有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100AGN2
オンコセラピー・サイエンス株式会社 事業の内容 (2017年3月期)
当社の企業集団は、当社、連結子会社2社により構成されています。当社および連結子会社は「医薬品の研究および開発」ならびにこれらに関連する事業内容を行っております。
(1)当社の設立経緯について
当社は、元東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長(現 シカゴ大学教授)である中村祐輔教授の研究成果(シーズ)を事業化することを目的として2001年4月に設立した研究開発型ベンチャー企業です。
(2)当社事業の背景について
① ゲノム研究の進展について
1990年代より欧米を中心としてゲノム(※1)研究が活発に進められており、2000年6月には、いわゆる「ヒトゲノム・プロジェクト(※2)」等によってヒトゲノム解読完了が宣言されております。現在では、30億からなるヒトゲノム遺伝暗号の読み取りがほぼ終了し、現在ヒトの遺伝子総数は約23,000種類程度であると予測されております。これと前後した様々なバイオテクノロジーの進歩等により、「ゲノム創薬」への応用が現実のものとなりつつあります。
「ゲノム創薬」とは、遺伝子および遺伝子が作り出すタンパク質等の情報に基づき、疾患の原因である新規創薬ターゲットの発見とそれらを標的とする治療薬の有効性や安全性の検討等を行い、医薬品を論理的・効率的に作り出すものであります。近年において、がん、糖尿病、高血圧や、慢性関節リウマチなど、多くの疾患に遺伝子が関係することが明らかになっており、疾患に関係する遺伝子を同定し、それを標的とすることで、疾患の症状を軽減させる対症療法ではなく、疾患の原因を除去する効果的な医薬品開発が可能となるものと考えられております。
また、バイオテクノロジーの進歩に伴い、疾患関連遺伝子探索、遺伝子機能解析に加えて、SNPs(※3)、プロテオミクス(※4)、バイオインフォマティクス(※5)等の各研究分野も急速に進展しており、多くのベンチャー企業が創設される等、ゲノム研究分野はその市場規模の拡大が見込まれております。
なお、こうした技術および研究の進歩への対応として、欧米の大手製薬企業等は、多大な研究開発費を確保するためのM&A戦略を実施する一方で、自社での研究開発活動に加えて、特に、基礎研究分野や、より専門性の高い分野等においては、ベンチャー企業、大学や社外の研究機関等との提携による外部リソースの活用を積極的に行う事が近年一般的になっております。
② 抗がん剤分野について
従来のがん治療法は、一般に、がん細胞を除去し、あるいは死滅させることに重点が置かれ、その主流は、外科的切除、放射線療法および抗がん剤投与による化学療法ならびにこれらの組み合わせによるものであります。しかし、これらの治療法は、いずれも患者に対する強い侵襲作用があり、特に化学療法は、抗がん剤を生体内に投与して分裂をつづける細胞に対して無差別な攻撃を行うものであり、がん細胞だけでなく正常細胞にも強い毒性を発揮する欠点があります。その結果、患者により個人差はあるものの、骨髄抑制、脱毛、吐き気、嘔吐または下痢等の副作用によりがん患者に相応の負担を強いることとなり、抗がん剤の使用範囲は限られたものとなり、また、抗腫瘍活性も期待された程得られない状況で、従来のがん治療法に代わる、より有効で患者に対して負担の少ない治療法の開発が望まれておりました。
近年、分子生物学(※6)及びヒトゲノム研究の進展等に伴い、特定の分子のみを標的としたいわゆる分子標的治療薬(※7)と呼ばれる医薬品開発が進められており、乳がん、白血病、肺がん、大腸がん等に対する新たな抗がん剤が登場しております。これらの抗がん剤は、従来の化学療法と比較して効果が高くかつ副作用が抑えられ、より長期間の投薬が可能となるものであります。現在、このような新たな抗がん剤の開発が世界各国で進められており、今後のがん治療に高い効果を発揮するものと期待されております。
また、ヒトにおける腫瘍に対する免疫システムの関与の機序が明らかになりつつあり、がん治療において、従来の手術療法、放射線療法、薬物療法に加え、免疫療法があらたな機序を有する第4のがん治療法として期待が高まりつつあります。2009年9月、米国医薬食品局(FDA)は、世界の免疫療法の開発の状況を踏まえ、「治療用がんワクチンについての臨床的考察」を公表し、2010年4月、前立腺がんに対する免疫細胞療法を承認し、2011年3月には、悪性黒色腫に対してリンパ球の活性化を維持する抗体医薬を承認しました。がんに対する免疫療法は、今や次世代の新たながん治療法として確立し、がん治療薬の概念は大きく変わりつつあります。
このように、分子標的治療薬の登場に加え、人口の高齢化や、既存の抗がん剤より効果が高くかつ副作用の少ない薬剤の登場により患者の生存期間が長くなることによる治療の長期化、製薬会社による更なる分子標的治療薬の研究開発推進等の動向から、当社は、抗がん剤の市場は今後も拡大していくものと予測しております。
(3)事業内容について
当社グループは、大学や外部研究機関との共同研究等によって得られた成果、すなわち網羅的遺伝子解析により、がん細胞において高頻度に高発現し、正常細胞ではほとんど発現していないがん関連遺伝子情報およびがん関連遺伝子が作りだすタンパク質、その他の遺伝子産物の機能解析情報等を活用し、がん治療薬の上市を目指して、低分子医薬、がん特異的ペプチドワクチン、抗体医薬等の創薬研究を実施しております。当社は、これら創薬研究の結果得られた医薬品候補物質を、当社グループ独自でまたは提携先製薬企業と共同で、臨床開発を実施するなど、医薬品に関する研究開発事業を行っております。
また、21世紀に起こった技術革新により、個々の患者のゲノム・エピゲノム・プロテオームなどの変化を詳細に解析することが可能となりました。したがって、がん医療は、これらの情報を駆使して、予防・早期発見・最適な治療法の選択・新規治療法の開発を行う「がん個別化医療」(Cancer Precision Medicine)が必須であると考えており、「がん個別化医療」事業への取り組みを行っております。
① 医薬品開発における事業領域について
当社グループの研究開発は、2001年4月からの当社と東京大学医科学研究所との共同研究により出発いたしました。当該研究は抗がん剤開発のためのがん特異的タンパクの同定とその機能解析を目的としており、主に基礎研究領域に重点を置いたものとなっています。
その後、基礎研究の継続的な実施による進展とともに、当社グループの事業領域は、より医薬品の開発に近い創薬研究へと拡大し、低分子医薬、がん特異的ペプチドワクチン、抗体医薬等の各領域において、臨床応用を目指した創薬研究を実施しております。
さらに、国内外において、各提携先製薬企業と共同で、または当社グループ独自で複数の臨床試験を実施しております。なお、当社グループ各事業領域の詳細につきましては、第2 事業の状況 6研究開発活動 (2)研究開発活動に記載のをご覧ください。
② 医薬品の研究開発について
当社グループでは、主に下記の医薬品の研究開発を実施しております。
低分子医薬
低分子医薬は、がん関連遺伝子由来のタンパク質(がん関連遺伝子産物)に結合し、その機能を阻害する低分子化合物(※8)を利用した医薬品です。当社グループは網羅的遺伝子解析によって同定したがん関連遺伝子産物に対し、独自に医薬品となり得る低分子化合物をスクリーニングし、医薬品開発を行っております。
がん特異的ペプチドワクチン
がん特異的ペプチドワクチンは、がん細胞にのみ反応する細胞障害性T細胞(※9)を活性化させるなど、人間の体が持つ免疫機構を利用して、がん細胞を攻撃させるがん治療用医薬品です。当社グループは、がん特異的ペプチドワクチンの医薬品候補物質となるペプチドを多数同定し、医薬品開発を行っております。
抗体医薬
抗体医薬は、抗体が細胞膜(がん細胞の表面)に存在する特定のタンパク質(抗原)に対して特異的に反応し、それらを異物として排除する特性を利用した医薬品です。当社グループは、がん関連遺伝子産物を標的とした抗体を作成することで、医薬品開発を行っております。
③ 提携による収益について
バイオベンチャー企業と製薬企業等との契約については、一般に、契約一時金、研究協力金、開発協力金、研究・開発の進捗に応じたマイルストーンおよび医薬品上市後の売上等に応じたロイヤリティ等といった段階的に対価を収受する契約形態が採用されております。これは、製薬企業等において医薬品開発には多大な研究開発費が必要であり、かつリスクも高いものであることに起因するものであります。当社グループが現在締結する契約も同様であり、また、今後締結する契約においても同様の形態が想定されます。
契約一時金は、契約時に一定の権利の付与に対して受取る対価として一括収益計上しており、研究協力金および開発協力金は製薬企業より契約に基づく研究開発に対する経済的支援として受領するものであり、役務の提供に基づき収益計上しております。マイルストーンは自社あるいは提携先製薬企業における研究開発の進捗(予め設定されたイベント達成等)に応じて受取る対価、ロイヤリティは製薬企業が医薬品として上市された場合に売上等の一定率を対価として受領するものであり、製薬企業等からの報告等に基づき発生時に収益計上することとしております。
当社グループが契約に基づき受領する収益のうち、研究協力金および開発協力金については、研究および開発の内容等に応じて複数年に渡り受領することとされておりますが、一部については当該協力金について規定されていないものもあります。
一般的に医薬品の開発期間は基礎研究開始から上市までに通常10年以上の長期間に及ぶものでもあります。事業収益の発生については、その多くが契約締結先の製薬企業等の研究開発の進捗および医薬品発売・販売の状況等に依存するもので、これらが事業収益として計上されるにはかなりの長期間を要する可能性があり、またこれらの事業収益が計上されない可能性もあります。
さらに、製薬企業等との契約締結の可否、契約締結時期および収益の発生時期によって当社グループの業績は大きく変動する傾向にあり、これによる業績の上期または下期への偏重が生じる可能性、または場合によっては決算期ごとの業績変動要因となる可能性があります。
[用語解説]
(※1)ゲノム
生物の染色体と遺伝子の完全なセットを意味し、1つの生物がもつ遺伝情報のすべて、あるいはDNAの全体を指します。
(※2)ヒトゲノム・プロジェクト
ヒトの遺伝情報の総体であるヒトゲノム(染色体23本に分配されている30億塩基対DNA)をすべて解読しようという国際的なプロジェクトの総称。1988年に、有力な科学者主導でヒトゲノムの解析を実施すべく、ヒトゲノム機構(HUGO)が設立され、こののち1990年10月に、同機構の指揮のもとで正式に国際的なプロジェクトが開始されました。日本でも、1991年から解読が本格化されました。計画開始当初、2005年をメドに全長配列決定をする予定でしたが、シークエンス技術の急速な進歩、及びゲノムの大量解読を行うベンチャー企業の追いあげにともない、当初の計画は大幅に前倒しされることになり、2000年6月には、解読結果の概略が発表されております。
(※3)SNPs
Single Nucleotide Polymorphism(=1塩基多型)の略語。DNAの塩基配列は、同じヒトであっても個人によって僅かずつ異なっていることがわかっており、これが全ゲノム中の約1%、数百万箇所あるとされております。こういった遺伝子の相違の中で最も頻繁に見られるのが、塩基配列のある箇所でA-TとG-Cの塩基ペアが1箇所だけ置き換わっているSNPであり、疾患の罹りやすさ、薬の効きやすさ、副作用の出やすさなどが個人で異なることもSNPに関連すると思われることから、ゲノム創薬においても重要視されている研究テーマの一つとなっております。
(※4)プロテオミクス
ゲノム情報とそれによって作られるタンパク質との関連を生命活動に照らし合わせて包括的に行う研究のこと。具体的には、発見された遺伝子の機能解析、作られるタンパク質の調節機構の解析、タンパク質同士の相互作用の研究、疾患・病態とタンパク質の働きとの関連性などが課題とされております。
(※5)バイオインフォマティクス
バイオ研究において、情報科学と生命科学の融合領域で生命情報科学をさします。ゲノムの塩基配列情報やタンパク質の構造情報などをコンピューター処理して活用する技術。コンピューターを用いた遺伝子およびタンパク質の構造・機能解析に始まり、それらの分子の生体内での作用や発現レベル、相互作用、病態との関わりなどの情報を含んだ生体情報解析あるいはデータベース化するようなシステムの総称であります。
(※6)分子生物学
もともと生物学は、生物の形態・分類・進化・行動や遺伝に法則性を見いだし、そこから生命の本質を探ろうとする学問でした。1950年代にワトソンとクリックにより遺伝物質DNAの分子構造が提唱されたとき、初めて生物学者が、生物を分子のレベルで解明する可能性を認識し、ここに分子生物学が生まれました。現在、分子生物学は医学・薬学・農学・バイオテクノロジーの領域の最も重要な基礎分野として、その成果は、様々な応用技術の基盤となっております。
(※7)分子標的治療薬
ある分子に作用することがわかっている低分子化合物や抗体などを選択することによって作られ、疾患に関係がある細胞だけに働きかける機能を持った新しいタイプの治療薬のこと。従来の治療薬に比べて効果が高くかつ副作用が少ないとされ、近年、がん治療などで注目されております。
(※8)低分子化合物
抗がん剤をふくめ、医薬品には分子量の大きい高分子物質、たとえば抗体のようなタンパク質などの高分子物質と、相対的に分子量の小さい低分子物質があります。概ね分子量が1,000前後のものまでが、一般に低分子とされており、低分子物質は低分子化合物ともよばれております。大半の低分子化合物は有機合成化学の手法で人工的に作られておりますが、あらかじめ合成されて集積されている多数の化合物の集合、すなわち、化合物ライブラリーの中から、抗がん効果をもつ化合物を選び出すスクリーニングが製薬企業では行われております。
(※9)細胞傷害性T細胞
細胞傷害性T細胞は、抗体とともに私たちの体の免疫反応を担う、細胞であります。抗体は、血液や分泌液などの中に通常存在することから体液性免疫ともよばれるのに対し、細胞障害性T細胞は、細胞が作用の中心なので、細胞性免疫ともよばれております。細胞障害性T細胞のがん細胞に対する機能は、がん抗原を認識し、そのがん抗原が提示されている細胞を殺傷するものであります。
(1)当社の設立経緯について
当社は、元東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長(現 シカゴ大学教授)である中村祐輔教授の研究成果(シーズ)を事業化することを目的として2001年4月に設立した研究開発型ベンチャー企業です。
(2)当社事業の背景について
① ゲノム研究の進展について
1990年代より欧米を中心としてゲノム(※1)研究が活発に進められており、2000年6月には、いわゆる「ヒトゲノム・プロジェクト(※2)」等によってヒトゲノム解読完了が宣言されております。現在では、30億からなるヒトゲノム遺伝暗号の読み取りがほぼ終了し、現在ヒトの遺伝子総数は約23,000種類程度であると予測されております。これと前後した様々なバイオテクノロジーの進歩等により、「ゲノム創薬」への応用が現実のものとなりつつあります。
「ゲノム創薬」とは、遺伝子および遺伝子が作り出すタンパク質等の情報に基づき、疾患の原因である新規創薬ターゲットの発見とそれらを標的とする治療薬の有効性や安全性の検討等を行い、医薬品を論理的・効率的に作り出すものであります。近年において、がん、糖尿病、高血圧や、慢性関節リウマチなど、多くの疾患に遺伝子が関係することが明らかになっており、疾患に関係する遺伝子を同定し、それを標的とすることで、疾患の症状を軽減させる対症療法ではなく、疾患の原因を除去する効果的な医薬品開発が可能となるものと考えられております。
また、バイオテクノロジーの進歩に伴い、疾患関連遺伝子探索、遺伝子機能解析に加えて、SNPs(※3)、プロテオミクス(※4)、バイオインフォマティクス(※5)等の各研究分野も急速に進展しており、多くのベンチャー企業が創設される等、ゲノム研究分野はその市場規模の拡大が見込まれております。
なお、こうした技術および研究の進歩への対応として、欧米の大手製薬企業等は、多大な研究開発費を確保するためのM&A戦略を実施する一方で、自社での研究開発活動に加えて、特に、基礎研究分野や、より専門性の高い分野等においては、ベンチャー企業、大学や社外の研究機関等との提携による外部リソースの活用を積極的に行う事が近年一般的になっております。
② 抗がん剤分野について
従来のがん治療法は、一般に、がん細胞を除去し、あるいは死滅させることに重点が置かれ、その主流は、外科的切除、放射線療法および抗がん剤投与による化学療法ならびにこれらの組み合わせによるものであります。しかし、これらの治療法は、いずれも患者に対する強い侵襲作用があり、特に化学療法は、抗がん剤を生体内に投与して分裂をつづける細胞に対して無差別な攻撃を行うものであり、がん細胞だけでなく正常細胞にも強い毒性を発揮する欠点があります。その結果、患者により個人差はあるものの、骨髄抑制、脱毛、吐き気、嘔吐または下痢等の副作用によりがん患者に相応の負担を強いることとなり、抗がん剤の使用範囲は限られたものとなり、また、抗腫瘍活性も期待された程得られない状況で、従来のがん治療法に代わる、より有効で患者に対して負担の少ない治療法の開発が望まれておりました。
近年、分子生物学(※6)及びヒトゲノム研究の進展等に伴い、特定の分子のみを標的としたいわゆる分子標的治療薬(※7)と呼ばれる医薬品開発が進められており、乳がん、白血病、肺がん、大腸がん等に対する新たな抗がん剤が登場しております。これらの抗がん剤は、従来の化学療法と比較して効果が高くかつ副作用が抑えられ、より長期間の投薬が可能となるものであります。現在、このような新たな抗がん剤の開発が世界各国で進められており、今後のがん治療に高い効果を発揮するものと期待されております。
また、ヒトにおける腫瘍に対する免疫システムの関与の機序が明らかになりつつあり、がん治療において、従来の手術療法、放射線療法、薬物療法に加え、免疫療法があらたな機序を有する第4のがん治療法として期待が高まりつつあります。2009年9月、米国医薬食品局(FDA)は、世界の免疫療法の開発の状況を踏まえ、「治療用がんワクチンについての臨床的考察」を公表し、2010年4月、前立腺がんに対する免疫細胞療法を承認し、2011年3月には、悪性黒色腫に対してリンパ球の活性化を維持する抗体医薬を承認しました。がんに対する免疫療法は、今や次世代の新たながん治療法として確立し、がん治療薬の概念は大きく変わりつつあります。
このように、分子標的治療薬の登場に加え、人口の高齢化や、既存の抗がん剤より効果が高くかつ副作用の少ない薬剤の登場により患者の生存期間が長くなることによる治療の長期化、製薬会社による更なる分子標的治療薬の研究開発推進等の動向から、当社は、抗がん剤の市場は今後も拡大していくものと予測しております。
(3)事業内容について
当社グループは、大学や外部研究機関との共同研究等によって得られた成果、すなわち網羅的遺伝子解析により、がん細胞において高頻度に高発現し、正常細胞ではほとんど発現していないがん関連遺伝子情報およびがん関連遺伝子が作りだすタンパク質、その他の遺伝子産物の機能解析情報等を活用し、がん治療薬の上市を目指して、低分子医薬、がん特異的ペプチドワクチン、抗体医薬等の創薬研究を実施しております。当社は、これら創薬研究の結果得られた医薬品候補物質を、当社グループ独自でまたは提携先製薬企業と共同で、臨床開発を実施するなど、医薬品に関する研究開発事業を行っております。
また、21世紀に起こった技術革新により、個々の患者のゲノム・エピゲノム・プロテオームなどの変化を詳細に解析することが可能となりました。したがって、がん医療は、これらの情報を駆使して、予防・早期発見・最適な治療法の選択・新規治療法の開発を行う「がん個別化医療」(Cancer Precision Medicine)が必須であると考えており、「がん個別化医療」事業への取り組みを行っております。
① 医薬品開発における事業領域について
当社グループの研究開発は、2001年4月からの当社と東京大学医科学研究所との共同研究により出発いたしました。当該研究は抗がん剤開発のためのがん特異的タンパクの同定とその機能解析を目的としており、主に基礎研究領域に重点を置いたものとなっています。
その後、基礎研究の継続的な実施による進展とともに、当社グループの事業領域は、より医薬品の開発に近い創薬研究へと拡大し、低分子医薬、がん特異的ペプチドワクチン、抗体医薬等の各領域において、臨床応用を目指した創薬研究を実施しております。
さらに、国内外において、各提携先製薬企業と共同で、または当社グループ独自で複数の臨床試験を実施しております。なお、当社グループ各事業領域の詳細につきましては、第2 事業の状況 6研究開発活動 (2)研究開発活動に記載のをご覧ください。
② 医薬品の研究開発について
当社グループでは、主に下記の医薬品の研究開発を実施しております。
低分子医薬
低分子医薬は、がん関連遺伝子由来のタンパク質(がん関連遺伝子産物)に結合し、その機能を阻害する低分子化合物(※8)を利用した医薬品です。当社グループは網羅的遺伝子解析によって同定したがん関連遺伝子産物に対し、独自に医薬品となり得る低分子化合物をスクリーニングし、医薬品開発を行っております。
がん特異的ペプチドワクチン
がん特異的ペプチドワクチンは、がん細胞にのみ反応する細胞障害性T細胞(※9)を活性化させるなど、人間の体が持つ免疫機構を利用して、がん細胞を攻撃させるがん治療用医薬品です。当社グループは、がん特異的ペプチドワクチンの医薬品候補物質となるペプチドを多数同定し、医薬品開発を行っております。
抗体医薬
抗体医薬は、抗体が細胞膜(がん細胞の表面)に存在する特定のタンパク質(抗原)に対して特異的に反応し、それらを異物として排除する特性を利用した医薬品です。当社グループは、がん関連遺伝子産物を標的とした抗体を作成することで、医薬品開発を行っております。
③ 提携による収益について
バイオベンチャー企業と製薬企業等との契約については、一般に、契約一時金、研究協力金、開発協力金、研究・開発の進捗に応じたマイルストーンおよび医薬品上市後の売上等に応じたロイヤリティ等といった段階的に対価を収受する契約形態が採用されております。これは、製薬企業等において医薬品開発には多大な研究開発費が必要であり、かつリスクも高いものであることに起因するものであります。当社グループが現在締結する契約も同様であり、また、今後締結する契約においても同様の形態が想定されます。
契約一時金は、契約時に一定の権利の付与に対して受取る対価として一括収益計上しており、研究協力金および開発協力金は製薬企業より契約に基づく研究開発に対する経済的支援として受領するものであり、役務の提供に基づき収益計上しております。マイルストーンは自社あるいは提携先製薬企業における研究開発の進捗(予め設定されたイベント達成等)に応じて受取る対価、ロイヤリティは製薬企業が医薬品として上市された場合に売上等の一定率を対価として受領するものであり、製薬企業等からの報告等に基づき発生時に収益計上することとしております。
当社グループが契約に基づき受領する収益のうち、研究協力金および開発協力金については、研究および開発の内容等に応じて複数年に渡り受領することとされておりますが、一部については当該協力金について規定されていないものもあります。
一般的に医薬品の開発期間は基礎研究開始から上市までに通常10年以上の長期間に及ぶものでもあります。事業収益の発生については、その多くが契約締結先の製薬企業等の研究開発の進捗および医薬品発売・販売の状況等に依存するもので、これらが事業収益として計上されるにはかなりの長期間を要する可能性があり、またこれらの事業収益が計上されない可能性もあります。
さらに、製薬企業等との契約締結の可否、契約締結時期および収益の発生時期によって当社グループの業績は大きく変動する傾向にあり、これによる業績の上期または下期への偏重が生じる可能性、または場合によっては決算期ごとの業績変動要因となる可能性があります。
[用語解説]
(※1)ゲノム
生物の染色体と遺伝子の完全なセットを意味し、1つの生物がもつ遺伝情報のすべて、あるいはDNAの全体を指します。
(※2)ヒトゲノム・プロジェクト
ヒトの遺伝情報の総体であるヒトゲノム(染色体23本に分配されている30億塩基対DNA)をすべて解読しようという国際的なプロジェクトの総称。1988年に、有力な科学者主導でヒトゲノムの解析を実施すべく、ヒトゲノム機構(HUGO)が設立され、こののち1990年10月に、同機構の指揮のもとで正式に国際的なプロジェクトが開始されました。日本でも、1991年から解読が本格化されました。計画開始当初、2005年をメドに全長配列決定をする予定でしたが、シークエンス技術の急速な進歩、及びゲノムの大量解読を行うベンチャー企業の追いあげにともない、当初の計画は大幅に前倒しされることになり、2000年6月には、解読結果の概略が発表されております。
(※3)SNPs
Single Nucleotide Polymorphism(=1塩基多型)の略語。DNAの塩基配列は、同じヒトであっても個人によって僅かずつ異なっていることがわかっており、これが全ゲノム中の約1%、数百万箇所あるとされております。こういった遺伝子の相違の中で最も頻繁に見られるのが、塩基配列のある箇所でA-TとG-Cの塩基ペアが1箇所だけ置き換わっているSNPであり、疾患の罹りやすさ、薬の効きやすさ、副作用の出やすさなどが個人で異なることもSNPに関連すると思われることから、ゲノム創薬においても重要視されている研究テーマの一つとなっております。
(※4)プロテオミクス
ゲノム情報とそれによって作られるタンパク質との関連を生命活動に照らし合わせて包括的に行う研究のこと。具体的には、発見された遺伝子の機能解析、作られるタンパク質の調節機構の解析、タンパク質同士の相互作用の研究、疾患・病態とタンパク質の働きとの関連性などが課題とされております。
(※5)バイオインフォマティクス
バイオ研究において、情報科学と生命科学の融合領域で生命情報科学をさします。ゲノムの塩基配列情報やタンパク質の構造情報などをコンピューター処理して活用する技術。コンピューターを用いた遺伝子およびタンパク質の構造・機能解析に始まり、それらの分子の生体内での作用や発現レベル、相互作用、病態との関わりなどの情報を含んだ生体情報解析あるいはデータベース化するようなシステムの総称であります。
(※6)分子生物学
もともと生物学は、生物の形態・分類・進化・行動や遺伝に法則性を見いだし、そこから生命の本質を探ろうとする学問でした。1950年代にワトソンとクリックにより遺伝物質DNAの分子構造が提唱されたとき、初めて生物学者が、生物を分子のレベルで解明する可能性を認識し、ここに分子生物学が生まれました。現在、分子生物学は医学・薬学・農学・バイオテクノロジーの領域の最も重要な基礎分野として、その成果は、様々な応用技術の基盤となっております。
(※7)分子標的治療薬
ある分子に作用することがわかっている低分子化合物や抗体などを選択することによって作られ、疾患に関係がある細胞だけに働きかける機能を持った新しいタイプの治療薬のこと。従来の治療薬に比べて効果が高くかつ副作用が少ないとされ、近年、がん治療などで注目されております。
(※8)低分子化合物
抗がん剤をふくめ、医薬品には分子量の大きい高分子物質、たとえば抗体のようなタンパク質などの高分子物質と、相対的に分子量の小さい低分子物質があります。概ね分子量が1,000前後のものまでが、一般に低分子とされており、低分子物質は低分子化合物ともよばれております。大半の低分子化合物は有機合成化学の手法で人工的に作られておりますが、あらかじめ合成されて集積されている多数の化合物の集合、すなわち、化合物ライブラリーの中から、抗がん効果をもつ化合物を選び出すスクリーニングが製薬企業では行われております。
(※9)細胞傷害性T細胞
細胞傷害性T細胞は、抗体とともに私たちの体の免疫反応を担う、細胞であります。抗体は、血液や分泌液などの中に通常存在することから体液性免疫ともよばれるのに対し、細胞障害性T細胞は、細胞が作用の中心なので、細胞性免疫ともよばれております。細胞障害性T細胞のがん細胞に対する機能は、がん抗原を認識し、そのがん抗原が提示されている細胞を殺傷するものであります。
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ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
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