有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100CLSK
株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 事業の内容 (2017年12月期)
当社グループは、当社及び連結子会社日本革新創薬株式会社(以下、「JIT」)の2社で構成されており、医薬品の研究開発を行い、開発早期段階において開発品を製薬会社等にライセンスアウトすることによって収益を獲得する創薬事業を展開しております。
当社グループ事業の系統図は以下の通りです。
(1)創薬事業について
① 新薬開発の流れ
一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照)
② 創薬事業の概要
通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。
当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、早期の上市が期待されるとともに、低コストでの開発体制を維持できます。
このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。
当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(以下、「グラナテック」)」、「H-1129(WP-1303)」、「K-134」及び「DW-1002(日本の白内障手術除く)」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。
当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。
③ パイプラインについて
現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下の通りです。
(イ)自社創製品
(注1)H-1129の海外の権利は、国内医薬品事業会社がオプション権を有しており、現在評価中です。
(注2)2018年1月25日付で、緑内障・高眼圧症を適応症として第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)が行われております。
(注3)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。
(ロ)導入品
(注4)九州大学病院が主体となり医師主導治験が行われております。
各開発パイプラインの詳細は以下の通りです。
(イ)グラナテック®点眼液0.4%(一般名:リパスジル塩酸塩水和物、開発コード:K-115)
(対象疾患:緑内障・高眼圧症)
本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。
本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。
当社は、2002年9月に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年9月に緑内障・高眼圧症を適応症として国内製造販売承認を取得され、同年12月に上市されました。さらに、2017年12月に韓国における製造販売承認申請が行われました。
また、2014年2月より興和にて進められておりました糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しており、興和にて適応拡大の検討がされております。
(ロ)H-1129(WP-1303)(対象疾患:緑内障・高眼圧症)
本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。当社独自技術であるドラッグ・ウエスタン法(*)により、標的タンパク質(*)が特定されております。
本開発品は、緑内障治療剤として、強い眼圧下降作用と神経保護作用を有することが動物試験で確認されております。
本開発品は、2013年3月に、日本における開発・製造・使用及び販売の再実施許諾権付き独占的実施権をわかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)にライセンスアウトしました。その後はわかもと製薬により試験が進められ、2017年8月に国内後期第Ⅱ相臨床試験が開始されました。
(ハ)H-1337(対象疾患:緑内障)
本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリーのシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。
本開発品は、緑内障治療剤として、長時間持続する眼圧下降作用を有していることが動物試験で確認されており、その強力な眼圧下降作用は新規な作用機序によるものと考えられております。また、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果も動物試験において確認されております。
本開発品は、2016年4月に米国で非臨床試験を開始しており、当社初の自社開発品として取り組んでおります。
(ニ)K-134(対象疾患:検討中)
本開発品は、1993年1月より当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。
本開発品の全世界での権利は、2002年8月までに大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は2002年9月に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、臨床試験が進められております。
本開発品は、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年12月に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。
(ホ)DW-1002(眼科手術補助剤)
本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、株式会社産学連携機構九州からの独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。
当社は、2017年1月に株式会社ヘリオスから本事業を譲り受ける契約を締結し、2017年4月に当社への譲り受けが完了いたしました。
日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、2010年9月から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。
日本国内については、わかもと製薬に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、九州大学病院が主体となり医師主導治験(第Ⅲ相臨床試験)が進められておりますが、サブライセンス先が決定していないため、ライセンス活動を進めております。
(ヘ)眼科用鎮痛剤
本開発品は、2015年6月に英国企業から導入した眼科用鎮痛剤です。現在使用されている眼科用鎮痛剤としてNSAIDs(*)や局所麻酔剤がありますが、NSAIDsは角膜上皮損傷の治癒を遅らせることが知られており、局所麻酔剤は瞼が垂れ下がるなどの不便が生じますが、本開発品は、それらの障害を起こさず迅速に痛みを抑制します。
他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。
現在、製剤化の検討等を進めており、今後も臨床試験に向けた準備を行っていきます。
(ト)未熟児網膜症治療薬
本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者の方々で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。
他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。
子会社JITが導入し権利を有しており、現在臨床試験に向けた準備を進めております。
④ 研究開発プロジェクトについて
当社グループは、現在新規開発プロジェクトとして、シグナル伝達阻害剤開発プロジェクトの研究を進めております。
⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について
創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。
(イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製
当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。
プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。
当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。
(ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法の活用
当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。
この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。
ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。
a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。
b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。
既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「H-1129(WP-1303)」、「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。
なお、ドラッグ・ウエスタン法については、「薬物の生体内における標的蛋白の遺伝子の検出方法」として特許登録されております。
(ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用
当社グル―プの創業者であり、当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、日高弘義のこうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年12月には当社設立以来初の上市薬が誕生しております。
当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。
(ニ)提携関係を活用した研究開発体制
当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。
当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制)
(アルファベット、あいうえお順)
* NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)
非ステロイド性抗炎症薬のことで、ステロイド以外の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。鎮痛効果が高く、疼痛・発熱等に広く使用されています。
* Rhoキナーゼ
タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。
* 医師主導治験
医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。
* イソキノリンスルホンアミド化合物
当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。
* 化合物ライブラリー
当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。
* 間歇性跛行
閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。
* 血管内膜肥厚抑制作用
血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。
* 抗血小板剤
血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。
* 細胞内情報伝達
神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。
* 作用機序
薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。
* 上市(じょうし)
新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。
* スクリーニング
新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。
* スクリーニング毒性
細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。
* 阻害剤
生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。
* タンパク質リン酸化
タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。
* 同定
単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。
* ドラッグ・ウエスタン法
薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を保有しております。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。
* 白内障
水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。
* 標的タンパク質
薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。
* プロテインキナーゼ
ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。
* 分子薬理学
薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。
* 閉塞性動脈硬化症
動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。
* 未熟児網膜症
低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。
* 緑内障・高眼圧症
緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。
現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
当社グループ事業の系統図は以下の通りです。
(1)創薬事業について
① 新薬開発の流れ
一般的に新薬の開発に際しては、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、厚生労働省(あるいはアメリカ食品医薬品局(FDA)等の各国の医薬品許認可審査機関)への製造(輸入)承認申請、医薬品としての承認取得、薬価申請・収載を経て販売が開始され、患者様へ提供することが可能となります。このうち基礎研究活動は、新薬候補化合物の合成、スクリーニング(*)、スクリーニング毒性(*)の手続により実施されます。前述の基礎研究活動が終了した後、人に対する臨床試験の前に医薬品として満たすべき条件を、実験動物を用いて副作用及び安全性、安定性の検証を行う非臨床試験によって検証します。その後の臨床試験は、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の段階をもって実施されます。(下図参照)
② 創薬事業の概要
通常、新薬の研究開発過程において、非臨床試験から臨床試験へと開発が進捗するにしたがって、開発コストは大幅に増加し、また一定規模以上の自社臨床開発体制が必要となります。
当社グループは、研究開発活動の結果として、開発早期段階において開発品を製薬会社等へライセンスアウトしておりますが、これにより、臨床開発の推進に強みを持つ製薬会社等が開発を行うこととなり、自社での開発を継続する場合に比べて、早期の上市が期待されるとともに、低コストでの開発体制を維持できます。
このように、当社グループの創薬事業の特徴は、一般的な医薬候補品を開発するベンチャー企業に比べ、比較的早期の研究開発段階においてライセンスアウトが達成される点にありますが、これは、当社グループが基礎研究推進における独自の技術力を有していることと、その技術を基礎研究段階において十分に活用することにより効率的な研究開発が行われていることが要因と考えております。
当社グループの売上高は、主にライセンスアウト時に受領するフロントマネー収入、臨床開発進行に伴いその節目毎に受領するマイルストーン収入、製品上市後販売額の一定比率を受領するロイヤリティ収入等によるものです。既に「グラナテック®点眼液0.4%(開発コード:K-115)(以下、「グラナテック」)」、「H-1129(WP-1303)」、「K-134」及び「DW-1002(日本の白内障手術除く)」はいずれも製薬会社にライセンスアウト済みであり、「グラナテック」及び「DW-1002(欧州)」については、上市されロイヤリティ収入を得ております。これらのフロントマネー収入、マイルストーン収入、ロイヤリティ収入等を新規開発プロジェクトに投入することによって、次なる新規開発品の開発を進めております。
当社グループの主な売上高は、以下のもので構成されております。
売上高 | 内容 |
フロントマネー収入 | ライセンスアウト時に受領する収入。契約締結時に発生するため、契約一時金とも言う。 |
マイルストーン収入 | 臨床開発進行に伴いその節目毎に受領する収入。 |
ロイヤリティ収入 | 製品上市後販売額の一定比率を受領する収入。特許を実施する際に得られる収入のため実施料、ライセンス料とも言う。 |
③ パイプラインについて
現在、当社グループが保有する開発パイプラインは以下の通りです。
(イ)自社創製品
開発コード等 | 対象疾患 | 開発段階 | 地域 | ライセンスアウト先/ 開発コード |
グラナテック | 緑内障・高眼圧症 | 上市 | 日本 | 興和/K-115 |
申請 | 韓国 | |||
H-1129 | 緑内障・高眼圧症 | 後期第Ⅱ相臨床試験 | 日本 | わかもと製薬/WP-1303 |
緑内障 | ― | 海外 | 未定(注1) | |
H-1337 | 緑内障(注2) | 非臨床試験(注2) | 米国 | 自社開発 |
K-134(注3) | ― | ― | 日本 | 興和/K-134 |
(注1)H-1129の海外の権利は、国内医薬品事業会社がオプション権を有しており、現在評価中です。
(注2)2018年1月25日付で、緑内障・高眼圧症を適応症として第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験のIND申請(治験許可申請)が行われております。
(注3)ライセンスアウト先の興和により、閉塞性動脈硬化症以外の適応症への応用を検討されているため、対象疾患と開発段階は記載しておりません。
(ロ)導入品
開発コード等 | 対象疾患 | 開発段階 | 地域 | ライセンスアウト先/開発コード | 起源 |
DW-1002 | 内境界膜剥離 | 上市 | 欧州 | DORC | 国立大学法人 九州大学 |
内境界膜剥離 | 第Ⅲ相臨床試験 | 米国 | DORC | ||
内境界膜染色 | 第Ⅲ相臨床試験 | 日本 | わかもと製薬 /WP-1108 | ||
白内障手術 | 第Ⅲ相臨床試験 (注4) | 日本 | 未定 | ||
眼科用鎮痛剤 | 眼の手術後疼痛 | 臨床試験準備中 | 日本 | 自社開発 | 英国企業 |
未熟児網膜症(*) 治療薬 | 未熟児網膜症 | 臨床試験準備中 | 日本 | JIT開発 | 国立大学法人 東京農工大学 |
各開発パイプラインの詳細は以下の通りです。
(イ)グラナテック®点眼液0.4%(一般名:リパスジル塩酸塩水和物、開発コード:K-115)
(対象疾患:緑内障・高眼圧症)
本開発品は、プロテインキナーゼ(*)の一種であるRhoキナーゼ(*)を選択的に阻害するイソキノリンスルホンアミド化合物(*)であり、眼圧下降作用により緑内障・高眼圧症を治療する点眼剤です。
本開発品は、緑内障治療剤における世界初の作用機序(*)を有しており、Rhoキナーゼを阻害することにより、線維柱帯-シュレム管を介する主流出路からの房水流出を促進することで眼圧を下降させます。
当社は、2002年9月に本開発品の全世界の権利を興和株式会社(以下、「興和」)にライセンスアウトしました。その後は興和により臨床試験が進められ、2014年9月に緑内障・高眼圧症を適応症として国内製造販売承認を取得され、同年12月に上市されました。さらに、2017年12月に韓国における製造販売承認申請が行われました。
また、2014年2月より興和にて進められておりました糖尿病黄斑浮腫を伴う糖尿病網膜症患者を対象にした探索的臨床薬理試験が終了しており、興和にて適応拡大の検討がされております。
(ロ)H-1129(WP-1303)(対象疾患:緑内障・高眼圧症)
本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤(*)を中心とする当社化合物ライブラリー(*)のシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。当社独自技術であるドラッグ・ウエスタン法(*)により、標的タンパク質(*)が特定されております。
本開発品は、緑内障治療剤として、強い眼圧下降作用と神経保護作用を有することが動物試験で確認されております。
本開発品は、2013年3月に、日本における開発・製造・使用及び販売の再実施許諾権付き独占的実施権をわかもと製薬株式会社(以下、「わかもと製薬」)にライセンスアウトしました。その後はわかもと製薬により試験が進められ、2017年8月に国内後期第Ⅱ相臨床試験が開始されました。
(ハ)H-1337(対象疾患:緑内障)
本開発品は、プロテインキナーゼ阻害剤を中心とする当社化合物ライブラリーのシード化合物を基にして最適化された、緑内障を対象疾患とする開発品です。
本開発品は、緑内障治療剤として、長時間持続する眼圧下降作用を有していることが動物試験で確認されており、その強力な眼圧下降作用は新規な作用機序によるものと考えられております。また、滲出型加齢黄斑変性に対する治療効果も動物試験において確認されております。
本開発品は、2016年4月に米国で非臨床試験を開始しており、当社初の自社開発品として取り組んでおります。
(ニ)K-134(対象疾患:検討中)
本開発品は、1993年1月より当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義と大塚製薬株式会社(以下、「大塚製薬」)の共同研究により、血管内膜肥厚抑制作用(*)を併せ持つ抗血小板剤(*)として開発が開始されました。
本開発品の全世界での権利は、2002年8月までに大塚製薬より当社へ全て譲渡され、当社は2002年9月に全世界の権利を興和にライセンスアウトしました。その後は興和により、臨床試験が進められております。
本開発品は、閉塞性動脈硬化症に伴う間歇性跛行(*)症状を対象疾患として開発が行われておりましたが、2014年12月に終了した国内後期第Ⅱ相臨床試験の結果を総合的に検討した結果、閉塞性動脈硬化症を適応症とした開発は中止されました。他適応症への応用につきましては、興和にて検討されております。
(ホ)DW-1002(眼科手術補助剤)
本開発品は、国立大学法人九州大学の研究グループが発見したBBG250(Brilliant Blue G-250)という染色性の高い色素を主成分とした眼科手術補助剤を、株式会社産学連携機構九州からの独占的ライセンスに基づき開発している開発品で、眼内にある内境界膜又は水晶体を保護するカプセルを一時的に安全に染色し、硝子体・白内障の手術を行いやすくするものです。
当社は、2017年1月に株式会社ヘリオスから本事業を譲り受ける契約を締結し、2017年4月に当社への譲り受けが完了いたしました。
日本以外の全世界向けの独占的なサブライセンスをDutch Ophthalmic Research Center International B.V.(以下、「DORC」)に付与しており、DORCは、2010年9月から欧州等において、この眼科手術補助剤を製造・販売しております。
日本国内については、わかもと製薬に眼科手術用途の内境界膜染色についての独占的サブライセンスを付与しており、わかもと製薬が製造販売承認の取得に向けて開発を進めております。また、白内障手術については、九州大学病院が主体となり医師主導治験(第Ⅲ相臨床試験)が進められておりますが、サブライセンス先が決定していないため、ライセンス活動を進めております。
(ヘ)眼科用鎮痛剤
本開発品は、2015年6月に英国企業から導入した眼科用鎮痛剤です。現在使用されている眼科用鎮痛剤としてNSAIDs(*)や局所麻酔剤がありますが、NSAIDsは角膜上皮損傷の治癒を遅らせることが知られており、局所麻酔剤は瞼が垂れ下がるなどの不便が生じますが、本開発品は、それらの障害を起こさず迅速に痛みを抑制します。
他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。
現在、製剤化の検討等を進めており、今後も臨床試験に向けた準備を行っていきます。
(ト)未熟児網膜症治療薬
本開発品は、国立大学法人東京農工大学及び東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合により見出され、未熟児網膜症発症の重要な原因であることが患者の方々で確認されている蛋白質を阻害する化合物です。
他の疾患を適応症として既に市販されている化合物を本適応症への適応拡大を目指す、いわゆるリポジショニングの手法での開発を目指しており、開発のコスト並びにリスクは相対的に低くなることが期待されます。
子会社JITが導入し権利を有しており、現在臨床試験に向けた準備を進めております。
④ 研究開発プロジェクトについて
当社グループは、現在新規開発プロジェクトとして、シグナル伝達阻害剤開発プロジェクトの研究を進めております。
開発コード等 | 対象とする疾患等 | 開発段階 |
シグナル伝達阻害剤開発プロジェクト | 眼科関連疾患 神経、循環器、呼吸器系疾患 | 基礎研究 |
⑤ 創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴について
創薬事業における当社グループ技術と研究開発の特徴は以下の通りです。
(イ)プロテインキナーゼ阻害剤を中心とした新薬候補化合物の創製
当社グループは主にプロテインキナーゼ阻害剤を中心とした研究開発を進めております。
プロテインキナーゼは、細胞の分化、増殖等の細胞内情報伝達(*)機能を担っている重要な酵素であるとされており、そのプロテインキナーゼに対し、有望な新薬候補品である阻害剤を投与することによって治療効果を高めるのが当社グループの開発の特徴であります。
当社は、有望な新薬候補品を創製するために、独自に開発した化合物ライブラリーを保有しており、これらの開発過程で蓄積したデータやノウハウを活用して、新薬候補化合物を合成しておりますが、これらの技術力が高いことから有効な新薬候補化合物が見つかる可能性が高いと考えております。
(ロ)当社独自の標的タンパク質の同定(*)方法であるドラッグ・ウエスタン法の活用
当社は、ドラッグ・ウエスタン法という独自に開発した方法を使って、新薬候補化合物の標的タンパク質を同定しております。生物学の分野では、標的タンパク質を同定するために様々な方法が利用されてきましたが、当社は、それらを踏まえて医薬品開発への応用を図り、ドラッグ・ウエスタン法を完成させました。
この方法の活用により、他の手法を活用した際に困難である新薬候補化合物の標的タンパク質の特定が容易になるほか、1回のスクリーニングで多数の標的タンパク質を同定することが可能です。既存の方法に対して、生物材料や化合物の消費量が少ないこと、スクリーニングの操作が単純であり短時間で完了すること等の長所を持ちます。
ドラッグ・ウエスタン法を活用した際の効果は、以下の通りと考えられます。
a. 有効性:高い有効性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。新薬候補化合物の標的タンパク質を早期に同定することによって、その新薬候補化合物の作用機序が明らかになり、その結果から、有効な新薬候補化合物の開発へとつなげていくことが可能になると考えております。
b. 安全性:副作用や他の医薬品との相互作用の予測により、高い安全性を持つ新薬候補化合物の開発の可能性が高まります。早期に標的タンパク質を同定することによって、副作用が起こるメカニズムの推測もしやすくなり、それにより、安全性の高い新薬候補化合物の開発が可能となります。また、作用メカニズムが明らかになることにより、他の薬剤との併用の可能性の分析がしやすくなり、薬としての利用機会の拡大とリスクの低減につながりやすいと考えます。
既にこの方法を用いて、当社グループのパイプラインの「H-1129(WP-1303)」、「K-134」についても標的タンパク質が同定されました。
なお、ドラッグ・ウエスタン法については、「薬物の生体内における標的蛋白の遺伝子の検出方法」として特許登録されております。
(ハ)細胞内情報伝達研究に由来する分子薬理学(*)に関する経験及びノウハウの活用
当社グル―プの創業者であり、当社代表取締役会長兼最高科学責任者 日高弘義は、長年にわたって細胞内情報伝達の研究活動及び創薬活動に従事してきており、その研究・創薬活動の中で、これまでに製薬会社と共同で2つの上市薬の誕生に貢献しております。当社グループは、日高弘義のこうした活動において獲得した経験とノウハウを基盤に、研究開発活動を行い、2014年12月には当社設立以来初の上市薬が誕生しております。
当社グループの新薬の開発は、この分子薬理学に関する経験及びノウハウを駆使し、新薬候補化合物を設計し、合成することによって開始されております。ここで合成された新薬候補化合物の薬理学的傾向は、過去の分子薬理学に関する経験及びノウハウからある程度予測することが可能であるため、その予測を基に効率的な研究開発が可能になると考えております。
(ニ)提携関係を活用した研究開発体制
当社グループは、国立大学法人三重大学との産学官連携講座(後述「第一部 企業情報 第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」参照)による共同研究等の提携関係を構築し、技術の取り込みを図り研究活動を進めております。また、研究開発の推進に向けては、業務受託企業等外部の企業を積極的に活用しております。こうした企業外部との提携関係を活用することによって、効率的な研究開発体制を構築することが可能となっております。
当社グループと外部機関との関係図(研究開発体制)
(アルファベット、あいうえお順)
* NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)
非ステロイド性抗炎症薬のことで、ステロイド以外の抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。鎮痛効果が高く、疼痛・発熱等に広く使用されています。
* Rhoキナーゼ
タンパク質リン酸化(*)酵素(プロテインキナーゼ)の1つであり、Rho-ROCK経路を介する多彩な細胞応答の制御機構に関与する酵素です。
* 医師主導治験
医師・医療機関が主体となって行う臨床試験のことです。
* イソキノリンスルホンアミド化合物
当社が開発している化合物の有する骨格(形)の名称です。
* 化合物ライブラリー
当社が長年にわたり蓄積してきた新薬候補化合物のタネとなる化合物群です。これらの化合物の一つ一つが特徴的な性質を有しており、基礎研究や新薬候補化合物発見に利用されます。
* 間歇性跛行
閉塞性動脈硬化症により引き起こされる典型的な症状です。一般に下肢筋肉への動脈血供給を妨げる閉塞性病変が原因となって血流障害が引き起こされ、歩行運動に伴って虚血性の疼痛を発生させます。この疼痛は一定の運動負荷で引き起こされ、安静により数分以内に緩和される特徴があります。跛行症状の治療には、下肢血行動態の改善を目的とした監視下運動療法、薬物療法及び血行再建術があります。
* 血管内膜肥厚抑制作用
血管内膜肥厚とは、血管壁の損傷により血管壁が厚くなることであり、その結果血液の流路が細くなり、血行障害が生じやすくなります。この血管内膜肥厚を抑制することは動脈硬化を防ぐためには重要であると考えられており、その抑制作用を血管内膜肥厚抑制作用と言います。
* 抗血小板剤
血小板(血液の成分の1つで血液の凝固や止血に重要な役割を果たしている成分)が有する機能の1つである凝集機能を阻害(抑制)する薬です。
* 細胞内情報伝達
神経刺激やホルモン等の細胞外からのシグナル(信号)を細胞内の必要な箇所へ伝えるシステムのことを言います。細胞内シグナル伝達とも言います。
* 作用機序
薬物が作用する仕組みのことを言います。近年では薬物作用の明確化の重要性が高まっており、この作用機序の解明が新薬開発において注目されております。
* 上市(じょうし)
新薬が承認され、実際に市場に出る(市販される)ことを言います。
* スクリーニング
新薬を開発するには、多数の候補化合物の中から、効果があり安全性が高いものを選び出すことが必要となります。このような多数の化合物から新薬の候補を探す一連の流れをスクリーニングと言います。
* スクリーニング毒性
細菌を用いる復帰突然変異試験(化学物質による、発癌性を含めた遺伝子に与える変化である変異原性を、細菌を用いてテストする試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(明確な染色体構造を持たない最近においては、染色体異常を検出できないため、人為的に生体外で培養したほ乳動物の細胞を用いて、染色体に対する遺伝毒性がないかをテストする試験)及びほ乳類を用いる28日間の反復毒性試験(ラット等の動物に一定期間毎日反復投与したときに現れる生体機能及び形態の変化を観察する試験)によって検出される毒性を指します。
* 阻害剤
生体内の様々な酵素分子に結合して、その酵素の活性を低下もしくは消失させる物質を指します。化学物質が特定の酵素の活性を低下もしくは消失させることにより、病気の治療薬として利用されることがあります。
* タンパク質リン酸化
タンパク質にリン酸基を移転する化学反応であり、タンパク質の働きを調節すると考えられております。
* 同定
単離した化学物質等の標的が何であるかを決定することを指します。
* ドラッグ・ウエスタン法
薬物の標的タンパク質の同定に用いられる手法で、当社がバイオテクノロジーを応用して発明し、特許を保有しております。煩雑なタンパク質精製プロセスを介さずに、薬物が結合する少量のタンパク質を検出し、その遺伝子を特定することにより標的タンパク質を同定することができる方法です。
* 白内障
水晶体が白く濁り、視力障害を引き起こす病気です。主な原因は加齢によるもので、症状が進行している場合には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズを挿入する手術が行われます。日本では年間およそ120万件の手術が行われています。
* 標的タンパク質
薬物が作用する対象となるタンパク質を標的タンパク質と呼びます。生体においては多くのタンパク質が相互に作用することによって様々な機能を果たしており、多くの病気が特定のタンパク質の異常な働きによって引き起こされております。これらの病気には、これらのタンパク質を標的タンパク質として、その異常な動きを抑制する薬剤が有効となりうると考えられております。
* プロテインキナーゼ
ATP(アデノシン三リン酸と言われ、体内で作られる高エネルギー化合物)等、生体においてエネルギーの元となる低分子物質等のリン酸基を、タンパク質分子に転移する(リン酸化)酵素です。一般にリン酸化を触媒する酵素をキナーゼと呼び、特にタンパク質をリン酸化するキナーゼをプロテインキナーゼと言います。
* 分子薬理学
薬理学とは、薬物が生体に対してどのような作用により、影響・効果を発揮しているかを調べたり、薬物を用いて生体の機能を明らかにしたりする学問のことです。分子薬理学とは、その薬理学の調査の対象を生物の化学的性質を失わない最小の構成単位、つまり遺伝子のレベルで調べる学問です。
* 閉塞性動脈硬化症
動脈硬化(動脈壁が肥厚し硬化した状態)により、主として下肢の大血管が慢性的に閉塞することによって、軽い場合には冷感、重症の場合には下肢の壊死にまで至ることがある病気を言います。軽度の場合には抗血小板剤が処方されることが多く、症状が悪化するにつれて他の薬剤を使用します。
* 未熟児網膜症
低出生体重児(未熟児)は、出生後保育器で高酸素下の環境におかれますが、その後通常の環境に戻された際、その環境に適応するため、急激に血管を産生しようと努めます。それは網膜においても起こり、急激な血管産生の結果、脆い異常な血管が形成されることで網膜剥離につながり、最終的には失明に至ることがある疾患です。現在は、レーザー照射による治療が行われていますが、必ずしも視力が戻るわけではなく、満足されている治療というわけではありません。
* 緑内障・高眼圧症
緑内障とは、視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患です。適切に治療されずに放置すると視野狭窄から失明に至る疾患であり、日本の中途失明原因の第一位(2005年)となっております。また、高眼圧症とは、視野狭窄が無いものの、眼圧が正常値を超えている病態です。
現在、緑内障のエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は、「眼圧を下降すること」とされており、原発開放隅角緑内障(広義)に対する治療では、薬物治療が第1選択とされております。
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