有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S1004FK3
シンバイオ製薬株式会社 事業の内容 (2014年12月期)
1.当社の事業概要について
(1) 当社の概要
当社は、元米国アムジェン社(注1)本社副社長で、同社の日本法人であるアムジェン株式会社(現在は武田薬品工業株式会社が全事業を譲受)の創業期から約12年間社長を務めた吉田文紀が、2005年3月に設立した医薬品企業です。経営理念は「共創・共生」(共に創り、共に生きる)で表され、患者さんを中心として医師、科学者、行政、資本提供者を「共創・共生」の経営理念で結び、アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs)(注2)に応えていくことにより、社会的責任及び経営責任を果たすことを事業目的としています。
なお、当社の事業は、医薬品等の研究開発及び製造販売並びにこれらの付随業務の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しています。
(注1) バイオ医薬品業界最大手。1980年、米国カリフォルニア州サウザンド・オークスにおいて、AMGen(Applied Molecular Genetics)として設立。日本においては、1993年5月1日にアムジェン株式会社として業務を開始しました。なお、2008年2月に武田薬品工業株式会社がアムジェン株式会社の株式を100%取得後、現在は武田薬品工業株式会社が全事業を譲受しています。
(注2) アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs)とは、未だ満たされない医療上の必要性を意味し、患者さんや医師から強く望まれているにもかかわらず有効な既存薬や治療がない状態を指します。
(2) 当社の事業の特徴
がん・血液・自己免疫疾患領域における希少疾病分野(注3)の研究開発の多くは、欧米を中心に、大手製薬企業よりもむしろ、多くの大学・研究所、バイオベンチャー企業により創薬研究・新薬開発が活発に行われ、海外では既に数々の有用な新薬が医療の現場に提供されています。しかし、これらの分野は開発に高度の専門性が求められ、開発の難度も高く、また大手の製薬企業が事業効率の面、採算面で手を出しにくいため日本を初めとするアジア諸国においては手をつけられていない空白の治療領域となっています。当社は、極めて医療上のニーズは高いものの、新薬の開発が遅れている空白の治療領域をビジネスチャンスと捉え、特に、高い専門性が求められ難度が高いために参入障壁の高いがん・血液・自己免疫疾患の3治療領域に特化した日本初のスペシャリティ・ファーマ(注4)です。当社は、大型新薬(いわゆる売上高が1,000億円を超える「ブロックバスター」)の追求ではなく、マーケットは相対的に小規模でも医療ニーズの高い、がん・血液・自己免疫疾患に特化した新薬開発に取り組み、これらの医薬品及び新薬候補品を数多く保有することにより、強固なパイプライン・ポートフォリオを構築し、持続性のある事業展開を行います。当社は、このような空白の治療領域を埋めるための新薬の開発・提供を行うことを企業使命として設立されました。新薬が開発されないことで治療上の問題を抱えている患者さんに対して、短期間で開発をし、迅速に治療薬をお届けすることを最優先に考え、医療への貢献、そして医薬品業界の健全な発展に寄与することにより、持続的成長と安定への道を進んでまいります。
(注3) 希少疾病分野とは、医療上の必要性は高いものの、薬を必要とする患者数が少ない疾病分野のことで、この分野に対する開発の進んでいない医薬品は希少疾病用医薬品(Orphan Drug:オーファンドラッグ)と呼ばれます。厚生労働省よりオーファンドラッグの指定を受けるためには、①我が国において患者数が5万人未満の重篤な疾病であること、②医療上特にその必要性が高いこと、③開発の可能性が高いこと、といった基準を満たす必要があります。当該指定を受けると、他の医薬品に優先して審査を受けられる(申請から承認までの期間が短縮される)、再審査期間を延長することができる(最長10年)、薬価への加算評価が期待できるといったメリットを享受することが可能となります。
(注4) スペシャリティ・ファーマとは、得意分野において国際的にも一定の評価を得る新薬開発企業をいいます(2002年「医薬品産業ビジョン」(厚生労働省)の定義による)。
(3) 当社の事業モデルについて
創薬系事業の特徴として、新薬の開発は長期間にわたり膨大な先行投資を強いられるものの、その研究開発の成功確率は極めて低いことが知られています。一般に、研究所において何らかの生物・生理活性(注5)が認められた化合物が新薬として承認にいたる確率は、2万分の1~2万5千分の1と言われています。また、承認を取得した新薬のうち、上市・販売後において採算が取れるのはそのうちの15~20%以下と言われています。当社は、このような創薬系事業の難しさを踏まえた事業モデルを構築しています。当社では、開発にかかる様々なリスクと費用を軽減するとともに、開発候補品の臨床試験を迅速・確実に進め、開始から承認取得までの期間を短縮するために、主として既にヒトでPOC(ProofOfConcept)(注6)が確立され、前臨床試験データと臨床試験データがある化合物を対象としております。これらの化合物の探索は当社独自の探索ネットワークと評価ノウハウを活用して、社内の経験を有した専門スタッフによる第1次スクリーニングにより絞り込みを最初に行います。その後、科学的諮問委員会(ScientificAdvisoryBoard:以下「SAB」といいます)(注7)において、第一線で関連分野における治療の研究に携わる経験豊かな社外専門家の厳密な評価を受けた上で、当社において最終的な導入候補品を決定いたします。
社内外の専門家による、こうした“目利き”のプロセスを経て、当社はがん・血液・自己免疫疾患領域を中心として、製薬企業、バイオベンチャー企業等から主にヒトでPOCが確立された開発品の日本及びアジアにおける開発・販売権を継続的に確保することにより、持続性のある事業を展開しています。そのような、開発の成功確率が高く、事業性のある、魅力的な開発候補品を導入するためには、この“目利き”の力に加え、がん・血液・自己免疫疾患という開発の難度が高い治療領域における当社の開発力について、開発候補品の提供者であるライセンサーから高い評価を得ることも導入が成功するか否かの重要なポイントとなります。そのためには、①適切な治験計画の策定、②治療対象となる適切な治験患者の選定、③その領域における医学専門家と公正な関係を維持・構築できる、専門性の高い優秀な開発スタッフが必要となります。これらの総和が開発力となり、開発を着実に、かつ迅速に実行することが可能となります。がん・血液・自己免疫疾患分野で実績のある大手製薬企業の開発部門で経験を積んだ人材を中心に構築された当社の開発チームが導入から承認申請までを僅か4年間という短期間でなし得た、抗がん剤SyBL-0501での実績は、ライセンサー、パートナー企業、導入候補先企業からも高い評価をいただいています。
なお、開発につきましては、基本的な開発戦略の中枢となる臨床試験のデザイン、海外の試験との連携、医学専門家との調整等は当社が主体となって手掛け、定型的な開発業務は、外部資源であるCRO(ContractResearchOrganization受託臨床試験実施機関)(注8)へ業務委託し、製造についてはライセンス供給元あるいは信頼できる国内外の製薬企業へ業務委託を行います。
販売につきましては、将来的には自社販売までを一貫して行える体制の構築を目指してまいりますが、営業組織の構築については、採算が確保できるまでの期間は自社MR(Medical Representative)(注9)を置かず、当面は製薬企業との提携により行います。一方で、将来の自社販売体制構築に向けて、がん・血液・自己免疫疾患領域に精通した営業戦略・企画の策定及び市場調査を行うマーケティング体制の確立に努めるとともに関係治療領域におけるKOL(Key Opinion Leader)(注10)との良好な関係構築、的確な医療ニーズの把握と市場調査を行い、各種データ、ノウハウの蓄積を図ってまいります。
これらの事業モデルを図示すると以下のようになります。
(注5) 生理活性とは、化学物質が生体の特定の生理的調節機能に対して作用する性質のことです。この生理活性の作用を持つ化学物質を疾病治療に応用したものが医薬品となります。
(注6) POC(Proof of Concept)とは、新薬候補物質の有効性や安全性を臨床で確認し、そのコンセプトの妥当性を検証することを意味します。
(注7) 科学的諮問委員会(SAB:Scientific Advisory Board)とは、世界中から集まる膨大な新薬候補を元に、医療ニーズの高さや収益性などリスクバランスのとれたポートフォリオを、それぞれの専門の立場から意見や提言を交え徹底的に議論した上で、パイプライン戦略を構築する、当社の重要な評価機関です。当社では、SABを年2~3回開催し、世界中から優れた実績と経験をもつ臨床医・基礎科学者の方々に、当社の創薬研究及び新薬開発のアドバイザーとして参画いただいています。
(注8) CRO(Contract Research Organization)とは、製薬企業が、自社で実施する開発業務を遅滞なく進めるために、一部の業務について委託を行う機関です。委託業務の内容としては、治験が実施計画書どおりに遂行されているかをモニタリングするモニター業務や、臨床データを管理するデータ管理業務などがあります。
(注9) MR(Medical Representative)とは、自社医薬品に関する情報の専門家として医療機関を訪問し、医療関係者と面談することにより、医薬品の品質・有効性・安全性等に関する情報の提供・収集・伝達を主な業務とする医療情報担当者をいいます。
(注10)KOL(Key Opinion Leader)とは、担当領域の治療において他の医師に影響力を持つ医師のことをいいます。
(4) 当社の事業戦略
当社は、上記の事業を成功させるために、以下の5つの事業戦略を展開しています。(a) ポストPOC戦略による開発リスクの軽減
当社の導入候補品(注11)は、主として既にヒトでPOCが確認されていることを原則としています。従って、臨床開発ステージが比較的後期段階にある候補品か、既に海外で上市されている製品が対象となります。これらの導入候補品は、既に海外で先行して開発が行われており、新薬としてヒトでの有効性・安全性が確認されていることから、開発リスクを軽減でき、また、先行している海外の治験データを活用することにより日本を含めアジアにおける開発期間を短縮するとともに開発コストを低減し、成功確率を高めることが可能となります。(注11)導入候補品とは、当社の開発候補品として他社より開発権等の権利取得を検討している化合物を指します。
(注12)ブリッジングスタディとは、外国での臨床データを活用するために国内で行われる試験のことをいいます。この国内試験の結果を外国のデータと比較し、同様の傾向があることを確認します。
(b) 高度な探索・評価能力による、優れたパイプラインの構築
当社の新薬サーチエンジンは、製薬企業及びバイオベンチャー企業等との多様なネットワークによって構築され、膨大な化合物の中から、社内の専門家による厳正な評価を経て、有望な導入候補品が抽出されます。これらの導入候補品はさらに、第一線で研究に携わる経験豊かな専門家により構成されるSABに諮られ、そのアドバイスと評価を受けた上で導入候補品を決定しています。この開発品導入決定までの高度なスクリーニングプロセスは、既に海外において有効性・安全性が確認された開発品を導入するポストPOC戦略と相まって開発リスクと開発期間を軽減させることになり、また、候補品が医療の現場において求められるものかどうかの医療ニーズの充足度に対する理解、及び上市後の収益予測の精度向上に貢献しています。(注13)CDAとは、Confidential Disclosure Agreementの略で、秘密保持契約書のことを意味します。
(c) ラボレス・ファブレス戦略による固定費抑制
当社は、一切の研究設備や生産設備を保有していません。研究設備・生産設備ともに固定費発生源の代表格ですが、当社はこれらを一切保有せずに、開発候補品の探索・導入後は、開発品の開発戦略策定と実行等の付加価値の高い業務に専念し、そのほかに必要とされる定型的な開発業務は外注しています。これにより低コストの医薬品開発を実現するとともに、財務戦略の機動性を確保しています。(d) ブルーオーシャン戦略(注14)による高い事業効率の実現
海外で標準治療薬として使用されている製品が日本では使用できない、あるいは海外で新薬として承認された製品が5年近くも遅れて日本で承認される、いわゆるドラッグ・ラグの問題が深刻化しており、がん患者の難民という言葉も生まれています。このドラッグ・ラグは、当社の戦略的治療領域であるがん・血液・自己免疫疾患領域で特に目立っています。抗がん剤の市場自体は大きく、また高齢化にともない現在も拡大傾向にあるものの、抗がん剤の対象疾患は多岐にわたり、がん腫により細分化されているため、各々のがん腫でみると対象患者数がそう多くはない治療領域が数多く存在します。また、これらの領域での抗がん剤の開発には、極めて高い専門性が求められ、開発の難度が高い半面、大手の製薬企業では採算性などの問題から開発に着手しにくいことがその理由のひとつといわれています。しかし、ひとたび、そうした領域において新薬の承認を取得し上市できれば、競合が少ないため、これらの領域で適応拡大・新製品上市を着実に積み上げていくことで、高成長・高収益を実現できるものと考えています。(注14)ブルーオーシャン戦略とは、競合との熾烈な競争により限られたパイを奪い合う市場(レッドオーシャン)を避け、市場を再定義し、競合のいない未開拓な市場(ブルーオーシャン)を創造することで、顧客に高付加価値を与えつつ利潤の最大化を目指す戦略です。
(e) アジア展開戦略
アジア諸国においても経済成長とともに医療ニーズの拡大が予想され、より質の高い治療方法が求められるようになりつつあります。これらの国々においても、日本と同様、急速に高齢化が進んでいる一方で、新薬の開発が滞る傾向が見られ、がん・血液・自己免疫疾患といった領域が空白の治療領域になりつつあり、有効な薬剤が求められています。当社では抗がん剤 SyB L-0501及びSyB L-1101 / SyB C-1101について、日本のみならずアジアの権利も確保しています。2.当社のパイプラインについて
当社は現在開発中のパイプラインとして、SyB L-0501、SyB L-1101、SyB C-1101を有しています。今後も新規開発品を継続的に導入することにより、パイプラインの拡充及びリスク・リターンのバランスのとれたパイプライン・ポートフォリオを構築してまいります。2014年12月31日現在
開発番号 | 薬効分類 | 権利地域 | 適応症 | 開発状況 | 提携先 |
SyB L-0501 | 抗がん剤 | 日本 | 再発・難治性 低悪性度非ホジキンリンパ腫 * | 承認取得 (2010年10月27日) | エーザイ株式会社 (共同開発権・独占的販売権供与) * 当社自社開発 |
再発・難治性 マントル細胞リンパ腫 * | 承認取得 (2010年10月27日) | ||||
再発・難治性 中高悪性度非ホジキンリンパ腫 | 第Ⅱ相臨床試験 終了 | ||||
初回治療 低悪性度非ホジキンリンパ腫 | 第Ⅱ相臨床試験 終了 | ||||
初回治療 マントル細胞リンパ腫 | 第Ⅱ相臨床試験 終了 | ||||
慢性リンパ性白血病 | 第Ⅱ相臨床試験 実施中 | ||||
シンガポール | 低悪性度非ホジキンリンパ腫 | 承認取得 (2010年1月20日) | エーザイ株式会社 (独占的開発権・独占的販売権供与) | ||
慢性リンパ性白血病 | |||||
韓国 | 慢性リンパ性白血病 | 承認取得 (2011年5月31日) | エーザイ株式会社 (独占的開発権・独占的販売権供与) | ||
多発性骨髄腫 | |||||
再発・難治性 低悪性度非ホジキンリンパ腫 | 承認取得 (2014年6月16日) | ||||
中国 | 低悪性度非ホジキンリンパ腫 | 臨床試験実施中 | セファロン社(米国) (独占的開発権・独占的販売権供与) | ||
香港 | 低悪性度非ホジキンリンパ腫 | 承認取得 (2009年12月30日) | |||
慢性リンパ性白血病 | |||||
台湾 | 低悪性度非ホジキンリンパ腫 | 承認取得 (2011年10月18日) | イノファーマックス社(台湾) (独占的開発権・独占的販売権供与) | ||
慢性リンパ性白血病 | |||||
SyB L-1101 | 抗がん剤 (注射剤) | 日本 | 再発・難治性 高リスク骨髄異形成症候群 | 第Ⅰ相臨床試験 実施中 | ― |
韓国 | ― | ― | ― | ||
SyB C-1101 | 抗がん剤 (経口剤) | 日本 | 高リスク骨髄異形成症候群 (アザシチジン併用) | 第Ⅰ相臨床試験 実施中 | ― |
輸血依存性 低リスク骨髄異形成症候群 | |||||
韓国 | ― | ― | ― |
(1) SyB L-0501
SyB L-0501の主成分であるベンダムスチン塩酸塩(一般名)は、ドイツにおいて非ホジキンリンパ腫(注15)、多発性骨髄腫及び慢性リンパ性白血病の治療薬(商品名「リボムスチン®」)として長年使用されている抗がん剤です。この製品の導入の背景としては、第一に、現在、再発・難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫の患者さんには、この分野には優れた薬剤がなく、まさしく当社の企業使命である、空白の治療領域を対象とした薬剤であること、また当社の強みである分野(血液がん)であることが導入の決め手となりました。この製品の世界のライセンスの供給元はアステラス製薬株式会社のドイツ子会社であるアステラス・ドイッチラント GmbHであり、北米においてはセファロン社(米国)が同社よりライセンス供与を受け、既に2008年3月に慢性リンパ性白血病の治療薬として、2008年10月には再発性B細胞性非ホジキンリンパ腫の治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)より承認を受けています。さらに欧州においてはムンディファーマ社(英国)が、その他の地域においてはヤンセン・シラグ社(英国)が、それぞれライセンス供与を受け、独占的開発及び独占的販売権を保有しています。一方、当社はアステラス・ドイッチラント GmbHより日本、中国、韓国、シンガポール及び台湾における独占的開発及び独占的販売権の供与を受けています。日本においては、2010年10月27日に再発・難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫を適応症として製造販売承認され、同年12月10日に発売されました(商品名はトレアキシン®)。また、適応拡大として、再発・難治性の中高悪性度非ホジキンリンパ腫、初回治療の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病の開発を進めていますが、今後更にライフサイクル・マネジメントを推進することにより、ベンダムスチンの事業価値の最大化を図ってまいります。なお、日本市場においては、エーザイと共同開発権・独占的販売権を供与する契約を締結しており、エーザイが本薬剤を販売しています。
次に、当社が権利を有するアジア諸国においては、2009年12月に香港において、低悪性度非ホジキンリンパ腫及び慢性リンパ性白血病の適応症で承認されました。香港においては、独占的開発権・独占的販売権を供与しているセファロン社が販売しています。また、シンガポールにおいては、2010年1月に低悪性度非ホジキンリンパ腫及び慢性リンパ性白血病の適応症で、韓国においては、2011年5月に慢性リンパ性白血病及び多発性骨髄腫の適応症で、2014年6月に再発・難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫の適応症で、それぞれ承認されました。
韓国とシンガポールにおいては、エーザイと独占的開発権・独占的販売権を供与する契約を締結しています。シンガポールにおいては2010年9月より、韓国においては2011年10月より、それぞれエーザイ子会社が本薬剤を販売しています。
その他、中国においては、提携先であるセファロン社によって臨床試験が進められており、台湾では、提携先であるイノファーマックス社(台湾)が2011年10月に低悪性度非ホジキンリンパ腫及び慢性リンパ性白血病の適応症で承認を取得し、2012年2月より販売を開始しています。
(注15)非ホジキンリンパ腫とは、白血球の中のリンパ球ががん化した悪性腫瘍である悪性リンパ腫のうち、ホジキンリンパ腫以外の総称です。日本人の悪性リンパ腫では、大半を非ホジキンリンパ腫が占めています。同疾患に対しては、リツキシマブ(注16)を第一選択薬として抗体療法が施されますが、その無効・再発の症例に対する治療法は現状では確立されていません。
(注16)リツキシマブとは、CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に対し適応を有する抗CD20モノクローナル抗体です。日本においては、全薬工業株式会社が製造・販売元、中外製薬株式会社が発売元としてリツキサン®注10mg/mLを販売しています。
(2) SyB L-1101 / C-1101
SyB L-1101(注射剤)/ SyB C-1101(経口剤)(一般名:rigosertib)は、ユニークなマルチキナーゼ阻害作用(注17)を有する抗がん剤で、現在、オンコノバ社により米国及び欧州において骨髄異形成症候群(MDS)及び固形がんを適応症として開発が進められています。MDSは、近年患者数が増加している血液細胞の悪性腫瘍化の前病態であり、高齢者に多く発病し、白血病に移行する可能性が高い難治性疾患です。特に再発・難治性のMDSに有効な薬剤はないため、未充足の治療領域となっています。当社は、オンコノバ社との間で、本剤の日本及び韓国における独占的開発権及び独占的販売権を取得するライセンス契約を2011年7月に締結し、現在、注射剤で再発・難治性の高リスクMDSを適応症として、さらに、経口剤で高リスクMDS(アザシチジン併用)及び輸血依存性の低リスクMDSを適応症として、それぞれ開発を進めています。注射剤については、2014年2月にオンコノバ社が、再発・難治性の高リスクMDSの患者を対象として、欧米で実施した第Ⅲ相臨床試験(ONTIME試験、注射剤)の結果を発表しました。その中で、主要評価項目の全生存期間においてはBSC(Best Supportive Care)に対し、統計学的に有意な差を示さなかったものの、部分集団解析の結果、低メチル化剤(HMA)による前治療中に病勢の進行した患者または不応であった患者群においては、統計学的に有意な差が認められたとの見解が示されました。
オンコノバ社は、この第Ⅲ相臨床試験の結果を用いた承認申請の可能性について欧米当局と協議を継続した結果、当局から、現在の標準治療である低メチル化剤による治療において効果が得られない患者(HMA不応例)に関しては未充足の医療ニーズが存在しており、速やかに治療法の開発が望まれる領域であるとの認識を確認しました。オンコノバ社は、今後は「HMA不応例」を対象に開発を行う旨を発表しています。
当社は、現在国内で実施中の第Ⅰ相臨床試験を引き続き実施し、今後オンコノバ社が行う欧米での開発計画を踏まえ、国内での開発方針を検討してまいります。
また、経口剤については、オンコノバ社が輸血依存性の低リスクMDSを適応症とする第Ⅱ相臨床試験、及び初回治療の高リスクMDS(アザシチジン併用)を目標効能とする第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を進めています。
当社は、高リスクMDSを目標効能とした国内第Ⅰ相臨床試験を継続して実施し、第Ⅰ相臨床試験終了後、高リスクMDS(アザシチジン併用)を適応症とした開発、及び輸血依存性の低リスクMDSを適応症とした開発をそれぞれ行う予定です。これら2つを適応症とした開発は、国際共同試験への参加を検討しています。
今後当社は、MDS以外の適応についても、オンコノバ社における開発の進捗を見据えながら開発を検討してまいります。本剤の注射剤、経口剤の開発を適応に応じて使い分けることにより、患者さんにより使いやすい、そしてコンプライアンスを考えた治療方法の開発を進めてまいります。
(注17)マルチキナーゼ阻害作用とは、がん細胞の増殖、浸潤及び転移に関与する複数のキナーゼを阻害することによりがん細胞を死に至らしめる作用をいいます。
(参考) 医薬品研究開発の一般的な進行について
医薬品研究開発のプロセスは以下のとおりであり、通常、(a)から(f)までに10年から17年程度かかるといわれています。
(医薬品研究開発のプロセス)
(a) 基礎研究
(b) 前臨床試験(非臨床試験)
(c) 臨床試験(治験)
(d) 申請及び承認
(e) 薬価申請・収載
(f) 上市販売
(g) 製造販売後調査
(a) 基礎研究
新薬のもとになる候補物質を探し出すプロセスです。化学物質、微生物、遺伝子などの研究から、将来薬となる可能性がある新しい物質(成分)を発見したり、化学的に作り出すための研究であり、一般的には研究所などで実施されます。
(b) 前臨床試験(非臨床試験)
(a)で特定された薬剤候補化合物を対象に、生物学的試験として、動物や培養細胞を用いて安全性や有効性について調べる、いわゆる動物に対して実施する試験です。また、化学的試験として、製造方法、原薬及び製剤の規格・安定性を調べるなどの試験があります。(c) 臨床試験(治験)
前臨床試験の結果、有効性及び安全性の観点から有用な医薬品になり得る可能性が認められた場合、十分な検討の上で、実際にヒトを対象とした有効性及び安全性の検証を行う、臨床試験(治験)が行われます。治験はさらに3段階にわかれ、それぞれ参加者の同意を得た上で行われますが、その内容は以下のとおりです。
① 第Ⅰ相臨床試験
第Ⅰ相は、治療効果を見ることを目的とせず、比較的少数の健康な志願者を対象に主に副作用と安全性を確認する試験です。
② 第Ⅱ相臨床試験
第Ⅱ相は、通常、患者における治療効果の探索を主な目的とする試験を開始する段階です。少数の患者さんを対象に、有効性と安全な投薬量や投薬方法を確認する試験です。
③ 第Ⅲ相臨床試験
第Ⅲ相は、第Ⅱ相よりも投与患者数をさらに増やし、治療効果の既存薬剤との比較データ、副作用のデータ等を収集することによって、有効性と安全性について検証し、新薬として承認されるための適切な根拠となるデータを得ることを目的とした試験です。
(d) 申請及び承認
治験で有効性や安全性などが証明された治験薬について、新薬承認申請書類を作成し、厚生労働省に製造販売承認の申請を行います。数段階の審査を受け、承認されて初めて「薬」として市場に出ることになります。ちなみに基礎研究段階で新薬候補とされた物質(成分)の内、製造販売承認を得ることができるものはわずか2万分の1から2万5千分の1といわれております。
(e) 薬価申請・収載
新薬の価格(以下「薬価」)を厚生労働省へ申請し、開発コスト、類似薬や諸外国の価格を参考に価格の承認を受けます。これを薬価収載といいます。
(f) 上市販売
薬価収載が完了し、実際に薬を販売できる状況になることを上市といい、この段階から販売が可能になります。
(g) 製造販売後調査
販売を開始した後に、病院などの医療機関でさらに多くの患者さんに投与された結果を元に、臨床開発段階では発見できなかった副作用や適正使用情報などの収集が行われ、厚生労働省に報告を行います。
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