有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S10058N4
株式会社リプロセル 事業の内容 (2015年3月期)
当社グループは当社(株式会社リプロセル)及び最先端のiPS細胞試薬を手掛ける米国のグループ企業Stemgent, Inc.(ReproCELL USA, Incより商号変更)、ヒト生体試料のバンキング・提供を行う米国のグループ企業BioServe Biotechnologies, Ltd.、3次元培養デバイスの開発・製造・販売を手掛ける英国のグループ企業Reinnervate Limited並びに次世代の創薬・医療ビジネスの創造にフォーカスしたベンチャーキャピタルファンド「Cell Innovation Partners, L.P.」の無限責任組合員への出資等を行う子会社(RCパートナーズ株式会社)の5社により構成されております。
当社グループは、iPS細胞の技術を基盤とした(1)iPS細胞事業と、臓器移植等に係わる(2)臨床検査事業を展開しております。また、iPS細胞事業は研究試薬製品と細胞製品、受託サービスの3つに大きく分けられます。
事業の概要は以下のとおりであります。なお、次の2事業は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項」に掲げるセグメントの区分と同一であります。
(1) iPS細胞事業
a.事業環境
ヒトの体は60兆個以上、200種類以上の細胞で構成されていると言われています。ヒトは、もともとは1つの受精卵から始まり、分裂、増殖を繰り返しながら、神経細胞、心筋細胞、肝細胞など、成体を構成する様々な細胞に分化(変化)していきます。我々の体の中には、このように最終的に分化した細胞と分化途上の細胞が存在しており、前者を体細胞(*)、後者を体性幹細胞(*)と言います。
体性幹細胞としては、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞などがあり、これらは、限定された範囲内でのみ各種の細胞に分化することができます。例えば、造血幹細胞は、骨髄に多く存在することが知られており、白血球や血小板など全ての血液系細胞を作り出していますが、神経などの異なる細胞種には分化しません。
一方、体性幹細胞よりも未熟な細胞として、胚性幹細胞(通称、ES細胞:Embryonic stem cell)があります。ES細胞は、受精卵から1週間ぐらい経過した胚盤胞という状態の内部の細胞塊を取り出したもので、心筋、神経、肝臓、血液など理論上は体内の全ての種類の細胞に分化することが可能です(これを多能性と言います)。体性幹細胞は限られた範囲内でしか分化できないのに対し、ES細胞では分化できる範囲が格段に広いのが大きな特徴です。また、ES細胞は、培養器内で、1週間で約10倍、2週間で100倍、3週間で1,000倍というように、長期の大量培養が可能です。一方、我々の体を構成する様々な細胞(体細胞及び体性幹細胞)では、増殖能力に限界があり、正常な状態を維持しながら長期培養することは困難です。このように、ES細胞は、多能性と高い増殖性という2つの大きな特徴がある特異な細胞であり、学術的には「多能性幹細胞」、通称「万能細胞」と呼ばれています。
ES細胞はインフォームドコンセント(*)を取得した上で、不妊治療の過程で不要になった余剰胚から作製しますが、受精卵を使用することに関して各国で様々な倫理的議論がされています。このような背景の中、受精卵を使用しない新たな「万能細胞」を京都大学の山中伸弥教授が発明されました。
2006年、山中教授は、マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を導入することで、マウスES細胞と同様の性質を有する新しい細胞を作製することに成功しました。さらに、翌2007年にはヒトの皮膚細胞からも同様の細胞を得ることに成功し、一躍世界の脚光を浴びることになりました。この新しい細胞は、人工多能性幹細胞(通称、iPS細胞:induced pluripotent stem cell)と名付けられ、新たな「万能細胞」と位置づけられています。iPS細胞はES細胞とほぼ同等の性質を持っています。つまり、心筋、神経、肝臓、血液など様々な細胞に分化する能力を持ち、さらに培養器内で大量に増殖することが可能です。iPS細胞は受精卵を使用せず作製可能であるため、世界中で研究が急速に進むことになりました。
また、iPS細胞及び再生医療は政府の成長戦略の一つとして掲げられており、iPS細胞に関連した基礎及び臨床の研究者が増加しております。さらに、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」並びに「薬事法等の一部を改正する法律」が2014年11月25日に施行されたことにより、大手製薬企業を含めた企業サイドによる再生医療の事業化に向けた取り組みがはじまる中で、当社グループも本格的な当該事業分野進出に向け、ロードマップの策定に取り組んでおります。
ES細胞とiPS細胞
細胞の種類と特徴
b.細胞ビジネスの概要
これまで、ヒト細胞の供給はドナー(*)に依存する部分が大きくヒト細胞を大量に供給することは困難でした。例えば、骨髄移植では適合ドナーが容易に見つかる状況ではありません。この状況が、ES細胞/iPS細胞の登場により大きな変化を迎えようとしています。つまり、これらの細胞を使用することで、神経細胞や心筋細胞などの様々な体細胞をドナーに頼らず大量に作製することが可能になります。ES細胞/iPS細胞は大量に増殖できるので、細胞供給源が尽きることはありません。この特徴を利用した新しい細胞ビジネスの可能性が広がっており、研究試薬、創薬応用、テーラーメイド医療、再生医療などが代表的なものとしてあげられます。以下、説明します。
研究試薬:
ES細胞/iPS細胞の研究を行う際に使用する研究試薬になります。研究試薬には様々な種類があり、例えば、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体、などがあります。研究試薬は細胞の種類、培養方法、測定方法などによって様々な種類があります。例えばヒトiPS細胞の培養液の場合、培養方法によって異なる培養液が数種類販売されていますし、ヒトiPS細胞を識別するためのマーカーについても同様に多種類販売されています。対象顧客は、大学等の公的研究機関や製薬企業等の民間研究機関になり、現在、世界中で盛んに研究が行われています。
当社グループでは、ヒトES/iPS細胞に特化した研究試薬製品の製造販売やiPS細胞の作製効率が従来手法に比べ、100~1,000 倍に向上し、より臨床応用に近い安全性をも有するiPS細胞技術を導入した「RNAリプログラミングキット」や、iPS細胞から心筋、肝臓、神経細胞への変化を効率的に促進する「スモールモルキュール」、より生体内に近い3次元細胞培養を実現し、より高機能な細胞が得られる培養用プレートである「Alvetex」等を主なラインナップとしております。
創薬応用:
ES細胞/iPS細胞から、神経細胞、心筋細胞、肝細胞など様々な細胞を作製し、それを創薬スクリーニングに利用します。これにより、製薬企業が新薬候補化合物の薬効評価及び毒性評価を効率的に行うことが可能になります。また、動物実験を大幅に低減できるとの期待もあります。主な対象顧客は製薬企業や化学系企業であり、現在、当該技術の初期導入が進んでいます。
当社グループでは、iPS細胞の技術プロセスの上流から下流までを当社グループでカバーすることで豊富な品揃えを実現し、顧客利便性が大きく向上しています。ヒトDNA、組織、血清サンプルといったヒト生体試料やiPS細胞、さらにはiPS細胞由来の心筋、神経、肝臓の細胞等を作製して販売しています。
テーラーメイド医療:
個人から採取した細胞(例えば、皮膚や血液)からiPS細胞を作製し、その細胞を使って個別に病態診断や医薬品の適合性判断が行える可能性があります。現在、iPS細胞技術を使って、患者から採取した細胞から病態モデル細胞を作製する研究が盛んに行われていますが、将来的にこれらの研究成果を活用することで、個々人に最適な薬剤や処方量を選択することができる可能性があります。
再生医療:
ES細胞/iPS細胞から神経細胞、心筋細胞、肝細胞など様々な細胞を作製し、患者に移植することで組織の再生を行います。脊椎損傷や心筋梗塞など、生体内で損傷または壊死した組織は、新たに細胞を移植する方法が有効と考えられています。一方、ヒト細胞を供給するためにはドナーに依存せざるを得ず、ドナー不足の解決が課題になっています。ES細胞/iPS細胞から新たに細胞を作り出す技術は、この課題を根本的に解決し、ドナーに依存しない新しい再生医療として注目を集めています。現在、米国ではヒトES細胞を使った再生医療の臨床試験(*)が進められており、近い将来、再生医療が実現すると期待されています。
ES細胞/iPS細胞を使ったビジネス
以上のように、ES細胞/iPS細胞は次世代バイオ産業の中心的存在として期待されています。
研究試薬分野はすでにグローバルに市場を形成しており、成長性の高い市場と言えます。一方、創薬応用は、これまでの創薬プロセスを大幅に効率化する新規技術として期待されており、製薬企業でも技術導入に向けた動きが出てきました。当社は、現時点で、研究試薬と創薬応用の2つに注力して事業展開していますが、将来的には、テーラーメイド医療や再生医療への展開も可能と考えています。
以下、研究試薬製品と細胞製品について説明します。
① 研究試薬製品
研究試薬製品については、iPS細胞に関わる様々な研究試薬を大学や公的研究機関、製薬企業等に製造・販売しています。iPS細胞の研究に必要な、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体などのiPS細胞に最適化された各種研究試薬をはじめ、iPS細胞の作製効率が従来手法に比べ、100~1,000倍に向上し、より臨床応用に近い安全性をも有するiPS細胞技術を導入した「RNAリプログラミングキット」や、iPS細胞から心筋、肝臓、神経細胞への変化を効率的に促進する「スモールモルキュール」、より生体内に近い3次元細胞培養を実現し、より高機能な細胞が得られる培養用プレートである「Alvetex」等を主なラインナップとしております。
② 細胞製品及び受託サービス
細胞製品は製薬企業等による創薬を支援する製品として製造・販売し、製薬企業等において新薬候補化合物の薬効試験や毒性試験の実験材料として使用されます。iPS細胞の技術プロセスの上流から下流までを当社グループでカバーすることで豊富な品揃えを実現し、顧客利便性が大きく向上しています。ヒトDNA、組織、血清サンプルといったヒト生体試料やiPS細胞、さらにはiPS細胞由来の心筋、神経、肝臓の細胞等を取り扱っております。また、受託サービスについては、カスタマイズした疾患モデル細胞製品の作製受託等、顧客の要望にきめ細かく対応するための様々な差別化されたサービスラインナップを提供しております。iPS細胞培養の受託サービスやDNA等の抽出・遺伝子型判定等を行う前臨床分子解析サービスを提供している他、アルツハイマー病やパーキンソン病等の患者から集めた生体試料をもとにカスタマイズした疾患型iPS細胞由来の細胞製品の受託培養等を行っております。
ヒトiPS細胞由来の心筋細胞(左)、神経細胞(中央)、肝細胞(右)
iPS細胞事業の事業系統図
ヒトiPS細胞の創薬応用
医薬品の研究開発は、各製薬企業の有する数十万~数百万種類の化合物ライブラリーについて数々の薬効試験及び毒性試験に関するスクリーニングを行い、最終的に1つの新薬を見いだすプロセスになります。1つの医薬品の開発に、10-15年以上の研究開発期間と数百億円以上の研究開発費という膨大な投資が必要とされます。
研究開発プロセスは、探索研究、前臨床試験(*)、臨床試験の3つに大きく分けられます。臨床試験で初めて、新薬候補化合物がヒトに投与されますが、それ以前は、ガン化細胞や実験動物が主に使用されます。本来であれば、ヒトに投与する臨床試験の前に、ヒト細胞で、薬効試験及び毒性評価を行い、ヒト固有の反応を十分に検証することが理想的ですが、実際にはヒト細胞の供給はドナーに依存するため、安定供給が容易ではありません。そのため、ガン化細胞や実験動物が多用されているのが実情です。
ヒトiPS細胞は多分化能と高い増殖性を兼ね備えているため、心筋や神経など様々な種類の体細胞を安定的に供給することが可能になります。ヒト細胞を安定的に創薬プロセスで利用することにより、種間差(ヒトと動物の反応性の違い)の問題や安定供給の課題を克服することが可能になると期待されています。ヒト細胞を用いた薬効試験及び毒性試験は、創薬プロセスの理想でもあり、それがiPS細胞により実現可能になります。
当社では、製薬企業にとってとりわけニーズの高い心筋、神経、肝臓の3種類の細胞に注力し、事業化を進めております。将来的には、製薬企業のニーズに合わせて、新しい細胞種の開発も手がけていきます。
ヒトiPS細胞の創薬応用の系統図
(2) 臨床検査事業
移植治療は、通常の投薬治療や外科手術では治療できないような疾患の治療法として、広く普及が進んでいます。臓器移植では、腎臓、肝臓が代表的で、腎不全や肝不全の治療法として高い治療効果をあげています。
当社では、2006年12月に衛生検査所として登録を行い、これら臓器移植及び造血幹細胞移植で必要とされる臨床検査に特化した検査受託サービスを提供しています。具体的には、対象顧客である医療機関から血液や血清などの検体を、当社の衛生検査所に搬送し、検査を実施するというものです。委託方法は、医療機関からの直接委託と他の検査会社を経由した再委託の両方で行っています。
主な検査項目としては、「HLAタイピング検査(*)」、「抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング検査及び抗HLA抗体同定検査)」、「フロークロスマッチ検査(*)」があります。これら移植治療に必要な検査を1拠点でまとめて行うことで整合性のとれた確度の高いデータを顧客に提供することが可能になります。
これらの検査項目のうち、造血幹細胞移植における抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)が、2012年4月から、保険適用になりました。
臨床検査事業の事業系統図
1)HLAタイピング検査
赤血球にA、B、O型の血液型があるように、白血球にも、HLA型があります。HLA型とは、ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、個人に固有の免疫の型になります。移植に際しては、ドナーとレシピエント(患者)のHLA型がなるべく適合していることが必要で、適合性が低い場合、免疫拒絶が起こりやすくなります。このため、移植前には必ずドナーとレシピエントのHLA型を調べる必要があります。当社では、このHLA型のタイピング検査を提供しています。
2)抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)
免疫拒絶を抑制するためにはドナーとレシピエントのHLA型が近い方が望ましいですが、HLA型は非常に多岐に渡っているため、厳密に言うと、ドナーとレシピエントのHLA型が完全に一致することは稀といえます。
このため、臓器移植や造血幹細胞移植後には程度の差はあれ何らかの免疫拒絶が起こりえます。免疫拒絶のメカニズムは複雑ですが、重要な要因の1つとして抗HLA抗体が報告されています。抗HLA抗体は、HLA型の異なるドナーの細胞片を移植した場合に、それを異物と認識し、攻撃するための物質であり、移植治療後に体内で産生されます。体内の抗HLA抗体の産生量と移植治療の成功の有無には相関関係があることが報告されており、抗HLA抗体の産生量をモニタリングすることが移植治療で必要とされています。抗HLA抗体の産生量が増えた場合、免疫抑制剤の投与量を増やすなどの医療的処置が可能です。また、移植治療前でも輸血や妊娠などの非自己タンパクによる抗体産生刺激を受けた場合、抗HLA抗体が体内で産生される可能性があり、その場合は移植直後から免疫拒絶が起こる可能性が高くなります。このため、抗HLA抗体検査は、移植前後の両方で必須な検査となっています。
当社では、抗HLA抗体スクリーニング検査と抗HLA抗体同定検査の2項目を提供しています。抗HLA抗体スクリーニング検査は、様々な種類の抗HLA抗体の有無を網羅的に調べる検査になり、抗HLA抗体同定検査は、抗HLA抗体の種類の詳細な同定(*)をするための検査になります。
従来から、LCT法(細胞障害性試験)(*)と呼ばれる手法で抗HLA抗体検査は広く行われていましたが、検査感度が十分でなく、微小な抗HLA抗体を見逃している可能性がありました。一方、当社の提供する抗HLA抗体スクリーニング検査と抗HLA抗体同定検査は、LCT法に比べ非常に高い感度を持った新しい検査方法であり、従来では検出できなかった微小な抗HLA抗体の検出が可能になっています。
3)フロークロスマッチ検査
抗HLA抗体は免疫拒絶の主要な要因の1つですが、免疫拒絶のメカニズムは複雑で、抗HLA抗体だけで、全てを説明できるわけではありません。抗HLA抗体が検出されなくても、別の理由で免疫拒絶が起こる場合もあります。フロークロスマッチ検査は、免疫拒絶を抗HLA抗体に限定せずより広く検出するための方法になります。但し、陽性反応が出た場合でも、その原因を特定できないのが課題であり、上記の抗HLA抗体検査と組み合わせることで、より検査確度を上げることができます。
フロークロスマッチ検査では、ドナーのリンパ球とレシピエントの血清(各種抗体は血清の中に存在する)を直接反応させます。もし、レシピエントが何らかの免疫拒絶に関与する抗体(抗HLA抗体に限らない)を保有していた場合、ドナーのリンパ球と反応するので、それを検出することができます。もちろん、反応性のある抗HLA抗体を保有していた場合も反応します。フロークロスマッチ検査では、実際のドナーとレシピエントの細胞を使い、個別に反応性を確かめることが可能であるため、移植前の重要な検査として位置づけられています。
(用語解説)
[ES細胞]
胚性幹細胞(Embryonic stem cells)の略称。動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる細胞で、生体外にて、理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させる事ができる。
[培養液]
細胞等を培養するために用いられる溶液。細胞種に合わせて様々な種類の培養液が必要である。
[剥離液]
培養している細胞を剥離するために用いられる溶液。
[凍結保存液]
細胞等を保存するために用いられる溶液。
[iPS細胞]
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)の略称。体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、多様な細胞に分化できる分化多能性と、無限増殖能を持たせた細胞。
[コーティング剤]
細胞を培養する際に、細胞が接着するために必要な基質を含む溶液。細胞培養する容器を前もってコーティングする目的で使用される。
[抗体]
抗原と特異的に結合する免疫グロブリンの総称。
[体細胞]
生物体を構成する細胞のうち、生殖細胞以外の細胞の総称。
[体性幹細胞]
生体の様々な組織にある幹細胞。造血幹細胞・神経幹細胞・皮膚幹細胞などがあり、限定された種類の細胞にしか分化しないものや、広範囲の細胞に分化するものなど様々ある。成体幹細胞。組織幹細胞。
[インフォームドコンセント]
説明をうけた上での同意の意。医師が患者に診療の目的・内容を十分に説明して、患者の納得を得て治療すること。
[ドナー]
移植のために血液、組織、または器官などを自発的に提供する人。
[臨床試験]
薬剤候補について、有効性と安全性を実証するために、ヒトを対象として実施する試験の総称。少数健常人を対象として安全性及び薬物動態を確認する第I相試験、少数患者を対象として有効性及び安全性を探索的に確認する第Ⅱ相試験、多数患者を対象として有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相試験に区分される。
[前臨床試験]
薬剤候補について、ヒトにおける試験を実施する上で十分な安全性と有効性があることの確認を目的として、主に動物を用いて行われる試験。
[HLAタイピング検査]
一般的に知られている血液型(A、B、O)のようにHLAにも種類があり、多種類あるHLAの中でもどれを持っているかを調べる検査。
[フロークロスマッチ検査]
移植の際に拒絶が起こらないようにドナー(提供者)のHLA型に反応するHLA抗体の有無をドナー(提供者)のリンパ球を用いて調べる検査。
[同定]
種類を決定すること。
[LCT法]
ドナーリンパ球が障害されるかでレシピエント血清中のHLA抗体の有無を検出する方法。
当社グループは、iPS細胞の技術を基盤とした(1)iPS細胞事業と、臓器移植等に係わる(2)臨床検査事業を展開しております。また、iPS細胞事業は研究試薬製品と細胞製品、受託サービスの3つに大きく分けられます。
事業の概要は以下のとおりであります。なお、次の2事業は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項」に掲げるセグメントの区分と同一であります。
事業内容 | 区分 | 内容 |
iPS細胞事業 | 研究試薬製品 | iPS細胞に関わる様々な研究試薬を大学や公的研究機関、製薬企業等に製造・販売しています。iPS細胞の研究に必要な、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体などのiPS細胞に最適化された各種研究試薬をはじめ、iPS細胞の作製効率が従来手法に比べ、100~1,000 倍に向上し、より臨床応用に近い安全性をも有するiPS細胞技術を導入した「RNAリプログラミングキット」や、iPS細胞から心筋、肝臓、神経細胞への変化を効率的に促進する「スモールモルキュール」、より生体内に近い3次元細胞培養を実現し、より高機能な細胞が得られる培養用プレートである「Alvetex」等を主なラインナップとしております。 |
細胞製品 | 製薬企業等による創薬を支援する製品として製造・販売し、製薬企業等において新薬候補化合物の薬効試験や毒性試験の実験材料として使用されます。iPS細胞の技術プロセスの上流から下流までを当社グループでカバーすることで豊富な品揃えを実現し、顧客利便性が大きく向上しています。ヒトDNA、組織、血清サンプルといったヒト生体試料やiPS細胞、さらにはiPS細胞由来の心筋、神経、肝臓の細胞等を取り扱っております。 | |
受託サービス | カスタマイズした疾患モデル細胞製品の作製受託等、顧客の要望にきめ細かく対応するための様々な差別化されたサービスラインナップを提供しております。iPS細胞培養の受託サービスやDNA等の抽出・遺伝子型判定等を行う前臨床分子解析サービスを提供している他、アルツハイマー病やパーキンソン病等の患者から集めた生体試料をもとにカスタマイズした疾患型iPS細胞由来の細胞製品の受託培養等を行います。 | |
臨床検査事業 | 臓器移植及び造血幹細胞移植で必要とされる臨床検査に特化した検査受託サービスを提供しています。具体的には、対象顧客である医療機関から血液や血清などの検体を当社の衛生検査所に搬送し、検査を実施するというものです。受託方法には、医療機関からの直接受託と他の検査会社を経由した再受託の両方があります。 |
(1) iPS細胞事業
a.事業環境
ヒトの体は60兆個以上、200種類以上の細胞で構成されていると言われています。ヒトは、もともとは1つの受精卵から始まり、分裂、増殖を繰り返しながら、神経細胞、心筋細胞、肝細胞など、成体を構成する様々な細胞に分化(変化)していきます。我々の体の中には、このように最終的に分化した細胞と分化途上の細胞が存在しており、前者を体細胞(*)、後者を体性幹細胞(*)と言います。
体性幹細胞としては、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞などがあり、これらは、限定された範囲内でのみ各種の細胞に分化することができます。例えば、造血幹細胞は、骨髄に多く存在することが知られており、白血球や血小板など全ての血液系細胞を作り出していますが、神経などの異なる細胞種には分化しません。
一方、体性幹細胞よりも未熟な細胞として、胚性幹細胞(通称、ES細胞:Embryonic stem cell)があります。ES細胞は、受精卵から1週間ぐらい経過した胚盤胞という状態の内部の細胞塊を取り出したもので、心筋、神経、肝臓、血液など理論上は体内の全ての種類の細胞に分化することが可能です(これを多能性と言います)。体性幹細胞は限られた範囲内でしか分化できないのに対し、ES細胞では分化できる範囲が格段に広いのが大きな特徴です。また、ES細胞は、培養器内で、1週間で約10倍、2週間で100倍、3週間で1,000倍というように、長期の大量培養が可能です。一方、我々の体を構成する様々な細胞(体細胞及び体性幹細胞)では、増殖能力に限界があり、正常な状態を維持しながら長期培養することは困難です。このように、ES細胞は、多能性と高い増殖性という2つの大きな特徴がある特異な細胞であり、学術的には「多能性幹細胞」、通称「万能細胞」と呼ばれています。
ES細胞はインフォームドコンセント(*)を取得した上で、不妊治療の過程で不要になった余剰胚から作製しますが、受精卵を使用することに関して各国で様々な倫理的議論がされています。このような背景の中、受精卵を使用しない新たな「万能細胞」を京都大学の山中伸弥教授が発明されました。
2006年、山中教授は、マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を導入することで、マウスES細胞と同様の性質を有する新しい細胞を作製することに成功しました。さらに、翌2007年にはヒトの皮膚細胞からも同様の細胞を得ることに成功し、一躍世界の脚光を浴びることになりました。この新しい細胞は、人工多能性幹細胞(通称、iPS細胞:induced pluripotent stem cell)と名付けられ、新たな「万能細胞」と位置づけられています。iPS細胞はES細胞とほぼ同等の性質を持っています。つまり、心筋、神経、肝臓、血液など様々な細胞に分化する能力を持ち、さらに培養器内で大量に増殖することが可能です。iPS細胞は受精卵を使用せず作製可能であるため、世界中で研究が急速に進むことになりました。
また、iPS細胞及び再生医療は政府の成長戦略の一つとして掲げられており、iPS細胞に関連した基礎及び臨床の研究者が増加しております。さらに、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」並びに「薬事法等の一部を改正する法律」が2014年11月25日に施行されたことにより、大手製薬企業を含めた企業サイドによる再生医療の事業化に向けた取り組みがはじまる中で、当社グループも本格的な当該事業分野進出に向け、ロードマップの策定に取り組んでおります。
ES細胞とiPS細胞
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細胞の種類と特徴
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b.細胞ビジネスの概要
これまで、ヒト細胞の供給はドナー(*)に依存する部分が大きくヒト細胞を大量に供給することは困難でした。例えば、骨髄移植では適合ドナーが容易に見つかる状況ではありません。この状況が、ES細胞/iPS細胞の登場により大きな変化を迎えようとしています。つまり、これらの細胞を使用することで、神経細胞や心筋細胞などの様々な体細胞をドナーに頼らず大量に作製することが可能になります。ES細胞/iPS細胞は大量に増殖できるので、細胞供給源が尽きることはありません。この特徴を利用した新しい細胞ビジネスの可能性が広がっており、研究試薬、創薬応用、テーラーメイド医療、再生医療などが代表的なものとしてあげられます。以下、説明します。
研究試薬:
ES細胞/iPS細胞の研究を行う際に使用する研究試薬になります。研究試薬には様々な種類があり、例えば、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体、などがあります。研究試薬は細胞の種類、培養方法、測定方法などによって様々な種類があります。例えばヒトiPS細胞の培養液の場合、培養方法によって異なる培養液が数種類販売されていますし、ヒトiPS細胞を識別するためのマーカーについても同様に多種類販売されています。対象顧客は、大学等の公的研究機関や製薬企業等の民間研究機関になり、現在、世界中で盛んに研究が行われています。
当社グループでは、ヒトES/iPS細胞に特化した研究試薬製品の製造販売やiPS細胞の作製効率が従来手法に比べ、100~1,000 倍に向上し、より臨床応用に近い安全性をも有するiPS細胞技術を導入した「RNAリプログラミングキット」や、iPS細胞から心筋、肝臓、神経細胞への変化を効率的に促進する「スモールモルキュール」、より生体内に近い3次元細胞培養を実現し、より高機能な細胞が得られる培養用プレートである「Alvetex」等を主なラインナップとしております。
創薬応用:
ES細胞/iPS細胞から、神経細胞、心筋細胞、肝細胞など様々な細胞を作製し、それを創薬スクリーニングに利用します。これにより、製薬企業が新薬候補化合物の薬効評価及び毒性評価を効率的に行うことが可能になります。また、動物実験を大幅に低減できるとの期待もあります。主な対象顧客は製薬企業や化学系企業であり、現在、当該技術の初期導入が進んでいます。
当社グループでは、iPS細胞の技術プロセスの上流から下流までを当社グループでカバーすることで豊富な品揃えを実現し、顧客利便性が大きく向上しています。ヒトDNA、組織、血清サンプルといったヒト生体試料やiPS細胞、さらにはiPS細胞由来の心筋、神経、肝臓の細胞等を作製して販売しています。
テーラーメイド医療:
個人から採取した細胞(例えば、皮膚や血液)からiPS細胞を作製し、その細胞を使って個別に病態診断や医薬品の適合性判断が行える可能性があります。現在、iPS細胞技術を使って、患者から採取した細胞から病態モデル細胞を作製する研究が盛んに行われていますが、将来的にこれらの研究成果を活用することで、個々人に最適な薬剤や処方量を選択することができる可能性があります。
再生医療:
ES細胞/iPS細胞から神経細胞、心筋細胞、肝細胞など様々な細胞を作製し、患者に移植することで組織の再生を行います。脊椎損傷や心筋梗塞など、生体内で損傷または壊死した組織は、新たに細胞を移植する方法が有効と考えられています。一方、ヒト細胞を供給するためにはドナーに依存せざるを得ず、ドナー不足の解決が課題になっています。ES細胞/iPS細胞から新たに細胞を作り出す技術は、この課題を根本的に解決し、ドナーに依存しない新しい再生医療として注目を集めています。現在、米国ではヒトES細胞を使った再生医療の臨床試験(*)が進められており、近い将来、再生医療が実現すると期待されています。
ES細胞/iPS細胞を使ったビジネス
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以上のように、ES細胞/iPS細胞は次世代バイオ産業の中心的存在として期待されています。
研究試薬分野はすでにグローバルに市場を形成しており、成長性の高い市場と言えます。一方、創薬応用は、これまでの創薬プロセスを大幅に効率化する新規技術として期待されており、製薬企業でも技術導入に向けた動きが出てきました。当社は、現時点で、研究試薬と創薬応用の2つに注力して事業展開していますが、将来的には、テーラーメイド医療や再生医療への展開も可能と考えています。
以下、研究試薬製品と細胞製品について説明します。
① 研究試薬製品
研究試薬製品については、iPS細胞に関わる様々な研究試薬を大学や公的研究機関、製薬企業等に製造・販売しています。iPS細胞の研究に必要な、培養液、剥離液、凍結保存液、コーティング剤、抗体などのiPS細胞に最適化された各種研究試薬をはじめ、iPS細胞の作製効率が従来手法に比べ、100~1,000倍に向上し、より臨床応用に近い安全性をも有するiPS細胞技術を導入した「RNAリプログラミングキット」や、iPS細胞から心筋、肝臓、神経細胞への変化を効率的に促進する「スモールモルキュール」、より生体内に近い3次元細胞培養を実現し、より高機能な細胞が得られる培養用プレートである「Alvetex」等を主なラインナップとしております。
② 細胞製品及び受託サービス
細胞製品は製薬企業等による創薬を支援する製品として製造・販売し、製薬企業等において新薬候補化合物の薬効試験や毒性試験の実験材料として使用されます。iPS細胞の技術プロセスの上流から下流までを当社グループでカバーすることで豊富な品揃えを実現し、顧客利便性が大きく向上しています。ヒトDNA、組織、血清サンプルといったヒト生体試料やiPS細胞、さらにはiPS細胞由来の心筋、神経、肝臓の細胞等を取り扱っております。また、受託サービスについては、カスタマイズした疾患モデル細胞製品の作製受託等、顧客の要望にきめ細かく対応するための様々な差別化されたサービスラインナップを提供しております。iPS細胞培養の受託サービスやDNA等の抽出・遺伝子型判定等を行う前臨床分子解析サービスを提供している他、アルツハイマー病やパーキンソン病等の患者から集めた生体試料をもとにカスタマイズした疾患型iPS細胞由来の細胞製品の受託培養等を行っております。
ヒトiPS細胞由来の心筋細胞(左)、神経細胞(中央)、肝細胞(右)
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iPS細胞事業の事業系統図
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ヒトiPS細胞の創薬応用
医薬品の研究開発は、各製薬企業の有する数十万~数百万種類の化合物ライブラリーについて数々の薬効試験及び毒性試験に関するスクリーニングを行い、最終的に1つの新薬を見いだすプロセスになります。1つの医薬品の開発に、10-15年以上の研究開発期間と数百億円以上の研究開発費という膨大な投資が必要とされます。
研究開発プロセスは、探索研究、前臨床試験(*)、臨床試験の3つに大きく分けられます。臨床試験で初めて、新薬候補化合物がヒトに投与されますが、それ以前は、ガン化細胞や実験動物が主に使用されます。本来であれば、ヒトに投与する臨床試験の前に、ヒト細胞で、薬効試験及び毒性評価を行い、ヒト固有の反応を十分に検証することが理想的ですが、実際にはヒト細胞の供給はドナーに依存するため、安定供給が容易ではありません。そのため、ガン化細胞や実験動物が多用されているのが実情です。
ヒトiPS細胞は多分化能と高い増殖性を兼ね備えているため、心筋や神経など様々な種類の体細胞を安定的に供給することが可能になります。ヒト細胞を安定的に創薬プロセスで利用することにより、種間差(ヒトと動物の反応性の違い)の問題や安定供給の課題を克服することが可能になると期待されています。ヒト細胞を用いた薬効試験及び毒性試験は、創薬プロセスの理想でもあり、それがiPS細胞により実現可能になります。
当社では、製薬企業にとってとりわけニーズの高い心筋、神経、肝臓の3種類の細胞に注力し、事業化を進めております。将来的には、製薬企業のニーズに合わせて、新しい細胞種の開発も手がけていきます。
ヒトiPS細胞の創薬応用の系統図
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(2) 臨床検査事業
移植治療は、通常の投薬治療や外科手術では治療できないような疾患の治療法として、広く普及が進んでいます。臓器移植では、腎臓、肝臓が代表的で、腎不全や肝不全の治療法として高い治療効果をあげています。
当社では、2006年12月に衛生検査所として登録を行い、これら臓器移植及び造血幹細胞移植で必要とされる臨床検査に特化した検査受託サービスを提供しています。具体的には、対象顧客である医療機関から血液や血清などの検体を、当社の衛生検査所に搬送し、検査を実施するというものです。委託方法は、医療機関からの直接委託と他の検査会社を経由した再委託の両方で行っています。
主な検査項目としては、「HLAタイピング検査(*)」、「抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング検査及び抗HLA抗体同定検査)」、「フロークロスマッチ検査(*)」があります。これら移植治療に必要な検査を1拠点でまとめて行うことで整合性のとれた確度の高いデータを顧客に提供することが可能になります。
これらの検査項目のうち、造血幹細胞移植における抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)が、2012年4月から、保険適用になりました。
臨床検査事業の事業系統図
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1)HLAタイピング検査
赤血球にA、B、O型の血液型があるように、白血球にも、HLA型があります。HLA型とは、ヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、個人に固有の免疫の型になります。移植に際しては、ドナーとレシピエント(患者)のHLA型がなるべく適合していることが必要で、適合性が低い場合、免疫拒絶が起こりやすくなります。このため、移植前には必ずドナーとレシピエントのHLA型を調べる必要があります。当社では、このHLA型のタイピング検査を提供しています。
2)抗HLA抗体検査(抗HLA抗体スクリーニング及び抗HLA抗体同定検査)
免疫拒絶を抑制するためにはドナーとレシピエントのHLA型が近い方が望ましいですが、HLA型は非常に多岐に渡っているため、厳密に言うと、ドナーとレシピエントのHLA型が完全に一致することは稀といえます。
このため、臓器移植や造血幹細胞移植後には程度の差はあれ何らかの免疫拒絶が起こりえます。免疫拒絶のメカニズムは複雑ですが、重要な要因の1つとして抗HLA抗体が報告されています。抗HLA抗体は、HLA型の異なるドナーの細胞片を移植した場合に、それを異物と認識し、攻撃するための物質であり、移植治療後に体内で産生されます。体内の抗HLA抗体の産生量と移植治療の成功の有無には相関関係があることが報告されており、抗HLA抗体の産生量をモニタリングすることが移植治療で必要とされています。抗HLA抗体の産生量が増えた場合、免疫抑制剤の投与量を増やすなどの医療的処置が可能です。また、移植治療前でも輸血や妊娠などの非自己タンパクによる抗体産生刺激を受けた場合、抗HLA抗体が体内で産生される可能性があり、その場合は移植直後から免疫拒絶が起こる可能性が高くなります。このため、抗HLA抗体検査は、移植前後の両方で必須な検査となっています。
当社では、抗HLA抗体スクリーニング検査と抗HLA抗体同定検査の2項目を提供しています。抗HLA抗体スクリーニング検査は、様々な種類の抗HLA抗体の有無を網羅的に調べる検査になり、抗HLA抗体同定検査は、抗HLA抗体の種類の詳細な同定(*)をするための検査になります。
従来から、LCT法(細胞障害性試験)(*)と呼ばれる手法で抗HLA抗体検査は広く行われていましたが、検査感度が十分でなく、微小な抗HLA抗体を見逃している可能性がありました。一方、当社の提供する抗HLA抗体スクリーニング検査と抗HLA抗体同定検査は、LCT法に比べ非常に高い感度を持った新しい検査方法であり、従来では検出できなかった微小な抗HLA抗体の検出が可能になっています。
3)フロークロスマッチ検査
抗HLA抗体は免疫拒絶の主要な要因の1つですが、免疫拒絶のメカニズムは複雑で、抗HLA抗体だけで、全てを説明できるわけではありません。抗HLA抗体が検出されなくても、別の理由で免疫拒絶が起こる場合もあります。フロークロスマッチ検査は、免疫拒絶を抗HLA抗体に限定せずより広く検出するための方法になります。但し、陽性反応が出た場合でも、その原因を特定できないのが課題であり、上記の抗HLA抗体検査と組み合わせることで、より検査確度を上げることができます。
フロークロスマッチ検査では、ドナーのリンパ球とレシピエントの血清(各種抗体は血清の中に存在する)を直接反応させます。もし、レシピエントが何らかの免疫拒絶に関与する抗体(抗HLA抗体に限らない)を保有していた場合、ドナーのリンパ球と反応するので、それを検出することができます。もちろん、反応性のある抗HLA抗体を保有していた場合も反応します。フロークロスマッチ検査では、実際のドナーとレシピエントの細胞を使い、個別に反応性を確かめることが可能であるため、移植前の重要な検査として位置づけられています。
(用語解説)
[ES細胞]
胚性幹細胞(Embryonic stem cells)の略称。動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる細胞で、生体外にて、理論上すべての組織に分化する分化多能性を保ちつつ、ほぼ無限に増殖させる事ができる。
[培養液]
細胞等を培養するために用いられる溶液。細胞種に合わせて様々な種類の培養液が必要である。
[剥離液]
培養している細胞を剥離するために用いられる溶液。
[凍結保存液]
細胞等を保存するために用いられる溶液。
[iPS細胞]
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)の略称。体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、多様な細胞に分化できる分化多能性と、無限増殖能を持たせた細胞。
[コーティング剤]
細胞を培養する際に、細胞が接着するために必要な基質を含む溶液。細胞培養する容器を前もってコーティングする目的で使用される。
[抗体]
抗原と特異的に結合する免疫グロブリンの総称。
[体細胞]
生物体を構成する細胞のうち、生殖細胞以外の細胞の総称。
[体性幹細胞]
生体の様々な組織にある幹細胞。造血幹細胞・神経幹細胞・皮膚幹細胞などがあり、限定された種類の細胞にしか分化しないものや、広範囲の細胞に分化するものなど様々ある。成体幹細胞。組織幹細胞。
[インフォームドコンセント]
説明をうけた上での同意の意。医師が患者に診療の目的・内容を十分に説明して、患者の納得を得て治療すること。
[ドナー]
移植のために血液、組織、または器官などを自発的に提供する人。
[臨床試験]
薬剤候補について、有効性と安全性を実証するために、ヒトを対象として実施する試験の総称。少数健常人を対象として安全性及び薬物動態を確認する第I相試験、少数患者を対象として有効性及び安全性を探索的に確認する第Ⅱ相試験、多数患者を対象として有効性及び安全性を検証する第Ⅲ相試験に区分される。
[前臨床試験]
薬剤候補について、ヒトにおける試験を実施する上で十分な安全性と有効性があることの確認を目的として、主に動物を用いて行われる試験。
[HLAタイピング検査]
一般的に知られている血液型(A、B、O)のようにHLAにも種類があり、多種類あるHLAの中でもどれを持っているかを調べる検査。
[フロークロスマッチ検査]
移植の際に拒絶が起こらないようにドナー(提供者)のHLA型に反応するHLA抗体の有無をドナー(提供者)のリンパ球を用いて調べる検査。
[同定]
種類を決定すること。
[LCT法]
ドナーリンパ球が障害されるかでレシピエント血清中のHLA抗体の有無を検出する方法。
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