有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100ETU6
株式会社PKSHA Technology 事業の内容 (2018年9月期)
当社グループは、「未来のソフトウエアを形にする」をコーポレートミッションに掲げ、社内で開発したアルゴリズムモジュール(後述「(1)当社グループが提供するアルゴリズムモジュールについて」をご参照ください)を用いたアルゴリズムライセンス事業を展開しております。
当社は、下記の4つのステップでデジタル技術が社会に普及していくと考えており、知的な処理を行う未来のソフ
トウエアが社会に普及していくと考えております。技術的には、2012年の機械学習技術の研究分野で起こった技術
革新すなわち「深層学習技術」の登場を機に、インターネットに接続されたソフトウエアが、アルゴリズムに置き換
わりはじめており、ソフトウエアが以前よりも知的な処理を行うようになってきていると考えております。現在はア
ルゴリズムの時代の黎明期にあると考えており、今後、より知的な処理を行うソフトウエアが増加し社会に普及して
いくと考えております。
また、社会的背景からも、アルゴリズムを用いたソフトウエアのニーズが高まっていると考えております。
第一に、国内においては、労働人口が減少するなか、人が行っている業務をソフトウエアに置き換えることで、労働生産性を維持・向上させる社会的要請が高まっております。
第二に、アルゴリズムが学習するデータ量も増加すると考えられ、様々なIoT端末から収集されるデータはアルゴリ
ズムソフトウエアに入力され、アルゴリズムの品質は中長期に高まり続ける構造を持ち、社会のアルゴリズムソフト
ウエアの活用ニーズはより一層高まると考えております。
当社グループは、アルゴリズムライセンス事業の単一セグメントであるため、セグメント情報は記載しておりません。
当社グループは技術分野としては、機械学習技術・自然言語処理技術・深層学習技術を中心にアルゴリズムモジュールを複数開発しております。アルゴリズムモジュールは、様々なソフトウエア及びハードウエア上に組み込まれ、動作いたします。当社グループは、それらの提供を通じて、顧客企業の業務の半自動化・自動化を通じた業務効率化、またはサービス・製品の付加価値の向上、サービス自体のモデル革新の実現を支援しております。
アルゴリズムモジュールの販売形態は2つあり、一つは、顧客企業が保有するソフトウエアもしくはハードウエア
に組み込むケース(以下、ケースA)であります。もう一つは、自社のソフトウエアに組み込み、アルゴリズムソフ
トウエアとして販売するケース(以下、ケースB)であります。なお、収益構造は、ケースA、ケースBのどちらの
場合でも同様に、初期設定時に受領するイニシャルフィーと、設定後月額で受領するライセンスフィーの2つから構
成されております。
2つの販売形態の売上構成は下記の通りであります。
構成 | 第5期 | 第6期 | ||
金額(千円) | 前年同期比(%) | 金額(千円) | 前年同期比(%) | |
ケースA: アルゴリズムモジュール | 529,008 | 135.8 | 724,121 | 136.9 |
ケースB: アルゴリズムソフトウエア | 405,048 | 577.3 | 779,387 | 192.4 |
合計 | 934,057 | 203.2 | 1,503,509 | 161.0 |
[アルゴリズムモジュールの内容と販売形態]
(1) 当社グループが提供するアルゴリズムモジュールについて
当社グループは技術分野としては、機械学習技術・自然言語処理技術・深層学習技術を中心にアルゴリズムモジュールを複数開発しております。当社の主なアルゴリズムモジュールは以下のとおりであります。アルゴリズムモジュール名 | 機能 | 利用用途(例) |
テキスト理解モジュール | テキストデータの意味理解 例:テキスト内容を理解、テキストを分 類・類型化 | 社内文書からの特定文書の抽出 コールセンターログの分析・見える化 |
対話モジュール | 自然言語処理技術での対話・応答の制御 例:最適な対話シナリオを選択、音声認 識への拡張も可能 | チャット上の自動対話 ロボットとの自動対話 |
画像/映像解析モジュール | 画像・映像データ内の物体認識 例:カメラ等のイメージングデバイスの 知能化技術 | 店頭カメラの自動認識機能 |
推薦モジュール | レコメンデーションによる情報出しわけ 例:ユーザーの好みに合わせてコンテン ツを推薦 | ECサイト上の商品推薦 ウエブサイト上の情報推薦 |
予測モジュール | 時系列情報に対して未来予測を行う 例:過去の行動履歴からの行動予測 | ECサイトのユーザーの購買予測 金融機関での与信スコアの構築 |
異常検知モジュール | 異常値の検知 例:機器の故障検知、不適切コンテンツ の検知 | 工場の検品処理の自動化・半自動化 |
強化学習モジュール | 行動履歴から学習を行う 例:行動履歴を解析し行動を選択する | 顧客シナリオの自動・半自動選択 行動選択の自動・半自動化 |
アルゴリズムモジュールの利用ケースA、つまり、アルゴリズムモジュールを顧客企業のソフトウエアまたはハ
ードウエアに組み込みご利用いただくケースにおいては、初期設定を行った後、当社グループのアルゴリズムモジ
ュールの利用が開始され、業務の一部に組み込まれることとなります。本ケースにおいて当社グループのアルゴリ
ズムモジュールを利用する顧客企業は、金融、電力、広告、卸売、小売、情報通信、製造、サービスなど多岐に渡
っております。
(2) 当社グループが提供するアルゴリズムソフトウエアについて
当社グループはアルゴリズムモジュールを活用した複数のアルゴリズムソフトウエアを開発しており、各業界に付加価値を創造するために、アルゴリズムソフトウエアの販売(ケースB)という形態でサービス提供を行っております。なお、当社グループの代表的なソフトウエアは次のとおりであります。① CELLOR(セラー)
「CELLOR」は、機械学習技術を用いたCRMソリューションであります。小売業やサービス業など、優良顧客の離反防止や新規顧客のロイヤル化を目的としたCRMソリューションを提供しております。データ分析に多くの時間やコストをかけていたものについて、自動化または半自動化することによりデータ分析の時間やコストが削減できるのみならず、分析結果を基に、ユーザーに広告等を配信することにより優良顧客の離反防止や新規顧客のロイヤル化を行っております。
② HRUS(ホルス)
「HRUS」(旧PKSHA Vertical Visionを2018年10月に改称)は、業界や使途の特化型の深層学習技術を用い
た画像・動画像の識別エンジンであり、企業向けに販売を行っております。今後、様々な業界・領域にカメラを中
心としたイメージング機器が普及していくと想定されておりますが、それらの様々なイメージング機器と連携して
動作し、物体検知や物体認識を実現することでイメージング機器のサービス品質を高め、サービスモデルの変革を
支援します。なお、業界や使途を特化することにより、汎用型の画像・動画像の識別エンジンに比べて、特定の業
界や使途において、高い画像・動画像の識別精度の実現を目指しております。
③ BEDORE(ベドア)
連結子会社である株式会社BEDOREにて提供している「BEDORE」は、チャット対応・FAQ対応の自動化ソリューションであります。当社グループが保有する業界固有表現辞書(日本語)と、システム構成を業界別に汎用的にすることで、これまで人手で行われていた接客・コールセンター・FAQ対応の自動化・半自動化を実現しております。
このように、各業界が持つニーズに対し、アルゴリズムを用いた自動化や高品質化が実現できる領域に対しての解決方法を各アルゴリズムモジュールの機能を「組み合わせる」ことで、効果的・効率的に実現することを目指しております。
(3) アルゴリズムライセンス事業の技術的な特徴
当社グループが開発しているアルゴリズムには主に機械学習技術が用いられており、当社の事業の特徴を説明するために機械学習技術の内容を以下のとおりご説明いたします。機械学習技術とは、データを蓄積・活用しアルゴリズムの性能を向上させる技法のことであり、デジタルデータが急増している情報化社会において重要性が急速に高まっております。これまで、ソフトウエアはソフトウエア技術者が一行一行プログラミングを行うことにより作られるのが一般的でしたが、機械学習技術を用いると、データを活用して人が記述することが困難な複雑なソフトウエアプログラムをコンピューターにより自動的に記述することができます。
特に、画像認識、言語解析、音声認識などの人工知能技術分野のソフトウエアは、ソフトウエア技術者がプログラミングを行うことで地道に精度向上を図ってきた長い歴史がありますが、2012年に機械学習技術の研究分野で起こった技術革新以降、ソフトウエア技術者はアルゴリズムの大枠のみを記述すればよく、後は大規模なデータをソフトウエアに入力し学習させることで多くの変数の値が最適化されていくことを通じ、アルゴリズムの大部分をコンピューターにより自動的に記述することが可能になりました。また、このような手法で構築されるアルゴリズムは、旧来的な手法で構築されていたアルゴリズムよりも大幅に精度向上することがわかっており、近年様々な領域で研究と産業応用が進んでおります。
[一般的なアルゴリズムと機械学習アルゴリズムの違い]
このように、機械学習技術とは、ソフトウエア技術者により一行一行全て記述される一般的なアルゴリズムとは異なり、データを集め、それを学習させることでパラメータ調整を行い、ソフトウエアを構築する技法になります。従って、よい機械学習アルゴリズムを開発するには、目的に沿ったデータを集めることが重要であり、また使えば使うほど(データが増加すればするほど)精度が向上していくという好循環構造を持ちます。当社グループはこの技術特性を正しく理解し、事業成長に効率的につながる事業展開の戦略・戦術を採用していくことを目指しております。
また、当社グループが開発しているアルゴリズムには自然言語処理技術や深層学習技術を用いたものもあります。自然言語処理技術とは、人間が日常的に使っている自然言語をコンピューターに処理させる一連の技術を指しますが、当社グループでは特に、機械学習技術を用いたアプローチを採用しており、自然言語を対象に機械学習技術を用いたアルゴリズムを事業対象としております。深層学習技術とは、機械学習技術の一分野であり多層のニューラルネットワークを用いた機械学習手法であり様々な分野でのアルゴリズムの精度が向上し、多様な分野で活用が進んでおります。この領域も当社グループは重要な技術領域と捉え技術開発・研究開発・製品化を進めております。
当社グループは、既存のソフトウエアの大部分は、長い目で見るとこのような手法により構築されるアルゴリ
ズムソフトウエアに置き換わっていくと考えており、研究開発と市場ニーズとのタイミングがあった業界での社
会実装を加速しております。また、市場拡大や人口減少に伴い各業界の就業人口が不足するタイミングや業界動
向、業界ニーズに合わせて柔軟に対応し、アルゴリズムソフトウエアを市場投入していく方針でおります。
(4)アルゴリズムライセンス事業の特徴
当社グループのアルゴリズムライセンス事業の主な特徴としては、以下のとおりであります。
① パートナーシップ戦略:業界のリーデイングカンパニーとの事業提携
当社グループが提供するアルゴリズムソフトウエアは、データを繰り返し学習しながらより自ら精度を高めていくソフトウエアであります。業界最大規模の教師データを持つ業界のリーデイングカンパニーとの連携により、当該業界におけるソフトウエアを開発しております。それらの研究開発の中から、汎用性のある技術やノウハウをモジュール化し、ソフトウエアを開発し提供することに当社グループの強みがあり、当社グループの特徴があります。
② アルゴリズムソフトウエアならではの高い継続率
アルゴリズムソフトウエアはユーザーが使うとデータがアルゴリズムにフィードバックされ、アルゴリズムの精度が向上するという特徴を持ちます。その好循環のデータの流れがプロダクトの品質を高めるため、一般的なソフトウエアに比べ、高い継続利用率を維持することが可能となっております。
③ エンジニア・研究者の獲得・育成
機械学習技術/深層学習技術領域のアルゴリズム構築技術を有するアルゴリズムエンジニアや、莫大なトラフィッ
クを捌くことができるソフトウエアエンジニアは、国内において多くないと考えております。当社グループの事業
においては、エンジニア・研究者コミュニティへのアクセスをもとに、大多数を社員紹介によるリファラル採用を
実現しております。また、エンジニアの働きやすい、また働きたい環境を整えることを通じて、エンジニアの獲
得・育成を行っております。
④ 組織構造等
当社グループは、前述の通り、業界が持つニーズに対し、アルゴリズムを用いた自動化や高品質化が実現できる領域に対しての解決方法を各アルゴリズムモジュールの機能を「組み合わせる」ことで、効果的・効率的に実現することを目指しておりますが、それらを実現していく上でのアルゴリズムモジュール群を保有していること及びエンジニア中心の組織構造を構築している点が当社事業の独自性であると認識しております。
用語解説
本項「3 事業の内容」において使用しております用語の定義について以下に記します。
用語 | 用語の定義 |
アルゴリズム | コンピューター上における問題を解くための手順・解き方 |
アルゴリズムソリューション | アルゴリズムを利用して企業における業務上のさまざまな問題点を解決すること |
モジュール | 汎用性の高い複数のプログラムを再利用可能な形でひとまとまりにしたもの |
アルゴリズムモジュール | アルゴリズムを再利用可能な形でプログラムとしてひとまとまりにしたもの |
アルゴリズムソフトウエア | アルゴリズムモジュールを用いて構築されたソフトウエア |
機械学習技術 | 人工知能技術の主要な研究分野。データを反復的に学習させ、そこに潜むパターンを見つけ出すことで、コンピューター自身が予測・判断を行うための技術・手法 |
自然言語処理技術 | 人間が日常的に使っている自然言語をコンピューターに処理させる一連の技術 |
深層学習技術 | ディープラーニング(Deep Learning、深層学習)。ニューラルネットワークにより機械学習技術を実装するための手法の一種。従来の機械学習技術では人間が特徴量を定義する必要があった(複雑な特徴を表現できない)が、ディープラーニングではアルゴリズムが教師データから特徴量を抽出できる技術・手法 |
ニューラルネットワーク | 生物の神経ネットワークの構造と機能を模倣するという観点から生まれた脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデル |
特徴量 | 教師データにどのような特徴があるかを数値化したもの |
教師データ | 機械学習を行う上で、学習の元となるデータ |
CRM | 顧客関係管理(Customer Relationship Management(CRM))。顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上を通して、売上の拡大と収益性の向上を目指す経営戦略/手法 |
API | アプリケーション・プログラム・インターフェース(Application Program Interface)の略。アプリケーションと、プログラムの間のインタフェース。自己のソフトウエアを一部公開して、他のソフトウエアと機能を共有できるようにしたもの |
ASP | アプリケーション・サービス・プロバイダ(Application Service Provider)の略。アプリケーションの機能をネットワーク経由で顧客に提供 |
AI | Artificial Intelligenceの略称。学習・推論・認識・判断などの人間の知能的な振る舞いを行うコンピューターシステム |
IoT | Internet of Things の略称。コンピューターに限らず、家電製品や自動車等のハードウエア機器をインターネットに接続し、情報をやり取りすることで生まれるイノベーションの総称 |
エンジン | コンピューターを使用し、さまざまな情報処理を実行する機構 |
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