有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100IP1O (EDINETへの外部リンク)
J.フロント リテイリング株式会社 事業等のリスク (2020年2月期)
「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(2019年1月31日内閣府令第3号)による改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」第二号様式記載上の注意(31)の規定を当事業年度に係る有価証券報告書から適用しております。
(1)経営に重要な影響を及ぼすと想定されるリスク
・リスクの定義
当社グループでは、リスクを「環境変化の中で組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と定義しています。リスクには、プラス面(機会)、マイナス面(脅威)の両面があり、適切な対応により、企業の持続的な成長につながると考えています。
・リスク管理体制
代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、執行役などをメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置しています。
同委員会には事務局を置き、リスク管理担当役員を事務局長とします。
事務局は、リスクマネジメント委員会で決定した方針や重要な決定事項を事業会社に共有し、グループ全体のリスクマネジメントを推進します。
当社グループでは、経営が、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることで、リスク管理を企業価値向上につなげる取り組みの一つとして推進しています。
当社グループでは、リスクマネジメント委員会において、環境分析をもとに、リスク(不確実性)を識別・評価し、優先的に対応すべきリスクの絞り込みを行い、「JFRグループリスク一覧表」として、グループ全体でリスク認識を共有しています。また、極めて重要度の高いリスクは、「企業リスク」としてリスクマネジメント委員会が対応方針を審議・決定し、「グループ戦略」に反映して対応しています。
米中覇権争いをはじめとする地政学的緊張、甚大な被害を及ぼすようになった自然災害は前年から引き続き大きなリスクです。加えて、消費増税の消費への打撃、瞬く間に世界的な大流行となった新型コロナウイルス感染症が「ブラックスワン(予測不能で起きたときの衝撃が大きい事象)」として発現したことで、当社グループは、存続が危ぶまれるほど重大な危機に直面しています。
新型コロナウイルス感染症の影響は、当初の我々の想定をはるかに超え、当社グループの中核事業である小売事業の実店舗は、長期に渡り営業休止を余儀なくされています。現段階で新型コロナウイルス感染症が収束するまでに要する期間は見通せず、その間多くの顧客との繋がりが断たれていることに、非常に危機感を抱いています。このような環境の下、まずは、企業の存続の基盤を確固たるものとし、顧客や取引先企業からの派遣者を含む現場スタッフの安全・安心の確保、取引先企業との連携強化に努めています。
また、新型コロナウイルス感染症は、あらゆる側面で大きな転機になると捉えています。人々の消費に対する価値観や消費行動は変容し、それに伴い、小売業に求める価値も変化すると考えられます。また、急速に広まったリモートワークなどにより、将来に渡り働き方や生活が大きく変化していくと、企業としての雇用のあり方も見直す必要が生じると想定されます。商取引においては、サプライチェーンの寸断を受け、中国を始めとする特定地域への過度な依存からの脱却、強靭なサプライチェーンの再構築が求められます。さらに、人の流れが変わることにより、当社グループの実店舗と地域社会とのつながりにも、変化が生じてくるものと思われます。このような様々な環境変化から、多数の顧客を店舗に集客し、対面で販売するという従来の実店舗型小売業は、あり方の見直しを問われることとなり、ビジネスモデルの変革のスピードが増すと想定されます。
当社グループでは、このような状況をニューノーマル(新常態)として捉え、企業存続に向け、新型コロナウイルス感染症収束までの期間や影響などの違いによる複数のシナリオをもとに、従来の常識に捕らわれず、将来も顧客との繋がりが維持できる取り組みに着手しています。変化を先読みし、顧客の気持ちに寄り添い顧客との生涯に渡る繋がりを大事にするというビジネスの根幹は変えることなく、各事業において、既存のビジネスモデルの変革を進め、グループ全体の事業構造の見直しにもスピードを上げて取り組んでいきます。
当社グループでは、以下、13項目を有価証券報告書提出日現在において、投資家の皆さまの判断に影響を与える可能性がある主要なリスクとして、リスク認識及び対応策を記載いたします。
①感染症
・リスクの発現度合い・影響度・変化
しばらく影を潜めていた感染症のリスクは、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行として顕在化し、多くの人命が失われています。さらに、人やモノの流れの分断により実体経済が過去最大の打撃を受けるとともに、金融市場も混乱するなど、未曾有の危機に直面しています。感染症は、地球温暖化や生態系の変化との関連が示唆されており、持続可能な環境を取り戻さない限り、今後も頻度、影響度ともに引き続き増大し続けると見込まれます。B to Cが事業の中核である当社グループにおいて、その影響は極めて大きく、事業の存続を左右するほどのインパクトをもっています。
・マイナス面
感染症は、最も事態が深刻な場合、当社グループが有する顧客・従業員の人命損失につながります。また、今回の新型コロナウイルス感染症のように収束が遅れた場合には、長期間に渡り人やモノの流れが分断し、店舗の営業休止や営業時間短縮を余儀なくされるだけでなく、グループ各社の事業活動や従業員の働き方についても、平時からの抜本的な見直しが必要となります。さらに、長期間の外出自粛は、将来に渡り、消費者の価値観や消費行動を変容させる可能性があります。
・対応策
当社グループでは、新型コロナウイルス感染症拡大において、顧客や従業員の安全確保のため、営業休止や、営業時間の変更にいち早く取り組んでいます。これは、平時より、災害や感染症の発生に備えて、顧客や従業員の安全確保に向け、被害を極小化するための体制を整えていることが背景にあります。店舗閉鎖については、営業再開に向けた取引先企業との緊密な連携体制の構築や、代替のサプライチェーンの確保に努めています。また、消費者の価値観や消費行動の変容に備え、顧客との接点の持ち方など、ビジネスモデルの変革にも着手しています。
②災害
・リスクの発現度合い・影響度・変化
地球温暖化がもたらす気候変動の影響による台風・豪雨や、地震などの自然災害は、頻度、損害の規模ともに数年前から急速に増大しています。また、火災・停電などの事故も、顧客や従業員の人命を危機にさらし、事業の基盤であるインフラを脅かすという点で、当社グループの事業活動全体に、非常に大きな影響があります。
・マイナス面
自然災害は、最も事態が深刻な場合、当社グループが有する顧客・従業員の人命損傷につながります。また、電気・ガス・交通機関などインフラの寸断により事業活動が停止を余儀なくされ、復旧が長引くと、店舗の集客力が低下するなどの影響も生じます。火災・停電などの事故は、人命損傷や事業活動の一時停止につながる可能性があり、施設の改修などに多額の費用が生じます。
・対応策
当社グループでは、自然災害や火災・事故の発生に備え、平時より、老朽化したインフラへの投資、施設の定期的な点検、防災教育などを行っています。また緊急時に備え、具体的な行動レベルまで落とし込まれた事業継続計画を常備し、模擬訓練を行うとともに、災害備蓄品の整備などを進めています。システム停止への備えとしては、データのクラウドへの移行、決済を中心とする重要データを処理するバックアップセンターの設置などにより、店舗の営業に差支えが生じないよう努めています。
③テクノロジーの進化
・リスクの発現度合い・影響度・変化
5Gの商用開始、ビッグデータの利活用の拡大、AIの解析精度向上など、テクノロジーの世界は目覚ましいスピードで進化しています。この進化により、業界の垣根を破壊するディスラプターが相次いで登場し、消費者のライフスタイルや消費行動も大きく変化しつつあります。新型コロナウイルス感染症の長期に渡る流行は、この流れを加速させると思われ、今後数年の間に小売りをはじめとする当社グループの既存事業にますます大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
IT専門人財の不足や組織体制の未整備により、テクノロジーを活用することができなければ、マーケティングの高度化や生産性の向上が遅れます。加えて、新型コロナウイルス感染症のように外出自粛が長引く事態が発生した場合には、消費行動がオンラインショッピングにシフトするなど、既存事業の競争力が低下します。一方で、ビッグデータやAIを利活用できれば、新たな顧客サービスの提供や業務変革が可能となります。
・対応策
当社グループでは、複数の事業の顧客データを統合したデータベースを構築し、スマートフォンアプリを通した顧客との新たなコミュニケーション、マーケティング、販売の高度化に着手しています。今後はそれをさらに推進するとともに、リニューアルした「渋谷PARCO」で展開しているXR(VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)の総称)技術など最新テクノロジーを活用した、新たな顧客体験の提供にも力を入れ、リアル店舗の魅力を高めていきます。業務変革については、定型業務へのRPA導入、テレワーク、Web会議の拡大など、順次、生産性向上につながる取り組みを推進しています。
④シェアリングエコノミーの進展
・リスクの発現度合い・影響度・変化
消費者の所有から利用へのシフトは、欧州に端を発したサーキュラーエコノミーという大きなうねりを受け、緩やかに、しかしながら、確実に進んでいます。日本においても、新型コロナウイルス感染症を機に、環境への配慮から、使い捨て文化への見直しが進むと思われます。今後、ますます大きくなるシェアリングエコノミーの波は、当社グループの中核である小売事業に、中期的に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
新興企業によるシェアリング市場の領域拡大や、C to C(企業を介さない消費者同士のモノやサービスなどの取引)の台頭は、従来の購買行動に加え、購買を前提としない多様な消費行動の拡大を促進します。一方で、消費者の変化を機会と捉え、当社グループ自らがシェアリングを切り口とした事業への参入を図ったり、既存事業において3R(リユース、リデュース、リサイクル)を進め循環型社会の実現を目指すことで、新たな需要を創造することが可能となります。
・対応策
複数の事業を展開する当社グループは、優良な顧客基盤、購買情報をはじめとするビッグデータを有しており、これらを活用して、マルチサービスリテイラー(既存の小売業の枠を超え、サービスも含め顧客の幅広いニーズに対応することを目指す)戦略を推進しています。シェアリングについても複数の新規事業の創出を検討しており、所有から利用へとシフトする顧客ニーズに柔軟に対応しようと取り組んでいます。また、パルコ事業において、クラウドファンディングの取り組みを強化し、地域活性化につながるサービスの創出を支援しています。加えて、小売店舗では、不要な衣料品の回収およびリサイクルや、フードロス削減を推進し、循環型社会に貢献しています。
⑤ESGの重要性向上
・リスクの発現度合い・影響度・変化
ガバナンス・環境・社会の3つの課題への対応は、今や必須のものとして、その重要性も急速に増しており、ESGの取り組みにより企業がステークホルダーから峻別される時代となっています。新型コロナウイルス感染症を機に、持続可能な社会への取り組みが進展すると見込まれており、ESGは、中長期的に当社グループの企業価値やレピュテーション、資金調達に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
ESGの取り組みは、今まで以上に社会的価値と経済価値を両立するCSV(共通価値の創造)の実現度合いで評価されるようになっています。ESGの推進には長い期間やコストがかかるため、CSVが思うように実現できなければ、ステークホルダーから評価されない可能性があります。一方で、消費者の持続可能な社会への関心の高まりに訴求する新たな商品やサービスを提供できれば、売上やレピュテーションが向上し、資金調達面でもプラスの効果をもたらします。
・対応策
当社グループでは、設定した5つのマテリアリティ(※)をもとに、CSVの実現に向け、様々な取り組みを推進しています。E(環境)については、全社で再生可能エネルギーへの切り替えを精力的に進め、不要な衣料品の引き取りや環境に配慮した包装資材への変更、フードロス削減など、顧客及び地球への負担の低減に努めています。E(環境)S(社会)両方に関連する取り組みとしては、当社グループの姿勢を示した「お取引先様行動原則」「JFR行動原則」を制定し、取引先企業への説明会、社内サイトでの従業員への周知を行い、ステークホルダーとともに、環境や人権に配慮した営業活動や店舗を核とした地域社会への貢献を推進しています。これらの取り組みを支えるコーポレートガバナンスについては、指名委員会等設置会社として、複数の独立社外取締役を選任して経営監督機能を強化し、透明性の高い経営を実現しています。これら一連の取り組みは、「サステナビリティレポート」に集約し、社外に開示するとともに、社内浸透の強化を図っています。
※「低炭素社会への貢献」「サプライチェーン全体のマネジメント」「地域社会との共生」「ダイバーシティの推進」「ワークライフバランスの実現」
⑥既存事業の成熟から衰退への移行
・リスクの発現度合い・影響度・変化
当社グループの中核事業である小売事業を中心とする既存事業の成熟は、デジタル化による消費者のライフスタイルや消費行動の変化により、そのスピードが加速しています。テクノロジーの進化、新型コロナウイルス感染症の長期化により、ここ数年でさらに既存事業の成熟から衰退への移行が進むと見込んでおり、小売事業をはじめ当社グループ全体の業績に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
新型コロナウイルス感染症で加速する消費者のライフスタイルや消費行動の変化への対応が遅れると、既存事業のビジネスモデルの陳腐化から、顧客離れを招きます。一方で、ECでは得られない実店舗ならではの購買や接客体験を見直す機運が高まりつつあることを踏まえ、当社グループが有する都心の実店舗の変革を加速することにより、既存顧客の満足度が向上するとともに、新規顧客の獲得による持続的な成長が望めます。
・対応策
当社グループでは、順次、既存店舗のリニューアルを進めており、11月には、「大丸心斎橋店本館」「渋谷PARCO」をリニューアルオープンしました。「大丸心斎橋店本館」では、収益分析をもとに、従来の売仕契約と定期借家契約の最適化を図った新たなビジネスモデル(革新的ハイブリッド型ビジネスモデル)に取り組んでいます。「渋谷PARCO」では、EC併設のオムニチャネル型売場、バーチャル(仮想)展示など、最新テクノロジーを活用した新たな店舗づくりに挑戦しています。今後も商圏や顧客の特性を踏まえ、既存店舗のビジネスモデルの変革に取り組むとともに、当社グループの金融事業と連携し、キャッシュレス決済など消費行動の変化にも対応していく予定です。
⑦取引先の転換
・リスクの発現度合い・影響度・変化
当社グループの中核事業である小売事業では、テクノロジーの進展を背景に、従来の優良取引先企業のECシフト、実店舗からの撤退が進んでいます。また、少子高齢化に伴う国内市場の縮小を背景に、倒産・廃業も増加しています。新型コロナウイルス感染症の発生による営業休止を受け、買取・売仕など従来の百貨店型取引形態である取引先企業の業績は大幅に悪化しています。加えて、業績が悪化した定期借家契約の取引先企業からは賃料の減額要請を受けています。このような状況から、撤退や倒産・廃業の波は、今後数年の間に急速に増大し、小売事業の業績に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
優良取引先企業の撤退・倒産・廃業は、当社グループの小売店舗の品揃え、魅力の低下につながります。一方で、これを取引先政策転換の契機と捉え、顧客データの分析などにより既存取引先企業の営業施策を支援したり、新たな取引先企業の開拓による品揃えの向上につなげることができれば、既存事業の持続的な成長が可能となります。
・対応策
当社グループでは、既存取引先と共同で、最新テクノロジーを活用した次世代型店舗や、物販とサービスの複合店の開発を進めています。また、消費行動の変化を踏まえ、ライフスタイル全般において新規事業の創造を行っている企業を新たな重点取引先企業と位置づけ、開拓を強化しています。さらに、社会との共生を切り口とした施設・サービスの導入や、店舗を核とした周辺エリアの活性化に寄与するイベントの開催を行い、幅広い顧客層の集客に努めています。
<コロナショックが与える金融への影響>
新型コロナウイルス感染症の拡大は、「深刻さ」と「長期化」の両面で景気を後退させ、経済は重大な危機に直面しています。この経済危機が実体経済を支える金融システムにも影響を与えることになれば、「コロナショック」は「金融危機」へと変異拡大するリスクを秘めています。
最新の「国際金融安定性報告書(GFSR)」によると、金融システムはすでに一定の影響を受けているとされていますが、実体経済の落ち込みが長期化した場合には、金融面の本格的な調整が起き、「経済危機⇒資金流出⇒信用収縮⇒流動性低下」という「負の連鎖」を生じ、経済活動の萎縮を増幅する致命的な状況を産み出すことになります。
「コロナショック」による実体経済の影響は、過去に日本を襲った4つの危機、「世界恐慌」「オイルショック」「バブル崩壊」「リーマンショック」に匹敵、あるいは上回るものですが、危機管理の観点では、1997年に起きた「アジア通貨危機」を想起させます。
金融市場においては、為替、金利、株式の各市場が乱高下を続け、混迷を深める状況が発生しています。さらに、原油価格の下落に伴い、産油国が発行する長期債の価格が大きく下落しています。さらに、コマーシャル・ペーパーなど短期資金調達市場の逼迫、金融資産価格の変動性の急上昇、企業の信用スプレッドの急拡大が表出し始めています。
現在までに、各国中央銀行が融資や資産買入れを始めとする流動性供給の拡大計画を発表したことから、一部の市場に見られた緊張は多少和らぎ、資産価格も回復傾向にあります。しかし、市場のマインドは引き続き脆弱であり、世界の金融市場は年初に比べて大幅に縮小したままです。
景気後退が深刻化し長引くことになれば、世界の金融環境は一層悪化することになります。その結果、近年の超低金利環境において蓄積された金融脆弱性が露呈することとなり、「コロナショック」は「金融危機」を通じて、小売・サービス事業、その取引先である製造事業の業績悪化に拍車をかけることになると想定されます。
⑧資金調達
・リスクの発現度合い・影響度・変化
当社グループは、出店・改装などの設備投資、M&Aなどに要する資金を、金融機関からの借入に加え、社債、コマーシャル・ペーパーなど金融市場から、直接調達しています。新型コロナウイルス感染症の影響から、多数の企業が財務の安定性を確保するために、従来とは次元の異なる規模で資金調達を実施しようとしています。その結果、金融市場は急激に不安定さが増しています。このような環境下において、当社グループにおいても、的確な資金調達により、事業の安定性、継続性を担保することが当面の最重要課題であり、ひいては将来の成長に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
金融機関による貸付枠や信用供与枠などの条件変更や当社グループの信用格付の大幅な引き下げ、あるいは、投資家の投資意欲の減退や市場環境の悪化が生じた場合、適時に適切な条件で必要な資金を調達できない可能性があります。一方で、効率的・効果的な資金調達ができると、積極的な事業投資により、当社グループの持続的な成長が可能となります。
・対応策
当社グループでは、事業年度毎に資金調達方針を定め、間接金融と直接金融、並びに短期調達と長期調達の適正なポートフォリオの構築に取り組んでいます。また、適切な金利水準による資金調達を実施するために、市場動向の把握や最適な調達手段の選択を行い、支払利息の削減につなげています。急激な金融市場の変動への備えとしては、日頃から金融機関、格付機関、債券投資家と良好な関係を築き、金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパーの発行を計画的に行うとともに、コミットメントラインなどの資金調達枠を十分に確保することにより、不透明な調達環境下でも、適切に資金調達ができる体制を整えています。さらに、ESGを重視した経営を行うことで、効率的・効果的な資金調達に努めています。
特に、新型コロナウイルス感染症の影響拡大に対しては、資金確保が最重要課題であるとの認識の下、リスクシナリオを設定し、その対応を迅速かつ的確に実践していきます。
⑨為替の変動
・リスクの発現度合い・影響度・変化
新型コロナウイルス感染症の全世界的な流行を機に、安定していた為替相場は、急速に変動幅が大きくなっています。為替の変動は、当社グループの中核事業である小売事業におけるインバウンド売上、並びに一部事業での原材料や商品調達を左右し、当社グループの収益性に大きな影響を与えます。
・マイナス面・プラス面
円高が進行した場合、中国をはじめとする訪日客数が減少し消費意欲も減退する一方、一部事業での原材料や商品の仕入れコストが低下します。逆に円安が進行した場合、訪日客数が増加し高額消費が活発化する一方、一部事業での原材料や商品の仕入れコストが増加します。
・対応策
当社グループでは、為替の変動に備え、インバウンドについては商圏拡大という発想で、中国依存からの脱却(幅広いアジア圏のマーケット開拓)や、外国人富裕層の固定客化を推進し、円高による外国人マーケットの落ち込みを低減しています。また、原材料や商品の調達の一部については、実需に基づく為替予約取引の活用や、海外の商品調達先を分散するなどの対策を講じています。
⑩株式相場の変動
・リスクの発現度合い・影響度・変化
米中貿易戦争の長期化に加え、新型コロナウイルス感染症が世界経済に大打撃を与えており、将来に対する見通しが立たない環境下において、株式相場は乱高下しています。株式相場の急激な変動は、株式を保有する当社グループの中核事業である百貨店顧客および当社グループの財務状況に大きな影響を与えます。
・マイナス面・プラス面
株式相場が下落すると、百貨店顧客の名目的な資産減少から消費マインドの低下を招きます。また、当社グループも株式を保有していることから、親会社の所有者に帰属する持分、年金資産が減少します。一方で、株式相場が上昇すると、百貨店顧客の高額消費が活発となり、業績の向上につながるとともに、親会社の所有者に帰属する持分、年金資産が増加します。
・対応策
当社グループでは、株価下落時でも急激に顧客の消費が落ち込まないよう、常日頃から、テクノロジーを活用したコミュニケーションツールや手厚い人的サービスなど、顧客特性に応じた方法で顧客との絆を強め、需要を喚起する対策を講じています。また、自己株式の取得による株価の維持、資産全体に占める株式の割合を適正に保つことにより、財務の安定化を図っています。さらに、当社グループが保有する国内企業の株式などの有価証券については、保有合理性のあるもの以外を削減することにより、株式相場の変動による資産価値の変動を低減しています。
⑪減損
・リスクの発現度合い・影響度・変化
事業活動上、当社グループが保有または賃借している、店舗用土地・建物を始めとする事業用固定資産は、財政状態計算書に計上しています。競合などの環境変化による事業用固定資産の収益性の低下や、地価の下落などの不確実性は常に大きく、これらに直面した場合、減損を認識しなければなりません。新型コロナウイルス感染症の影響が長引いた場合、店舗収益の悪化や、事業用固定資産の市場価格の大幅な下落により減損リスクが高まっていくと認識しており、当社グループの財務状況に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
減損損失の計上は、当社グループの財務状況の悪化ばかりでなく、顧客や地域社会をはじめとするステークホルダーからの評価の低下、ひいては、当社グループのブランド力低下につながります。一方で、収益性と資産価値の整合が取れ、事業の評価が適正化されることにより、将来の事業ポートフォリオの検討、変革へ結びつけることができます。
・対応策
当社グループでは、減損すると影響が大きい一定金額以上の投資案件について、投資計画検討委員会において、損益計画の妥当性、投資回収の実現性を審査しています。具体的には、案件特有のリスクを反映したプランを含む複数のプランを検証し、投資判断に誤りが生じないよう努めています。また、不測の事態を避けるため、再生計画検討委員会において、減損の生じる可能性について定期的に検証し、再生計画に基づき、業績の回復に努めています。
⑫情報管理
・リスクの発現度合い・影響度・変化
テクノロジーの進化と並行して、サイバー攻撃の手法は、数年前から急速に高度化しています。また、スマートフォンの進化と利用拡大により、顧客情報を狙った不正アクセスなども急増しており、扱う情報量に比例して情報管理のリスクは高まっています。リスクが発現した場合、当社の信頼性や企業イメージへの大きな影響が想定されます。
・マイナス面
当社グループが有する多数の顧客情報および営業機密、並びに他企業から受け取る機密情報が、不正または過失により外部に流出した場合、当社グループの社会的な信用が失墜するとともに、損害賠償など多額の費用負担が発生します。
・対応策
当社グループでは、基本方針・基本規程・ガイドラインなどからなる「JFRグループ情報セキュリティポリシー」を制定し、ハード・ソフト両面からセキュリティ強化に取り組んでいます。サイバー攻撃の高度化、多発に備えて、本年度は、情報システムセキュリティ強化や、全従業員対象の訓練や教育の増強など、専門部署によるグループ各社への支援をより一層強化しています。知的財産については、専門部署による管理を徹底し、財産の保護に努めています。
⑬法規制及び法改正
・リスクの発現度合い・影響度・変化
マルチサービスリテイラー戦略に基づき複数の事業を展開する当社グループは、常に様々な法規制・法改正に注意を払い、適切に対応することが求められています。特に近年は、当社グループの各事業活動で制限や対応の義務が生じうる働き方改革、個人情報関連などでの法改正が増えており、引き続き当社グループの事業の安定運営、信用に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面
法規制により事業活動が制限を受ける場合、ビジネスの転換や縮小を招きます。また、法規制・法改正への対応には、常に新たなコストが発生します。さらに、当社グループが十分に注意を払っているにも関わらず法違反が生じた場合、処罰を受けるとともに、企業の信用低下につながります。
・対応策
当社グループでは、第一に担当部署が中心となり、適宜外部の専門家を活用しながら、専門部署がサポートすることで、法を遵守しています。法改正に関する動向については、専門部署が網羅的に情報収集を行い、当社グループと関わりの深いものについては、経営層並びに各事業会社へ情報を共有しています。また、経営層および全従業員を対象としたコンプライアンス研修や内部通報制度の強化により、コンプライアンス風土の醸成や、法違反の未然防止に努めています。
(2)気候変動への対応とTCFD提言に沿った情報開示
JFRグループでは、気候変動をサステナビリティ経営上の最重要課題であると捉え、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすものと認識しています。当社グループは、2018年、優先して取り組むべき5つのマテリアリティを特定し、その一つである「低炭素社会への貢献」を最重要課題と位置づけ、コーポレートガバナンス機能の継続的な強化を通じて中長期の目標達成に向けた実行計画の立案等、全社的な取り組みを進めています。
また、当社グループは2019年5月、金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD, Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。当社グループは、「低炭素社会への貢献」に向けてエネルギー消費量の削減、使用効率化、再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組むとともに、TCFD提言に沿った情報開示のさらなる拡充を図ってまいります。
JFRグループでは、気候変動への対応を含む「低炭素社会への貢献」をサステナビリティ経営上の最重要課題と認識し、サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、2019年度に「サステナビリティ委員会」を設置しました。「サステナビリティ委員会」では、当社グループの環境課題に対する実行計画の策定と進捗モニタリングを行っており、取締役会ではサステナビリティ委員会で論議・承認された内容の報告を受け、環境課題に関する長期目標や取り組み施策の決議および進捗についての論議・監督を行っています。
また当社グループでは、環境課題に関する具体的な取り組み施策について、業務執行の最高意思決定機関である「グループ経営会議」で協議しており、決議事項は取締役会へ報告されます。「グループ経営会議」の長を担う代表執行役社長は、直轄の諮問委員会である「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」の委員長も担うことにより、環境課題に係る経営判断の最終責任を負っています。取締役会による監督体制のもと、環境マネジメントにおけるガバナンスの強化を進めています。
・環境マネジメント体制図
①取締役会:業務執行において論議・承認された環境課題に関する取り組み施策の進捗を監督。毎月開催。
②グループ経営会議:環境課題に対する具体的な取り組み施策を含む全社的な経営に係る施策について協議。決議事項は取締役会へ報告。毎週開催。
③リスクマネジメント委員会:経営の観点から環境課題を含む包括的なリスクを抽出し、対策を検討。決議事項は取締役会へ報告。都度開催。
④サステナビリティ委員会:グループ全体のサステナビリティ経営を推進するため、グループ経営会議で協議された環境課題へのグループ対応方針を決議、共有。環境課題に関する長期計画とKGI/KPIの策定、各事業会社の進捗状況のモニタリングなどを実施。決議事項は取締役会へ報告。半期に一度開催。
⑤ESG推進部:全社的な環境課題への対応を推進。気候変動を中心とする環境関連情報を収集し、グループ経営会議やサステナビリティ委員会、リスクマネジメント委員会へ報告。
JFRグループでは、リスク(不確実性)を戦略の起点と位置づけ、全社的に管理する体制を構築することが重要であると考えています。リスク管理を企業価値向上につなげる取り組みの一つとして、代表執行役社長直轄の諮問機関である「リスクマネジメント委員会」を設置しています。「リスクマネジメント委員会」では外部環境分析をもとに、リスクを識別・評価し、優先的に対応すべきリスクの絞り込みを行い、当社グループでリスク認識を共有し「グループ戦略」に反映して対応しています。
また、2019年度に設置された「サステナビリティ委員会」では、リスクマネジメント委員会で特定したリスクのうち、環境課題に係るリスクについて、より詳細に検討を行い、各事業会社と共有化を図っています。各事業会社では、気候変動の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。
その内容について、当社グループの業務執行の最高意思決定機関と位置づける「グループ経営会議」や代表執行役社長直轄の諮問会議である「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。
JFRグループでは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および2030年時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンスとさらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しました。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上(※)、パリ協定の目標である「産業革命前からの全世界の平均気温の上昇を1.5~2℃未満に抑える」ことを想定したシナリオおよび国別約束草案(NDC, Nationally Determined Contribution)を含む各国の気候関連の政策目標がすべて達成されることを想定したシナリオ(3℃シナリオ)の2つの世界を想定しました。
最重要マテリアリティである「低炭素社会への貢献」の実現に向け、当社グループの事業活動について上記シナリオを前提に、気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討し、当社グループの戦略レジリエンス(強靭性)を検証しています。
※参照した既存シナリオについて
(1.5~2℃未満シナリオ)
・「Below 2 Degree Scenario(B2DS)」(IEA、2017年)
・「Sustainable Development Scenario(SDS)」(IEA、2019年)
・「Representative Concentration Pathways (RCP2.6)」(IPCC、2014年)
(3℃シナリオ)
・「Stated Policy Scenario(STEPS)」(IEA、2019年)
・「Representative Concentration Pathways (RCP6.0)」(IPCC、2014年)
各シナリオにおける当社グループのリスク・機会とそれらに伴う事業/財務影響の概観は下記の通りです。なお、事業/財務への影響の大きさは表中の矢印の傾きを3段階で定性的に表示しています。
・2030年時点を想定した1.5~2℃未満シナリオおよび3℃シナリオにおける当社グループの事業/財務への影響
当社グループでは、2030年時点を想定した財務への影響のうち、特に日本国内における炭素税
(※)の導入および再生可能エネルギー由来の電気料金の変動が、重要なパラメータ(指標)になると考えています。そのため、この2つのパラメータについて、1.5~2℃未満シナリオおよび3℃シナリオにおける当社グループへの財務影響を定量的に試算しています。
※気候変動の主な原因である二酸化炭素(CO2)の排出に課される税
(前提条件)
・2030年時点のJFRグループ温室効果ガス排出量は、削減目標の基準年である2017年度比で削減率40%を達成した結果、116,492t-CO2と想定。(参考:2017年度実績:194,154t-CO2)
・IEAの既存シナリオに基づき、2030年時点における先進国の炭素税価格は、1.5~2℃未満シナリオでは$100/t-CO2、3℃シナリオでは$33/t-CO2と想定。(参考:$1=100円換算)
・2030年時点のJFRグループ再生可能エネルギー由来の電気使用量は、総電気使用量に占める再生可能エネルギー比率50%を達成した結果、164,450MWhと想定。なお、2030年時点の総電気使用量は、2018年度実績と同量と想定。(参考:2018年度総電気使用量実績:328,900MWh)
・再生可能エネルギー由来電気の実勢価格および2030年時点の社会・制度動向の予測をふまえ、再生可能エネルギー由来の電気料金は、それ以外の電気料金と比較して1~4円/kWhの価格高と想定。(参考:2019年度当社グループ再生可能エネルギー由来電気の購入実績:関西エリア+2円/kWh、関東エリア+4円/kWh)
上記をふまえ、当社グループでは、下記の取り組みを軸とした活動を強化・推進していきます。
・1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた、事業活動に伴う温室効果ガス排出量(Scope1,2 排出量※)の削減
・1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの活用の推進
・1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた、サプライチェーン・プロセスにおける温室効果ガス排出量(Scope3 排出量※)の削減
※Scope1 排出量:事業活動からの直接排出量(燃料使用に伴う直接排出量)
Scope2 排出量:事業活動からの間接排出量(電気・熱の使用に伴う間接排出量)
Scope3 排出量:その他当グループが影響を及ぼす間接排出量(サプライチェーンにおける排出量)
・気候変動に伴う物理リスクへの対応策の強化による強靭なサプライチェーンの実現
・店舗を核としたCSVへの取り組みを通したサステナブルな店作りの実現による地域社会への貢献
・サーキュラーエコノミーへの取り組みによる新しいビジネス機会の実現
・消費者の消費行動の変化に対応した低炭素製品・サービスへの積極的対応
JFRグループでは、1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた上記戦略に基づき、中長期温室効果ガス排出削減目標を設定しています。また、当社グループの中期温室効果ガス排出削減目標は、SBT(Science Based Targets)の認定を受けています。
当社グループでは、上記目標の達成のために各年度目標を設定するとともに、その達成のための施策ミックス(省エネルギー、再生可能エネルギー由来電気の調達、省エネ設備の導入など)を計画し、温室効果ガス排出量削減を推進していきます。
また、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様に対し、当社グループの温室効果ガス排出量の正確性・透明性を確保するため、「Scope1,2 温室効果ガス排出量算定・集計ルール」を策定し、2017、2018年度Scope1,2 エネルギー使用量および温室効果ガス排出量について第三者保証を取得しています。今後は、第三者保証取得の範囲をScope3 に拡大し、サプライチェーン全体においても、温室効果ガス排出量の着実な削減に向けて取り組んでまいります。
(1)経営に重要な影響を及ぼすと想定されるリスク
・リスクの定義
当社グループでは、リスクを「環境変化の中で組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と定義しています。リスクには、プラス面(機会)、マイナス面(脅威)の両面があり、適切な対応により、企業の持続的な成長につながると考えています。
・リスク管理体制
代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、執行役などをメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置しています。
同委員会には事務局を置き、リスク管理担当役員を事務局長とします。
事務局は、リスクマネジメント委員会で決定した方針や重要な決定事項を事業会社に共有し、グループ全体のリスクマネジメントを推進します。
当社グループでは、経営が、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることで、リスク管理を企業価値向上につなげる取り組みの一つとして推進しています。
当社グループでは、リスクマネジメント委員会において、環境分析をもとに、リスク(不確実性)を識別・評価し、優先的に対応すべきリスクの絞り込みを行い、「JFRグループリスク一覧表」として、グループ全体でリスク認識を共有しています。また、極めて重要度の高いリスクは、「企業リスク」としてリスクマネジメント委員会が対応方針を審議・決定し、「グループ戦略」に反映して対応しています。
米中覇権争いをはじめとする地政学的緊張、甚大な被害を及ぼすようになった自然災害は前年から引き続き大きなリスクです。加えて、消費増税の消費への打撃、瞬く間に世界的な大流行となった新型コロナウイルス感染症が「ブラックスワン(予測不能で起きたときの衝撃が大きい事象)」として発現したことで、当社グループは、存続が危ぶまれるほど重大な危機に直面しています。
新型コロナウイルス感染症の影響は、当初の我々の想定をはるかに超え、当社グループの中核事業である小売事業の実店舗は、長期に渡り営業休止を余儀なくされています。現段階で新型コロナウイルス感染症が収束するまでに要する期間は見通せず、その間多くの顧客との繋がりが断たれていることに、非常に危機感を抱いています。このような環境の下、まずは、企業の存続の基盤を確固たるものとし、顧客や取引先企業からの派遣者を含む現場スタッフの安全・安心の確保、取引先企業との連携強化に努めています。
また、新型コロナウイルス感染症は、あらゆる側面で大きな転機になると捉えています。人々の消費に対する価値観や消費行動は変容し、それに伴い、小売業に求める価値も変化すると考えられます。また、急速に広まったリモートワークなどにより、将来に渡り働き方や生活が大きく変化していくと、企業としての雇用のあり方も見直す必要が生じると想定されます。商取引においては、サプライチェーンの寸断を受け、中国を始めとする特定地域への過度な依存からの脱却、強靭なサプライチェーンの再構築が求められます。さらに、人の流れが変わることにより、当社グループの実店舗と地域社会とのつながりにも、変化が生じてくるものと思われます。このような様々な環境変化から、多数の顧客を店舗に集客し、対面で販売するという従来の実店舗型小売業は、あり方の見直しを問われることとなり、ビジネスモデルの変革のスピードが増すと想定されます。
当社グループでは、このような状況をニューノーマル(新常態)として捉え、企業存続に向け、新型コロナウイルス感染症収束までの期間や影響などの違いによる複数のシナリオをもとに、従来の常識に捕らわれず、将来も顧客との繋がりが維持できる取り組みに着手しています。変化を先読みし、顧客の気持ちに寄り添い顧客との生涯に渡る繋がりを大事にするというビジネスの根幹は変えることなく、各事業において、既存のビジネスモデルの変革を進め、グループ全体の事業構造の見直しにもスピードを上げて取り組んでいきます。
当社グループでは、以下、13項目を有価証券報告書提出日現在において、投資家の皆さまの判断に影響を与える可能性がある主要なリスクとして、リスク認識及び対応策を記載いたします。
①感染症
・リスクの発現度合い・影響度・変化
しばらく影を潜めていた感染症のリスクは、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行として顕在化し、多くの人命が失われています。さらに、人やモノの流れの分断により実体経済が過去最大の打撃を受けるとともに、金融市場も混乱するなど、未曾有の危機に直面しています。感染症は、地球温暖化や生態系の変化との関連が示唆されており、持続可能な環境を取り戻さない限り、今後も頻度、影響度ともに引き続き増大し続けると見込まれます。B to Cが事業の中核である当社グループにおいて、その影響は極めて大きく、事業の存続を左右するほどのインパクトをもっています。
・マイナス面
感染症は、最も事態が深刻な場合、当社グループが有する顧客・従業員の人命損失につながります。また、今回の新型コロナウイルス感染症のように収束が遅れた場合には、長期間に渡り人やモノの流れが分断し、店舗の営業休止や営業時間短縮を余儀なくされるだけでなく、グループ各社の事業活動や従業員の働き方についても、平時からの抜本的な見直しが必要となります。さらに、長期間の外出自粛は、将来に渡り、消費者の価値観や消費行動を変容させる可能性があります。
・対応策
当社グループでは、新型コロナウイルス感染症拡大において、顧客や従業員の安全確保のため、営業休止や、営業時間の変更にいち早く取り組んでいます。これは、平時より、災害や感染症の発生に備えて、顧客や従業員の安全確保に向け、被害を極小化するための体制を整えていることが背景にあります。店舗閉鎖については、営業再開に向けた取引先企業との緊密な連携体制の構築や、代替のサプライチェーンの確保に努めています。また、消費者の価値観や消費行動の変容に備え、顧客との接点の持ち方など、ビジネスモデルの変革にも着手しています。
②災害
・リスクの発現度合い・影響度・変化
地球温暖化がもたらす気候変動の影響による台風・豪雨や、地震などの自然災害は、頻度、損害の規模ともに数年前から急速に増大しています。また、火災・停電などの事故も、顧客や従業員の人命を危機にさらし、事業の基盤であるインフラを脅かすという点で、当社グループの事業活動全体に、非常に大きな影響があります。
・マイナス面
自然災害は、最も事態が深刻な場合、当社グループが有する顧客・従業員の人命損傷につながります。また、電気・ガス・交通機関などインフラの寸断により事業活動が停止を余儀なくされ、復旧が長引くと、店舗の集客力が低下するなどの影響も生じます。火災・停電などの事故は、人命損傷や事業活動の一時停止につながる可能性があり、施設の改修などに多額の費用が生じます。
・対応策
当社グループでは、自然災害や火災・事故の発生に備え、平時より、老朽化したインフラへの投資、施設の定期的な点検、防災教育などを行っています。また緊急時に備え、具体的な行動レベルまで落とし込まれた事業継続計画を常備し、模擬訓練を行うとともに、災害備蓄品の整備などを進めています。システム停止への備えとしては、データのクラウドへの移行、決済を中心とする重要データを処理するバックアップセンターの設置などにより、店舗の営業に差支えが生じないよう努めています。
③テクノロジーの進化
・リスクの発現度合い・影響度・変化
5Gの商用開始、ビッグデータの利活用の拡大、AIの解析精度向上など、テクノロジーの世界は目覚ましいスピードで進化しています。この進化により、業界の垣根を破壊するディスラプターが相次いで登場し、消費者のライフスタイルや消費行動も大きく変化しつつあります。新型コロナウイルス感染症の長期に渡る流行は、この流れを加速させると思われ、今後数年の間に小売りをはじめとする当社グループの既存事業にますます大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
IT専門人財の不足や組織体制の未整備により、テクノロジーを活用することができなければ、マーケティングの高度化や生産性の向上が遅れます。加えて、新型コロナウイルス感染症のように外出自粛が長引く事態が発生した場合には、消費行動がオンラインショッピングにシフトするなど、既存事業の競争力が低下します。一方で、ビッグデータやAIを利活用できれば、新たな顧客サービスの提供や業務変革が可能となります。
・対応策
当社グループでは、複数の事業の顧客データを統合したデータベースを構築し、スマートフォンアプリを通した顧客との新たなコミュニケーション、マーケティング、販売の高度化に着手しています。今後はそれをさらに推進するとともに、リニューアルした「渋谷PARCO」で展開しているXR(VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)の総称)技術など最新テクノロジーを活用した、新たな顧客体験の提供にも力を入れ、リアル店舗の魅力を高めていきます。業務変革については、定型業務へのRPA導入、テレワーク、Web会議の拡大など、順次、生産性向上につながる取り組みを推進しています。
④シェアリングエコノミーの進展
・リスクの発現度合い・影響度・変化
消費者の所有から利用へのシフトは、欧州に端を発したサーキュラーエコノミーという大きなうねりを受け、緩やかに、しかしながら、確実に進んでいます。日本においても、新型コロナウイルス感染症を機に、環境への配慮から、使い捨て文化への見直しが進むと思われます。今後、ますます大きくなるシェアリングエコノミーの波は、当社グループの中核である小売事業に、中期的に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
新興企業によるシェアリング市場の領域拡大や、C to C(企業を介さない消費者同士のモノやサービスなどの取引)の台頭は、従来の購買行動に加え、購買を前提としない多様な消費行動の拡大を促進します。一方で、消費者の変化を機会と捉え、当社グループ自らがシェアリングを切り口とした事業への参入を図ったり、既存事業において3R(リユース、リデュース、リサイクル)を進め循環型社会の実現を目指すことで、新たな需要を創造することが可能となります。
・対応策
複数の事業を展開する当社グループは、優良な顧客基盤、購買情報をはじめとするビッグデータを有しており、これらを活用して、マルチサービスリテイラー(既存の小売業の枠を超え、サービスも含め顧客の幅広いニーズに対応することを目指す)戦略を推進しています。シェアリングについても複数の新規事業の創出を検討しており、所有から利用へとシフトする顧客ニーズに柔軟に対応しようと取り組んでいます。また、パルコ事業において、クラウドファンディングの取り組みを強化し、地域活性化につながるサービスの創出を支援しています。加えて、小売店舗では、不要な衣料品の回収およびリサイクルや、フードロス削減を推進し、循環型社会に貢献しています。
⑤ESGの重要性向上
・リスクの発現度合い・影響度・変化
ガバナンス・環境・社会の3つの課題への対応は、今や必須のものとして、その重要性も急速に増しており、ESGの取り組みにより企業がステークホルダーから峻別される時代となっています。新型コロナウイルス感染症を機に、持続可能な社会への取り組みが進展すると見込まれており、ESGは、中長期的に当社グループの企業価値やレピュテーション、資金調達に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
ESGの取り組みは、今まで以上に社会的価値と経済価値を両立するCSV(共通価値の創造)の実現度合いで評価されるようになっています。ESGの推進には長い期間やコストがかかるため、CSVが思うように実現できなければ、ステークホルダーから評価されない可能性があります。一方で、消費者の持続可能な社会への関心の高まりに訴求する新たな商品やサービスを提供できれば、売上やレピュテーションが向上し、資金調達面でもプラスの効果をもたらします。
・対応策
当社グループでは、設定した5つのマテリアリティ(※)をもとに、CSVの実現に向け、様々な取り組みを推進しています。E(環境)については、全社で再生可能エネルギーへの切り替えを精力的に進め、不要な衣料品の引き取りや環境に配慮した包装資材への変更、フードロス削減など、顧客及び地球への負担の低減に努めています。E(環境)S(社会)両方に関連する取り組みとしては、当社グループの姿勢を示した「お取引先様行動原則」「JFR行動原則」を制定し、取引先企業への説明会、社内サイトでの従業員への周知を行い、ステークホルダーとともに、環境や人権に配慮した営業活動や店舗を核とした地域社会への貢献を推進しています。これらの取り組みを支えるコーポレートガバナンスについては、指名委員会等設置会社として、複数の独立社外取締役を選任して経営監督機能を強化し、透明性の高い経営を実現しています。これら一連の取り組みは、「サステナビリティレポート」に集約し、社外に開示するとともに、社内浸透の強化を図っています。
※「低炭素社会への貢献」「サプライチェーン全体のマネジメント」「地域社会との共生」「ダイバーシティの推進」「ワークライフバランスの実現」
⑥既存事業の成熟から衰退への移行
・リスクの発現度合い・影響度・変化
当社グループの中核事業である小売事業を中心とする既存事業の成熟は、デジタル化による消費者のライフスタイルや消費行動の変化により、そのスピードが加速しています。テクノロジーの進化、新型コロナウイルス感染症の長期化により、ここ数年でさらに既存事業の成熟から衰退への移行が進むと見込んでおり、小売事業をはじめ当社グループ全体の業績に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
新型コロナウイルス感染症で加速する消費者のライフスタイルや消費行動の変化への対応が遅れると、既存事業のビジネスモデルの陳腐化から、顧客離れを招きます。一方で、ECでは得られない実店舗ならではの購買や接客体験を見直す機運が高まりつつあることを踏まえ、当社グループが有する都心の実店舗の変革を加速することにより、既存顧客の満足度が向上するとともに、新規顧客の獲得による持続的な成長が望めます。
・対応策
当社グループでは、順次、既存店舗のリニューアルを進めており、11月には、「大丸心斎橋店本館」「渋谷PARCO」をリニューアルオープンしました。「大丸心斎橋店本館」では、収益分析をもとに、従来の売仕契約と定期借家契約の最適化を図った新たなビジネスモデル(革新的ハイブリッド型ビジネスモデル)に取り組んでいます。「渋谷PARCO」では、EC併設のオムニチャネル型売場、バーチャル(仮想)展示など、最新テクノロジーを活用した新たな店舗づくりに挑戦しています。今後も商圏や顧客の特性を踏まえ、既存店舗のビジネスモデルの変革に取り組むとともに、当社グループの金融事業と連携し、キャッシュレス決済など消費行動の変化にも対応していく予定です。
⑦取引先の転換
・リスクの発現度合い・影響度・変化
当社グループの中核事業である小売事業では、テクノロジーの進展を背景に、従来の優良取引先企業のECシフト、実店舗からの撤退が進んでいます。また、少子高齢化に伴う国内市場の縮小を背景に、倒産・廃業も増加しています。新型コロナウイルス感染症の発生による営業休止を受け、買取・売仕など従来の百貨店型取引形態である取引先企業の業績は大幅に悪化しています。加えて、業績が悪化した定期借家契約の取引先企業からは賃料の減額要請を受けています。このような状況から、撤退や倒産・廃業の波は、今後数年の間に急速に増大し、小売事業の業績に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
優良取引先企業の撤退・倒産・廃業は、当社グループの小売店舗の品揃え、魅力の低下につながります。一方で、これを取引先政策転換の契機と捉え、顧客データの分析などにより既存取引先企業の営業施策を支援したり、新たな取引先企業の開拓による品揃えの向上につなげることができれば、既存事業の持続的な成長が可能となります。
・対応策
当社グループでは、既存取引先と共同で、最新テクノロジーを活用した次世代型店舗や、物販とサービスの複合店の開発を進めています。また、消費行動の変化を踏まえ、ライフスタイル全般において新規事業の創造を行っている企業を新たな重点取引先企業と位置づけ、開拓を強化しています。さらに、社会との共生を切り口とした施設・サービスの導入や、店舗を核とした周辺エリアの活性化に寄与するイベントの開催を行い、幅広い顧客層の集客に努めています。
<コロナショックが与える金融への影響>
新型コロナウイルス感染症の拡大は、「深刻さ」と「長期化」の両面で景気を後退させ、経済は重大な危機に直面しています。この経済危機が実体経済を支える金融システムにも影響を与えることになれば、「コロナショック」は「金融危機」へと変異拡大するリスクを秘めています。
最新の「国際金融安定性報告書(GFSR)」によると、金融システムはすでに一定の影響を受けているとされていますが、実体経済の落ち込みが長期化した場合には、金融面の本格的な調整が起き、「経済危機⇒資金流出⇒信用収縮⇒流動性低下」という「負の連鎖」を生じ、経済活動の萎縮を増幅する致命的な状況を産み出すことになります。
「コロナショック」による実体経済の影響は、過去に日本を襲った4つの危機、「世界恐慌」「オイルショック」「バブル崩壊」「リーマンショック」に匹敵、あるいは上回るものですが、危機管理の観点では、1997年に起きた「アジア通貨危機」を想起させます。
金融市場においては、為替、金利、株式の各市場が乱高下を続け、混迷を深める状況が発生しています。さらに、原油価格の下落に伴い、産油国が発行する長期債の価格が大きく下落しています。さらに、コマーシャル・ペーパーなど短期資金調達市場の逼迫、金融資産価格の変動性の急上昇、企業の信用スプレッドの急拡大が表出し始めています。
現在までに、各国中央銀行が融資や資産買入れを始めとする流動性供給の拡大計画を発表したことから、一部の市場に見られた緊張は多少和らぎ、資産価格も回復傾向にあります。しかし、市場のマインドは引き続き脆弱であり、世界の金融市場は年初に比べて大幅に縮小したままです。
景気後退が深刻化し長引くことになれば、世界の金融環境は一層悪化することになります。その結果、近年の超低金利環境において蓄積された金融脆弱性が露呈することとなり、「コロナショック」は「金融危機」を通じて、小売・サービス事業、その取引先である製造事業の業績悪化に拍車をかけることになると想定されます。
⑧資金調達
・リスクの発現度合い・影響度・変化
当社グループは、出店・改装などの設備投資、M&Aなどに要する資金を、金融機関からの借入に加え、社債、コマーシャル・ペーパーなど金融市場から、直接調達しています。新型コロナウイルス感染症の影響から、多数の企業が財務の安定性を確保するために、従来とは次元の異なる規模で資金調達を実施しようとしています。その結果、金融市場は急激に不安定さが増しています。このような環境下において、当社グループにおいても、的確な資金調達により、事業の安定性、継続性を担保することが当面の最重要課題であり、ひいては将来の成長に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
金融機関による貸付枠や信用供与枠などの条件変更や当社グループの信用格付の大幅な引き下げ、あるいは、投資家の投資意欲の減退や市場環境の悪化が生じた場合、適時に適切な条件で必要な資金を調達できない可能性があります。一方で、効率的・効果的な資金調達ができると、積極的な事業投資により、当社グループの持続的な成長が可能となります。
・対応策
当社グループでは、事業年度毎に資金調達方針を定め、間接金融と直接金融、並びに短期調達と長期調達の適正なポートフォリオの構築に取り組んでいます。また、適切な金利水準による資金調達を実施するために、市場動向の把握や最適な調達手段の選択を行い、支払利息の削減につなげています。急激な金融市場の変動への備えとしては、日頃から金融機関、格付機関、債券投資家と良好な関係を築き、金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパーの発行を計画的に行うとともに、コミットメントラインなどの資金調達枠を十分に確保することにより、不透明な調達環境下でも、適切に資金調達ができる体制を整えています。さらに、ESGを重視した経営を行うことで、効率的・効果的な資金調達に努めています。
特に、新型コロナウイルス感染症の影響拡大に対しては、資金確保が最重要課題であるとの認識の下、リスクシナリオを設定し、その対応を迅速かつ的確に実践していきます。
⑨為替の変動
・リスクの発現度合い・影響度・変化
新型コロナウイルス感染症の全世界的な流行を機に、安定していた為替相場は、急速に変動幅が大きくなっています。為替の変動は、当社グループの中核事業である小売事業におけるインバウンド売上、並びに一部事業での原材料や商品調達を左右し、当社グループの収益性に大きな影響を与えます。
・マイナス面・プラス面
円高が進行した場合、中国をはじめとする訪日客数が減少し消費意欲も減退する一方、一部事業での原材料や商品の仕入れコストが低下します。逆に円安が進行した場合、訪日客数が増加し高額消費が活発化する一方、一部事業での原材料や商品の仕入れコストが増加します。
・対応策
当社グループでは、為替の変動に備え、インバウンドについては商圏拡大という発想で、中国依存からの脱却(幅広いアジア圏のマーケット開拓)や、外国人富裕層の固定客化を推進し、円高による外国人マーケットの落ち込みを低減しています。また、原材料や商品の調達の一部については、実需に基づく為替予約取引の活用や、海外の商品調達先を分散するなどの対策を講じています。
⑩株式相場の変動
・リスクの発現度合い・影響度・変化
米中貿易戦争の長期化に加え、新型コロナウイルス感染症が世界経済に大打撃を与えており、将来に対する見通しが立たない環境下において、株式相場は乱高下しています。株式相場の急激な変動は、株式を保有する当社グループの中核事業である百貨店顧客および当社グループの財務状況に大きな影響を与えます。
・マイナス面・プラス面
株式相場が下落すると、百貨店顧客の名目的な資産減少から消費マインドの低下を招きます。また、当社グループも株式を保有していることから、親会社の所有者に帰属する持分、年金資産が減少します。一方で、株式相場が上昇すると、百貨店顧客の高額消費が活発となり、業績の向上につながるとともに、親会社の所有者に帰属する持分、年金資産が増加します。
・対応策
当社グループでは、株価下落時でも急激に顧客の消費が落ち込まないよう、常日頃から、テクノロジーを活用したコミュニケーションツールや手厚い人的サービスなど、顧客特性に応じた方法で顧客との絆を強め、需要を喚起する対策を講じています。また、自己株式の取得による株価の維持、資産全体に占める株式の割合を適正に保つことにより、財務の安定化を図っています。さらに、当社グループが保有する国内企業の株式などの有価証券については、保有合理性のあるもの以外を削減することにより、株式相場の変動による資産価値の変動を低減しています。
⑪減損
・リスクの発現度合い・影響度・変化
事業活動上、当社グループが保有または賃借している、店舗用土地・建物を始めとする事業用固定資産は、財政状態計算書に計上しています。競合などの環境変化による事業用固定資産の収益性の低下や、地価の下落などの不確実性は常に大きく、これらに直面した場合、減損を認識しなければなりません。新型コロナウイルス感染症の影響が長引いた場合、店舗収益の悪化や、事業用固定資産の市場価格の大幅な下落により減損リスクが高まっていくと認識しており、当社グループの財務状況に非常に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面・プラス面
減損損失の計上は、当社グループの財務状況の悪化ばかりでなく、顧客や地域社会をはじめとするステークホルダーからの評価の低下、ひいては、当社グループのブランド力低下につながります。一方で、収益性と資産価値の整合が取れ、事業の評価が適正化されることにより、将来の事業ポートフォリオの検討、変革へ結びつけることができます。
・対応策
当社グループでは、減損すると影響が大きい一定金額以上の投資案件について、投資計画検討委員会において、損益計画の妥当性、投資回収の実現性を審査しています。具体的には、案件特有のリスクを反映したプランを含む複数のプランを検証し、投資判断に誤りが生じないよう努めています。また、不測の事態を避けるため、再生計画検討委員会において、減損の生じる可能性について定期的に検証し、再生計画に基づき、業績の回復に努めています。
⑫情報管理
・リスクの発現度合い・影響度・変化
テクノロジーの進化と並行して、サイバー攻撃の手法は、数年前から急速に高度化しています。また、スマートフォンの進化と利用拡大により、顧客情報を狙った不正アクセスなども急増しており、扱う情報量に比例して情報管理のリスクは高まっています。リスクが発現した場合、当社の信頼性や企業イメージへの大きな影響が想定されます。
・マイナス面
当社グループが有する多数の顧客情報および営業機密、並びに他企業から受け取る機密情報が、不正または過失により外部に流出した場合、当社グループの社会的な信用が失墜するとともに、損害賠償など多額の費用負担が発生します。
・対応策
当社グループでは、基本方針・基本規程・ガイドラインなどからなる「JFRグループ情報セキュリティポリシー」を制定し、ハード・ソフト両面からセキュリティ強化に取り組んでいます。サイバー攻撃の高度化、多発に備えて、本年度は、情報システムセキュリティ強化や、全従業員対象の訓練や教育の増強など、専門部署によるグループ各社への支援をより一層強化しています。知的財産については、専門部署による管理を徹底し、財産の保護に努めています。
⑬法規制及び法改正
・リスクの発現度合い・影響度・変化
マルチサービスリテイラー戦略に基づき複数の事業を展開する当社グループは、常に様々な法規制・法改正に注意を払い、適切に対応することが求められています。特に近年は、当社グループの各事業活動で制限や対応の義務が生じうる働き方改革、個人情報関連などでの法改正が増えており、引き続き当社グループの事業の安定運営、信用に大きな影響を与えると想定されます。
・マイナス面
法規制により事業活動が制限を受ける場合、ビジネスの転換や縮小を招きます。また、法規制・法改正への対応には、常に新たなコストが発生します。さらに、当社グループが十分に注意を払っているにも関わらず法違反が生じた場合、処罰を受けるとともに、企業の信用低下につながります。
・対応策
当社グループでは、第一に担当部署が中心となり、適宜外部の専門家を活用しながら、専門部署がサポートすることで、法を遵守しています。法改正に関する動向については、専門部署が網羅的に情報収集を行い、当社グループと関わりの深いものについては、経営層並びに各事業会社へ情報を共有しています。また、経営層および全従業員を対象としたコンプライアンス研修や内部通報制度の強化により、コンプライアンス風土の醸成や、法違反の未然防止に努めています。
(2)気候変動への対応とTCFD提言に沿った情報開示
JFRグループでは、気候変動をサステナビリティ経営上の最重要課題であると捉え、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすものと認識しています。当社グループは、2018年、優先して取り組むべき5つのマテリアリティを特定し、その一つである「低炭素社会への貢献」を最重要課題と位置づけ、コーポレートガバナンス機能の継続的な強化を通じて中長期の目標達成に向けた実行計画の立案等、全社的な取り組みを進めています。
また、当社グループは2019年5月、金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD, Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。当社グループは、「低炭素社会への貢献」に向けてエネルギー消費量の削減、使用効率化、再生可能エネルギーの導入に積極的に取り組むとともに、TCFD提言に沿った情報開示のさらなる拡充を図ってまいります。
JFRグループでは、気候変動への対応を含む「低炭素社会への貢献」をサステナビリティ経営上の最重要課題と認識し、サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、2019年度に「サステナビリティ委員会」を設置しました。「サステナビリティ委員会」では、当社グループの環境課題に対する実行計画の策定と進捗モニタリングを行っており、取締役会ではサステナビリティ委員会で論議・承認された内容の報告を受け、環境課題に関する長期目標や取り組み施策の決議および進捗についての論議・監督を行っています。
また当社グループでは、環境課題に関する具体的な取り組み施策について、業務執行の最高意思決定機関である「グループ経営会議」で協議しており、決議事項は取締役会へ報告されます。「グループ経営会議」の長を担う代表執行役社長は、直轄の諮問委員会である「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」の委員長も担うことにより、環境課題に係る経営判断の最終責任を負っています。取締役会による監督体制のもと、環境マネジメントにおけるガバナンスの強化を進めています。
・環境マネジメント体制図
①取締役会:業務執行において論議・承認された環境課題に関する取り組み施策の進捗を監督。毎月開催。
②グループ経営会議:環境課題に対する具体的な取り組み施策を含む全社的な経営に係る施策について協議。決議事項は取締役会へ報告。毎週開催。
③リスクマネジメント委員会:経営の観点から環境課題を含む包括的なリスクを抽出し、対策を検討。決議事項は取締役会へ報告。都度開催。
④サステナビリティ委員会:グループ全体のサステナビリティ経営を推進するため、グループ経営会議で協議された環境課題へのグループ対応方針を決議、共有。環境課題に関する長期計画とKGI/KPIの策定、各事業会社の進捗状況のモニタリングなどを実施。決議事項は取締役会へ報告。半期に一度開催。
⑤ESG推進部:全社的な環境課題への対応を推進。気候変動を中心とする環境関連情報を収集し、グループ経営会議やサステナビリティ委員会、リスクマネジメント委員会へ報告。
JFRグループでは、リスク(不確実性)を戦略の起点と位置づけ、全社的に管理する体制を構築することが重要であると考えています。リスク管理を企業価値向上につなげる取り組みの一つとして、代表執行役社長直轄の諮問機関である「リスクマネジメント委員会」を設置しています。「リスクマネジメント委員会」では外部環境分析をもとに、リスクを識別・評価し、優先的に対応すべきリスクの絞り込みを行い、当社グループでリスク認識を共有し「グループ戦略」に反映して対応しています。
また、2019年度に設置された「サステナビリティ委員会」では、リスクマネジメント委員会で特定したリスクのうち、環境課題に係るリスクについて、より詳細に検討を行い、各事業会社と共有化を図っています。各事業会社では、気候変動の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。
その内容について、当社グループの業務執行の最高意思決定機関と位置づける「グループ経営会議」や代表執行役社長直轄の諮問会議である「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。
・リスク管理プロセス | ・リスク管理体制 | ||
JFRグループでは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および2030年時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンスとさらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しました。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上(※)、パリ協定の目標である「産業革命前からの全世界の平均気温の上昇を1.5~2℃未満に抑える」ことを想定したシナリオおよび国別約束草案(NDC, Nationally Determined Contribution)を含む各国の気候関連の政策目標がすべて達成されることを想定したシナリオ(3℃シナリオ)の2つの世界を想定しました。
最重要マテリアリティである「低炭素社会への貢献」の実現に向け、当社グループの事業活動について上記シナリオを前提に、気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討し、当社グループの戦略レジリエンス(強靭性)を検証しています。
※参照した既存シナリオについて
(1.5~2℃未満シナリオ)
・「Below 2 Degree Scenario(B2DS)」(IEA、2017年)
・「Sustainable Development Scenario(SDS)」(IEA、2019年)
・「Representative Concentration Pathways (RCP2.6)」(IPCC、2014年)
(3℃シナリオ)
・「Stated Policy Scenario(STEPS)」(IEA、2019年)
・「Representative Concentration Pathways (RCP6.0)」(IPCC、2014年)
各シナリオにおける当社グループのリスク・機会とそれらに伴う事業/財務影響の概観は下記の通りです。なお、事業/財務への影響の大きさは表中の矢印の傾きを3段階で定性的に表示しています。
:当社グループの事業/財務への影響が非常に大きくなることが想定される | ||
:当社グループの事業/財務への影響がやや大きくなることが想定される | ||
:当社グループの事業/財務への影響は軽微であることが想定される |
・2030年時点を想定した1.5~2℃未満シナリオおよび3℃シナリオにおける当社グループの事業/財務への影響
当社グループでは、2030年時点を想定した財務への影響のうち、特に日本国内における炭素税
(※)の導入および再生可能エネルギー由来の電気料金の変動が、重要なパラメータ(指標)になると考えています。そのため、この2つのパラメータについて、1.5~2℃未満シナリオおよび3℃シナリオにおける当社グループへの財務影響を定量的に試算しています。
※気候変動の主な原因である二酸化炭素(CO2)の排出に課される税
(前提条件)
・2030年時点のJFRグループ温室効果ガス排出量は、削減目標の基準年である2017年度比で削減率40%を達成した結果、116,492t-CO2と想定。(参考:2017年度実績:194,154t-CO2)
・IEAの既存シナリオに基づき、2030年時点における先進国の炭素税価格は、1.5~2℃未満シナリオでは$100/t-CO2、3℃シナリオでは$33/t-CO2と想定。(参考:$1=100円換算)
・2030年時点のJFRグループ再生可能エネルギー由来の電気使用量は、総電気使用量に占める再生可能エネルギー比率50%を達成した結果、164,450MWhと想定。なお、2030年時点の総電気使用量は、2018年度実績と同量と想定。(参考:2018年度総電気使用量実績:328,900MWh)
・再生可能エネルギー由来電気の実勢価格および2030年時点の社会・制度動向の予測をふまえ、再生可能エネルギー由来の電気料金は、それ以外の電気料金と比較して1~4円/kWhの価格高と想定。(参考:2019年度当社グループ再生可能エネルギー由来電気の購入実績:関西エリア+2円/kWh、関東エリア+4円/kWh)
上記をふまえ、当社グループでは、下記の取り組みを軸とした活動を強化・推進していきます。
・1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた、事業活動に伴う温室効果ガス排出量(Scope1,2 排出量※)の削減
・1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた、省エネルギーの推進と再生可能エネルギーの活用の推進
・1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた、サプライチェーン・プロセスにおける温室効果ガス排出量(Scope3 排出量※)の削減
※Scope1 排出量:事業活動からの直接排出量(燃料使用に伴う直接排出量)
Scope2 排出量:事業活動からの間接排出量(電気・熱の使用に伴う間接排出量)
Scope3 排出量:その他当グループが影響を及ぼす間接排出量(サプライチェーンにおける排出量)
・気候変動に伴う物理リスクへの対応策の強化による強靭なサプライチェーンの実現
・店舗を核としたCSVへの取り組みを通したサステナブルな店作りの実現による地域社会への貢献
・サーキュラーエコノミーへの取り組みによる新しいビジネス機会の実現
・消費者の消費行動の変化に対応した低炭素製品・サービスへの積極的対応
JFRグループでは、1.5~2℃未満シナリオの実現に向けた上記戦略に基づき、中長期温室効果ガス排出削減目標を設定しています。また、当社グループの中期温室効果ガス排出削減目標は、SBT(Science Based Targets)の認定を受けています。
当社グループでは、上記目標の達成のために各年度目標を設定するとともに、その達成のための施策ミックス(省エネルギー、再生可能エネルギー由来電気の調達、省エネ設備の導入など)を計画し、温室効果ガス排出量削減を推進していきます。
また、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様に対し、当社グループの温室効果ガス排出量の正確性・透明性を確保するため、「Scope1,2 温室効果ガス排出量算定・集計ルール」を策定し、2017、2018年度Scope1,2 エネルギー使用量および温室効果ガス排出量について第三者保証を取得しています。今後は、第三者保証取得の範囲をScope3 に拡大し、サプライチェーン全体においても、温室効果ガス排出量の着実な削減に向けて取り組んでまいります。
このコンテンツは、EDINET閲覧(提出)サイトに掲載された有価証券報告書(文書番号: [E03516] S100IP1O)をもとにシーフル株式会社によって作成された抜粋レポート(以下、本レポート)です。有価証券報告書から該当の情報を取得し、小さい画面の端末でも見られるようソフトウェアで機械的に情報の見栄えを調整しています。ソフトウェアに不具合等がないことを保証しておらず、一部図や表が崩れたり、文字が欠落して表示される場合があります。また、本レポートは、会計の学習に役立つ情報を提供することを目的とするもので、投資活動等を勧誘又は誘引するものではなく、投資等に関するいかなる助言も提供しません。本レポートを投資等の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。本レポートを利用して生じたいかなる損害に関しても、弊社は一切の責任を負いません。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
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