有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S1007UEO
株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング 事業等のリスク (2016年3月期)
当社の経営成績及び財務状態に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられるリスクには以下の事項があります。以下の記載は、2016年3月期末現在において当社が判断したものであり、事業に関連するリスクのすべてを網羅するものではありません。
(1) 再生医療の現状について
我が国における再生医療の研究は、大学を中心としたアカデミアが中心となり1990年代から進展してきました。ヒト細胞組織の臨床応用を目指し、医学と工学をはじめとする複数の研究分野が連携することにより、再生医療は学際的な発展を遂げてきました。1999年の当社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング設立に続き、再生医療を事業化するために、いくつかの再生医療ベンチャーが誕生しました。また、外資を含む製薬企業や医療機器メーカーも、再生医療の製品化・事業化を目指して開発を進めました。
当社設立時には、自家細胞を使用した再生医療は薬事法(現、医薬品医療機器等法)の対象外であるとの認識でした。しかし、当時社会問題となっていた薬害エイズ事件等の影響を受け、再生医療は薬事法の承認審査を経ること、そして2000年には治験を開始する前に、新たに制定された確認申請制度への適合を得ることが条件となり、再生医療に対する規制が大幅に強化されました。また、2000年代は上場企業の不祥事が続き、我が国経済ならびに資本市場が停滞しました。このため、再生医療分野に参入していた多くの企業が事業からの撤退あるいは倒産に追い込まれました。
このような外部環境の中で、当社は2007年に我が国初の再生医療等製品となる自家培養表皮ジェイスの製造販売承認を取得し、2012年には第2号製品である自家培養軟骨ジャックの製造販売承認を取得しました。一方で、世界市場では過去に約50品目の再生医療等製品が、各国・地域の薬事承認を取得し上市されました。先進諸国の中で日本は再生医療の実用化に出遅れた状態が続きました。
ところが、2007年に京都大学教授の山中伸弥iPS細胞研究所長がヒトiPS細胞の樹立に成功して以降、薬事規制の見直しが始まり、2011年には確認申請制度が廃止され、これに代わり薬事戦略相談制度が導入されました。また、2012年に山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことを契機に、我が国は再生医療を成長戦略の一つとして位置付けました。再生医療への期待が急速に高まる中で、再生医療の普及を迅速に進めるための再生医療推進法が、2013年4月に国会で可決承認されました。これを受け、2014年11月に薬事法は医薬品医療機器等法として改正され、新たに再生医療等製品が定義されました。再生医療等製品には条件・期限付承認制度が導入されることになると同時に、医師法のもとで再生医療を安全かつ迅速に提供するための再生医療等安全性確保法が施行されました。
2015年9月には、医薬品医療機器等法のもと、新たにヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞「テムセルHS注」とヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」の2つの再生医療等製品が承認されました。ハートシートは、初の条件及び期限付承認です。更に、同年11月、テムセルHS注とハートシートが保険収載され、自家細胞を使うハートシートには、組織採取時のAキット(採取・継代培養キット)と移植時のBキット(回収・調製キット)の2段階での保険償還価格が決定されました。これを受け、当社再生医療等製品である自家培養表皮ジェイス、自家培養軟骨ジャックについても2016年4月より保険機能区分が2つに細分化され、対応する償還価格が見直されることになりました。
以上のように再生医療を取り巻く外部環境は好転しつつありますが、我が国において再生医療は未だ黎明期にあり、依然として不確実性が高いと言えます。一般的に、再生医療分野のみならず、医療分野あるいは生命科学分野の事業化は長期に亘るとともに、法規制の影響を大きく受けるため、将来、新たなルールが適用された場合、当社の経営戦略に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、外資を含む参入者の増加が予想されるため、競争が激化するリスクは否定できません。
(2) ヒト又は動物由来の原材料の使用について
当社の再生医療等製品はヒト細胞組織を利用したものですが、ヒト細胞組織を利用した再生医療等製品は、細胞組織に由来する感染の危険性を完全には排除できないため、安全性に関するリスクが高いとされています。また、当社の再生医療等製品の原材料やその製造工程で使用する培地には動物由来原料を使用しており、この動物由来原料の使用によって未知のウィルスによる被害等が発生する可能性を否定できません。このような場合、当社の業務及び財務状況に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、このような事例において、当社の過失が否定されたとしても、ネガティブなイメージによる業界全体及び当社製品に対する信頼が失われ、当社の事業に影響を与える可能性があります。
なお、生物由来製品を適正に使用したにもかかわらず発生した感染等による健康被害者に対して各種の救済給付を行い、被害者の迅速な救済を図ることを目的とし、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に基づく公的制度として「生物由来製品感染等被害救済制度」が2004年4月に創設されています。また、医薬品等を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による健康被害を受けた方に対して、医療費等の給付を行い、被害を受けた方の迅速な救済を図ることを目的として1980年に創設された「医薬品副作用被害救済制度」は2014年11月より再生医療等製品にも適用されています。
(3) 各事業内容について
当社の再生医療製品事業及び研究開発支援事業における事業リスクは以下のように想定されます。
①自家培養表皮ジェイス
a)承認条件について
当社は、2007年10月に厚生労働省より重症熱傷を対象とした自家培養表皮ジェイスの製造販売承認を取得しました。製造販売承認の条件として、治験症例がきわめて限られているため、本品の安全性及び有効性を確認するための製造販売後臨床試験を早期に実施することを求められており、臨床試験の進捗状況やその結果をまとめて速やかに厚生労働省へ報告する必要があります。この製造販売後臨床試験の結果により、安全性や有効性に問題が生じた場合は、承認が取り消されることもあり、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。これと並行して実施した使用成績調査は、7年の再審査期間として2014年10月までに登録した全症例の途中結果について、2015年1月に再審査申請資料として提出しましたが、さらに調査中の残症例の1年間経過後のデータを加えた報告書を提出する必要があります。
また、本品の製造過程に用いられるマウス由来3T3-J2細胞にかかる異種移植に伴うリスクを踏まえ、新たな取扱いの基準が定められるまでの間、最終製品のサンプル及び使用に関する記録を少なくとも30年間保存するなど、必要な措置を講じることも義務付けられています。これらの結果から、本品の安全性に重大な問題が明らかになった場合や有効性が認められなかった場合には、承認が取り消されることもあり、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
b)保険適用に関する留意事項について
本品は、2009年1月に保険収載されましたが、本品の保険適用には留意事項が付与されています。今後、当該保険適用の条件の変更により、本品の販売計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、2016年4月より保険機能区分が①採取・培養キットと②調製・移植キットの2つに細分化されましたので、患者死亡等の理由により売上計上できないリスクは軽減されましたが、このような機能区分の細分化は前例がなく、その影響は未知数です。機能区分の細分化等による受注への影響が想定を超えた場合は、本品の売上計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
c)市場規模について
重症熱傷の治療を目的とした本品の適応対象は「自家植皮のための恵皮面積が確保できない重篤な広範囲熱傷で、かつ、受傷面積として深達性Ⅱ度及びⅢ度熱傷創の合計面積が体表面積の30%以上の熱傷」とされており、その市場規模は著しく限定的です。そのため、一定割合以上のシェアを確保していたとしても、対象患者の発生状況により年間売上高が大きく変動する可能性があります。また一度に大量の受注があった場合には、当社の保有する生産能力では十分な供給ができない可能性があります。
d)適応拡大について
当社は、本品を重症熱傷患者の移植治療に安定供給することを通じて、再生医療産業の構築に注力したいと考えています。本品が使用できる疾患(適応対象)は、製造販売承認において明確に決められていますが、当社は、熱傷以外の疾患への本品の適応拡大を図っていきたいと考えています。自家培養表皮は臨床研究等において、白斑、母斑、瘢痕、採皮創などの治療においても有用であることが国内、海外で実証されています。ただし、本品は、過去に適応拡大の前例がない新規の製品であることや、治療における患者のリスクとベネフィットの観点から、一般的に重篤でないとされている重症熱傷以外の疾患に対して、適応拡大されない可能性があります。
②自家培養軟骨ジャック
a)承認条件について
当社は、2009年8月に本品の製造販売承認申請を提出し、2012年7月に厚生労働省より自家培養軟骨ジャックの製造販売承認を取得しました。製造販売承認の条件として、膝関節の外傷性軟骨欠損症及び離断性骨軟骨炎の治療に関する十分な知識・経験を有する医師及び施設において治療が行われることが求められており、これに伴い、日本整形外科学会のワーキンググループが、実施施設基準と実施医基準を策定し、厚生労働省に提出しました。また、製造販売後の一定期間は、本品の使用症例の全例を対象に使用成績調査を実施し、本品の安全性及び有効性に関するデータを収集し、その結果については定期的に厚生労働省に報告することが義務付けられています。これらの結果から、本品の安全性に重大な問題が明らかになった場合や有効性が認められなかった場合には、承認が取り消されることもあり、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
b)保険適用に関する留意事項について
本品は、2013年4月より保険収載されましたが、本品には保険適用に関し、「施設基準」や「実施医基準」等の留意事項が付与されています。今後、当該保険適用の条件の変更により、本品の販売計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、2016年4月より保険機能区分が①採取・培養キットと②調製・移植キットの2つに細分化されました。このような機能区分の細分化は前例がなく、その影響は未知数です。機能区分の細分化等による受注への影響が想定を超えた場合は、本品の売上計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
c)市場規模について
膝関節軟骨の治療を目的とした本品の適応対象は「外傷性軟骨欠損症又は離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)の臨床症状の緩和」です。「ただし、他に治療法がなく、かつ軟骨欠損面積が4cm2以上の軟骨欠損部位に適用する場合に限る」とされており、その市場規模は限定的です。そのため、一定割合以上のシェアを確保していたとしても、対象患者の発生状況により年間売上高が大きく変動する可能性があります。また一度に大量の受注があった場合には、当社の保有する生産能力では十分な供給ができない可能性があります。
③自家培養角膜上皮
a)薬事審査プロセスについて
当社が開発中の自家培養角膜上皮は、角膜移植を受けても視力回復が得られない患者等、既存治療法では治せない重症の患者を対象としています。当社は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の助言を参考に開発を進めた結果、2014年10月に治験計画届書を提出しており、現在、角膜上皮幹細胞疲弊症を対象とした治験を実施しています。しかしながら、予想どおりに治験の症例収集が進行しなかった場合、また期待どおりの有効性と安全性が証明できなかった場合は、その後の薬事承認プロセスが想定どおりに進まない可能性があります。
b)委託契約について
自家培養角膜上皮の開発は、眼科医療機器メーカーである株式会社ニデックからの受託開発として進めています。当社は、ニデックが要求する製品の開発が完了した後、厚生労働省に製造販売承認申請書を提出します。ニデックとの委託契約により、自家培養角膜上皮に関する販売権はニデックに帰属するため、当社が自家培養角膜上皮の製造を行い、妥当な価格にてニデックに販売する計画です。しかしながら、ニデックの経営方針の変更等により受託開発契約の解約や規模縮小等の可能性も否定できません。このような場合には当社の事業戦略や業績に影響を及ぼす可能性があります。
④研究用ヒト培養組織ラボサイトシリーズ
当社は、医薬品医療機器等法の規制を受けることなく、研究用ヒト培養組織ラボサイトシリーズを化粧品、製薬、化学品、日用品、農薬等の製造企業や安全性試験受託機関等に販売しています。本品の製造販売事業において、当社は後発参入であり、当市場には競合企業が複数存在します。そのため、競争の激化に伴う販売量の伸び悩みや、過当競争による販売価格の下落懸念、販売拡大のための営業体制の見直しに伴う経費の増大等の事情により、収益性が低下する可能性があります。
また、売上増加施策の一つとして、特定地域では直販体制に変えて代理店体制をとっていますが、代理店手数料の上昇により、収益性が低下する可能性があります。
⑤探索研究
当社は富士フイルム株式会社より開発業務を受託しています。しかしながら、予想どおりに開発業務が進行しなかった場合、又は期待どおりの結果が得られなかった場合には、予定している開発委託金を受領できない場合があります。また、富士フイルムの経営方針の変更等により受託開発の解約や規模縮小等の可能性も否定できません。このような場合には当社の事業戦略や業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑥その他
当社は、再生医療等安全性確保法が施行されたことに伴い、再生医療等の提供機関及び細胞培養加工製造事業者等に対するコンサルティング事業ならびに細胞培養受託事業を開始しましたが、その潜在市場が当社の想定と異なり極端に小さい場合には、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。一方で、潜在市場が当社想定より大きい場合は、当社の保有する設備や人員では十分な対応ができない可能性があります。
当社は、2016年3月、新たな事業として再生医療等製品に特化したCRO(臨床開発業務受託)事業を開始することを決定しましたが、その潜在市場が当社の想定と異なり極端に小さい場合には、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。一方で、潜在市場が当社想定より大きい場合は、当社の保有する設備や人員では十分な対応ができない可能性があります。
(4) 知的財産権について
当社は、事業の優位性を確保するため、開発する製品及び技術について知的財産権による保護に努めていますが、出願する特許に対して権利が付与されない場合もあり、知的財産権による十分な保護が得られない可能性があります。また、知的財産権により保護されている第三者の技術を利用したい場合等には、その技術が利用できない場合、又は不利な条件で利用せざるを得ない場合もあります。
さらに、他社の権利を侵害することがないように注意を払って事業展開をしていますが、訴訟等に巻き込まれる可能性を完全には否定できません。訴訟等に巻き込まれた場合には、係争費用や賠償金の等の発生により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 大学及び研究機関との関係について
当社が取り組む再生医療は、大学等の研究機関ならびに医療機関及び医療関係者との連携・協働が必要不可欠です。また、開発段階にとどまらず、製品発売後の適正使用の促進や安全対策への取組み等についても、産学官の連携・協力は医療の向上に貢献できる重要な取組みと考えています。
しかしながら、このような連携・協力活動は、法令や社会情勢により影響を受ける場合があります。再生医療等製品の開発には長い時間が必要な為、共同研究の中止や権利譲渡がされない等、当社の希望通りに行うことができない場合には、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(6) 生産体制について
当社は、2004年11月に本社棟を竣工し、高品質で安全性の高い製品を生産するために必要なハードウェアを有するなど、医療機器の製造管理及び品質管理の基準(QMS)に適合する生産体制の整備を進めてきました(現時点では、再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)に適合)。当社の製造設備では、清浄空調設備や室圧管理システムによる環境管理、ならびに人・物の動線管理を行うことにより、クリーンな環境を保てるように配慮しています。
また、研究開発-製造-品質管理・保証体制の円滑な連携によって、運用管理等のソフトウェア面においてもこれら体制を合理的に維持するほか、細胞培養について十分訓練を受けた作業者が標準作業手順書に従い製造にあたる体制を構築してきました。
ただし、事故や何らかの理由で想定どおりに製造インフラが機能しなかった場合、あるいは品質マネジメントシステムが想定どおりに運用できなかった場合には、当社の事業計画や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 販売体制について
①販売インフラに関すること
生きたヒト細胞を組み込んだ再生医療等製品は、未だ国内での販売実績が少なく、一般的な医薬品及び医療機器とは異なる販売体制の構築が必要です。
当社では、医療機関への適切な情報提供、担当医師への製品使用に関する説明・啓蒙活動に加え、保険収載に基づいた製品価格体系の構築、受注生産体制の仕組み作り、ロジスティックスの整備、医薬品医療機器等法に対応した安全管理ならびに製造販売後調査体制の強化、関連研究会の発足など、販売体制をより効率的に整備する必要があります。
ただし、販売体制の整備が思うように進まず、計画どおりの売上げを計上できない可能性があります。
②競合について
再生医療を取り巻く外部環境は好転しつつあるため、外資を含む参入者が増加し、競争が激化することが予想されます。その競争で当社製品が優位性を保持できなかった場合、当社が想定する売上を計上できない可能性があります。一方で、新規参入が思うように進まず、再生医療市場が成熟しない可能性も否定できません。
(8) 当社の組織体制について
①特定人物への依存について
当社は事業運営において、代表取締役及び取締役に過度に依存する体制を避けるべく、権限の委譲や人員拡充等により組織的対応を強化しています。しかし、当社組織は依然として小規模であり、代表取締役及び取締役が何らかの理由により当社業務の遂行が困難となった場合、当社の事業戦略や経営成績等に重大な影響を及ぼす可能性があります。
②小規模組織であること
当社は2016年3月末現在、役員及び従業員計191名の小規模な組織です。当社は相互牽制、内部統制及びコンプライアンス・リスク管理など組織的対応の強化を図るよう努めていますが、現状では、小規模組織で人的資源に限りがあるため、個々の従業員の働きに依存している面もあり、従業員に業務遂行上の支障が生じた場合又は従業員が社外流出した場合には、当社の業務に支障をきたす可能性があります。
他方、大規模な人員確保等による急激な規模の拡大は、固定費の増加につながり、当社の業績に影響を与える可能性があります。
③人材の確保と育成
当社の発展のためには、優秀な人材の確保を重要課題としてとらえています。定期的な新卒採用に加え、中途採用も実施しています。さらに、社内においては教育システムの充実、人事・評価制度の積極的改善など総合的対策により、活気ある独自の企業造りを進めています。
しかし、人材の確保及び育成が計画どおりに進まない可能性、育てた人材が社外へ流出する可能性があります。このような場合には、当社の業務に支障をきたす可能性があります。
(9) 経営成績の推移等について
①過年度における業績推移について
当社の主要な経営指標等の推移は以下のとおりであります。
(注)1 売上高には、消費税等は含まれておりません。
2 当社は、2014年4月1日付で普通株式1株を200株にする株式分割を行っております。1株当たり当期純損失につきましては、第14期の期首に遡って当該株式の分割が行われたと仮定して算定した数値を記載しております。
3 経営成績の変動理由は以下のとおりであります。
第14期は、自家培養表皮ジェイスの採用施設数の増加及び認知度向上により売上高は増加しましたが、人員補強による人件費の増加及び研究開発費用の増加等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第15期は、自家培養表皮ジェイスの算定限度緩和等により売上高は増加しましたが、生産及び臨床開発部門の人員補強等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第16期は、自家培養表皮ジェイスの売上高が好調であったものの、人員補強による人件費の増加及び自家培養軟骨ジャックの販売促進活動費用の発生等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第17期は、富士フイルム株式会社からの受託開発収入の発生等により売上高は増加しましたが、開発及び営業部門の人員補強による人件費の増加及び販売促進活動費用の増加等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第18期は、売上高は増加しましたが、人員補強による人件費の増加及び本社棟4階生産設備増設に伴う減価償却費の増加等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
②マイナスの繰越利益剰余金を計上していることについて
多額の製品開発費用が先行して計上されることにより、当社は設立以来損失を計上しています。第18期末における繰越利益剰余金は△13,149,273千円となります。当社は、中長期事業計画に基づき、将来の利益拡大を目指しています。しかしながら、計画どおりに利益を計上できない可能性があります。また、当社の事業が計画どおりに進展せず、継続的な損失がさらに発生する可能性があり、マイナスの繰越利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れる可能性があります。
③税務上の繰越欠損金について
現在のところ税務上の繰越欠損金が存在しています。そのため、事業計画の進展から順調に当社業績が推移するなどして繰越欠損金による課税所得の控除が受けられなくなった場合や税法改正により繰越欠損金による課税所得の控除が認められなくなった場合には、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が計上されることとなり、当期純利益又は当期純損失及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。
(10) 支配株主について
当社へ一番の影響力を持つのは、2014年12月より当社の親会社となった富士フイルムホールディングス株式会社と考えられます。また、富士フイルム株式会社は、当社への資本参画のみならず研究開発及び事業展開においても大変重要な役割を担っています。そのため、今後富士フイルムホールディングス株式会社及び富士フイルム株式会社との関係に大きな変化が生じた場合、当社の経営に影響を及ぼす可能性があります。
当社主要株主である株式会社ニデックは、当社の自家培養角膜上皮事業における開発委託元であるだけでなく、当社創業時に母体となって出資をするなど大変重要な役割を担ってきました。そのため、今後株式会社ニデックとの関係に大きな変化が生じた場合、当社の事業戦略や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
①関連当事者の商号等
②当社と関連当事者とのその他の関係
2016年3月31日における当社の役員12名のうち、戸田雄三氏、石川隆利氏は富士フイルムホールディングス株式会社ならびに富士フイルム株式会社の役員を、倉橋清隆氏は株式会社ニデックの役員を兼任しております。
③当社と関連当事者との取引(自 2015年4月1日 至 2016年3月31日)
(注)1 上記金額のうち、取引金額には消費税等が含まれておらず、期末残高には消費税等が含まれております。
2 取引条件及び取引条件の決定方針等
(1) 富士フイルム株式会社からの受託開発収入は契約をもとに決定しております。
(2) 富士フイルム株式会社への諸経費の立替払は、探索的事業に際し、富士フイルム株式会社負担分について当社が一時的に立替払をしたものであります。
(3) 富士フイルム株式会社からの出向者に対する給与の支払は契約をもとに決定しております。
(4) 富士フイルム株式会社への出向者に対する給与の受取は契約をもとに決定しております。
(5) 富士フイルム株式会社からの特注品の購入については契約をもとに決定しております。
(6) 株式会社ニデックからの受託開発収入は契約をもとに決定しております。
(7) 株式会社ニデックへの託児所費用負担金は契約をもとに決定しております。
(1) 再生医療の現状について
我が国における再生医療の研究は、大学を中心としたアカデミアが中心となり1990年代から進展してきました。ヒト細胞組織の臨床応用を目指し、医学と工学をはじめとする複数の研究分野が連携することにより、再生医療は学際的な発展を遂げてきました。1999年の当社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング設立に続き、再生医療を事業化するために、いくつかの再生医療ベンチャーが誕生しました。また、外資を含む製薬企業や医療機器メーカーも、再生医療の製品化・事業化を目指して開発を進めました。
当社設立時には、自家細胞を使用した再生医療は薬事法(現、医薬品医療機器等法)の対象外であるとの認識でした。しかし、当時社会問題となっていた薬害エイズ事件等の影響を受け、再生医療は薬事法の承認審査を経ること、そして2000年には治験を開始する前に、新たに制定された確認申請制度への適合を得ることが条件となり、再生医療に対する規制が大幅に強化されました。また、2000年代は上場企業の不祥事が続き、我が国経済ならびに資本市場が停滞しました。このため、再生医療分野に参入していた多くの企業が事業からの撤退あるいは倒産に追い込まれました。
このような外部環境の中で、当社は2007年に我が国初の再生医療等製品となる自家培養表皮ジェイスの製造販売承認を取得し、2012年には第2号製品である自家培養軟骨ジャックの製造販売承認を取得しました。一方で、世界市場では過去に約50品目の再生医療等製品が、各国・地域の薬事承認を取得し上市されました。先進諸国の中で日本は再生医療の実用化に出遅れた状態が続きました。
ところが、2007年に京都大学教授の山中伸弥iPS細胞研究所長がヒトiPS細胞の樹立に成功して以降、薬事規制の見直しが始まり、2011年には確認申請制度が廃止され、これに代わり薬事戦略相談制度が導入されました。また、2012年に山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことを契機に、我が国は再生医療を成長戦略の一つとして位置付けました。再生医療への期待が急速に高まる中で、再生医療の普及を迅速に進めるための再生医療推進法が、2013年4月に国会で可決承認されました。これを受け、2014年11月に薬事法は医薬品医療機器等法として改正され、新たに再生医療等製品が定義されました。再生医療等製品には条件・期限付承認制度が導入されることになると同時に、医師法のもとで再生医療を安全かつ迅速に提供するための再生医療等安全性確保法が施行されました。
2015年9月には、医薬品医療機器等法のもと、新たにヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞「テムセルHS注」とヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」の2つの再生医療等製品が承認されました。ハートシートは、初の条件及び期限付承認です。更に、同年11月、テムセルHS注とハートシートが保険収載され、自家細胞を使うハートシートには、組織採取時のAキット(採取・継代培養キット)と移植時のBキット(回収・調製キット)の2段階での保険償還価格が決定されました。これを受け、当社再生医療等製品である自家培養表皮ジェイス、自家培養軟骨ジャックについても2016年4月より保険機能区分が2つに細分化され、対応する償還価格が見直されることになりました。
以上のように再生医療を取り巻く外部環境は好転しつつありますが、我が国において再生医療は未だ黎明期にあり、依然として不確実性が高いと言えます。一般的に、再生医療分野のみならず、医療分野あるいは生命科学分野の事業化は長期に亘るとともに、法規制の影響を大きく受けるため、将来、新たなルールが適用された場合、当社の経営戦略に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、外資を含む参入者の増加が予想されるため、競争が激化するリスクは否定できません。
(2) ヒト又は動物由来の原材料の使用について
当社の再生医療等製品はヒト細胞組織を利用したものですが、ヒト細胞組織を利用した再生医療等製品は、細胞組織に由来する感染の危険性を完全には排除できないため、安全性に関するリスクが高いとされています。また、当社の再生医療等製品の原材料やその製造工程で使用する培地には動物由来原料を使用しており、この動物由来原料の使用によって未知のウィルスによる被害等が発生する可能性を否定できません。このような場合、当社の業務及び財務状況に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、このような事例において、当社の過失が否定されたとしても、ネガティブなイメージによる業界全体及び当社製品に対する信頼が失われ、当社の事業に影響を与える可能性があります。
なお、生物由来製品を適正に使用したにもかかわらず発生した感染等による健康被害者に対して各種の救済給付を行い、被害者の迅速な救済を図ることを目的とし、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に基づく公的制度として「生物由来製品感染等被害救済制度」が2004年4月に創設されています。また、医薬品等を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による健康被害を受けた方に対して、医療費等の給付を行い、被害を受けた方の迅速な救済を図ることを目的として1980年に創設された「医薬品副作用被害救済制度」は2014年11月より再生医療等製品にも適用されています。
(3) 各事業内容について
当社の再生医療製品事業及び研究開発支援事業における事業リスクは以下のように想定されます。
①自家培養表皮ジェイス
a)承認条件について
当社は、2007年10月に厚生労働省より重症熱傷を対象とした自家培養表皮ジェイスの製造販売承認を取得しました。製造販売承認の条件として、治験症例がきわめて限られているため、本品の安全性及び有効性を確認するための製造販売後臨床試験を早期に実施することを求められており、臨床試験の進捗状況やその結果をまとめて速やかに厚生労働省へ報告する必要があります。この製造販売後臨床試験の結果により、安全性や有効性に問題が生じた場合は、承認が取り消されることもあり、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。これと並行して実施した使用成績調査は、7年の再審査期間として2014年10月までに登録した全症例の途中結果について、2015年1月に再審査申請資料として提出しましたが、さらに調査中の残症例の1年間経過後のデータを加えた報告書を提出する必要があります。
また、本品の製造過程に用いられるマウス由来3T3-J2細胞にかかる異種移植に伴うリスクを踏まえ、新たな取扱いの基準が定められるまでの間、最終製品のサンプル及び使用に関する記録を少なくとも30年間保存するなど、必要な措置を講じることも義務付けられています。これらの結果から、本品の安全性に重大な問題が明らかになった場合や有効性が認められなかった場合には、承認が取り消されることもあり、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
b)保険適用に関する留意事項について
本品は、2009年1月に保険収載されましたが、本品の保険適用には留意事項が付与されています。今後、当該保険適用の条件の変更により、本品の販売計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、2016年4月より保険機能区分が①採取・培養キットと②調製・移植キットの2つに細分化されましたので、患者死亡等の理由により売上計上できないリスクは軽減されましたが、このような機能区分の細分化は前例がなく、その影響は未知数です。機能区分の細分化等による受注への影響が想定を超えた場合は、本品の売上計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
c)市場規模について
重症熱傷の治療を目的とした本品の適応対象は「自家植皮のための恵皮面積が確保できない重篤な広範囲熱傷で、かつ、受傷面積として深達性Ⅱ度及びⅢ度熱傷創の合計面積が体表面積の30%以上の熱傷」とされており、その市場規模は著しく限定的です。そのため、一定割合以上のシェアを確保していたとしても、対象患者の発生状況により年間売上高が大きく変動する可能性があります。また一度に大量の受注があった場合には、当社の保有する生産能力では十分な供給ができない可能性があります。
d)適応拡大について
当社は、本品を重症熱傷患者の移植治療に安定供給することを通じて、再生医療産業の構築に注力したいと考えています。本品が使用できる疾患(適応対象)は、製造販売承認において明確に決められていますが、当社は、熱傷以外の疾患への本品の適応拡大を図っていきたいと考えています。自家培養表皮は臨床研究等において、白斑、母斑、瘢痕、採皮創などの治療においても有用であることが国内、海外で実証されています。ただし、本品は、過去に適応拡大の前例がない新規の製品であることや、治療における患者のリスクとベネフィットの観点から、一般的に重篤でないとされている重症熱傷以外の疾患に対して、適応拡大されない可能性があります。
②自家培養軟骨ジャック
a)承認条件について
当社は、2009年8月に本品の製造販売承認申請を提出し、2012年7月に厚生労働省より自家培養軟骨ジャックの製造販売承認を取得しました。製造販売承認の条件として、膝関節の外傷性軟骨欠損症及び離断性骨軟骨炎の治療に関する十分な知識・経験を有する医師及び施設において治療が行われることが求められており、これに伴い、日本整形外科学会のワーキンググループが、実施施設基準と実施医基準を策定し、厚生労働省に提出しました。また、製造販売後の一定期間は、本品の使用症例の全例を対象に使用成績調査を実施し、本品の安全性及び有効性に関するデータを収集し、その結果については定期的に厚生労働省に報告することが義務付けられています。これらの結果から、本品の安全性に重大な問題が明らかになった場合や有効性が認められなかった場合には、承認が取り消されることもあり、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
b)保険適用に関する留意事項について
本品は、2013年4月より保険収載されましたが、本品には保険適用に関し、「施設基準」や「実施医基準」等の留意事項が付与されています。今後、当該保険適用の条件の変更により、本品の販売計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、2016年4月より保険機能区分が①採取・培養キットと②調製・移植キットの2つに細分化されました。このような機能区分の細分化は前例がなく、その影響は未知数です。機能区分の細分化等による受注への影響が想定を超えた場合は、本品の売上計画及び当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
c)市場規模について
膝関節軟骨の治療を目的とした本品の適応対象は「外傷性軟骨欠損症又は離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)の臨床症状の緩和」です。「ただし、他に治療法がなく、かつ軟骨欠損面積が4cm2以上の軟骨欠損部位に適用する場合に限る」とされており、その市場規模は限定的です。そのため、一定割合以上のシェアを確保していたとしても、対象患者の発生状況により年間売上高が大きく変動する可能性があります。また一度に大量の受注があった場合には、当社の保有する生産能力では十分な供給ができない可能性があります。
③自家培養角膜上皮
a)薬事審査プロセスについて
当社が開発中の自家培養角膜上皮は、角膜移植を受けても視力回復が得られない患者等、既存治療法では治せない重症の患者を対象としています。当社は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の助言を参考に開発を進めた結果、2014年10月に治験計画届書を提出しており、現在、角膜上皮幹細胞疲弊症を対象とした治験を実施しています。しかしながら、予想どおりに治験の症例収集が進行しなかった場合、また期待どおりの有効性と安全性が証明できなかった場合は、その後の薬事承認プロセスが想定どおりに進まない可能性があります。
b)委託契約について
自家培養角膜上皮の開発は、眼科医療機器メーカーである株式会社ニデックからの受託開発として進めています。当社は、ニデックが要求する製品の開発が完了した後、厚生労働省に製造販売承認申請書を提出します。ニデックとの委託契約により、自家培養角膜上皮に関する販売権はニデックに帰属するため、当社が自家培養角膜上皮の製造を行い、妥当な価格にてニデックに販売する計画です。しかしながら、ニデックの経営方針の変更等により受託開発契約の解約や規模縮小等の可能性も否定できません。このような場合には当社の事業戦略や業績に影響を及ぼす可能性があります。
④研究用ヒト培養組織ラボサイトシリーズ
当社は、医薬品医療機器等法の規制を受けることなく、研究用ヒト培養組織ラボサイトシリーズを化粧品、製薬、化学品、日用品、農薬等の製造企業や安全性試験受託機関等に販売しています。本品の製造販売事業において、当社は後発参入であり、当市場には競合企業が複数存在します。そのため、競争の激化に伴う販売量の伸び悩みや、過当競争による販売価格の下落懸念、販売拡大のための営業体制の見直しに伴う経費の増大等の事情により、収益性が低下する可能性があります。
また、売上増加施策の一つとして、特定地域では直販体制に変えて代理店体制をとっていますが、代理店手数料の上昇により、収益性が低下する可能性があります。
⑤探索研究
当社は富士フイルム株式会社より開発業務を受託しています。しかしながら、予想どおりに開発業務が進行しなかった場合、又は期待どおりの結果が得られなかった場合には、予定している開発委託金を受領できない場合があります。また、富士フイルムの経営方針の変更等により受託開発の解約や規模縮小等の可能性も否定できません。このような場合には当社の事業戦略や業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑥その他
当社は、再生医療等安全性確保法が施行されたことに伴い、再生医療等の提供機関及び細胞培養加工製造事業者等に対するコンサルティング事業ならびに細胞培養受託事業を開始しましたが、その潜在市場が当社の想定と異なり極端に小さい場合には、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。一方で、潜在市場が当社想定より大きい場合は、当社の保有する設備や人員では十分な対応ができない可能性があります。
当社は、2016年3月、新たな事業として再生医療等製品に特化したCRO(臨床開発業務受託)事業を開始することを決定しましたが、その潜在市場が当社の想定と異なり極端に小さい場合には、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。一方で、潜在市場が当社想定より大きい場合は、当社の保有する設備や人員では十分な対応ができない可能性があります。
(4) 知的財産権について
当社は、事業の優位性を確保するため、開発する製品及び技術について知的財産権による保護に努めていますが、出願する特許に対して権利が付与されない場合もあり、知的財産権による十分な保護が得られない可能性があります。また、知的財産権により保護されている第三者の技術を利用したい場合等には、その技術が利用できない場合、又は不利な条件で利用せざるを得ない場合もあります。
さらに、他社の権利を侵害することがないように注意を払って事業展開をしていますが、訴訟等に巻き込まれる可能性を完全には否定できません。訴訟等に巻き込まれた場合には、係争費用や賠償金の等の発生により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 大学及び研究機関との関係について
当社が取り組む再生医療は、大学等の研究機関ならびに医療機関及び医療関係者との連携・協働が必要不可欠です。また、開発段階にとどまらず、製品発売後の適正使用の促進や安全対策への取組み等についても、産学官の連携・協力は医療の向上に貢献できる重要な取組みと考えています。
しかしながら、このような連携・協力活動は、法令や社会情勢により影響を受ける場合があります。再生医療等製品の開発には長い時間が必要な為、共同研究の中止や権利譲渡がされない等、当社の希望通りに行うことができない場合には、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(6) 生産体制について
当社は、2004年11月に本社棟を竣工し、高品質で安全性の高い製品を生産するために必要なハードウェアを有するなど、医療機器の製造管理及び品質管理の基準(QMS)に適合する生産体制の整備を進めてきました(現時点では、再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)に適合)。当社の製造設備では、清浄空調設備や室圧管理システムによる環境管理、ならびに人・物の動線管理を行うことにより、クリーンな環境を保てるように配慮しています。
また、研究開発-製造-品質管理・保証体制の円滑な連携によって、運用管理等のソフトウェア面においてもこれら体制を合理的に維持するほか、細胞培養について十分訓練を受けた作業者が標準作業手順書に従い製造にあたる体制を構築してきました。
ただし、事故や何らかの理由で想定どおりに製造インフラが機能しなかった場合、あるいは品質マネジメントシステムが想定どおりに運用できなかった場合には、当社の事業計画や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 販売体制について
①販売インフラに関すること
生きたヒト細胞を組み込んだ再生医療等製品は、未だ国内での販売実績が少なく、一般的な医薬品及び医療機器とは異なる販売体制の構築が必要です。
当社では、医療機関への適切な情報提供、担当医師への製品使用に関する説明・啓蒙活動に加え、保険収載に基づいた製品価格体系の構築、受注生産体制の仕組み作り、ロジスティックスの整備、医薬品医療機器等法に対応した安全管理ならびに製造販売後調査体制の強化、関連研究会の発足など、販売体制をより効率的に整備する必要があります。
ただし、販売体制の整備が思うように進まず、計画どおりの売上げを計上できない可能性があります。
②競合について
再生医療を取り巻く外部環境は好転しつつあるため、外資を含む参入者が増加し、競争が激化することが予想されます。その競争で当社製品が優位性を保持できなかった場合、当社が想定する売上を計上できない可能性があります。一方で、新規参入が思うように進まず、再生医療市場が成熟しない可能性も否定できません。
(8) 当社の組織体制について
①特定人物への依存について
当社は事業運営において、代表取締役及び取締役に過度に依存する体制を避けるべく、権限の委譲や人員拡充等により組織的対応を強化しています。しかし、当社組織は依然として小規模であり、代表取締役及び取締役が何らかの理由により当社業務の遂行が困難となった場合、当社の事業戦略や経営成績等に重大な影響を及ぼす可能性があります。
②小規模組織であること
当社は2016年3月末現在、役員及び従業員計191名の小規模な組織です。当社は相互牽制、内部統制及びコンプライアンス・リスク管理など組織的対応の強化を図るよう努めていますが、現状では、小規模組織で人的資源に限りがあるため、個々の従業員の働きに依存している面もあり、従業員に業務遂行上の支障が生じた場合又は従業員が社外流出した場合には、当社の業務に支障をきたす可能性があります。
他方、大規模な人員確保等による急激な規模の拡大は、固定費の増加につながり、当社の業績に影響を与える可能性があります。
③人材の確保と育成
当社の発展のためには、優秀な人材の確保を重要課題としてとらえています。定期的な新卒採用に加え、中途採用も実施しています。さらに、社内においては教育システムの充実、人事・評価制度の積極的改善など総合的対策により、活気ある独自の企業造りを進めています。
しかし、人材の確保及び育成が計画どおりに進まない可能性、育てた人材が社外へ流出する可能性があります。このような場合には、当社の業務に支障をきたす可能性があります。
(9) 経営成績の推移等について
①過年度における業績推移について
当社の主要な経営指標等の推移は以下のとおりであります。
回次 | 第14期 | 第15期 | 第16期 | 第17期 | 第18期 |
決算年月 | 2012年3月 | 2013年3月 | 2014年3月 | 2015年3月 | 2016年3月 |
売上高 (千円) | 473,606 | 563,704 | 1,008,045 | 1,321,495 | 1,430,826 |
再生医療製品事業 | 418,925 | 489,236 | 927,774 | 1,232,430 | 1,337,667 |
研究開発支援事業 | 54,681 | 74,468 | 80,270 | 89,064 | 93,159 |
経常損失(△) (千円) | △1,092,526 | △1,073,846 | △823,997 | △686,687 | △677,699 |
当期純損失(△) (千円) | △1,096,366 | △1,077,686 | △827,837 | △690,527 | △681,539 |
1株当たり当期純損失(△) (円) | △29.98 | △29.47 | △22.54 | △18.21 | △16.79 |
純資産額 (千円) | 3,391,717 | 2,326,030 | 2,163,393 | 8,397,115 | 7,718,076 |
総資産額 (千円) | 4,494,574 | 3,209,154 | 3,232,671 | 8,853,186 | 8,296,500 |
営業活動による キャッシュ・フロー (千円) | △1,059,155 | △989,987 | △961,315 | △756,723 | △346,906 |
投資活動による キャッシュ・フロー (千円) | 477,195 | 480,900 | 306,276 | △1,425,372 | △2,959,644 |
財務活動による キャッシュ・フロー (千円) | △245,521 | △239,318 | 695,107 | 6,341,304 | △5,864 |
現金及び現金同等物 の期末残高 (千円) | 2,015,324 | 1,267,005 | 1,307,073 | 5,466,281 | 2,153,865 |
2 当社は、2014年4月1日付で普通株式1株を200株にする株式分割を行っております。1株当たり当期純損失につきましては、第14期の期首に遡って当該株式の分割が行われたと仮定して算定した数値を記載しております。
3 経営成績の変動理由は以下のとおりであります。
第14期は、自家培養表皮ジェイスの採用施設数の増加及び認知度向上により売上高は増加しましたが、人員補強による人件費の増加及び研究開発費用の増加等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第15期は、自家培養表皮ジェイスの算定限度緩和等により売上高は増加しましたが、生産及び臨床開発部門の人員補強等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第16期は、自家培養表皮ジェイスの売上高が好調であったものの、人員補強による人件費の増加及び自家培養軟骨ジャックの販売促進活動費用の発生等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第17期は、富士フイルム株式会社からの受託開発収入の発生等により売上高は増加しましたが、開発及び営業部門の人員補強による人件費の増加及び販売促進活動費用の増加等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
第18期は、売上高は増加しましたが、人員補強による人件費の増加及び本社棟4階生産設備増設に伴う減価償却費の増加等により経常損失及び当期純損失を計上しました。
②マイナスの繰越利益剰余金を計上していることについて
多額の製品開発費用が先行して計上されることにより、当社は設立以来損失を計上しています。第18期末における繰越利益剰余金は△13,149,273千円となります。当社は、中長期事業計画に基づき、将来の利益拡大を目指しています。しかしながら、計画どおりに利益を計上できない可能性があります。また、当社の事業が計画どおりに進展せず、継続的な損失がさらに発生する可能性があり、マイナスの繰越利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れる可能性があります。
③税務上の繰越欠損金について
現在のところ税務上の繰越欠損金が存在しています。そのため、事業計画の進展から順調に当社業績が推移するなどして繰越欠損金による課税所得の控除が受けられなくなった場合や税法改正により繰越欠損金による課税所得の控除が認められなくなった場合には、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が計上されることとなり、当期純利益又は当期純損失及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。
(10) 支配株主について
当社へ一番の影響力を持つのは、2014年12月より当社の親会社となった富士フイルムホールディングス株式会社と考えられます。また、富士フイルム株式会社は、当社への資本参画のみならず研究開発及び事業展開においても大変重要な役割を担っています。そのため、今後富士フイルムホールディングス株式会社及び富士フイルム株式会社との関係に大きな変化が生じた場合、当社の経営に影響を及ぼす可能性があります。
当社主要株主である株式会社ニデックは、当社の自家培養角膜上皮事業における開発委託元であるだけでなく、当社創業時に母体となって出資をするなど大変重要な役割を担ってきました。そのため、今後株式会社ニデックとの関係に大きな変化が生じた場合、当社の事業戦略や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
①関連当事者の商号等
商号 | 属性 | 住所 | 事業内容 | 議決権等の被所有割合(%) |
富士フイルムホールディングス株式会社 | 親会社 | 東京都港区 | 富士フイルムグループを統括する持株会社 | 50.16 |
富士フイルム株式会社 | その他の関係会社 | 東京都港区 | イメージングソリューション、インフォメーションソリューションの開発、製造、販売、サービス | 46.08 |
株式会社ニデック | 主要株主 | 愛知県 蒲郡市 | 眼科医療機器ならびに眼鏡関連機器の開発・製造・販売、自家培養角膜の研究 | 10.41 |
②当社と関連当事者とのその他の関係
2016年3月31日における当社の役員12名のうち、戸田雄三氏、石川隆利氏は富士フイルムホールディングス株式会社ならびに富士フイルム株式会社の役員を、倉橋清隆氏は株式会社ニデックの役員を兼任しております。
当社における地位 | 氏名 | 兼職の状況及び役職 |
社外取締役(非常勤) | 戸田 雄三 | 富士フイルムホールディングス株式会社 取締役 富士フイルム株式会社 取締役専務執行役員 医療分野特命担当 |
社外取締役(非常勤) | 石川 隆利 | 富士フイルムホールディングス株式会社 取締役 富士フイルム株式会社 取締役常務執行役員 医薬品事業部長 |
社外取締役(非常勤) | 倉橋 清隆 | 株式会社ニデック 取締役 薬事法務本部長 |
社外取締役(非常勤) | 伴 寿一 | 富士フイルム株式会社 再生医療事業推進室室長 兼 医薬品事業部次長 |
社外取締役(非常勤) | 岡田 淳二 | 富士フイルムホールディングス株式会社 経営企画部統括マネージャー 富士フイルム株式会社 経営企画本部経営企画部長 兼 G-up推進室マネージャー |
取締役 常務執行役員 | 畠 賢一郎 | 富士フイルム株式会社 R&D統括本部再生医療研究所長 |
③当社と関連当事者との取引(自 2015年4月1日 至 2016年3月31日)
種類 | 会社等の名称又は氏名 | 所在地 | 資本金又 は出資金 (千円) | 事業の内容 又は職業 | 議決権等の所有(被所有)割合 (%) | 関連当事者との関係 | 取引の内容 | 取引金額 (千円) | 科目 | 期末残高 (千円) |
その他の関係会社 | 富士フイルム株式会社 | 東京都港区 | 40,000,000 | イメージングソリューション、インフォメーションソリューションの開発、製造、販売、サービス | (被所有) 直接 46.08 | 当社への開発委託 業務提携 役員の兼任 | 受託開発収入 (注2(1)) | 450,421 | 売掛金 | 188,190 |
諸経費の立替払 (注2(2)) | 19,589 | 立替金 | 555 | |||||||
被出向者給与の支払 (注2(3)) | 9,282 | 未払金 | 616 | |||||||
出向者給与の支払 (注2(4)) | 5,333 | 未収入金 | 640 | |||||||
特注品の購入 (注2(5)) | 1,500 | 未払金 | 1,620 | |||||||
主要株主 | 株式会社ニデック | 愛知県蒲郡市 | 461,890 | 眼科医療機器ならびに眼鏡関連機器の開発・製造・販売、自家培養角膜の研究 | (被所有) 直接 10.41 | 当社への開発委託 役員の兼任 | 受託開発収入 (注2(6)) | 41,060 | 売掛金 | 4,544 |
託児所費用負担金 (注2(7)) | 2,785 | 未払金 | 230 |
2 取引条件及び取引条件の決定方針等
(1) 富士フイルム株式会社からの受託開発収入は契約をもとに決定しております。
(2) 富士フイルム株式会社への諸経費の立替払は、探索的事業に際し、富士フイルム株式会社負担分について当社が一時的に立替払をしたものであります。
(3) 富士フイルム株式会社からの出向者に対する給与の支払は契約をもとに決定しております。
(4) 富士フイルム株式会社への出向者に対する給与の受取は契約をもとに決定しております。
(5) 富士フイルム株式会社からの特注品の購入については契約をもとに決定しております。
(6) 株式会社ニデックからの受託開発収入は契約をもとに決定しております。
(7) 株式会社ニデックへの託児所費用負担金は契約をもとに決定しております。
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