有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100FP81
サンバイオ株式会社 事業の内容 (2019年1月期)
(1)当社の事業領域
当社グループ(以下、当社及び連結子会社SanBio, Inc.(米国カリフォルニア州マウンテンビュー市)の2社を指します。)は「再生医療の開発を通じて、患者様をはじめとしたステークホルダーの皆さまへ価値を提供する」ことをコーポレート・ミッションに掲げ、東京を本社とし、SanBio, Inc.のある米国に研究開発の主たる拠点を構え、日米において再生細胞医薬品の研究、開発、製造及び販売を手掛ける再生細胞事業を展開しています。
≪再生細胞薬とは≫
当社グループが手掛ける再生細胞薬は、病気・事故等で失われた身体機能の自然な再生プロセスを誘引ないし促進させ、運動機能、感覚機能、認知機能を再生させる効能が期待される医薬品です。
当社グループでは、主に中枢神経係の疾患(眼科を含む)における、慢性期脳梗塞(発症後6カ月が経過した脳梗塞)、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病等のアンメットメディカルニーズの高い疾患を対象とした治療薬の販売を目指しています。
例えば、当社グループが治療薬の開発を進めている慢性期脳梗塞は、これまでリハビリやリハビリ補助機器等による理学療法による対処が主流とされてきた疾患であり、麻痺、半身不随等が残った場合の有効な治療薬は存在していませんでした。
このような領域において再生細胞薬による治療法を確立することで、世界中の上記の疾患を抱えた患者の身体機能の改善に寄与することが当社グループのミッションです。
(2)事業の内容
当社グループは、当社と連結子会社SanBio, Inc.(米国カリフォルニア州マウンテンビュー市)の2社により構成されています。当社設立は2013年2月ですが、SanBio, Inc.は2001年2月の設立以降、一貫して再生細胞薬の研究開発を進めています。現在は同社を研究開発の主たる拠点としながら、日米両国において研究開発のための提携研究機関、大学病院、研究/製造受託機関、アドバイザー等とのネットワークを構築しています。
主な提携研究機関:スタンフォード大学、ピッツバーグ大学、ノースウェスタン大学、東京大学、北海道大学
主なアドバイザー:米国食品医薬局(元)長官、スタンフォード大学(元)学長、米国国立衛生研究所(NIH)老化研究所(元)所長、間葉系幹細胞発見者
当社グループは、大学等の研究機関から導入した技術を当社グループにおいて製造開発、非臨床試験、臨床試験等を実施し、医薬品の販売網を有するパートナー製薬会社に開発権及び販売権をライセンス許諾することで(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給に係る収入を得るビジネスモデルとなっています。収入形態の内容は以下の通りです。
なお、上記のライセンス許諾のタイミングは、ヒトでの安全性と有効性を確認する(Proof of concept)段階まで開発を進めた時点を想定しています。
≪当社グループの収入形態≫
当社グループの収入は、開発段階においては、(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金のいずれか、又はすべてで構成されます。製品上市後は、売上マイルストンに関する(B)マイルストン収入のほか、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給収入が当社グループの主な収入形態となります。(D)及び(E)は製品売上の一定割合として支払われるため、製品売上に比例的に伸長することになります。
(3)開発の状況
① 当社グループが手掛ける再生細胞薬
当社グループが開発を進める再生細胞薬はSB623(神経再生細胞、適応疾患は慢性期脳梗塞、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病等)、SB618(機能強化型・間葉系幹細胞、適応疾患は末梢神経障害等)、SB308(筋肉幹細胞、適応疾患は筋ジストロフィー等)の3種類です。
現在、SB623については、日米を中心に慢性期外傷性脳損傷プログラムと慢性期脳梗塞プログラムの開発を進めています。当社グループ単独で進めている日米の慢性期外傷性脳損傷プログラムのフェーズ2臨床試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成。」という良好な結果を得ました。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指します。そのため、当期はこの承認後のSB623の国内普及に向けた製造・物流・販売体制の構築に着手しています。
一方、米国で大日本住友製薬株式会社と共同で進めている被験者163名を対象としたSB623慢性期脳梗塞プログラムのフェーズ2b臨床試験は、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。現在、この詳細結果は解析中であり、その結果等を踏まえ、今後の開発及び事業計画を組み立てていきます。
当社グループでは、バックアップとなりうる製品を用意しつつも、主たる製品候補である再生細胞薬SB623(神経再生細胞)の適応拡大を図ることを最優先に開発を進める方針です。
≪SB623の概要≫
SB623は神経機能を再生する作用を持つ治療薬です。体の自然な再生プロセスを促進させ、失われた運動機能、感覚機能及び認知機能の再生をターゲットとしています。
当社グループの再生細胞薬は、患者本人の細胞を処理して再度患者に戻す形態の医療サービス(自家移植の再生医療)ではなく、健康なドナーから採取した細胞を加工・培養して均質な細胞を大量製造して製品化した他家由来の医薬品です。同一の製品で多くの患者を同様に治療できるため、製品認可取得後には迅速な普及が見込まれます。健常者の骨髄液から得られるMarrow Adherent Stem Cells(MASC細胞)に、Notch-1遺伝子を一過性に導入し、さらに培養して得られる細胞を分注して凍結保存した神経再生細胞が最終製品SB623です。当社グループでは一人の健常者の骨髄液から患者数千人分の最終製品を製造可能な技術を確立しています。
SB623は慢性期脳梗塞等の脳神経疾患の場合には、定位脳手術と呼ばれる既に脳神経外科では広く普及した手技により、局所麻酔で安全に投与可能です。長期入院も不要で、臨床試験で被験者は一日入院し、投与翌日には退院しています。投与に当たっては免疫抑制剤も不要で、通常の医薬品と同様に、同一の製品を全ての患者を対象に使用することが可能です。
作用メカニズムについては、複合的な作用で神経機能の再生を促進しているものと考えられます。投与したSB623は、投与後約1~2カ月間の比較的早い時期に液性の神経栄養因子や不溶性の細胞外マトリクスを分泌することで、体の自然な再生プロセスを促進させていると考えられます。具体的には(A)神経保護(神経細胞をまもる)、(B)神経新生(神経細胞をつくる)、(C)血管新生(血管をつくる)、(D)抗炎症(炎症を抑える)、(E)バイオブリッジの形成(成人の脳の奥深いところに僅かに存在する神経細胞の元である神経幹細胞を誘引ないしは増幅する)等複合的に作用することを示唆するデータが確認されています。
特に、上記作用メカニズムのうち(E)については、通常、脳が損傷を受けた場合、損傷部位で新たに神経細胞がつくられることはありませんが、同じ条件下でSB623を損傷部周辺に移植すると、その作用により、脳の奥深くに僅かに存在していた神経幹細胞が誘引ないしは増幅され損傷部位まで到達できるようになります。この結果、損傷部位で新たな神経細胞がつくられることになります。こうした作用データが動物試験において確認されています。
② SB623 慢性期脳梗塞の開発状況
≪SB623 慢性期脳梗塞プログラムの概要≫
脳卒中は、脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたりして(脳出血)、その先の細胞に栄養が届かなくなり、細胞が死んでしまう疾患です。
脳梗塞は、発作後数時間までの急性期を過ぎるとリハビリ以外に対処方法が無く、さらに6カ月を過ぎ慢性期に入ると大半の場合、それ以上の改善を期待することはできないとされています。
SB623は、脳梗塞の発作後、慢性期に入り、他に有効な治療法の存在しない症状の改善を狙うアンメットメディカルニーズを満たす医薬品として期待されています。
≪臨床試験の状況≫
当社グループでは、2011年より、慢性期の脳梗塞患者に対して、SB623の安全性と有効性を評価するためのフェーズ1/2a臨床試験(フェーズ1とフェーズ2の一部を同時に行い、再生細胞薬の安全性と有効性を同時に確認したため、フェーズ1/2aとしています。)を実施し、2014年2月に投与後6カ月の効果測定が完了しました。この結果、SB623に起因する重篤な副作用は認められないこと(安全性)と、脳梗塞患者の運動機能が改善したこと(有効性)が確認されました。
下図は米国で慢性期脳梗塞を対象に行ったフェーズ1/2aの臨床試験の結果の一部を、リハビリなどで運動機能の効果を測定する際に使われる代表的な指標Fugl-Meyer Motor Scale(フューゲルマイヤー運動機能)を使ってまとめたものです。横軸はSB623投与後の経過月数、縦軸は運動機能の改善度合いです。縦軸に示された数値が高くなるほど、機能改善の度合いが大きいことを示しています。投与前と投与後の機能改善例として、車いすが必要な患者が歩けるようになった、動かなかった腕が上がるようになった、うまく話すことができなかった患者がスムーズに話すことができるようになった等の事例が確認されています。
本フェーズ1/2a臨床試験に続き、2015年12月には、北米でのライセンス先である大日本住友製薬株式会社との共同開発によるフェーズ2b臨床試験(二重盲検、被験者163名)を開始し、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。現在、この詳細結果は解析中であり、その結果等を踏まえ、今後の開発及び事業計画を組み立てていきます。
③ その他のパイプラインの開発状況
≪SB623 慢性期外傷性脳損傷プログラム≫
SB623は神経機能の再生を促すことから、慢性期脳梗塞以外にも、中枢神経系の多くの疾患への適応が見込まれています。とりわけ外傷性脳損傷については、受傷直後こそ症状は異なりますが、慢性期においては、脳梗塞とよく似た症状であるとともに、投与方法なども脳梗塞と同様の方法を採用できるといった点もあり、神経機能の再生を促すSB623の次の適応として可能性が高い疾患です。
外傷性脳損傷は、交通事故や転倒などで頭に強い衝撃が加わり、脳が傷つくことによって起こる疾患です。脳の損傷によって、半身の麻痺や感覚障害・記憶障害等の高次脳機能障害症状が起こります。外傷性脳損傷ではリハビリ等による改善を期待できる期間は脳梗塞に比べてやや長いものの、損傷後1年程度にとどまり、それを超えると有効な治療法が存在しないとされています。
当社グループでは、慢性期脳梗塞用途のフェーズ1/2aにおいてSB623の安全性が示唆されたことで、外傷性脳損傷を対象とした臨床試験については、フェーズ1をスキップしフェーズ2から開始しており、米国では2016年4月に最初の被験者の組み入れを実施し、その後、日本においても治験許可が下りたことから、日米グローバル試験(二重盲検、被験者61名)として進めています。そのような中で、本試験については、2018年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成。」という良好な結果を得ました。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指しています。
≪SB623 慢性期脳出血プログラム≫
上記の慢性期外傷性脳損傷プログラムの良好な結果を受けて、当期に新しいSB623のパイプラインとして外傷性脳損傷と類似性がある慢性期脳出血プログラムを追加しました。脳出血は、血管が詰まって引き起こされる脳梗塞に対して、血管が破れることで引き起こされる疾患であり、半身麻痺、感覚障害又は記憶障害等の症状が起こりますが、現状では根治治療は存在していないとされています。当社グループとしては、現在、本プログラムの臨床試験は、フェーズ2またはフェーズ3からの開始を見込んで準備を進めています。
≪SB623 網膜疾患プログラム≫
SB623は強い神経保護作用を持つことから、網膜疾患への適応も期待されます。
対象となる網膜疾患の主なものとしては、加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障などがあげられます。これらのうち、当社グループで最初に取り組んでいるのは加齢黄斑変性です。カメラでいえば光を感知するフィルムに相当する膜が網膜ですが、この中心部に黄斑とよばれる部分があり、ものを見るときに大切な働きをしています。加齢にともなって黄斑が異常をきたし、徐々に網膜の細胞が死滅していく結果、視力が低下していくのがドライ型加齢黄斑変性です。患者数が多い一方、有効な治療法が存在せず、新たな治療法の確立が期待されています。
2014年1月に、網膜疾患の動物試験の結果をもとに、米国食品医薬局とINDミーティングを実施しました。現在はドライ型加齢黄斑変性を対象疾患として、臨床試験の実施許諾に必要な非臨床試験を実施しています。
網膜疾患用途では初期臨床試験段階まで自社で開発を進めつつ製薬会社にライセンスアウトする方針であるため、現段階において、開発及び販売に係る権利は当社グループでのみ留保しています。
≪SB623 その他の疾患への展開≫
パーキンソン病、脊髄損傷では動物試験で良好な結果が得られており、今後は臨床試験の実施許諾に向けて必要な追加試験を実施します。アルツハイマー病等その他の疾患については動物試験において適応可能性について検討していきます。
その他の用途においても、初期臨床試験段階まで自社で開発を進めつつ製薬会社にライセンスアウトする方針であるため、現段階において、開発及び販売に係る権利は当社グループでのみ留保しています。
≪SB618≫
再生細胞薬SB618もSB623と同様、神経機能を再生する作用を持った治療薬ですが、SB618はSB623とは異なった特性を持っており、機能強化型の間葉系幹細胞です。
SB618は健常者の骨髄液を原料として独自の製法で大量培養し、分注して凍結保存することで最終製品となります。この点はSB623と同様ですが、途中の製法が異なります。骨髄液からMASC細胞を得るまでの、SB623と共有した上流の製造プロセスのあと、レチノイン酸や複数のサイトカインを添加しさらに培養します。このプロセスにより間葉系幹細胞の性質が変化し、SB618の独自性を生むものと考えられます。SB618は、これまでに、末梢神経障害、脊髄損傷について動物試験での効果が確認されており、末梢神経障害、脊髄損傷、多発性硬化症などを対象に開発を進めています。
≪SB308≫
再生細胞薬SB308は骨髄由来の筋肉幹細胞です。未だ研究段階ですが、将来的には筋ジストロフィーなどの疾患への応用を視野に開発を進めます。
筋ジストロフィーは、筋肉が壊死・変性し、次第に筋力低下が進行して行く病気です。その中でも最も多いデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、筋肉の細胞骨格をつくるジストロフィンが遺伝子異常により作られなくなってしまうことにより起こります。有効な治療法は存在せず、筋力低下による呼吸障害や、心臓の機能障害により若くして亡くなるケースが大半を占めます。SB308は、筋ジストロフィーの動物試験で、その応用可能性が示唆されています。
④ パートナー製薬会社との契約の締結状況
当社グループでは、SB623の脳梗塞用途の開発、製造並びに販売について、大日本住友製薬株式会社と米国及びカナダにおける共同開発契約及び販売権に係る契約を締結しており、製品販売前の臨床試験段階における当社グループの収入形態及び製品販売段階における販売権の取り決めがなされています。
日本においては、SB623の脳梗塞用途について2009年に帝人株式会社と開発権及び販売権に係る契約を締結しましたが、2018年2月14日をもって、本契約を解消することで合意しました。今後は、当社が日本における当該プログラムの開発を進めていく予定です。
≪大日本住友製薬株式会社との契約の概要≫
2014年9月に締結しました当社グループと大日本住友製薬株式会社との契約により、当社グループは米国及びカナダにおけるSB623脳梗塞用途の開発・販売権を大日本住友製薬株式会社にライセンス許諾しました。
当該契約に基づき、今後は、SB623脳梗塞用途の当該地域における開発費用は当社グループ、大日本住友製薬株式会社それぞれが一定割合を分担し、また販売に係る費用は大日本住友製薬株式会社が全額を負担することになります。また、契約締結時の契約一時金に加え、開発段階では、(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金の合計額が当社グループの収入となり、製品上市後は、売上に応じた(B)マイルストン収入のほか、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給収入の合計額が当社グループの収入となる見込みです。
今後は、SB623の慢性期脳梗塞用途のその他の地域の開発権及び販売権、並びに外傷性脳損傷等、その他用途の世界各地における開発権及び販売権について、パートナー製薬会社との提携のみならず、自社販売の可能性も含め検討していきます。
(4)事業の特徴
① 収益性の確保に向けた取り組み
(ⅰ)他家(たか)移植であること
一般に再生医療は、自家(じか)移植と他家(たか)移植に分けられます。
自家移植の再生医療は、患者の細胞や組織を処理して再度患者本人に戻す形態の治療法です。この場合、細胞調整に手間がかかる、個人間のばらつきが大きくなる、費用が高額化する等、実用化に当たっての課題が存在しています。一方、当社グループが手掛ける再生細胞薬は、他家移植であり、ドナー(細胞提供者)の細胞を処理し、均質の細胞を量産化した医薬品であり、同一の製品で多くの患者を治療できるモデルとなっています。
(ⅱ)量産化技術が確立されていること
ドナーの骨髄液を大量に培養して、均質な製品を製造し、これを凍結保存して輸送し、融解して投与できる技術が確立されており、製品販売後の量産化に対応できる段階に達しています。
なお、当社グループの再生細胞薬は、骨髄液由来の間葉系幹細胞を細胞源としているため、増殖性の高いES細胞やiPS細胞由来の細胞と比較してがん化のリスクが低く、安全性に優れていると認識しています。また、骨髄液は健常者から取得することが一般的となっていることもあり、大半が受精卵の破壊を伴うES細胞由来または中絶を伴う胎児由来の細胞を使用し倫理的な点が懸念されるのに対して、骨髄液由来のSB623はそうした問題もなく臨床現場で抵抗なく受け入れられるものと考えています。
(ⅲ)製品供給権が確保されていること
他社からライセンス導入して研究開発を行う創薬ベンチャー企業の場合、多くはパートナー製薬会社が製造を担い、自社で製品供給権を保有していないため、製品販売後は製品販売に伴うロイヤルティ収入のみとなります。
一方、当社グループの再生細胞薬は、他社からのライセンス導入品ではなく、基礎段階から自社で研究開発を行ってきた当社独自の製品となっています。
そのため、当社グループでは、パートナー製薬会社との関係において製品の製造を担うため、製品販売後は製品販売に伴う(D)ロイヤルティ収入に加え、製品供給の対価として支払われる収入を獲得することについて契約上の取り決めがなされています。
② 対象となる患者数の多さ
当社グループが手掛ける再生細胞薬は、世界的に旧来の医療では対応できなかった(アンメットメディカルニーズの高い)中枢神経系疾患を対象としているため、対象患者数が多いことが見込まれます。例えば、脳卒中(脳梗塞を含む)の患者数は、米国において約660万人(出典:Heart Disease and Stroke Statistics - 2016 Update)、日本において約117万人(出典:2014年(2014)患者調査)と推計され、このうち一定割合が慢性期脳梗塞の患者と見込まれます。
脳梗塞のほか、外傷性脳損傷、脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病及びアルツハイマー病等、既存の医療・医薬品では対処できない多くの中枢神経系疾患に対して、再生細胞薬は機能の再生を促す新しい治療薬として期待され、製品開発に成功すれば新たな医薬品分野を切り拓くことに貢献できるものと考えています。
③ 開発に必要な知的財産を自己保有
当社グループでは、開発及び製品販売に伴う、収入の極大化を目指すため、再生細胞薬の開発に必要な知的財産を全て自社で取得することを基本方針としており、開発を進めている再生細胞薬(SB623、SB618、SB308)の基本特許は全て取得済みです。
2015年3月3日に当社グループの再生細胞薬SB623に関する物質特許(注)が米国において承認されました。当社は、独自の細胞薬「SB623」及びその後続開発品について、物質特許のみならず、製造・用途に係る特許、及び周辺特許も取得しており、今後も引き続き競争力の源泉となる知的財産権確保に努めています。
特許取得地域については、開発を進捗させている米国に加え、今後、開発を進める予定の日本、欧州、中国、カナダ、オーストラリア、香港、イスラエル、シンガポール等にて権利を取得済みであり、世界各地における臨床試験、製造開発、製品販売に向けた基盤の整備を進めています。
≪基本特許取得地域≫
米国、日本、イギリス、ドイツ、デンマーク、アイルランド、スペイン、スイス、ギリシャ、スウェーデン、フランス、ベルギー、オランダ、イタリア、オーストリア、フィンランド、ポルトガル、ポーランド、カナダ、韓国、香港、オーストラリア、中国、シンガポール、イスラエル
④ 今後の展開
当社グループ単独で進めている日米の慢性期外傷性脳損傷プログラムのフェーズ2臨床試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月には「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成。」という良好な結果を得ました。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指します。そのため、当期はこの承認後のSB623の国内普及に向けた製造・物流・販売体制の構築に着手しており、製造体制構築準備の一環として、日立化成株式会社と製造委託業務を提携し、流通・販売体制構築準備の一環として、株式会社ケアネット等4社と共同研究を開始しました。これらの構築準備により、グローバルな対応が可能な製造体制及び品質管理体制の構築(特に日本での市販が可能になった際に、相当量の細胞薬を安定して医療機関に供給する製造体制及び製造能力の構築及び医療機関にスムーズに製品を供給するための物流・販売体制の構築)を図っていきます。
一方、米国で大日本住友製薬株式会社と共同で進めている被験者163名を対象としたSB623慢性期脳梗塞プログラムのフェーズ2b臨床試験は、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。現在、この詳細結果は解析中であり、その結果等を踏まえ、今後の開発及び事業計画を組み立てていきます。
このほか、SB623の適応疾患拡大として、上述の通り良好な結果を得た慢性期外傷性脳損傷と類似性がある慢性期脳出血についてはフェーズ2またはフェーズ3からの開始を見込んでいますし、すでに動物試験で良好な結果が得られている、網膜変性疾患(加齢黄斑変性、網膜色素変性等)、脊髄損傷、パーキンソン病といった疾患領域に関しては、臨床試験の実施許諾に向けて必要な追加試験を実施していきます。また、将来的には、アルツハイマー病やその他の疾患について、動物試験で適応可能性について検討していきます。
当社グループ(以下、当社及び連結子会社SanBio, Inc.(米国カリフォルニア州マウンテンビュー市)の2社を指します。)は「再生医療の開発を通じて、患者様をはじめとしたステークホルダーの皆さまへ価値を提供する」ことをコーポレート・ミッションに掲げ、東京を本社とし、SanBio, Inc.のある米国に研究開発の主たる拠点を構え、日米において再生細胞医薬品の研究、開発、製造及び販売を手掛ける再生細胞事業を展開しています。
≪再生細胞薬とは≫
当社グループが手掛ける再生細胞薬は、病気・事故等で失われた身体機能の自然な再生プロセスを誘引ないし促進させ、運動機能、感覚機能、認知機能を再生させる効能が期待される医薬品です。
当社グループでは、主に中枢神経係の疾患(眼科を含む)における、慢性期脳梗塞(発症後6カ月が経過した脳梗塞)、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病等のアンメットメディカルニーズの高い疾患を対象とした治療薬の販売を目指しています。
例えば、当社グループが治療薬の開発を進めている慢性期脳梗塞は、これまでリハビリやリハビリ補助機器等による理学療法による対処が主流とされてきた疾患であり、麻痺、半身不随等が残った場合の有効な治療薬は存在していませんでした。
このような領域において再生細胞薬による治療法を確立することで、世界中の上記の疾患を抱えた患者の身体機能の改善に寄与することが当社グループのミッションです。
(2)事業の内容
当社グループは、当社と連結子会社SanBio, Inc.(米国カリフォルニア州マウンテンビュー市)の2社により構成されています。当社設立は2013年2月ですが、SanBio, Inc.は2001年2月の設立以降、一貫して再生細胞薬の研究開発を進めています。現在は同社を研究開発の主たる拠点としながら、日米両国において研究開発のための提携研究機関、大学病院、研究/製造受託機関、アドバイザー等とのネットワークを構築しています。
主な提携研究機関:スタンフォード大学、ピッツバーグ大学、ノースウェスタン大学、東京大学、北海道大学
主なアドバイザー:米国食品医薬局(元)長官、スタンフォード大学(元)学長、米国国立衛生研究所(NIH)老化研究所(元)所長、間葉系幹細胞発見者
当社グループは、大学等の研究機関から導入した技術を当社グループにおいて製造開発、非臨床試験、臨床試験等を実施し、医薬品の販売網を有するパートナー製薬会社に開発権及び販売権をライセンス許諾することで(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給に係る収入を得るビジネスモデルとなっています。収入形態の内容は以下の通りです。
なお、上記のライセンス許諾のタイミングは、ヒトでの安全性と有効性を確認する(Proof of concept)段階まで開発を進めた時点を想定しています。
≪当社グループの収入形態≫
収入形態 | 内容 | |
A | 契約一時金 | ライセンス許諾の契約時の一時金として得られる収入。 |
B | マイルストン収入 | 開発進捗に応じて設定したいくつかのマイルストンを達成するごとに一時金として得られる収入。上市後は予め設定した売上マイルストンの達成ごとに一時金として得られる収入。 |
C | 開発協力金 | 開発費用のうち、ライセンスアウト先負担分として得られる収入。 |
D | ロイヤルティ収入 | 製品売上のうち、ロイヤルティとして一定割合を得られる収入。 |
E | 製品供給収入 | 製品供給の対価として得られる収入。 |
当社グループの収入は、開発段階においては、(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金のいずれか、又はすべてで構成されます。製品上市後は、売上マイルストンに関する(B)マイルストン収入のほか、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給収入が当社グループの主な収入形態となります。(D)及び(E)は製品売上の一定割合として支払われるため、製品売上に比例的に伸長することになります。
(3)開発の状況
① 当社グループが手掛ける再生細胞薬
当社グループが開発を進める再生細胞薬はSB623(神経再生細胞、適応疾患は慢性期脳梗塞、慢性期外傷性脳損傷、慢性期脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病等)、SB618(機能強化型・間葉系幹細胞、適応疾患は末梢神経障害等)、SB308(筋肉幹細胞、適応疾患は筋ジストロフィー等)の3種類です。
現在、SB623については、日米を中心に慢性期外傷性脳損傷プログラムと慢性期脳梗塞プログラムの開発を進めています。当社グループ単独で進めている日米の慢性期外傷性脳損傷プログラムのフェーズ2臨床試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成。」という良好な結果を得ました。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指します。そのため、当期はこの承認後のSB623の国内普及に向けた製造・物流・販売体制の構築に着手しています。
一方、米国で大日本住友製薬株式会社と共同で進めている被験者163名を対象としたSB623慢性期脳梗塞プログラムのフェーズ2b臨床試験は、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。現在、この詳細結果は解析中であり、その結果等を踏まえ、今後の開発及び事業計画を組み立てていきます。
当社グループでは、バックアップとなりうる製品を用意しつつも、主たる製品候補である再生細胞薬SB623(神経再生細胞)の適応拡大を図ることを最優先に開発を進める方針です。
≪SB623の概要≫
SB623は神経機能を再生する作用を持つ治療薬です。体の自然な再生プロセスを促進させ、失われた運動機能、感覚機能及び認知機能の再生をターゲットとしています。
当社グループの再生細胞薬は、患者本人の細胞を処理して再度患者に戻す形態の医療サービス(自家移植の再生医療)ではなく、健康なドナーから採取した細胞を加工・培養して均質な細胞を大量製造して製品化した他家由来の医薬品です。同一の製品で多くの患者を同様に治療できるため、製品認可取得後には迅速な普及が見込まれます。健常者の骨髄液から得られるMarrow Adherent Stem Cells(MASC細胞)に、Notch-1遺伝子を一過性に導入し、さらに培養して得られる細胞を分注して凍結保存した神経再生細胞が最終製品SB623です。当社グループでは一人の健常者の骨髄液から患者数千人分の最終製品を製造可能な技術を確立しています。
SB623は慢性期脳梗塞等の脳神経疾患の場合には、定位脳手術と呼ばれる既に脳神経外科では広く普及した手技により、局所麻酔で安全に投与可能です。長期入院も不要で、臨床試験で被験者は一日入院し、投与翌日には退院しています。投与に当たっては免疫抑制剤も不要で、通常の医薬品と同様に、同一の製品を全ての患者を対象に使用することが可能です。
作用メカニズムについては、複合的な作用で神経機能の再生を促進しているものと考えられます。投与したSB623は、投与後約1~2カ月間の比較的早い時期に液性の神経栄養因子や不溶性の細胞外マトリクスを分泌することで、体の自然な再生プロセスを促進させていると考えられます。具体的には(A)神経保護(神経細胞をまもる)、(B)神経新生(神経細胞をつくる)、(C)血管新生(血管をつくる)、(D)抗炎症(炎症を抑える)、(E)バイオブリッジの形成(成人の脳の奥深いところに僅かに存在する神経細胞の元である神経幹細胞を誘引ないしは増幅する)等複合的に作用することを示唆するデータが確認されています。
特に、上記作用メカニズムのうち(E)については、通常、脳が損傷を受けた場合、損傷部位で新たに神経細胞がつくられることはありませんが、同じ条件下でSB623を損傷部周辺に移植すると、その作用により、脳の奥深くに僅かに存在していた神経幹細胞が誘引ないしは増幅され損傷部位まで到達できるようになります。この結果、損傷部位で新たな神経細胞がつくられることになります。こうした作用データが動物試験において確認されています。
② SB623 慢性期脳梗塞の開発状況
≪SB623 慢性期脳梗塞プログラムの概要≫
脳卒中は、脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたりして(脳出血)、その先の細胞に栄養が届かなくなり、細胞が死んでしまう疾患です。
脳梗塞は、発作後数時間までの急性期を過ぎるとリハビリ以外に対処方法が無く、さらに6カ月を過ぎ慢性期に入ると大半の場合、それ以上の改善を期待することはできないとされています。
SB623は、脳梗塞の発作後、慢性期に入り、他に有効な治療法の存在しない症状の改善を狙うアンメットメディカルニーズを満たす医薬品として期待されています。
≪臨床試験の状況≫
当社グループでは、2011年より、慢性期の脳梗塞患者に対して、SB623の安全性と有効性を評価するためのフェーズ1/2a臨床試験(フェーズ1とフェーズ2の一部を同時に行い、再生細胞薬の安全性と有効性を同時に確認したため、フェーズ1/2aとしています。)を実施し、2014年2月に投与後6カ月の効果測定が完了しました。この結果、SB623に起因する重篤な副作用は認められないこと(安全性)と、脳梗塞患者の運動機能が改善したこと(有効性)が確認されました。
下図は米国で慢性期脳梗塞を対象に行ったフェーズ1/2aの臨床試験の結果の一部を、リハビリなどで運動機能の効果を測定する際に使われる代表的な指標Fugl-Meyer Motor Scale(フューゲルマイヤー運動機能)を使ってまとめたものです。横軸はSB623投与後の経過月数、縦軸は運動機能の改善度合いです。縦軸に示された数値が高くなるほど、機能改善の度合いが大きいことを示しています。投与前と投与後の機能改善例として、車いすが必要な患者が歩けるようになった、動かなかった腕が上がるようになった、うまく話すことができなかった患者がスムーズに話すことができるようになった等の事例が確認されています。
本フェーズ1/2a臨床試験に続き、2015年12月には、北米でのライセンス先である大日本住友製薬株式会社との共同開発によるフェーズ2b臨床試験(二重盲検、被験者163名)を開始し、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。現在、この詳細結果は解析中であり、その結果等を踏まえ、今後の開発及び事業計画を組み立てていきます。
③ その他のパイプラインの開発状況
≪SB623 慢性期外傷性脳損傷プログラム≫
SB623は神経機能の再生を促すことから、慢性期脳梗塞以外にも、中枢神経系の多くの疾患への適応が見込まれています。とりわけ外傷性脳損傷については、受傷直後こそ症状は異なりますが、慢性期においては、脳梗塞とよく似た症状であるとともに、投与方法なども脳梗塞と同様の方法を採用できるといった点もあり、神経機能の再生を促すSB623の次の適応として可能性が高い疾患です。
外傷性脳損傷は、交通事故や転倒などで頭に強い衝撃が加わり、脳が傷つくことによって起こる疾患です。脳の損傷によって、半身の麻痺や感覚障害・記憶障害等の高次脳機能障害症状が起こります。外傷性脳損傷ではリハビリ等による改善を期待できる期間は脳梗塞に比べてやや長いものの、損傷後1年程度にとどまり、それを超えると有効な治療法が存在しないとされています。
当社グループでは、慢性期脳梗塞用途のフェーズ1/2aにおいてSB623の安全性が示唆されたことで、外傷性脳損傷を対象とした臨床試験については、フェーズ1をスキップしフェーズ2から開始しており、米国では2016年4月に最初の被験者の組み入れを実施し、その後、日本においても治験許可が下りたことから、日米グローバル試験(二重盲検、被験者61名)として進めています。そのような中で、本試験については、2018年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成。」という良好な結果を得ました。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指しています。
≪SB623 慢性期脳出血プログラム≫
上記の慢性期外傷性脳損傷プログラムの良好な結果を受けて、当期に新しいSB623のパイプラインとして外傷性脳損傷と類似性がある慢性期脳出血プログラムを追加しました。脳出血は、血管が詰まって引き起こされる脳梗塞に対して、血管が破れることで引き起こされる疾患であり、半身麻痺、感覚障害又は記憶障害等の症状が起こりますが、現状では根治治療は存在していないとされています。当社グループとしては、現在、本プログラムの臨床試験は、フェーズ2またはフェーズ3からの開始を見込んで準備を進めています。
≪SB623 網膜疾患プログラム≫
SB623は強い神経保護作用を持つことから、網膜疾患への適応も期待されます。
対象となる網膜疾患の主なものとしては、加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障などがあげられます。これらのうち、当社グループで最初に取り組んでいるのは加齢黄斑変性です。カメラでいえば光を感知するフィルムに相当する膜が網膜ですが、この中心部に黄斑とよばれる部分があり、ものを見るときに大切な働きをしています。加齢にともなって黄斑が異常をきたし、徐々に網膜の細胞が死滅していく結果、視力が低下していくのがドライ型加齢黄斑変性です。患者数が多い一方、有効な治療法が存在せず、新たな治療法の確立が期待されています。
2014年1月に、網膜疾患の動物試験の結果をもとに、米国食品医薬局とINDミーティングを実施しました。現在はドライ型加齢黄斑変性を対象疾患として、臨床試験の実施許諾に必要な非臨床試験を実施しています。
網膜疾患用途では初期臨床試験段階まで自社で開発を進めつつ製薬会社にライセンスアウトする方針であるため、現段階において、開発及び販売に係る権利は当社グループでのみ留保しています。
≪SB623 その他の疾患への展開≫
パーキンソン病、脊髄損傷では動物試験で良好な結果が得られており、今後は臨床試験の実施許諾に向けて必要な追加試験を実施します。アルツハイマー病等その他の疾患については動物試験において適応可能性について検討していきます。
その他の用途においても、初期臨床試験段階まで自社で開発を進めつつ製薬会社にライセンスアウトする方針であるため、現段階において、開発及び販売に係る権利は当社グループでのみ留保しています。
≪SB618≫
再生細胞薬SB618もSB623と同様、神経機能を再生する作用を持った治療薬ですが、SB618はSB623とは異なった特性を持っており、機能強化型の間葉系幹細胞です。
SB618は健常者の骨髄液を原料として独自の製法で大量培養し、分注して凍結保存することで最終製品となります。この点はSB623と同様ですが、途中の製法が異なります。骨髄液からMASC細胞を得るまでの、SB623と共有した上流の製造プロセスのあと、レチノイン酸や複数のサイトカインを添加しさらに培養します。このプロセスにより間葉系幹細胞の性質が変化し、SB618の独自性を生むものと考えられます。SB618は、これまでに、末梢神経障害、脊髄損傷について動物試験での効果が確認されており、末梢神経障害、脊髄損傷、多発性硬化症などを対象に開発を進めています。
≪SB308≫
再生細胞薬SB308は骨髄由来の筋肉幹細胞です。未だ研究段階ですが、将来的には筋ジストロフィーなどの疾患への応用を視野に開発を進めます。
筋ジストロフィーは、筋肉が壊死・変性し、次第に筋力低下が進行して行く病気です。その中でも最も多いデュシェンヌ型筋ジストロフィーは、筋肉の細胞骨格をつくるジストロフィンが遺伝子異常により作られなくなってしまうことにより起こります。有効な治療法は存在せず、筋力低下による呼吸障害や、心臓の機能障害により若くして亡くなるケースが大半を占めます。SB308は、筋ジストロフィーの動物試験で、その応用可能性が示唆されています。
④ パートナー製薬会社との契約の締結状況
当社グループでは、SB623の脳梗塞用途の開発、製造並びに販売について、大日本住友製薬株式会社と米国及びカナダにおける共同開発契約及び販売権に係る契約を締結しており、製品販売前の臨床試験段階における当社グループの収入形態及び製品販売段階における販売権の取り決めがなされています。
日本においては、SB623の脳梗塞用途について2009年に帝人株式会社と開発権及び販売権に係る契約を締結しましたが、2018年2月14日をもって、本契約を解消することで合意しました。今後は、当社が日本における当該プログラムの開発を進めていく予定です。
≪大日本住友製薬株式会社との契約の概要≫
2014年9月に締結しました当社グループと大日本住友製薬株式会社との契約により、当社グループは米国及びカナダにおけるSB623脳梗塞用途の開発・販売権を大日本住友製薬株式会社にライセンス許諾しました。
当該契約に基づき、今後は、SB623脳梗塞用途の当該地域における開発費用は当社グループ、大日本住友製薬株式会社それぞれが一定割合を分担し、また販売に係る費用は大日本住友製薬株式会社が全額を負担することになります。また、契約締結時の契約一時金に加え、開発段階では、(A)契約一時金、(B)マイルストン収入、(C)開発協力金の合計額が当社グループの収入となり、製品上市後は、売上に応じた(B)マイルストン収入のほか、(D)ロイヤルティ収入及び(E)製品供給収入の合計額が当社グループの収入となる見込みです。
今後は、SB623の慢性期脳梗塞用途のその他の地域の開発権及び販売権、並びに外傷性脳損傷等、その他用途の世界各地における開発権及び販売権について、パートナー製薬会社との提携のみならず、自社販売の可能性も含め検討していきます。
(4)事業の特徴
① 収益性の確保に向けた取り組み
(ⅰ)他家(たか)移植であること
一般に再生医療は、自家(じか)移植と他家(たか)移植に分けられます。
自家移植の再生医療は、患者の細胞や組織を処理して再度患者本人に戻す形態の治療法です。この場合、細胞調整に手間がかかる、個人間のばらつきが大きくなる、費用が高額化する等、実用化に当たっての課題が存在しています。一方、当社グループが手掛ける再生細胞薬は、他家移植であり、ドナー(細胞提供者)の細胞を処理し、均質の細胞を量産化した医薬品であり、同一の製品で多くの患者を治療できるモデルとなっています。
(ⅱ)量産化技術が確立されていること
ドナーの骨髄液を大量に培養して、均質な製品を製造し、これを凍結保存して輸送し、融解して投与できる技術が確立されており、製品販売後の量産化に対応できる段階に達しています。
なお、当社グループの再生細胞薬は、骨髄液由来の間葉系幹細胞を細胞源としているため、増殖性の高いES細胞やiPS細胞由来の細胞と比較してがん化のリスクが低く、安全性に優れていると認識しています。また、骨髄液は健常者から取得することが一般的となっていることもあり、大半が受精卵の破壊を伴うES細胞由来または中絶を伴う胎児由来の細胞を使用し倫理的な点が懸念されるのに対して、骨髄液由来のSB623はそうした問題もなく臨床現場で抵抗なく受け入れられるものと考えています。
(ⅲ)製品供給権が確保されていること
他社からライセンス導入して研究開発を行う創薬ベンチャー企業の場合、多くはパートナー製薬会社が製造を担い、自社で製品供給権を保有していないため、製品販売後は製品販売に伴うロイヤルティ収入のみとなります。
一方、当社グループの再生細胞薬は、他社からのライセンス導入品ではなく、基礎段階から自社で研究開発を行ってきた当社独自の製品となっています。
そのため、当社グループでは、パートナー製薬会社との関係において製品の製造を担うため、製品販売後は製品販売に伴う(D)ロイヤルティ収入に加え、製品供給の対価として支払われる収入を獲得することについて契約上の取り決めがなされています。
② 対象となる患者数の多さ
当社グループが手掛ける再生細胞薬は、世界的に旧来の医療では対応できなかった(アンメットメディカルニーズの高い)中枢神経系疾患を対象としているため、対象患者数が多いことが見込まれます。例えば、脳卒中(脳梗塞を含む)の患者数は、米国において約660万人(出典:Heart Disease and Stroke Statistics - 2016 Update)、日本において約117万人(出典:2014年(2014)患者調査)と推計され、このうち一定割合が慢性期脳梗塞の患者と見込まれます。
脳梗塞のほか、外傷性脳損傷、脳出血、加齢黄斑変性、網膜色素変性、脊髄損傷、パーキンソン病及びアルツハイマー病等、既存の医療・医薬品では対処できない多くの中枢神経系疾患に対して、再生細胞薬は機能の再生を促す新しい治療薬として期待され、製品開発に成功すれば新たな医薬品分野を切り拓くことに貢献できるものと考えています。
③ 開発に必要な知的財産を自己保有
当社グループでは、開発及び製品販売に伴う、収入の極大化を目指すため、再生細胞薬の開発に必要な知的財産を全て自社で取得することを基本方針としており、開発を進めている再生細胞薬(SB623、SB618、SB308)の基本特許は全て取得済みです。
2015年3月3日に当社グループの再生細胞薬SB623に関する物質特許(注)が米国において承認されました。当社は、独自の細胞薬「SB623」及びその後続開発品について、物質特許のみならず、製造・用途に係る特許、及び周辺特許も取得しており、今後も引き続き競争力の源泉となる知的財産権確保に努めています。
特許取得地域については、開発を進捗させている米国に加え、今後、開発を進める予定の日本、欧州、中国、カナダ、オーストラリア、香港、イスラエル、シンガポール等にて権利を取得済みであり、世界各地における臨床試験、製造開発、製品販売に向けた基盤の整備を進めています。
≪基本特許取得地域≫
米国、日本、イギリス、ドイツ、デンマーク、アイルランド、スペイン、スイス、ギリシャ、スウェーデン、フランス、ベルギー、オランダ、イタリア、オーストリア、フィンランド、ポルトガル、ポーランド、カナダ、韓国、香港、オーストラリア、中国、シンガポール、イスラエル
④ 今後の展開
当社グループ単独で進めている日米の慢性期外傷性脳損傷プログラムのフェーズ2臨床試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月には「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成。」という良好な結果を得ました。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件及び期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指します。そのため、当期はこの承認後のSB623の国内普及に向けた製造・物流・販売体制の構築に着手しており、製造体制構築準備の一環として、日立化成株式会社と製造委託業務を提携し、流通・販売体制構築準備の一環として、株式会社ケアネット等4社と共同研究を開始しました。これらの構築準備により、グローバルな対応が可能な製造体制及び品質管理体制の構築(特に日本での市販が可能になった際に、相当量の細胞薬を安定して医療機関に供給する製造体制及び製造能力の構築及び医療機関にスムーズに製品を供給するための物流・販売体制の構築)を図っていきます。
一方、米国で大日本住友製薬株式会社と共同で進めている被験者163名を対象としたSB623慢性期脳梗塞プログラムのフェーズ2b臨床試験は、2019年1月に主要評価項目未達という解析結果を得ました。現在、この詳細結果は解析中であり、その結果等を踏まえ、今後の開発及び事業計画を組み立てていきます。
このほか、SB623の適応疾患拡大として、上述の通り良好な結果を得た慢性期外傷性脳損傷と類似性がある慢性期脳出血についてはフェーズ2またはフェーズ3からの開始を見込んでいますし、すでに動物試験で良好な結果が得られている、網膜変性疾患(加齢黄斑変性、網膜色素変性等)、脊髄損傷、パーキンソン病といった疾患領域に関しては、臨床試験の実施許諾に向けて必要な追加試験を実施していきます。また、将来的には、アルツハイマー病やその他の疾患について、動物試験で適応可能性について検討していきます。
番号 | 用語 | 意味・内容 |
1 | マイルストン | 医薬品を開発する際に段階的に設定される、開発状況の進捗の節目のこと。 |
2 | ライセンスアウト | 自社の開発権、販売権などの権利を他社に使用許諾すること。 |
3 | ロイヤルティ | 医薬品販売後に、医薬品の売上高に応じて権利の保有者に支払われる使用料のこと。 |
4 | 上市 | 研究開発を経て承認された新薬を、製品として市場に出すこと。 |
5 | 再生細胞薬 | 病気・事故等で失われた機能を再生する効能を持った細胞医薬品のこと。患者様本人の細胞をプロセスする自家移植と異なり、健常者から提供された細胞を原料に製造される医薬品であり(同種移植)、安価に大量製造できるため、迅速な普及が見込まれるとともに、高収益な事業が実現できるところに特徴がある。 |
6 | 細胞調整 | ヒト幹細胞等に対して、その細胞の本来の性質を改変しない操作や加工(人為的な増殖、細胞の活性化を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変操作など)を施す行為をいう。 |
7 | フェーズ | 有効性と安全性を調べるための臨床試験(治験)における段階のこと。フェーズ1からフェーズ3の3段階がある。 |
8 | 米国食品医薬局 | 食品や医薬品等の許可や取締り等の行政を行う、アメリカ合衆国の政府機関のこと。 |
9 | 分注 | 一定量で少量ずつに分けること。 |
10 | 免疫抑制剤 | 免疫系の活動を抑制するための薬剤。主に拒絶反応の抑制に用いられる。 |
11 | 神経栄養因子 | 神経細胞へ栄養を送り届け、神経の機能の維持や成長などの要因となっているもの。 |
12 | 細胞外マトリクス | 生体組織のうち細胞以外の部分。単なる構造体でなく、細胞の挙動に多大な影響を与える生物学的機能も有しているもの。 |
13 | パイプライン | 新薬誕生に結びつく開発中の医療用医薬品候補化合物(新薬候補)。 |
14 | INDミーティング | Investigational New Drug Exemptiom。前臨床試験から臨床試験に移行しようとしている新医薬品候補品目について、前臨床試験結果等の情報をまとめた資料、すなわち、臨床試験実施のための申請資料を提出することを指す。臨床試験の開始に際して、INDを提出し、米国食品医薬局より試験実施の承諾を得ることが義務付けられている。 |
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