有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100J072 (EDINETへの外部リンク)
鹿島建設株式会社 研究開発活動 (2020年3月期)
当社グループは、多様化する社会及び顧客のニーズに対応し、受注や生産への貢献を目的に、建設事業の生産性及び品質向上のための技術開発を進めている。さらに、近年のIoTやAIの急速な技術革新がもたらす建設業のビジネスモデルの転換や、国連が採択したSDGsの実現、地球環境改善等の社会課題解決に資する研究開発を中長期的な課題として取り組んでおり、大学、公共機関や他企業との共同研究も推進しながら、効率的に実施している。
当連結会計年度における研究開発費の総額は164億円であり、主な成果は次のとおりである。なお、当社は研究開発活動を土木事業、建築事業のセグメントごとに区分していないため建設事業として記載している。
(建設事業)
1 当社
(1) 次世代建設生産システムの構築
① ロボット施工・IoT分野における技術連携
当社と㈱竹中工務店(以下、竹中工務店)は、建設業界全体の生産性及び魅力向上に向け、ロボット施工・IoT分野における基本合意書を締結し、技術連携を進めることとした。「建設RX(*1)プロジェクト」チームを立ち上げており、「機械遠隔操作システム」や「場内搬送管理システム」を共同開発している。また、開発済み技術の相互利用にも着手しており、当社が開発した「溶接ロボット」や竹中工務店が開発した「清掃ロボット」を両社の現場で活用していく。今後の技術開発においても、本合意書に基づき積極的に協働を進めるとともに、こうした取組みを広く業界全体に働きかけていくことにより、建設業が抱える諸課題の解決に尽力していく。*1:ロボティクス トランスフォーメーション
デジタル変革(DX)になぞらえ、ロボット変革(Robotics Transformation)の意。
② 土木工事現場への適用性を高めた四足歩行ロボットを導入
当社は、ソフトバンクロボティクス㈱並びにソフトバンク㈱の協力のもと、最先端のロボット技術を保有するBoston Dynamics社の四足歩行型ロボット「Spot」(スポット)を用いた実証実験を神奈川県のトンネル現場で実施した。その後、トンネル内の路盤などでも不自由なく歩行できるよう改良された「Spot」を、世界に先駆けて土木工事現場で活用することを目指し、2019年12月に導入した。今後はトンネル現場をはじめ様々な土木工事への活用を図る。これからも「Spot」をはじめとするロボット技術の導入を積極的に推進し、建設業界の更なる生産性や安全性の向上を図り、業務の効率化を目指す。③ 動画像分析を活用したコンクリートの全量受入れ管理システム
土木分野のコンクリート工事において、アジテータ車から荷卸しされるコンクリートの全量を連続的にモニタリングし、その動画像から施工性の良否をリアルタイムで判定するシステムを開発した。本システムにより、施工性の悪いコンクリートを確実に排除し、配管閉塞などの施工不良を未然に防止する。また、既存技術である連続RI水分計と組み合わせて用いることで、強度や耐久性も連続してモニタリングし、少人数で総合的な品質管理、コンクリート構造物の品質確保を実現する。(2) 社会・顧客にとって価値ある建設・サービスの提供
① 建物の全てのフェーズでBIMによる「デジタルツイン」を実現
当社は、建物の企画・設計から施工、竣工後の維持管理・運営までの各情報を全てデジタル化し、それらを仮想空間上にリアルタイムに再現する「デジタルツイン」を推進しており、当社のBIM推進モデルプロジェクトであるオービック御堂筋ビル新築工事(大阪市中央区)において、各フェーズにおける建物データの連携を可能にするBIMによる「デジタルツイン」を実現した。今後はBIMデータの利活用範囲をさらに拡大し、建築プロジェクトにおける様々な業務の効率化を図っていくとともに、建物オーナーや利用者の利便性・快適性と、建物資産価値のより一層の向上に寄与していく。② 河川の水位予測システムを実工事に適用
当社は、㈱構造計画研究所が提供する「力学系理論を用いた河川の水位予測システム」を、工事の安全及び施工管理に必要な情報を提供できるようにカスタマイズし、施工中の大河津分水路新第二床固改築Ⅰ期工事(新潟県長岡市)に適用した。本システムは、測定地点の6時間後の水位を予測するもので、2019年10月より本工事に適用し、取得した測定地点の予測と実測水位を比較した結果、その有用性が確認できた。各種作業の実施や継続の可否、避難の要否の判断に非常に有益であることから、今後、他の河川内工事等への適用を進め、工事の安全及び施工管理の更なる向上を図っていく。③ 新たなプラットフォームを活用した建物管理サービスの提供
当社と鹿島建物総合管理㈱は、日本マイクロソフト㈱と連携し、建物管理プラットフォーム「鹿島スマートBM※」(Kajima Smart Building Management)を開発、サービスの提供を開始した。空調や照明などの稼働状況、温度や照度などの室内環境並びにエネルギー消費量など、建物に関する様々なデータをIoTを活用してマイクロソフトのクラウドプラットフォーム(Microsoft Azure)に蓄積しAIを用いて分析することで、設備の最適調整や省エネルギー支援によるランニングコストの削減、機器の異常や故障の早期把握などを実現する。2019年度中に国内の既存建物に適用しており、今後更なる展開を進めていく。(3) 社会課題取組み強化(インフラ、耐震環境)
① 安価で高速施工を可能にする「スマート床版更新(SDR(*2))システムTM」を開発
道路橋床版更新工事に伴う交通規制等によるソーシャルロスの大幅な低減を可能にする新しい床版更新システム「スマート床版更新(SDR)システムTM」を開発した。本システムを適用することで、既設床版の撤去、鋼桁上フランジの錆などを除去するケレン作業、高さ調整工、新設床版の架設を同時並行で進めることができ、標準的な施工方法と比較し、床版取替工程を約1/3に短縮することが可能となる。また、新たに開発した軽量な床版撤去機及び架設機を適用することで、交通規制範囲の最小化、並びに近接する交通や周辺施設に対する高い安全性の確保が可能となる。さらには、工事現場の近傍に設置したプレキャスト工場で床版を製作することにより、2割程度の工事費低減が見込まれる。実工事への適用に向け、本システムを積極的に提案していく。
*2:Smart Deck Renewal
② 中低層建物用TMD(*3)「D3SKY※-c」(ディースカイシー)を既存ビルの制震改修工事に初適用
2019年1月に中低層建物向けに開発したコンパクトで低コスト型の制震装置TMD「D3SKY※-c」を、福岡フジランドビル(福岡市博多区)の制震改修工事に初適用し、従来にない合理的な制震改修を実現した。「D3SKY※-c」は、超高層建物用に開発した超大型TMD「D3SKY※」に改良を加え、これまで十分なソリューションがなかった中低層建物向けの制震技術として開発した制震装置で、風揺れから大地震まで様々な種類の揺れを効果的に低減する。今後、建物の耐震安全性だけでなく居住性や安心感の向上に向け、新築・既存改修を問わず、市街地中心部や繁華街に位置する30~60mの中低層建物に、「D3SKY※-c」を積極的に提案していく。
*3:Tuned Mass Damper建物に設置した錘が揺れることによって、地震や風に対する建物の振動を抑制する制震装置。
③ 環境DNA(*4)技術を用いたホタルの調査手法を開発
微量な環境DNAを検出し、小型で発見しづらい水中のホタル幼虫の生息状況を調査する手法を開発した。独自に開発したPCRプライマー(*5)を用いて、通常は成虫の飛翔を目視で数えて把握するホタルの生息状況を生化学分析で行うことにより、これまで困難であった水中生活期のホタルの幼虫のモニタリングが可能となる。また、調査自体がもたらす人為的な影響を最小限に抑える環境に優しい手法であり、広範囲かつ幅広い動植物を対象とする網羅的な生物モニタリングにも応用できる。これらの技術を発展させ、当社が施工するグリーンインフラの品質確保や、地域の環境保全ニーズに対するソリューションに積極的に貢献できるよう、今後も研究を進めていく。
*4:生物の生息環境(水中や土中等)に生物が放出したDNA。
*5:目的のDNAを判別する目印の働きをする合成DNA。
(国内関係会社)
1 鹿島道路㈱
舗装に関する新技術の開発再生アスファルト混合物の品質向上技術を開発し、アスファルト合材製造所に実装した。今後は全国のアスファルト合材製造所への展開を図る。
また、アスファルト混合物の環境配慮型製造技術、建機の自動化等ICTを用いた省力化、省人化技術、重機の安全性向上技術等について、引き続き研究開発を進めている。
2 ケミカルグラウト㈱
品質管理システムの確立高圧噴射攪拌工法(ジェットグラウト工法)において、施工中にリアルタイムで品質管理を行うことが可能となる品質管理システムを開発した。
同工法における地盤改良の品質は、従来は造成した改良体の固化後にコアを採取し評価していたが、セメント系固化材の固化後では品質不良が発見されても再施工は困難であるため、施工中にリアルタイムで改良体の品質を測定する管理技術が求められていた。
本システムは、従来の既存技術のACI(*6)のデータと施工中に自動で収集した排泥の性状データを評価、統合し、リアルタイムにモニター上へ表示するとともに、改良体の品質不良が予測された場合に現場作業者へ警告を行うシステムである。
これにより、改良体の品質不良低減はもとより、同社の工法の更なる信頼性向上を図り、他の高圧噴射攪拌工法との差別化を行い市場競争力の強化を目指す。
なお、2019年度には実用可能な装置が完成したため、今後実工事での検証を進め、更に予測精度を上げることにより、改良体の品質不良の低減につなげていくこととする。
*6:Acoustic Column Inspector 音響改良径判定
(開発事業等及び海外関係会社)
研究開発活動は特段行われていない。(注) 工法等に「※」が付されているものは、当社の登録商標である。また、「TM」が付されているものは当社の商標である。
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