有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100AOF5
東急建設株式会社 研究開発活動 (2017年3月期)
経営上の重要な契約等メニュー財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
セグメントごとの研究開発は次のとおりである。なお、「建設事業(建築)」及び「建設事業(土木)」の研究開発費は、建設事業共通でかかる費用のため、「建設事業」として記載している。
[建設事業]
研究開発活動については、受注確保と施工品質向上のため、現場の目線に立ち、技術部門が連携協働し、当社ビジョンと中期経営計画を踏まえ、技術優位性とコスト優位性のある開発技術の早期実用化を目指した。当連結会計年度においては、以下の技術分野に関して、研究開発を進めた。
1.施工技術 ・省力化技術 ・工期短縮技術 ・解体技術 ・ICTロボット技術 ・総合評価対応技術
・環境対策技術
2.鉄道建設 ・人工地盤技術 ・周辺環境対策技術 ・空間利用技術 ・維持管理技術
・長寿命化技術 ・LCC(Life Cycle Cost)算定技術
3.安全安心強靭化 ・延命化技術 ・災害対策技術(地震、洪水等)
4.快適空間 ・室内環境技術 ・高齢者対応技術
5.環境共生 ・省エネ技術 ・ZEB(Zero Energy Building) ・ZEH(Zero Energy House)
・地球温暖化防止技術 ・汚染対策技術
6.街づくり ・多摩田園都市再開発のための都市計画技術 ・ストック活用技術
・木造建築多様化技術
更に、大学、公共研究機関及び関連企業との共同研究をはじめとする社外連携を進め、競争的資金の活用等により研究開発の効率を高めている。
当連結会計年度における研究開発費は、997百万円である。
主な研究開発成果は次のとおりである。
(1) 「CBパネル工法」の開発
「CBパネル工法(Combination Panel)」は、当社と㈱ホクコン、公益財団法人鉄道総合技術研究所が共同で開発した高架橋等の柱部材の耐震補強工法である。本工法は、プレキャストパネルを埋設型枠として既設柱の周囲に配置し、既設柱との隙間に高強度繊維補強モルタルを充填して一体化させる工法である。従来のRC巻立て工法と比べ補強鉄筋の組立と型枠支保工の設置作業を省略することで施工の効率化を図り、短期施工を実現した。更に、従来の鋼板巻立て工法では困難であった狭隘部の施工、人力のみでの施工を可能にし、溶接等の専門技能も不要とした。プレキャストパネルは、酸素や塩分等の劣化因子の浸透を抑制するため、補強後の耐久性にも優れている。本工法は、既に実工事で採用され、2017年3月までに柱148本を施工した。(2) 資機材搬入・揚重管理支援システム(現場情報共有システム)の開発
当社と福井コンピュータ㈱は、資機材搬入・揚重管理支援システム「DandALL(ダンドール)」を共同開発した。本システムは、現場に資機材を搬入する車両やクレーンによる揚重作業のスケジュールを一元管理するシステムで、工事関係者が持つスマートフォンやタブレット端末でリアルタイムに資機材搬入情報を共有できる。これにより、工事現場の物流のジャスト・イン・タイム化を実現し、搬入待ち・揚重待ちといった「手待ちのムダ」が削減できる。本システムは、大規模再開発工事等7作業所で採用している。
(3) 地震災害時BCP活動拠点の安全性評価に関する研究
当社と富士電機㈱は、地震災害後における建物被災度の自動判定、拠点建物の安全性を即時判断する「4D-Doctor(フォーディードクター)」を共同開発した。
「4D-Doctor」は、当社が提案する被災度判定アルゴリズムと、富士電機㈱が開発したMEMS型加速度計「感振センサ」による観測体制を融合させたシステムである。センサは各階に設置する必要がなく、建物ゆれの特徴を把握できる階を選定し観測することで、より少ない観測点情報から建物の被災度を判定できる。地震災害後に判定結果を即時にシステム画面に表示するほか、メールにより関係者に情報発信する。建物の微小な揺れを正確に検出できる「感振センサ」の特長を活かし、平常時における建物の固有周期をモニタリングし、地震時だけにとどまらない建物の健康状態までの見える化を実現したシステムとして、商品化に向けて取組んでいる。
(4) 「Two-tone Beam工法」の建築技術性能証明取得
本技術は、プレキャスト鉄筋コンクリート造建築物において床スラブを現場打ちとする場合に用いられる鉄筋コンクリート造ハーフプレキャスト梁において、現場打設部のコンクリート強度を梁断面下部のプレキャスト造部分のコンクリート強度よりも低強度とする工法である。
この工法を採用することで、床スラブ収縮ひび割れを低減するとともに、現場打ちコンクリート施工を容易とし、コストダウンが可能となる。
本技術は2008年に開発を完了しているが、実施工と普及を目指すため、蓄積データを活用し、建築技術性能証明を2017年3月に取得した。
(5) 自然由来重金属含有細粒土の浄化技術(特殊鉄粉を用いた洗浄・吸着処理により汚染土壌・汚泥を削減する技術)を開発
当社は、掘削後の汚染土を特殊鉄粉により浄化処理することで汚染土を無害化・減量化する技術を開発し、実用化の目処をつけた。近年、東京外かく環状道路やリニア新幹線の建設、大規模再開発等により、砒素やふっ素等の自然由来重金属含有土が大量に発生する状況になってきており、これを効率よく浄化できる技術のニーズが高まっている。本技術は、従来の分級・洗浄技術に、鉄粉吸着処理と洗浄水のpH調整を組み合わせ、砒素やふっ素等の自然由来重金属含有土の浄化処理を行うものである。今後、工事やプラントへの導入による実用化を図り、自然由来を含めた重金属含有土の効率的な処理を実現し、合理的で環境にやさしい施工方法を確立する。
(6) ZEB提案のモデルとして技術研究所の改修に着手
当社が提案する「ZEB(Zero Energy Building)」のモデルとして、技術研究所オフィス棟(神奈川県相模原市)のZEB改修に取組んでいる。改修するオフィス棟は1992年に竣工し、築25年を経過した地下1階、地上5階、延床面積約3,000㎡の建物である。改修は建物を使用しながらの工事で、2016年8月から開始しており、2017年度に完了する予定である。技術研究所では、2011年度に導入したBEMS(Building Energy Management System)によりエネルギー消費量を見える化し、運用による省エネルギーを図ってきた。また、同時期に省エネと快適性を両立する独自開発の空調・照明制御技術を執務室の一部に導入し、その効果を実証してきた(RECOffice:リコフィス)。
今回のZEB改修では、これらの知見を踏まえ改良した独自技術を導入するほか、外壁や窓の断熱・遮熱性能を強化するとともに、LED照明やセンサー制御等、照明・空調の高効率化技術を導入する予定である。さらに、太陽光発電や今後の水素社会を見据えた水素利用技術等の創エネ・蓄エネ技術を導入予定である。
オフィス棟の一次エネルギー削減率は、暫定目標として2016年度は一般的なオフィスビル(財団法人省エネルギーセンター「オフィスビルの省エネルギー」規模別エネルギー消費原単位から設定)と比べて68%削減、2017年度にはIoT技術導入も視野に入れ82%以上の削減を設定し、既存建物のZEB改修としてはわが国でトップレベルの削減率を目指す。
なお、本改修工事の一部は、「2016年度ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業」(一般社団法人環境共創イニシアチブ)に採択されている。
(7) 天井耐震化技術
当社と八潮建材工業㈱は、建築基準法施行令が定める特定天井への適用を意図した天井耐震化技術の実用化を本格化させている。本技術は、鋼製下地在来工法天井にブレースを組んで耐震化を図るシステムであり、4本のブレースの下端を集約して鋼製下地の格点と接合する専用耐震金具と、その近傍のクリップの補強金物及びブレース上端接合部によって構成される。法令により定められた試験・評価の方法に則した天井ユニット試験による性能検証を重ねた結果、効率よく地震力を分散し、中地震時に部材が損傷しないことを実証した。本システムは現在、非特定天井の自主耐震化工事において設計・施工実績を重ねており、今後量産を進め、特定天井への適用を本格化する予定である。(8) JAXA「液体を使わない建設資材の現地生産技術の研究」の共同研究を実施
当社と東京都市大学、日東製網㈱は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で「月面における建設資材の現地生産技術」の研究を行った。月面上で微小隕石や放射線から基地を守るための建設資材を、セメントや水がほとんどない現地で製造するシステム・技術を構築することを目標とし、当社が全体システムの提案・構築を担当した。当社が開発済みの月面土のう工法「ルナー・テキスタイル工法」を軸に、研究中の生産技術をプラスして新たな建設資材の生産を目指したものである。(9) 「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」の研究・開発
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術の研究・開発を、国立研究開発法人新エネルギー・産業開発機構(NEDO)より委託され、2014年度より5年間の予定で、当社を研究代表者として東京大学、湘南工科大学と共同で「トンネル全断面点検・診断システムの開発」を実施している。また、東北大学を研究代表者とする「橋梁の打音検査ならびに近接目視を代替する飛行ロボットシステム」の研究にも参画している。いずれのプロジェクトも、老朽化が進むインフラの点検技術として各界から注目されている。なお、子会社においては、研究開発活動は特段行われていない。
[不動産事業等]
研究開発活動は、特段行われていない。
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