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有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S1004BR3

有価証券報告書抜粋 カルナバイオサイエンス株式会社 事業の内容 (2014年12月期)


沿革メニュー関係会社の状況


(1) 事業の背景

①キナーゼへの着目
人がガン疾患、リウマチなどの免疫炎症疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患になると、体内では細胞の異常な増殖、分化が起こっています。この原因と考えられている分子のひとつに、細胞内外の情報伝達をつかさどるキナーゼ(*)と呼ばれる酵素があります。当社は、このキナーゼに焦点をあてて研究開発を行っております。

②キナーゼ阻害薬の活躍
ガン、炎症、リウマチなどの異常な細胞の増殖を伴う疾患では、それら細胞のなかに存在する特定のキナーゼ(*)がそれら細胞の異常な増殖や分裂を引き起こしていることについて明らかになっていました。しかしながら、キナーゼは細胞の生命機能において大変重要な働きを担っているため、キナーゼを阻害する薬は副作用が強いのではないかと懸念されていました。
その流れを変えたのが、2001年に米国で販売が開始されたBCR-ABLチロシンキナーゼを阻害する慢性骨髄性白血病治療薬のGlivec®(一般名:Imatinib mesylate、製造販売元:Novartis AG)の成功です。この成功により、特定のキナーゼ(*)の働きのみを抑制する、安全で有効な分子標的治療薬(*)の研究が製薬企業で活発に進められるようになり、その後、Tarceva®(一般名:Erlotinib 、製造販売元:OSI Pharmaceutical Inc.・Genentech, Inc.、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)、Nexavar®(一般名:Sorafenib tosylate、製造販売元: Bayer AG・Onyx Pharmaceuticals,Inc. 、マルチターゲット型キナーゼ阻害薬)、SUTENT®(一般名:Sunitinib malate、製造発売元:Pfizer Inc.、マルチターゲット型キナーゼ阻害薬)、SPRYCEL®(一般名:Dasatinib、製造発売元:Bristol-Myers Squibb, Co. 、BCR-ABL及びSRCファミリーチロシンキナーゼのデュアル阻害薬)及びALK融合遺伝子を標的としたXALKORI®(一般名:Crizotinib、製造発売元:Pfizer Inc. )と、次々に大型のキナーゼ阻害薬(*)が誕生し、多くの患者に届けられています。最近では、ガン疾患のみならず免疫炎症疾患を対象としたXELJANZ®(一般名:tofacitinib、製造発売元:Pfizer Inc. )やIMBRUVICA™(一般名:ibrutinib、製造発売元:Janssen Pharmaceuticals, Inc. )が、米国FDA(U.S. Food and Drug Administration)により承認されるなど、近年の相次ぐキナーゼ阻害剤の上市(*)は、分子標的薬(*)の可能性を飛躍的に高めるものといえます。
これらの分子標的薬(*)は特定の疾患において特異的に発現している特定分子を限定的に阻害するため、効果的でかつ副作用が少ないという特徴をもっており、加えて診断薬による投薬前の事前検査が、より高い安全性と治療効果をもたらしています。現在、多数のキナーゼ阻害薬(*)が世界中の製薬企業やバイオベンチャーで研究開発され、臨床試験段階に入っております。

(注)図中のATP(*)については、「第4 提出会社の状況 6 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾の用語解説をご参照願います。

③低分子経口薬(分子標的薬)の社会的価値
細胞内にあるキナーゼ(*)という酵素をターゲットとするキナーゼ阻害薬(*)は、従来の治療薬と比較して治療効果が高く、副作用が少ないと考えられていることから、代表的な分子標的薬(*)として、世界各国の大手製薬企業や研究機関等で研究開発が進められています。現在、世の中に上市(*)され、医薬品として認可され販売されている分子標的薬には、大きく分けて2種類あります。その一つが、注射により患者に投与される抗体医薬(高分子)であり、もう一つが、当社においても創薬研究(*)を行っている経口の低分子阻害剤(飲み薬)であります。近年、バイオ医薬品として抗体医薬が注目を集めつつありますが、主に細胞で培養し製造されるため複雑な製造工程を有しており、比較的薬価が高いものが多く、医療経済を圧迫する一因ともなっています。また注射剤であることから、患者は投与を受けるために通院を要し、肉体的な負担が比較的大きい薬といえます。他方、当社が創薬研究している経口薬である低分子のキナーゼ阻害薬は、医師による処方により患者自身が任意の場所で飲み薬として服用できることから身体的負担が少ないだけでなく、化学合成により比較的安価に製造されるため薬価を低く抑えることができ、医療経済上においても優しいものであることから、開発途上国などを含む世界中の患者に広く提供可能な薬といえます。

(2) 事業内容

当社グループは、当社(カルナバイオサイエンス株式会社)及び連結子会社(CarnaBio USA, Inc.及び株式会社ProbeX)により構成されており、「創薬支援事業」及び「創薬事業」という2つの事業を、主たる事業として手掛けております。
当社グループの事業内容及び当社と子会社の当該事業における位置づけは次のとおりであります。

区分事業内容主要な会社
創薬支援事業創薬支援事業は、製薬企業や大学等の研究機関で実施される創薬研究(*)を支援するための製品・サービスを販売、提供することによって収入を獲得する事業です。具体的には、製品として、キナーゼ阻害薬(*)の創薬研究において用いられるキナーゼタンパク質(*)、キナーゼ(*)のアッセイ(*)キットを販売しております。さらに、受託サービスとして製薬企業等が研究開発した医薬品候補化合物のキナーゼに係るプロファイリング(*)及びスクリーニング(*)等の実施やキナーゼに係るアッセイ開発、並びに当社及び当社の協力会社が開発したセルベースアッセイ(*)サービスの提供等を行っております。また、株式会社ProbeXでは相補型スプリットルシフェラーゼアッセイ技術(*)に基づく安定発現細胞株の研究開発及び提供等を行っております。当社、
CarnaBio USA,
Inc.、
株式会社ProbeX
創薬事業主に、当社の創薬研究(*)の成果物である知的財産を活用した、ライセンスの導出に係る一時金収入、マイルストーン収入及びロイヤリティ収入、並びに共同研究等に係る収入等を獲得する事業です。自社単独及び他社・他機関と共同でキナーゼ阻害薬(*)の基礎研究、創薬研究および開発を行っております。当社

(注) セグメントは事業の区分と同一であります。

製薬企業が新薬を研究開発し、その有効性・安全性を確かめて医薬品としてわが国の厚生労働省や米国FDA等に承認申請を行い、承認を得るまでの過程を「創薬」といいます。当社グループは、この「創薬」の中でも、特にキナーゼ阻害薬(*)を創製するための基盤となる技術、いわゆる「創薬基盤技術」をベースに、「創薬支援事業」及び「創薬事業」を展開していることが特徴です。


当社グループの事業内容の系統図は以下の通りです。



①創薬支援事業
当社グループは製薬企業や研究機関に対して、キナーゼ阻害薬(*)の創薬研究(*)プロセスにおいて基盤となる技術、いわゆる「創薬基盤技術」を提供し、創薬活動を支援する事業として創薬支援事業を展開しております。特に、創薬研究プロセスの初期から前臨床試験の手前までの研究段階(新薬候補となる新規化合物の創製及び絞り込み)に焦点を当て、キナーゼ阻害薬の研究開発に係るコスト圧縮や期間短縮などの効率化に寄与する製品及びサービスを提供することにより、新薬の創製に貢献しています。さらに、連結子会社である株式会社ProbeXにおいて、相補型スプリットルシフェラーゼアッセイ技術(*)を応用した細胞を用いたアッセイ(*)開発および評価サービスを提供しております。

キナーゼ阻害薬(*)等の新薬の研究開発を行うプロセスは、1)創薬ターゲットの同定、2)スクリーニング(*)及びリード化合物(*)の創出、3)リード化合物の最適化(*)といった段階を経て、前臨床試験及びその後の臨床試験へと進みますが、当社グループの創薬支援事業においては、前述の1)、2)、3)において必須となる以下の製品及びサービスを提供しております。

a.キナーゼタンパク質(*)
b.アッセイ(*)開発
c.プロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービス
d.セルベースアッセイ(*)サービス
e.その他キナーゼ関連サービス(X線結晶構造解析(*)サービス、リード化合物(*)探索サービス等)
f.相補型スプリットルシフェラーゼアッセイ技術(*)に基づく安定発現細胞株

製薬企業が創薬競争に勝つためには、他社に先駆けて新薬を開発する必要があります。製薬企業が創薬のスピードアップを図るためには積極的に外部のリソースを活用することが重要であるといわれており、アッセイ(*)系構築、プロファイリング(*)・スクリーニング(*)、X線結晶構造解析(*)並びにセルベースアッセイ(*)等をアウトソースする製薬企業等の需要は拡大基調にあると予想しております。






a.キナーゼタンパク質
当社グループは、2014年12月末時点で345種類418製品のキナーゼタンパク質(*)(活性ミュータントキナーゼ、非活性キナーゼ及び非活性ミュータントキナーゼを除く)を製品化することに成功し、主に製薬企業向けに販売しております。具体的には、スクリーニング(*)用グレード及び結晶化用の高純度グレードキナーゼタンパク質を取り揃えており、少量(5㎍)から大量(mgレベル)まで幅広く供給できる体制を整えています。さらに、表面プラズモン共鳴 (SPR)(*)やバイオレイヤー干渉法 (BLI)(*)といった物質間の相互作用を評価する系(解析機器)で利用可能なビオチン化キナーゼタンパク質についても62種類を販売しております。
2014年12月末現在、78種125製品のチロシンキナーゼ(うち44製品は活性ミュータントキナーゼ等)、262種類288製品のセリン/スレオニンキナーゼ(うち7製品は活性ミュータントキナーゼ)及び5種類のリピッド(脂質)キナーゼ、並びに8種類の非活性キナーゼ及び7種類の非活性ミュータントキナーゼについて、キナーゼタンパク質(*)の販売を行っております。
当社グループは、顧客ニーズに合致した高品質のキナーゼタンパク質(*)を製造・販売することを方針としております。

b.アッセイ開発
当社グループは、遺伝子クローニング(*)の技術、活性のある/ないキナーゼ(*)を発現し抽出する技術、基質(*)探索及びアッセイ(*)系構築に関する各種ノウハウを保有しています。2003年にヒトゲノムが解読され、これによって簡単にヒトの遺伝子を取れるようになったと一般的には考えられますが、遺伝子を正しい配列で取得することは相当な経験とノウハウが必要となります。また高い活性を有するキナーゼを取得するには、組み換え(リコンビナント)タンパク質(*)の構造、発現細胞の選択及びその培養方法、キナーゼの高純度精製技術などのノウハウが必要です。キナーゼの活性を測るために必要な基質(*)についても、当社が保有する基質ライブラリーを用い、個々のキナーゼに対応する基質を探索したデータが蓄積されています。
これらにより2014年12月末時点で327製品のキナーゼ(*)のアッセイキットの開発に成功し、当社で製造したキナーゼタンパク質(*)、それに適合した基質(*)、アッセイバッファー(希釈液)及びプロトコル(手順書)を一式にしたキナーゼ活性測定キットとして販売をおこなっております。その他のキナーゼについても顧客より要望があれば、カスタムでアッセイ(*)系の構築を行うサービスを提供しています。

c-1.プロファイリングサービス
リード化合物(*)の最適化の段階では、副作用の少ない新薬を創製するために、毒性試験等を実施し、標的とする特定のキナーゼ(*)のみを選択的に阻害する化合物(*)を見つけ出すことが重要となります。そのためには、より多くのキナーゼに対し網羅的かつ迅速に阻害すべきキナーゼと阻害すべきでないキナーゼを見極める測定方法として、プロファイリング(*)が最適な方法と考えられます。
当社グループは518種類あるといわれているキナーゼタンパク質(*)の多くを保有しており、2014年12月末時点で315製品のキナーゼ(*)についてプロファイリング(*)が可能です。そのうち172製品のキナーゼについては、より生体内に近いATP(*)濃度である1mMでのプロファイリングが可能です。これにより、顧客である製薬企業等は特定のキナーゼのみを阻害する選択性の高い化合物(*)を見つけることが可能となります。顧客のニーズに合わせて、顧客がキナーゼの種類を選ぶ手間を省くため、当社グループはQuickScout®パネル(MAPキナーゼ(*)カスケードのキナーゼ31種類をあらかじめ選択したプロファイリングパネル等4種類のプロファイリングパネル)を用意しています。顧客から化合物(*)をお預かりし、キナーゼに対する阻害率の測定、50%阻害濃度(IC50値)の測定を行い、結果を報告するサービス等を展開しております。当社グループのサービスを利用することで、顧客は網羅的なプロファイリングが可能となり、顧客にとって副作用の少ない新薬開発のための時間とコストを削減することが可能です。
さらに、強い阻害効果を示すキナーゼ阻害剤(*)の中には、キナーゼ(*)への結合が遅いもの(slow binder)もあることが知られています。このような化合物を評価する際、アッセイ(*)時のキナーゼ反応の前に化合物と対象キナーゼとのプレインキュベーション(事前にキナーゼと化合物を反応させること)(*)を実施することにより、本来の阻害活性を算出することが可能となります。顧客からの要望に基づき、Mobility Shift Assay(*)で室温でのキナーゼ活性の安定性が確認されたキナーゼ166製品について、サービスを開始しました。通常の測定では適正な評価が難しいslow binderの評価に有益なサービスです。
当社グループは、プロファイリング(*)及び後述のスクリーニング(*)を行うためにCaliper Life Sciences, Inc.(米国、以下「キャリパーライフサイエンス社」という)のアッセイ(*)機器(LabChip™ 3000)およびPerkinElmer, Inc.(米国、以下「パーキンエルマー社」という)のアッセイ(*)機器(LabChip® EZ Reader)を使用しております。

c-2.スクリーニングサービス
スクリーニング(*)とは、顧客から化合物(*)を預かり、当社が構築したアッセイ(*)系を用いて、特定のキナーゼ(*)に対して、阻害活性があるかどうかなど特定の性質を有するかについて一度に大量に評価し、結果を報告するサービスです。特に、数十万化合物の中からヒット化合物(*)を探索する過程で用いられる大規模アッセイ(ハイスループットスクリーニング(HTS)(*))を効率的に実施するためには、試薬を混ぜるだけで反応が検出できるホモジニアス(*)なアッセイ系構築のノウハウが必要です。
当社グループは、上記c-1.に記載の通り、2014年12月末時点で、315製品のキナーゼ(*)のアッセイ(*)系の構築に成功しており、これらアッセイ系を用いて顧客から預かった化合物(*)のキナーゼに対するスクリーニング(*)結果を報告するスクリーニングサービスを提供しております。また、当社のアッセイ系は環境への負荷を考慮して、ホモジニアス(*)で且つ放射性同位体(*)を使わないアッセイ系を複数のプラットフォーム(*)(Mobility shift assay法(*)、TR-FRET法(*)、IMAP™法(*)等)で構築し、スクリーニングを実施しております。

d.セルベースアッセイサービス
従来のプロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービスは、バイオテクノロジー技術を駆使して、細胞内から抽出したキナーゼ(*)という酵素の活性(リン酸化(*))を、キナーゼ阻害薬(*)がどのくらい阻害するかを確認するためのものでありますが、セルベースアッセイ(*)サービスは、細胞レベルでのアッセイ(*)であり、細胞内に存在するキナーゼが、キナーゼ阻害薬によりどれくらい阻害するかを確認する評価系であります。より実際の生体内の環境に近いレベルで薬剤の効果を確認することができます。
当社グループは、2010年9月にAdvanced Cellular Dynamics(米国、ACD社)と販売代理店契約を締結し、同社が開発したセルベースチロシンキナーゼアッセイパネルを用いたプロファイリング(*)サービス受託及びセルライン販売の代理店業務を行っております。さらに、2012年7月より、独立行政法人国立がん研究センターより技術移管を受けた、抗リン酸化タンパク質抗体を用いて細胞内のキナーゼ(*)を含むタンパク質のリン酸化(*)を包括的、系統的に解析することができるプロテオーム解析技術であるRPPAサービス(*)を提供しております。加えて、同年同月にCell Assay Innovations(米国、CAI社)と販売代理店契約を締結し、同社が開発した抗リン酸化抗体を用いて細胞内の特異的なリン酸化(*)の状態を確認することができるセルベースアッセイ(*)サービスであるClariCELL™ を提供しております。また、2012年11月には、Netherlands Translational Research Center B.V.(オランダ、NTRC社)と販売代理店契約を締結し、同社が開発したガン細胞パネルを用いた薬剤評価サービスであるOncolines™ や同サービスの結果に基づき薬剤併用効果を解析するサービスであるSynergyFinder™ を提供しております。
これら当社グループのオンリーワン技術に基づいたセルベースアッセイ(*)サービスは、今後キナーゼ阻害薬(*)の研究が深化するに連れて、より安価に、より迅速に、細胞レベルにおいてリン酸化(*)シグナルの状態を解析したいという顧客要望に基づくサービス群として、認知度が高まってまいりました。

e.その他キナーゼ関連サービス
当社グループは2009年6月にCRELUX GmbH(ドイツ、クレラックス社)と販売代理店契約を締結し、同社が行うX線結晶構造解析(*)サービスや結晶化グレードタンパク質の販売、NTRC社が行うプロファイリング(*)等の試験データをもとに化合物(*)の選択性をより正確に順位づけする解析サービス(EntropySelect™)等について、当社グループを通じ顧客に提供しております。

f.ProbeX社提供の安定発現細胞株
当社の連結子会社である株式会社ProbeXにおいて、相補型スプリットルシフェラーゼアッセイ技術(*)を用いたGPCR(*)阻害薬の研究に有効なGPCR安定発現細胞株等を開発し販売しております。今後、タンパク質間相互作用(*)の評価等にも応用可能な技術です。

②創薬事業
当社の創薬事業は、キナーゼ阻害薬(*)に係る創薬研究(*)を行い、その後の開発段階である前臨床試験ならびに臨床試験を行うとともに、創薬に係る研究開発成果を製薬企業等へ導出(ライセンスアウト)し、その対価として収益を獲得するというビジネスモデルに基づき事業を行っております。この対価には、製薬企業等へ導出した時点で獲得する一時金、その後の研究開発の進展に伴うマイルストーン収入、さらに新薬の上市後の売上に係るロイヤリティ収入があります。米国の創薬型バイオベンチャー企業が多く採用しているこのタイプのビジネスモデルは、創薬全体の研究開発コストを1社において負担するリスクを回避するとともに、創薬研究段階ないしは開発の初期ステージにおいて、画期的な新薬候補化合物を製薬企業等へ導出することで、創薬研究のオープンイノベーションを先導するものであります。

a.キナーゼ阻害薬の研究開発
当社は、創薬事業において、キナーゼ阻害薬(*)の創製に係る研究開発を行っております。研究開発テーマは、特にアンメット・メディカル・ニーズと呼ばれる、いまだ画期的な治療方法が確立していない疾患を中心に研究開発テーマを選定しており、特にガン、免疫炎症疾患を重点疾患領域として、研究開発を行っております。研究開発の体制は、自社単独で行う研究開発プロジェクトを実施するとともに、国内外の製薬企業等、大学及び公的研究機関とキナーゼ阻害薬(*)の共同研究開発を行っております。当社グループは、創薬事業において、初期の研究開発ステージ、いわば臨床試験の前期第2相(フェーズⅡa)までの研究開発を行うことを創薬の基本方針としており、コスト負担の大きい後期第2相(フェーズⅡb)以降の開発は手掛けず、それ以前のいずれかの段階で製薬企業等へ導出(ライセンスアウト)するビジネスモデルを基本としています。当社グループは、自社及び共同研究開発で手掛けた新薬候補化合物の知的財産権を製薬企業等に導出することによって、ライセンス契約締結時における契約一時金、前臨床試験や臨床試験等の各ステージを開始/完了した時、承認申請時、承認取得時等にライセンス契約に基づくマイルストーン収入、並びに新薬の上市(*)後にその売上高等に対する一定の割合をロイヤリティー収入として受け取る収益モデルを想定しております。

なお、当社グループの創薬事業における進捗としましては、これまでの研究開発活動によって、3テーマについて前臨床試験段階にあり、その他の複数のテーマについてもリード化合物(*)の最適段階にあります。

b.新薬の研究開発プロセスについて



※ 当社グループの創薬事業は、上表の実線部分までのステージを手掛けることを基本方針としております。点線部以降の各ステージは、導出先の製薬企業等が手がけることになります。

(a) 創薬研究
創薬研究(*)の初期段階では、疾患に関連すると想定される遺伝子やタンパク質を標的(ターゲット)として研究を実施し、薬剤を用いて疾患を改善、緩和することが可能かどうかを探求する基礎研究を行います。基礎研究段階で創薬のターゲットとなりうることが確認されると、そのターゲットに対するハイスループットスクリーニング(HTS)(*)を実施し、一定の基準を満たしたヒット化合物(*)の抽出を行います。そのヒット化合物の中からさらに医薬品になる可能性のある構造を持ったリード化合物(*)の創出研究をします。見出されたリード化合物は、試験管内でのターゲットに対する薬効や疾患モデル動物の治療効果を評価する薬理試験や毒性試験を通して、化合物構造を最適化していきます。このとき、経口吸収性、体内での安定性、蓄積性などを評価する薬物動態研究も実施し、ターゲットへの効果だけでなく薬としての特性も同時に高めていきます。そして、前臨床試験段階に進めるべき化合物を特定します。

(b)前臨床試験
臨床試験を開始する前に、医薬品候補化合物を動物に投与して薬効と安全性を確認する必要があります。医薬品の承認申請に必要な前臨床試験は、薬理試験、薬物動態試験、毒性試験の3種類に大別されます。薬理試験では、創薬研究(*)で行った薬理研究をさらに詳細に検討する薬効薬理試験のほか、厚生労働省のガイドラインに沿って安全性を評価する副次的薬理(一般薬理)・安全性薬理試験を実施します。薬物動態試験、毒性試験も厚生労働省のガイドラインに準拠した形で実施され、医薬品候補化合物がヒトに投与される臨床試験に進められるか否かが判断されます。


(c)臨床試験
前臨床試験で薬効と安全性が認められた薬剤は、実際にヒトに投与され、主作用と副作用が検討・評価されます。
第1相試験(フェーズⅠ)は、原則として同意を得た少数の健康な男性に薬剤を投与し、まず薬効よりも安全性や薬物の体内動態を確認します。
第2相試験は、前期(フェーズⅡa)及び後期(フェーズⅡb)に分かれ、前期では同意を得た少数の患者に薬剤を投与し、どのような病気や病態に効果があるかを調べます。当社ではここまでの何れかの段階までの研究開発を行い、製薬企業等へ導出する方針です。後期では、同意を得た少数の患者に薬剤を投与し、投与量や投与方法の違いによる効果の比較検討も行います。
第3相試験(フェーズⅢ)は、大規模臨床試験とも呼ばれ、数百人から数千人の患者に薬剤を投与し、既存薬と比較して薬剤の効能と副作用を詳細に検討します。

③同一の創薬基盤技術で顧客の創薬研究の支援と自社の創薬研究を行うことについて
当社グループの創薬支援事業は、当社の創薬事業における創薬研究(*)により見出されたキナーゼ阻害剤(*)の創製に係るさまざまな技術、知見、ノウハウの集大成である「創薬基盤技術」を駆使して事業を行っています。この「創薬基盤技術」は、世界最大クラスのキナーゼコレクション、数万種類のキナーゼフォーカス化合物ライブラリー、高品質な各種アッセイ(*)プラットフォーム(*)及びキナーゼプロファイリングパネル等、さまざまなキナーゼ(*)に係る創薬技術を含んでおり、長年の創薬研究において培われた当社の重要な財産であります。
この「創薬基盤技術」を当社の創薬研究(*)のみならず、世界の製薬企業や研究機関に対して提供することにより、画期的な新薬をひとつでもより早く世に送り届ける一翼を担いたいとの認識から、創薬事業と同時に創薬支援事業を推進しています。同時に、創薬支援事業で獲得した資金を創薬事業に融通することにより、創薬研究のスピード化を図っています。
しかしながら、一つの会社の中に自社の知的財産を創造する機能と、他社の知的財産の創造を支援する機能が共存していることは、顧客に対して顧客情報の秘匿性の確保についての懸念を与えかねません。
当社グループはプロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービスの委託契約において、顧客からの委託を受けて行ったプロファイリング・スクリーニングの結果を用いた顧客の研究成果について、全て顧客に帰属する旨の契約を締結すると共に、顧客のデータを暗号化する等、社内において全ての顧客情報の秘匿性に万全を期しており、情報セキュリティ及び管理体制の向上にも常に取り組んでおります。

(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 6 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。

沿革関係会社の状況


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