有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100CMFH
株式会社カイオム・バイオサイエンス 事業の内容 (2017年12月期)
1.事業環境
(1)抗体医薬品市場
バイオ医薬品は、遺伝子組換え技術等のバイオテクノロジーにより創出された医薬品であり、1980年代から実用化されています。その後、抗体作製技術等の技術革新により、分子量が大きく、構造が複雑な抗体医薬品の創出が可能となり、新たな治療手段として、その有用性の高さが臨床的に示されています。
Evaluate Pharma®の「Evaluate World Preview 2017,Outlook to 2022」によりますと、バイオ医薬品の売上高は、2016年には約2,020億ドルに達しており、2020年には約3,200億ドルに達し、医薬品の総売上高に占める割合はほぼ30%に達すると予測されております。売上高上位100位以内の医薬品を見れば、バイオ医薬品の占める割合は2016年には40%を超えており、2020年には52%に達するとも予測されており、バイオ医薬品の売上の増加は今後もしばらく継続するものと見込まれております。
(出典:Evaluate World Preview 2017のデータを基に当社で作成)
バイオ医薬の牽引役である抗体医薬においては、2017年に国内で新たに5品目が承認されました。特に、オプジーボに代表される抗体の特徴を活かして創出された免疫チェックポイント阻害剤(*)と呼ばれる新しい免疫療法ががん治療の分野で注目されております。さらに、抗体の創出・改変・修飾などに関する技術は多方面で発展が認められており、抗体に強力な抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体が進化したり、がん細胞などに発現する二種類の抗原に結合できるように改変されたバイスペシフィック抗体(*)が創出されるなど、抗体を基盤とした創薬が一層活性化してきております。このような状況から、抗体医薬品の市場は今後も拡大傾向にあると推測されます。
(2)抗体医薬品とは何か
ヒトには、体内に侵入した細菌やウイルス等のタンパク質を異物(抗原)として認識し、その異物を攻撃、排除するために、体内で抗体を作って身体を守る防御システム(抗原抗体反応)が備わっています。こうして得られた抗体は、特定の抗原にのみ結合する性質を持っており、正常な細胞とがん細胞を見分けたり、病気の原因となるタンパク質の機能を抑えたりすることができます。この特徴を医薬品に活かしたものが抗体医薬品です。従来の抗がん剤等では、正常な細胞にも作用することで副作用を引き起こすこともありますが、抗体医薬品は、疾患に関連する細胞に特異的に発現が認められる抗原をピンポイントで狙い撃ちするため、高い治療効果と安全性が期待されております。
(3)抗体医薬品が使われている主な疾患
抗体医薬品は、様々な疾患の治療に使われています。次に代表的な疾患を記載します。
(国立医薬品食品衛生研究所 生物医薬品部ホームページより抜粋)
2.当社のビジネスモデル
(1)経営理念
当社は、「医療のアンメットニーズ(*)に創薬の光を」というミッションのもと、「アンメットニーズに対する抗体医薬の開発候補品を生み出すNo.1ベンチャー企業を目指す」という経営ビジョンを掲げ、アンメットニーズの高い疾患領域に対する抗体創薬と創薬支援を事業の基本として、成長性と安定性を兼備した経営を目指しております。
(2)ビジネスモデル
当社は、独自の抗体作製技術(ADLib®システム)をはじめとする複数の抗体作製技術を用いて治療薬や診断薬等の抗体医薬品候補を開発する「創薬事業」および「創薬支援事業」を展開しております。「創薬事業」では、抗体医薬品の基礎・探索研究(*)、前臨床段階を主な事業領域として、アンメットニーズの高い疾患領域における抗体創薬開発を行い、開発した医薬候補品を製薬企業等に導出します。また、「創薬支援事業」では製薬企業等に受託研究等を通じて抗原・タンパク質の製造や抗体作製、抗体創薬関連サービスの提供を行います。このように、当社は拡大する抗体医薬品市場において製薬企業等に製品やサービスの提供を行うことを主たる事業としており、これにより当社は、契約一時金、マイルストーン(*)、ロイヤルティ(*)、受託サービス料等の対価を企業等から受け取り収益を獲得します。
なお、上記の事業は「第5 経理の状況 1財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項」に掲げるセグメントの区分と同一であります。
(当社作成)
(当社作成)
(当社作成)
(3)当社の基本戦略
当社は保有する複数の抗体作製技術(ADLib®システム、ハイブリドーマ法(*)、マウスやニワトリを用いたB Cell Cloning(*)、TC社のヒト抗体産生マウス/ラットを利用した作製法など)を用いて標的抗原に対する多様な抗体を作製し、リード抗体(*)取得の可能性を高め、有効な治療法がない重篤な疾患や、薬剤による治療満足度が低い疾患を中心にアンメットニーズの高い疾患に対する抗体医薬の開発候補品を生み出す、No.1ベンチャー企業を目指します。
(4)当社の基本戦略を遂行するための3つの強み
・複数の抗体作製技術を統合的に運用して創薬事業を展開していること
・抗原・タンパク質調製や抗体精製、動物試験等の創薬基盤技術および創薬支援機能を有していること
・専門性の高い人材が持つネットワークを通じて外部からの創薬ターゲット(抗原)を獲得できること
3.事業内容
(1)創薬事業
① 事業の内容
創薬事業は、アンメットニーズの高い疾患領域における抗体創薬開発(共同開発を含む)を行い、その研究成果物であるリード抗体等の知的財産を製薬企業等に導出(*)し、契約一時金収入、マイルストーンおよびロイヤルティ、並びに共同研究等に係る収入等を獲得する事業です。
医薬品の開発には、一般的に基礎・探索研究、前臨床開発、臨床開発、申請承認、製造・販売のプロセスがありますが、当社の創薬事業においては、基礎・探索研究段階から前臨床開発および初期臨床開発段階までの抗体医薬品開発の上流工程を主な事業領域としております。本事業においては、自社で開発候補抗体(ヒト化抗体(*)、ヒト抗体)の前臨床データパッケージまでを作成し、早期導出を図ることを基本戦略としますが、特定のプログラムにおいては導出の可能性を高め、収益性の向上が期待できる自社での初期臨床開発も行ってまいります。
また、当該事業領域におけるパイプライン(*)は、自社の抗体作製技術等を用いた創薬研究活動や外部からの新規パイプラインの導入(*)によって、拡充を図ってまいります。
② 当社のパイプライン
当社が保有しているパイプラインは下記のとおりです。
LIV-1205は、がん細胞の表面に発現しているDLK-1というタンパク質に結合するヒト化モノクローナル抗体(*)であり、がん細胞の増殖を抑制することが動物モデルを用いた試験により確認されています。DLK-1は、幹細胞(*)や前駆細胞(*)のような未熟な細胞の増殖・分化を制御することが明らかにされていましたが、肝臓がんをはじめとする複数のがん細胞表面においてもDLK-1が発現しており、その増殖に関与していることが明らかにされています。そのためDLK-1はがん治療における新たな標的分子としての可能性が期待されています。
LIV-2008/2008bは、種々の固形がんの細胞表面に発現するTROP-2に結合するヒト化モノクローナル抗体であり、がん細胞の増殖活性を阻害することが動物モデルを用いた試験により確認されています。TROP-2は、正常組織に比べ、乳がん、大腸がん、膵がん、前立腺がん、肺がん等の複数の固形がんにおいて発現が増大していることが認められています。さらに、がんの悪性度にも関連していることが複数報告され、海外企業による開発も進められています。
BMAA(抗セマフォリン3A抗体(*))は、神経軸索の伸長を抑制するセマフォリン3Aに結合するヒト化モノクローナル抗体で、公立大学法人横浜市立大学、五嶋研究室との共同研究において、ADLib®システムにより取得した抗体です。セマフォリン3Aは現在も世界中で研究が行われており、これまでの研究により、セマフォリン3Aを阻害することにより神経再生が起こること、また炎症・免疫反応やがん、骨の形成、アルツハイマー病、糖尿病合併症等とも関連していることが報告されております。抗セマフォリン3A抗体は、この因子の働きを抑えることによりアンメットニーズの高い各種疾患の治療薬開発に結びつくことが期待される抗体です。
③ 創薬プロジェクト
当社では、自社単独または共同開発により新規のターゲットに対する複数の抗体創薬プロジェクトを推進しております。新規創薬プロジェクトの発足においては、大学・研究機関等から、従来の技術では抗体作製が困難な抗原情報を入手するなど、ターゲット(抗原)の獲得も積極的に行っております。それらの抗原に対する抗体が、疾患モデル動物などを用いた検討により、治療効果を有する事を確認した場合、当社はその発明について共同出願を行い事業化の権利を確保した上で研究活動を推進いたします。
また当社の創薬力を向上するため、基礎的かつ高度な専門性を要求される分野において大学・研究機関等と共同研究を行い、当社が保有する抗体作製技術の改良や、創薬基盤技術における課題解決を図るなど技術革新にも取り組んでおります。
(2)創薬支援事業
製薬企業や診断薬企業、大学等の研究機関で実施される創薬研究を支援するため、抗体などのタンパク質の発現・精製等のサービスや、当社の保有するADLib®システムやB Cell Cloningといった抗体作製技術を用いた抗体作製サービスを提供することによってサービス料等の収入を獲得する事業です。
4.当社の抗体作製技術
(1) 抗体作製技術
当社は独自技術のADLib®システムのほか、ハイブリドーマ法、マウスやニワトリを用いたB Cell Cloning、TC社のヒト抗体産生マウス/ラットを利用した作製法など、複数の抗体作製技術を保有しています。それぞれの技術の特性を活かして統合的に運用することにより抗体作製力を最大化してまいります。
(2) 当社独自の抗体作製技術ADLib®システム
① ADLib®システムの仕組み
ニワトリのB細胞由来のDT40細胞(*)は、様々な種類の抗体を生み出すメカニズムを持っています。当社では、このメカニズムをトリコスタチンA(以下「TSA」といいます)(*)という薬剤により人為的に活性化させて、試験管内において短期間で多種多様なモノクローナル抗体を産生する細胞集団(ライブラリ)を作り出しています。そのライブラリの中からターゲットである抗原に特異的に結合する抗体を取得します。この方法を当社では、ADLib®システム(トリ免疫細胞を用いたモノクローナル抗体作製システム:Autonomously Diversifying Library、総称してADLib®)と呼んでおります。
(当社作成)
② ヒトADLib®システムについて
ヒトADLib®システムは、遺伝子組換え技術によりDT40細胞のトリ抗体遺伝子がヒト抗体遺伝子に置き換えられており、ヒト化の工程を経ることなく、ヒト抗体を取得することができます。
(当社作成)
③ 従来の抗体作製技術との主な違い
ADLib®システムは、従来の抗体作製技術とは異なるテクノロジーとして、次のような技術的特徴を有しております。
a.従来の免疫法では困難な抗原に対する抗体取得
ヒトを含む動物は、体内に入ってきた異物に対しては免疫反応(*)が起きて抗体を作りますが、自分を構成している成分に対しては、免疫寛容とよばれる仕組みにより抗体を作ることができません。進化の過程においてマウスとヒトの間でもほとんど変化することなく種を超えて受け継がれてきたタンパク質は非常に類似していることがあり、ヒトを構成する成分であっても抗体を取得することは容易ではありません。しかし、試験管内で抗体が得られるADLib®システムは、生体外で抗体を作製するシステムなので、免疫寛容による制限を受けることはありません。
b.迅速な抗体取得
ADLib®システムでは、ELISA(*)等の免疫化学的アッセイ(*)により10日程度でターゲット特異的な抗体を判定することが可能で、他の技術と比較して抗体取得の判定期間が短い点が大きな特徴です。
5.特許ポートフォリオ
(1)基盤技術に係る主要特許
(2)リード抗体に係る主要特許
(1)抗体医薬品市場
バイオ医薬品は、遺伝子組換え技術等のバイオテクノロジーにより創出された医薬品であり、1980年代から実用化されています。その後、抗体作製技術等の技術革新により、分子量が大きく、構造が複雑な抗体医薬品の創出が可能となり、新たな治療手段として、その有用性の高さが臨床的に示されています。
Evaluate Pharma®の「Evaluate World Preview 2017,Outlook to 2022」によりますと、バイオ医薬品の売上高は、2016年には約2,020億ドルに達しており、2020年には約3,200億ドルに達し、医薬品の総売上高に占める割合はほぼ30%に達すると予測されております。売上高上位100位以内の医薬品を見れば、バイオ医薬品の占める割合は2016年には40%を超えており、2020年には52%に達するとも予測されており、バイオ医薬品の売上の増加は今後もしばらく継続するものと見込まれております。
(出典:Evaluate World Preview 2017のデータを基に当社で作成)
バイオ医薬の牽引役である抗体医薬においては、2017年に国内で新たに5品目が承認されました。特に、オプジーボに代表される抗体の特徴を活かして創出された免疫チェックポイント阻害剤(*)と呼ばれる新しい免疫療法ががん治療の分野で注目されております。さらに、抗体の創出・改変・修飾などに関する技術は多方面で発展が認められており、抗体に強力な抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体が進化したり、がん細胞などに発現する二種類の抗原に結合できるように改変されたバイスペシフィック抗体(*)が創出されるなど、抗体を基盤とした創薬が一層活性化してきております。このような状況から、抗体医薬品の市場は今後も拡大傾向にあると推測されます。
(2)抗体医薬品とは何か
ヒトには、体内に侵入した細菌やウイルス等のタンパク質を異物(抗原)として認識し、その異物を攻撃、排除するために、体内で抗体を作って身体を守る防御システム(抗原抗体反応)が備わっています。こうして得られた抗体は、特定の抗原にのみ結合する性質を持っており、正常な細胞とがん細胞を見分けたり、病気の原因となるタンパク質の機能を抑えたりすることができます。この特徴を医薬品に活かしたものが抗体医薬品です。従来の抗がん剤等では、正常な細胞にも作用することで副作用を引き起こすこともありますが、抗体医薬品は、疾患に関連する細胞に特異的に発現が認められる抗原をピンポイントで狙い撃ちするため、高い治療効果と安全性が期待されております。
(3)抗体医薬品が使われている主な疾患
抗体医薬品は、様々な疾患の治療に使われています。次に代表的な疾患を記載します。
分 類 | 病 気 |
がん | 大腸がん、乳がん、非小細胞肺がん、メラノーマ、腎がん、前立腺がん、胃がん、急性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫等 |
アレルギー・免疫 | 関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、キャッスルマン病、喘息、 腎臓移植後の急性拒絶(正)反応 |
その他 | 黄斑変性症、骨粗鬆症、感染症 |
2.当社のビジネスモデル
(1)経営理念
当社は、「医療のアンメットニーズ(*)に創薬の光を」というミッションのもと、「アンメットニーズに対する抗体医薬の開発候補品を生み出すNo.1ベンチャー企業を目指す」という経営ビジョンを掲げ、アンメットニーズの高い疾患領域に対する抗体創薬と創薬支援を事業の基本として、成長性と安定性を兼備した経営を目指しております。
(2)ビジネスモデル
当社は、独自の抗体作製技術(ADLib®システム)をはじめとする複数の抗体作製技術を用いて治療薬や診断薬等の抗体医薬品候補を開発する「創薬事業」および「創薬支援事業」を展開しております。「創薬事業」では、抗体医薬品の基礎・探索研究(*)、前臨床段階を主な事業領域として、アンメットニーズの高い疾患領域における抗体創薬開発を行い、開発した医薬候補品を製薬企業等に導出します。また、「創薬支援事業」では製薬企業等に受託研究等を通じて抗原・タンパク質の製造や抗体作製、抗体創薬関連サービスの提供を行います。このように、当社は拡大する抗体医薬品市場において製薬企業等に製品やサービスの提供を行うことを主たる事業としており、これにより当社は、契約一時金、マイルストーン(*)、ロイヤルティ(*)、受託サービス料等の対価を企業等から受け取り収益を獲得します。
なお、上記の事業は「第5 経理の状況 1財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項」に掲げるセグメントの区分と同一であります。
(当社作成)
(当社作成)
(当社作成)
(3)当社の基本戦略
当社は保有する複数の抗体作製技術(ADLib®システム、ハイブリドーマ法(*)、マウスやニワトリを用いたB Cell Cloning(*)、TC社のヒト抗体産生マウス/ラットを利用した作製法など)を用いて標的抗原に対する多様な抗体を作製し、リード抗体(*)取得の可能性を高め、有効な治療法がない重篤な疾患や、薬剤による治療満足度が低い疾患を中心にアンメットニーズの高い疾患に対する抗体医薬の開発候補品を生み出す、No.1ベンチャー企業を目指します。
(4)当社の基本戦略を遂行するための3つの強み
・複数の抗体作製技術を統合的に運用して創薬事業を展開していること
・抗原・タンパク質調製や抗体精製、動物試験等の創薬基盤技術および創薬支援機能を有していること
・専門性の高い人材が持つネットワークを通じて外部からの創薬ターゲット(抗原)を獲得できること
3.事業内容
(1)創薬事業
① 事業の内容
創薬事業は、アンメットニーズの高い疾患領域における抗体創薬開発(共同開発を含む)を行い、その研究成果物であるリード抗体等の知的財産を製薬企業等に導出(*)し、契約一時金収入、マイルストーンおよびロイヤルティ、並びに共同研究等に係る収入等を獲得する事業です。
医薬品の開発には、一般的に基礎・探索研究、前臨床開発、臨床開発、申請承認、製造・販売のプロセスがありますが、当社の創薬事業においては、基礎・探索研究段階から前臨床開発および初期臨床開発段階までの抗体医薬品開発の上流工程を主な事業領域としております。本事業においては、自社で開発候補抗体(ヒト化抗体(*)、ヒト抗体)の前臨床データパッケージまでを作成し、早期導出を図ることを基本戦略としますが、特定のプログラムにおいては導出の可能性を高め、収益性の向上が期待できる自社での初期臨床開発も行ってまいります。
また、当該事業領域におけるパイプライン(*)は、自社の抗体作製技術等を用いた創薬研究活動や外部からの新規パイプラインの導入(*)によって、拡充を図ってまいります。
② 当社のパイプライン
当社が保有しているパイプラインは下記のとおりです。
LIV-1205は、がん細胞の表面に発現しているDLK-1というタンパク質に結合するヒト化モノクローナル抗体(*)であり、がん細胞の増殖を抑制することが動物モデルを用いた試験により確認されています。DLK-1は、幹細胞(*)や前駆細胞(*)のような未熟な細胞の増殖・分化を制御することが明らかにされていましたが、肝臓がんをはじめとする複数のがん細胞表面においてもDLK-1が発現しており、その増殖に関与していることが明らかにされています。そのためDLK-1はがん治療における新たな標的分子としての可能性が期待されています。
LIV-2008/2008bは、種々の固形がんの細胞表面に発現するTROP-2に結合するヒト化モノクローナル抗体であり、がん細胞の増殖活性を阻害することが動物モデルを用いた試験により確認されています。TROP-2は、正常組織に比べ、乳がん、大腸がん、膵がん、前立腺がん、肺がん等の複数の固形がんにおいて発現が増大していることが認められています。さらに、がんの悪性度にも関連していることが複数報告され、海外企業による開発も進められています。
LIV-1205 (ヒト化抗DLK-1モノクローナル抗体) | LIV-2008/2008b (ヒト化抗TROP-2モノクローナル抗体) | |
ターゲット | DLK-1 | TROP-2 |
高発現がん種 (開発ターゲット) | 肝臓がん、小細胞肺がん、神経芽細胞腫等 | 乳がん、肺がん、大腸がん等 |
ターゲットの新規性 | 新規 | 既知 |
競合 | なし | あり(ADC) |
ヒトでの有効性 | 未知 | Immunomedics社がADCで承認申請を予定 |
期待 | 標準療法に不応答のがんを対象疾患としたファースト・イン・クラス(*)の治療等抗体候補 | 乳がん、肺がん等を対象疾患としたベスト・イン・クラス(*)の治療等抗体候補 |
Naked抗体 | 動物モデルでの単独投与試験で、顕著な腫瘍増殖阻害効果を示す | 動物モデルでの単独投与試験で複数のがん細胞腫において、顕著な腫瘍増殖阻害効果を示す |
インターナリゼーション(*)活性 | あり | あり(LIV-2008b) |
BMAA(抗セマフォリン3A抗体(*))は、神経軸索の伸長を抑制するセマフォリン3Aに結合するヒト化モノクローナル抗体で、公立大学法人横浜市立大学、五嶋研究室との共同研究において、ADLib®システムにより取得した抗体です。セマフォリン3Aは現在も世界中で研究が行われており、これまでの研究により、セマフォリン3Aを阻害することにより神経再生が起こること、また炎症・免疫反応やがん、骨の形成、アルツハイマー病、糖尿病合併症等とも関連していることが報告されております。抗セマフォリン3A抗体は、この因子の働きを抑えることによりアンメットニーズの高い各種疾患の治療薬開発に結びつくことが期待される抗体です。
BMAA (ヒト化抗セマフォリン3Aモノクローナル抗体) | |
ターゲット | セマフォリン3A(Semaphorin 3A、SEMA3A) |
想定適応疾患 | 中枢、免疫・炎症疾患、神経疾患、眼科疾患 |
期待 | 免疫系疾患、神経疾患等、セマフォリン3Aとの関連が知られている幅広い疾患領域での適応が期待される。 |
③ 創薬プロジェクト
当社では、自社単独または共同開発により新規のターゲットに対する複数の抗体創薬プロジェクトを推進しております。新規創薬プロジェクトの発足においては、大学・研究機関等から、従来の技術では抗体作製が困難な抗原情報を入手するなど、ターゲット(抗原)の獲得も積極的に行っております。それらの抗原に対する抗体が、疾患モデル動物などを用いた検討により、治療効果を有する事を確認した場合、当社はその発明について共同出願を行い事業化の権利を確保した上で研究活動を推進いたします。
また当社の創薬力を向上するため、基礎的かつ高度な専門性を要求される分野において大学・研究機関等と共同研究を行い、当社が保有する抗体作製技術の改良や、創薬基盤技術における課題解決を図るなど技術革新にも取り組んでおります。
(2)創薬支援事業
製薬企業や診断薬企業、大学等の研究機関で実施される創薬研究を支援するため、抗体などのタンパク質の発現・精製等のサービスや、当社の保有するADLib®システムやB Cell Cloningといった抗体作製技術を用いた抗体作製サービスを提供することによってサービス料等の収入を獲得する事業です。
サービス項目 | 内 容 |
タンパク質・抗原調製、抗体の発現精製 | 抗体作製に必要な組換えタンパク質(抗原)や、研究開発用途の抗体などを細胞に発現させ、精製を行います。種類に応じた発現・精製方法を選び、純度や物性の分析を行います。 |
安定発現細胞株作製 | 安定的に組換えタンパク質(抗原や抗体)を供給できるように、遺伝子組換え技術を用いて、組換えタンパク質を効率よく発現する細胞株を作製します。 |
ADLib®システムやB Cell Cloningによる抗体作製 | ADLib®システムやB Cell Cloningといった抗体作製技術を用い、創薬研究に用いるモノクローナル抗体作製を行います。当社の抗体創薬の知識・ノウハウを活かし、顧客のニーズに合わせた抗体作製プランを提案いたします。 |
4.当社の抗体作製技術
(1) 抗体作製技術
当社は独自技術のADLib®システムのほか、ハイブリドーマ法、マウスやニワトリを用いたB Cell Cloning、TC社のヒト抗体産生マウス/ラットを利用した作製法など、複数の抗体作製技術を保有しています。それぞれの技術の特性を活かして統合的に運用することにより抗体作製力を最大化してまいります。
抗体作製技術 | 技術の特性 |
ADLib®システム | ・ 動物免疫(*)が不要なので、抗体取得にかかる時間が短縮できる ・ 抗体ライブラリ(*)の多様性を自律的に高めることができる ・ 動物免疫と異なり、自己抗原への免疫寛容(*)の影響を受けないため、理論的にはあらゆる配列のタンパク質を認識する抗体が取得できる可能性がある ・ ヒトADLib®システムを用いた場合、ヒト化の工程を経ずにヒト抗体を取得することができる |
ハイブリドーマ法 | ・ 動物免疫による抗体作製法で、最もよく用いられる ・ 手法が確立されており、医薬品化された実績も多い ・ ヒト抗体産生動物を用いた場合、ヒト化の工程を経ずにヒト抗体を取得することができる |
B Cell Cloning | ・ 動物免疫を行った後、ハイブリドーマを作製せずに抗体の配列を決定するため、ハイブリドーマ法より短期間で目的の抗体を得ることができる ・ 抗原特異的なB細胞(*)の検出率がハイブリドーマ法よりも高く、取りこぼしが少ない ・ ヒト抗体産生動物を用いた場合、ヒト化の工程を経ずにヒト抗体を取得することができる |
(2) 当社独自の抗体作製技術ADLib®システム
① ADLib®システムの仕組み
ニワトリのB細胞由来のDT40細胞(*)は、様々な種類の抗体を生み出すメカニズムを持っています。当社では、このメカニズムをトリコスタチンA(以下「TSA」といいます)(*)という薬剤により人為的に活性化させて、試験管内において短期間で多種多様なモノクローナル抗体を産生する細胞集団(ライブラリ)を作り出しています。そのライブラリの中からターゲットである抗原に特異的に結合する抗体を取得します。この方法を当社では、ADLib®システム(トリ免疫細胞を用いたモノクローナル抗体作製システム:Autonomously Diversifying Library、総称してADLib®)と呼んでおります。
(当社作成)
② ヒトADLib®システムについて
ヒトADLib®システムは、遺伝子組換え技術によりDT40細胞のトリ抗体遺伝子がヒト抗体遺伝子に置き換えられており、ヒト化の工程を経ることなく、ヒト抗体を取得することができます。
(当社作成)
③ 従来の抗体作製技術との主な違い
ADLib®システムは、従来の抗体作製技術とは異なるテクノロジーとして、次のような技術的特徴を有しております。
a.従来の免疫法では困難な抗原に対する抗体取得
ヒトを含む動物は、体内に入ってきた異物に対しては免疫反応(*)が起きて抗体を作りますが、自分を構成している成分に対しては、免疫寛容とよばれる仕組みにより抗体を作ることができません。進化の過程においてマウスとヒトの間でもほとんど変化することなく種を超えて受け継がれてきたタンパク質は非常に類似していることがあり、ヒトを構成する成分であっても抗体を取得することは容易ではありません。しかし、試験管内で抗体が得られるADLib®システムは、生体外で抗体を作製するシステムなので、免疫寛容による制限を受けることはありません。
b.迅速な抗体取得
ADLib®システムでは、ELISA(*)等の免疫化学的アッセイ(*)により10日程度でターゲット特異的な抗体を判定することが可能で、他の技術と比較して抗体取得の判定期間が短い点が大きな特徴です。
5.特許ポートフォリオ
(1)基盤技術に係る主要特許
関連 | 発明の名称 | 出願人 | 登録状況 |
ADLib®システム 基盤特許 | 体細胞相同組換え(*)の促進方法及び特異的抗体(*)の作製方法 | (国)理化学研究所、当社 | 日本、米国、欧州、中国で成立。 |
体細胞相同組換えの誘発方法 | (国)理化学研究所、当社 | 日本、米国、欧州、中国で成立。 | |
ヒトADLib®システム | ヒト抗体を産生する細胞 | 当社 | 日本、米国、欧州、中国で出願中。 |
(2)リード抗体に係る主要特許
関連 | 発明の名称 | 出願人 | 登録状況 |
LIV-1205 | in vivoで抗腫瘍活性を有する抗ヒトDlk-1抗体 | (株)リブテック (当社が承継) | 日本、米国、欧州、中国で成立。 他の海外諸国で出願中。 |
LIV-2008 | in vivoで抗腫瘍活性を有する抗ヒトTROP-2抗体(ヒト化) | (株)リブテック (当社が承継) | 日本、米国、中国を含む5ヵ国で成立。 欧州等で出願中。 |
in vivoで抗腫瘍活性を有する抗ヒトTROP-2抗体(マウス) | (株)リブテック (当社が承継) | 日本、米国、欧州を含む9ヵ国で成立。 他の海外諸国で出願中。 | |
BMAA | 抗セマフォリン3A抗体、並びにこれを用いたアルツハイマー病及び免疫・炎症性疾患の治療 | (公)横浜市立大学、 当社 | 米国で成立。 日本、欧州で出願中。 |
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