有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S1004FIC
オンコリスバイオファーマ株式会社 事業の内容 (2014年12月期)
当社の事業セグメントは、「医薬品事業」と「検査薬事業」の二つです。「医薬品事業」は、医薬品の研究・開発・製造・販売を事業目的とし、「検査薬事業」は、検査薬の研究・開発・製造・販売及び検査機器の開発・製造・販売並びに検査サービスの提供を事業目的としています。
当社はウイルス学に立脚した創薬技術を駆使した研究開発を行い、「がんと重症感染症」の治療法にイノベーションを起こし、世界の医療に寄与することを使命としています。
医薬品事業においてはがんや重症感染症などの難病を対象に安全で有効な新薬を創出すること、また、検査薬事業においてはウイルスの遺伝子改変技術を活かした新しい検査法による特殊検査プラットホームビジネスの提供を基本的な事業方針としています。
なお、医薬品事業及び検査薬事業ともにアウトソーシングを積極的に活用することで、開発期間の短縮化・開発経費の最適化を図っています。当社の事業系統図は以下の通りです。
[事業系統図]
(1) 当社の収益モデルと事業領域
①医薬品事業の収益モデル
当社の医薬品事業は、大学等の研究機関や企業から新たな医薬品候補を導入し、当社で前臨床試験及び初期臨床試験を実施し、その製品的価値の初期評価であるProof of Concept(POC)を確認した上で、大手製薬企業・バイオ企業にライセンス許諾を行う事により、契約一時金収入・開発進捗に応じたマイルストーン収入・上市後のロイヤリティ収入を獲得する収益モデルです。当社の収益源と一般的な医薬品研究開発プロセスとの関係は以下の通りです。
[医薬品研究開発の一般的なプロセス]
〔※1〕探索
新薬のもとになる候補化合物を探し出すプロセスです。化学物質、微生物、遺伝子などの中から、将来薬になる可能性がある新しい物質(成分)を発見し、化学的に作り出す段階です。
〔※2〕前臨床試験
基礎研究で特定された薬剤候補化合物を対象に、生物化学的試験として、動物や培養細胞を用いて安全性や有効性について調べる試験です。化学的試験として、製造方法、原薬・製剤の規格・安定性などを調べる試験です。
〔※3〕Phase I臨床試験
第1相臨床試験とも呼ばれ、治療効果を見ることを目的とせず、少数の健康な志願者を対象に、試験薬を初めてヒトに投与する試験で、主に安全性や体内における薬の分布や代謝を確認する試験です。
〔※4〕Phase II臨床試験
第2相臨床試験とも呼ばれ、限定された患者に試験薬を投与し有効性と安全性を探ることで、臨床的有用性の探索を主な目的とした試験です。探索的試験とも言われ、Phase IIa臨床試験とPhase IIb臨床試験に区分されることもあります。
〔※5〕Phase III臨床試験
第3相臨床試験とも呼ばれ、多施設にわたる多数の患者に試験薬を投与する大規模な試験で、実際に市場で用いられる場合の有効性と安全性を評価することを主目的とする試験です。検証的試験とも呼ばれ、承認申請に向けた効能・効果、用法・用量、使用上の注意等を最終的に決めることを目的とした試験です。
〔※6〕申請・承認
臨床試験で有効性や安全性などが証明された治験薬について、新薬承認申請書類を作成し、各国の規制当局に製造販売承認申請を行います。数段階の審査を受けた後に薬として承認され、市場に出ることになります。
②医薬品事業の事業展開
当社は基本戦略として、前臨床並びに臨床試験に要する時間の大幅な短縮を実現するために、アウトソーシングを活用したファブレス経営〔※1〕モデルを構築し、必要人員の絶対数を削減し、統括的なプロジェクトマネジメントに特化した人財を重点的に確保・育成しています。製造・非臨床及び前臨床試験・臨床試験を積極的に外部委託していますが、外部委託に係る実施計画策定やプロトコール〔※2〕の作成と承認・最終の決定権は契約上当社が担保しています。
当社は、現在の主要パイプラインを機軸に、今後もがんや難治性ウイルス疾患をはじめ、大企業が着手しないアンメット・メディカル・ニーズ[※3]・オーファンドラッグ[※4]に対象を拡大してパイプラインを充実させ、製薬会社へのライセンス活動を推進して参ります。
〔本項の用語解説〕
〔※1〕ファブレス経営
ファブレス経営(Fabless Business)とは、自社で独自に企画・設計した製品を、他社に委託し製造する経営手法をいいます。生産設備のようなストックをできるだけ持たない手法であることからフロー型経営とも呼ばれる、製造業におけるアウトソーシングの一形態です。
〔※2〕プロトコール
プロトコール(Protocol)とは、治験実施計画書とも呼ばれます。臨床試験(治験)を実施するにあたって、その実施者(臨床試験を実施する医療機関)及び依頼者(製薬企業)が遵守しなければならない要件事項を全て網羅記載した実施計画書の事を指します。臨床試験の背景、根拠及び目的を定めるとともに、統計学的な考察も含めて、臨床試験実施のデザイン、方法及び組織について記述します。
〔※3〕アンメット・メディカル・ニーズ
いまだに有効な治療法が確立されておらず、強く望まれているが、医薬品などの開発が進んでいない治療分野における医療ニーズです。
〔※4〕オーファンドラッグ
希少疾病用医薬品ともいいます。薬事法上、オーファン・ドラッグに指定されるための基準は、対象患者が5万人以下で、医療上の必要性が高くて代替する適切な医薬品や治療法がなく、開発の可能性も大きい医薬品です。
③検査薬事業の収益モデルと事業展開
現在は、検査ウイルス販売や受託検査を行う収益モデルですが、将来は受託検査で蓄積したノウハウにより検体大量処理を実現させることで、当社が開発した遺伝子改変ウイルスを用いた新しいタイプの検査キットや検査ユニットを検査会社や医療機関に提供する収益モデルを目指しています。
当社が開発対象とする遺伝子改変ウイルスを用いた検査薬は、これまでのバイオマーカーでは出来なかったがん患者の予後検査(再発予測)やがんの超早期発見に寄与する可能性があります。さらに、がん組織の生検(針刺し採取)をすることなしに血中に存在するがん細胞を採取する事が可能になると考えられるため、がん遺伝子の解析がより容易となり、その後の適正な医薬品の選定に寄与する全く新しいがん検査法として期待されています。また、将来的には本技術を応用して炎症性疾患や循環器疾患の領域にも適応を拡大していくことを目指しています。
(2)主要なパイプライン
① HIV感染症治療薬OBP-601
OBP-601は、HIV[*1]の複製に必須である逆転写酵素を阻害することを作用機序とする、新規のHIV感染症治療薬です。鹿児島大学附属難治ウイルス病態制御研究センターの馬場昌範教授、元昭和大学薬学部の田中博道教授、Yale大学医学部(米国)のYung-Chi Cheng教授らの共同研究により見出されたチミジン誘導体[*2]の核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)[*3]です。既存のHIV感染症治療薬に耐性を持ったウイルスに対して幅広くかつ強力な抗HIV活性を示すとともに、これまでHIV感染症治療薬で問題となってきた神経障害や脂質代謝異常といった副作用が軽減される可能性があります。
当社のOBP-601は、下図の通り細胞内に侵入したHIVウイルスの持つRNAが細胞内でDNAに逆転写される時に作用する酵素の働きを阻害することで、HIVの複製の第一段階を阻害します。
a)対象疾患
OBP-601は、HIV感染症を対象疾患としています。
b)技術導入の概況
当社は、OBP-601の特許を出願・保有するYale大学(米国)との独占的ライセンス契約を2006年6月に締結しています。
c)研究開発の概況
本剤は、前臨床試験の結果からOBP-601は既存のHIV感染症治療薬に対する耐性ウイルスのほぼ全てに対して強力な抗ウイルス活性を示すことが確認され、更に世界各地に存在するHIVウイルスの亜種に対しても同様に強力な抗ウイルス活性を示しており、既存のHIV感染症治療薬に比べ優れた効果が期待できると判断されました。
2008年5月より米国において健康成人男子を被験者とするPhase Ia臨床試験を実施し、さらに同年11月よりフランス国内の6施設においてHIV感染症患者32例に対しPhase Ib/IIa臨床試験を実施し、良好な安全性が確認され、安全な投与量で十分な有効性が得られる可能性が強く示唆されました。この結果を受けて、当社は2010年12月に、本剤の全世界における独占実施権をBristol-Myers Squibb Co.(米国)に許諾しました。PhaseIIb臨床試験は最適な用法用量を決定する目的で、同社により2012年2月から世界17か国94施設、過去に治療歴のないHIV感染患者297例を対象に実施され、2013年9月に最終投与が完了しました。2014年4月には同社からライセンス契約の解除通知を受け、当社は、当該契約の解消を受け入れるとともに、Phase IIb臨床試験及び前臨床試験の結果の整理、全てのデータの引き継ぎを進めております。同社が実施したPhase IIb臨床試験において、1日1回400mg投与群が最も優れた有効性を示し、本剤の最適用法容量であることが示されました。また、世界ですでに承認されているTenofovir(Glilead社:米国)の効果と同等以上であることが示されました。当社はそのデータから本剤の開発継続が可能であると判断しております。
d)製造体制
当社では、OBP-601の自社製造しておらず、治験薬は他社に委託して製造しております。また、大手製薬会社へのライセンス導出後は、導出先主導にて製造を行ってまいります。
e)販売体制
大手製薬会社などにライセンスし、導出先が販売してまいります。
② 腫瘍溶解ウイルスOBP-301(テロメライシンⓇ):
OBP-301(テロメライシンⓇ)はアデノウイルス[*4]を遺伝子改変した製剤であり、その遺伝子配列の先端にヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT = human Telomerase Reverse Transcriptase)[*5]のプロモーター[*6]配列を導入することで、がん細胞特異的に増殖し、がん細胞を溶解させるメカニズムを有しています。
5型のアデノウイルスは自然界にも存在し、ヒトに扁桃腺炎を発症させることがありますが、人体への致死的な影響は極めて低いことが医学的に認められています。また、5型のアデノウイルスは、遺伝子治療用ベクター(遺伝子搬送体)としてこれまで数多く臨床試験で用いられており、その安全性は既に多くの臨床試験で確認されています。
テロメラーゼは、主にがん細胞で特異的に発現していることが明らかになっており、がん細胞がその高い増殖能力を維持するメカニズムの一つとして認識されています。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞において特異的に増殖することでがん細胞を溶解させる強い抗腫瘍活性を示し、正常細胞中での増殖能力は極めて低いことにより、臨床的な安全性を保つことが期待されています。また、放射線治療や化学療法剤との併用により、更に強力な抗腫瘍活性が導き出せる可能性が報告されています。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、手術療法・放射線療法に続く第3のがん局所療法として臨床現場で有用されることを目指しています。
a)対象疾患
肝臓がんや食道がんなどの固形がんを対象にします。
b)技術導入の概況
当社は、OBP-301(テロメライシンⓇ)の開発にあたって、TLO法〔*7〕に基づく知的財産管理機関である関西ティー・エル・オー株式会社から、「特許権又は特許を受ける権利」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。
その結果、OBP-301(テロメライシンⓇ)は、2006年10月に日本国内の特許(特許第3867968号)を、2012年4月に米国における特許(米国特許第8,163,892号)を取得しています。本書提出日時点において、以下の海外主要諸国においても特許取得もしくは出願中です。日本の特許は、当社と関西ティー・エル・オー株式会社の共有、海外指定国における特許及び特許出願は当社単独で保有しています。
c)アライアンスの状況
2008年3月にMedigen Biotechnology Corp.(台湾)と戦略的アライアンス契約を締結致しました。現在同社とともに、韓国及び台湾での肝臓がんを対象としたPhase I/Ⅱ臨床試験を進めています。早期に臨床上の効果を確認した後、大手製薬企業へのライセンス導出を目指します。
d)研究開発の概況
当社がこれまでに実施した前臨床試験では、様々ながん細胞に対して優れた抗腫瘍効果を示し、毒性試験並びに生物学的分布試験において安全性上問題となるような所見を示しませんでした。その結果、2006年8月にFDA(米国食品医薬品局)/CBER(生物医薬品局)から各種固形がん患者を対象としたPhase I臨床試験実施の許可を得、米国において単回投与16例及び反復投与6例の試験を完了致しました。その結果、高度な副作用は認められず、一部患者での腫瘍縮小効果が認められました。
国内では、岡山大学における食道がん及び頭頸部がんを対象とした放射線との併用療法に関する臨床研究について、2012年8月に厚生労働省より実施承認を得て、2013年11月から食道がん患者を対象とした臨床研究が開始されています。
また、アジア圏で増加傾向にある肝臓がんを対象とするPhaseⅠ/Ⅱ臨床試験のプロトコールについては、既にFDAより承認を受けており、2014年11月から被験者への投与を開始しています。
e)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
f)販売体制
将来的に大手製薬会社などにライセンス導出し、導出先が販売をする予定です。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターをアデノウイルス5型遺伝子のE1領域〔*8〕に組み込み、更に同領域にIRES配列〔*9〕を導入することによってがん細胞内での複製効率を高めたがん細胞で特異的に増殖する腫瘍溶解ウイルスです。
OBP-301(テロメライシンⓇ)のDNA構造は以下の通りです。
③ エピジェネティック〔*10〕がん治療薬OBP-801
OBP-801は分子標的抗がん剤[*11]であり、がんのエピジェネティック治療薬の一つであるヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase; HDAC)阻害剤です。近年のエピジェネティック研究により、染色体のアセチル化やメチル化などの後天的な遺伝子修飾異常が発がん機構に強く関与していることが明らかとなり、がん治療の新規標的として注目されています。
HDACは、染色体構成タンパク質であるヒストンを脱アセチル化することで染色体構造を緊密にし、遺伝子の発現を抑制します。多くのがん細胞では、このHDACが異常活性化することによってがん抑制遺伝子の発現が抑制され、無制限な異常増殖が起こり、細胞ががん化すると考えられています。
OBP-801は、HDACの活性を特異的かつ強力に阻害することで、がん細胞におけるアポトーシス[*12]関連遺伝子などのがん抑制遺伝子の発現を促し、がん細胞の増殖抑制や細胞死を誘導するなどの抗腫瘍効果を示すことが期待されています。
同種同効品として、Merck社(米国)のZolinza®(vorinostat)が2006年(日本では2011年)に、Celgene社(米国)のIstodax®(romidepsin)が2009年に、Spectrum Pharmaceuticals, Inc(米国)のBeleodaq® (Beliostat)が2014年に、それぞれT細胞リンパ腫を対象として欧米で承認・上市されており、既に標的分子(HDAC)に対する阻害薬としてのPOCが確認されています。
OBP-801は、これまでの検討においてZolinza®及びIstodax®を含む既存のHDAC阻害剤と比較して極めて強いHDAC阻害活性を示し、幅広いがん腫に対する効果が期待されます。
a)対象疾患
OBP-801は、腎臓がん、中皮腫、婦人科がんなど幅広いがん種に対して有効性が期待されます。
b)技術導入の概況
当社は、2009年10月にアステラス製薬株式会社よりOBP-801に関する独占実施権を獲得しています。
c)研究開発の概況
2014年11月に、米国FDAに対しIND(investigational new Drug:治験薬)申請を行いました。FDAは当社が提出した前臨床試験データや治験薬の品質データ、PhaseI治験実施計画に関するレビューを行い、2014年12月に当社は、申請した治験プロトコールに基づいて臨床試験を開始することの承認を得ました。
今後は、米国でのPhaseI開始に向けて準備を進めてまいります。
d)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
e)販売体制
将来的に大手製薬企業等へのライセンス導出し、導出先が販売を行います。
④検査薬 OBP-401(テロメスキャン®)、OBP-1101(テロメスキャンF35)
当社が開発している検査薬は、試験管内で標的の細胞内で特異的に増殖し、緑の蛍光色を発する機能を持つ遺伝子改変アデノウイルスOBP-1101(テロメスキャンF35)とOBP-401(テロメスキャン®)です。
これらのウイルスの特長を生かし、血中循環がん細胞(CTC)などの微量ながん細胞の検出や炎症性疾患(自己免疫疾患など)の検査などを当社の検査事業プラットホームに据えて早期事業化を進めています。
a)OBP-401(テロメスキャンⓇ)
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、医薬品事業のプロジェクトOBP-301(テロメライシンⓇ)のウイルス遺伝子配列中のにオワンクラゲの緑色蛍光蛋白質(GFP)〔*13〕遺伝子を組み込み、テロメラーゼ陽性細胞(炎症細胞、がん細胞など)で特異的に蛍光発光を促す遺伝子改変ウイルスです。
b)OBP-1101(テロメスキャンF35)
OBP-1101(テロメスキャンF35)は、OBP-401(テロメスキャンⓇ)に35型のアデノウイルスのウイルスファイバーとマイクロRNA標的配列を導入し、感染率向上とがん特異性を高めた新規がん検査用遺伝子改変ウイルスです。
OBP-401(テロメスキャンⓇ)の構造模式図
OBP-1101(テロメスキャンF35)の構造模式図
c)当社の体外検査事業プラットホーム
OBP-1101(テロメスキャンF35)は、これまでの技術では検出が困難であった微量ながん細胞の検出を可能とし、幅広いがん種での体外検査による予後予測・超早期検査などへの応用を目指して開発を進めています。特に、既存技術では効率的に検出できなかった肺がんや罹患数の増加が予測される乳がんなどにおいては血中循環がん細胞(CTC)の個数だけではなく、悪性度の評価をするサービス(T-CAS)によりがん患者の予後予測や治療法の選択を可能にすることが期待されています。更にCTCを用いた遺伝子解析サービス(T-GEN)により、危険を伴うがんの組織生検を行うことなく、血液採取でがん患者に適した抗がん剤の選択できる可能性が期待されています。OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、がん細胞の検出に加えて全身性炎症疾患検査の可能性が期待されています。
d)技術導入の概況
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、OBP-301(テロメライシンⓇ)と同様に発明者及び関西ティー・エル・オー株式会社から「特許を受ける権利」や「特許権」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。現在、国内外において特許出願中です。
OBP-1101(テロメスキャンF35)及びOBP-1102は医薬基盤研究所より2011年4月28日付で世界における独占実施権を獲得しています。
また、2013年2月15日付で、当社は、Geron Corporationと全世界におけるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターの特許についてがんに関連する検査用途での独占的な実施権の許諾に関する契約を締結しています。
e)アライアンスの状況
当社は2014年12月にWONIK CUBE Corp.(韓国)に対し、CTC検査薬OBP-1101(テロメスキャンF35)に関する韓国での独占的使用権を付与するライセンス契約を締結いたしました。本ライセンス契約に伴う対価として、WONIK CUBE Corp.から契約一時金、マイルストーン収入やがん検査キットの販売収入を受け取る権利を有しております。
f)製造体制
当社は、兵庫県神戸市の神戸検査センターにおいて、自社製造体制を構築しています。また、必要に応じて他社に委託して製造する予定です。
g)販売体制
当面の活動は、OBP-1101(テロメスキャンF35)を用いた自由診療の範囲における血中循環がん細胞(CTC)検出の受託検査及び研究機関へのウイルス販売が主体となります。将来は、検査キットや検査ユニットを検査会社や医療機関に提供していきます。
〔主要パイプラインにかかる用語解説〕
〔*1〕HIV
HIV(ヒト免疫不全ウイルス=Human Immunodeficiency Virus)は、人の免疫細胞に感染し免疫細胞を破壊して、後天的に免疫不全を発症させるウイルスです。俗称的に「エイズウイルス」と呼ばれることがありますが、正式な名称ではありません。
〔*2〕チミジン誘導体
デオキシリボ核酸 (DNA) を構成する塩基の1つであるチミン (thymine)と、同じくDNAを構成する糖であるデオキシリボースが結合したデオキシヌクレオシドをチミジン(thymidine)といいます。チミジンは細胞に取り込まれるとリン酸化されてヌクレオチドになり、DNA に取り込まれます。誘導体とは、ある有機化合物を母体として、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど、母体の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物のことです。
〔*3〕核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素の働きを阻害する薬であり、ウイルス遺伝子から宿主細胞核に組み込まれるDNA へのコピーをできなくさせます。
逆転写酵素阻害剤は2 種類に分けられます。
核酸 (ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は、核酸というDNAの部品と構造的に類似したまがいものであるため、正しいHIV のプロウイルスDNA ができなくなります。
非核酸 (非ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素そのものに結びつき、その形を壊し、酵素の働きを失わせることにより、HIV のDNA 複製を阻害します。
〔*4〕アデノウイルス
アデノウイルスは、正二十面体構造の二本鎖DNAウイルスで、ヒトの場合は気道に感染し、のどの腫れなどのいわゆる風邪の症状を起こします。アデノウイルスには、1型から51型まで51の血清型があり、ヒトアデノウイルス5型は小児の上気道感染症の原因となるウイルスで、36 kbの2本鎖直線状のDNAゲノムを有しています。組換えDNA実験ではアデノウイルス5型がよく使われます。この属のウイルスは深刻な疾患の原因とはならず、サイズの大きな遺伝子を組み込むことができることから、遺伝子治療に応用されてきました。
〔*5〕ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT=human Telomerase Reverse Transcriptase)
テロメラーゼは、テロメアの伸長を行う酵素であり、RNAからDNAを合成するポリメラーゼの一種です。RNAから情報をDNAに移す酵素を逆転写酵素と呼びます。逆転写酵素が発見される以前は、細胞内での遺伝情報の流れは、DNAの情報がRNAに転写され、RNAの情報がタンパク質に翻訳される一方向のみであると考えられていました。その後、特定のウイルス(レトロウイルス)からRNAを鋳型としたDNAへの転写機構が発見され、RNAからDNAへ逆に流れるというところから、逆転写という名称がつけられました。
hTERTは、ヒトテロメラーゼ複合体の構成要素として働く酵素タンパク質で、RNAの塩基配列を写しとって DNA を合成する反応を行う酵素であり、不死化細胞及び90%近くのヒトのがん細胞中で活性が増強します。
〔*6〕プロモーター
メッセンジャーRNA合成(DNAからRNAを合成する段階;転写)の開始に関与するDNA上の特定領域の短い塩基配列です。ここにRNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)が結合し、転写が開始されます。
プロモーター領域は、その遺伝子が器官・組織のどの部分で、どのような時に発現するかという重要な情報を持っており、RNA合成のスイッチとして働きます。がん細胞のみでテロメラーゼ活性が高いことは、hTERTプロモーターががん細胞で特異的に働いていることを示しています。この性質を利用してhTERTプロモーターを組み込んだOBP-301(テロメライシンⓇ)は、腫瘍細胞特異的に増殖します。
〔*7〕TLO法
正式には「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(1998年5月6日法律第52号)」といい、産業活性化・学術進展のため、大学の技術や研究成果を民間企業へ移転する仲介役となる承認TLO(技術移転機関)の活動を国が支援するための法律です。
〔*8〕E1領域
ヒトアデノウイルスゲノムは、5'逆方向末端反復配列(ITR)、パッケージングシグナル(ψ)、初期遺伝子領域E1A及びE1BからなるE1、E2、E3、E4、後期遺伝子領域L1~L5、及び3’ITRを含みます。E1及びE4は調節タンパク質を含み、E2は複製に必要なタンパク質をコードし、L領域はウイルスの構造タンパク質をコードします。E1A及びE1B遺伝子は、ウイルスの増殖に必須な初期遺伝子です。
〔*9〕IRES配列
IRES(Internal Ribosome Entry Site)と呼ばれる遺伝子配列は、一本のメッセンジャーRNAの途中から翻訳を開始させることができる配列です。このため複数の遺伝子を含むベクターに組み込んで使われています。
〔*10〕エピジェネティック
DNA配列の変異や欠失・置換等の遺伝子そのものの構造的な変化を伴わず、DNAのメチル化や染色体タンパク質ヒストンのアセチル化など、遺伝子構造の後天的な修飾により発現調節がなされることを、遺伝子のエピジェネティックな変化と呼びます。この遺伝子のエピジェネティックな変化に作用することで効果を発揮する薬をエピジェネティック治療薬と呼びます。
〔*11〕分子標的抗がん剤
がん細胞の増殖や転移に特異的に、あるいはがん細胞で多く発現している異常なタンパクや酵素を標的とする抗がん剤。従来の化学療法はがん細胞を殺す作用(殺細胞)によって治療効果を発揮するだけでなく、正常細胞にも障害を与えることで副作用を引き起こすのに対し、分子標的抗がん剤はがん細胞特異的にがんの増殖や転移を抑えることで副作用の軽減にも繋がることが期待されています。
〔*12〕アポトーシス
細胞の死に方の1種。多細胞生物の細胞における増殖制御機構として管理・調節された、能動的な細胞死です。発生の過程や老化などの生物現象に、アポトーシスはなくてはならないものであり、がんの発生のみならず、神経変性疾患や自己免疫疾患の発症などにも重要な役割を果たしています。
〔*13〕緑色蛍光発光蛋白質(GFP)
Green Fluorescent Protein(GFP)は、オワンクラゲが持つ緑色蛍光発光蛋白質です。1960年代に米国ボストン大学の下村脩教授によって発見され、下村博士はこの発見の功績によって2008年ノーベル化学賞を受賞しました。
当社はウイルス学に立脚した創薬技術を駆使した研究開発を行い、「がんと重症感染症」の治療法にイノベーションを起こし、世界の医療に寄与することを使命としています。
医薬品事業においてはがんや重症感染症などの難病を対象に安全で有効な新薬を創出すること、また、検査薬事業においてはウイルスの遺伝子改変技術を活かした新しい検査法による特殊検査プラットホームビジネスの提供を基本的な事業方針としています。
なお、医薬品事業及び検査薬事業ともにアウトソーシングを積極的に活用することで、開発期間の短縮化・開発経費の最適化を図っています。当社の事業系統図は以下の通りです。
[事業系統図]
(1) 当社の収益モデルと事業領域
①医薬品事業の収益モデル
当社の医薬品事業は、大学等の研究機関や企業から新たな医薬品候補を導入し、当社で前臨床試験及び初期臨床試験を実施し、その製品的価値の初期評価であるProof of Concept(POC)を確認した上で、大手製薬企業・バイオ企業にライセンス許諾を行う事により、契約一時金収入・開発進捗に応じたマイルストーン収入・上市後のロイヤリティ収入を獲得する収益モデルです。当社の収益源と一般的な医薬品研究開発プロセスとの関係は以下の通りです。
[医薬品研究開発の一般的なプロセス]
〔※1〕探索
新薬のもとになる候補化合物を探し出すプロセスです。化学物質、微生物、遺伝子などの中から、将来薬になる可能性がある新しい物質(成分)を発見し、化学的に作り出す段階です。
〔※2〕前臨床試験
基礎研究で特定された薬剤候補化合物を対象に、生物化学的試験として、動物や培養細胞を用いて安全性や有効性について調べる試験です。化学的試験として、製造方法、原薬・製剤の規格・安定性などを調べる試験です。
〔※3〕Phase I臨床試験
第1相臨床試験とも呼ばれ、治療効果を見ることを目的とせず、少数の健康な志願者を対象に、試験薬を初めてヒトに投与する試験で、主に安全性や体内における薬の分布や代謝を確認する試験です。
〔※4〕Phase II臨床試験
第2相臨床試験とも呼ばれ、限定された患者に試験薬を投与し有効性と安全性を探ることで、臨床的有用性の探索を主な目的とした試験です。探索的試験とも言われ、Phase IIa臨床試験とPhase IIb臨床試験に区分されることもあります。
〔※5〕Phase III臨床試験
第3相臨床試験とも呼ばれ、多施設にわたる多数の患者に試験薬を投与する大規模な試験で、実際に市場で用いられる場合の有効性と安全性を評価することを主目的とする試験です。検証的試験とも呼ばれ、承認申請に向けた効能・効果、用法・用量、使用上の注意等を最終的に決めることを目的とした試験です。
〔※6〕申請・承認
臨床試験で有効性や安全性などが証明された治験薬について、新薬承認申請書類を作成し、各国の規制当局に製造販売承認申請を行います。数段階の審査を受けた後に薬として承認され、市場に出ることになります。
②医薬品事業の事業展開
当社は基本戦略として、前臨床並びに臨床試験に要する時間の大幅な短縮を実現するために、アウトソーシングを活用したファブレス経営〔※1〕モデルを構築し、必要人員の絶対数を削減し、統括的なプロジェクトマネジメントに特化した人財を重点的に確保・育成しています。製造・非臨床及び前臨床試験・臨床試験を積極的に外部委託していますが、外部委託に係る実施計画策定やプロトコール〔※2〕の作成と承認・最終の決定権は契約上当社が担保しています。
当社は、現在の主要パイプラインを機軸に、今後もがんや難治性ウイルス疾患をはじめ、大企業が着手しないアンメット・メディカル・ニーズ[※3]・オーファンドラッグ[※4]に対象を拡大してパイプラインを充実させ、製薬会社へのライセンス活動を推進して参ります。
〔本項の用語解説〕
〔※1〕ファブレス経営
ファブレス経営(Fabless Business)とは、自社で独自に企画・設計した製品を、他社に委託し製造する経営手法をいいます。生産設備のようなストックをできるだけ持たない手法であることからフロー型経営とも呼ばれる、製造業におけるアウトソーシングの一形態です。
〔※2〕プロトコール
プロトコール(Protocol)とは、治験実施計画書とも呼ばれます。臨床試験(治験)を実施するにあたって、その実施者(臨床試験を実施する医療機関)及び依頼者(製薬企業)が遵守しなければならない要件事項を全て網羅記載した実施計画書の事を指します。臨床試験の背景、根拠及び目的を定めるとともに、統計学的な考察も含めて、臨床試験実施のデザイン、方法及び組織について記述します。
〔※3〕アンメット・メディカル・ニーズ
いまだに有効な治療法が確立されておらず、強く望まれているが、医薬品などの開発が進んでいない治療分野における医療ニーズです。
〔※4〕オーファンドラッグ
希少疾病用医薬品ともいいます。薬事法上、オーファン・ドラッグに指定されるための基準は、対象患者が5万人以下で、医療上の必要性が高くて代替する適切な医薬品や治療法がなく、開発の可能性も大きい医薬品です。
③検査薬事業の収益モデルと事業展開
現在は、検査ウイルス販売や受託検査を行う収益モデルですが、将来は受託検査で蓄積したノウハウにより検体大量処理を実現させることで、当社が開発した遺伝子改変ウイルスを用いた新しいタイプの検査キットや検査ユニットを検査会社や医療機関に提供する収益モデルを目指しています。
当社が開発対象とする遺伝子改変ウイルスを用いた検査薬は、これまでのバイオマーカーでは出来なかったがん患者の予後検査(再発予測)やがんの超早期発見に寄与する可能性があります。さらに、がん組織の生検(針刺し採取)をすることなしに血中に存在するがん細胞を採取する事が可能になると考えられるため、がん遺伝子の解析がより容易となり、その後の適正な医薬品の選定に寄与する全く新しいがん検査法として期待されています。また、将来的には本技術を応用して炎症性疾患や循環器疾患の領域にも適応を拡大していくことを目指しています。
(2)主要なパイプライン
① HIV感染症治療薬OBP-601
OBP-601は、HIV[*1]の複製に必須である逆転写酵素を阻害することを作用機序とする、新規のHIV感染症治療薬です。鹿児島大学附属難治ウイルス病態制御研究センターの馬場昌範教授、元昭和大学薬学部の田中博道教授、Yale大学医学部(米国)のYung-Chi Cheng教授らの共同研究により見出されたチミジン誘導体[*2]の核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)[*3]です。既存のHIV感染症治療薬に耐性を持ったウイルスに対して幅広くかつ強力な抗HIV活性を示すとともに、これまでHIV感染症治療薬で問題となってきた神経障害や脂質代謝異常といった副作用が軽減される可能性があります。
当社のOBP-601は、下図の通り細胞内に侵入したHIVウイルスの持つRNAが細胞内でDNAに逆転写される時に作用する酵素の働きを阻害することで、HIVの複製の第一段階を阻害します。
a)対象疾患
OBP-601は、HIV感染症を対象疾患としています。
b)技術導入の概況
当社は、OBP-601の特許を出願・保有するYale大学(米国)との独占的ライセンス契約を2006年6月に締結しています。
c)研究開発の概況
本剤は、前臨床試験の結果からOBP-601は既存のHIV感染症治療薬に対する耐性ウイルスのほぼ全てに対して強力な抗ウイルス活性を示すことが確認され、更に世界各地に存在するHIVウイルスの亜種に対しても同様に強力な抗ウイルス活性を示しており、既存のHIV感染症治療薬に比べ優れた効果が期待できると判断されました。
2008年5月より米国において健康成人男子を被験者とするPhase Ia臨床試験を実施し、さらに同年11月よりフランス国内の6施設においてHIV感染症患者32例に対しPhase Ib/IIa臨床試験を実施し、良好な安全性が確認され、安全な投与量で十分な有効性が得られる可能性が強く示唆されました。この結果を受けて、当社は2010年12月に、本剤の全世界における独占実施権をBristol-Myers Squibb Co.(米国)に許諾しました。PhaseIIb臨床試験は最適な用法用量を決定する目的で、同社により2012年2月から世界17か国94施設、過去に治療歴のないHIV感染患者297例を対象に実施され、2013年9月に最終投与が完了しました。2014年4月には同社からライセンス契約の解除通知を受け、当社は、当該契約の解消を受け入れるとともに、Phase IIb臨床試験及び前臨床試験の結果の整理、全てのデータの引き継ぎを進めております。同社が実施したPhase IIb臨床試験において、1日1回400mg投与群が最も優れた有効性を示し、本剤の最適用法容量であることが示されました。また、世界ですでに承認されているTenofovir(Glilead社:米国)の効果と同等以上であることが示されました。当社はそのデータから本剤の開発継続が可能であると判断しております。
d)製造体制
当社では、OBP-601の自社製造しておらず、治験薬は他社に委託して製造しております。また、大手製薬会社へのライセンス導出後は、導出先主導にて製造を行ってまいります。
e)販売体制
大手製薬会社などにライセンスし、導出先が販売してまいります。
② 腫瘍溶解ウイルスOBP-301(テロメライシンⓇ):
OBP-301(テロメライシンⓇ)はアデノウイルス[*4]を遺伝子改変した製剤であり、その遺伝子配列の先端にヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT = human Telomerase Reverse Transcriptase)[*5]のプロモーター[*6]配列を導入することで、がん細胞特異的に増殖し、がん細胞を溶解させるメカニズムを有しています。
5型のアデノウイルスは自然界にも存在し、ヒトに扁桃腺炎を発症させることがありますが、人体への致死的な影響は極めて低いことが医学的に認められています。また、5型のアデノウイルスは、遺伝子治療用ベクター(遺伝子搬送体)としてこれまで数多く臨床試験で用いられており、その安全性は既に多くの臨床試験で確認されています。
テロメラーゼは、主にがん細胞で特異的に発現していることが明らかになっており、がん細胞がその高い増殖能力を維持するメカニズムの一つとして認識されています。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞において特異的に増殖することでがん細胞を溶解させる強い抗腫瘍活性を示し、正常細胞中での増殖能力は極めて低いことにより、臨床的な安全性を保つことが期待されています。また、放射線治療や化学療法剤との併用により、更に強力な抗腫瘍活性が導き出せる可能性が報告されています。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、手術療法・放射線療法に続く第3のがん局所療法として臨床現場で有用されることを目指しています。
a)対象疾患
肝臓がんや食道がんなどの固形がんを対象にします。
b)技術導入の概況
当社は、OBP-301(テロメライシンⓇ)の開発にあたって、TLO法〔*7〕に基づく知的財産管理機関である関西ティー・エル・オー株式会社から、「特許権又は特許を受ける権利」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。
その結果、OBP-301(テロメライシンⓇ)は、2006年10月に日本国内の特許(特許第3867968号)を、2012年4月に米国における特許(米国特許第8,163,892号)を取得しています。本書提出日時点において、以下の海外主要諸国においても特許取得もしくは出願中です。日本の特許は、当社と関西ティー・エル・オー株式会社の共有、海外指定国における特許及び特許出願は当社単独で保有しています。
c)アライアンスの状況
2008年3月にMedigen Biotechnology Corp.(台湾)と戦略的アライアンス契約を締結致しました。現在同社とともに、韓国及び台湾での肝臓がんを対象としたPhase I/Ⅱ臨床試験を進めています。早期に臨床上の効果を確認した後、大手製薬企業へのライセンス導出を目指します。
d)研究開発の概況
当社がこれまでに実施した前臨床試験では、様々ながん細胞に対して優れた抗腫瘍効果を示し、毒性試験並びに生物学的分布試験において安全性上問題となるような所見を示しませんでした。その結果、2006年8月にFDA(米国食品医薬品局)/CBER(生物医薬品局)から各種固形がん患者を対象としたPhase I臨床試験実施の許可を得、米国において単回投与16例及び反復投与6例の試験を完了致しました。その結果、高度な副作用は認められず、一部患者での腫瘍縮小効果が認められました。
国内では、岡山大学における食道がん及び頭頸部がんを対象とした放射線との併用療法に関する臨床研究について、2012年8月に厚生労働省より実施承認を得て、2013年11月から食道がん患者を対象とした臨床研究が開始されています。
また、アジア圏で増加傾向にある肝臓がんを対象とするPhaseⅠ/Ⅱ臨床試験のプロトコールについては、既にFDAより承認を受けており、2014年11月から被験者への投与を開始しています。
e)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
f)販売体制
将来的に大手製薬会社などにライセンス導出し、導出先が販売をする予定です。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターをアデノウイルス5型遺伝子のE1領域〔*8〕に組み込み、更に同領域にIRES配列〔*9〕を導入することによってがん細胞内での複製効率を高めたがん細胞で特異的に増殖する腫瘍溶解ウイルスです。
OBP-301(テロメライシンⓇ)のDNA構造は以下の通りです。
③ エピジェネティック〔*10〕がん治療薬OBP-801
OBP-801は分子標的抗がん剤[*11]であり、がんのエピジェネティック治療薬の一つであるヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase; HDAC)阻害剤です。近年のエピジェネティック研究により、染色体のアセチル化やメチル化などの後天的な遺伝子修飾異常が発がん機構に強く関与していることが明らかとなり、がん治療の新規標的として注目されています。
HDACは、染色体構成タンパク質であるヒストンを脱アセチル化することで染色体構造を緊密にし、遺伝子の発現を抑制します。多くのがん細胞では、このHDACが異常活性化することによってがん抑制遺伝子の発現が抑制され、無制限な異常増殖が起こり、細胞ががん化すると考えられています。
OBP-801は、HDACの活性を特異的かつ強力に阻害することで、がん細胞におけるアポトーシス[*12]関連遺伝子などのがん抑制遺伝子の発現を促し、がん細胞の増殖抑制や細胞死を誘導するなどの抗腫瘍効果を示すことが期待されています。
同種同効品として、Merck社(米国)のZolinza®(vorinostat)が2006年(日本では2011年)に、Celgene社(米国)のIstodax®(romidepsin)が2009年に、Spectrum Pharmaceuticals, Inc(米国)のBeleodaq® (Beliostat)が2014年に、それぞれT細胞リンパ腫を対象として欧米で承認・上市されており、既に標的分子(HDAC)に対する阻害薬としてのPOCが確認されています。
OBP-801は、これまでの検討においてZolinza®及びIstodax®を含む既存のHDAC阻害剤と比較して極めて強いHDAC阻害活性を示し、幅広いがん腫に対する効果が期待されます。
a)対象疾患
OBP-801は、腎臓がん、中皮腫、婦人科がんなど幅広いがん種に対して有効性が期待されます。
b)技術導入の概況
当社は、2009年10月にアステラス製薬株式会社よりOBP-801に関する独占実施権を獲得しています。
c)研究開発の概況
2014年11月に、米国FDAに対しIND(investigational new Drug:治験薬)申請を行いました。FDAは当社が提出した前臨床試験データや治験薬の品質データ、PhaseI治験実施計画に関するレビューを行い、2014年12月に当社は、申請した治験プロトコールに基づいて臨床試験を開始することの承認を得ました。
今後は、米国でのPhaseI開始に向けて準備を進めてまいります。
d)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
e)販売体制
将来的に大手製薬企業等へのライセンス導出し、導出先が販売を行います。
④検査薬 OBP-401(テロメスキャン®)、OBP-1101(テロメスキャンF35)
当社が開発している検査薬は、試験管内で標的の細胞内で特異的に増殖し、緑の蛍光色を発する機能を持つ遺伝子改変アデノウイルスOBP-1101(テロメスキャンF35)とOBP-401(テロメスキャン®)です。
これらのウイルスの特長を生かし、血中循環がん細胞(CTC)などの微量ながん細胞の検出や炎症性疾患(自己免疫疾患など)の検査などを当社の検査事業プラットホームに据えて早期事業化を進めています。
a)OBP-401(テロメスキャンⓇ)
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、医薬品事業のプロジェクトOBP-301(テロメライシンⓇ)のウイルス遺伝子配列中のにオワンクラゲの緑色蛍光蛋白質(GFP)〔*13〕遺伝子を組み込み、テロメラーゼ陽性細胞(炎症細胞、がん細胞など)で特異的に蛍光発光を促す遺伝子改変ウイルスです。
b)OBP-1101(テロメスキャンF35)
OBP-1101(テロメスキャンF35)は、OBP-401(テロメスキャンⓇ)に35型のアデノウイルスのウイルスファイバーとマイクロRNA標的配列を導入し、感染率向上とがん特異性を高めた新規がん検査用遺伝子改変ウイルスです。
OBP-401(テロメスキャンⓇ)の構造模式図
OBP-1101(テロメスキャンF35)の構造模式図
c)当社の体外検査事業プラットホーム
OBP-1101(テロメスキャンF35)は、これまでの技術では検出が困難であった微量ながん細胞の検出を可能とし、幅広いがん種での体外検査による予後予測・超早期検査などへの応用を目指して開発を進めています。特に、既存技術では効率的に検出できなかった肺がんや罹患数の増加が予測される乳がんなどにおいては血中循環がん細胞(CTC)の個数だけではなく、悪性度の評価をするサービス(T-CAS)によりがん患者の予後予測や治療法の選択を可能にすることが期待されています。更にCTCを用いた遺伝子解析サービス(T-GEN)により、危険を伴うがんの組織生検を行うことなく、血液採取でがん患者に適した抗がん剤の選択できる可能性が期待されています。OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、がん細胞の検出に加えて全身性炎症疾患検査の可能性が期待されています。
d)技術導入の概況
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、OBP-301(テロメライシンⓇ)と同様に発明者及び関西ティー・エル・オー株式会社から「特許を受ける権利」や「特許権」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。現在、国内外において特許出願中です。
OBP-1101(テロメスキャンF35)及びOBP-1102は医薬基盤研究所より2011年4月28日付で世界における独占実施権を獲得しています。
また、2013年2月15日付で、当社は、Geron Corporationと全世界におけるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターの特許についてがんに関連する検査用途での独占的な実施権の許諾に関する契約を締結しています。
e)アライアンスの状況
当社は2014年12月にWONIK CUBE Corp.(韓国)に対し、CTC検査薬OBP-1101(テロメスキャンF35)に関する韓国での独占的使用権を付与するライセンス契約を締結いたしました。本ライセンス契約に伴う対価として、WONIK CUBE Corp.から契約一時金、マイルストーン収入やがん検査キットの販売収入を受け取る権利を有しております。
f)製造体制
当社は、兵庫県神戸市の神戸検査センターにおいて、自社製造体制を構築しています。また、必要に応じて他社に委託して製造する予定です。
g)販売体制
当面の活動は、OBP-1101(テロメスキャンF35)を用いた自由診療の範囲における血中循環がん細胞(CTC)検出の受託検査及び研究機関へのウイルス販売が主体となります。将来は、検査キットや検査ユニットを検査会社や医療機関に提供していきます。
〔主要パイプラインにかかる用語解説〕
〔*1〕HIV
HIV(ヒト免疫不全ウイルス=Human Immunodeficiency Virus)は、人の免疫細胞に感染し免疫細胞を破壊して、後天的に免疫不全を発症させるウイルスです。俗称的に「エイズウイルス」と呼ばれることがありますが、正式な名称ではありません。
〔*2〕チミジン誘導体
デオキシリボ核酸 (DNA) を構成する塩基の1つであるチミン (thymine)と、同じくDNAを構成する糖であるデオキシリボースが結合したデオキシヌクレオシドをチミジン(thymidine)といいます。チミジンは細胞に取り込まれるとリン酸化されてヌクレオチドになり、DNA に取り込まれます。誘導体とは、ある有機化合物を母体として、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど、母体の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物のことです。
〔*3〕核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素の働きを阻害する薬であり、ウイルス遺伝子から宿主細胞核に組み込まれるDNA へのコピーをできなくさせます。
逆転写酵素阻害剤は2 種類に分けられます。
核酸 (ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は、核酸というDNAの部品と構造的に類似したまがいものであるため、正しいHIV のプロウイルスDNA ができなくなります。
非核酸 (非ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素そのものに結びつき、その形を壊し、酵素の働きを失わせることにより、HIV のDNA 複製を阻害します。
〔*4〕アデノウイルス
アデノウイルスは、正二十面体構造の二本鎖DNAウイルスで、ヒトの場合は気道に感染し、のどの腫れなどのいわゆる風邪の症状を起こします。アデノウイルスには、1型から51型まで51の血清型があり、ヒトアデノウイルス5型は小児の上気道感染症の原因となるウイルスで、36 kbの2本鎖直線状のDNAゲノムを有しています。組換えDNA実験ではアデノウイルス5型がよく使われます。この属のウイルスは深刻な疾患の原因とはならず、サイズの大きな遺伝子を組み込むことができることから、遺伝子治療に応用されてきました。
〔*5〕ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT=human Telomerase Reverse Transcriptase)
テロメラーゼは、テロメアの伸長を行う酵素であり、RNAからDNAを合成するポリメラーゼの一種です。RNAから情報をDNAに移す酵素を逆転写酵素と呼びます。逆転写酵素が発見される以前は、細胞内での遺伝情報の流れは、DNAの情報がRNAに転写され、RNAの情報がタンパク質に翻訳される一方向のみであると考えられていました。その後、特定のウイルス(レトロウイルス)からRNAを鋳型としたDNAへの転写機構が発見され、RNAからDNAへ逆に流れるというところから、逆転写という名称がつけられました。
hTERTは、ヒトテロメラーゼ複合体の構成要素として働く酵素タンパク質で、RNAの塩基配列を写しとって DNA を合成する反応を行う酵素であり、不死化細胞及び90%近くのヒトのがん細胞中で活性が増強します。
〔*6〕プロモーター
メッセンジャーRNA合成(DNAからRNAを合成する段階;転写)の開始に関与するDNA上の特定領域の短い塩基配列です。ここにRNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)が結合し、転写が開始されます。
プロモーター領域は、その遺伝子が器官・組織のどの部分で、どのような時に発現するかという重要な情報を持っており、RNA合成のスイッチとして働きます。がん細胞のみでテロメラーゼ活性が高いことは、hTERTプロモーターががん細胞で特異的に働いていることを示しています。この性質を利用してhTERTプロモーターを組み込んだOBP-301(テロメライシンⓇ)は、腫瘍細胞特異的に増殖します。
〔*7〕TLO法
正式には「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(1998年5月6日法律第52号)」といい、産業活性化・学術進展のため、大学の技術や研究成果を民間企業へ移転する仲介役となる承認TLO(技術移転機関)の活動を国が支援するための法律です。
〔*8〕E1領域
ヒトアデノウイルスゲノムは、5'逆方向末端反復配列(ITR)、パッケージングシグナル(ψ)、初期遺伝子領域E1A及びE1BからなるE1、E2、E3、E4、後期遺伝子領域L1~L5、及び3’ITRを含みます。E1及びE4は調節タンパク質を含み、E2は複製に必要なタンパク質をコードし、L領域はウイルスの構造タンパク質をコードします。E1A及びE1B遺伝子は、ウイルスの増殖に必須な初期遺伝子です。
〔*9〕IRES配列
IRES(Internal Ribosome Entry Site)と呼ばれる遺伝子配列は、一本のメッセンジャーRNAの途中から翻訳を開始させることができる配列です。このため複数の遺伝子を含むベクターに組み込んで使われています。
〔*10〕エピジェネティック
DNA配列の変異や欠失・置換等の遺伝子そのものの構造的な変化を伴わず、DNAのメチル化や染色体タンパク質ヒストンのアセチル化など、遺伝子構造の後天的な修飾により発現調節がなされることを、遺伝子のエピジェネティックな変化と呼びます。この遺伝子のエピジェネティックな変化に作用することで効果を発揮する薬をエピジェネティック治療薬と呼びます。
〔*11〕分子標的抗がん剤
がん細胞の増殖や転移に特異的に、あるいはがん細胞で多く発現している異常なタンパクや酵素を標的とする抗がん剤。従来の化学療法はがん細胞を殺す作用(殺細胞)によって治療効果を発揮するだけでなく、正常細胞にも障害を与えることで副作用を引き起こすのに対し、分子標的抗がん剤はがん細胞特異的にがんの増殖や転移を抑えることで副作用の軽減にも繋がることが期待されています。
〔*12〕アポトーシス
細胞の死に方の1種。多細胞生物の細胞における増殖制御機構として管理・調節された、能動的な細胞死です。発生の過程や老化などの生物現象に、アポトーシスはなくてはならないものであり、がんの発生のみならず、神経変性疾患や自己免疫疾患の発症などにも重要な役割を果たしています。
〔*13〕緑色蛍光発光蛋白質(GFP)
Green Fluorescent Protein(GFP)は、オワンクラゲが持つ緑色蛍光発光蛋白質です。1960年代に米国ボストン大学の下村脩教授によって発見され、下村博士はこの発見の功績によって2008年ノーベル化学賞を受賞しました。
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