有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100OISU (EDINETへの外部リンク)
Institution for a Global Society株式会社 事業の内容 (2022年3月期)
当社は、「分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」ことを企業パーパスとし、SDGsで掲げられる17の目標のうち特に、「4. 質の高い教育をみんなに」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」、「8. 働きがいも経済成長も」、「10. 人や国の不平等をなくそう」を優先課題として、事業に取り組んでいます。
ビジョンとして、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる。」を掲げ、個人が持つ多面的な能力を科学的に評価するシステム、評価データにもとづき成長を支援する教育コンテンツ、そして個人がデータを安全かつ主体的に活用するためのプラットフォームを学校法人、企業、自治体などのコミュニティに対して展開しています。当社サービスは、個人と組織のエンパワーメント(*)を支援し、Society5.0時代の産業基盤となるものと考えております。
変化の著しい昨今の社会情勢においては、学歴という単一の軸だけに頼った人材評価・育成は困難であるとの課題認識のもと、2010年にグローバルに活躍できる人材の育成を目的とした教育事業(塾の企画運営)で創業しました。その後、教育の変革には、人材評価を根本から変えることが必要との想いから、テクノロジーの活用によって多面的な能力を公平に評価する「GROW」を2016年に開発し、2017年以降AI搭載エンジンにより社員や採用候補者の気質(*)・コンピテンシー(*)・スキルを科学的に測定して能力を可視化する「GROW360」を企業の人事領域に拡大して参りました。幅広い業種の多階層(職種×職位)における人材の評価データが蓄積されたことから、採用など人事の一領域に限らず戦略的人事(*)分野での応用を進め、2019年には教育現場に向けて同様の人材評価システム「Ai GROW」の提供を開始しました。さらに2020年以降、今後ESGが進展し、持続的社会の実現に向けて、企業とステークホルダーの関係が変化し、個人が自ら情報を管理・利活用する方向に変化を遂げる中で、当社サービスがそのインフラとなることを目指して、実証事業を行っています。具体的には、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンターと共同で、個人が主体的かつ安全に自分自身のデータの利活用ができることを目的にブロックチェーン(*)技術を応用したプラットフォームの実証(2023年3月までの3年間)を進めています。また、経済産業省「未来の教室」プロジェクトにおいては、構築したブロックチェーンプラットフォームを活用し、教育支援などにより持続的な社会実現への貢献を深めたい協賛企業が、生徒およびその保護者などを対象としたESG型広告の配信を通じて教育現場を支援する仕組みの実証(2021年12月~2022年1月の2カ月間)を行いました。
当社基幹システム「GROW」は、回答者自身の気質(性格)を潜在的な認知バイアス(*)を除去して正確に測る技術(特許取得)や、他者による評価を補正し忖度などの評価におけるバイアスを除去するためのAIアルゴリズム(特許取得)に強みがあり、公平で一貫した評価を行えることから、ハーバード・ビジネス・スクールのPeople Analytics(*)に関する代表ケースとしても取り上げられています(2017年8月25日「GROW: Using Artificial Intelligence to Screen Human Intelligence」)。また、ケンブリッジ大学や慶應義塾大学などとの共同研究をベースにして産官学連携でサービス開発に取り組んでおり、国内の大手企業や先進的な取り組みを行う学校法人のみならず、国際機関や海外の政府機関などでの導入実績があります。
当社の主なサービスと、各事業の内容は以下の通りです。また、次の各事業は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (セグメント情報等)」に掲げるセグメントの区分と同一であります。なお、当社の報告セグメントにおいて、(3)新規事業の「STARプロジェクト」については「HR事業」、「未来の教室実証事業」については「教育事業」に分類されております。
(1)HR事業
HR事業では、企業の人材採用・育成・配置・組織開発を、人材評価システム、オンライン教材、コンサルティング、研修など、多岐にわたるサービスを組み合わせて支援しています。特に、AIによってバイアスを補正した人材評価データを取得、分析し、データに基づく人事を可能にする点に強みを持っています。
当社がソリューションを提供している人事評価・育成市場の環境は引き続き良好で、拡大を見込んでおります。例えば、欧米企業では、ESGの情報開示強化に向けて人的資本に関する非財務情報の開示が先行して進んでおり、2020年11月には、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に人的資本情報の開示を求め、ISO30414といった世界基準も示されており、日本でも「人材版伊藤レポート」の公表やコーポレートガバナンス・コードの改訂に続き、新しい資本主義実現会議が2022年夏の人的資本可視化指針の公表に向けて議論を進めています。また、コロナ禍のテレワークの推奨などを受けジョブ型への移行も加速しており、人材評価データの蓄積と活用シーンは今後も拡大が続くと見込んでおります。
2017年のGROW360開発後は、主に新卒採用で企業の人事部を中心に展開をしてまいりました。2019年以降は大企業の事業戦略に直結するサービス(組織開発・人事戦略支援)も提供するようになり、人事部のみならず経営企画部、DX(*)推進部との連携も進んでいます。これにより、2021年度当事業の実績では、顧客数は65社(前年同期は58社)となり、顧客単価(注1)の上昇(前年同期比+16%)と両輪で業績成長をけん引しました。また、リカーリングレベニュー(注2)は76%となりました。なお、主要なサービスは以下の通りです。
(注1)HR事業の各年度の売上を、当該年度の顧客数で除して算出。2021年3月期実績は4,670千円、2022年3月期実績は5,400千円。
(注2)前年度に取引のあった顧客からの売上が事業全体の売上に占める割合。
① GROW360
「GROW360」は、スマートフォンを用いて受検する人材評価システム(サービス)です。被評価者自身の自己評価に加えて、他者による360度コンピテンシー評価も行います。評価に費やした時間、評価の偏りなどをもとに、AIアルゴリズム(特許取得)が評価データのバイアスを是正するほか、IAT(Implicit Association Test*。特許取得)を用いて本人の潜在的な性格をBIG5(*)による気質診断に基づき判定する人材分析システムであり、採用、人材育成、配置など企業の組織開発全般で活用されています。バイアス補正による公平で一貫した人材評価をシステムを通じて実施することで、1回1人あたり受検費用4,000円以下で提供しています。これにより、従来は特定の階層に限定して行われてきた360度評価を、大企業の全社員対象でも実施し、データ化を進めることが可能です。また、ダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材を積極的に受容し、組織づくりに生かす取り組み)推進において無意識のバイアスが障壁となっているとの認識が社会で広く共有される中で、評価バイアスを補正したうえで精緻に気質・行動特性を評価できる点で顧客企業のニーズを捉え、導入が増えています。「GROW360」のユーザー(登録アカウント)数は71.9万人、累計他者評価件数(25項目のコンピテンシーを84問で評価。1人の被評価者に対し最低3人が他者評価を実施)は5,900万件(2022年3月末時点)となっています。
② DxGROW
「DxGROW」は、企業のDX人材育成を、評価と教育の両面から支援するサービスです。当社が従来から提供してきた評価システムを応用したアセスメント(GROW360を用いたイノベーションスコア(*)算定、IATを活用した潜在的なデジタルバイアス測定、経営シミュレーションを通じた意思決定の傾向やデータ分析に関する知識レベルの可視化)に加えて、当社独自のLMS(Learning Management System*)をプラットフォームとした教育コンテンツ(DX推進に向けて最低限身に着けておくべき知識やマインドセットの習得が目的)で構成されています。2021年9月にはデジタル庁が発足し、国をあげてのDX推進が進められていますが、先行してDXに取り組んできた企業においても、経営と現場の意識のギャップや、専門人材を率いる管理職のデジタルへの潜在的な苦手意識などが課題として挙げられており、それらの暗黙知をアセスメントにより可視化し、必要な教育をピンポイントで実施できる点が顧客に評価され、2021年1月の提供開始以降、業態を拡大してまいりました。新型コロナウイルス感染症による影響で、今後も企業、学校、自治体、政府それぞれのDX化の需要は旺盛であると見込んでおり、業容の拡大に取り組んでまいります。
(2)教育事業
教育事業では、学校や教育機関向けに、生徒の能力と教育効果をAIで可視化する評価システム「Ai GROW」、Society5.0時代を切り拓く基礎となる非認知能力などを育むSTEAM教育(*)動画コンテンツ「GROW Academy」、AIを搭載したオンライン英語学習ツール「e-Spire」を利用したサービスの提供を行い、日本の次世代を担う人材育成支援を行っています。GROW Academyおよびe-Spireは、2020年度に引き続き、2021年度も経済産業省の「EdTech導入補助金(*)」対象サービスとして採択されています。
文部科学省が実現を目指すGIGAスクール構想(*)によって、公教育現場におけるICT(情報通信技術)環境が急速に整備され、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けた前倒し実施もあり、文部科学省初等中等教育局の調査(2021年度末見込み)で示されている通り、全体の98.5%にあたる1,785自治体等で全ての児童生徒が学習者用端末を活用できる環境が整備され、タブレットで受検を行うAi GROWや、オンライン学習教材であるGROW Academyの活用シーンも大幅に拡大しました。また、教育現場での働き方改革という課題に対しても、日々相互評価でデータ蓄積するAi GROWにより、期末ごとの生徒の定性評価が自動生成され教員負担が大幅に低減されることから、採用が拡大しております(2022年3月末時点で、私立中高一貫、国公立中高、通信制高校、塾、小学校など含めて170校超がAi GROWを有償導入)。
従来からの学校法人への直接のサービス提供に加えて、2020年以降は自治体や教育委員会などへのサービス提供も本格化しています。2021年度当事業の実績では、顧客数(注)は324校(前年同期は165校)となり、業績成長をけん引しました。なお、主要なサービスは以下の通りです。
① Ai GROW
GROW360と蓄積された人材評価をベースに、学校・教育機関向けに開発したシステムです。360度コンピテンシー評価と気質診断により、生徒・学生の能力と可能性に加え、さまざまな教育活動の教育効果を可視化することができます。カリキュラム・デザインやクラス・マネジメント、就職までを見据えた進路指導等、多面的な活用が可能です。GROW360と共通尺度で評価を行うことで、子どもから大人まで一貫した評価軸を実現しています。1年間いつでも利用可能なサブスクリプションモデルとして提供しており、Ai GROWのこれまでのユーザー(登録アカウント)数は8.2万人、累計他者評価件数は1,900万件(2022年3月末時点)となっています。2018年の文部科学省「学校教育総括」によると、当社が主なターゲットとしている全国の中高生の生徒数は670万人となります。
② GROW Academy
生徒のコンピテンシーを伸ばすための動画コンテンツと学習指導案、ワークシートを、生徒の人数に関わらず、学校単位で提供しています。生徒のコンピテンシーを伸ばすためのフレームワークを、学校生活を舞台に設定したアニメ形式の動画で分かりやすい事例を交えて習得することができます。カリキュラムや生徒の習熟度に応じて自由に組み合わせて利用でき、指導案も完備しています。Ai GROWとの併用により、新学習指導要領でも求められているコンピテンシー・ベースの教育とその評価を実現できるコンテンツ構成です。
③ e-Spire
TOEFL®テストの構造に沿って設計されたオンライン英語学習プラットフォームです。VOCABULARY、READING、LISTENING、WRITING(AIによる自動判定付き)の4つのユニットで構成されています。各ユニットには単語や表現を限定した入門・初級レベルから英語の母語話者に近い上級レベルまで幅広い難易度の問題を用意しています。生徒は各自の英語力や学習ペースに合わせて、豊富な演習問題とトレーニングに自由に取り組むことができます。
(注)上記の顧客数は、サービス別で有償利用校数をカウントし、合算した延べ数(自治体案件なども学校ごとに個別カウント)。経済産業省「未来の教室」事業は除外。
(3)新規事業
ブロックチェーン技術を用いて個人が主体的かつ安全に自らの情報をコントロールするシステム(BCシステム)を構築し、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンターと共同で、学校、企業、自治体などでの個人情報の利活用を広げ、AIを活用することで教育・キャリア形成・人材育成支援を強化する実証事業「STAR(Secure Transmission And Recording)プロジェクト」を開始しており、12団体(2022年3月末時点)に参画頂き、学生の登録者数は7,000名(2022年3月末時点)を超えております。ブロックチェーン技術を活用するメリットとして、暗号化されたデータを複数のコンピュータに分散して管理するため、改ざんを阻止し、安全かつ公平な情報の保管・流通や管理を保証し、運用コストも低い点が挙げられます。本プロジェクトでは専用のWebアプリケーションを使い、学生が自身のGROWの結果や成績、証書、授業やサークル等での活動を記録すると、それらの情報がただちに暗号化されてブロックチェーンシステムに格納されます。企業は学生にプロフィール情報等の提供依頼を送りますが、学生は自分の意志で情報の提供先や提供範囲、開示期限などを選択し、コントロールすることが可能です。開示を承諾した場合には、特殊な暗号方式を使い、各企業に情報を開示します。
STARのブロックチェーンプラットフォーム上では既に個人が主体的にデータをコントロールする導線は確立済みですが、2021年8月以降、さらに学習履歴や情報開示によってclosed community内で利用・交換可能なトークンを発行・流通させる仕組みの実証もスタートしています。新たな実証では、情報開示におけるインセンティブ設計が実装され、参加学生は学修歴など自らのデータを企業に開示する見返りとしてトークンを受領し、それらを講義ノートを友人から借りる際に対価として支払うなど、学びや成長を継続できる仕組みを構築することが目的です。2021年度に実施したデータサイエンティスト育成講座には全国から2,000名超のエントリーがあり、育成・評価・採用モデルの確立に向けて順調なスタートを切りました。
加えて、BCシステムは、2021年度経済産業省の「未来の教室実証事業」でも採用され、生徒およびその保護者を対象としたESG型広告モデル実証も実施しました。本実証では、STARで構築しているブロックチェーンプラットフォームを活用し、持続的社会を目指す協賛企業が、広告を通じて教育現場を支援する仕組みを実証し、その効果を検証しました。
当社の事業系統図は、以下の通りであります。既存のHR・教育の2事業においては、企業や学校が直接の顧客となり、その社員や生徒がユーザーとなるビジネスモデルです。
用語集
ビジョンとして、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる。」を掲げ、個人が持つ多面的な能力を科学的に評価するシステム、評価データにもとづき成長を支援する教育コンテンツ、そして個人がデータを安全かつ主体的に活用するためのプラットフォームを学校法人、企業、自治体などのコミュニティに対して展開しています。当社サービスは、個人と組織のエンパワーメント(*)を支援し、Society5.0時代の産業基盤となるものと考えております。
変化の著しい昨今の社会情勢においては、学歴という単一の軸だけに頼った人材評価・育成は困難であるとの課題認識のもと、2010年にグローバルに活躍できる人材の育成を目的とした教育事業(塾の企画運営)で創業しました。その後、教育の変革には、人材評価を根本から変えることが必要との想いから、テクノロジーの活用によって多面的な能力を公平に評価する「GROW」を2016年に開発し、2017年以降AI搭載エンジンにより社員や採用候補者の気質(*)・コンピテンシー(*)・スキルを科学的に測定して能力を可視化する「GROW360」を企業の人事領域に拡大して参りました。幅広い業種の多階層(職種×職位)における人材の評価データが蓄積されたことから、採用など人事の一領域に限らず戦略的人事(*)分野での応用を進め、2019年には教育現場に向けて同様の人材評価システム「Ai GROW」の提供を開始しました。さらに2020年以降、今後ESGが進展し、持続的社会の実現に向けて、企業とステークホルダーの関係が変化し、個人が自ら情報を管理・利活用する方向に変化を遂げる中で、当社サービスがそのインフラとなることを目指して、実証事業を行っています。具体的には、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンターと共同で、個人が主体的かつ安全に自分自身のデータの利活用ができることを目的にブロックチェーン(*)技術を応用したプラットフォームの実証(2023年3月までの3年間)を進めています。また、経済産業省「未来の教室」プロジェクトにおいては、構築したブロックチェーンプラットフォームを活用し、教育支援などにより持続的な社会実現への貢献を深めたい協賛企業が、生徒およびその保護者などを対象としたESG型広告の配信を通じて教育現場を支援する仕組みの実証(2021年12月~2022年1月の2カ月間)を行いました。
当社基幹システム「GROW」は、回答者自身の気質(性格)を潜在的な認知バイアス(*)を除去して正確に測る技術(特許取得)や、他者による評価を補正し忖度などの評価におけるバイアスを除去するためのAIアルゴリズム(特許取得)に強みがあり、公平で一貫した評価を行えることから、ハーバード・ビジネス・スクールのPeople Analytics(*)に関する代表ケースとしても取り上げられています(2017年8月25日「GROW: Using Artificial Intelligence to Screen Human Intelligence」)。また、ケンブリッジ大学や慶應義塾大学などとの共同研究をベースにして産官学連携でサービス開発に取り組んでおり、国内の大手企業や先進的な取り組みを行う学校法人のみならず、国際機関や海外の政府機関などでの導入実績があります。
当社の主なサービスと、各事業の内容は以下の通りです。また、次の各事業は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (セグメント情報等)」に掲げるセグメントの区分と同一であります。なお、当社の報告セグメントにおいて、(3)新規事業の「STARプロジェクト」については「HR事業」、「未来の教室実証事業」については「教育事業」に分類されております。
(1)HR事業
HR事業では、企業の人材採用・育成・配置・組織開発を、人材評価システム、オンライン教材、コンサルティング、研修など、多岐にわたるサービスを組み合わせて支援しています。特に、AIによってバイアスを補正した人材評価データを取得、分析し、データに基づく人事を可能にする点に強みを持っています。
当社がソリューションを提供している人事評価・育成市場の環境は引き続き良好で、拡大を見込んでおります。例えば、欧米企業では、ESGの情報開示強化に向けて人的資本に関する非財務情報の開示が先行して進んでおり、2020年11月には、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に人的資本情報の開示を求め、ISO30414といった世界基準も示されており、日本でも「人材版伊藤レポート」の公表やコーポレートガバナンス・コードの改訂に続き、新しい資本主義実現会議が2022年夏の人的資本可視化指針の公表に向けて議論を進めています。また、コロナ禍のテレワークの推奨などを受けジョブ型への移行も加速しており、人材評価データの蓄積と活用シーンは今後も拡大が続くと見込んでおります。
2017年のGROW360開発後は、主に新卒採用で企業の人事部を中心に展開をしてまいりました。2019年以降は大企業の事業戦略に直結するサービス(組織開発・人事戦略支援)も提供するようになり、人事部のみならず経営企画部、DX(*)推進部との連携も進んでいます。これにより、2021年度当事業の実績では、顧客数は65社(前年同期は58社)となり、顧客単価(注1)の上昇(前年同期比+16%)と両輪で業績成長をけん引しました。また、リカーリングレベニュー(注2)は76%となりました。なお、主要なサービスは以下の通りです。
(注1)HR事業の各年度の売上を、当該年度の顧客数で除して算出。2021年3月期実績は4,670千円、2022年3月期実績は5,400千円。
(注2)前年度に取引のあった顧客からの売上が事業全体の売上に占める割合。
① GROW360
「GROW360」は、スマートフォンを用いて受検する人材評価システム(サービス)です。被評価者自身の自己評価に加えて、他者による360度コンピテンシー評価も行います。評価に費やした時間、評価の偏りなどをもとに、AIアルゴリズム(特許取得)が評価データのバイアスを是正するほか、IAT(Implicit Association Test*。特許取得)を用いて本人の潜在的な性格をBIG5(*)による気質診断に基づき判定する人材分析システムであり、採用、人材育成、配置など企業の組織開発全般で活用されています。バイアス補正による公平で一貫した人材評価をシステムを通じて実施することで、1回1人あたり受検費用4,000円以下で提供しています。これにより、従来は特定の階層に限定して行われてきた360度評価を、大企業の全社員対象でも実施し、データ化を進めることが可能です。また、ダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材を積極的に受容し、組織づくりに生かす取り組み)推進において無意識のバイアスが障壁となっているとの認識が社会で広く共有される中で、評価バイアスを補正したうえで精緻に気質・行動特性を評価できる点で顧客企業のニーズを捉え、導入が増えています。「GROW360」のユーザー(登録アカウント)数は71.9万人、累計他者評価件数(25項目のコンピテンシーを84問で評価。1人の被評価者に対し最低3人が他者評価を実施)は5,900万件(2022年3月末時点)となっています。
② DxGROW
「DxGROW」は、企業のDX人材育成を、評価と教育の両面から支援するサービスです。当社が従来から提供してきた評価システムを応用したアセスメント(GROW360を用いたイノベーションスコア(*)算定、IATを活用した潜在的なデジタルバイアス測定、経営シミュレーションを通じた意思決定の傾向やデータ分析に関する知識レベルの可視化)に加えて、当社独自のLMS(Learning Management System*)をプラットフォームとした教育コンテンツ(DX推進に向けて最低限身に着けておくべき知識やマインドセットの習得が目的)で構成されています。2021年9月にはデジタル庁が発足し、国をあげてのDX推進が進められていますが、先行してDXに取り組んできた企業においても、経営と現場の意識のギャップや、専門人材を率いる管理職のデジタルへの潜在的な苦手意識などが課題として挙げられており、それらの暗黙知をアセスメントにより可視化し、必要な教育をピンポイントで実施できる点が顧客に評価され、2021年1月の提供開始以降、業態を拡大してまいりました。新型コロナウイルス感染症による影響で、今後も企業、学校、自治体、政府それぞれのDX化の需要は旺盛であると見込んでおり、業容の拡大に取り組んでまいります。
(2)教育事業
教育事業では、学校や教育機関向けに、生徒の能力と教育効果をAIで可視化する評価システム「Ai GROW」、Society5.0時代を切り拓く基礎となる非認知能力などを育むSTEAM教育(*)動画コンテンツ「GROW Academy」、AIを搭載したオンライン英語学習ツール「e-Spire」を利用したサービスの提供を行い、日本の次世代を担う人材育成支援を行っています。GROW Academyおよびe-Spireは、2020年度に引き続き、2021年度も経済産業省の「EdTech導入補助金(*)」対象サービスとして採択されています。
文部科学省が実現を目指すGIGAスクール構想(*)によって、公教育現場におけるICT(情報通信技術)環境が急速に整備され、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けた前倒し実施もあり、文部科学省初等中等教育局の調査(2021年度末見込み)で示されている通り、全体の98.5%にあたる1,785自治体等で全ての児童生徒が学習者用端末を活用できる環境が整備され、タブレットで受検を行うAi GROWや、オンライン学習教材であるGROW Academyの活用シーンも大幅に拡大しました。また、教育現場での働き方改革という課題に対しても、日々相互評価でデータ蓄積するAi GROWにより、期末ごとの生徒の定性評価が自動生成され教員負担が大幅に低減されることから、採用が拡大しております(2022年3月末時点で、私立中高一貫、国公立中高、通信制高校、塾、小学校など含めて170校超がAi GROWを有償導入)。
従来からの学校法人への直接のサービス提供に加えて、2020年以降は自治体や教育委員会などへのサービス提供も本格化しています。2021年度当事業の実績では、顧客数(注)は324校(前年同期は165校)となり、業績成長をけん引しました。なお、主要なサービスは以下の通りです。
① Ai GROW
GROW360と蓄積された人材評価をベースに、学校・教育機関向けに開発したシステムです。360度コンピテンシー評価と気質診断により、生徒・学生の能力と可能性に加え、さまざまな教育活動の教育効果を可視化することができます。カリキュラム・デザインやクラス・マネジメント、就職までを見据えた進路指導等、多面的な活用が可能です。GROW360と共通尺度で評価を行うことで、子どもから大人まで一貫した評価軸を実現しています。1年間いつでも利用可能なサブスクリプションモデルとして提供しており、Ai GROWのこれまでのユーザー(登録アカウント)数は8.2万人、累計他者評価件数は1,900万件(2022年3月末時点)となっています。2018年の文部科学省「学校教育総括」によると、当社が主なターゲットとしている全国の中高生の生徒数は670万人となります。
② GROW Academy
生徒のコンピテンシーを伸ばすための動画コンテンツと学習指導案、ワークシートを、生徒の人数に関わらず、学校単位で提供しています。生徒のコンピテンシーを伸ばすためのフレームワークを、学校生活を舞台に設定したアニメ形式の動画で分かりやすい事例を交えて習得することができます。カリキュラムや生徒の習熟度に応じて自由に組み合わせて利用でき、指導案も完備しています。Ai GROWとの併用により、新学習指導要領でも求められているコンピテンシー・ベースの教育とその評価を実現できるコンテンツ構成です。
③ e-Spire
TOEFL®テストの構造に沿って設計されたオンライン英語学習プラットフォームです。VOCABULARY、READING、LISTENING、WRITING(AIによる自動判定付き)の4つのユニットで構成されています。各ユニットには単語や表現を限定した入門・初級レベルから英語の母語話者に近い上級レベルまで幅広い難易度の問題を用意しています。生徒は各自の英語力や学習ペースに合わせて、豊富な演習問題とトレーニングに自由に取り組むことができます。
(注)上記の顧客数は、サービス別で有償利用校数をカウントし、合算した延べ数(自治体案件なども学校ごとに個別カウント)。経済産業省「未来の教室」事業は除外。
(3)新規事業
ブロックチェーン技術を用いて個人が主体的かつ安全に自らの情報をコントロールするシステム(BCシステム)を構築し、慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンターと共同で、学校、企業、自治体などでの個人情報の利活用を広げ、AIを活用することで教育・キャリア形成・人材育成支援を強化する実証事業「STAR(Secure Transmission And Recording)プロジェクト」を開始しており、12団体(2022年3月末時点)に参画頂き、学生の登録者数は7,000名(2022年3月末時点)を超えております。ブロックチェーン技術を活用するメリットとして、暗号化されたデータを複数のコンピュータに分散して管理するため、改ざんを阻止し、安全かつ公平な情報の保管・流通や管理を保証し、運用コストも低い点が挙げられます。本プロジェクトでは専用のWebアプリケーションを使い、学生が自身のGROWの結果や成績、証書、授業やサークル等での活動を記録すると、それらの情報がただちに暗号化されてブロックチェーンシステムに格納されます。企業は学生にプロフィール情報等の提供依頼を送りますが、学生は自分の意志で情報の提供先や提供範囲、開示期限などを選択し、コントロールすることが可能です。開示を承諾した場合には、特殊な暗号方式を使い、各企業に情報を開示します。
STARのブロックチェーンプラットフォーム上では既に個人が主体的にデータをコントロールする導線は確立済みですが、2021年8月以降、さらに学習履歴や情報開示によってclosed community内で利用・交換可能なトークンを発行・流通させる仕組みの実証もスタートしています。新たな実証では、情報開示におけるインセンティブ設計が実装され、参加学生は学修歴など自らのデータを企業に開示する見返りとしてトークンを受領し、それらを講義ノートを友人から借りる際に対価として支払うなど、学びや成長を継続できる仕組みを構築することが目的です。2021年度に実施したデータサイエンティスト育成講座には全国から2,000名超のエントリーがあり、育成・評価・採用モデルの確立に向けて順調なスタートを切りました。
加えて、BCシステムは、2021年度経済産業省の「未来の教室実証事業」でも採用され、生徒およびその保護者を対象としたESG型広告モデル実証も実施しました。本実証では、STARで構築しているブロックチェーンプラットフォームを活用し、持続的社会を目指す協賛企業が、広告を通じて教育現場を支援する仕組みを実証し、その効果を検証しました。
当社の事業系統図は、以下の通りであります。既存のHR・教育の2事業においては、企業や学校が直接の顧客となり、その社員や生徒がユーザーとなるビジネスモデルです。
用語集
用語 | 用語の定義 |
Society 5.0 | サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のこと。第5期科学技術基本計画(2016年度~2020年度)において、我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された(出所:内閣府)。 |
気質 | パーソナリティー。本人も認識できない生まれ持った潜在的な性格のこと。当社では、IAT(潜在連合テスト)技術を活用し、時間差・指の軌跡・間違いの回数などを基に、BIG5と呼ばれる最も代表的なパーソナリティ理論に基づいて気質診断を行います。 |
コンピテンシー | 思考力や判断力、創造力や表現力など個人の行動特性のこと。一般的に経験によって上がっていき、開発が可能な能力のことを指します。当社では、東京大学中原淳研究室(当時)と共同開発したコンピテンシーフレームワーク&モデルをもとに、最低3人からの360度評価に基づいて、25項目(認知・自己・他者・コミュニティの4領域)を測定します。 |
エンパワーメント | 個人や組織が本来持っている潜在能力を引き出し、発揮させること。「権限委譲」や「能力開花」と訳される。社員に自発的な行動や判断を促し、本来持っている能力を発揮させることで、意思決定の迅速化や組織力の向上などが期待できます。 |
戦略的人事 | 労務管理、給与計算などの管理やオペレーション業務だけでなく、自社の経営戦略の実現に向けて、人的マネジメントを行っていくこと(出所:HRプロ)。 |
ブロックチェーン(BC) | インターネット上に構築された価値交換のための基盤技術のこと。通貨や不動産、株式やライセンスなどの価値(資産)をインターネット上で特定の管理者を介することなく安全かつ安価に取引できるようにする仕組み。 |
認知バイアス | 不合理な判断に繋がる、先入観や直感、願望などによる思考の偏りのこと。当社では、IAT技術の活用により、気質以外にも幅広い対立概念に対する認知バイアスの測定が可能で、実際にデジタル-リアルへの親和性などを測定するサービスを提供しています。 |
People Analytics | 人事に関する情報や数字を収集、分析し、客観的なデータを用いて、採用や教育、評価など一連の人事業務の意思決定に活用すること(出所:HRプロ)。 |
DX | デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(出所:経済産業省「DX推進指標」)。 |
IAT | Implicit Association Test(IAT、潜在連合テスト)は、社会心理学の分野において心的表象と対象物及び対象概念との潜在的な関連の強さを測る手法として、アンソニー・グリーンワルド、デビー・マギー、ジョーダン・シュワルツによって1998年に開発されました。偏見、固定観念、差別を見極めるための手法として、被検者の自己分析よりも信頼性の高い指標と考えられています。 |
BIG5 | 人間の性格を、5つの因子を用いて説明するパーソナリティ特性の分類法のこと。解放性(O)・誠実性(C)・外向性(E)・協調性(A)・神経症傾向(N)の5つの因子から、OCEANモデルとしても知られています。パーソナリティの対立軸に優劣はありませんが、傾向が強く出過ぎた時のリスクや、自身の気質から生じやすい行動特性を理解することが大切とされます。 |
イノベーションスコア | GROW360で定義している25項目のコンピテンシーのうち、特にゼロから1を生み出す(イノベーション)上で重要な6つのコンピテンシー(個人的実行力、外交性、課題設定、共感・傾聴力、創造性、地球市民)をもとに、イノベーションスコアを算出しています。 |
LMS | Learning Management System(LMS)は、eラーニングの実施に必要な学習管理システムのこと。 |
STEAM教育 | S(Science科学)、T(Technology技術)、E(Engineering工学)、A(Art芸術)、M(Mathematics数学)の頭文字を組み合わせた造語で、各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育を指します。 |
EdTech導入補助金 | 教育現場における先端的教育用ソフトウェア・サービスを導入する「EdTech事業者」が行う①EdTechツールの導入及び②利活用に関しての手厚いサポートに要する経費の一部を補助することにより、学校等設置者等とEdTech事業者の協力によるよりよい学校環境づくりを後押しすることを目的として、経済産業省が実施する事業。 |
GIGAスクール構想 | 児童生徒1人1台端末の整備および校内通信ネットワークの整備によって、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させるために、文部科学省が2019年12月に発表した取り組み。 |
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ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
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