有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100H0Y5
株式会社ジェイテックコーポレーション 研究開発活動 (2019年6月期)
当社は、「世の中にないオンリーワンの技術により製品を作り出し、広く社会に貢献する。」を経営理念とし、「日本の成長戦略の科学技術、特に創薬、医療技術のイノベーションの推進に寄与するシステムを提供する」という経営方針のもと、産学連携を中心に技術開発、製品開発を推進しております。現在、放射光施設用X線ナノ集光ミラー等の開発販売を推進するオプティカル事業及び主にiPS細胞やその他の創薬や再生医療等に関連した各種細胞培養装置を開発販売するライフサイエンス・機器開発事業の2つの事業を柱とし、研究開発活動はこれら事業の関連技術を中心に実施しております。
2013年に関西イノベーション国際戦略総合特区の研究事業に下記の2つのプロジェクトが認定されました。
「放射光とシミュレーション技術を組み合わせた革新的な創薬開発の実施」
概要:ジェイテック(注1)の開発センターにおいて、実験設備などの整備を行う。タンパク質の解析等を行う高性能の「X線ナノ集光ミラー」の開発を目指す。
「先端医療技術(再生医療・細胞治療等)の早期実用化」
概要:臨床研究のための移植に有効な大型の軟骨組織等の細胞組織を培養することができる「全自動細胞培養システム」の開発を目指す。
当初これらプロジェクトをメインテーマとして研究開発を進め、現在本プロジェクト終了後も、X線ナノ集光ミラーを中心としたX線光学素子、及び独自の培養技術を用いた各種細胞培養装置システムを中心に開発を推進しております。
当事業年度の当社の研究開発費は183,433千円であります。
(注1):ジェイテックは2013年当時の当社社名であります。当社は2016年5月に株式会社ジェイテックから株式会社ジェイテックコーポレーションへ商号変更を行っております。
(1) オプティカル事業
当事業年度のオプティカル事業においては、以下の研究開発を推進してまいりました。
① 放射光施設用X線集光ミラーの生産性の向上や高精度化を目指したナノ加工技術及びナノ計測技術に関する研究開発
本事業の主要製品であるX線ナノ集光ミラーは、放射光X線をある一定の角度で全反射させ、特定の一点にナノメートルレベルに集中(集光)させることが特長です。本ミラーによりナノメートルレベルに集光されたX線は、従来製品と比べ、様々な物質を短時間で、高精度、高分解能に分析することが可能となります。たとえば医薬品の開発において新たな製品の開発等に必要な観察や同定を行ううえで重要な役割を担っており、物質科学、生命科学、医学など様々な分野で幅広く利用され、さらに環境・エネルギー、化学、自動車など企業の素材や製品開発に活用され、産業利用ニーズが高まっております。
このようなX線ナノ集光ミラーを製造するためには、ナノメートルレベルの精細な表面ナノ加工技術が必要なだけでなく、設計通りに加工されたことを確認するためのナノメートル精度のナノ計測技術が必要不可欠となります。当社では大阪大学の超平坦化基盤技術であるナノ加工技術EEMとナノ計測技術RADSI及びMSIを、大阪大学より技術移転を受け、実用化に成功し、海外の競合他社では利用できない独自のナノ加工技術として確立しました。
しかし海外の競合企業では研究開発が活発で、技術的優位性を保持するためには絶え間ない技術開発が必要不可欠であると考えており、昨年同様にナノ加工技術の高精度化、効率化を目指した研究開発を推進しております。
また、新たに更なる高精度化を目指した表面ナノ加工技術「CARE」の実用化開発に着手し、計測対象の形状多様性に対応した新計測装置の開発も推進しております。
尚、このナノ加工・計測技術の実用化に成功した本事業により経済産業省の2016年「はばたく中小企業・小規模事業者300社の生産技能部門生産性優良企業」に選定されました。
② 放射光施設向けの次世代商品の開発
2017年度に採択された研究事業「回折限界下で集光径可変な次世代高精度集光ミラーの製造技術の開発」(2017年度兵庫県最先端技術研究事業(COEプログラム)、兵庫県2017年9月~2018年3月、共同研究先:㈱ジェイテックコーポレーション、(財)高輝度光科学研究センター、(独)理化学研究所、大阪大学)において形状可変ミラー(集光径を自在に変える)の製造技術の開発成功し、2018年4月には上市し、早期に複数のパイロットユーザーに納入し、評価テストを実施いたしました。
本ミラーにより次世代の放射光施設向けに対応した世界で初めて回折限界で集光径を自在に制御することに成功しました。
③ 第3の事業を目指した加工技術の研究開発
オプティカル事業に係る研究開発は、大阪大学の森勇藏名誉教授及び山内和人教授の長年の研究成果で、世界に類を見ない原子レベルの究極の加工技術を基にしたもので、自由な曲面をナノメートルレベルの形状精度で実現し、現在は放射光用X線ミラーだけでなく、その他産業分野にも当社のX線光学素子を供給し、または独自のナノ加工技術の適用を図るために大学及び企業と積極的に研究開発を進めております。
例えば、半導体分野では、次世代EUV露光装置関連で用いられる光学素子はナノメートルレベルの形状精度が必要不可欠となり、本加工技術が唯一実現できるものであると評価され、装置製造企業と実用化に向けた開発を推進しております。またウェハの評価検査を可能としたX線顕微鏡用のX線光学素子の開発にも成功しました。
さらにフォトマスク分野でも当社独自のEEMナノ加工技術の適用の期待が高く、平坦度10nm以下を目指し、当社の表面加工技術を用いた加工・評価テストを推進しております。
その結果、オプティカル事業に係る当事業年度の研究開発費は106,870千円となりました。
(2) ライフサイエンス・機器開発事業
事業年度のライフサイエンス・機器開発事業においては、以下の研究開発を推進してまいりました。
① iPS細胞用自動培養装置CellPet®のバージョンアップ開発
2013年に商品化に成功したiPS細胞用自動培養装置CellPet®は、iPS細胞研究者のために毎日の煩わしい培地交換作業の自動化を実現した装置ですが、2015年度 おおさか地域創造ファンド重点プロジェクト事業助成金を得て、ユーザーからの新しい要望に応えるために細胞観察機能等新機能を実現するためのユニット開発を実施してまいりました。当該事業年度では、バージョンアップしたCellPet®Ⅱの販売を開始いたしました。
② 3次元培養技術CELLFLOAT®を用いたiPS細胞等の3次元大量培養技術の開発
当社独自の3次元培養技術CELLFLOAT®は、2005年より産業技術総合研究所と共同研究を推進してきた独自の回転浮遊培養技術であり、ディッシュやフラスコを用いた静置培養法と比べ、湿重量で5倍の細胞組織を形成し、培養時間も1/3に短縮し、100%正常細胞の培養が実現可能という研究成果を得ております。また、従来の3次元浮遊培養技術と比べ、閉鎖系(汚染リスク排除)で、細胞に対してストレスが適度で、栄養・酸素補給、排泄物除去などの効率性に優れており、3次元培養技術では有効な方法であると評価されております。
2014年度からの3ヶ年の戦略的基盤技術高度化支援事業(中小企業経営支援等対策費補助金 経済産業省)に採択され、産業技術総合研究所、大阪大学と創薬スクリーニング用の3次元組織細胞を大量に培養可能な回転浮遊培養装置CellPet® 3Dの開発とその3次元組織細胞を用いた創薬スクリーニング操作の自動化システムを開発してまいりました。(テーマ「iPS細胞等の3次元大量培養技術の開発」)
本事業ではさらに本大量培養技術の深堀り研究として、iPS細胞に特化したスフェロイド大量培養技術の開発も推進し、CellPet 3D-iPS®及びCellPet FT®の製品化に成功しました。
本装置を使った新しい継代培養技術は「JiSS」と名付け、従来のiPS細胞の継代培養に代わる画期的な培養技術として評価されており、2017年度にはさらに下記の助成事業に採択されました。
・今年度継続助成事業
「iPS細胞等幹細胞の高効率な継代作業を実現した3次元大量継代培養技術の実用化開発」
(戦略的基盤技術高度化支援事業 中小企業経営支援等対策費補助金、経済産業省:2017年9月~2020年3月予定)共同研究先:大阪大学
再生医療への大きな期待により、国や企業が多額の研究費により難治性疾患治療法の確立が急務となっております。しかし、再生医療には高品質で大量のiPS細胞が必要ですが、現在iPS細胞は主に手作業で培養されており、生存率などの品質が低く、細胞の形質にバラつきが多く、また手間やコストもかかるのが現状です。
そこで、本研究では、CellPet 3D-iPS®及びCellPet FT®をもとに臨床現場に普及し易い低コストの大量継代培養自動化システムを構築し、品質、バラつき、コストを満足する細胞の提供を目指しております。
本事業年度はこのiPS細胞向けの大量継代培養自動化システムを完成させました。次年度には大阪大学医学部に導入し、フィールドテストを実施する予定です。
③ 再生医療等に用いるヒト軟骨デバイスの実用化のための3次元細胞培養システムの開発
2013年度からの3ヶ年の京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区事業(課題解決型医療機器等開発事業、医工連携事業化推進事業)で、横浜市立大学、大阪大学及び産業技術総合研究所と当社の3次元培養技術CELLFLOAT®を用いたCellPet® 3Dを内蔵する再生医療向け3次元細胞培養システム(CellMeister® 3D)を試作開発してまいりました。(テーマ「再生医療等に用いるヒト軟骨デバイスの実用化のための3次元細胞培養システムの開発」)
本CellMeister® 3Dは世界初の弾性軟骨デバイスを用いた再生医療の実現を目指し、臨床前研究を実施してまいりましたが、2016年度には新たに横浜市立大学と神奈川県立こども医療センターと共同で、下記の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究事業に採択されました。
・今年度継続委託研究事業
「臨床試験を目指す3次元細胞培養システムを用いた革新的ヒト弾性軟骨デバイスの創出」
(産学連携医療イノベーション創出プログラム 日本医療研究開発機構(AMED):2016年10月~2019年3月)共同研究先:横浜市立大学、神奈川県立こども医療センター
本研究事業は、2016年4月に大阪大学吹田キャンパス内の産学共創本部B棟に開設いたしました当社独自の細胞培養センターでも本研究を引継いで実施しております。再生医療等に用いる数十mm以上の大きさの弾性軟骨の大型組織細胞の培養を可能とする3次元細胞培養システムを開発して製品化の目途を立てており、まずは第一弾として難治性の鼻咽腔閉鎖不全症を対象疾患の治療として来年以降の医師主導の治験の準備を進めております。
本治療では十㎜程度の弾性軟骨で十分ですが、現在は30㎜大の組織培養が可能となっており、将来的には市場規模が格段に大きい、膝・耳・鼻等対象疾患への適用拡大が期待できます
また第2弾として大阪大学医学部と心筋細胞の培養に当社独自の3次元浮遊培養技術「Cell Float®」を導入しまいりましたが、従来培養方法と比べ優位性が証明され、国際学会(大阪大学医学部、アメリカ心臓協会2018.11)で発表いたしました。今後は臨床研究への導入に向けて共同研究を継続いたします。
ところで本研究を通じて再生医療の培養技術を習得するだけでなく、PMDAなどの事前相談などを再生医療業務のノウハウとして取得しており、当社の開発した再生医療向け自動細胞培養装置である専用CO2インキュベータ付属のセルプロセッシングアイソレータシステム(CellMeister® 3D)や本システムに必要不可欠な消耗品である培養容器を販売するだけではなく、ユーザーとなる大学病院や再生医療会社に対して本システムの運営に関してのノウハウを提供するコンサルティング・支援サービス業務なども含めたトータルシステムの販売を目指しております。
また当細胞培養センターでは大学や企業と獲得した競争的資金で進める共同研究を推進するために、本技術を用いた細胞培養装置の培養評価や培養技術の開発だけでなく、大学や企業と様々な培養技術に関する共同研究を積極的に実施しております。
なお、当細胞培養センターにおける研究開発は、ライフサイエンス・機器開発事業に含んでおりません。
④ 水晶振動子ウェハ加工装置及び検査装置の研究開発
当社はプラズマCVMなどナノ加工技術の実用化開発を進めてまいりましたが、本加工装置は大手企業からの委託で、当社のプラズマCVMすなわち大気圧プラズマを利用して水晶振動子ウェハの厚さのばらつきをナノメートルレベルまで超高精度に表面加工するもので、これにより水晶素子の振動数のばらつきを低減します。
当事業年度では大阪大学の協力をへて、大気圧プラズマを利用した水晶振動子ウェハの加工テストを実施し、試作装置の試作開発に成功しました。
さらにウェハの厚さを高速で評価する膜厚検査装置も同時に開発に着手しております。
その結果、ライフサイエンス・機器開発事業に係る当事業年度の研究開発費は53,076千円となりました。
注28:「CARE」(Catalyst Referred Etching)
触媒機能を持つパッド(PtやNi等の触媒を成膜)を加工対象物上で超純⽔を加⼯液として動かすことで被加工表⾯上の凸部のみ化学的に除去する触媒作用を利用した独自のエッチング技術。ガラスやSiCを始めとする様々な材料表面を原⼦スケールで平坦化します。
当社EEMナノ加工技術は既に形状精度Si原⼦4個分(Peak to Valley (P-V値)1nm)の平坦度を⻑さ1mのミラーで実現していますが、CAREは更にP-V0.7nmを実現し、将来的には原⼦1個分も可能な究極の加⼯法です
(図G参照)。
図G CAREの加工原理
注29:水晶振動子
水晶振動子は、デジタル回路の信号タイミングを同期させるための基準周波数発生素子でパソコン、スマートフォンやカーナビなどのデジタル機器に欠かせない重要部品であり、全てのデジタル機器には必ず使用されておちます。これらのデジタル機器は年々集積度が上がり、それに使用される素子も小型化・高速化が求められております。
この水晶振動子が発振する振動数は、その厚さに依存しますが、素子の小型化に伴い、水晶振動子ウェハの厚さのばらつきが大きいと、そこから小片化して作られる水晶素子の振動数のばらつきも大きくなります。
注30:プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)
⼤気圧プラズマを利⽤したドライエッチング技術。⾼圧⼒雰囲気(主として⼤気圧のHe)中で電極周りに⾼周波プラズマを発⽣させ、⾼密度で反応性の⾼いラジカルを局所的に⽣成し、被加⼯物表⾯原⼦と反応させて揮発性の物質に変えることで除去するという加⼯法です。同法による数値制御加⼯は、加⼯量をプラズマの滞在時間で制御するため、機械精度等の影響を受けにくく、被加⼯物表⾯の原⼦配列を乱さないのが特徴です。当社ではさらに大阪大学の独自の技術である多電極数値制御法の実用化を図り、加工効率の格段の向上を目指しています(図H参照)。
図H プラズマCVMの加工原理
2013年に関西イノベーション国際戦略総合特区の研究事業に下記の2つのプロジェクトが認定されました。
「放射光とシミュレーション技術を組み合わせた革新的な創薬開発の実施」
概要:ジェイテック(注1)の開発センターにおいて、実験設備などの整備を行う。タンパク質の解析等を行う高性能の「X線ナノ集光ミラー」の開発を目指す。
「先端医療技術(再生医療・細胞治療等)の早期実用化」
概要:臨床研究のための移植に有効な大型の軟骨組織等の細胞組織を培養することができる「全自動細胞培養システム」の開発を目指す。
当初これらプロジェクトをメインテーマとして研究開発を進め、現在本プロジェクト終了後も、X線ナノ集光ミラーを中心としたX線光学素子、及び独自の培養技術を用いた各種細胞培養装置システムを中心に開発を推進しております。
当事業年度の当社の研究開発費は183,433千円であります。
(注1):ジェイテックは2013年当時の当社社名であります。当社は2016年5月に株式会社ジェイテックから株式会社ジェイテックコーポレーションへ商号変更を行っております。
(1) オプティカル事業
当事業年度のオプティカル事業においては、以下の研究開発を推進してまいりました。
① 放射光施設用X線集光ミラーの生産性の向上や高精度化を目指したナノ加工技術及びナノ計測技術に関する研究開発
本事業の主要製品であるX線ナノ集光ミラーは、放射光X線をある一定の角度で全反射させ、特定の一点にナノメートルレベルに集中(集光)させることが特長です。本ミラーによりナノメートルレベルに集光されたX線は、従来製品と比べ、様々な物質を短時間で、高精度、高分解能に分析することが可能となります。たとえば医薬品の開発において新たな製品の開発等に必要な観察や同定を行ううえで重要な役割を担っており、物質科学、生命科学、医学など様々な分野で幅広く利用され、さらに環境・エネルギー、化学、自動車など企業の素材や製品開発に活用され、産業利用ニーズが高まっております。
このようなX線ナノ集光ミラーを製造するためには、ナノメートルレベルの精細な表面ナノ加工技術が必要なだけでなく、設計通りに加工されたことを確認するためのナノメートル精度のナノ計測技術が必要不可欠となります。当社では大阪大学の超平坦化基盤技術であるナノ加工技術EEMとナノ計測技術RADSI及びMSIを、大阪大学より技術移転を受け、実用化に成功し、海外の競合他社では利用できない独自のナノ加工技術として確立しました。
しかし海外の競合企業では研究開発が活発で、技術的優位性を保持するためには絶え間ない技術開発が必要不可欠であると考えており、昨年同様にナノ加工技術の高精度化、効率化を目指した研究開発を推進しております。
また、新たに更なる高精度化を目指した表面ナノ加工技術「CARE」の実用化開発に着手し、計測対象の形状多様性に対応した新計測装置の開発も推進しております。
尚、このナノ加工・計測技術の実用化に成功した本事業により経済産業省の2016年「はばたく中小企業・小規模事業者300社の生産技能部門生産性優良企業」に選定されました。
② 放射光施設向けの次世代商品の開発
2017年度に採択された研究事業「回折限界下で集光径可変な次世代高精度集光ミラーの製造技術の開発」(2017年度兵庫県最先端技術研究事業(COEプログラム)、兵庫県2017年9月~2018年3月、共同研究先:㈱ジェイテックコーポレーション、(財)高輝度光科学研究センター、(独)理化学研究所、大阪大学)において形状可変ミラー(集光径を自在に変える)の製造技術の開発成功し、2018年4月には上市し、早期に複数のパイロットユーザーに納入し、評価テストを実施いたしました。
本ミラーにより次世代の放射光施設向けに対応した世界で初めて回折限界で集光径を自在に制御することに成功しました。
③ 第3の事業を目指した加工技術の研究開発
オプティカル事業に係る研究開発は、大阪大学の森勇藏名誉教授及び山内和人教授の長年の研究成果で、世界に類を見ない原子レベルの究極の加工技術を基にしたもので、自由な曲面をナノメートルレベルの形状精度で実現し、現在は放射光用X線ミラーだけでなく、その他産業分野にも当社のX線光学素子を供給し、または独自のナノ加工技術の適用を図るために大学及び企業と積極的に研究開発を進めております。
例えば、半導体分野では、次世代EUV露光装置関連で用いられる光学素子はナノメートルレベルの形状精度が必要不可欠となり、本加工技術が唯一実現できるものであると評価され、装置製造企業と実用化に向けた開発を推進しております。またウェハの評価検査を可能としたX線顕微鏡用のX線光学素子の開発にも成功しました。
さらにフォトマスク分野でも当社独自のEEMナノ加工技術の適用の期待が高く、平坦度10nm以下を目指し、当社の表面加工技術を用いた加工・評価テストを推進しております。
その結果、オプティカル事業に係る当事業年度の研究開発費は106,870千円となりました。
(2) ライフサイエンス・機器開発事業
事業年度のライフサイエンス・機器開発事業においては、以下の研究開発を推進してまいりました。
① iPS細胞用自動培養装置CellPet®のバージョンアップ開発
2013年に商品化に成功したiPS細胞用自動培養装置CellPet®は、iPS細胞研究者のために毎日の煩わしい培地交換作業の自動化を実現した装置ですが、2015年度 おおさか地域創造ファンド重点プロジェクト事業助成金を得て、ユーザーからの新しい要望に応えるために細胞観察機能等新機能を実現するためのユニット開発を実施してまいりました。当該事業年度では、バージョンアップしたCellPet®Ⅱの販売を開始いたしました。
② 3次元培養技術CELLFLOAT®を用いたiPS細胞等の3次元大量培養技術の開発
当社独自の3次元培養技術CELLFLOAT®は、2005年より産業技術総合研究所と共同研究を推進してきた独自の回転浮遊培養技術であり、ディッシュやフラスコを用いた静置培養法と比べ、湿重量で5倍の細胞組織を形成し、培養時間も1/3に短縮し、100%正常細胞の培養が実現可能という研究成果を得ております。また、従来の3次元浮遊培養技術と比べ、閉鎖系(汚染リスク排除)で、細胞に対してストレスが適度で、栄養・酸素補給、排泄物除去などの効率性に優れており、3次元培養技術では有効な方法であると評価されております。
2014年度からの3ヶ年の戦略的基盤技術高度化支援事業(中小企業経営支援等対策費補助金 経済産業省)に採択され、産業技術総合研究所、大阪大学と創薬スクリーニング用の3次元組織細胞を大量に培養可能な回転浮遊培養装置CellPet® 3Dの開発とその3次元組織細胞を用いた創薬スクリーニング操作の自動化システムを開発してまいりました。(テーマ「iPS細胞等の3次元大量培養技術の開発」)
本事業ではさらに本大量培養技術の深堀り研究として、iPS細胞に特化したスフェロイド大量培養技術の開発も推進し、CellPet 3D-iPS®及びCellPet FT®の製品化に成功しました。
本装置を使った新しい継代培養技術は「JiSS」と名付け、従来のiPS細胞の継代培養に代わる画期的な培養技術として評価されており、2017年度にはさらに下記の助成事業に採択されました。
・今年度継続助成事業
「iPS細胞等幹細胞の高効率な継代作業を実現した3次元大量継代培養技術の実用化開発」
(戦略的基盤技術高度化支援事業 中小企業経営支援等対策費補助金、経済産業省:2017年9月~2020年3月予定)共同研究先:大阪大学
再生医療への大きな期待により、国や企業が多額の研究費により難治性疾患治療法の確立が急務となっております。しかし、再生医療には高品質で大量のiPS細胞が必要ですが、現在iPS細胞は主に手作業で培養されており、生存率などの品質が低く、細胞の形質にバラつきが多く、また手間やコストもかかるのが現状です。
そこで、本研究では、CellPet 3D-iPS®及びCellPet FT®をもとに臨床現場に普及し易い低コストの大量継代培養自動化システムを構築し、品質、バラつき、コストを満足する細胞の提供を目指しております。
本事業年度はこのiPS細胞向けの大量継代培養自動化システムを完成させました。次年度には大阪大学医学部に導入し、フィールドテストを実施する予定です。
③ 再生医療等に用いるヒト軟骨デバイスの実用化のための3次元細胞培養システムの開発
2013年度からの3ヶ年の京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区事業(課題解決型医療機器等開発事業、医工連携事業化推進事業)で、横浜市立大学、大阪大学及び産業技術総合研究所と当社の3次元培養技術CELLFLOAT®を用いたCellPet® 3Dを内蔵する再生医療向け3次元細胞培養システム(CellMeister® 3D)を試作開発してまいりました。(テーマ「再生医療等に用いるヒト軟骨デバイスの実用化のための3次元細胞培養システムの開発」)
本CellMeister® 3Dは世界初の弾性軟骨デバイスを用いた再生医療の実現を目指し、臨床前研究を実施してまいりましたが、2016年度には新たに横浜市立大学と神奈川県立こども医療センターと共同で、下記の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究事業に採択されました。
・今年度継続委託研究事業
「臨床試験を目指す3次元細胞培養システムを用いた革新的ヒト弾性軟骨デバイスの創出」
(産学連携医療イノベーション創出プログラム 日本医療研究開発機構(AMED):2016年10月~2019年3月)共同研究先:横浜市立大学、神奈川県立こども医療センター
本研究事業は、2016年4月に大阪大学吹田キャンパス内の産学共創本部B棟に開設いたしました当社独自の細胞培養センターでも本研究を引継いで実施しております。再生医療等に用いる数十mm以上の大きさの弾性軟骨の大型組織細胞の培養を可能とする3次元細胞培養システムを開発して製品化の目途を立てており、まずは第一弾として難治性の鼻咽腔閉鎖不全症を対象疾患の治療として来年以降の医師主導の治験の準備を進めております。
本治療では十㎜程度の弾性軟骨で十分ですが、現在は30㎜大の組織培養が可能となっており、将来的には市場規模が格段に大きい、膝・耳・鼻等対象疾患への適用拡大が期待できます
また第2弾として大阪大学医学部と心筋細胞の培養に当社独自の3次元浮遊培養技術「Cell Float®」を導入しまいりましたが、従来培養方法と比べ優位性が証明され、国際学会(大阪大学医学部、アメリカ心臓協会2018.11)で発表いたしました。今後は臨床研究への導入に向けて共同研究を継続いたします。
ところで本研究を通じて再生医療の培養技術を習得するだけでなく、PMDAなどの事前相談などを再生医療業務のノウハウとして取得しており、当社の開発した再生医療向け自動細胞培養装置である専用CO2インキュベータ付属のセルプロセッシングアイソレータシステム(CellMeister® 3D)や本システムに必要不可欠な消耗品である培養容器を販売するだけではなく、ユーザーとなる大学病院や再生医療会社に対して本システムの運営に関してのノウハウを提供するコンサルティング・支援サービス業務なども含めたトータルシステムの販売を目指しております。
また当細胞培養センターでは大学や企業と獲得した競争的資金で進める共同研究を推進するために、本技術を用いた細胞培養装置の培養評価や培養技術の開発だけでなく、大学や企業と様々な培養技術に関する共同研究を積極的に実施しております。
なお、当細胞培養センターにおける研究開発は、ライフサイエンス・機器開発事業に含んでおりません。
④ 水晶振動子ウェハ加工装置及び検査装置の研究開発
当社はプラズマCVMなどナノ加工技術の実用化開発を進めてまいりましたが、本加工装置は大手企業からの委託で、当社のプラズマCVMすなわち大気圧プラズマを利用して水晶振動子ウェハの厚さのばらつきをナノメートルレベルまで超高精度に表面加工するもので、これにより水晶素子の振動数のばらつきを低減します。
当事業年度では大阪大学の協力をへて、大気圧プラズマを利用した水晶振動子ウェハの加工テストを実施し、試作装置の試作開発に成功しました。
さらにウェハの厚さを高速で評価する膜厚検査装置も同時に開発に着手しております。
その結果、ライフサイエンス・機器開発事業に係る当事業年度の研究開発費は53,076千円となりました。
注28:「CARE」(Catalyst Referred Etching)
触媒機能を持つパッド(PtやNi等の触媒を成膜)を加工対象物上で超純⽔を加⼯液として動かすことで被加工表⾯上の凸部のみ化学的に除去する触媒作用を利用した独自のエッチング技術。ガラスやSiCを始めとする様々な材料表面を原⼦スケールで平坦化します。
当社EEMナノ加工技術は既に形状精度Si原⼦4個分(Peak to Valley (P-V値)1nm)の平坦度を⻑さ1mのミラーで実現していますが、CAREは更にP-V0.7nmを実現し、将来的には原⼦1個分も可能な究極の加⼯法です
(図G参照)。
図G CAREの加工原理
注29:水晶振動子
水晶振動子は、デジタル回路の信号タイミングを同期させるための基準周波数発生素子でパソコン、スマートフォンやカーナビなどのデジタル機器に欠かせない重要部品であり、全てのデジタル機器には必ず使用されておちます。これらのデジタル機器は年々集積度が上がり、それに使用される素子も小型化・高速化が求められております。
この水晶振動子が発振する振動数は、その厚さに依存しますが、素子の小型化に伴い、水晶振動子ウェハの厚さのばらつきが大きいと、そこから小片化して作られる水晶素子の振動数のばらつきも大きくなります。
注30:プラズマCVM(Chemical Vaporization Machining)
⼤気圧プラズマを利⽤したドライエッチング技術。⾼圧⼒雰囲気(主として⼤気圧のHe)中で電極周りに⾼周波プラズマを発⽣させ、⾼密度で反応性の⾼いラジカルを局所的に⽣成し、被加⼯物表⾯原⼦と反応させて揮発性の物質に変えることで除去するという加⼯法です。同法による数値制御加⼯は、加⼯量をプラズマの滞在時間で制御するため、機械精度等の影響を受けにくく、被加⼯物表⾯の原⼦配列を乱さないのが特徴です。当社ではさらに大阪大学の独自の技術である多電極数値制御法の実用化を図り、加工効率の格段の向上を目指しています(図H参照)。
図H プラズマCVMの加工原理
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ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
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