上で有用な方法であることを見出しました。具体的には、統計力学理論によりmRNA上に局所的に存在する部分構造の存在確率を計算し、熱力学理論により各部分構造のエネルギー状態の計算から安定性・不安定性を評価します。このように、既存創薬の研究領域(化学~生物学)に統計力学理論及び熱力学理論を適切に応用することにより、mRNA上の各部分構造を存在確率や安定性・不安定などの各指標にもとづき定量的に評価する方法論を確立し、その結果、mRNA上にはいつも同じ構造を取ろうとする安定な部分構造が存在することを明らかにしました(図10)。

図10. mRNA標的低分子創薬実現への突破口




当社は、こうした理論を実装することに加えて、製薬会社との共同研究等で得ることができた様々な知見等を組み込んだルールベースAI MobyDickⓇを構築し利用しています。MobyDickⓇにより、任意のmRNAから高速で網羅的に部分構造を発見し、低分子医薬品の標的に適したターゲット構造(一般的に、存在確率が高く安定であり、低分子化合物の結合が期待される部分構造)を定量的な評価にもとづき特定できるという強みを持っています。このターゲット探索の強みを活かして、製薬会社の幅広い創薬ニーズに応えるmRNA標的低分子創薬を可能にしています。

d 高い達成率を誇るターゲット探索とスクリーニング
当社のaibVISプラットフォームは、ターゲット探索とスクリーニングにおいて高い達成率を誇っています。製薬会社との共同創薬プロジェクトでは、これまでに製薬会社が選定したがん、中枢神経疾患、感染症等に関連するmRNAに対してターゲット探索を実施し、ターゲット探索で得られたターゲット構造に対して数万から数十万の化合物ライブラリーを使用した高速・高感度スクリーニング(qFRET)を実施しました。その結果、ターゲット探索の達成率は約98%、スクリーニングの達成率は約96%であり、結果的に創薬対象とするmRNAの選定から約94%の成功率でヒット化合物を取得しています(2025年12月末現在)。この手法は、当社で新たに開発したデータ駆動AIであるAISLARを用いることによって、数倍の効率化が期待できます(図11)。

図11. 高い達成率を誇るibVISⓇプラットフォームのターゲット探索とスクリーニング



e ヒット化合物検証(細胞実験等)
ヒット化合物を得た後は、化合物の「細胞内での効果」を確認するため、細胞実験にてヒット化合物が対象となる疾患関連タンパク質の発現量に与える影響を確かめます。これまでの製薬会社との共同研究では、様々なヒット化合物が細胞実験により対象となる疾患関連タンパク質を減少させている、すなわち「細胞内での効果」を示す結果が得られています(図12)。この効果を示す化合物の濃度は、この後の医薬品候補化合物の取得を目指した合成展開を開始するのに十分であると当社は考えております。また、こうしたヒット化合物の特性は、aibVISプラットフォームの創薬技術に含まれるBLI/ITCによる結合の強度等の測定やNMRによる結合の特徴測定によっても確認されます。


図12.スクリーニングにより取得したヒット化合物の細胞内での効果検証(細胞実験結果)



f 合成展開への支援
低分子創薬においては、スクリーニングで得られたヒット化合物を参考に、より高い細胞活性やより低い毒性を期待できる化合物を設計し合成する作業が、主としてパートナー企業で行われます(合成展開)。この合成展開によって得られた化合物を、ヒットtoリードのステップで使用した技術によってその特性を逐一確認して合成展開の方向性を定めます。またこの段階では、化合物の化学構造と細胞活性の関係性を意識することで、より効率的に合成展開を行うことになるため、構造活性相関を基礎としたコンピュータ支援ドラッグデザイン(SBDD)の使用が期待されます。
当社は、このSBDDがRNAに対する創薬であっても実行可能であることを、NMRによる低分子化合物とRNAの作る複合体の三次元構造を取得することから始まり、量子化学計算を行って結合のエネルギーを明らかにするという先行例として示し、論文発表を行っております。今般、この先行例をさらに発展させてより効果のある化合物群を創出することについて、学会発表も行っています。当社では、NMRに加えて、X線を用いて複合体の三次元構造を実測するX線結晶構造解析についても可能としております。
また、社内研究によってRNAと低分子化合物の結合において、特に重要となる要素を把握しております。したがって、三次元構造を実測する以前から低分子化合物側の特徴だけを用いた量子化学計算によって合成展開に有用な情報を得る試みも可能としています。

④ その他
当社のAI創薬は、mRNAの構造を詳細に解析できるという一般性から、様々な応用が可能であると考えております。当社は、主事業のmRNA標的低分子創薬とこれに引き続く核酸医薬創薬にとどまらない、mRNA関連創薬への多角化についても視野に入れています。より具体的には、農薬への応用をすでに検討しています。
同様に、当社パイプラインの開発段階での課題を解決するために作り出した Perfusio については、その応用範囲は核酸医薬品や当社内にとどまることなく、一般的に製薬会社が開発を目指す細胞治療等の高価な治療にも及ぶと考えられます。したがって、Perfusio についても実用化と事業化の機会を狙ってまいります。
このように、当社は本業を中心とした多角化の機会を逃さない体制でおります。



(3) ビジネスモデルの特徴

当社は、これまでのプラットフォーム型ビジネスから、自社パイプラインも創出しつつプラットフォーム事業も営むハイブリッド型ビジネスに転換しています。自社パイプラインについては、今後具体化する際にパイプラインごとに個別具体的なビジネスモデルをご説明しますので、ここではプラットフォーム型のビジネスモデルについてご説明します。

① ビジネスモデルの概要
当社は、より多くのmRNA標的低分子医薬品を迅速に社会に届けるため、製薬会社の幅広いニーズに応える汎用性の高いaibVISプラットフォームを武器として、複数の製薬会社と多数の共同創薬プロジェクトを同時に進行させる「プラットフォーム型」のビジネスを展開しています(図13)。製薬会社との契約では、契約一時金、研究支援金にとどまらず、マイルストーン、ロイヤリティ等の対価を定めることにより、契約締結直後から長期的かつ継続した事業収益の確保を目指します。
当社は2025年度末時点において、プラットフォーム型ビジネスのもと、主な事業収益の源泉となる製薬会社との共同創薬プロジェクトを効率的に進めるため、アカデミアとの共同研究をはじめ、各種機関・企業と提携関係にあります(図14)。

図13. 創薬系バイオテク企業のビジネスモデル




図14. Veritas In Silicoの事業系統図

(注) 製薬会社から当社への対価の詳細は「②契約形式」をご参照ください。

② 契約形式 プラットフォーム事業
プラットフォーム事業では、製薬会社と医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を共同で実施する共同創薬研究契約を締結することを基本としています(図15)。共同創薬研究契約では、製薬会社から創薬対象とする標的遺伝子の情報を受領後、その標的遺伝子ごとにプロジェクトを設定し、各プロジェクトの進捗状況に応じて一連の継続的な事業収益が得られるように規定しています(図15、表3)。
当社と製薬会社の共同創薬研究契約に基づくパートナーシップ(以下、当社と共同創薬研究契約等に基づき、共同で創薬研究を実施する製薬会社を「パートナー」という)は、当社技術を用いて当社とパートナーが共同で医薬品候補化合物を創出する創薬研究段階と、医薬品候補化合物の創製における当社貢献部分をパートナーに譲渡し、パートナーが医薬品候補化合物の開発・販売を行うことで当社に事業収益が発生する開発・販売段階で構成されます(図15)。各段階において当社が計上する主な事業収益は以下の通りです。

図15. Veritas In Silicoの収益構造




表3. 主な事業収益の内容

事業収益名内容
契約一時金契約締結時に一時金として受け取る事業収益
研究支援金研究実施等に対する対価として創薬標的ごとに受け取る事業収益
マイルストーン研究・開発・売上の進捗に応じて、事前に設定したイベントを達成した際に受け取る事業収益
ロイヤリティ医薬品販売開始後に年間の売上高に応じて受け取る事業収益


a 創薬研究
当社の共同創薬研究契約では、通常締結時にaibVISプラットフォームの使用に対する技術アクセスフィー等として「契約一時金」をパートナーより受領します。研究開始後、研究実施に対する費用支援・対価等として標的遺伝子ごとに設定された「研究支援金」を研究期間中毎年受領します。また、創薬研究中に追加的な研究が必要となる場合には、追加の「研究支援金」を標的遺伝子ごとに受領します。さらに、パートナーと事前にいくつかの研究達成目標、すなわちマイルストーンを設定し、当該マイルストーンを達成した場合には、パートナーより「研究マイルストーン」を受領します。


b 開発・販売
当社の共同創薬研究契約では、基本的に、創薬研究における成果の当社貢献度に基づき、当社が開発・販売において受領する「開発マイルストーン」、「ロイヤリティ」、「売上マイルストーン」等の経済条件についても以下のとおり規定しています。
創薬研究で医薬品候補化合物を取得し、パートナーにより非臨床試験に進む判断がされた場合には、当社はこの段階で、最初の「開発マイルストーン」を受領します。その後、医薬品候補化合物の開発はパートナーに委ねられますが、パートナーによる開発が進み、臨床試験に移行した場合には、臨床試験の段階ごとに追加的に「開発マイルストーン」を受領します。さらに、最終的に医薬品として上市された場合には、売上金額に一定の料率を乗じて得られる金額を「ロイヤリティ」として受領します。加えて、上市された医薬品の年間の売上高が所定の売上額に達した場合には、「売上マイルストーン」を受領します。
なお、2025年12月末現在において、当社とパートナーとの共同創薬研究は全て創薬研究段階であり、パートナーが単独で実施する開発・製造・販売にまで進んだ実績はありません。

③ 契約形式 パイプライン事業
パイプライン事業では、医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を自社で実施することを基本としています。社内でのアンメット・メディカル・ニーズのリストアップから始まる基礎検討によって、創薬対象とする標的遺伝子の情報を確定し、その標的遺伝子ごとに自社パイプラインプロジェクトを設定します(図15、表3)。
当社技術を用いて当社が独自に行う医薬品候補化合物を創出する創薬研究段階においては、基本的には収益は発生しません。しかしながら、医薬品候補化合物が創製されたのちにその権利を製薬会社に譲渡する時点で導出契約を結ぶことになります。その導出契約においては、契約時に比較的大きな契約一時金が得られ、導入した製薬会社が医薬品候補化合物の開発・販売を行うことで当社に事業収益が発生します(図15)。各段階において当社が計上する主な事業収益は以下の通りです。

a 創薬研究および開発研究初期
パイプライン事業では、医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を自社で実施することを基本としています。したがって、この時点では基本的に収入はありません。当社では早期の導出契約の締結を目指しますが、それを待たず研究開発段階を進めることとしています。これは、当社で研究開発を停止するとそこまで進んでいる医薬品候補化合物の価値は特許残存期間の減少と言う形で価値が減じてしまいますが、社内の研究開発を進めることで医薬品候補化合物の完成度をより高める事ができ、その結果将来の導出時により価値が増すことになるからです。当社では、未だ開発段階に進んだ自社パイプラインはありませんが、すでにご説明したPerfusioの使用などによって開発期間の抜本的な短縮と開発コストの圧縮の実現に向けて取り組み始めています。

b 開発・販売
導出契約は、医薬品業界では一般的な取引です。当社が今後行う導出契約においても、契約一時金に加え、当社が開発・販売において受領する「開発マイルストーン」、「ロイヤリティ」、「売上マイルストーン」等の経済条件について規定されることになります。
当社で創出した医薬品候補化合物を導出する際には、その権利全般を製薬会社に委譲します。当社はこの時点で、契約一時金を受領します。その後、医薬品候補化合物の開発は導出先製薬企業に委ねられますが、導出先製薬企業による開発が進み、非臨床試験から臨床試験に移行した場合には、臨床試験の段階ごとに追加的に「開発マイルストーン」を受領します。さらに、最終的に医薬品として上市された場合には、売上金額に一定の料率を乗じて得られる金額を「ロイヤリティ」として受領します。加えて、上市された医薬品の年間の売上高が所定の売上額に達した場合には、「売上マイルストーン」を受領します。
なお、2025年12月末現在において、当社と導出先製薬企業との導出契約を締結した実績はありません。


④ 知的財産戦略(特許及びソフトウェア著作権)
当社は、aibVISプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」の特許による権利化と、自社製作の各種AIで構成されるデジタル技術の秘匿化により、プラットフォーム全体の独占性を二重に担保しております。

a 独占性
当社保有の特許「RNAの機能を制御する化合物のスクリーニング方法」により権利化した技術は、デジタル技術の「MobyDick2D」と創薬技術の「qFRET」です。主に、これらの技術を利用するibVISⓇプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」では、権利化した特許によって他社の利用を排除しつつ、当社の優位技術として製薬会社に活用いただいています。2025年7月に米国において特許が付与され、これにより日本、欧州、米国の世界主要地域における権利が確保され、当社事業の独占性が一層担保されています。(図16)

b 秘匿性
創薬研究の各プロセスは、当社が独自開発し継続的にアップデートしている大量のデータ解析や実験のサポートをする自社ソフトウェアと自社AIを使用することにより、はじめて実施可能となります。また、各プロセスに導入しているこれらデジタル技術により、並列処理による効率化と精度の高い創薬の実現にくわえ、製薬会社のニーズに応じた技術移転を容易とすることで、拡張性のある創薬が可能になっています。これらの技術には複数のルールベースAIが含まれておりますが、その定期的なアップデートに加えてすでにデータ駆動AIの創出も始まっており、当社のAI創薬部分はより頑健性を高めております。

c 今後の特許戦略
当社は、2027年度までの中期経営計画期間中を「技術開発における第二の創業期」と位置づけ、積極的な技術開発を進めております。その成果として特許により防御すべき、さまざまな技術が創出されています。これらについては、積極的に特許出願するとともにその際に知財の範囲やビジネスの範囲を改めて検討することにより、収益の機会を逃さないようにしています。(図16)

図16. 2024~2025年の特許出願・取得状況



(4) プロジェクトの進捗状況

① mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(共同創薬研究)
mRNA標的低分子創薬のプラットフォーム型ビジネスを展開する当社は、多額の開発費を投入して少数の自社パイプラインを育てる代わりに、共同創薬研究のパートナー数を増やすとともに、各パートナーとのプロジェクトを進捗させることで、相乗的な事業拡大を図っています。当社はこれまでに、プラットフォーム型ビジネスの特徴を活かしたパートナーとの共同研究を通じてibVISⓇプラットフォームの技術力向上を達成し、より高収益の共同創薬研究契約の締結が可能になりました。現在、共同創薬研究のパートナー4社(東レ株式会社、塩野義製薬株式会社、ラクオリア創薬株式会社、武田薬品工業株式会社)とのプロジェクトが進捗しています。
4社とのプロジェクトで最も進んでいるプロジェクトは、現在「ヒットtoリード」の後半「リード化合物創出」段階を実施中です(図17)。

図17. 共同創薬研究中の製薬会社のプロジェクト進捗状況

(注) 東レとの共同創薬研究では、医薬品候補化合物の権利は東レと当社で共有し、当社は化合物の持分に応じた収益を受領します。


当社は、共同研究及び共同創薬研究の契約にもとづき、これまでに合計9.2億円の事業収益を獲得しています(2025年12月末現在)。今後は、共同創薬研究中のパートナー4社等との契約にもとづき、短期的(創薬研究期間中)には19.4億円(このうち9.2億円は取得済)の研究支援金又は研究マイルストーン、中期的(開発期間中)には80.5億円の開発マイルストーンを事業収益として獲得する可能性があります(図18)。さらに、医薬品が上市した場合には、長期的(販売期間中)に、販売額に対して数パーセント程度のロイヤリティ及び販売額に応じたマイルストーン収入(最大1,050億円)が見込まれます(図18)。なお、東レとの共同創薬研究においては、医薬品候補化合物の権利を東レと当社で共有することになっており、当社は化合物の持分に応じた収益を受領することを取り決めております。
研究・開発・売上マイルストーンの金額については、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高いとはいえず、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではなく、一部又は全部のプロジェクトが成功に至らない場合や、成功に至った場合であっても当初想定した売上が達成できない場合等には研究・開発・売上のマイルストーンが減少する可能性がある点に十分ご留意ください。


図18. 既存の共同創薬研究契約から得られる事業収益ポテンシャル(2025年12月末現在)



(注) 取得済総額は、共同研究により取得した収益を含みます。マイルストーンは、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高くはなく、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではない点に十分留意が必要です。

② mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(自社研究)
mRNA標的低分子創薬は様々な疾患への応用展開が可能なことから、共同創薬研究開始後、パートナーあたりのプロジェクト数が積み上がる場合がある一方、パートナー側の社内優先順位等の関係で、一部のプロジェクトが中止される場合もあります。当社は、パートナーとの契約締結の際に開発・製造・販売ライセンスに関する取り決めを盛り込む場合を除き、中止されたプロジェクトの成果の当社への譲渡について契約書に規定することにより、自社プロジェクトへ転用することを可能にしています。実際に、中止されたプロジェクトのうち有望なプロジェクトについては自社プロジェクトに転用しており、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発のために活用しています。
当社のmRNA標的低分子創薬のプロジェクトは、医療ニーズの高いがん領域が中心であり、当社のビジネスモデルをハイブリッド型に移行していくにあたり、これらのプロジェクトが自社パイプラインの有力な候補になると考えております。現時点においては、一部のプロジェクトについて、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発を目的とした社内研究を実施するにとどめており、具体的に自社パイプライン候補として進捗しているプロジェクトはありません(2025年12月末現在)。

③ 核酸医薬品及びその他プロジェクト(自社研究)
当社は、希少疾患を対象とするものを中心に、自社パイプラインとしてASOの創薬プロジェクトを複数進めております。
核酸医薬品のプロジェクトは、急性腎不全を対象疾患とした遺伝子p53に対するASO、及び東京慈恵会医科大学の岡野ジェイムス洋尚教授との共同研究により創出された、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を対象疾患としたASOであり、両プロジェクトともに医薬品候補化合物を取得して物質特許を出願し、p53のASOについては日本で特許が権利化されました(図19)。当社では核酸医薬品の自社単独での創出が可能であること、医薬品候補化合物を最短8か月で取得できることから、急性腎不全やALSにこだわらず、市場性を考慮したうえで、新規プロジェクトを選定し、自社パイプラインとして進める予定です。
現在最も先行させているプロジェクトは、p53に対するASOです(図20)。すでに特許が権利化されている物質よりもさらに高活性な物質を得ることができたため、2025年12月に新たに特許申請も行ったうえで当社の最初のパイプラインとしました。このパイプラインは、対象疾患を心臓疾患手術時の虚血性腎疾患の予防と定め、現在も研究開発を進めています。この医薬品は、承認されて販売に至った場合には国内年間売り上げが150億円程度と当社では推定しており、その研究進展によって当社の株主価値に織り込まれるように努めます(図21)。


図19. 核酸医薬品自社プロジェクト進捗状況




図20. 自社パイプライン1:p53に対するASO概要




図21. 自社パイプラインによる事業収益ポテンシャル(2025年12月末現在)




用語解説
※1mRNA(メッセンジャーRNA)遺伝情報であるDNA※8配列を写しとって、タンパク質合成のために情報を伝達するRNA。mRNAは、細胞内でタンパク質が合成される際の設計図であり、各タンパク質に対応してそれぞれ個別のmRNAが存在する。
※2核酸医薬品DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」そのものを利用した医薬品であり、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)※13などがある。従来のタンパク質を標的とする低分子医薬品※3や抗体医薬品では狙えないmRNA等を創薬標的とすることができる。分子量は低分子医薬品と抗体医薬品※6の中間にあたり、中分子医薬品とも呼ばれる。商業製造法が確立途中であるため、製造コストは、高額と言われる抗体医薬品よりもさらに高額となる。また抗体医薬と同様に、主に注射により投与される。
※3低分子医薬品一般的に分子量が500以下の医薬品。飲み薬や貼付薬など様々な投与方法に展開することが可能である。また製造は化学合成によるため、品質の管理が容易であり、また商業製造法が確立されているため、抗体医薬や核酸医薬品等と比べて極めて安価である。そのため最も一般的に流通し、医薬品市場の約半分を占めている。
出典:内閣官房 健康・医療戦略室委託事業「2020年度 医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連の産業化に向けた課題及び課題解決に必要な取組みに関する調査報告書」
※4パイプライン非臨床試験・臨床試験など開発段階にある医薬品候補化合物(新薬候補)を当社ではパイプラインと呼び、非臨床前の創薬研究段階のプロジェクトと区別している。
※5RNA核酸(塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドが多数重合した生体高分子。DNA※8も核酸の一種)のうち、糖の部分がリボースからなる物質であり、リボ核酸とも呼ばれる。生体内において、遺伝情報の伝達など多くの生命現象にかかわっている。遺伝情報を伝達するメッセンジャーRNA(mRNA)※1、タンパク質の原料であるアミノ酸を運ぶ機能を担う転移RNA(tRNA)、リボソーム※11を構成するリボソームRNAなどに分類される。
※6抗体医薬品体内に「抗体」を投与することで治療効果を得ようとする医薬品の総称。創薬標的にピンポイントで作用させることができるため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できる。一方、抗体医薬品は製造工程が複雑で品質の管理が難しいため、製造コストが高く、薬価が高額となる。また核酸医薬品と同様に、現在は注射によってのみ投与されている。
※7研究開発医薬品の研究開発とは、新しい医薬品を市場に投入するまでの一連のプロセスをいう。そのうち、研究(創薬研究、基礎研究)は、当社がibVISⓇプラットフォームにより技術提供が可能な「ターゲット探索」「スクリーニング」「ヒットtoリード」「リード化合物最適化」に至る医薬品候補化合物※12を取得するまでのプロセスであり、開発は、医薬品候補化合物取得後の非臨床試験、臨床試験に加え、承認申請及び規制当局の承認を含む非臨床試験以降の全てのプロセスである。
※8DNA核酸(塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドが多数重合した生体高分子)のうち、糖の部分がデオキシリボースからなる物質であり、デオキシリボ核酸とも呼ばれる。地球上のほぼ全ての生物において遺伝情報の継承を担う生体高分子である。
※9インシリコインシリコ(in silico)は、生物学でいうin vivo(生体内)やin vitro(試験管内)とのアナロジーであり、「コンピュータを用いて」を意味する。すなわち、コンピュータを使った計算により、ゲノムをはじめとした生体分子の構造などを数値化し、生理的な条件を踏まえて研究することを指す。
※10スクリーニング多数の化合物群(一般的に、数万種類以上の化合物からなるライブラリー)から、特定の条件を満たす化合物を選択するための実験方法のこと。
※11リボソーム数本のRNA分子と50種類ほどのタンパク質で構成される巨大なRNAとタンパク質の複合体。大小2つの部分に分かれており、それぞれ 50Sサブユニット、30Sサブユニットと呼ばれる。あらゆる生物の細胞内に存在し、mRNAに転写された遺伝情報を読み取ってタンパク質を合成(翻訳)する機構として機能する。


用語解説
※12医薬品候補化合物医薬品候補化合物は、リード化合物を化学合成によりさらに改善したものであり、当社の創薬研究ステップの最終成果物である。医薬品候補化合物は、動物等を用いた非臨床試験にて、その有効性と安全性を国際的な基準の下で確認した後、最終的に、ヒトを対象とした試験(臨床試験)に用いられる。臨床試験の結果を規制当局に申請後、審査を経て承認されると医薬品となる。
※13アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)核酸医薬品のカテゴリーの一つ。一本鎖のDNAやRNAからなり、mRNAに結合して主にタンパク質の合成(翻訳)を制御する働きを持つ。ASOに安定性や機能などを追加することを目的として様々な化学的な修飾を導入することができる。
※14ヒット化合物創薬で用いられる用語。本書においては、ヒット化合物は、創薬の初期のスクリーニングで発見された活性化合物のことを示す。
※15リード化合物創薬で用いられる用語。本書においては、リード化合物は、ヒット化合物の次の段階の化合物であり、ヒット化合物を基礎に化学合成により手が加えられ、その活性が動物などで確認される等、ヒット化合物より良好な特性を示す化合物のこと。さらに、活性、溶解度などの物性、毒性、飲み薬にした場合に化合物が吸収されるかなど(薬物動態)の点を化学合成によりさらに改善する基礎になる化合物。ただし、その基準は各製薬会社でさまざまである。
※16合成展開低分子医薬品の創出を目的として、低分子化合物を多数合成していくことをいう。具体的には、スクリーニングで取得したヒット化合物等を基点に、目的(活性の向上、薬物動態の改善、毒性の低減等)に合うように新たに構造が類似した低分子化合物を多数設計し、有機化学的に合成して用意する。この新たに用意された低分子化合物に対し各種の試験を行い、より目的にかなう低分子化合物を選択し、その化合物を基点として合成展開は続けられる。このサイクルは、低分子医薬として充分なプロファイルを持つ化合物が得られるまで続けられる。
※17NCBINCBI(National Center for Biotechnology Information;国立バイオテクノロジー情報センター)。米国国立衛生研究所の下の国立医学図書館の一部門として設立された公的機関。最も信用のおける遺伝子情報等のデータが蓄積されているため、当社では、使用するmRNAの塩基配列情報を主としてNCBIデータベースより取得している。
※18NMR核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)。分光学的測定法の一つ。磁場を与えられた状態の原子核に外部から電磁波を照射し、特定の電磁波を吸収する現象(共鳴現象)を観測することで、物質の構造的情報などを取得する方法。当社では、RNAの二次構造情報の取得に加え、ヒット化合物等の低分子化合物がRNAに結合する様子や、RNAの三次元構造の解析にも使用している。
※19FRETFRET(Fluorescence Energy Transfer;蛍光共鳴エネルギー移動法)。物質間の距離の変化に応じて蛍光強度が変化する現象を利用した物質の形状変化をリアルタイムに測定する研究手法。生命科学研究において不可欠な技術となっている。
※20qFRETqFRET(Quantitative Fluorescence Energy Transfer;定量的蛍光共鳴エネルギー移動法)。当社独自の実験プロトコル、実験機器、データ解析手法を統合することにより、蛍光共鳴エネルギー移動法に定量性を持たせた研究手法。
※21BLIBLI(Bio-Layer Interferometry;バイオレイヤー干渉法)。熱力学的測定法の一つ。核磁気共鳴センサーチップ上に固定した生体分子と、溶液中の分子の相互作用を測定する装置。当社では、構造をとったRNAをセンサーチップ上に固定し、スクリーニングで取得したヒット化合物等の低分子化合物を流して、両者間の相互作用を測定することに使用している。高速に測定できるほか、ごく微量でも測定可能であることが特徴。
※22ITCITC(Isothermal Titration Calorimetry;等温滴定型熱量測定)。熱力学的測定法の一つ。分子同士が結合する時に発生する微小な熱量変化を計測し、相互作用解析に用いる装置。当社では、RNAとスクリーニングで取得したヒット化合物等の低分子化合物との相互作用を測定することに使用している。一般的に、得られる相互作用の数値は他の手法よりも正確だといわれるが、測定に時間がかかり、多くの試料を要するというデメリットがある。
※23熱力学的測定法熱力学的測定法は、等温滴定型熱量測定 (Isothermal Titration Calorimetry;ITC)等により、結合分子を創薬標的に滴下した際に起こる化学反応もしくは結合反応を観測する測定法。物質同士が結合する際には熱の発生もしくは吸収が起こるため、熱量変化を観測することにより、物質同士の結合を定量的に解析することができる。


用語解説
※24分光学的手法物理的観測量の強度を周波数、エネルギー、時間などの関数として示すスペクトル(測定結果の成分を、量の大小によって並べて、解析しやすくしたもの)を得ることで、対象物の定量あるいは物性を調べる研究手法である。日本語では「光」という漢字を使うが、必ずしも光を用いる測定法のみが分光学的手法ではない。
※25量子化学理論化学(物理化学)の一分野。主として分子や原子、あるいはそれを構成する電子などの振る舞いを、シュレーディンガー方程式といった根源的な理論にもとづく数値計算によって解くことにより、分子構造や物性あるいは反応性を理論的に探究する学問分野である。
※26X線結晶構造解析タンパク質やRNAなどが三次元的に規則正しく並んだ結晶をつくり、その結晶にX線を照射することでそれらの三次元構造を解析する手法。X線結晶構造解析技術は、タンパク質やRNA単体はもちろんのこと、タンパク質-化合物複合体やRNA-化合物複合体の三次元構造情報を得るための手段の1つとして用いることができる。
※27統計力学統計物理学ともいう。物質を構成する多数の粒子の運動に力学法則及び電磁法則と確率論とを適用し、物質の巨視的な性質を統計平均的な法則によって論じる物理学の分野。当社は、RNAの構造解析にこれら統計力学の理論を適用できることを見出し、創薬に応用している。
※28
熱力学熱力学とは、巨視的な立場から物質の熱的性質を研究する物理学の一分野であり、系全体のマクロな性質を扱う理論である。複雑な系である生物学には当てはまらないとされることが多い。当社は、RNAの構造解析にこれら熱力学の理論を適用できることを見出し、創薬に応用している。




沿革関係会社の状況


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