有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100FFZG
株式会社資生堂 研究開発活動 (2018年12月期)
当社グループは、強みである皮膚科学技術や処方開発技術、人間科学、情報科学に加えて、デジタル技術や機器開発技術などの新しい科学技術を融合することで生まれる革新的な商品・サービスを通じて、世界中のお客さまの「美と健康」の実現を目指しています。
当連結会計年度は、横浜・みなとみらい21地区に新研究所「資生堂グローバルイノベーションセンター」を竣工し、研究開発活動を開始しました。「都市型オープンラボ」として国内外の最先端研究機関や異業種などから集約した多様な知見や技術を融合させた最適な価値をつくることにより、国や業界を超えたイノベーションが可能になります。また、米国、フランス、中国、シンガポールの各海外拠点においては、現地のマーケティング部門と連携しながら、各地域のお客さまの肌や化粧習慣の研究、その特性にあった製品開発に取り組んでいます。
当社グループのイノベーションへの取り組みは外部から高い評価を受けています。2018年も化粧品科学領域で最も権威のある「IFSCC(国際化粧品技術者会連盟)Congress」において最優秀賞を受賞しました。これは世界最多受賞数の更新に加え、世界初の同一発表者による3大会連続受賞の達成となります。また、化粧品に関する研究発表と学術討論の一大発表会である中国化粧品学術研討会においても一等賞1件、二等賞2件のトリプル受賞を達成しました。
当社グループは、世界中のお客さまに対して安全・安心、高品質な商品・サービスの創出に向け、革新的な技術の積み重ねにより、世界の化粧品業界をリードしていきます。
当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は291億円(売上高比2.7%)であり、商品カテゴリー別の研究成果は、以下のとおりです。なお、研究開発活動については、特定のセグメントに関連付けられないため、セグメント別の記載は行っていません。
(1) スキンケア
当社グループは2017年に日本で初めてレチノールによる「しわを改善する」効能効果の承認を厚生労働省から受けた後も、引き続きレチノールの有効性を追究した結果、目尻に加えて、首のしわを改善する作用があることを実証しました。50代から60代女性の7割近くが「首のしわは他の人から見て老けて見える」と回答し、首もとは年齢が現れる部位として認識されています。また、レチノールはコラーゲンやヒアルロン酸などを含む真皮マトリックス成分を増加させる作用があることが分かりました。これらの得られた技術を「SHISEIDO」、「エリクシール」、「ベネフィーク」へ採用しました。
これまで加齢により、免疫に関係する皮膚のランゲルハンス細胞の機能が低下することを明らかにしていましたが、さらに研究を進め、皮膚のランゲルハンス細胞は心的ストレスにより減少することを見出し、補給経路を確保することでその減少を防ぐ効果がある成分を発見しました。この得られた技術を「SHISEIDO」へ採用しました。
人工的に肌へ熱傷を作ることで肌悩みを治療するレーザー治療の「治癒メカニズム」に着目して研究を進めた結果、創傷を負わせることなく肌の真皮幹細胞内の治癒系遺伝子の発現を高める成分ヒドリキシプロリンを見出しました。得られた技術を「クレ・ド・ポーボーテ」へ採用しました。
肌内部のハリ強度(弾性率)を可視化する技術を開発し、真皮最上部層において、30 代で肌内部のハリ強度の低下が始まり、均一さが失われることを明らかにしました。さらに、肌内部のハリ強度の不均一さは肌表面の小さな凹凸と相関しており、肌の見た目にも影響する可能性を見出しました。そして、ハリ強度が低下する部位はコラーゲンの一種であるⅢ型コラーゲンが減少する部位と一致し、その関与が示唆されたことから、Ⅲ型コラーゲンの産生を促進する効果があるクレソンエキスを開発しました。得られた技術を「エリクシール」へ採用しました。
(2) メイクアップ
特に30代女性はファンデーションの自然な仕上がりを最も重視する一方で、カバー力も重視しています。自然な仕上がりである一方でカバー力も高い、という相反のニーズに応えるべく、研究を進めました。赤の光は肌の内部で広く拡散することから凹凸が目立たず明るく見える特性を利用するため、選択的に赤い色の光が透過して肌に届くパウダーを開発しました。このパウダーにより肌の透明感が高まり、まるで素肌のような「自然な仕上がり」はもちろんのこと、毛穴・凹凸、シミ・色ムラをしっかりカバーすることが可能となりました。得られた技術を「マキアージュ」へ採用しました。
20代女性がファンデーションで最も重視している機能は「化粧もちのよさ」、すなわち「化粧崩れのしにくさ」であることが分かりました。このニーズに応えるべく研究を進め、メッシュを通してパフで崩しながら使用する水ジェリーベースの新感触基剤の開発に成功しました。皮脂と混ざらず肌へぴたっと密着することで表情の動きによるヨレ・薄れに強い、化粧もち機能を実現しました。得られた技術を「インテグレート」へ採用しました。
口紅においては、3種のジェルをブレンドしたトリプルジェルテクノロジーの開発により、かつてないほどの水分を配合することで弾けるような軽い感触でするっとのびるなめらかさ及びひと塗りでほんのりつやのあるクリアな発色を実現しました。この技術を「SHISEIDO」へ採用しました。
(3) ヘアケア
20代から40代の日本人有職女性の60%以上が「お風呂・洗髪が面倒」と感じ、75%が「お風呂やシャワーの時間以外で“髪を洗いたい、スッキリさせたい”と思うことがある」と回答しています。そこで、水要らず、乾かし要らずの新発想のシャンプーを実現するスピードドライジェル技術を開発し、「TSUBAKI」へ採用しました。塗布時にジェル構造が崩れ、パシャっと液状に変化してみずみずしく地肌へ広がり、しかも余分な水分がすぐに揮発するドライヤー要らずの感触となります。また、ジェルに含まれる皮脂吸着パウダーは頭皮や毛穴に留まっている皮脂を吸収し、地肌や毛髪に直接皮脂が触れることを防ぎます。お風呂でシャンプーという概念を打ち壊し、必要なときに必要な場所で「即効キレイな私になる」という新たなヘアケア習慣とアイテムを提案しました。
(4) ヘルスケア
ヘルスケア領域では、美と健康をつなぐ食品や一般用医薬品の研究開発を進めています。食品では、ヘルシーライフを楽しむアクティブな40代以降の女性を対象として、脳と腸は密接に影響を及ぼし身体の健康に重要な役割を担っていることに着目した、ヘルシーライフをサポートするサプリメントブランド「N.O.U」を開発しました。
(5) プロフェッショナル
パーマなどのケミカル処理による毛髪の断面形状に認められる歪みや扁平化が、日常の洗髪でより深刻化することを発見し、その対応成分として、毛髪を内部から膨ませて補正する効果成分ラウリルトリメチルアンモニウムクロリドを見出しました。その対応技術を「サブリミック」へ採用しました。
その他の活動としては、シワやたるみを瞬時に隠す人工皮膚形成技術である「Second Skin」事業を米国ベンチャー企業Olivo Laboratories, LLCから取得しました。化粧品ビジネスの新領域を開拓し、世界中のお客さまに多くのベネフィットを提供することを目指します。また、最先端の皮膚科学研究や美容技術の知見にデジタルテクノロジーを掛け合わせることで、スキンケアのパーソナライゼーションを実現する新しいIoT(Internet of Things)システム「Optune」β版のテスト販売を開始しました。改良・開発を進めたうえで早期の本格導入を目指します。
毛髪再生医療の事業化に向け研究を進めています。当社が細胞培養加工を担当する臨床研究は、共同研究先の医療機関において順調に進行し、安全性、有効性の解析が進められています。
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