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有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S1002DIW

有価証券報告書抜粋 株式会社リプロセル 事業の内容 (2014年3月期)


沿革メニュー関係会社の状況

当社グループ(当社及び当社の関連会社)は、当社、子会社2社及び関連会社2社により構成されており、ヒトiPS細胞及びヒトES細胞の技術を基盤とした(1)iPS細胞事業と、臓器移植等に係わる(2)臨床検査事業を展開しております。
また、iPS細胞事業に関する製品群は研究試薬製品と細胞製品の2つに大きく分けられます。
事業の概要は以下のとおりであります。なお、次の2事業は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項」に掲げるセグメントの区分と同一であります。
事業内容区分内容
iPS細胞事業研究試薬製品ヒトES/iPS細胞の研究に必要な、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤(*)、抗体(*)など、ヒトES/iPS細胞に最適化された各種研究試薬の製造販売を行っています。
細胞製品ヒトiPS細胞から、心筋、神経、肝臓などの様々な細胞を作製し、専用培養液やコーティング剤とともに、主に製薬企業に販売しています。これらの細胞製品は、製薬企業において、新薬候補化合物の薬効試験や毒性試験の実験材料として使用されます。また、同細胞を利用して、薬効試験や毒性試験を当社内で実施する受託サービスを提供しております。
臨床検査事業臓器移植及び造血幹細胞移植で必要とされる臨床検査に特化した検査受託サービスを提供しています。具体的には、対象顧客である医療機関から血液や血清などの検体を当社の衛生検査所に搬送し、検査を実施するというものです。受託方法には、医療機関からの直接受託と他の検査会社を経由した再受託の両方があります。

(1) iPS細胞事業
a.事業環境
ヒトの体は60兆個以上、200種類以上の細胞で構成されていると言われています。ヒトは、もともとは1つの受精卵から始まり、分裂、増殖を繰り返しながら、神経細胞、心筋細胞、肝細胞など、成体を構成する様々な細胞に分化(変化)していきます。我々の体の中には、このように最終的に分化した細胞と分化途上の細胞が存在しており、前者を体細胞(*)、後者を体性幹細胞(*)と言います。
体性幹細胞としては、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞などがあり、これらは、限定された範囲内でのみ各種の細胞に分化することができます。例えば、造血幹細胞は、骨髄に多く存在することが知られており、白血球や血小板など全ての血液系細胞を作り出していますが、神経などの異なる細胞種には分化しません。
一方、体性幹細胞よりも未熟な細胞として、胚性幹細胞(通称、ES細胞:Embryonic stem cell)があります。ES細胞は、受精卵から1週間ぐらい経過した胚盤胞という状態の内部の細胞塊を取り出したもので、心筋、神経、肝臓、血液など理論上は体内の全ての種類の細胞に分化することが可能です(これを多能性と言います)。体性幹細胞は限られた範囲内でしか分化できないのに対し、ES細胞では分化できる範囲が格段に広いのが大きな特徴です。また、ES細胞は、培養器内で、1週間で約10倍、2週間で100倍、3週間で1,000倍というように、長期の大量培養が可能です。一方、我々の体を構成する様々な細胞(体細胞及び体性幹細胞)では、増殖能力に限界があり、正常な状態を維持しながら長期培養することは困難です。このように、ES細胞は、多能性と高い増殖性という2つの大きな特徴がある特異な細胞であり、学術的には「多能性幹細胞」、通称「万能細胞」と呼ばれています。
ES細胞はインフォームドコンセント(*)を取得した上で、不妊治療の過程で不要になった余剰胚から作製しますが、受精卵を使用することに関して各国で様々な倫理的議論がされています。このような背景の中、受精卵を使用しない新たな「万能細胞」を京都大学の山中伸弥教授が発明されました。
2006年、山中教授は、マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を導入することで、マウスES細胞と同様の性質を有する新しい細胞を作製することに成功しました。さらに、翌2007年にはヒトの皮膚細胞からも同様の細胞を得ることに成功し、一躍世界の脚光を浴びることになりました。この新しい細胞は、人工多能性幹細胞(通称、iPS細胞:induced pluripotent stem cell)と名付けられ、新たな「万能細胞」と位置づけられています。iPS細胞はES細胞とほぼ同等の性質を持っています。つまり、心筋、神経、肝臓、血液など様々な細胞に分化する能力を持ち、さらに培養器内で大量に増殖することが可能です。iPS細胞は受精卵を使用せず作製可能であるため、世界中で研究が急速に進むことになりました。

ES細胞とiPS細胞
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細胞の種類と特徴
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b.細胞ビジネスの概要
これまで、ヒト細胞の供給はドナー(*)に依存する部分が大きくヒト細胞を大量に供給することは困難でした。例えば、骨髄移植では適合ドナーが容易に見つかる状況ではありません。この状況が、ES細胞/iPS細胞の登場により大きな変化を迎えようとしています。つまり、これらの細胞を使用することで、神経細胞や心筋細胞などの様々な体細胞をドナーに頼らず大量に作製することが可能になります。ES細胞/iPS細胞は大量に増殖できるので、細胞供給源が尽きることはありません。この特徴を利用した新しい細胞ビジネスの可能性が広がっており、研究試薬、創薬応用、テーラーメイド医療、再生医療などが代表的なものとしてあげられます。以下、説明します。

研究試薬:
ES細胞/iPS細胞の研究を行う際に使用する研究試薬になります。研究試薬には様々な種類があり、例えば、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体、などがあります。研究試薬は細胞の種類、培養方法、測定方法などによって様々な種類があります。例えばヒトiPS細胞の培養液の場合、培養方法によって異なる培養液が数種類販売されていますし、ヒトiPS細胞を識別するためのマーカーについても同様に多種類販売されています。対象顧客は、大学等の公的研究機関や製薬企業等の民間研究機関になり、現在、世界中で盛んに研究が行われています。
当社では、ヒトES/iPS細胞に特化した研究試薬製品の製造販売を行っています。

創薬応用:
ES細胞/iPS細胞から、神経細胞、心筋細胞、肝細胞など様々な細胞を作製し、それを創薬スクリーニングに利用します。これにより、製薬企業が新薬候補化合物の薬効評価及び毒性評価を効率的に行うことが可能になります。また、動物実験を大幅に低減できるとの期待もあります。主な対象顧客は製薬企業や化学系企業であり、現在、当該技術の初期導入が進んでいます。
当社では、iPS細胞から、神経細胞、心筋細胞、肝細胞、アルツハイマー病モデル細胞等、様々な細胞製品を作製して販売しています。

テーラーメイド医療:
個人から採取した細胞(例えば、皮膚や血液)からiPS細胞を作製し、その細胞を使って個別に病態診断や医薬品の適合性判断が行える可能性があります。現在、iPS細胞技術を使って、患者から採取した細胞から病態モデル細胞を作製する研究が盛んに行われていますが、将来的にこれらの研究成果を活用することで、個々人に最適な薬剤や処方量を選択することができる可能性があります。

再生医療:
ES細胞/iPS細胞から神経細胞、心筋細胞、肝細胞など様々な細胞を作製し、患者に移植することで組織の再生を行います。脊椎損傷や心筋梗塞など、生体内で損傷または壊死した組織は、新たに細胞を移植する方法が有効と考えられています。一方、ヒト細胞を供給するためにはドナーに依存せざるを得ず、ドナー不足の解決が課題になっています。ES細胞/iPS細胞から新たに細胞を作り出す技術は、この課題を根本的に解決し、ドナーに依存しない新しい再生医療として注目を集めています。現在、米国ではヒトES細胞を使った再生医療の臨床試験(*)が進められており、近い将来、再生医療が実現すると期待されています。

ES細胞/iPS細胞を使ったビジネス
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以上のように、ES細胞/iPS細胞は次世代バイオ産業の中心的存在として期待されています。
研究試薬分野はすでにグローバルに市場を形成しており、成長性の高い市場と言えます。一方、創薬応用は、これまでの創薬プロセスを大幅に効率化する新規技術として期待されており、製薬企業でも技術導入に向けた動きが出てきました。当社は、現時点で、研究試薬と創薬応用の2つに注力して事業展開していますが、将来的には、テーラーメイド医療や再生医療への展開も可能と考えています。
以下、研究試薬製品と細胞製品について説明します。

① 研究試薬製品
ヒトES/iPS細胞の研究に必要な、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体などの各種研究試薬の製造販売を行っています。これらの研究試薬は、京都大学物質―細胞統合システム拠点の中辻憲夫教授のヒトES細胞の研究をベースに開発されたものであり、高い技術力と長年の実績に裏打ちされています。さらに、京都大学iPS細胞センターの山中伸弥教授が当社の試薬を用いて、世界で初めてヒトiPS細胞の樹立及び培養に成功されたことで、当社の製品はヒトES細胞だけでなく、ヒトiPS細胞にも使用できることが確認されました。それ以来、ヒトES/iPS細胞の共通試薬として、幅広い研究機関で使用されています。
当社では、設備投資を最小限に抑えリソースを開発業務に集中させるため、製造の大部分を外注しております。また、製品の品質管理は当社の研究所で徹底して行っており、全試薬の全ロットで品質確認を行っております。対象顧客は大学などの公的研究機関及び製薬企業などの民間研究機関になり、現在は公的研究機関が大部分を占めています。国内、アジア、欧州は代理店経由で、米国は直接販売しております。また、エンドユーザーを対象にiPS細胞の講習会を定期的に実施しており、ユーザーへの技術サポートにも力を入れています。

研究試薬製品の事業系統図
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ヒトES/iPS細胞の培養方法は、大きくオンフィーダー法とフィーダーレス法の2つに分けられ、最適な試薬が異なります。このため、当社も、それぞれの培養法に適した試薬製品をラインナップしています。
オンフィーダー法は、ヒトES/iPS細胞に、フィーダー細胞(*)(マウス胎児線維芽細胞)を共存させる培養方法であり、歴史が長く信頼度が高い方法です。但し、フィーダー細胞の調製に手間がかかることや将来的に再生医療への応用を考えた場合、必ずしも理想的とは言えません。一方、フィーダーレス法は、特殊なコーティング剤を培養皿に塗布することで、フィーダー細胞がなくても、ヒトES/iPS細胞の培養を可能にします。この方法では、上記のデメリットは克服できるものの、技術的にはまだ発展途上と言えます。現在は、オンフィーダー法が主流で、一部フィーダーレス法が利用されている状況です。
最近は、フィーダー細胞やコーティング剤を使わず、ヒトES/iPS細胞を浮遊したまま培養するサスペンジョン法が開発されてきました。この方法では、大量培養が可能になることが大きな特徴で、再生医療への応用が期待されており、今後更なる研究開発を展開してまいります。

ES細胞/iPS細胞の培養方法
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当社では、オンフィーダー法とフィーダーレス法の2つの培養方法に適した試薬をそれぞれ提供しております。オンフィーダー用の培養液として、Primate ES cell medium (以下、ES medium)とReproStemの2品目を販売しています。ES mediumは京都大学iPS細胞センターの山中伸弥教授が世界で初めてヒトiPS細胞の樹立及び培養に成功した際に使用した培養液であり、現在、日本のスタンダードとして幅広い研究機関で使用されています。一方、ReproStemはES mediumの廉価版に該当し、通常の培養時のコストを低く抑えられるメリットがあります。
フィーダーレス用の培養液としては、ReproFF及びReproFF2を発売しております。両者とも、ヒトES/iPS細胞をフィーダーレスで良好に培養可能ですが、ReproFF2は、培養操作の手間を大幅に軽減できるという特徴があります。通常、オンフィーダー法でもフィーダーレス法でも、培養液の交換作業が1日に1回は必要になり、休日もなく作業する必要があります。一方、ReproFF2は、月曜日、水曜日、金曜日と週三回だけ、培養液交換をするだけで、良好に細胞培養できるという大きな特徴があります。
その他、オンフィーダー法及びフィーダーレス法に共通の試薬として、剥離液、凍結保存液があります。これらは、ヒトES/iPS細胞に最適化されており、一般的な細胞に使用される剥離液や凍結保存液とは異なります。剥離液は、細胞を培養皿から剥がして新しい培養皿に移す際に使用しますが、通常、細胞を剥離する場合、細胞が損傷して生存率が落ちるという問題点があります。当社の剥離液はこの問題を克服したものであり、ヒトES/iPS細胞へのダメージを最小限に抑え、高い生存率を得ることを特徴としています。
細胞の凍結保存時の生存率は細胞の種類で大きく異なっています。ヒトES/iPS細胞は通常の凍結保存液で凍結した場合、著しく低い生存率しか得られませんが、当社の凍結保存液では高い生存率を得ることが可能になります。
以上のように、当社では、ヒトES/iPS細胞の様々な培養方法に最適な各種研究試薬の製造販売を行っております。

当社の研究試薬製品
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② 細胞製品
ヒトiPS細胞から、心筋、神経、肝臓などの様々な細胞を作製し、主に製薬企業に販売しています。細胞だけでな く、専用培養液やコーティング剤などもセットになっています。これらの細胞製品は、製薬企業において、新薬候補化合物の薬効試験や毒性試験の実験材料として使用されます。また、同細胞を利用して、薬効試験や毒性試験を当社内で実施する受託サービス型ビジネスも提供しております。

ヒトiPS細胞由来の心筋細胞(左)、神経細胞(中央)、肝細胞(右)
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細胞製品例
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これまで、京都大学物質―細胞統合システム拠点や医薬基盤研究所など世界最先端の技術を有する研究機関との共同開発により、ヒトiPS細胞由来の心筋、神経、肝臓、アルツハイマー病モデル細胞など、世界最先端の製品の開発に成功してきました。現在、製造は自社内で実施しており、販売も国内、米国及び欧州ともに直接(一部代理店)行っています。

細胞製品の事業系統図
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ヒトiPS細胞の創薬応用
医薬品の研究開発は、各製薬企業の有する数十万~数百万種類の化合物ライブラリーについて数々の薬効試験及び毒性試験に関するスクリーニングを行い、最終的に1つの新薬を見いだすプロセスになります。1つの医薬品の開発に、10-15年以上の研究開発期間と数百億円以上の研究開発費という膨大な投資が必要とされます。
研究開発プロセスは、探索研究、前臨床試験(*)、臨床試験の3つに大きく分けられます。臨床試験で初めて、新薬候補化合物がヒトに投与されますが、それ以前は、ガン化細胞や実験動物が主に使用されます。本来であれば、ヒトに投与する臨床試験の前に、ヒト細胞で、薬効試験及び毒性評価を行い、ヒト固有の反応を十分に検証することが理想的ですが、実際にはヒト細胞の供給はドナーに依存するため、安定供給が容易ではありません。そのため、ガン化細胞や実験動物が多用されているのが実情です。
ヒトiPS細胞は多分化能と高い増殖性を兼ね備えているため、心筋や神経など様々な種類の体細胞を安定的に供給することが可能になります。ヒト細胞を安定的に創薬プロセスで利用することにより、種間差(ヒトと動物の反応性の違い)の問題や安定供給の課題を克服することが可能になると期待されています。ヒト細胞を用いた薬効試験及び毒性試験は、創薬プロセスの理想でもあり、それがiPS細胞により実現可能になります。
当社では、製薬企業にとってとりわけニーズの高い心筋、神経、肝臓の3種類の細胞に注力し、事業化を進めております。将来的には、製薬企業のニーズに合わせて、新しい細胞種の開発も手がけていきます。

細胞製品例
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1)心筋細胞
医薬品の心臓に対する毒性は重篤な副作用であり、すべての医薬品でこの心筋毒性試験(*)が義務付けられています。心筋毒性は、特定の遺伝子を組み込んだガン化細胞を用いたhERG試験(*)及び動物実験が一般的に行われています。hERG試験では、特定の遺伝子に対する単純な反応性は評価できるものの、実際の心臓で起こる複雑な反応を予測することは困難です。一方、動物実験では、比較的高い精度で毒性評価が可能ですが、1つの化合物に対するテストを行うのに多くの時間とコストが必要とされます。
このような状況の中、当社では、ヒトiPS細胞から拍動する心筋細胞を作製することに成功し、2009年4月に世界で初めて製品化に成功しました。拍動する心筋を安全性試験に使用することで、現行法であるhERG試験では評価できなかった心筋の複雑な薬剤反応性が得られています。また、ニプロ㈱と共同で、96個のくぼみに電極が配置された、特殊な電極付き96プレートを開発しました。このプレートに、96個の心筋細胞を播種(*)することで、96種類の薬物評価試験が1度に可能になります。動物実験と比較して、著しいハイスループット化(*)が可能であり、コストと時間の大幅な短縮が可能になります。

ヒトiPS細胞由来心筋細胞(左)と電位測定の様子(右)
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2)神経細胞
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の患者数は、社会の高齢化に伴い増加しており、その対策が必要とされています。このため、多くの製薬企業で神経変性疾患の治療薬の研究開発が精力的に行われています。
神経変性疾患の治療薬の開発には、ヒトの神経細胞を実験材料として利用することが理想的ですが、供給が難しいのが実情です。このような背景の中、当社では、ヒトiPS細胞から各種の神経細胞を作製することに成功し、2010年10月、世界で初めてiPS細胞由来神経細胞の販売を開始しました。一言で神経細胞と言っても、大脳、小脳など様々な部位があり、各種神経変性疾患もそれぞれ個別の部位に疾患が見られます。例えば、アルツハイマー病であれば大脳、パーキンソン病であれば中脳が対象になります。このため、当社では、アルツハイマー病の評価材料としてコリン作動性神経(大脳)、パーキンソン病用にドーパミン作動性神経(中脳)をそれぞれラインナップしています。
さらに、遺伝子改変技術を用いることで、アルツハイマー病の原因遺伝子を保有した神経細胞を作製することにも成功し、こちらも2012年6月、世界で初めて製品として販売を開始しました。このアルツハイマー病モデル細胞では、アルツハイマー患者の脳内に見られる「老人斑」の原因物質であるアミロイドベータ42(*)が蓄積されることも確認しています。これらiPS細胞由来神経細胞は、神経変性疾患の治療薬の研究開発の重要な実験材料として利用可能です。
また、アルツハイマー病モデル細胞に関しては、㈱パーキンエルマージャパンと販売協力を行っており、同社の関連試薬と当社の細胞の共同プロモーションを進めております。

3)肝細胞
投与された薬の殆どは肝臓で代謝を受けます。このため、新薬開発では、肝臓における代謝の影響や肝毒性などの検討項目が課せられています。
現状、主に亡くなられたドナーから得られる肝細胞(初代培養肝細胞)が使用されていますが、供給面やロット差の問題があり、再現性の高い薬剤試験の結果が得にくい状況です。このような背景の中、iPS細胞技術を使うことで、均質な肝細胞が大量に供給可能になると大きく期待されています。当社では、医薬基盤研究所との共同研究により世界で初めてiPS細胞由来肝細胞の製品化に成功し、2012年6月に上市(*)しました。
当社の肝細胞は純度が90%以上と極めて高いことが大きな特徴です。また、肝臓において解毒を行う酵素(シトクロムP450)の最も代表的なCYP3A4(*)が、初代培養肝細胞とほぼ同等の活性を示しており、十分な肝臓の機能を有していると言えます。
なお、本成果により、2012年9月に2012年度産学官連携功労者表彰・厚生労働大臣賞を受賞しております。

(2) 臨床検査事業
移植治療は、通常の投薬治療や外科手術では治療できないような疾患の治療法として、広く普及が進んでいます。臓器移植では、腎臓、肝臓が代表的で、腎不全や肝不全の治療法として高い治療効果をあげています。日本移植学会によると、我が国における腎移植の件数は2000年749件から2010年1,484件とほぼ2倍に増えています。一方、骨髄、臍帯血などの造血幹細胞移植も白血病の治療方法として高い治療成績を上げており、移植件数も、2000年1,762件から、2010年3,222件とほぼ2倍に増えています(日本造血幹細胞移植学会)。
当社では、2006年12月に衛生検査所として登録を行い、これら臓器移植及び造血幹細胞移植で必要とされる臨床検査に特化した検査受託サービスを提供しています。具体的には、対象顧客である医療機関から血液や血清などの検体を、当社の衛生検査所に搬送し、検査を実施するというものです。委託方法は、医療機関からの直接委託と他の検査会社を経由した再委託の両方で行っています。
主な検査項目としては、「HLAタイピング検査(*)」、「抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング検査及び抗HLA抗体同定検査)」、「フロークロスマッチ検査(*)」があります。これら移植治療に必要な検査を1拠点でまとめて行うことで整合性のとれた確度の高いデータを顧客に提供することが可能になります。
これらの検査項目のうち、造血幹細胞移植における抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)が、2012年4月から、保険適用になりました。

臨床検査事業の事業系統図
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1)HLAタイピング検査
赤血球にA、B、O型の血液型があるように、白血球にも、HLA型があります。HLA型とは、ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、個人に固有の免疫の型になります。移植に際しては、ドナーとレシピエント(患者)のHLA型がなるべく適合していることが必要で、適合性が低い場合、免疫拒絶が起こりやすくなります。このため、移植前には必ずドナーとレシピエントのHLA型を調べる必要があります。当社では、このHLA型のタイピング検査を提供しています。

2)抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)
免疫拒絶を抑制するためにはドナーとレシピエントのHLA型が近い方が望ましいですが、HLA型は非常に多岐に渡っているため、厳密に言うと、ドナーとレシピエントのHLA型が完全に一致することは稀といえます。
このため、臓器移植や造血幹細胞移植後には程度の差はあれ何らかの免疫拒絶が起こりえます。免疫拒絶のメカニズムは複雑ですが、重要な要因の1つとして抗HLA抗体が報告されています。抗HLA抗体は、HLA型の異なるドナーの細胞片を移植した場合に、それを異物と認識し、攻撃するための物質であり、移植治療後に体内で産生されます。体内の抗HLA抗体の産生量と移植治療の成功の有無には相関関係があることが報告されており、抗HLA抗体の産生量をモニタリングすることが移植治療で必要とされています。抗HLA抗体の産生量が増えた場合、免疫抑制剤の投与量を増やすなどの医療的処置が可能です。また、移植治療前でも輸血や妊娠などの非自己タンパクによる抗体産生刺激を受けた場合、抗HLA抗体が体内で産生される可能性があり、その場合は移植直後から免疫拒絶が起こる可能性が高くなります。このため、抗HLA抗体検査は、移植前後の両方で必須な検査となっています。
当社では、抗HLA抗体スクリーニング検査と抗HLA抗体同定検査の2項目を提供しています。抗HLA抗体スクリーニング検査は、様々な種類の抗HLA抗体の有無を網羅的に調べる検査になり、抗HLA抗体同定検査は、抗HLA抗体の種類の詳細な同定(*)をするための検査になります。
従来から、LCT法(細胞障害性試験)(*)と呼ばれる手法で抗HLA抗体検査は広く行われていましたが、検査感度が十分でなく、微小な抗HLA抗体を見逃している可能性がありました。一方、当社の提供する抗HLA抗体スクリーニング検査と抗HLA抗体同定検査は、LCT法に比べ非常に高い感度を持った新しい検査方法であり、従来では検出できなかった微小な抗HLA抗体の検出が可能になっています。

3)フロークロスマッチ検査
抗HLA抗体は免疫拒絶の主要な要因の1つですが、免疫拒絶のメカニズムは複雑で、抗HLA抗体だけで、全てを説明できるわけではありません。抗HLA抗体が検出されなくても、別の理由で免疫拒絶が起こる場合もあります。フロークロスマッチ検査は、免疫拒絶を抗HLA抗体に限定せずより広く検出するための方法になります。但し、陽性反応が出た場合でも、その原因を特定できないのが課題であり、上記の抗HLA抗体検査と組み合わせることで、より検査確度を上げることができます。
フロークロスマッチ検査では、ドナーのリンパ球とレシピエントの血清(各種抗体は血清の中に存在する)を直接反応させます。もし、レシピエントが何らかの免疫拒絶に関与する抗体(抗HLA抗体に限らない)を保有していた場合、ドナーのリンパ球と反応するので、それを検出することができます。もちろん、反応性のある抗HLA抗体を保有していた場合も反応します。フロークロスマッチ検査では、実際のドナーとレシピエントの細胞を使い、個別に反応性を確かめることが可能であるため、移植前の重要な検査として位置づけられています。

(用語解説)
[Nanog抗体]
Nanog蛋白質と特異的に結合する抗体。ES/iPS細胞の状態を評価する際に用いられる。
[ES細胞]
胚性幹細胞(Embryonic stem cells)の略称。動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる細胞で、生体外にて、理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させる事ができる。
[培養液]
細胞等を培養するために用いられる溶液。細胞種に合わせて様々な種類の培養液が必要である。
[剥離液]
培養している細胞を剥離するために用いられる溶液。
[凍結保存液]
細胞等を保存するために用いられる溶液。
[iPS細胞]
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)の略称。体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、多様な細胞に分化できる分化多能性と、無限増殖能を持たせた細胞。
[ドーパミン神経]
神経細胞の1種類で、ドーパミンを放出する神経細胞。正式にはドーパミン作動性神経細胞と呼ぶ。
[コーティング剤]
細胞を培養する際に、細胞が接着するために必要な基質を含む溶液。細胞培養する容器を前もってコーティングする目的で使用される。
[抗体]
抗原と特異的に結合する免疫グロブリンの総称。
[体細胞]
生物体を構成する細胞のうち、生殖細胞以外の細胞の総称。
[体性幹細胞]
生体の様々な組織にある幹細胞。造血幹細胞・神経幹細胞・皮膚幹細胞などがあり、限定された種類の細胞にしか分化しないものや、広範囲の細胞に分化するものなど様々ある。成体幹細胞。組織幹細胞。
[インフォームドコンセント]
説明をうけた上での同意の意。医師が患者に診療の目的・内容を十分に説明して、患者の納得を得て治療すること。
[ドナー]
移植のために血液、組織、または器官などを自発的に提供する人。
[臨床試験]
薬剤候補について、有効性と安全性を実証するために、ヒトを対象として実施する試験の総称。少数健常人を対象として安全性及び薬物動態を確認する第I相試験、少数患者を対象として有効性及び安全性を探索的に確認する第Ⅱ相試験、多数患者を対象として有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相試験に区分される。
[フィーダー細胞]
増殖や分化を起こさせようとする目的の細胞の培養条件を整えるために用いる、補助役を果たす他の細胞腫を示す言葉。通常フィーダー細胞は増殖しないようにあらかじめガンマ線照射や抗生物質によって処理しておく。
[前臨床試験]
薬剤候補について、ヒトにおける試験を実施する上で十分な安全性と有効性があることの確認を目的として、主に動物を用いて行われる試験。
[心筋毒性試験]
薬剤の心臓に対する安全性を評価する試験全般を示す。心筋毒性を調べる方法の一つとしてhERG試験のようなQT延長の可能性の有無を評価する試験がある。
[hERG試験]
薬をつくる過程で行う心臓に対する安全性を評価する試験。この試験で陽性となった薬はQT延長による心停止を伴う心疾患を引き起こす可能性がある。
[播種]
細胞培養を目的として、新しい培養器に細胞を移すこと。
[ハイスループット化]
ロボットなどを利用した時間と経費を節約するための高速化合物評価系を示す。
[アミロイドベータ42]
42個のアミノ酸からなるペプチドであり、前駆体蛋白から切り出される。凝集体を形成することがアルツハイマー病の発症原因の一つであると考えられている。
[上市]
各国の規制当局により新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)こと。
[CYP3A4]
シトクロムP450 (CYP) の分子種の一種であり、薬物を代謝する酵素の主要なものの1つである。CYPによる酸化反応では寄与する範囲が最も広い。また、肝臓に存在するCYPのうちの大部分を占める。
[HLAタイピング検査]
一般的に知られている血液型(A、B、O)のようにHLAにも種類があり、多種類あるHLAの中でもどれを持っているかを調べる検査。
[フロークロスマッチ検査]
移植の際に拒絶が起こらないようにドナー(提供者)のHLA型に反応するHLA抗体の有無をドナー(提供者)のリンパ球を用いて調べる検査。
[同定]
種類を決定すること。
[LCT法]
ドナーリンパ球が障害されるかでレシピエント血清中のHLA抗体の有無を検出する方法。

沿革関係会社の状況


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