有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S1004G35
株式会社UMNファーマ 事業の内容 (2014年12月期)
(1)当社グループの事業概要
当社は、製薬業界で培った豊富な開発経験と幅広いネットワークを駆使し、満足な治療法や製造技術のない領域にて、革新的な医薬品を迅速に開発することを会社のミッションに掲げ、2004年4月に設立されました。当社グループは、当社及び連結子会社(株式会社UNIGEN)により構成されております。当社独自の製造プラットフォーム15)を保有することにより、次世代バイオ医薬品自社開発事業に加え、バイオ医薬品の製造も事業領域とするバイオファーマ企業であります。当該コンセプトを基に、開発パイプラインごとに対象疾患領域及び臨床現場の状況、競合する医薬品の状況などを総合的に勘案し、医薬品としての価値を最大化できる最適のタイミングで国内外の製薬企業と提携しライセンスアウトすることのみならず、自ら原薬を製造し製品を供給することで収益を確保していくビジネスモデルを基本としております。一方、バイオ医薬品受託製造事業については、当社グループが保有する横浜研究所、秋田工場及び岐阜工場、これら研究開発・生産施設に従事する製造ノウハウに長けた豊富な人材を活用し、開発初期から商用段階まであらゆる顧客ニーズに対応しつつ、高い品質の製品を供給していくビジネスモデルを基本としております。受注活動をバイオ医薬品受託製造事業提携企業とともに行い、当該提携企業を通じて顧客に対して検討用サンプル・治験薬・製品・各種評価試験結果等を供給いたします。
なお、当社グループは医療用医薬品の研究開発及びこれに関連する事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
以下に当社グループの事業系統図を示します。
また、当社グループの事業の特徴は以下のとおりであります。
①当社独自の製造プラットフォームを保有
当社は、PSCより、UMN-0502、UMN-0501及びUMN-0901をはじめとする組換えインフルエンザHAワクチンに関する日本、中国、韓国、台湾、香港及びシンガポールにおける、独占的な開発、製造及び販売に関する権利を取得しております。また、タンペレ大学ワクチン研究センターのヴェシカリ教授・ブラゼヴィッチ博士より、UMN-2003の全世界における独占的事業化権を取得しております。これら開発パイプラインの製造技術であるBEVSを製造プラットフォームと位置づけ、日本国内でBEVSによるバイオ医薬品の開発から製造までを一貫して担う体制を構築しております。生産体制の確立に当たり、2010年1月に、組換えインフルエンザHAワクチンの原薬製造事業を共同で行うべく、株式会社IHIと当該事業の「協業に関する基本協定書」を締結いたしました。2010年5月に、原薬製造事業を主な事業目的とする株式会社UNIGENを設立、当社連結子会社といたしました。同年6月に、当社及び株式会社IHIより株式会社UNIGENに対して増資を行い、原薬製造事業の協業活動を本格的に開始いたしました。同年7月に、厚生労働省「新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金」交付事業(第一次分)に採択され、当該助成金にて秋田県秋田市に組換えインフルエンザHAワクチン原薬生産施設(秋田工場)の建設を開始、2011年4月に稼働いたしました。また、2012年3月には、インフルエンザワクチンをはじめとしたバイオ医薬品原薬を量産することを目的として岐阜県揖斐郡池田町に岐阜工場の建設を開始、2013年5月に竣工いたしました。一方、新たなパイプラインであるUMN-2003は、BEVSにより製造したノロウイルス組換えVLP及びロタウイルスの組換えウイルスタンパクを有効成分とするワクチンであります。また、UMN-2002としてノロウイルス組換えVLPを主成分とするワクチンの開発を開始しております。VLPワクチンは、アジュバント16)を用いずに免疫原性を高める方法として注目を集めており、BEVSによるVLPワクチン原薬製造にも組換えインフルエンザHAワクチンで得られた知見を最大限に活用いたします。② 感染症予防ワクチンを中心とする複数のパイプラインを開発
当社グループは、インフルエンザ、ノロウイルス、ロタウイルスなど、ウイルス感染症領域における複数の開発パイプラインを有しております。また当社は、自社にて前期臨床試験を行うだけでなく、後期臨床試験をライセンスアウト先と共同開発できる体制を整えており、かつ、秋田工場にて治験薬を供給する体制も整備しております。現在、日本国内において、UMN-0502及びUMN-0501をアステラス製薬株式会社と共同開発しております。また、流行するインフルエンザウイルスの動向を踏まえ、UMN-0901の開発も行っております。さらに、UMN-2003及びUMN-2002をパイプラインに加え、全世界のマーケットを目指して開発を開始しており、当社グループの製造プラットフォームであるBEVSを最大限に活用できる医薬品候補シーズ探索を積極的に実施しております。③単なるライセンスによる対価のみに留まらない収益構造の確立
以下図表に示すとおり、当社グループは、医薬品候補シーズの探索に当たり、市場性、上市の可能性や製造技術を十分検討いたします。一義的にはBEVSにて製造が可能な医薬品候補シーズを優先的に開発することで、製品供給による収益を実現することにより、当社資産から生まれる付加価値の最大化を目指しております。また、基礎研究・臨床開発を進める過程において、新たな製造技術の導入も視野に入れながら、医薬品としての価値を最大化できる最適のタイミングにて、国内外の製薬企業と提携しライセンスアウトいたします。製薬企業との提携による契約一時金や、基礎研究・臨床開発・承認申請等の進捗状況によりマイルストーン収入を受けること、販売のライセンスアウトに伴う売上の一定率のロイヤリティ収入や販売目標達成時の一時金を得ることに加え、最先端のバイオ医薬品製造技術に基づく原薬製造による売上を得る等、単なる知的財産権の使用に係る収益のみに留まらない事業体制の整備を図っております。
(2)医薬品の研究開発プロセスと当社グループの事業が関連するプロセス領域について
医療用医薬品を製造、販売するためには厳格な規制が存在し、これら規制を遵守しながら開発を進めていかなければなりません。医療用医薬品が販売されるまでに実施される一般的な研究開発の目的及び内容並びに各段階における関連規制について説明いたします。大別すると、① 基礎研究、② GLPに基づく非臨床試験、③ 製剤開発及び工業生産方法の確立(GMP)、④ GCPに基づく臨床試験、⑤ 製造販売承認に関する申請、⑥ GQP、GVP及びGPSPの6つのステップに区分されます。さらに、バイオ医薬品製造のプロセスのひとつに遺伝子組換え技術が存在するため、⑦ 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)の遵守、を加え、以下に各ステップについて詳細を記載いたします。
①基礎研究
ターゲットとする疾患を決定し、将来医薬品となる可能性のある物質を特定して、試験管内(以下、「invitro」といいます。)もしくは動物(以下、「invivo」といいます。)による疾患モデルを確立し、スクリーニングにかけて、リード化合物18)の選定を行います。当該リード化合物の物理的・化学的特性を確認した後、化学修飾19)を行い、invivo実験により、高い安全性と有効性を有する開発候補化合物を選定いたします。その後、信頼性基準20)に基づき、大型哺乳動物などでより精緻に薬効・安全性の確認を行うとともに、投与方法や製造方法の検討を行うために、物性試験21)、薬物動態試験22)等を実施いたします。②GLPに基づく非臨床試験
GLP(Good Laboratory Practice)とは、臨床試験を始めるに当たって特にヒトでの安全性を推測できるデータを取得するものであり、単回毒性試験23)、反復毒性試験24)、がん原性試験25)、変異原性試験26)などを実施し、化合物の安全性に関するデータを収集いたします。一定の安全性の検証を行うための基準として、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(1997年3月26日厚生省令第21号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号)に、試験方法、実施者、設備等が厳格に定められております。一連の非臨床試験データを揃え、臨床試験の目的及び具体的内容について治験届を当局に提出し、その内容について当局より確認を得た後に、臨床試験を開始することになります。③製剤開発及び工業生産方法の確立
製剤開発は非臨床試験の前後より開始いたします。製剤の処方設計を行い、臨床試験に使用する治験薬を製造いたします。治験薬の製造には、治験薬GMP(Good Manufacturing Practice 「治験薬の製造管理及び品質管理基準」及び「治験薬の製造施設の構造設備基準」(1997年3月31日薬発第480号 最終訂正2008年7月9日薬食発第0709002号))に従わなければなりません。さらに、上市後の製品の製造に向けて工業生産方法の確立が必要になります。そのためには、GMP「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(1994年1月27日厚生省令第3号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号)に定められた基準に従って製造を行う必要があり、当該GMPに準拠して製造がなされているかどうかについて当局からの査察等が実施されます。なお、GMP基準は医薬品製造業の許可要件並びに医薬品製造販売の承認要件となっております。GMP適合施設を保有するために、これら厳密な規制を完全にクリアする必要があります。④GCP基準に基づく臨床試験
臨床試験については、GCP(Good Clinical Practice 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(1997年3月27日厚生省令第28号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号))が定められており、医薬品の製造承認の申請に際し必要な臨床試験成績に関する各種資料の取得、管理、治験実施者の選定・依頼及び実施等について厳格な基準が定められております。第Ⅰ相臨床試験は、少数の健康人に与薬し、薬物動態や安全性の確認を行います。第Ⅱ相臨床試験の前期では、少数患者に与薬し、安全性と有効性について確認を行います。この段階で、具体的な適応疾患及び投与用量のおおよその範囲について決定いたします。いわゆるPOC(ProofofConceptヒトでの有効性の実証)は、前期第Ⅱ相臨床試験にて相応の薬効が示唆された段階をいいます。それに続く後期第Ⅱ相臨床試験では、対象数を増やして投与用量と効果の相関性を確認し、至適条件を決定いたします。第Ⅲ相臨床試験では、一般臨床上、安全性と有効性が確認されるのに十分な数の患者に対して、類似薬もしくは偽薬(プラセボ)27)との二重盲検比較試験28)を実施し、その医薬品が治療に貢献するものであるか否かの最終的な確認を行います。
なお、医薬品の開発については、1991年に日米欧の薬事規制当局及び製薬団体によって設立されたICH(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use「医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議」)によって、世界レベルで臨床試験データの融和が図られております。主に国や地域間で承認申請データを相互活用し新規医薬品開発を効率化しようとするものであり、1998年、海外臨床試験データ受け入れに関するガイドラインが最終合意されたことにより、一定の確認試験を実施すること等を条件に、異なる地域での臨床試験データを共有した承認申請が可能となっております。
⑤製造販売承認に関する申請
品質試験、非臨床試験及び臨床試験の資料をまとめて製造販売の承認申請を行います。医薬品の成分・分量、用法・用量、効能・効果、副作用等に関する審査を行ったうえで、厚生労働大臣が品目ごとに承認を与えます。また、業として医薬品を製造する者は、医薬品製造業の許可を受けなければなりません。⑥GQP、GVP及びGPSP
医薬品の製造販売を行う場合、品質管理に関する基準としてGQP(Good Quality Practice 「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令」(2004年9月22日厚生労働省令第136号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号))を遵守する必要があります。一方、GVP(Good Vigilance Practice「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(2004年9月22日厚生労働省令第135号 最終改正2014年11月21日厚生労働省令第128号))として、医療機関等からの自発報告や文献・学会報告等から副作用や感染症に関する情報等の安全性情報を収集し、評価・検討の上、安全確保措置を講じる必要があります。GQP及びGVPは医薬品製造販売業の許可要件となっております。
製造販売後、医薬品の有効性と安全性を再審査及び再評価するために必要な情報等の収集・分析・報告に関する管理及び実施体制が、GPSP(Good Post-marketing Study Practice 「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(2004年12月20日厚生労働省令第171号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号))に定められております。
これらGQP、GVP及びGPSPは、医薬品製造販売業許可を取得する者がその責任を負うことになります。
⑦遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)の遵守
国際的に、生物多様性条約が1992年に採択され、翌年より発効いたしました。これを受けて、2000年には生物の多様性を守るため、遺伝子組換え生物等の安全な取り扱い等につき、バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書が採択され、2003年より発効しております。本議定書は2014年10月現在、167の国及び欧州連合(EU)が批准・締結をしております。通称「カルタヘナ法」は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」として、国際協調に基づき各国で立法化されており、日本では2003年に法律が成立・公布され、2004年より施行されております。これにより、遺伝子組換え生物の封じ込めが厳格に規定されており、違反した場合、罰則が存在いたします。遺伝子組換え生物を取り扱う研究室や工場の運営に当たっては、本法律の遵守が必須であります。上記の医薬品の開発プロセスにおいて、当社が関連する領域は、医療用医薬品事業においては、① 基礎研究から⑦ カルタヘナ法の遵守までの領域のうち、⑥ 品質管理、安全管理及び製造販売後調査以外の全てとなります。当社グループは、ヒトの生命に関連する医薬品を開発する企業として、これらの法令・規制を徹底的に遵守する体制を整備し、事業を進めております。
(注)網掛け領域が、現時点における当社グループ事業に関連する開発プロセス領域となります。
(3)当社グループの製造プラットフォームについて
①BEVSとは
BEVSは、標的インフルエンザウイルスHAタンパクの全長遺伝子を遺伝子組換え技術によってバキュロウイルス(AutographacalifornicaNuclearPolyhedrosisVirus)29)に挿入し、これを株化30)した昆虫細胞に感染させ、細胞内で目的のタンパクを大量に発現できることに大きな特徴を有しております。BEVSは、組込む遺伝子の種類が変わっても生産条件を大きく変える必要がない、柔軟で効率的な製造技術であり、一部のタンパクの大量生産に向くため、低コストでタンパク医薬品を作ることができることから、バイオ医薬品製造技術の中でも有望なものの一つであります。当社の技術導入元であるPSCがBEVSを用いて開発した季節性インフルエンザワクチンFlublok®は、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)より承認を得ており、製造技術として確固たる地位を築くに至っております。BEVSを用いて製造されたワクチンには、この他にも、2011年にFDAにより承認された前立腺がん治療ワクチンProvenge®(Dendreon Corporation社製)があります。ワクチン以外では、欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)より承認されたリポ蛋白リパーゼ欠損症治療薬のGlybera®(UniQure BV社製)もBEVSを用いて製造されております。
当社が開発を行っているUMN-0502、UMN-0501、UMN-0901、UMN-2003及びUMN-2002は、BEVSを用いて製造した組換えタンパクまたは組換えVLPを有効成分とするワクチンであります。
②他の製造技術との比較―インフルエンザワクチンの例―
日本において製造販売されているインフルエンザワクチンは、孵化鶏卵中で増やしたウイルスを成分または全粒子の形で製剤化したものであります。しかし、この孵化鶏卵法では、インフルエンザの世界的流行(パンデミック)が起こった場合、孵化鶏卵の供給が追いつかず、全国民へのワクチン供給に1年以上を要してしまうこと、細胞毒性の強いウイルスの場合には、野生型のウイルスは培養が困難であること、ウイルスの鶏卵培養への馴化31)に時間がかかること、及び抗原性が変化してしまう可能性があること等の問題点があり、それらを克服すべく細胞培養法によるインフルエンザワクチンの開発が進められております。次世代の鶏卵を使用しない細胞培養による製造法には、BEVSの他に、イヌ腎臓尿細管上皮由来細胞(Madin-Darbycaninekidney(MDCK)細胞)、アフリカミドリザル腎臓上皮由来細胞(Vero細胞)、ヒト胚網膜芽細胞(PER.C6細胞)、アヒル胚由来幹細胞(EB66細胞)等を用いて増やしたインフルエンザウイルスを製剤化する方法が挙げられます。これらの細胞培養による製造方法は、インフルエンザウイルスをより増殖しやすいよう、鶏卵から他の哺乳動物の細胞系に置き換えたものであることから、インフルエンザウイルスそのものを用いることには変わりありません。
一方、当社グループのBEVSは、インフルエンザウイルスそのものを使用せずワクチンの成分であるHA遺伝子情報のみで製造が可能であり、組込む遺伝子の種類が変わっても生産条件を大きく変える必要がないため、短期間かつ大量に製造することができることから、インフルエンザワクチンの生産には非常に有利であると考えております。
③当社とPSCとの契約について
当社は、2006年8月に、日本におけるBEVSを用いた組換えインフルエンザHAワクチンの独占的な開発、製造及び販売権をPSCより取得し、BEVSに関する技術移管を行ってまいりました。当社の横浜研究所及び秋田研究所において実施した様々な研究開発活動により、培養と精製を中心とする工程を確立するに至るとともに、秋田県秋田市にPSCが保有するGMP製造施設と同様の培養規模である600Lスケール原薬生産施設である秋田工場のほか、岐阜県揖斐郡池田町に21,000Lスケール実生産施設である岐阜工場を整備し、製造工程の技術移管を完了しております。また2010年11月、当社はPSCとの間で本独占的事業化権を中国・韓国・台湾・香港・シンガポールに拡大する契約を締結しております。当社グループは、急速な経済発展が見込まれる一方で季節性やパンデミックインフルエンザ対策に力を注ぎつつあるこれらの国と地域において、開発・製造・承認申請・販売に係る各国の規制環境に合わせた事業展開を行うことが可能となっております。さらに、当社は、2014年12月に、PSCが米国市場で販売している季節性組換えインフルエンザHAワクチン Flublok®の原薬について、岐阜工場の国内必要供給量を上回る生産余力を活用して、PSCに供給することの可能性検討に関する基本合意を、PSC及び株式会社IHIと締結いたしました。東アジア地域のみならず、技術導入元が展開する先進諸国市場への展開についても可能性を追求しております。
④BEVSの発展性
BEVSは、インフルエンザワクチンへの適応性と応用性に非常に富んでおり、H5N1亜型以外に他の動物からヒトへの感染拡大が懸念されているインフルエンザウイルス株(H9N2亜型やH7N9亜型32)など)に適用可能であります。さらに、インフルエンザウイルスのHA以外のターゲットであるノイラミニダーゼ(Neuraminidase、以下、「NA」といいます。)33)をBEVSにて生産し、HAとNAとを混合したワクチンの研究開発もなされております。またBEVSは、デング熱、西ナイル熱など複数の新興・再興感染症に対する組換えサブユニットワクチン、ノロウイルスワクチンなど組換えサブユニットワクチンをさらに発展させたVLPワクチン、がんなどを対象とするペプチド治療ワクチン、タンパク治療薬等へと幅広く応用できる可能性を有しております。(4)当社グループの開発・製造実施体制について
①当社グループの重点領域と人材について
当社グループでは、製造プラットフォームであるBEVSの価値を最大化することを目的に、基礎研究や臨床開発のみならず製品供給までを重点活動領域としております。そのため、当社グループの取締役会及び研究・製造・生産・臨床開発の各組織は、製薬企業で長年研究開発や申請業務を経験した人材を中心に構成されております。各種ワクチンの開発及び承認申請経験を有する人材を臨床開発部に配置し、臨床試験を進めております。また、製造販売承認後、当社グループより製品供給を行うために、医療用医薬品工場の生産ライン部門、品質管理部門並びに品質保証部門にて実務経験のある人材を積極的に採用しており、GMPに準拠した医薬品製造施設の運営体制を構築しております。② 当社グループの研究施設と原薬生産施設について
多くの日本国民に安定した組換えワクチンを供給するため、BEVSの製造施設と研究所を国内に保有することが当社にとって必要不可欠であります。これまで、臨床開発だけでなく製造開発・生産施設建設にも資金を投入してまいりました。現在、当社は2つの研究施設を有しております。秋田大学医学部内にある秋田研究所では、動物実験等の基礎的研究を行っております。横浜研究所では、BEVSを用いて、カルタヘナ法に準拠した20Lから250Lスケールまでのパイロット培養が可能な培養槽をもつ製造実験設備を保有し、製造工程となる培養及び精製に関する初期検討を実施しております。また品質管理・工程管理に関する評価試験法の研究も行っております。
また、当社グループは、秋田県秋田市御所野湯本の秋田新都市産業団地内に約13,000㎡の敷地内に延べ面積約3,000m2、600L培養槽3基を設置する治験薬GMP34)準拠のパイロットスケール原薬生産施設となる秋田工場を有しております。秋田工場は、2010年7月より2011年3月までを助成期間とした厚生労働省「新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金」交付事業(第一次分)における実験用生産施設整備事業の助成金にて整備し、2011年4月より稼働しております。秋田工場の運営は株式会社UNIGENが行っており、徹底したGMP教育や管理教育を継続的に実施し、製造ライン要員の育成にも努めております。
さらに、株式会社UNIGENは、2012年2月に経済産業省「2011年度国内立地推進事業費補助金」の採択を受けるとともに、同月に株式会社三井住友銀行をアレンジャーとするシンジケートローンを組成、同年3月より岐阜県揖斐郡池田町にGMP適合予定の実生産施設として岐阜工場の建設を開始し、2013年5月に竣工いたしました。岐阜工場は、延べ面積約14,000㎡に21,000Lスケール培養槽2基を設置し、相応の生産能力を有する生産施設であり、2014年11月に、医薬品を製造するにあたり旧薬事法(現「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(1960年8月10日法律第145号、最終改正2014年11月27日法律第122号、以下、「医薬品医療機器等法」といいます。)にて取得が義務づけられている医薬品製造業許可を取得しております。なお、岐阜工場は、上記スケール培養槽を最大で8基まで増設することが可能であり、秋田工場と同様にBEVS以外のバイオ医薬品の原薬製造にも転用可能な設計となっており、当社開発パイプライン以外のバイオ医薬品受託製造事業の拠点機能も担っております。
(5)当社の開発パイプライン(開発中の品目)
現在、下記パイプラインの開発が進行中であります。①開発コード:UMN-0502(季節性組換えインフルエンザHAワクチン(多価))
UMN-0502は、一般的には季節性インフルエンザワクチンに当たるもので、毎年冬のシーズンに接種する予防ワクチンであります。インフルエンザウイルスには、A・B・Cの3型があり、特にA型とB型は感染性が強く流行しやすいことからワクチンによる予防の対象となっております。これらのウイルス粒子表面にはHAとNAという2つの糖タンパクが存在しております。HAはインフルエンザウイルスが細胞に進入する際に機能するタンパクであり、NAは細胞内で増殖したウイルスが細胞外に出る際に機能するタンパクであります。これらが感染防御免疫の標的抗原とされております。A型に関しては、少なくとも16種類のHAが存在し、9種類あるNAとの組み合わせにより、ウイルスのタイプが決定されます。例えばH1N1インフルエンザウイルスは、HAの1番目の亜型とNAの1番目の亜型の組み合わせで構成されております。
UMN-0502は、主としてHAタンパクを抗原としてヒトに免疫応答を誘導する薬剤であり、H1N1の亜型、H3N2の亜型、B型等のウイルス株のHAが入った組換えインフルエンザHAワクチンであります。米国ではPSCがFlublok®の商標にてFDAより承認を取得しております。PSCが米国にて承認を取得するにあたり、第Ⅲ相臨床試験までに実施した臨床試験は合計12試験あり、参考試験である医師主導試験を含め、合計4,163例の被験者に対してFlublok®(UMN-0502)が接種されております。検討したすべての用量での良好な安全性と忍容性が示されており、当社は次世代を担うインフルエンザワクチンになると考えております。
日本においては、アステラス製薬株式会社と共同で、2011年8月より第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を実施いたしました。当該試験は、20歳以上50歳未満の健康な成人男女を対象とし、1群55例計3群165例に対して接種が行われ、2011年12月に承認要件を満たす免疫原性と優れた忍容性が確認されました。当該試験結果を受けて、2012年11月より65歳以上高齢者1,060名を対象とした第Ⅲ相臨床試験を開始、2013年3月に、国内既承認孵化鶏卵ワクチンに対し、免疫原性において非劣性基準を満たすとともに、安全性に大きな問題がないことが確認されました。同年10月より、年齢層を変えて20歳以上65歳未満の健康成人900名を対象とした同様の第Ⅲ相臨床試験を開始、2014年1月に、高齢者に対する第Ⅲ相臨床試験と同様に国内既承認孵化鶏卵ワクチンに対し、免疫原性において非劣性基準を満たすとともに、安全性に大きな問題がないことが確認されました。また、これら第Ⅲ相臨床試験に加え、筋肉内接種での免疫原性及び安全性を確認することを目的として、61歳以上の成人55名を対象とした試験についても、良好な免疫原性が確認されるとともに、安全性に大きな問題がないことが確認されました。これらの臨床試験結果を受け、2014年5月にアステラス製薬株式会社が、インフルエンザの予防の効能・効果で、厚生労働省に製造販売承認申請を行っております。
また、韓国においては、2012年12月に締結した日東製薬株式会社との共同開発及び独占的販売に関する契約に基づき、PSC及びアステラス製薬株式会社が実施した米国及び日本での臨床試験結果を活用し、早期承認を得るべくブリッジング試験を積極的に進める計画であります。台湾及び中国においては、2013年10月に國光生物科技股份有限公司に対して商業化に関する優先交渉権を供与する契約を締結しております。
さらに、PSCが米国市場で販売している季節性組換えインフルエンザHAワクチンFlublok®の原薬について、岐阜工場の国内必要供給量を上回る生産余力を活用して、PSCに供給することの可能性検討に関する基本合意を、当社、PSC及び株式会社IHIと締結、PSCが権利を有する先進諸国への原薬供給を視野に入れた活動を開始しております。
②開発コード:UMN-0501(組換えインフルエンザHAワクチン(H5N1))
UMN-0501は、近年世界的流行の危険性が指摘され、世界レベルでその対応が急務となっている高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1亜型に対する予防ワクチンであります。インフルエンザウイルスの最も特徴的な性質は、毎年のように変異を起こすことであり、その程度により、ワクチンの効果は毎年のように変わります。変異には、「連続抗原変異」と「不連続抗原変異」があります。前者は遺伝子に大きな変化が起きているわけではないことから、ウイルス株の差によってワクチンの効果にあまり変化は見られません。しかしながら、不連続抗原変異の場合、突然変異によって遺伝子に大きな変化を伴うため人類には免疫がなく、しばしば世界的流行が起こります。この大流行は、一般的に「パンデミック」と呼ばれております。2009年に新型インフルエンザA(H1N1)のパンデミックが起きたことは、記憶に新しい経験であります。近年H5N1をはじめとする高病原性鳥インフルエンザウイルスが出現しており、渡り鳥の感染死や家鶏への伝播が数多く報告されております。種を超えて鳥からヒトへ、さらにヒトの間で感染するようになる、致死率の高いパンデミックを起こす危険性が指摘されております。交通機関の発達した現代においてパンデミックが起こると、感染は特定地域に留まらず、極めて短期間かつ広範囲に感染者数が増加する可能性があります。したがって、流行するインフルエンザウイルスの亜型に適合したワクチンを短期間で製造し、できる限り多くのヒトに対して接種することが感染拡大予防のために重要であります。UMN-0501は、このようなパンデミック対応用の組換えインフルエンザHAワクチンであります。
当社は、2008年6月よりUMN-0501の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を開始いたしました。当該試験は、20歳から40歳の健康な男性を対象とし、1群25例計5群125例に対して接種が行われ、重篤な有害事象は観察されず安全性が確認されるとともに、アルミニウムアジュバント35)を用いずに免疫原性を確認いたしました。本成績は、2009年2月スイス・ジュネーブにおいて開催された、世界保健機関(World Health Organization、以下、「WHO」といいます。)の高病原性鳥インフルエンザワクチン臨床試験の評価会議である「5thWHO Meeting on Evaluation of Pandemic Influenza Prototype Vaccines in Clinical Trials」にて発表いたしました。2009年10月より実施された第Ⅱ相臨床試験において、20歳から40歳の健康な男女90名を対象として、UMN-0501の免疫原性、安全性及び臨床用量の検討を行いました。解析結果では用量依存的な免疫原性が確認され、国際的に使用されているインフルエンザワクチンの有効性の評価基準をほぼ満たしました。また、接種による忍容性は良好であり、重篤な有害事象や高度な全身反応は試験期間を通じて観察されませんでした。日本においては、アステラス製薬株式会社と共同で、2011年8月より第Ⅱ相臨床試験を実施いたしました。当該試験は、20歳から40歳の健康な成人を対象とし、Part1は1群10例計3群30例、Part2は1群50例計3群150例に対して接種が行われ、2012年3月に良好な免疫原性と優れた忍容性を確認しております。東アジア主要国においては、各規制当局との交渉によりますが、韓国においてはUMN-0502と同様に、日東製薬株式会社との共同開発及び独占的販売に関する契約に基づき、当社及びアステラス製薬株式会社が実施した日本での臨床試験結果を活用し、ブリッジング試験を実施する計画にしております。台湾及び中国においては、UMN-0502と同様に、國光生物科技股份有限公司に対して商業化に関する優先交渉権を供与する契約を締結しております。
③開発コード:UMN-0901(組換えインフルエンザHAワクチン(H9N2株))
UMN-0901は、UMN-0501と同様、パンデミックインフルエンザを引き起こしうるウイルスとして懸念されている、H9N2亜型インフルエンザウイルスに対するワクチンであります。WHOはH5N1亜型だけでなく、H9N2亜型に対するワクチンの開発も推奨しております。H9N2亜型は、主にアジア・中東諸国を中心に発生しており、中国におけるヒトへの感染例や、ブタ・鳥からのウイルス検出が報告されております。本株はH3N2亜型ウイルスと遺伝子の再集合36)を起こしやすく、変異によりヒトへの感染性が強くなる可能性が高いとされております。動物における毒性は弱く、ヒトに感染しても症状が軽く見分けにくいことが予想され、伝播しやすい傾向があると考えられます。しかしながら、日本において本亜型に対するワクチンの開発は未だに行われておりません。BEVSによるH9N2亜型のHA製造については、既にPSCにおいて実績があり、当社グループでも、UMN-0502やUMN-0501と同様、BEVSを用いて製造することが可能であると考えており、現在、早期に臨床試験を開始することを目的として非臨床試験を実施中であります。また、韓国においては、UMN-0502及びUMN-0501と同様に、日東製薬株式会社との共同開発及び独占的販売に関する契約を締結しております。さらに、台湾及び中国においては、UMN-0502及びUMN-0501と同様に、國光生物科技股份有限公司に対して商業化に関する優先交渉権を供与する契約を締結しております。④ 開発コード:UMN-2003(組換えノロウイルスVLP+組換えロタウイルスVP6混合ワクチン)、UMN-2002(組換えノロウイルスVLP単独ワクチン)
UMN-2003は、ノロウイルス2遺伝子型のウイルス様粒子(VirusLikeParticle:VLP)とロタウイルスのウイルスタンパク(VP6)を混合した、アジュバントを含まない3価ワクチンであります。ノロウイルス、ロタウイルスともにウイルス性胃腸炎の主要な原因ウイルスであり、本ワクチン接種により、両ウイルスへの感染を一つのワクチンで予防することが期待されます。
ノロウイルスは、ウイルス遺伝子配列の相同性によって大きく2群(GⅠ、GⅡ)に分類され、GⅠはさらに15種類の遺伝子型GⅠ-1~GⅠ-15、GⅡはさらに20種類の遺伝子型GⅡ-1~GⅡ-20に分類されます。UMN-2003は、複数の遺伝子型のノロウイルスに対して交差免疫を発揮するよう設計され、GⅠ-3とGⅡ-4のVLPを含みます。
ロタウイルスの粒子は、3層のカプシド(殻)タンパクで覆われており、中間のカプシドを構成するタンパクVP6によって群(A群~G群)が決定されます。ヒトのロタウイルス感染症の病原体としては、A群が最も一般的であることから、UMN-2003は、A群のロタウイルスから得られたVP6の組換えタンパクをワクチン抗原としております。
UMN-2003の発明者は、フィンランドのタンペレ大学ワクチン研究センターのティモ・ヴェシカリ教授、ヴェスナ・ブラゼヴィッチ博士であり、当社は、2012年1月にUMN-2003の全世界における独占的事業化権を許諾されております。タンペレ大学におけるマウスを用いた試験ではBEVSで製造したノロウイルスVLP とロタウイルスVP6を混合接種することで、それぞれの抗原性に干渉することなく、高い免疫原性が確認されており、現在、非臨床試験を実施中であります。
また、2014年2月に第一三共株式会社と「ノロウイルスワクチンの共同研究契約」を締結したことに伴い、UMN-2002を開発パイプラインとして新たに設定いたしました。
毎年、全世界でノロウイルスにより約20万人、ロタウイルスでは約45万人が命を落としていると言われております(Emerg Infect Dis. 2008;Vaccine 2012)。先進国においては死に至るケースは少ないものの、医療経済的損失が甚大なためワクチンによる予防が求められておりますが、市販されたノロウイルスワクチンは未だありません。ロタウイルスに対する生ワクチンは多くの国で接種可能ですが、腸重積症を誘発する副反応の懸念が払拭できず、生ワクチンに代わる安全性の高いワクチンの開発が強く望まれると考えております。
(6)日本及び東アジアにおける組換えインフルエンザHAワクチンに関する事業提携について
下記により、当社は組換えインフルエンザHAワクチンに関し、研究・開発・製造・販売の日本及び韓国におけるバリューチェーンを完成いたしました。①株式会社IHIとの提携について
2010年1月、当社及び株式会社IHIは、当社が開発する日本初の組換えインフルエンザHAワクチン原薬の製造事業に関して、共同で事業運営を行う基本協定「協業に関する基本協定書」を締結いたしました。本協定に基づき、同年5月に組換えインフルエンザHAワクチンの原薬製造事業を目的とする株式会社UNIGENを設立し、当社連結子会社といたしました。さらに同年6月に当社及び株式会社IHIと共同で増資を行い、BEVSを用いたバイオ医薬品原薬製造事業の協業活動を開始いたしました。ワクチン生産体制の構築に必要な培養技術や工業化開発などで相互に知見を蓄えており、原薬生産施設と工程の確立に関し相乗的な効果を発揮しております。株式会社UNIGENは、組換えインフルエンザHAワクチンの迅速な供給ニーズに対応するため、効率的な生産施設の運営に向けた整備を行っております。②アピ株式会社との提携について
2010年4月、当社及びアピ株式会社は、当社が開発する組換えインフルエンザHAワクチンの製剤工程業務に関して包括提携を行う「基本協定書」を締結、同社に対して製剤工程業務を独占的に委託することを目的とする「製造委託基本契約書」を2011年3月に締結しております。当該提携により、当社及び株式会社IHIが共同で製造する組換えインフルエンザHAワクチン原薬を、市場に供給する最終製品に仕上げることが可能となりました。市場への安定供給を可能にするため、共同で製剤開発研究を行っております。③アステラス製薬株式会社との提携について
2010年9月、当社及びアステラス製薬株式会社は、UMN-0502及びUMN-0501の日本における共同開発、独占販売に関し、「細胞培養インフルエンザワクチンの共同事業化契約」を締結いたしました。本契約に基づき、臨床試験はアステラス製薬株式会社が主体となって実施し、当社は臨床試験に供する治験薬を同社に提供いたします。また、アステラス製薬株式会社が製造販売承認の申請を実施し、当社グループは製品に関する承認申請データを取得し、同社に提供いたします。販売開始後は、当社グループがアステラス製薬株式会社に対して最終製品を供給し同社が独占的に販売を行います。これら、共同事業化を進めるに当たって、当社及びアステラス製薬株式会社にて別途共同開発会議を設置し、重要な意思決定を行いながら開発を進める体制となっております。
また、当社は、提携に伴う一時金、UMN-0502の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験終了及び製造販売承認申請に伴う開発マイルストーンペイメントを収受しており、今後もUMN-0502及びUMN-0501それぞれの開発進捗に応じてマイルストーンペイメントを収受いたします。また、UMN-0502については販売開始後に一定販売高に達した場合、その販売高に応じてマイルストーンペイメントを収受いたします。これとともに、当社はアステラス製薬株式会社に対して最終製品を合意された計算式に基づく価格にて供給し、また一定料率のランニングロイヤリティを収受いたします。
④ 日東製薬株式会社との提携について
2012年12月、当社及び日東製薬株式会社は、UMN-0502、UMN-0501及びUMN-0901の韓国における共同開発及び独占的販売に関し、「Agreement For The Co-development And Commercialization Of Recombinant Influenza HA Vaccines In South Korea」を締結いたしました。本契約に基づき、臨床試験は、日東製薬株式会社が主体的に実施し、当社は臨床試験に供する治験薬を有償にて供給いたします。また、承認申請は同社が実施いたします。販売開始後は、当社グループが日東製薬株式会社に対して原薬を供給し、同社が最終製品化し、独占的に販売を行います。
また、当社は、提携に伴う一時金を収受しておりますが、今後も開発段階に応じて開発マイルストーンペイメントを収受いたします。
(7)バイオ医薬品受託製造(BCMO)事業について
当社グループは、次世代バイオ医薬品自社開発事業において整備した横浜研究所及び秋田工場、並びに岐阜工場の施設群、これら施設に従事するバイオ医薬品生産・品質管理等のノウハウに長けた人材を活用して、バイオ医薬品受託製造事業の展開を開始いたしました。
2012年7月に、アピ株式会社とバイオ医薬品受託製造事業に関する提携契約を締結し、原薬製造及び製剤化の一貫受注体制を確立するとともに、2012年12月には、Catalent Pharma Solutions, Inc.と抗体医薬を対象としたバイオ後続品の生産株を非独占で供給を受ける契約を締結し、受注体制の整備を図ってまいりました。
これらの活動の結果、2013年6月に、アピ株式会社及び株式会社ヤクルト本社とがん領域における抗体バイオ後続品に関する共同事業契約を締結、同年12月に2品目についても共同事業契約を締結いたしました。
当社グループの当該事業領域における強みは、以下のとおりであります。
① 開発初期から商用生産まで顧客のあらゆるニーズに応えることが可能な生産体制を構築
② 自社開発事業を通じてGMP生産や品質管理における開発ソリューションを提供
③ 岐阜工場において、季節性インフルエンザワクチンの生産時期である3月から7月を除く
期間において受託生産を行うことによる高いコスト競争力
今後、これらの強みを生かして、単に受託に留まらず、開発的要素を有する受託事業を展開し、製品供給による収益に加えて製造に関するランニングロイヤリティも収受可能な事業を推進してまいります。
用語集
1) | Protein Sciences Corporation 1983年に設立された米国コネチカット州メリデンにあるバイオベンチャー企業。タンパク製造技術BEVS(Baculovirus Expression Vector System ※後述)に関する特許を有しており、医薬品用タンパク製造のための施設を有し、予防ワクチン、治験薬、診断薬の研究開発及びタンパク受託生産を主な事業としている。同社の季節性組換えインフルエンザHAワクチン「Flublok®」は2013年1月FDAより18歳から49歳までを対象として承認を取得し、販売を開始している。 |
2) | BEVS(BaculovirusExpressionVectorSystem) 当社グループの開発パイプラインの製造プラットフォームとなる基盤技術。 「3事業の内容(3)当社グループの製造プラットフォームについて①BEVSとは」にて詳細を記載しております。 |
3) | 組換え ある種の成分を生産することを目的として、その成分の基となる遺伝子配列を違う種類の生物の遺伝子配列に組み込むこと。 |
4) | HA(Hemagglutininヘムアグルチニン) invitroにて赤血球の凝集体を作らせる働きを有する糖タンパクで、インフルエンザをはじめとするウイルスや細菌等の表面に存在する。ウイルスは、ヘムアグルチニンの働きにより、細胞に感染する。HA1とHA2からなるモノマー(単量体)がトリマー(三量体)を形成する構造をとる。 |
5) | 多価 医薬品の有効成分が、2つ以上含まれるものをいう。 |
6) | H5N1 A型インフルエンザウイルス表面には、ヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA、下記33)参照)があり、インフルエンザウイルスはHAとNAの種類によってHとNの番号が付される。A型インフルエンザウイルスにおいては、HAが少なくとも16種類(H1~H16)、NAは9種類(N1~N9)存在している。H5N1は、H5とN1の組み合わせをもつウイルス株であることをいう。 |
7) | 原薬 医薬品の成分のなかで、目的とする効果を示す化学成分のことで、医薬品の有効成分といわれるもの。 |
8) | H9N2 6)に記載するH5N1と同様に、H9とN2の組み合わせをもつウイルス株であることをいう。 |
9) | VLP(VirusLikeParticle) ウイルスの外殻のみを持ち、内部にはウイルスゲノムを持たない中空のウイルス様粒子のこと。ウイルスゲノムを持たないことから宿主内で増殖できないが、外殻に対する抗体産生を誘導する。VLPは、組換えタンパクの単一分子と比べはるかに大きく、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に病原体の如く貪食されやすいため、アジュバントなしで強力な免疫を誘導する抗原として期待されている。世界で広く使用されているヒトパピローマウイルスワクチン「サーバリックス®」はBEVSで製造されたVLPワクチンである。 |
10) | ロタウイルスVP6 当社が開発中のロタウイルスに対するワクチンの成分。 「3 事業の内容 (5)当社の開発パイプライン ④ 開発コード:UMN-2003(組換えノロウイルスVLP+組換えロタウイルスVP6混合ワクチン)、UMN-2002(組換えノロウイルスVLP単独ワクチン)」に詳細を記載しております。 |
11) | 希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ) 医薬品医療機器等法第77条の2に基づき、対象患者数が本邦において5万人未満であること、医療上特にその必要性が高いものなどの条件に合致するものとして、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定するものである。 |
12) | ブースター 追加免疫効果のこと。体内で一度獲得された免疫機能が、再度抗原を接種することにより、更に免疫機能が高まることをいう。 |
13) | 免疫原性 生体に投与した時、抗体の産生をもたらす性質のこと。通常、細菌やウイルスなどの外来病原体や人為的な注射などで体内に入るタンパク質がこのような性質をもつ。 |
14) | 忍容性 医薬品を投与した場合、明白な有害作用(副作用)が被験者にとってどれだけ耐えうるかの程度を示す。忍容性が高いとは、全身性・局所性の副反応が少なく、与薬の継続に支障をきたさないことを意味する。 |
15) | 製造プラットフォーム 当社グループの重要な事業の一つは製造であります。BEVSは、ワクチン等の医薬品の製造技術であり、当社の製造面を支えるプラットフォーム技術と位置付けております。 |
16) | アジュバント ワクチンなどの抗原と一緒に注射され、その抗原性を増強するために用いられる薬品のこと。 |
17) | 製造設備バリデーション 製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待されている結果を与えることを検証し、これを文章化することをいう。 |
18) | リード化合物 最終的な医薬品を導出する出発点となる化合物。生理活性を有し、その化学構造は医薬品としての有効性や薬物動態における要素を改良していくための始発点となる。開発を進めるために、化学構造を改良する必要がある。 |
19) | 化学修飾 ある物質に化学反応によって新しい原子団などを結合させること。低分子医薬品の場合、有効性の向上、安定性の向上、副作用の軽減等を目的として、様々な化学修飾の検討を経て候補化合物が決定される。 |
20) | 信頼性基準 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第43条に定められる「申請資料の信頼性の基準」をいう。 |
21) | 物性試験 医薬品候補物質の構造、物理的・化学的性質、安定性、品質などを検証し、医薬品としての規格を決定することを目的とした試験。 |
22) | 薬物動態試験 医薬品候補物質及びその代謝物の吸収・分布・代謝・排泄といった体内動態を検討し、安全域を推測するとともに、ヒトでの投与量や回数を推定することを目的とした試験。 |
23) | 単回毒性試験 医薬品候補物質を単回投与し、その毒性を質的量的側面から明らかにすること。 |
24) | 反復毒性試験 医薬品候補物質を複数回投与し、毒性変化を示す量、毒性の内容、及び安全域を明らかにすること。 |
25) | がん原性試験 医薬品候補物質ががんを引き起こす要因になるかどうかを明らかにすること。 |
26) | 変異原性試験 生物の遺伝情報(DNAあるいは染色体)に変化を引き起こす作用を有する物質または物理的作用(放射線など)の性質あるいは作用の強さを明らかにすること。 |
27) | 偽薬(プラセボ) 真の医薬品と外見上は全く一緒であるが、医薬品としての有効成分が一切入っていない偽物の薬をいう。 |
28) | 二重盲検比較試験 被験者に割り付けられた治験薬(被験薬あるいは偽薬)を、被験者だけでなく、医師を含む治験実施スタッフや治験依頼者も知らないように進める試験(DoubleBlindStudy)。統計的にデータの信頼性を担保するための医薬品の臨床試験デザインの一つである。 |
29) | バキュロウイルス(Baculovirus) 核多角体病ウイルス(NPV)と顆粒病ウイルス(GV)の2属に分けられるDNAウイルス。ビリオン(細胞外に存在し、感染性を有する完全なウイルス粒子)は大型の棒状をしている。種特異性が高く、節足動物(大部分はチョウ目の幼虫)に感染する。ヒトの細胞では感染増殖をしない。ヒトを含む哺乳動物に対しては病原性がなく安全である。 |
30) | 株化 長期間にわたって、生体外で維持され、一定の安定した性質を有する状態に至った細胞を細胞株という。株化した細胞は、継代培養が可能となる。 |
31) | 馴化(じゅんか) 高病原性鳥インフルエンザウイルスは、鳥類の細胞に強い毒性を持つため、ワクチン製造に際し孵化鶏卵に感染させると胚が死んでウイルスが増殖しない。また、毒性の強くないインフルエンザウイルスであっても、鶏卵内での増殖が遅くワクチン製造に支障が出る場合がある。これらの場合に、ウイルスを孵化鶏卵にて迅速に増殖できるよう適応させることを馴化と呼ぶ。 |
32) | H7N9 用語集6)H5N1、8)H9N2と同様に、H7とN9の組み合わせをもつウイルス株であることをいう。 |
33) | ノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA) 動物の種々の臓器、微生物、ウイルスに存在する酵素で、シアル酸を糖タンパクや糖脂質から切り離す作用を有する。インフルエンザウイルスのもつノイラミニダーゼは、ウイルス表面にあるHAと宿主細胞表面のシアル酸の結合を切断することで、ウイルスが細胞外に放出され増殖することが可能となる。 |
34) | 治験薬GMP 製造販売承認前に実施する治験において使用されるサンプルを製造する場合に適用されるGMP省令をいう。 |
35) | アルミニウムアジュバント 用語集16)アジュバントのうち、水酸化アルミニウム(Alum)を用いたもの。一般的に、Alumの添加によりワクチンによる効果のみならず副反応も増加する。 |
36) | 遺伝子の再集合 異なる2種類のインフルエンザウイルスが混合感染した時に、感染細胞内で遺伝子分節(A型インフルエンザウイルスは8種類のRNA遺伝子分節から成る)が様々な組合せで再集合(遺伝子再集合,reassortment)をおこし、別の組み合わせの遺伝子をもった遺伝子再集合体(reassortant)が出現すること。 |
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