有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100A0RK
株式会社UMNファーマ 事業の内容 (2016年12月期)
(1)当社グループの事業概要
当社は、製薬業界で培った豊富な開発経験と幅広いネットワークを駆使し、満足な治療法や製造技術のない領域にて、革新的な医薬品を迅速に開発することを会社のミッションに掲げ、2004年4月に設立されました。当社は、これまで当社及び連結子会社(株式会社UNIGEN)によりグループ体制が構成されておりましたが、2017年1月31日に、当社連結子会社である株式会社UNIGENの当社保有株式全株を譲渡したため、以降は当社単体にて事業を推進しております。従いまして、以下に関しまして、当社単体での事業の内容を記載しております。
当社は、当社独自の製造プラットフォーム15)を保有することにより、次世代バイオ医薬品自社開発事業に加え、開発初期から中期段階におけるバイオ医薬品等の受託製造事業も事業領域とするバイオファーマ企業であります。次世代バイオ医薬品自社開発事業においては、開発パイプラインごとに対象疾患領域及び臨床現場の状況、競合する医薬品の状況などを総合的に勘案し、医薬品としての価値を最大化できる最適のタイミングで国内外の製薬企業と提携しライセンスアウトし、契約一時金、開発マイルストーン及び販売開始後のランニングロイヤリティより収益を確保していくビジネスモデルを基本としております。一方、バイオ医薬品等受託製造事業については、当社が保有する横浜研究所、秋田研究所及び秋田工場、これら研究開発・生産施設に従事する製造ノウハウに長けた豊富な人材を活用し、開発初期から開発中期段階までのCMC16)開発・工業化検討を中心として顧客ニーズに対応しつつ、高付加価値サービスを提供していくビジネスモデルを基本として、顧客に対して検討用サンプル・治験薬・製品・各種評価試験結果等を供給いたします。
なお、当社は医療用医薬品の研究開発及びこれに関連する事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
以下に当社の事業系統図を示します。
当社のミッション及びターゲット事業領域は以下のとおりであります。
〈ミッション〉
未充足医療領域のニーズを満たすべく、革新的バイオ医薬品を迅速に開発すること、世界に存在する優れたシーズの研究開発から開発段階、更には製品供給への意向を積極的に支援・橋渡しを行うことで、より効率的に生産が可能な高付加価値バイオ医薬品を創出・供給し、広く社会に貢献する。
〈ターゲット事業領域〉
① 事業領域=「次世代バイオ医薬品自社開発事業」+「バイオ医薬品等受託製造事業」
当社がターゲットとする事業領域は、バイオ医薬品開発・製造に関連する領域であり、当初より掲げている「次世代バイオ医薬品自社開発事業」及び「バイオ医薬品等受託製造事業」の2事業を中心に展開しております。
「次世代バイオ医薬品自社開発事業」においては、医療現場におけるバイオ医薬品の存在価値はますます高まっており、当社として革新的なバイオ医薬品を創出することに今後も大きな事業機会が存在していると考えております。当社がPSCより技術導入し、これまで開発してきたバイオ医薬品製造プラットフォームであるBEVSは、海外において高い評価を得ていることから、「次世代バイオ医薬品自社開発事業」として、既存自社開発パイプラインの再構築を図るとともに、新規シーズの探索・導入を進め、改めて製薬企業等との提携による収益獲得を目指してまいります。なお、当該事業分野においては、提携後の自社開発資金負担の軽減・平準化を重視した、契約一時金・開発協力金・開発マイルストーン・ランニングロイヤリティを中心とした収益構造を目指しております。
一方、「バイオ医薬品等受託製造事業」においては、2017年1月31日付にて、当社連結子会社であった大規模生産施設を有する株式会社UNIGENの当社保有株式全株を譲渡したことにより、大規模商用生産を前提とするバイオ医薬品の製造及び供給事業からの転換を図っております。当社単体におけるリソースは、これまでUMN-0502等の開発で培った知見・ノウハウ及び当社が保有する横浜研究所、秋田研究所及び秋田工場であり、これらを活用して、バイオ医薬品開発プロセスのうち、「研究段階から開発段階、更には製品供給への移行の支援・橋渡し」、具体的には「バイオ医薬品のCMC開発・工業化検討」に特化し、事業会社や国内外研究機関より、初期開発段階にあるバイオ医薬品等原薬の受託製造、原薬製造工程プロセス開発受託、工程規格試験等の各種品質管理に関する分析試験の規格化の業務受託、スケールアップを目的とする工業化検討業務受託等を事業として展開することにより、収益確保・事業拡大を目指しております。これら受託業務は、開発進展に応じた一定期間において継続的な受注が可能であり、また場合によっては包括的な業務受託をすることで安定的且つ継続的な収益が確保可能と考えております。
また、長期的には、秋田工場にて、周辺技術の統合を図り、より効率的な生産が可能な高付加価値製品の製造を担うことで、持続的な成長を目指しております。
② 「バイオ医薬品のCMC開発・工業化検討」のニーズと事業機会
当社は、事業戦略の転換にあたり、バイオ医薬品を取り巻く環境を以下のように認識しております。
● 医薬品の開発・供給はこれまでにも増して、バイオ製品が重要な位置づけになりつつあること、及びヒト用医薬品で得られた知見が、他に転用されつつあること
● バイオ医薬品のトレンドとして、製品ターゲットの細分化により、多品種・小~中規模生産品が増加していること、同時に生産技術の改良により収量向上が実現されていることと相まって、生産スケールの増大は一巡し、減少傾向にあること
● 生産施設を持たないか、ラボスケールの施設のみを保有するファブレスでの研究開発を行っている企業・機関が増加していること、及びCMC開発・工業化検討並びに製品生産のボーダレス化が進展していること
以上の認識により、小~中規模で生産されるバイオ医薬品は増加しており、比較的小スケールの施設による「研究段階から開発段階、更には製品供給への移行の支援・橋渡し」、具体的には「バイオ医薬品のCMC開発・工業化検討」において、上述の通り、事業会社や国内外研究機関より、初期開発段階にあるバイオ医薬品等原薬の受託製造、原薬製造工程プロセス開発受託、工程規格試験等の各種品質管理に関する分析試験の規格化の業務受託、及びスケールアップを目的とする工業化検討業務受託等において、これら受託業務は、開発の進展に応じた一定期間において継続的な受注が可能であり、また場合によっては包括的な業務受託をすることで安定的且つ継続的な収益を確保することも可能であることから、一定の市場機会があると考えております。
なお、バイオ医薬品の開発・製品化において重要な成功要因は、妥当なターゲットの選定・タイムリーな候補物質の作製及び評価、並びにラボスケールから商用スケールまでの一貫した品質を有する製剤の製造と想定されます。後者は一貫した品質を維持した状態での商用生産スケールまでのスケールアップを指します。
次に、以下の通り、上記市場機会に対する競合分析を行っております。競合としては、製造施設を持つ事業会社ではなく、中立的な立場で受託を行う医薬品製造受託機関(Contract Manufacturing Organization. 以下、「CMO」といいます。)又は医薬品開発受託機関(Contract Research Organization. 以下、「CRO」といいます。)を想定しております。
● CMOにおいては、大規模生産施設を有し、その施設を生かす大規模生産が中心であること
● ターゲット選定・候補物質の作製及び評価は、ラボレベルでの活動のため、対応するCROが多数出現していること
● ラボスケールからパイロットスケール、その後の商用生産スケールにおけるスケールアップ技術の検討及び製造においては、施設を有さないコンサルタントを行うCROは増加しているが、施設を有して実際の対応を行うところは少ないこと
● 前述のCMOの大部分は、大規模生産施設の稼働を考慮・優先するため、中規模生産以下のバイオ品の受託対応は限定的と考えられること
以上の分析から、大手CMOとの競合を避け、小~中規模で生産されるバイオ医薬品の、CMC開発・工業化検討において事業機会は十分にあると判断しております。
当社は、ラボスケールから中規模(パイロットスケール)の工場を保有していることに加え、UMN-0502の開発経験を通じて、BEVSによるラボスケールから大規模商用生産スケールまで、一貫した品質を維持してスケールアップに成功した経験を有しております。バイオ医薬品のCMC開発・工業化検討においては、初期研究段階からパイロットスケールへのスケールアップにおいて、商用生産を想定した適切な検討がなされることが、製品製造までの成功において最も重要と考えられますが、当社では、これまでのUMN-0502の開発・審査対応経験より一定のノウハウが蓄積されております。
以上より、「研究段階から開発段階、更には製品供給への移行の支援・橋渡し」、具体的には「バイオ医薬品のCMC開発・工業化検討」における事業機会を捉え、「次世代バイオ医薬品等受託製造事業」として収益確保・事業拡大することが可能と考えております。
(2)医薬品の研究開発プロセスと当社事業が関連するプロセス領域について
医療用医薬品を製造、販売するためには厳格な規制が存在し、これら規制を遵守しながら開発を進めていかなければなりません。医療用医薬品が販売されるまでに実施される一般的な研究開発の目的及び内容並びに各段階における関連規制について説明いたします。大別すると、① 基礎研究、② GLPに基づく非臨床試験、③ 製剤開発及び工業生産方法の確立(GMP)、④ GCPに基づく臨床試験、⑤ 製造販売承認に関する申請、⑥ GQP、GVP及びGPSPの6つのステップに区分されます。さらに、バイオ医薬品製造のプロセスのひとつに遺伝子組換え技術が存在するため、⑦ 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)の遵守、を加え、以下に各ステップについて詳細を記載いたします。
①基礎研究
ターゲットとする疾患を決定し、将来医薬品となる可能性のある物質を特定して、試験管内(以下、「in vitro」といいます。)もしくは動物(以下、「in vivo」といいます。)による疾患モデルを確立し、スクリーニングにかけて、リード化合物17)の選定を行います。当該リード化合物の物理的・化学的特性を確認した後、化学修飾18)を行い、in vivo実験により、高い安全性と有効性を有する開発候補化合物を選定いたします。その後、信頼性基準19)に基づき、大型哺乳動物などでより精緻に薬効・安全性の確認を行うとともに、投与方法や製造方法の検討を行うために、物性試験20)、薬物動態試験21)等を実施いたします。②GLPに基づく非臨床試験
GLP(Good Laboratory Practice)とは、臨床試験を始めるに当たって特にヒトでの安全性を推測できるデータを取得するものであり、単回毒性試験22)、反復毒性試験23)、がん原性試験24)、変異原性試験25)などを実施し、化合物の安全性に関するデータを収集いたします。一定の安全性の検証を行うための基準として、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(1997年3月26日厚生省令第21号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号)に、試験方法、実施者、設備等が厳格に定められております。一連の非臨床試験データを揃え、臨床試験の目的及び具体的内容について治験届を当局に提出し、その内容について当局より確認を得た後に、臨床試験を開始することになります。③製剤開発及び工業生産方法の確立
製剤開発は非臨床試験の前後より開始いたします。製剤の処方設計を行い、臨床試験に使用する治験薬を製造いたします。治験薬の製造には、治験薬GMP(Good Manufacturing Practice 「治験薬の製造管理及び品質管理基準」及び「治験薬の製造施設の構造設備基準」(1997年3月31日薬発第480号 最終訂正2008年7月9日薬食発第0709002号))に従わなければなりません。さらに、上市後の製品の製造に向けて工業生産方法の確立が必要になります。そのためには、GMP「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(2004年12月24日厚生労働省令第179号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号)に定められた基準に従って製造を行う必要があり、当該GMPに準拠して製造がなされているかどうかについて当局からの査察等が実施されます。なお、GMP基準は医薬品製造業の許可要件並びに医薬品製造販売の承認要件となっております。GMP適合施設を保有するために、これら厳密な規制を完全にクリアする必要があります。④GCP基準に基づく臨床試験
臨床試験については、GCP(Good Clinical Practice 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(1997年3月27日厚生省令第28号 最終改正2016年1月22日厚生労働省令第9号))が定められており、医薬品の製造承認の申請に際し必要な臨床試験成績に関する各種資料の取得、管理、治験実施者の選定・依頼及び実施等について厳格な基準が定められております。第Ⅰ相臨床試験は、少数の健康人に与薬し、薬物動態や安全性の確認を行います。第Ⅱ相臨床試験の前期では、少数患者に与薬し、安全性と有効性について確認を行います。この段階で、具体的な適応疾患及び投与用量のおおよその範囲について決定いたします。いわゆるPOC(Proof of Concept ヒトでの有効性の実証)は、前期第Ⅱ相臨床試験にて相応の薬効が示唆された段階をいいます。それに続く後期第Ⅱ相臨床試験では、対象数を増やして投与用量と効果の相関性を確認し、至適条件を決定いたします。第Ⅲ相臨床試験では、一般臨床上、安全性と有効性が確認されるのに十分な数の患者に対して、類似薬もしくは偽薬(プラセボ)26)との二重盲検比較試験27)を実施し、その医薬品が治療に貢献するものであるか否かの最終的な確認を行います。
なお、医薬品の開発については、1991年に日米欧の薬事規制当局及び製薬団体によって設立されたICH(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use「医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議」)によって、世界レベルで臨床試験データの融和が図られております。主に国や地域間で承認申請データを相互活用し新規医薬品開発を効率化しようとするものであり、1998年、海外臨床試験データ受け入れに関するガイドラインが最終合意されたことにより、一定の確認試験を実施すること等を条件に、異なる地域での臨床試験データを共有した承認申請が可能となっております。
⑤製造販売承認に関する申請
品質試験、非臨床試験及び臨床試験の資料をまとめて製造販売の承認申請を行います。医薬品の成分・分量、用法・用量、効能・効果、副作用等に関する審査を行ったうえで、厚生労働大臣が品目ごとに承認を与えます。また、業として医薬品を製造する者は、医薬品製造業の許可を受けなければなりません。⑥GQP、GVP及びGPSP
医薬品の製造販売を行う場合、品質管理に関する基準としてGQP(Good Quality Practice 「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令」(2004年9月22日厚生労働省令第136号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号))を遵守する必要があります。一方、GVP(Good Vigilance Practice「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(2004年9月22日厚生労働省令第135号 最終改正2015年3月26日厚生労働省令第44号))として、医療機関等からの自発報告や文献・学会報告等から副作用や感染症に関する情報等の安全性情報を収集し、評価・検討の上、安全確保措置を講じる必要があります。GQP及びGVPは医薬品製造販売業の許可要件となっております。
製造販売後、医薬品の有効性と安全性を再審査及び再評価するために必要な情報等の収集・分析・報告に関する管理及び実施体制が、GPSP(Good Post-marketing Study Practice 「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(2004年12月20日厚生労働省令第171号 最終改正2014年7月30日厚生労働省令第87号))に定められております。
これらGQP、GVP及びGPSPは、医薬品製造販売業許可を取得する者がその責任を負うことになります。
⑦遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)の遵守
国際的に、生物多様性条約が1992年に採択され、翌年より発効いたしました。これを受けて、2000年には生物の多様性を守るため、遺伝子組換え生物等の安全な取り扱い等につき、バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書が採択され、2003年より発効しております。本議定書は2015年5月現在、194か国、欧州連合(EU)及びパレスチナが批准・締結をしております。通称「カルタヘナ法」は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」として、国際協調に基づき各国で立法化されており、日本では2003年に法律が成立・公布され、2004年より施行されております。これにより、遺伝子組換え生物の封じ込めが厳格に規定されており、違反した場合、罰則が存在いたします。遺伝子組換え生物を取り扱う研究室や工場の運営に当たっては、本法律の遵守が必須であります。上記の医薬品の開発プロセスにおいて、当社が関連する領域は、医療用医薬品事業においては、① 基礎研究から⑦ カルタヘナ法の遵守までの領域のうち、⑥ 品質管理、安全管理及び製造販売後調査以外の全てとなります。当社は、ヒトの生命に関連する医薬品を開発する企業として、これらの法令・規制を徹底的に遵守する体制を整備し、事業を進めております。
(注)網掛け領域が、現時点における当社事業に関連する開発プロセス領域となります。
(3)次世代バイオ医薬品自社開発事業における独自の製造プラットフォームについて
①BEVSとは
BEVSは、目的とするタンパクの全長遺伝子を遺伝子組換え技術によってバキュロウイルス(Autographa californicaNuclear Polyhedrosis Virus)28)に挿入し、これを株化29)した昆虫細胞に感染させ、細胞内で目的のタンパクを大量に発現できることに大きな特徴を有しております。BEVSは、組込む遺伝子の種類が変わっても生産条件を大きく変える必要がない、柔軟で効率的な製造技術であり、一部のタンパクの大量生産に向くため、低コストでタンパク医薬品を作ることができることから、バイオ医薬品製造技術の中でも有望なものの一つであります。当社の技術導入元であるPSCがBEVSを用いて開発した季節性インフルエンザワクチンFlublok®は、FDAより承認を得ており、製造技術として確固たる地位を築くに至っております。BEVSを用いて製造されたワクチンには、この他にも、2011年にFDAにより承認された前立腺がん治療ワクチンProvenge®(Dendreon Corporation社製)があります。ワクチン以外では、欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)より承認されたリポ蛋白リパーゼ欠損症治療薬のGlybera®(UniQure BV社製)もBEVSを用いて製造されております。
当社が開発を行っているUMN-2001、UMN-2002、UMN-0502、UMN-0501、UMN-0901及びジカウイルスワクチンは、BEVSを用いて製造した組換えタンパクまたは組換えVLPを有効成分とするワクチンであります。
② 他の製造技術との比較 ―ノロウイルスワクチンの例―
急性胃腸炎の主な原因ウイルスの一つであるノロウイルスは、主にヒトのみで増殖するウイルスであることから、一般的なワクチンの製造方法であるウイルスそのものを増殖させて不活化し精製してワクチン成分という製造方法で生産することは困難でありました。従いまして、これまでノロウイルスに対する予防ワクチンは開発されておりませんでした。一方、BEVS技術は、ノロウイルスの外殻、いわゆるVLP(Virus Like Particle 増殖能を持たないウイルス様粒子のこと)を大量に生産することが可能であることから、BEVSにより製造したノロウイルスVLPをワクチン成分として用いることにより、ワクチン開発が可能となります。VLPを用いた様々なウイルス感染症に対する予防ワクチン開発が国内外で進められており、将来におけるワクチンの主要な製造技術の一つになり得ると考えております。③当社とPSCとの契約について
当社は、2006年8月に、日本におけるBEVSを用いた組換えインフルエンザHAワクチンの独占的な開発、製造及び販売権をPSCより取得し、BEVSに関する技術移管を行ってまいりました。また2010年11月、当社はPSCとの間で本独占的事業化権を中国・韓国・台湾・香港・シンガポールに拡大する契約を締結しております。当社は、急速な経済発展が見込まれる一方で季節性やパンデミックインフルエンザ対策に力を注ぎつつあるこれらの国と地域において、開発・製造・承認申請・販売に係る各国の規制環境に合わせた事業展開を行うことが可能となっております。また、PSCが中心となって進めているジカウイルスワクチン開発コンソーシアムにおいては、当社及び中南米地域の企業・財団法人等が参画し、グローバルな開発を推進しております。
④BEVSの発展性
BEVSは、様々なウイルスに対する予防ワクチンへの適応性と応用性に非常に富んでおり、H5N1亜型以外に他の動物からヒトへの感染拡大が懸念されているインフルエンザウイルス株(H9N2亜型やH7N9亜型30)など)に適用可能であります。さらに、インフルエンザウイルスのHA以外のターゲットであるノイラミニダーゼ(Neuraminidase、以下、「NA」といいます。)31)をBEVSにて生産し、HAとNAとを混合したワクチンの研究開発もなされております。またBEVSは、ジカ熱、デング熱、西ナイル熱など複数の新興・再興感染症に対する組換えサブユニットワクチン、ノロウイルスワクチンなど組換えサブユニットワクチンをさらに発展させたVLPワクチン、がんなどを対象とするペプチド治療ワクチン、タンパク治療薬等へと幅広く応用できる可能性を有しております。(4)当社の開発体制について
① 当社の重点領域と人材について
当社は、取締役会及び研究・生産・臨床開発の各組織において、製薬企業で長年研究開発や申請業務を経験した人材を中心に構成されております。次世代バイオ医薬品自社開発事業につきましては、各種ワクチンの開発及び承認申請経験を有する人材を臨床開発部に配置し、開発を進めております。また、バイオ医薬品等受託製造事業につきましては、これまでUMN-0502の国内開発で培った知見・ノウハウを基に、主にCMC開発及び工業化検討において業務実績のある人材を配置するとともに、医療用医薬品工場の生産ライン部門、品質管理部門並びに品質保証部門にて実務経験のある人材を積極的に採用しており、受託製造事業を発展させていくための運営体制を構築しております。② 当社の研究施設と小~中規模原薬生産施設について
現在、当社は2つの研究施設を有しております。秋田大学医学部内にある秋田研究所では、動物実験等の基礎的研究を行っております。横浜研究所では、BEVSを用いて、カルタヘナ法に準拠した20Lから250Lスケールまでのパイロット培養が可能な培養槽をもつ製造実験設備を保有し、製造工程となる培養及び精製に関する初期検討を実施しております。また品質管理・工程管理に関する評価試験法の研究も行っております。また、秋田県秋田市御所野湯本の秋田新都市産業団地内に約13,000㎡の敷地内に延べ面積約3,000m2、600L培養槽3基を設置する治験薬GMP32)準拠のパイロットスケール原薬生産施設となる秋田工場を有しております。秋田工場は、2010年7月より2011年3月までを助成期間とした厚生労働省「新型インフルエンザワクチン開発・生産体制整備臨時特例交付金」交付事業(第一次分)における実験用生産施設整備事業の助成金にて整備し、2011年4月より稼働しております。なお、秋田工場は将来においてGMP施設に転用可能なっ設備設計となっております。秋田工場を運営するにあたり、人材面において徹底したGMP教育や管理教育を継続的に実施し、製造ライン要員の育成に努めております。
(5)当社の開発パイプライン(開発中の品目)
現在、下記パイプラインの開発が進行中であります。① 開発コード:UMN-2002(組換えノロウイルスVLP単独ワクチン)
UMN-2002は、ノロウイルス2遺伝子型のウイルス様粒子(Virus Like Particle:VLP)をワクチン成分とする、アジュバントを含まない2価ワクチンであります。ノロウイルスは、ウイルス性胃腸炎の主要な原因ウイルスであり、毎年、全世界でノロウイルスにより約20万人が命を落としていると言われております(Emerg Infect Dis. 2008;Vaccine 2012)。先進国においては死に至るケースは少ないものの、医療経済的損失が甚大なためワクチンによる予防が求められておりますが、市販されたノロウイルスワクチンは未だないことから、本ワクチン接種により、両ウイルスへの感染を一つのワクチンで予防することが期待されます。
ノロウイルスは、ウイルス遺伝子配列の相同性によって大きく2群(GⅠ、GⅡ)に分類され、GⅠはさらに15種類の遺伝子型GⅠ-1~GⅠ-15、GⅡはさらに20種類の遺伝子型GⅡ-1~GⅡ-20に分類されます。UMN-2002は、複数の遺伝子型のノロウイルスに対して交差免疫を発揮するよう設計され、GⅠ-3とGⅡ-4のVLPを含みます。
現在、当社が製造したサンプルを用いて基礎的な免疫原性試験を実施中であります。
② 開発コード:UMN-2001(組換えロタウイルスVP6単独ワクチン)
ロタウイルスの粒子は、3層のカプシド(殻)タンパクで覆われており、中間のカプシドを構成するタンパクVP6によって群(A群~G群)が決定されます。ヒトのロタウイルス感染症の病原体としては、A群が最も一般的であることから、UMN-2001は、A群のロタウイルスから得られたVP6の組換えタンパクをワクチン抗原としております。
毎年、全世界でロタウイルスが原因で約45万人が命を落としていると言われております(Emerg Infect Dis. 2008;Vaccine 2012)。ロタウイルスに対する生ワクチンは多くの国で接種可能ですが、腸重積症を誘発する副反応の懸念が払拭できず、生ワクチンに代わる安全性の高いワクチンの開発が強く望まれると考えております。
③ 開発コード:UMN-2003(組換えノロウイルスVLP+組換えロタウイルスVP6混合ワクチン)
UMN-2001とUMN-2002を混合したワクチンであります。UMN-2003の発明者は、フィンランドのタンペレ大学ワクチン研究センターのティモ・ヴェシカリ教授、ヴェスナ・ブラゼヴィッチ博士であり、当社は、2012年1月にUMN-2003の全世界における独占的事業化権を許諾され、2016年9月に組換えノロウイルスVLP単独ワクチンに関する非独占事業化権に関するライセンス契約に移行しております。タンペレ大学におけるマウスを用いた試験ではBEVSで製造したノロウイルスVLP とロタウイルスVP6を混合接種することで、それぞれの抗原性に干渉することなく、高い免疫原性が確認されており、現在、非臨床試験を実施中であります。
④ ジカウイルスワクチン開発コンソーシアム
当社は、中南米に脅威をもたらし、その他の地域にも広がりを見せているジカウイルス感染症の感染拡大に対応するため、PSC、Mundo Sano及びSinergium Biotech(アルゼンチン)、Laboratories Liomont S.A. de C.V.(メキシコ)、FioCruz(ブラジル)とともにジカウイルスワクチンを共同で開発するコンソーシアムに参加することを検討するパートナーシップ契約を締結しております。
ジカウイルス感染症は、フラビウイルス科のジカウイルスによって引き起こされる病気で、デング熱及びチクングニア熱と同様、蚊を介して感染します。症状は一般的に軽微ですが、まれに麻痺(ギランバレー症候群)を引き起こします。最新の研究結果より、妊娠中の女性が感染すると出産異常(小頭症)を引き起こす可能性があることが問題視されております。2015年以降、主に中南米で感染が拡大しており、2016年2月1日、世界保健機関(WHO)より国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態が宣言されるまでに発展しております。日本においても2016年2月5日に感染症法に基づく4種感染症に指定されております。現時点ではワクチンは存在せず、予防方法は蚊に刺されないようにすることに留まっております。感染者数は不明確であるものの、出産異常に対するリスクが高いことから、早急なワクチン開発が求められております。
現在、開発中のジカウイルスワクチンは、PSCが有するBEVSを用いて、遺伝子組換えによりジカウイルスのEタンパクを候補抗原とするもので、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の支援のもと行った非臨床試験において、ジカウイルスを中和することが示されております。
当社は、ジカウイルスワクチン開発コンソーシアムへの参加を通じて、海外での開発ノウハウ蓄積の先行事例とすること、アジアの熱帯地域での開発権を取得し、展開することを目的に正式合意に向けて検討しております。
⑤ 開発コード:UMN-0502(季節性組換えインフルエンザHAワクチン(多価))
UMN-0502は、一般的には季節性インフルエンザワクチンに当たるもので、毎年冬のシーズンに接種する予防ワクチンであります。インフルエンザウイルスには、A・B・Cの3型があり、特にA型とB型は感染性が強く流行しやすいことからワクチンによる予防の対象となっております。これらのウイルス粒子表面にはHAとNAという2つの糖タンパクが存在しております。HAはインフルエンザウイルスが細胞に進入する際に機能するタンパクであり、NAは細胞内で増殖したウイルスが細胞外に出る際に機能するタンパクであります。これらが感染防御免疫の標的抗原とされております。A型に関しては、少なくとも16種類のHAが存在し、9種類あるNAとの組み合わせにより、ウイルスのタイプが決定されます。例えばH1N1インフルエンザウイルスは、HAの1番目の亜型とNAの1番目の亜型の組み合わせで構成されております。
UMN-0502は、主としてHAタンパクを抗原としてヒトに免疫応答を誘導する薬剤であり、H1N1の亜型、H3N2の亜型、B型等のウイルス株のHAが入った組換えインフルエンザHAワクチンであります。米国ではPSCがFlublok®の商標にてFDAより承認を取得しております。PSCが米国にて承認を取得するにあたり、第Ⅲ相臨床試験までに実施した臨床試験は合計12試験あり、参考試験である医師主導試験を含め、合計4,163例の被験者に対してFlublok®(UMN-0502)が接種されております。検討したすべての用量での良好な安全性と忍容性が示されております。また、2015年6月25日(米国現地時間)には、2014年-2015年シーズンに米国にて実施したFlublok®(4価)と既承認孵化鶏卵ワクチン(4価)との有効性比較臨床試験の結果、Flublok®(4価)のインフルエンザに対する予防効果(有効性)が、統計的有意差をもって優れているとのトップラインデータが示されています。
日本においては、アステラス製薬株式会社と共同で、2011年8月より第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を実施いたしました。当該試験は、20歳以上50歳未満の健康な成人男女を対象とし、1群55例計3群165例に対して接種が行われ、2011年12月に承認要件を満たす免疫原性と優れた忍容性が確認されました。当該試験結果を受けて、2012年11月より65歳以上高齢者1,060名を対象とした第Ⅲ相臨床試験を開始、2013年3月に、国内既承認孵化鶏卵ワクチンに対し、免疫原性において非劣性基準を満たすとともに、安全性に大きな問題がないことが確認されました。同年10月より、年齢層を変えて20歳以上65歳未満の健康成人900名を対象とした同様の第Ⅲ相臨床試験を開始、2014年1月に、高齢者に対する第Ⅲ相臨床試験と同様に国内既承認孵化鶏卵ワクチンに対し、免疫原性において非劣性基準を満たすとともに、安全性に大きな問題がないことが確認されました。また、これら第Ⅲ相臨床試験に加え、筋肉内接種での免疫原性及び安全性を確認することを目的として、61歳以上の成人55名を対象とした試験についても、良好な免疫原性が確認されるとともに、安全性に大きな問題がないことが確認されました。これらの臨床試験結果を受け、2014年5月にアステラス製薬株式会社が、インフルエンザの予防の効能・効果で、厚生労働省に製造販売承認申請を行っておりましたが、審査当局より、リスク・ベネフィットの観点に鑑み、本剤の臨床的意義が極めて乏しく審査が継続できないとの判断が示されました。結果、2017年1月に、アステラス製薬株式会社は、本剤の製造販売承認申請取り下げ、開発中止、ならびに当社との細胞培養インフルエンザワクチン共同事業契約を解消するに至っております。以上の状況より、国内におきましては、当社として再申請に関する方針を決定するまでは開発を中断しております。
韓国においては、2012年12月に締結した日東製薬株式会社との共同開発及び独占的販売に関する契約に基づき、PSCが実施した米国での臨床試験結果を活用し、現地にて申請・承認が可能かどうかについて検討中であります。また、台湾及び中国においては、2013年10月に國光生物科技股份有限公司に対して商業化に関する優先交渉権を供与する契約を締結しております。
⑥ 開発コード:UMN-0501(組換えインフルエンザHAワクチン(H5N1))
UMN-0501は、近年世界的流行の危険性が指摘され、世界レベルでその対応が急務となっている高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1亜型に対する予防ワクチンであります。インフルエンザウイルスの最も特徴的な性質は、毎年のように変異を起こすことであり、その程度により、ワクチンの効果は毎年のように変わります。変異には、「連続抗原変異」と「不連続抗原変異」があります。前者は遺伝子に大きな変化が起きているわけではないことから、ウイルス株の差によってワクチンの効果にあまり変化は見られません。しかしながら、不連続抗原変異の場合、突然変異によって遺伝子に大きな変化を伴うため人類には免疫がなく、しばしば世界的流行が起こります。この大流行は、一般的に「パンデミック」と呼ばれております。2009年に新型インフルエンザA(H1N1)のパンデミックが起きたことは、記憶に新しい経験であります。近年H5N1をはじめとする高病原性鳥インフルエンザウイルスが出現しており、渡り鳥の感染死や家鶏への伝播が数多く報告されております。種を超えて鳥からヒトへ、さらにヒトの間で感染するようになる、致死率の高いパンデミックを起こす危険性が指摘されております。交通機関の発達した現代においてパンデミックが起こると、感染は特定地域に留まらず、極めて短期間かつ広範囲に感染者数が増加する可能性があります。したがって、流行するインフルエンザウイルスの亜型に適合したワクチンを短期間で製造し、できる限り多くのヒトに対して接種することが感染拡大予防のために重要であります。UMN-0501は、このようなパンデミック対応用の組換えインフルエンザHAワクチンであります。
当社は、2008年6月よりUMN-0501の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を開始いたしました。当該試験は、20歳から40歳の健康な男性を対象とし、1群25例計5群125例に対して接種が行われ、重篤な有害事象は観察されず安全性が確認されるとともに、アルミニウムアジュバント33)を用いずに免疫原性を確認いたしました。本成績は、2009年2月スイス・ジュネーブにおいて開催された、世界保健機関(WHO)の高病原性鳥インフルエンザワクチン臨床試験の評価会議である「5thWHO Meeting on Evaluation of Pandemic Influenza Prototype Vaccines in Clinical Trials」にて発表いたしました。2009年10月より実施された第Ⅱ相臨床試験において、20歳から40歳の健康な男女90名を対象として、UMN-0501の免疫原性、安全性及び臨床用量の検討を行いました。解析結果では用量依存的な免疫原性が確認され、国際的に使用されているインフルエンザワクチンの有効性の評価基準をほぼ満たしました。また、接種による忍容性は良好であり、重篤な有害事象や高度な全身反応は試験期間を通じて観察されませんでした。日本においては、アステラス製薬株式会社と共同で、2011年8月より第Ⅱ相臨床試験を実施いたしました。当該試験は、20歳から40歳の健康な成人を対象とし、Part1は1群10例計3群30例、Part2は1群50例計3群150例に対して接種が行われ、2012年3月に良好な免疫原性と優れた忍容性を確認しております。しかしながら、アステラス製薬株式会社において、UMN-0502の製造販売承認申請取り下げ、開発中止に伴い、UMN-0501についても、開発を中止されました。UMN-0502と同様に、国内におきましては、当社としてUMN-0502の再申請に関する方針を決定するまでは開発を中断しております。
東アジア主要国においては、各規制当局との交渉によるため、韓国においてはUMN-0502と同様に、日東製薬株式会社との共同開発及び独占的販売に関する契約に基づき、PSCが実施ししている米国での臨床試験結果を活用し、ブリッジング試験を実施することが可能か検討中であります。台湾及び中国においては、UMN-0502と同様に、國光生物科技股份有限公司に対して商業化に関する優先交渉権を供与する契約を締結しております。
⑦ 開発コード:UMN-0901(組換えインフルエンザHAワクチン(H9N2株))
UMN-0901は、UMN-0501と同様、パンデミックインフルエンザを引き起こしうるウイルスとして懸念されている、H9N2亜型インフルエンザウイルスに対するワクチンであります。WHOはH5N1亜型だけでなく、H9N2亜型に対するワクチンの開発も推奨しております。H9N2亜型は、主にアジア・中東諸国を中心に発生しており、中国におけるヒトへの感染例や、ブタ・鳥からのウイルス検出が報告されております。本株はH3N2亜型ウイルスと遺伝子の再集合34)を起こしやすく、変異によりヒトへの感染性が強くなる可能性が高いとされております。動物における毒性は弱く、ヒトに感染しても症状が軽く見分けにくいことが予想され、伝播しやすい傾向があると考えられます。しかしながら、日本において本亜型に対するワクチンの開発は未だに行われておりません。BEVSによるH9N2亜型のHA製造については、既にPSCにおいて実績があり、当社グループでも、UMN-0502やUMN-0501と同様、BEVSを用いて製造することが可能であると考えておりましたが、UMN-0502及びUMN-0501の開発中止に伴い、国内におきましては、当社としてUMN-0502の再申請に関する方針を決定するまでは開発を中断しております。韓国においては、UMN-0502及びUMN-0501と同様に、日東製薬株式会社との共同開発及び独占的販売に関する契約を締結しております。さらに、台湾及び中国においては、UMN-0502及びUMN-0501と同様に、國光生物科技股份有限公司に対して商業化に関する優先交渉権を供与する契約を締結しております。
(6)日本及び東アジアにおける組換えインフルエンザHAワクチンに関する事業提携について
これまで、当社は、組換えインフルエンザHAワクチンに関し、国内においては、当社が開発する日本初の組換えインフルエンザHAワクチン原薬の製造事業に関して、2010年1月に、株式会社IHIと共同で事業運営を行う基本協定「協業に関する基本協定書」を締結し、UMN-0502の製品供給を目的として生産施設の整備等を共同で実施してまいりました。また、2010年9月に、アステラス製薬株式会社とUMN-0502及びUMN-0501の日本における共同開発、独占販売に関し、「細胞培養インフルエンザワクチンの共同事業化契約」を締結、開発を進めてまいりました。2014年5月に、アステラス製薬株式会社が、UMN-0502について厚生労働省に対してインフルエンザの予防の効能・効果で製造販売承認の申請をしておりましたが、2017年1月に、審査当局より、リスク・ベネフィットの観点から本剤の臨床的意義は極めて乏しく、これ以上審査を継続できないとの判断が示されたことから、同年同月に、アステラス製薬株式会社より製造販売承認申請の取り下げ、開発中止、当社との提携契約の解消方針が示されました。また、当該状況を受け、株式会社IHIとの協業に関する基本協定書の解約について合意し、組換えインフルエンザHAワクチン原薬を供給することを目的として、株式会社IHIと当社が共同で設立した株式会社UNIGENを事業譲渡いたしました。結果、国内における事業提携関係について大幅に見直しを図っている状況にあります。一方、韓国においては、2012年12月、当社及び日東製薬株式会社は、UMN-0502、UMN-0501及びUMN-0901の韓国における共同開発及び独占的販売に関し、「Agreement For The Co-development And Commercialization Of Recombinant Influenza HA Vaccines In South Korea」を締結いたしました。本契約に基づき、臨床試験は、日東製薬株式会社が主体的に実施し、当社は臨床試験に供する治験薬を有償にて供給いたします。また、承認申請は同社が実施いたします。販売開始後は、当社が日東製薬株式会社に対して原薬を供給し、同社が最終製品化し、独占的に販売を行います。当社は、提携に伴う一時金を収受しておりますが、今後も開発段階に応じて開発マイルストーンペイメントを収受いたします。現時点においては、PSCが米国にて承認を受け販売しているFlublok®の臨床データを活用して韓国にて申請が可能か検討中であります。
当社といたしましては、次世代バイオ医薬品自社開発事業において、UMN-2002、UMN-2001を中心に自社での開発を進め、早期にUMN-2002、UMN-2001におけるバリューチェーンを構築すべく事業提携活動を行っております。
(7)バイオ医薬品等受託製造(BCMO)事業について
当社は、次世代バイオ医薬品自社開発事業において整備した横浜研究所、秋田研究所及び秋田工場の施設群、これら施設に従事するバイオ医薬品生産・品質管理等のノウハウに長けた人材を活用して、バイオ医薬品等受託製造事業を展開しております。
2012年7月に、アピ株式会社とバイオ医薬品受託製造事業に関する提携契約を締結し、原薬製造及び製剤化の一貫受注体制を確立するとともに、2012年12月には、Catalent Pharma Solutions, Inc.と抗体医薬を対象としたバイオ後続品の生産株を非独占で供給を受ける契約を締結し、受注体制の整備を図ってまいりました。
これらの活動の結果、2013年6月に、アピ株式会社及び株式会社ヤクルト本社とがん領域における抗体バイオ後続品に関する共同事業契約を締結、同年12月に2品目についても共同事業契約を締結いたしました。
なお、これまで、当社連結子会社であった株式会社UNIGEN岐阜工場での受託製造を見据えた大規模生産を前提とした受託事業を志向しておりましたが、2017年1月31日に、株式会社UNIGENの当社保有株式全株を譲渡したことに伴い、バイオ医薬品等受託製造事業において、ターゲットとする開発プロセス領域の絞り込みを行い、バイオ医薬品のCMC開発・工業化検討に特化した事業展開を図っております。なお、2017年3月31日付にて、2013年6月及び12月に締結したアピ株式会社及び株式会社ヤクルト本社との共同事業契約は解約することで合意しております。
受託領域絞り込み後における当該事業領域における当社の強みは、以下のとおりであります。
① これまでの自社開発パイプラインの研究開発を通じて培ったCMC開発・工業化検討に関する知見・ノウハウを活かした、研究段階から開発段階、更には製品供給への移行の支援・橋渡しにおける開発ソリューションを提供
② 開発初期から小~中規模生産まで顧客ニーズに応えることが可能な拠点・人員リソースを保有
今後、これらの強みを生かして、単に受託に留まらず、開発的要素を有する受託事業を展開し、将来的には小~中規模生産を対象として製品供給による収益に加えて製造に関するランニングロイヤリティも収受可能な事業を推進してまいります。
用語集
1) | Protein Sciences Corporation 1983年に設立された米国コネチカット州メリデンにあるバイオベンチャー企業。タンパク製造技術BEVS(Baculovirus Expression Vector System ※後述)に関する特許を有しており、医薬品用タンパク製造のための施設を有し、予防ワクチン、治験薬、診断薬の研究開発及びタンパク受託生産を主な事業としている。同社の季節性組換えインフルエンザHAワクチン「Flublok®」は2013年1月FDAより18歳から49歳までを対象として承認を取得し、販売を開始している。 |
2) | BEVS(Baculovirus Expression Vector System) 当社グループの開発パイプラインの製造プラットフォームとなる基盤技術。 「3 事業の内容 (3)次世代バイオ医薬品自社開発事業における独自の製造プラットフォームについて ① BEVSとは」にて詳細を記載しております。 |
3) | 組換え ある種の成分を生産することを目的として、その成分の基となる遺伝子配列を違う種類の生物の遺伝子配列に組み込むことをいう。 |
4) | HA(Hemagglutininヘムアグルチニン) invitroにて赤血球の凝集体を作らせる働きを有する糖タンパクで、インフルエンザをはじめとするウイルスや細菌等の表面に存在する。ウイルスは、ヘムアグルチニンの働きにより、細胞に感染する。HA1とHA2からなるモノマー(単量体)がトリマー(三量体)を形成する構造をとる。 |
5) | 多価 医薬品の有効成分が、2つ以上含まれるものをいう。 |
6) | H5N1 A型インフルエンザウイルス表面には、ヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA、下記33)参照)があり、インフルエンザウイルスはHAとNAの種類によってHとNの番号が付される。A型インフルエンザウイルスにおいては、HAが少なくとも16種類(H1~H16)、NAは9種類(N1~N9)存在している。H5N1は、H5とN1の組み合わせをもつウイルス株であることをいう。 |
7) | 原薬 医薬品の成分のなかで、目的とする効果を示す化学成分のことで、医薬品の有効成分といわれるものをいう。 |
8) | H9N2 6)に記載するH5N1と同様に、H9とN2の組み合わせをもつウイルス株であることをいう。 |
9) | VLP(VirusLikeParticle) ウイルスの外殻のみを持ち、内部にはウイルスゲノムを持たない中空のウイルス様粒子のこと。ウイルスゲノムを持たないことから宿主内で増殖できないが、外殻に対する抗体産生を誘導する。VLPは、組換えタンパクの単一分子と比べはるかに大きく、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞に病原体の如く貪食されやすいため、アジュバントなしで強力な免疫を誘導する抗原として期待されている。世界で広く使用されているヒトパピローマウイルスワクチン「サーバリックス®」はBEVSで製造されたVLPワクチンである。 |
10) | ロタウイルスVP6 当社が開発中のロタウイルスに対するワクチンの成分。 「3 事業の内容 (5)当社の開発パイプライン ② 開発コード:UMN-2001(組換えロタウイルスVP6単独ワクチン)」に詳細を記載しております。 |
11) | 希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ) 医薬品医療機器等法第77条の2に基づき、対象患者数が本邦において5万人未満であること、医療上特にその必要性が高いものなどの条件に合致するものとして、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定するものである。 |
12) | ブースター 追加免疫効果のこと。体内で一度獲得された免疫機能が、再度抗原を接種することにより、更に免疫機能が高まることをいう。 |
13) | 免疫原性 生体に投与した時、抗体の産生をもたらす性質のこと。通常、細菌やウイルスなどの外来病原体や人為的な注射などで体内に入るタンパク質がこのような性質をもつ。 |
14) | 忍容性 医薬品を投与した場合、明白な有害作用(副作用)が被験者にとってどれだけ耐えうるかの程度を示す。忍容性が高いとは、全身性・局所性の副反応が少なく、与薬の継続に支障をきたさないことを意味する。 |
15) | 製造プラットフォーム 当社グループの重要な事業の一つは製造である。BEVSは、ワクチン等の医薬品の製造技術であり、当社の製造面を支えるプラットフォーム技術と位置付けている。 |
16) | CMC Chemistry, Manufacturing and control 医薬品における原薬プロセス研究、製剤開発研究及び品質評価研究を統合した概念 |
17) | リード化合物 最終的な医薬品を導出する出発点となる化合物。生理活性を有し、その化学構造は医薬品としての有効性や薬物動態における要素を改良していくための始発点となる。開発を進めるために、化学構造を改良する必要がある。 |
18) | 化学修飾 ある物質に化学反応によって新しい原子団などを結合させること。低分子医薬品の場合、有効性の向上、安定性の向上、副作用の軽減等を目的として、様々な化学修飾の検討を経て候補化合物が決定される。 |
19) | 信頼性基準 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第43条に定められる「申請資料の信頼性の基準」をいう。 |
20) | 物性試験 医薬品候補物質の構造、物理的・化学的性質、安定性、品質などを検証し、医薬品としての規格を決定することを目的とした試験をいう。 |
21) | 薬物動態試験 医薬品候補物質及びその代謝物の吸収・分布・代謝・排泄といった体内動態を検討し、安全域を推測するとともに、ヒトでの投与量や回数を推定することを目的とした試験をいう。 |
22) | 単回毒性試験 医薬品候補物質を単回投与し、その毒性を質的量的側面から明らかにすることをいう。 |
23) | 反復毒性試験 医薬品候補物質を複数回投与し、毒性変化を示す量、毒性の内容、及び安全域を明らかにすることをいう。 |
24) | がん原性試験 医薬品候補物質ががんを引き起こす要因になるかどうかを明らかにすることをいう。 |
25) | 変異原性試験 生物の遺伝情報(DNAあるいは染色体)に変化を引き起こす作用を有する物質または物理的作用(放射線など)の性質あるいは作用の強さを明らかにすることをいう。 |
26) | 偽薬(プラセボ) 真の医薬品と外見上は全く一緒であるが、医薬品としての有効成分が一切入っていない偽物の薬をいう。 |
27) | 二重盲検比較試験 被験者に割り付けられた治験薬(被験薬あるいは偽薬)を、被験者だけでなく、医師を含む治験実施スタッフや治験依頼者も知らないように進める試験(DoubleBlindStudy)。統計的にデータの信頼性を担保するための医薬品の臨床試験デザインの一つである。 |
28) | バキュロウイルス(Baculovirus) 核多角体病ウイルス(NPV)と顆粒病ウイルス(GV)の2属に分けられるDNAウイルス。ビリオン(細胞外に存在し、感染性を有する完全なウイルス粒子)は大型の棒状をしている。種特異性が高く、節足動物(大部分はチョウ目の幼虫)に感染する。ヒトの細胞では感染増殖をしない。ヒトを含む哺乳動物に対しては病原性がなく安全である。 |
29) | 株化 長期間にわたって、生体外で維持され、一定の安定した性質を有する状態に至った細胞を細胞株という。株化した細胞は、継代培養が可能となる。 |
30) | H7N9 用語集6)H5N1、8)H9N2と同様に、H7とN9の組み合わせをもつウイルス株であることをいう。 |
31) | ノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA) 動物の種々の臓器、微生物、ウイルスに存在する酵素で、シアル酸を糖タンパクや糖脂質から切り離す作用を有する。インフルエンザウイルスのもつノイラミニダーゼは、ウイルス表面にあるHAと宿主細胞表面のシアル酸の結合を切断することで、ウイルスが細胞外に放出され増殖することが可能となる。 |
32) | 治験薬GMP 製造販売承認前に実施する治験において使用されるサンプルを製造する場合に適用されるGMP省令をいう。 |
33) | アルミニウムアジュバント ワクチンの有効性を高めるための免疫増強を目的とする医薬品添加物の一つをいう。 |
34) | 遺伝子の再集合 異なる2種類のインフルエンザウイルスが混合感染した時に、感染細胞内で遺伝子分節(A型インフルエンザウイルスは8種類のRNA遺伝子分節から成る)が様々な組合せで再集合(遺伝子再集合,reassortment)をおこし、別の組み合わせの遺伝子をもった遺伝子再集合体(reassortant)が出現することをいう。 |
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