有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100CNRU
カルナバイオサイエンス株式会社 研究開発活動 (2017年12月期)
事業等のリスクメニュー財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
当社グループは、キナーゼタンパク質(*)を標的とした低分子の分子標的薬(*)であるキナーゼ阻害薬(*)の創製研究(*)および開発(*)を行いつつ、このキナーゼ阻害薬を創製するための基盤となる技術「創薬基盤技術」をさらに強化するための研究開発を行っております。さらに長年培ってきたこの創薬基盤技術を駆使し、他の製薬企業やアカデミア等に対し顧客ニーズの高いキナーゼ関連製品・サービスを提供するための研究開発活動を続けております。
当連結会計年度において当社グループが支出した研究開発費の総額は670,861千円であり、項目別には以下のとおりであります。
当社グループの研究開発活動は、研究開発本部ならびに創薬支援事業本部(製造部、受託試験部)が中心となって行っております。2017年12月末現在、研究開発本部には29名、創薬支援事業本部(除く営業部門)には12名が在籍しており、そのうち7名が博士号を取得しております。また、ドラッグデザイン、有機合成、薬理、基質(*)探索、遺伝子クローニング(*)、細胞培養、タンパク質精製、アッセイ(*)開発等の専門家を有し、先端技術の蓄積を行っております。当社は、今後自社で臨床試験を実施する体制を構築中であり、研究開発に積極的に投資を行い、複数の臨床試験段階のパイプラインを有する創薬ベンチャーとなることで、当社の企業価値を高めてまいります。
当社の創薬研究(*)は、当社グループの強力なキナーゼ(*)に関する創薬基盤技術及び子会社の株式会社ProbeXが有するスプリットルシフェラーゼ技術を最大限に活用し、がん及び免疫炎症疾患を重点領域として、効率的な創薬研究を行っております。がん領域においては、自社研究に加えて国立研究開発法人国立がん研究センター、広島大学、岐阜薬科大学及び慶應義塾大学と共同研究を行っております。また、重点領域以外の疾患についても、自社独自研究や北里大学等と共同研究を行うことで、パイプラインの拡充を図っております。
創薬には、アッセイ(*)開発、有機合成、薬理研究、薬物動態試験、毒性試験等に関する様々な技術が必要です。優れた技術を保有する企業を積極的に活用することで、創薬の効率化を図っています。また、新規創薬ターゲットの同定、新規創薬技術の開発などの基礎的な研究については、国立がん研究センターや大阪府立大学、神戸大学、愛媛大学、慶應義塾大学などのアカデミアとの共同研究も活用しながら推進しております。
医薬品の研究開発プロセスにおいて、前臨床試験以降を開発段階といいます。当社の創薬プログラムにおいて、2017年12月末現在でTNIK阻害薬ならびに2つのBTK阻害薬(リウマチ及び血液がん)の3化合物が前臨床研究段階にあります。前臨床試験では、化合物の薬効評価のほか、医薬品としての安全性及び薬物動態の評価を行います。また、塩・結晶多形検討、医薬品原体の製造のためのプロセス検討を行い、医薬品原体が安定して製造できることを検証します。このような評価・検討は、当社と外部委託先との連携を図りながら進めており、開発品目の早期の臨床試験開始を目指しております。なお、当社の開発研究は、臨床試験の前期第2相(フェーズⅡa)までの開発投資が比較的少額の段階までを対象としており、それ以降の開発は医薬品候補化合物の導出先である製薬企業等において実施することを想定しています。
当社は、2017年12月末現在で、がんを適応疾患としたCDC7キナーゼ阻害薬AS-141をSierra Oncology社に導出しております。導出後の本プログラムの開発(Sierra Oncology社の開発コード:SRA141)は同社において実施されます。当社は同社による本プログラムの開発(*)等の進展に伴い、導出契約時に合意したマイルストーン達成時に一時金を獲得できる契約となっております。
創薬事業において、特許による権利確保は製薬企業等との導出交渉時の重要な要素となるため、特許出願時期に加えて、国際出願(指定国及び国内移行)も考慮しながら、知的財産権を確保していく方針です。
他方、創薬支援事業においては、当社グループの高品質かつ網羅的なキナーゼタンパク質(*)の製造方法やキナーゼ活性の測定方法(アッセイ(*)条件)などは、他社が容易に模倣しがたい技術的ノウハウであることから特許出願等はせず、社内に技術力を着実に蓄積することで、効率的な製品の生産と製品レベルの向上などを図っていく方針です。
ノバルティスファーマ社のグリベック®を始めとするキナーゼ阻害剤(*)の成功例により、製薬企業はキナーゼ阻害薬の研究開発を活発に進めており、近年ではそれらの成果として、がん疾患のみならず、ファイザー社のゼルヤンツ®のように、自己免疫疾患領域においてもキナーゼ阻害剤が承認され上市(*)されております。これらキナーゼ阻害薬の研究活動においては、高品質かつ網羅的に製品・サービスを揃える当社グループの創薬支援事業が提供する製品及びサービスへのニーズが依然高いものと考えております。当社グループのキナーゼ阻害薬を創製するための技術(創薬基盤技術)を基盤として、競合他社とのさらなる差別化を図るべく、積極的な研究開発活動により、顧客要望に応じた製品・サービスの品揃えを拡充してまいります。
当連結会計年度末において、提供可能なキナーゼタンパク質(*)の種類は367種類、また製品数は446種類となり、当社グループは世界でトップクラスの品揃えを有し、キナーゼタンパク質を製造販売しております。また、プロファイリング(*)可能なキナーゼ(*)の種類は336製品あり、阻害すべきキナーゼと阻害すべきでないキナーゼに対する効果を網羅的検証可能な信頼性の高いキナーゼアッセイをサービスとして提供しております。また、表面プラズモン共鳴 (SPR)(*)やバイオレイヤー干渉法 (BLI)(*)といった物質間の相互作用を評価する系(解析機器)で利用可能なビオチン化キナーゼタンパク質(*)の製品数は82種類となりました。さらに、次世代の創薬ターゲットとして期待される脂質キナーゼ(*)の品揃え拡充に取り組んでおり、すでにDGKやPIPK等の製品・サービスの開発に成功し、提供を開始しています。今後も新製品、新規サービスの拡充に取り組んでまいります。また、細胞を用いて化合物を評価するセルベースアッセイ(*)では、ACD社、CAI社及びNTRC社等の協力会社のサービスを広く提供すること等を通して、より高度化する顧客ニーズに対応したサービス内容となるよう取り組んでまいります。
今後もキナーゼ阻害薬(*)の創薬研究(*)に有用な最新の技術開発を行い、自社研究及び他機関との共同研究を通じて、顧客ニーズに応じた創薬基盤技術の強化を図ってまいります。
完全子会社である株式会社ProbeXは、細胞内のタンパク質間相互作用(*)を可視化できる相補型スプリットルシフェラーゼアッセイ技術(*)を有しており、本技術を用いてGPCR(*)の応答性及びタンパク質間相互作用(*)を測定することが可能な細胞株として、当連結会計年度末において26製品が提供可能です。ProbeXの技術と当社が有する創薬基盤技術を融合し、顧客訴求力の高い製品の開発を進めてまいります。またProbeXの技術を当社の創薬研究(*)に活用する取り組みを進めております。
当連結会計年度における研究開発活動をセグメントごとに示すと次のとおりであります。
1.創薬事業
当社グループは、がん、免疫炎症疾患を重点領域としてキナーゼ阻害薬(*)を中心に創薬研究開発を行なっています。2017年12月末現在で、がん領域においては3つの創薬プログラム及び1つの導出済みプログラムがあり、免疫炎症疾患領域では2つの創薬プログラムの研究開発を実施しております。また、重点領域以外にもキナーゼ(*)を標的とした創薬プログラム等の研究を実施しております。
国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究テーマであるTNIK阻害薬プログラムについては、日本医療研究開発機構(AMED)の支援のもと前臨床試験を継続しております。また、本プログラムのバックアップ化合物についても、前臨床段階へのステージアップを目指し、同研究センターと共同で研究を進めております。CDC7キナーゼ阻害剤AS-141(Sierra Oncology社の開発コード:SRA141)については、導出先である同社が前臨床試験を実施しておりますが、早期の臨床試験開始に向けて、当社も協力していく予定です。また、広島大学との白血病幹細胞を標的とした創薬研究(*)も順調に進んでおり、さらなるリード化合物の最適化(*)を行っております。また、イブルチニブ耐性の血液がんを治療標的として次世代BTK阻害薬の研究を進めてきた結果、CB-1763を臨床開発候補化合物として選択し、前臨床試験段階へステージアップいたしました。
リウマチなどの免疫炎症疾患を標的としたもう一つのBTK阻害剤(AS-871)についても、現在GLP基準での前臨床試験に向けたプロセス検討及びキログラム単位の大量合成を実施しており、早期の臨床試験開始を目指して、外部機関と連携しながら前臨床試験を進めていく予定です。
また、神経変性疾患を標的とした創薬プログラム並びに北里大学北里生命科学研究所との新規マラリア治療薬テーマについては、リード化合物の最適化(*)を実施しており、いずれも早期のステージアップを目指してさらなる最適化研究を継続してまいります。
また、将来のパイプラインを継続的に生み出せるよう次世代の研究テーマの準備を進め、有望な研究テーマが同定された場合は、限られたリソースで効率的に研究開発が行なえるよう、テーマの選択と集中も随時行なっていく予定です。当事業に係る研究開発費は、646,035千円であります。
2.創薬支援事業
創薬支援事業の研究開発では、キナーゼタンパク質(*)およびプロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービスの品質および作業効率の向上が主要なテーマとなっております。当社製キナーゼタンパク質は顧客から高品質との評価を得ており、今後さらなる信頼を獲得し売上拡大を図るため、一層の品質の向上に取り組むとともに、収益力の強化を目指して作業工程の見直し等の研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費は、24,826千円であります。
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 6 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。
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