有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100HU8T (EDINETへの外部リンク)
ベルグアース株式会社 事業の内容 (2019年10月期)
当社グループ(当社及び当社の関係会社)は、当社、連結子会社(ベルグ福島株式会社、青島芽福陽園芸有限公司)、非連結子会社(農業会社法人株式会社BJアグロ)、関連会社(ファンガーデン株式会社、株式会社むさしのタネ、株式会社九重おひさまファーム、四万十あおぞらファーム株式会社、北京欣璟農業科技有限公司)の9社で構成されており、野菜苗生産販売事業、農業・園芸用タネ資材販売事業、海外事業を主な事業として取り組んでおります。
当社及び当社の関係会社の事業における当社及び関係会社の位置付け及びセグメントとの関連は、次のとおりであります。なお、以下に示す区分は、セグメントと同一の区分であります。
(1)野菜苗生産販売事業
野菜苗生産販売事業は、当社グループの主力事業として、野菜の中でも主に果菜類(※2)の接ぎ木苗の生産・販売を行っております。野菜苗の中でも、接ぎ木しない実生苗(※3)に比べて接ぎ木苗の生産には高いレベルの技術を要し、また、多額の設備費用がかかることから、異業種による新規参入が困難とされております。当社は、この野菜接ぎ木苗生産に特化していることから、1年を通しての納品が可能であり、全国各地の野菜産地及びホームセンターなどの量販店へと販売網を拡大しております。接ぎ木とは、植物の一部を切り離し、別の植物とつなぎ合わせることで、双方の性質の長所を持ち合わせた新しい植物を作り出す技術であり、連作障害(※4)や病害虫に強く、生産性に優れた育てやすい植物を作ることができます。
近年、接ぎ木苗の需要が拡大してきた背景には、農家の高齢化や大規模化に加えビニールハウス等での施設栽培(※5)が普及したことが考えられます。これまで主流であった露地栽培(※6)と異なり、施設栽培では1年を通して野菜の生産が可能であり、その結果、農地のフル活用が原因で特定の細菌やウイルスなどの病原体が土壌中に増加し、さらに施設内保温により害虫が繁殖するようになりました。このため、病気及び害虫対策として接ぎ木苗の利用が増加し、現在の施設栽培では、接ぎ木苗がなくては栽培が不可能に近い状態であると言われております。また、当社では通常の接ぎ木苗に加えて、ウイルスガード苗ZY、ウイルスガード苗CW、高接ぎハイレッグ苗といった病気に強い苗の生産も行っており、需要も増加しております。
(主な関係会社)当社、ベルグ福島株式会社、株式会社九重おひさまファーム、四万十あおぞらファーム株式会社、ファンガーデン株式会社、株式会社むさしのタネ
※2 果菜類とは、キュウリ・トマト・ナスのように果実の利用を目的とする野菜の総称。
※3 実生苗とは、植物の種子を発芽させて、そのまま育てた苗のこと。
※4 連作障害とは、同じ畑で同じ野菜や同じ仲間の野菜を毎年連続して栽培したときに生育が極端に悪くなったり、枯れたりする生育障害のこと。
※5 施設栽培とは、強風、低温及び乾燥などから作物を保護するために温室やビニールハウス等の施設を利用して栽培すること。
※6 露地栽培とは、作物を屋外の畑で栽培すること。
当社の主な野菜接ぎ木苗の生産工程を図示すると、次のとおりであります。
① 当社グループを取り巻く環境
当社グループ製品の主なエンドユーザーは、野菜を生産している全国の農家、農業法人及び家庭園芸向けユーザーであります。農林水産省が2016年3月25日に公表した農林業センサス(※7)によると、2015年2月1日現在の農業就業人口は209万人と5年前の前回調査より51万人(19.5%)減少し、平均年齢は66.4歳(65歳以上が占める割合は63.5%)と高齢化が進んでおります。
また、農林水産省が2020年1月15日に公表した統計によると、農業総産出額は2015年以降は3年連続で増加してまいりましたが、2018年は野菜(葉茎菜類)、豚、鶏卵等において生産量の増加から価格が低下したこと等により、9兆558億円となり前年と比べ2,184億円減少(対前年増減率2.4%減少)となりましたが、引き続き高い水準を維持しております。
このような状況のもと、野菜類の産出額は、長期的には生産者の高齢化等による作付け面積等の減少に伴い減少傾向で推移しておりましたが、2000年に全ての生鮮食品に、2017年には全ての加工食品にも原産地表示が義務付けられたこと等を背景に、加工・業務用への国産野菜を求める実需者ニーズが高まってきており、国内消費者の「国産の安全・安心な野菜」を求める志向の高まり等により近年は増加傾向にあり、2015年以降、野菜の産出額は2兆円台半ばで推移してきましたが、2018年は2兆3,212億円(対前年増減率5.3%減少)となりました。
減少した要因としましては、果菜類では簡便性や機能性、食味等の面で消費者ニーズに合致しているミニトマトの生産が拡大したものの、前年産の価格が高騰した根菜類や葉茎菜類について、暖冬傾向により生育が良好で価格が低下したこと等が影響したものと考えられています。
野菜の算出額は前年全体の26.4%を占めており、米の産出額1兆7,416億円(対前年増減0.3%増加)を上回る産出額となっております。近年の加工・業務用野菜の国内志向は更に高まっており、野菜類は国内農業の中で比較的強い競争力を保持しております。
※7 農林業センサスとは、わが国農林業の生産構造、就業構造を明らかにするとともに、農山村の実態を総合的に把握し、農林行政の企画・立案・推進のための基礎資料を作成し、提供することを目的に、5年ごとに行う調査であります。
② 農業の分業化と省力化
従来の果菜類生産者は、野菜の種子を購入し、播種→苗生産→定植→栽培→収穫の全工程を行うことが一般的でした。最近では、一般的な施設栽培において連作障害を回避するために接ぎ木苗が必須となったことに加え、農家の高齢化や大規模化が進んだことにより、農家が苗生産を行わず、購入する時代へと変化してきました。このような接ぎ木苗の購入需要の高まりと農業の分業化と省力化という時代の流れを受けて苗生産会社が誕生し、いまや接ぎ木苗の生産事業は、農業の成長には必要不可欠な業種となっております。
③ 野菜苗マーケット
農業就業者の高齢化や人手不足等は日本農業の将来に関わる深刻な問題であり、当然ながら、当社においてもマーケットの縮小に繋がる重要な問題であると認識しております。しかしながら、前述のように野菜接ぎ木苗の購入需要は、このような農業界の変化を受けて増加傾向にあり、消費者の野菜の国内志向が高まることにより、今後も野菜苗のマーケットは拡大が予想されます。また、国内の接ぎ木苗のマーケットは営利農家向けとホームセンター等の家庭園芸向けの両方で拡大しており、当社への追い風となっております。
④ 当社グループの特徴
a.全国展開当社グループは、日本全国へ営業展開し、直営農場の新設や委託生産による分業体制を敷いたことで、これまで農業が抱えてきた安定的供給が困難であるという問題点を克服し、年間を通して安定した受注・生産が出来る体制を構築しております。また、今後も生産量の拡大に併せて直営農場の拡大と新規委託先の開拓を並行して続けていく方針であります。
なお、当社グループの生産拠点を図示すると次のとおりであります。
b.断根接ぎ木生産
当社グループは、断根接ぎ木技術を用いて野菜接ぎ木苗を生産しております。断根接ぎ木とは、培地に植える部分の根となる植物(台木)の元々の根を切り落とし、その台木と実がなる部分の植物(穂木)を接ぎ木した後に新たな培地に植えることで穂木と台木の接合とほぼ同時に、新しい根を発生させる技術であります。新しく出る根は、若く元気で本数も多く、苗自体に活力を持たせることができます。また、断根により苗サイズを揃えることもできます。
キュウリやメロン等のウリ科野菜については断根接ぎ木が普及しておりますが、トマトやナス等のナス科野菜を断根接ぎ木によって生産する育苗業者は稀であります。これは、ナス科野菜の場合は、根を付けたまま接ぎ木する方法と比べて、断根接ぎ木後の栽培技術の習得に経験を要するためであります。当社グループでは、長年培ってきた栽培技術によって独自の栽培方法を確立しており、接ぎ木作業は主に本社農場で集約生産し、その後の二次育苗拠点を順次拡大していく生産方式によって生産効率を高めてまいりました。
c.閉鎖型育苗施設
閉鎖型育苗施設は、完全に外の環境から隔離された空間内で「光・温度・二酸化炭素・水」を人工的にコントロールして苗を育てる設備であり、当社は、2006年4月に同施設を建設しました。同施設の最大のメリットは、病害虫の侵入を最小限に抑えることが出来る点にあります。これにより、農薬使用量を飛躍的に減らし、安心・安全な苗を生産することが可能となり、安定した品質の苗を生産することができます。さらに、低温育苗によるトマトの第一花房着生葉位の低段化(※8)、初期生育がスピードアップされることによる生育日数の短縮、アントシアニンの増加(※9)及び茎の肥大などのメリットもあります。
※8 トマトは通常、第一花房(一番始めに付く花芽)が8段目(本葉8枚目の位置)前後ですが、夏の温度の高い時期に育苗すると花芽の分化より葉の分化の方が強まり、第一花房が10段以上となることが多くなります。このことにより「最初の収穫が10~20日程度遅くなる」、「収穫の終わる時期は同じなので最終収量も少なくなる」、「実の付く位置が高くなり作業効率が悪くなる」などの問題が発生します。閉鎖型育苗施設は人工的に温度の制御ができるためトマトにとって最適な環境を作り出せます。このことにより夏期でも第一花房が8段目前後の安定したトマト苗生産が可能となり、付加価値の高い苗を作り出すことが可能であります。
※9 アントシアニンとは、ブルーベリーなどの植物に含まれている紫色の色素のことで、光合成産物の一種であります。閉鎖型育苗施設で生産したトマト苗は、葉の裏に驚くほどのアントシアニンが現れます。通常のハウス育苗で現れるアントシアニンは、低温・リン欠乏など過度のストレスがかかった結果現れますが、閉鎖型育苗の場合は、光合成を活発に行った結果、多量の光合成産物が存在することにより現れるもので、元気な苗の証拠であります。
d.オリジナル製品
〔アースストレート苗〕
アースストレート苗は、根鉢(土の部分)を不織布で包んでいる点に特徴があります。一般的なポリ鉢の苗では生産者が農場に苗を植える際にポリ鉢を外す手間が必要ですが、不織布はそのまま農場に植えることができるため、苗を植える際の手間が省け、さらに廃棄ゴミも出ないため環境に優しい苗でもあります。また、根鉢がポット苗より小さいため、輸送コストの大幅カットも実現しております。
〔ヌードメイク苗〕
ヌードメイク苗は、接ぎ木直後の苗を他の農場に効率良く運ぶために開発された断根接ぎ木作業直後の半製品状態の苗であります。当社は当初、この手法を用いて農場間の移動にのみ活用しておりましたが、自分で接ぎ木苗を生産したいが接ぎ木作業の手間や技術を考えると生産に不安があるという野菜生産者や育苗業者(断根接ぎ木苗の二次育苗が可能なユーザー)からの要望に応え、「ヌードメイク苗」として販売しております。
〔e苗シリーズ〕
e苗は、閉鎖型育苗施設を活用して生産した野菜苗であり、同施設内で光量、水分量、温度、二酸化炭素濃度を人工的に制御し、植物にとって最適な環境で育苗することにより「病虫害のリスクが少ない、旺盛な生長力、無農薬育苗、花芽の低段化等、安定した品質」の付加価値の高い野菜苗として販売しております。
〔高接ぎハイレッグ苗〕
高接ぎハイレッグ苗は、トマト苗を通常よりも高い位置で接ぎ木を行うことで、青枯れ病の発病抑制効果を高めた苗であります。なお、苗の規格は、アース50・9㎝ポットの2規格から選択が可能であります。
〔ウイルスガード苗〕
ウイルスガード苗は、ウイルスガード苗ZYとウイルスガード苗CWの2種類があります。
ウイルスガード苗ZYは、キュウリ苗にワクチン(キュービオZY-02)を接種し、アブラムシ等が媒介するズッキーニ黄班モザイクウイルスによるモザイク病・萎凋症の発病抑制効果を高めた苗であります。なお、苗の規格は、アース50・9㎝ポットの2規格から選択が可能であります。
ウイルスガード苗CWは、キュウリ苗にワクチン(弱毒ウイルスCMV・WMV)を接種し、キュウリモザイクウイルスとスイカモザイクウイルスによるモザイク病の発病抑制効果を高めた苗であります。なお、苗の規格は、セル、アース、ポットの3規格から選択が可能であります。
e.システム化
当社グループでは、生産管理システム及び販売管理システムを独自開発によって導入しております。近年、顧客ニーズの高まりによって、接ぎ木苗業界は多品目多品種生産を余儀なくされており、生産計画が複雑化する傾向にあります。これにより、受注から出荷までの一連の工程を委託先も含めシステム管理することで、苗の生産計画、進捗管理及び在庫管理といった情報のリアルタイム化を実現することができ、顧客の急な需要にもタイムリーに対応することが出来ております。2005年から導入した農薬履歴システムは、各生産工程で散布される農薬を生産履歴として管理、納品時にはお客様へ農薬使用履歴として正確にお届けすることが可能となりました。また、在庫管理システムから顧客向けにインターネット上に在庫苗情報「ほうさく.ネット」を掲載し、販売機会の増加にも繋がっております。
(2) 農業・園芸用タネ資材販売事業
農業・園芸用タネ資材販売事業は、野菜苗生産販売事業の拡大のために、生産者や家庭園芸愛好家向けに総合的な提案の重要性が増している中で、これまでに培った技術やノウハウ、知名度を活かした全国展開を推進し、農業資材の仕入販売、当社の得意分野である培養土などのオリジナル商品の販売を行っております。また、海外の種苗会社からの優良な品種を選定し、量販店に対して家庭園芸向けの提案、関連会社である株式会社むさしのタネが保有する自社品種の種子を用いて、生産者や消費者のニーズに合った品種改良・研究を行うことにより、優良な種子の販売、培土や肥料等を含む農業関連資材等につきましては、試作・試験・分析を通じて有益な情報提供や生産向けの商品提案を行うなど事業拡大に努めております。
(主な関係会社)当社、株式会社むさしのタネ
(3) 海外事業
海外事業は、中国山東省にて野菜苗及び花苗の生産、鉢花(シクラメン)の生産、トマト等の青果物の生産を中心とした施設園芸及び生産技術開発のための試験等を行っており、当期より中国国内向けに肥料、袋型液肥給液システムを使用した栽培システムの販売を開始しております。また、東アジア地域への種子・農業資材等の販売へ向けての準備、2017年12月に中国北京に新たに設立した合弁会社では、本格的な中国国内での育苗事業展開に向け準備を進めております。将来的には国内マーケットは縮小傾向にある中で、海外からの日本の技術や品質に対するニーズは高まっており、海外マーケットは拡大傾向にあります。今後も引き続き、海外事業部を中心に海外での事業拡大に向けて、技術開発並びに中国国内を中心に農業関連のマーケット調査や市場開拓等を積極的に行ってまいります。(主な関係会社)当社、青島芽福陽園芸有限公司、北京欣璟農業科技有限公司、
農業会社法人株式会社BJアグロ
(4) その他の事業
その他の事業は、貸し農園事業を行っております。貸し農園事業は、2017年4月より愛媛県松前町にて区画整備された畑を個人や企業へ貸し出し、より多くの人に農業を理解してもらい、植物を通して豊な暮らしを実感できる体験型農園の運営を行っております。また、総合園芸店である関連会社ファンガーデンと隣接しており、事業連携により家庭園芸向けの苗や資材の商品開発を行っております。
(主な関係会社)当社、株式会社ファンガーデン
事業の系統図は、次のとおりであります。
※1 | 連結子会社 |
※2 | 関連会社で持分適用会社 |
※3 | 関連会社で持分法非適用会社 |
※4 | 非連結子会社 |
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