有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S10026MF
タカラバイオ株式会社 事業の内容 (2014年3月期)
当企業集団は、当社の親会社、当社および当社の関係会社(子会社)10社(以下、当社を含めて「当社グループ」)で構成されております。その事業内容と当該事業における各社の位置づけは次のとおりであります。
なお、本項中の記載内容については、特に断りがない限り当連結会計年度末現在の事項であり、将来に関する事項は有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)現在の事業内容
当社グループの事業は、「遺伝子工学研究」「遺伝子医療」「医食品バイオ」の3つの事業に大別できます。事業別の売上高実績および売上構成比は以下のとおりであります。
① 遺伝子工学研究事業
当社は、バイオテクノロジーの研究開発が行われている大学や企業などの研究機関を主な顧客としております。当社は、このような顧客に対し、当社の製・商品を掲載したカタログに加え応用データ集や技術資料集などを配布するなどして、販売会社経由または顧客に対して直接、様々な製・商品やサービスを提供しております。遺伝子工学および分子生物学はバイオテクノロジーの基幹技術であり、当社は当領域に注力した展開をはかっております。
1)バイオテクノロジーの研究開発について
バイオテクノロジーとは、「バイオロジー(生物学)」と「テクノロジー(技術)」を合成した言葉で、生物の持っている機能を上手に利用し人間の生活に役立たせる技術であります。生物の持っている機能は親から子に遺伝情報として受け継がれますが、遺伝子とはこの遺伝情報の実体のことを言い、DNA(デオキシリボ核酸)という物質でできております。言い換えると、生物の細胞の中にあるDNAには、タンパク質を作るための設計図のような情報がいくつか並んでおり、この設計図にあたる部分が遺伝子であります。
タンパク質は、生物の体を構成している主な成分であり、細胞の主成分でもあります。また、生きていく上で非常に重要な機能を果たすホルモンなどもタンパク質であります。一方、DNAの単位には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類があり、この4種類の並び方で、遺伝情報を規定しております。生物の設計図であるゲノムの中には、1つの遺伝子で1種類のタンパク質というように、種類の違うタンパク質の遺伝情報がいくつも格納されております。そして、細胞内ではこの遺伝子の情報からタンパク質が作られております。
このように、タンパク質やDNAといった分子レベルで生命現象を解明し、その成果を普遍的に医療・食糧・環境・資源・エネルギーなどの分野に応用していくことが、バイオテクノロジーの研究開発の目的と言えます。一般的なバイオテクノロジー研究開発の流れは、下記のようになります。当社は、このような研究開発の流れのそれぞれを事業領域にしており、以下に具体的な事業の内容を説明いたします。
2)研究用試薬
バイオテクノロジーの研究には、実験目的や実験段階、また実験の対象物質に応じて多くの種類の研究用試薬が必要であります。当社は、1979年に国産初の制限酵素(DNAを特定の配列の箇所で切断する酵素)を発売以来、遺伝子工学研究用試薬の国内主要メーカーのひとつとして、遺伝子工学の発展に即応した新しいテクノロジーや製品の開発を進めております。研究用試薬の製造は、主に中国の子会社である宝生物工程(大連)有限公司で行い、特殊な技術や施設が必要な製品の製造は、本社および草津事業所で行う体制を整えております。当社は、2005年9月に米国のClontech Laboratories, Inc.(以下、クロンテック社)を買収いたしましたが、これにより当社グループの研究用試薬の製品ラインナップに、分子生物学分野を中心としたクロンテック社製品群が加わりました。これに加えて、欧米メーカーの製・商品の輸入販売などにより、バイオテクノロジー全般にその領域を広げるために取り扱い品目を増やしてまいりました。2014年3月31日現在、当社およびクロンテック社のカタログには5,000品目を超える製・商品が掲載されております。
生体に含まれる遺伝子は非常に微量で、研究を進める過程で増幅してその量を増やす必要があります。当社は、遺伝子増幅法に関しても、現在広く用いられているPolymerase Chain Reaction法(以下、PCR法)やリアルタイムPCR法に必須なDNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)の製造・販売を行っております。また、PCR法に比べ長い遺伝子を正確に増幅することができるLA PCR法(Long and Accurate PCR法)を応用した製品の販売も行っております。当社は1993年にPCR法に関するライセンスを受けており、当社の研究用試薬の売上のうち、PCR関連製品が2014年3月期において42.4%を占めております。
3)理化学機器
当社には、機器類の自社製造能力(必要設備や人員など)はありませんが、理化学機器の販売についてもバイオテクノロジーに関する知識が必要であり、機器の消耗品としての試薬類を合わせ、システムとして開発・販売されることも多く、当社にとってもシナジー効果が得られる領域であります。
当社のこの領域における事業は、PCR法に必須であるサーマルサイクラーと呼ばれる反応温度変換装置の米国からの輸入販売を、1988年に開始したことに始まります。その後、高分子生体構成物質を測定することができる質量分析装置など、取り扱い品目を増やしてまいりました。さらに、当社独自の実験ノウハウを搭載したPCR装置やリアルタイムPCR装置を開発し、機器メーカーよりOEM供給を受け販売するなど事業拡大に努めております。
4)研究受託サービス
当社は、実験や研究そのものを契約ベースで大学や企業の研究機関から有料で請け負う事業を行っており、この事業は、当社の研究開発能力・ノウハウそのものがセールスポイントとなる事業であります。ドラゴンジェノミクスセンターにおいては、単なるDNAの配列解析サービスにとどまらず、高速シーケンス解析や遺伝子の機能解析サービスなどを行っており、総合的な研究受託体制を整えております。
5)その他
当研究事業において当社が保有しております特許やノウハウのライセンスアウト(技術導出)を進めております。
② 遺伝子医療事業
当社は、研究用試薬などの開発において培った当社のコアテクノロジーである遺伝子工学技術の応用分野として、遺伝子治療や細胞医療などの先端医療技術の開発に注力し、その商業化を目指した事業展開をはかっております。
1)新薬の研究開発について
一般的な新薬の研究開発は、以下のような流れになります。まず、遺伝子やタンパク質の生体内での機能の解析等を行う基礎研究により、薬の候補として適した物質を選定いたします。次に、候補物質の安全性や有効性を、モデル動物などを用いて検討する非臨床試験を行います。その後、複数の健常人や患者に対して実際に候補物質を投与して、薬としての安全性や有効性を確認する臨床試験(治験)を行います。治験は段階的に実施する必要があり、この過程を経て規制当局へ承認申請が行われます。承認を取得し、上市・販売後も一定期間、新薬の適正使用などに関する情報を収集する市販後調査が通常は行われます。一般に、新薬の開発には、治験だけでも3年から7年間という長い期間と多額の研究開発費を要します。一方、このような新薬の承認を受けるために行うものではなく、医師が行う患者を対象とした治療に関する研究を臨床研究と呼んでおります。
2)遺伝子治療
a)遺伝子治療の現状について
遺伝子治療とは、生まれつき欠いている遺伝子や病気を治すために役立つ遺伝子、あるいはこれらの遺伝子を組み込んだ細胞をヒトの体に投与することにより疾患を治療する方法であります。先天性遺伝病、感染症、種々のがん、さらには致死的でない慢性疾患にまで対象が広がり、多くの企業が遺伝子治療の開発を進めております。
遺伝子治療は、遺伝子の導入方法により体外遺伝子治療と体内遺伝子治療の2つに大別されます。体外遺伝子治療とは、ヒト(患者やドナー)の細胞を取り出して体外で目的の遺伝子を導入したあと、その細胞を投与する方法であります。一方、体内遺伝子治療とは、生体に直接遺伝子を投与して目的の遺伝子を導入する方法であります。
b)レトロネクチン法の事業化
体外遺伝子治療では、遺伝子導入の標的細胞として末梢血リンパ球、造血幹細胞などの利用が検討されております。標的細胞に遺伝子を効率よく導入するため、また、導入した遺伝子が安定的にその機能を発揮するよう、ベクターと呼ばれる“遺伝子の運び屋”が利用されております。世界的に多くの体外遺伝子治療のプロトコールで用いられているのが、無害化した(自己増殖能力を奪った)レトロウイルスを利用したレトロウイルスベクターであります。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、標的細胞の染色体に遺伝子が挿入され安定した効果が期待できます。
当社が米国インディアナ大学医学部と共同で開発し、その全世界における独占的実施権を保有するレトロネクチン法は、これまで難しいとされてきた、造血幹細胞等の血球系細胞へのレトロウイルスベクターによる高効率遺伝子導入を可能にいたしました。前述のように、造血幹細胞に目的の遺伝子を組み込むことができれば、その遺伝子は生涯にわたって体の中に存在することになり、遺伝子治療の治療効果が飛躍的に高まると考えられております。
レトロネクチン®は、ヒトフィブロネクチンと呼ばれる分子を改良した組換えタンパク質であります。標的細胞とレトロウイルスベクターの両者に対する特異的な相互作用により、シャーレや無菌培養用バッグの内面に固定化されたレトロネクチン®上で、レトロウイルスベクターと標的細胞が密接に接触するため、遺伝子導入効率が上がると考えられております。
このレトロネクチン法を用いた遺伝子治療の臨床試験が、免疫不全症、がんやエイズなどの疾患を対象として、世界各国の医療機関において進められております。当社は、これらの研究機関に各国の臨床試験用の基準に適合したレトロネクチン®を有償で供給し、この技術を広めることに努めております。
一方、遺伝子治療の商業化を目指す企業に対しては、積極的にライセンスアウトを進めており、現在8社に対してレトロネクチン法をライセンスアウトしております。イタリアのMolMed S.p.A.(以下、モルメド社)には、レトロネクチン法に関する特許権を、遺伝子治療法の開発・商業化を目的として、ヨーロッパおよび米国において非独占的に利用することを許諾するとともに、各国の臨床試験用の基準に適合したレトロネクチン®を有償で供給しております。当社が、モルメド社の開発進捗状況によりマイルストーンに基づくライセンス料の支払いを受け、臨床試験期間中および上市後も、当社よりレトロネクチン®を有償供給する契約になっております。
当社は、レトロネクチン法が遺伝子治療のスタンダードとして一段と認知され、今後レトロネクチン®を用いた遺伝子治療がさらに広がっていくものと考えており、レトロネクチン法を中核技術に据え、積極的にこの分野における事業化を進めていく予定であります。
c)HSV-TK遺伝子治療の臨床開発
当社は、モルメド社と、同社が欧州等で臨床試験を行っている白血病などの造血器腫瘍の遺伝子治療技術の独占的な実施権を、アジアのほぼ全域(日本・中国・台湾・韓国・ロシア連邦の極東地域を含む、ただし、インド・トルコ・ロシア連邦の中心部を除く)において当社に許諾することについて、ライセンス契約を締結しております。モルメド社は、既にこの自殺遺伝子を用いた造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療の第Ⅲ相臨床試験を欧州等で実施しております。
当社は、国立がん研究センターと共同で、造血器悪性腫瘍に対するHSV-TK遺伝子治療の臨床開発を進めております。以下に、当社が国内で臨床開発を進めているHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)のプロジェクトについて説明いたします。
ドナーのリンパ球が患者の造血器悪性腫瘍細胞(がん細胞)を殺す作用を利用して、造血器悪性腫瘍を治癒に導く治療法が、ドナーリンパ球輸注療法であります。ドナーリンパ球は、治療効果を発揮する一方で、患者の正常な臓器を攻撃し、肝機能障害、皮疹、下痢などの症状を伴う移植片対宿主病(以下、GVHD)という副作用を引き起こし、重症化すれば致死的となります。一方、自殺遺伝子と呼ばれるHSV-TK遺伝子があります。この遺伝子を持った細胞は、ある特定の医薬品(ガンシクロビル)を細胞内で毒性の強い物質に変えてしまい、自ら死んで(自殺して)しまいます(正常細胞はこの自殺遺伝子を持っていないため影響を受けません。)。そこで、ドナーリンパ球に前もってこのHSV-TK遺伝子を導入しておくと、万が一重症のGVHDを発症した時にはガンシクロビルを投与することで、GVHDを沈静化させることができます。具体的には、ドナーリンパ球にレトロウイルスベクターによりHSV-TK遺伝子を導入し、この遺伝子が導入された細胞を選び分け、患者に輸注いたします。このように、GVHDを沈静化する能力を備えた大量のドナーリンパ球を輸注することによる造血器悪性腫瘍の治療法の開発を目指しております。
当社は、2008年10月より国立がん研究センターと共同で、再発造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)の治験を実施しておりましたが、同治験を2013年3月末で中止いたしました。これは、本遺伝子治療プロジェクトの商業化を加速するためには、新たに日本および韓国において、造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)を立ち上げることが得策であると判断したためであり、現在、本遺伝子治療の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を開始する検討を進めております。
d)TCR遺伝子治療の臨床開発
当社は、三重大学と共同で、食道がんを対象としたT細胞受容体(以下、TCR)遺伝子治療の臨床開発を推進しております。当社は、TCR遺伝子治療の臨床開発を推進するために、2005年4月に三重大学医学部に産学官連携講座を設置いたしました。三重大学医学部は、TCR遺伝子治療の臨床研究を2009年8月に開始しており、当社はこれに協力しております。この臨床研究の成果も活用し、国内で食道がん等の固形がんを対象にしたMAGE-A4・TCR遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験(医師主導治験)が2014年3月に開始されました。
e)がん治療薬「腫瘍溶解性ウイルス HF10」の臨床開発
当社は、2010年11月に株式会社エムズサイエンスから、がん治療薬「腫瘍溶解性ウイルス HF10(以下、HF10)」事業を譲り受けました。HF10は、単純ヘルペスウイルス1型の弱毒型自然変異株であり、正常細胞ではほとんど増殖いたしませんが、がん細胞に感染すると増殖し、がん細胞を死滅させることが動物実験などにおいて示されております。当社は、固形がんを対象に米国ピッツバーグ大学等において第Ⅰ相臨床試験を実施しております(なお、第Ⅰ相臨床試験のすべての症例につき観察期間が終了し、2014年4月30日(米国時間)に米国食品医薬品局(FDA; Food and Drug Administration)に対して第Ⅱ相臨床試験の申請を行っております。)。また、国内では、三重大学において悪性固形腫瘍を対象に、名古屋大学において膵がんを対象に、いずれも臨床研究が実施されております。
f)MazF遺伝子治療の臨床開発
当社は、大腸菌由来のRNA分解酵素であるMazFを用いたHIV遺伝子治療(MazF遺伝子治療)の開発を進めております。当社は、これまでにエイズの原因ウイルス(HIV-1)を用いた培養細胞への感染実験により、MazF遺伝子をヒトT細胞に導入することによって、細胞に対しては毒性を示すことなく、HIV-1の複製のみが効果的に抑制されることを発見しております。また、MazF遺伝子をレトロウイルスベクターにより導入したヒトT細胞に、さまざまな抗HIV薬が効かなくなった多剤耐性HIV-1株を感染させたところ、HIV-1の増殖を抑制できること(鹿児島大学との共同研究)などの有望な知見を得てまいりました。また、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターと共同で、サルを用いたMazF遺伝子治療の動物試験も実施し、MazF遺伝子を導入した細胞がサル個体に対しても安全であることを確認しております。これらの成果を活用して、2012年12月より米国のペンシルベニア大学およびドレクセル大学において、HIV感染症を対象としたMazF遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験を実施しております。
3)細胞医療
a)レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法およびナチュラルキラー細胞療法の臨床開発
当社は、レトロネクチン®を用いてリンパ球を高効率に培養する技術開発を行いました。このレトロネクチン拡大培養法を用いたがん免疫細胞療法(レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法)およびナチュラルキラー細胞療法について、京都府立医科大学が、当社の協力のもと、臨床研究を実施しております。
b)がん免疫細胞療法の支援事業について
がん治療の現状としては、外科手術、放射線治療、抗がん剤を用いる化学療法などが併用されておりますが、一般的にがん患者のQOL(Quality of Life:生活の質)が損なわれることが多いと考えられております。この問題を取り除くために、副作用の少ない、がん免疫細胞療法が行われております。がん免疫細胞療法のひとつである活性化リンパ球療法とは、がん患者自身のリンパ球を体外で(細胞培養用のバッグの中で)増殖させ、得られた活性化リンパ球を再び患者に戻し、がん細胞を破壊することを狙う治療法であります。
医療法人社団医聖会の百万遍クリニックは、2008年10月より活性化リンパ球療法を、また、2010年5月よりレトロネクチン®誘導Tリンパ球療法の有償治療を開始いたしました。当社は、百万遍クリニックおよびたけだ診療所に対し、レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法を行うために必要なリンパ球の培養・活性化などの細胞加工に関する技術支援を有償で行っております。
c)細胞培養用培地・バッグの販売
当社の子会社である宝日医生物技術(北京)有限公司では、細胞培養用培地・バッグの販売を行っており、細胞医療分野の研究開発が加速している中国市場において、売上拡大に注力しております。
③ 医食品バイオ事業
当社では、食から医という「医食同源」のコンセプトのもと、日本人が古来常食してきた食物を、当社独自の先端バイオテクノロジーを駆使して科学的に見直し、機能性食品素材としての開発を進めて製品化しております。
1)健康食品事業
当社独自の複合糖質解析技術を駆使して、ガゴメ昆布に含まれる食物繊維“フコイダン”の3種の化学構造を明らかにし、F-フコイダン、U-フコイダン、G-フコイダンと名付けました。こうした長年の研究から得られた科学的根拠に基づき、機能性食品素材としての“フコイダン”を開発し、健康食品「フコイダンサプリ」シリーズ等として通信販売を中心に展開しております。また、寒天アガロオリゴ糖に関する独自の研究成果を踏まえ、「飲む寒天」シリーズ等として発売しております。
明日葉(あしたば)は、セリ科の大型多年草で、伊豆諸島を中心とした太平洋岸に自生する日本固有の植物であります。当社では、明日葉由来のカルコン類に関する独自の研究成果を踏まえて、「明日葉カルコン」シリーズ等を発売しております。
2)キノコ関連事業
当社は、キノコの栽培研究を40年以上続けており、ブナシメジなどの新しい菌株や活性化剤と呼ばれるキノコの発生や収量増を促す物質の開発など、キノコ栽培方法の研究を精力的に行っております。
また、栽培が困難であると言われていたハタケシメジの人工栽培法を確立いたしました。当社は、この人工栽培法を活用してハタケシメジの大規模生産を担う瑞穂農林株式会社を、京都府瑞穂町(現京丹波町)および瑞穂町森林組合(現京丹波森林組合)と共同で設立し、2003年8月より販売を開始いたしました。
さらに当社は、長年培ったキノコの栽培ノウハウや当社が持つバイオテクノロジーを駆使し、ホンシメジの人工栽培法も確立いたしました。三重県四日市市の当社楠工場にホンシメジの栽培に最適な環境を再現することが可能な大規模生産工場を建設、2004年9月より稼動させ、2005年1月より出荷を開始しております。また、瑞穂農林株式会社においても、2013年9月よりホンシメジの生産を開始し、ホンシメジの増産を進めております。
(2)当社グループの事業戦略について
上述のように、当社グループは「遺伝子工学研究」「遺伝子医療」「医食品バイオ」の3つの事業に注力しております。遺伝子工学研究事業は、当社の現在のコアビジネスとも言える収益基盤であり、他の事業へ展開するための技術基盤とも位置づけており、この事業を安定的収益事業として確立しながら、第2の収益事業として医食品バイオ事業の育成に努めております。今後は、遺伝子医療事業に他の事業から生まれたキャッシュ・フローを優先的に投資し、研究支援産業から食品分野、さらに医療分野へ進出することにより事業拡大をはかってまいります。なお、当連結会計年度(自 2013年4月1日 至 2014年3月31日)におけるセグメント別の業績は下記のとおりであります。
(注)セグメント利益又は損失(△)の調整額△1,630百万円には、各報告セグメントに配分していない全社費用△1,630百万円が含まれております。全社費用は、主に報告セグメントに帰属しない一般管理費および研究開発費であります。
(3)当社グループ各社の位置づけ
[遺伝子工学研究事業]
当社は、研究用試薬や理化学機器などの製造・販売や遺伝子解析などの研究受託サービスを行っております。中国において、宝生物工程(大連)有限公司が研究用試薬の開発・製造・販売を行い、宝日医生物技術(北京)有限公司が研究用試薬や理化学機器の販売を行っております。Takara Bio Europe S.A.S.は、ヨーロッパ市場で研究用試薬の販売を行っております。Takara Korea Biomedical Inc.は、韓国において研究用試薬や理化学機器の販売等を行っております。クロンテック社は、米国で研究用試薬等の開発を行い、全世界に販売しております。DSS Takara Bio India Private Limitedは、インドにおいて研究用試薬の製造・販売や理化学機器の販売を行っております。
[遺伝子医療事業]
当社は、日本および米国において、がんやエイズを対象とした遺伝子治療の臨床試験を実施しており、その商業化を目指しております。また、国内の2つの医療機関にがん免疫細胞療法に関する技術支援サービスを行っております。さらに当社は、欧米の企業等に対して当社保有技術であるレトロネクチン法やレトロネクチン拡大培養法のライセンスアウトを行っております。宝日医生物技術(北京)有限公司は、中国においてがん免疫細胞療法向けに細胞培養用培地・バッグの販売を行っております。
[医食品バイオ事業]
当社は、キノコの製造・販売、キノコ生産技術に関するライセンスアウトおよび健康食品にかかわる研究開発、製造・販売を行っております。瑞穂農林株式会社および株式会社きのこセンター金武は、キノコの製造・販売を行っております。有限会社タカラバイオファーミングセンターは、明日葉の生産を行っております。
以上の企業集団の状況について当社および主要な子会社等との関係を事業系統図で示せば下図のとおりであります。
[事業系統図]
また、宝ホールディングス株式会社(東証一部)は、2014年3月31日現在、当社議決権の60.92%を所有する親会社であります。当社と、宝ホールディングス株式会社および同社のグループ会社(同社の子会社および関連会社)との間には取引があります。宝ホールディングス㈱グループにおける当社の位置づけおよび同グループ内の会社と当社との主な取引の内容を、下記に示します。
[宝ホールディングス㈱グループにおける当社の位置づけ]
宝ホールディングス㈱グループは、純粋持株会社である宝ホールディングス株式会社および同社の関係会社47社(子会社44社、関連会社3社)で構成されております。その中で当社は、バイオテクノロジー専業の事業子会社として位置づけられており、当社の関係会社(子会社)10社とともにバイオ事業を推進しております。
[宝ホールディングス㈱グループとの取引について]
① 営業拠点に関する不動産賃貸借取引について
当社は、2002年4月1日付で寳酒造株式会社(現 宝ホールディングス株式会社)が物的分割の方法により会社分割し設立されました経緯から、寳酒造株式会社の工場、営業所、社宅等の不動産の大部分は、宝酒造株式会社および当社へ移転されました。従来は、一つの拠点に酒類・食品事業とバイオ事業がともに展開されておりましたので、移転に伴い、宝酒造株式会社との間に不動産賃貸借取引が発生しております。
② 商標権使用に関する取引について
当社が使用する商標のうち一部の商標について、宝ホールディングス株式会社が所有・管理しているものがあり、当該商標については、同社との間で商標使用許諾契約を結び、使用許諾件数に応じて1商標1国1区分当たり月額固定金額を支払うこととしております。
③ その他
上記のほか宝ホールディングス㈱グループ各社(当社グループ各社を除く)とは、契約ベースでコンピュータ関係業務の委託およびコンピュータ機器の賃借契約ならびに従業員派遣契約取引があります。また、宝ホールディングス㈱グループの宝ヘルスケア株式会社は、当社の健康食品の販売代理店であり、製品の取引があります。
なお、本項中の記載内容については、特に断りがない限り当連結会計年度末現在の事項であり、将来に関する事項は有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)現在の事業内容
当社グループの事業は、「遺伝子工学研究」「遺伝子医療」「医食品バイオ」の3つの事業に大別できます。事業別の売上高実績および売上構成比は以下のとおりであります。
前連結会計年度 (自 2012年4月1日 至 2013年3月31日) | 当連結会計年度 (自 2013年4月1日 至 2014年3月31日) | 増減額 | 前年同期比 | ||||
金額(百万円) | 構成比(%) | 金額(百万円) | 構成比(%) | (百万円) | (%) | ||
遺伝子工学研究 | |||||||
研究用試薬 | 12,096 | 58.8 | 14,754 | 61.7 | 2,658 | 122.0 | |
理化学機器 | 2,535 | 12.3 | 2,686 | 11.2 | 151 | 106.0 | |
研究受託サービス | 1,962 | 9.6 | 2,221 | 9.3 | 259 | 113.2 | |
その他 | 403 | 2.0 | 478 | 2.0 | 75 | 118.6 | |
計 | 16,997 | 82.7 | 20,140 | 84.2 | 3,143 | 118.5 | |
遺伝子医療 | 1,240 | 6.0 | 1,522 | 6.4 | 281 | 122.7 | |
医食品バイオ | 2,326 | 11.3 | 2,242 | 9.4 | △84 | 96.4 | |
合計 | 20,564 | 100.0 | 23,905 | 100.0 | 3,341 | 116.2 |
① 遺伝子工学研究事業
当社は、バイオテクノロジーの研究開発が行われている大学や企業などの研究機関を主な顧客としております。当社は、このような顧客に対し、当社の製・商品を掲載したカタログに加え応用データ集や技術資料集などを配布するなどして、販売会社経由または顧客に対して直接、様々な製・商品やサービスを提供しております。遺伝子工学および分子生物学はバイオテクノロジーの基幹技術であり、当社は当領域に注力した展開をはかっております。
1)バイオテクノロジーの研究開発について
バイオテクノロジーとは、「バイオロジー(生物学)」と「テクノロジー(技術)」を合成した言葉で、生物の持っている機能を上手に利用し人間の生活に役立たせる技術であります。生物の持っている機能は親から子に遺伝情報として受け継がれますが、遺伝子とはこの遺伝情報の実体のことを言い、DNA(デオキシリボ核酸)という物質でできております。言い換えると、生物の細胞の中にあるDNAには、タンパク質を作るための設計図のような情報がいくつか並んでおり、この設計図にあたる部分が遺伝子であります。
タンパク質は、生物の体を構成している主な成分であり、細胞の主成分でもあります。また、生きていく上で非常に重要な機能を果たすホルモンなどもタンパク質であります。一方、DNAの単位には、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類があり、この4種類の並び方で、遺伝情報を規定しております。生物の設計図であるゲノムの中には、1つの遺伝子で1種類のタンパク質というように、種類の違うタンパク質の遺伝情報がいくつも格納されております。そして、細胞内ではこの遺伝子の情報からタンパク質が作られております。
このように、タンパク質やDNAといった分子レベルで生命現象を解明し、その成果を普遍的に医療・食糧・環境・資源・エネルギーなどの分野に応用していくことが、バイオテクノロジーの研究開発の目的と言えます。一般的なバイオテクノロジー研究開発の流れは、下記のようになります。当社は、このような研究開発の流れのそれぞれを事業領域にしており、以下に具体的な事業の内容を説明いたします。
2)研究用試薬
バイオテクノロジーの研究には、実験目的や実験段階、また実験の対象物質に応じて多くの種類の研究用試薬が必要であります。当社は、1979年に国産初の制限酵素(DNAを特定の配列の箇所で切断する酵素)を発売以来、遺伝子工学研究用試薬の国内主要メーカーのひとつとして、遺伝子工学の発展に即応した新しいテクノロジーや製品の開発を進めております。研究用試薬の製造は、主に中国の子会社である宝生物工程(大連)有限公司で行い、特殊な技術や施設が必要な製品の製造は、本社および草津事業所で行う体制を整えております。当社は、2005年9月に米国のClontech Laboratories, Inc.(以下、クロンテック社)を買収いたしましたが、これにより当社グループの研究用試薬の製品ラインナップに、分子生物学分野を中心としたクロンテック社製品群が加わりました。これに加えて、欧米メーカーの製・商品の輸入販売などにより、バイオテクノロジー全般にその領域を広げるために取り扱い品目を増やしてまいりました。2014年3月31日現在、当社およびクロンテック社のカタログには5,000品目を超える製・商品が掲載されております。
生体に含まれる遺伝子は非常に微量で、研究を進める過程で増幅してその量を増やす必要があります。当社は、遺伝子増幅法に関しても、現在広く用いられているPolymerase Chain Reaction法(以下、PCR法)やリアルタイムPCR法に必須なDNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)の製造・販売を行っております。また、PCR法に比べ長い遺伝子を正確に増幅することができるLA PCR法(Long and Accurate PCR法)を応用した製品の販売も行っております。当社は1993年にPCR法に関するライセンスを受けており、当社の研究用試薬の売上のうち、PCR関連製品が2014年3月期において42.4%を占めております。
3)理化学機器
当社には、機器類の自社製造能力(必要設備や人員など)はありませんが、理化学機器の販売についてもバイオテクノロジーに関する知識が必要であり、機器の消耗品としての試薬類を合わせ、システムとして開発・販売されることも多く、当社にとってもシナジー効果が得られる領域であります。
当社のこの領域における事業は、PCR法に必須であるサーマルサイクラーと呼ばれる反応温度変換装置の米国からの輸入販売を、1988年に開始したことに始まります。その後、高分子生体構成物質を測定することができる質量分析装置など、取り扱い品目を増やしてまいりました。さらに、当社独自の実験ノウハウを搭載したPCR装置やリアルタイムPCR装置を開発し、機器メーカーよりOEM供給を受け販売するなど事業拡大に努めております。
4)研究受託サービス
当社は、実験や研究そのものを契約ベースで大学や企業の研究機関から有料で請け負う事業を行っており、この事業は、当社の研究開発能力・ノウハウそのものがセールスポイントとなる事業であります。ドラゴンジェノミクスセンターにおいては、単なるDNAの配列解析サービスにとどまらず、高速シーケンス解析や遺伝子の機能解析サービスなどを行っており、総合的な研究受託体制を整えております。
5)その他
当研究事業において当社が保有しております特許やノウハウのライセンスアウト(技術導出)を進めております。
② 遺伝子医療事業
当社は、研究用試薬などの開発において培った当社のコアテクノロジーである遺伝子工学技術の応用分野として、遺伝子治療や細胞医療などの先端医療技術の開発に注力し、その商業化を目指した事業展開をはかっております。
1)新薬の研究開発について
一般的な新薬の研究開発は、以下のような流れになります。まず、遺伝子やタンパク質の生体内での機能の解析等を行う基礎研究により、薬の候補として適した物質を選定いたします。次に、候補物質の安全性や有効性を、モデル動物などを用いて検討する非臨床試験を行います。その後、複数の健常人や患者に対して実際に候補物質を投与して、薬としての安全性や有効性を確認する臨床試験(治験)を行います。治験は段階的に実施する必要があり、この過程を経て規制当局へ承認申請が行われます。承認を取得し、上市・販売後も一定期間、新薬の適正使用などに関する情報を収集する市販後調査が通常は行われます。一般に、新薬の開発には、治験だけでも3年から7年間という長い期間と多額の研究開発費を要します。一方、このような新薬の承認を受けるために行うものではなく、医師が行う患者を対象とした治療に関する研究を臨床研究と呼んでおります。
2)遺伝子治療
a)遺伝子治療の現状について
遺伝子治療とは、生まれつき欠いている遺伝子や病気を治すために役立つ遺伝子、あるいはこれらの遺伝子を組み込んだ細胞をヒトの体に投与することにより疾患を治療する方法であります。先天性遺伝病、感染症、種々のがん、さらには致死的でない慢性疾患にまで対象が広がり、多くの企業が遺伝子治療の開発を進めております。
遺伝子治療は、遺伝子の導入方法により体外遺伝子治療と体内遺伝子治療の2つに大別されます。体外遺伝子治療とは、ヒト(患者やドナー)の細胞を取り出して体外で目的の遺伝子を導入したあと、その細胞を投与する方法であります。一方、体内遺伝子治療とは、生体に直接遺伝子を投与して目的の遺伝子を導入する方法であります。
b)レトロネクチン法の事業化
体外遺伝子治療では、遺伝子導入の標的細胞として末梢血リンパ球、造血幹細胞などの利用が検討されております。標的細胞に遺伝子を効率よく導入するため、また、導入した遺伝子が安定的にその機能を発揮するよう、ベクターと呼ばれる“遺伝子の運び屋”が利用されております。世界的に多くの体外遺伝子治療のプロトコールで用いられているのが、無害化した(自己増殖能力を奪った)レトロウイルスを利用したレトロウイルスベクターであります。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、標的細胞の染色体に遺伝子が挿入され安定した効果が期待できます。
当社が米国インディアナ大学医学部と共同で開発し、その全世界における独占的実施権を保有するレトロネクチン法は、これまで難しいとされてきた、造血幹細胞等の血球系細胞へのレトロウイルスベクターによる高効率遺伝子導入を可能にいたしました。前述のように、造血幹細胞に目的の遺伝子を組み込むことができれば、その遺伝子は生涯にわたって体の中に存在することになり、遺伝子治療の治療効果が飛躍的に高まると考えられております。
レトロネクチン®は、ヒトフィブロネクチンと呼ばれる分子を改良した組換えタンパク質であります。標的細胞とレトロウイルスベクターの両者に対する特異的な相互作用により、シャーレや無菌培養用バッグの内面に固定化されたレトロネクチン®上で、レトロウイルスベクターと標的細胞が密接に接触するため、遺伝子導入効率が上がると考えられております。
このレトロネクチン法を用いた遺伝子治療の臨床試験が、免疫不全症、がんやエイズなどの疾患を対象として、世界各国の医療機関において進められております。当社は、これらの研究機関に各国の臨床試験用の基準に適合したレトロネクチン®を有償で供給し、この技術を広めることに努めております。
一方、遺伝子治療の商業化を目指す企業に対しては、積極的にライセンスアウトを進めており、現在8社に対してレトロネクチン法をライセンスアウトしております。イタリアのMolMed S.p.A.(以下、モルメド社)には、レトロネクチン法に関する特許権を、遺伝子治療法の開発・商業化を目的として、ヨーロッパおよび米国において非独占的に利用することを許諾するとともに、各国の臨床試験用の基準に適合したレトロネクチン®を有償で供給しております。当社が、モルメド社の開発進捗状況によりマイルストーンに基づくライセンス料の支払いを受け、臨床試験期間中および上市後も、当社よりレトロネクチン®を有償供給する契約になっております。
当社は、レトロネクチン法が遺伝子治療のスタンダードとして一段と認知され、今後レトロネクチン®を用いた遺伝子治療がさらに広がっていくものと考えており、レトロネクチン法を中核技術に据え、積極的にこの分野における事業化を進めていく予定であります。
c)HSV-TK遺伝子治療の臨床開発
当社は、モルメド社と、同社が欧州等で臨床試験を行っている白血病などの造血器腫瘍の遺伝子治療技術の独占的な実施権を、アジアのほぼ全域(日本・中国・台湾・韓国・ロシア連邦の極東地域を含む、ただし、インド・トルコ・ロシア連邦の中心部を除く)において当社に許諾することについて、ライセンス契約を締結しております。モルメド社は、既にこの自殺遺伝子を用いた造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療の第Ⅲ相臨床試験を欧州等で実施しております。
当社は、国立がん研究センターと共同で、造血器悪性腫瘍に対するHSV-TK遺伝子治療の臨床開発を進めております。以下に、当社が国内で臨床開発を進めているHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)のプロジェクトについて説明いたします。
ドナーのリンパ球が患者の造血器悪性腫瘍細胞(がん細胞)を殺す作用を利用して、造血器悪性腫瘍を治癒に導く治療法が、ドナーリンパ球輸注療法であります。ドナーリンパ球は、治療効果を発揮する一方で、患者の正常な臓器を攻撃し、肝機能障害、皮疹、下痢などの症状を伴う移植片対宿主病(以下、GVHD)という副作用を引き起こし、重症化すれば致死的となります。一方、自殺遺伝子と呼ばれるHSV-TK遺伝子があります。この遺伝子を持った細胞は、ある特定の医薬品(ガンシクロビル)を細胞内で毒性の強い物質に変えてしまい、自ら死んで(自殺して)しまいます(正常細胞はこの自殺遺伝子を持っていないため影響を受けません。)。そこで、ドナーリンパ球に前もってこのHSV-TK遺伝子を導入しておくと、万が一重症のGVHDを発症した時にはガンシクロビルを投与することで、GVHDを沈静化させることができます。具体的には、ドナーリンパ球にレトロウイルスベクターによりHSV-TK遺伝子を導入し、この遺伝子が導入された細胞を選び分け、患者に輸注いたします。このように、GVHDを沈静化する能力を備えた大量のドナーリンパ球を輸注することによる造血器悪性腫瘍の治療法の開発を目指しております。
当社は、2008年10月より国立がん研究センターと共同で、再発造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)の治験を実施しておりましたが、同治験を2013年3月末で中止いたしました。これは、本遺伝子治療プロジェクトの商業化を加速するためには、新たに日本および韓国において、造血器悪性腫瘍を対象としたHSV-TK遺伝子治療(ドナーリンパ球輸注療法)を立ち上げることが得策であると判断したためであり、現在、本遺伝子治療の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を開始する検討を進めております。
d)TCR遺伝子治療の臨床開発
当社は、三重大学と共同で、食道がんを対象としたT細胞受容体(以下、TCR)遺伝子治療の臨床開発を推進しております。当社は、TCR遺伝子治療の臨床開発を推進するために、2005年4月に三重大学医学部に産学官連携講座を設置いたしました。三重大学医学部は、TCR遺伝子治療の臨床研究を2009年8月に開始しており、当社はこれに協力しております。この臨床研究の成果も活用し、国内で食道がん等の固形がんを対象にしたMAGE-A4・TCR遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験(医師主導治験)が2014年3月に開始されました。
e)がん治療薬「腫瘍溶解性ウイルス HF10」の臨床開発
当社は、2010年11月に株式会社エムズサイエンスから、がん治療薬「腫瘍溶解性ウイルス HF10(以下、HF10)」事業を譲り受けました。HF10は、単純ヘルペスウイルス1型の弱毒型自然変異株であり、正常細胞ではほとんど増殖いたしませんが、がん細胞に感染すると増殖し、がん細胞を死滅させることが動物実験などにおいて示されております。当社は、固形がんを対象に米国ピッツバーグ大学等において第Ⅰ相臨床試験を実施しております(なお、第Ⅰ相臨床試験のすべての症例につき観察期間が終了し、2014年4月30日(米国時間)に米国食品医薬品局(FDA; Food and Drug Administration)に対して第Ⅱ相臨床試験の申請を行っております。)。また、国内では、三重大学において悪性固形腫瘍を対象に、名古屋大学において膵がんを対象に、いずれも臨床研究が実施されております。
f)MazF遺伝子治療の臨床開発
当社は、大腸菌由来のRNA分解酵素であるMazFを用いたHIV遺伝子治療(MazF遺伝子治療)の開発を進めております。当社は、これまでにエイズの原因ウイルス(HIV-1)を用いた培養細胞への感染実験により、MazF遺伝子をヒトT細胞に導入することによって、細胞に対しては毒性を示すことなく、HIV-1の複製のみが効果的に抑制されることを発見しております。また、MazF遺伝子をレトロウイルスベクターにより導入したヒトT細胞に、さまざまな抗HIV薬が効かなくなった多剤耐性HIV-1株を感染させたところ、HIV-1の増殖を抑制できること(鹿児島大学との共同研究)などの有望な知見を得てまいりました。また、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターと共同で、サルを用いたMazF遺伝子治療の動物試験も実施し、MazF遺伝子を導入した細胞がサル個体に対しても安全であることを確認しております。これらの成果を活用して、2012年12月より米国のペンシルベニア大学およびドレクセル大学において、HIV感染症を対象としたMazF遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験を実施しております。
3)細胞医療
a)レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法およびナチュラルキラー細胞療法の臨床開発
当社は、レトロネクチン®を用いてリンパ球を高効率に培養する技術開発を行いました。このレトロネクチン拡大培養法を用いたがん免疫細胞療法(レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法)およびナチュラルキラー細胞療法について、京都府立医科大学が、当社の協力のもと、臨床研究を実施しております。
b)がん免疫細胞療法の支援事業について
がん治療の現状としては、外科手術、放射線治療、抗がん剤を用いる化学療法などが併用されておりますが、一般的にがん患者のQOL(Quality of Life:生活の質)が損なわれることが多いと考えられております。この問題を取り除くために、副作用の少ない、がん免疫細胞療法が行われております。がん免疫細胞療法のひとつである活性化リンパ球療法とは、がん患者自身のリンパ球を体外で(細胞培養用のバッグの中で)増殖させ、得られた活性化リンパ球を再び患者に戻し、がん細胞を破壊することを狙う治療法であります。
医療法人社団医聖会の百万遍クリニックは、2008年10月より活性化リンパ球療法を、また、2010年5月よりレトロネクチン®誘導Tリンパ球療法の有償治療を開始いたしました。当社は、百万遍クリニックおよびたけだ診療所に対し、レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法を行うために必要なリンパ球の培養・活性化などの細胞加工に関する技術支援を有償で行っております。
c)細胞培養用培地・バッグの販売
当社の子会社である宝日医生物技術(北京)有限公司では、細胞培養用培地・バッグの販売を行っており、細胞医療分野の研究開発が加速している中国市場において、売上拡大に注力しております。
③ 医食品バイオ事業
当社では、食から医という「医食同源」のコンセプトのもと、日本人が古来常食してきた食物を、当社独自の先端バイオテクノロジーを駆使して科学的に見直し、機能性食品素材としての開発を進めて製品化しております。
1)健康食品事業
当社独自の複合糖質解析技術を駆使して、ガゴメ昆布に含まれる食物繊維“フコイダン”の3種の化学構造を明らかにし、F-フコイダン、U-フコイダン、G-フコイダンと名付けました。こうした長年の研究から得られた科学的根拠に基づき、機能性食品素材としての“フコイダン”を開発し、健康食品「フコイダンサプリ」シリーズ等として通信販売を中心に展開しております。また、寒天アガロオリゴ糖に関する独自の研究成果を踏まえ、「飲む寒天」シリーズ等として発売しております。
明日葉(あしたば)は、セリ科の大型多年草で、伊豆諸島を中心とした太平洋岸に自生する日本固有の植物であります。当社では、明日葉由来のカルコン類に関する独自の研究成果を踏まえて、「明日葉カルコン」シリーズ等を発売しております。
2)キノコ関連事業
当社は、キノコの栽培研究を40年以上続けており、ブナシメジなどの新しい菌株や活性化剤と呼ばれるキノコの発生や収量増を促す物質の開発など、キノコ栽培方法の研究を精力的に行っております。
また、栽培が困難であると言われていたハタケシメジの人工栽培法を確立いたしました。当社は、この人工栽培法を活用してハタケシメジの大規模生産を担う瑞穂農林株式会社を、京都府瑞穂町(現京丹波町)および瑞穂町森林組合(現京丹波森林組合)と共同で設立し、2003年8月より販売を開始いたしました。
さらに当社は、長年培ったキノコの栽培ノウハウや当社が持つバイオテクノロジーを駆使し、ホンシメジの人工栽培法も確立いたしました。三重県四日市市の当社楠工場にホンシメジの栽培に最適な環境を再現することが可能な大規模生産工場を建設、2004年9月より稼動させ、2005年1月より出荷を開始しております。また、瑞穂農林株式会社においても、2013年9月よりホンシメジの生産を開始し、ホンシメジの増産を進めております。
(2)当社グループの事業戦略について
上述のように、当社グループは「遺伝子工学研究」「遺伝子医療」「医食品バイオ」の3つの事業に注力しております。遺伝子工学研究事業は、当社の現在のコアビジネスとも言える収益基盤であり、他の事業へ展開するための技術基盤とも位置づけており、この事業を安定的収益事業として確立しながら、第2の収益事業として医食品バイオ事業の育成に努めております。今後は、遺伝子医療事業に他の事業から生まれたキャッシュ・フローを優先的に投資し、研究支援産業から食品分野、さらに医療分野へ進出することにより事業拡大をはかってまいります。なお、当連結会計年度(自 2013年4月1日 至 2014年3月31日)におけるセグメント別の業績は下記のとおりであります。
遺伝子工学研究 (百万円) | 遺伝子医療 (百万円) | 医食品 バイオ (百万円) | 計 (百万円) | 調整額 (百万円) | 連結財務諸表計上額 (百万円) | |
売上高 | ||||||
外部顧客に対する売上高 | 20,140 | 1,522 | 2,242 | 23,905 | - | 23,905 |
セグメント間の内部売上高又は振替高 | - | 7 | 6 | 13 | △13 | - |
計 | 20,140 | 1,529 | 2,249 | 23,919 | △13 | 23,905 |
セグメント利益又は損失(△) | 5,121 | △1,250 | △285 | 3,585 | △1,630 | 1,954 |
(3)当社グループ各社の位置づけ
[遺伝子工学研究事業]
当社は、研究用試薬や理化学機器などの製造・販売や遺伝子解析などの研究受託サービスを行っております。中国において、宝生物工程(大連)有限公司が研究用試薬の開発・製造・販売を行い、宝日医生物技術(北京)有限公司が研究用試薬や理化学機器の販売を行っております。Takara Bio Europe S.A.S.は、ヨーロッパ市場で研究用試薬の販売を行っております。Takara Korea Biomedical Inc.は、韓国において研究用試薬や理化学機器の販売等を行っております。クロンテック社は、米国で研究用試薬等の開発を行い、全世界に販売しております。DSS Takara Bio India Private Limitedは、インドにおいて研究用試薬の製造・販売や理化学機器の販売を行っております。
[遺伝子医療事業]
当社は、日本および米国において、がんやエイズを対象とした遺伝子治療の臨床試験を実施しており、その商業化を目指しております。また、国内の2つの医療機関にがん免疫細胞療法に関する技術支援サービスを行っております。さらに当社は、欧米の企業等に対して当社保有技術であるレトロネクチン法やレトロネクチン拡大培養法のライセンスアウトを行っております。宝日医生物技術(北京)有限公司は、中国においてがん免疫細胞療法向けに細胞培養用培地・バッグの販売を行っております。
[医食品バイオ事業]
当社は、キノコの製造・販売、キノコ生産技術に関するライセンスアウトおよび健康食品にかかわる研究開発、製造・販売を行っております。瑞穂農林株式会社および株式会社きのこセンター金武は、キノコの製造・販売を行っております。有限会社タカラバイオファーミングセンターは、明日葉の生産を行っております。
以上の企業集団の状況について当社および主要な子会社等との関係を事業系統図で示せば下図のとおりであります。
[事業系統図]
また、宝ホールディングス株式会社(東証一部)は、2014年3月31日現在、当社議決権の60.92%を所有する親会社であります。当社と、宝ホールディングス株式会社および同社のグループ会社(同社の子会社および関連会社)との間には取引があります。宝ホールディングス㈱グループにおける当社の位置づけおよび同グループ内の会社と当社との主な取引の内容を、下記に示します。
[宝ホールディングス㈱グループにおける当社の位置づけ]
宝ホールディングス㈱グループは、純粋持株会社である宝ホールディングス株式会社および同社の関係会社47社(子会社44社、関連会社3社)で構成されております。その中で当社は、バイオテクノロジー専業の事業子会社として位置づけられており、当社の関係会社(子会社)10社とともにバイオ事業を推進しております。
[宝ホールディングス㈱グループとの取引について]
① 営業拠点に関する不動産賃貸借取引について
当社は、2002年4月1日付で寳酒造株式会社(現 宝ホールディングス株式会社)が物的分割の方法により会社分割し設立されました経緯から、寳酒造株式会社の工場、営業所、社宅等の不動産の大部分は、宝酒造株式会社および当社へ移転されました。従来は、一つの拠点に酒類・食品事業とバイオ事業がともに展開されておりましたので、移転に伴い、宝酒造株式会社との間に不動産賃貸借取引が発生しております。
② 商標権使用に関する取引について
当社が使用する商標のうち一部の商標について、宝ホールディングス株式会社が所有・管理しているものがあり、当該商標については、同社との間で商標使用許諾契約を結び、使用許諾件数に応じて1商標1国1区分当たり月額固定金額を支払うこととしております。
③ その他
上記のほか宝ホールディングス㈱グループ各社(当社グループ各社を除く)とは、契約ベースでコンピュータ関係業務の委託およびコンピュータ機器の賃借契約ならびに従業員派遣契約取引があります。また、宝ホールディングス㈱グループの宝ヘルスケア株式会社は、当社の健康食品の販売代理店であり、製品の取引があります。
- 有価証券報告書 抜粋メニュー
- 連結経営指標等
- 提出会社の経営指標等
- 沿革
- 事業の内容
- 関係会社の状況
- 従業員の状況
- 業績等の概要
- 生産、受注及び販売の状況
- 対処すべき課題
- 事業等のリスク
- 研究開発活動
- 財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
- 株式の総数等
- 発行済株式総数、資本金等の推移
- 株価の推移
- 最近6月間の月別最高・最低株価
- 株式所有者別状況
- 役員の状況
- コーポレートガバナンス状況
このコンテンツは、EDINET閲覧(提出)サイトに掲載された有価証券報告書(文書番号: [E02474] S10026MF)をもとにシーフル株式会社によって作成された抜粋レポート(以下、本レポート)です。有価証券報告書から該当の情報を取得し、小さい画面の端末でも見られるようソフトウェアで機械的に情報の見栄えを調整しています。ソフトウェアに不具合等がないことを保証しておらず、一部図や表が崩れたり、文字が欠落して表示される場合があります。また、本レポートは、会計の学習に役立つ情報を提供することを目的とするもので、投資活動等を勧誘又は誘引するものではなく、投資等に関するいかなる助言も提供しません。本レポートを投資等の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。本レポートを利用して生じたいかなる損害に関しても、弊社は一切の責任を負いません。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。