有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100IZHR (EDINETへの外部リンク)
株式会社LTTバイオファーマ 事業の内容 (2020年3月期)
当社グループ(当社及びその他の関係会社)は、医薬品の研究開発・販売を主たる業務としております。
当社は、聖マリアンナ医科大学発ベンチャーである株式会社エルティーティー研究所(1988年設立)の創薬事業を継承した企業であります。当社の経営理念は、最先端の科学技術を医療に応用し、世界中の人々の健康と命を守ることへの貢献です。
創設者で初代会長の水島裕は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)研究の草分け的存在であり、リポPGE1(パルクス、リプル)を始め、多くの新薬開発を成功に導きました。また、いち早く中国での医薬品ビジネスの将来性を見抜き、1995年に中国政府系病院と共同で北京泰德制药股份有限公司(以下、北京泰徳製薬)を設立し、リポPGE1を始め多くの新薬を開発しました。2008年に会長を引き継いだ水島徹は、わが国にドラッグ・リポジショニング(DR)を広めた研究者です。現在北京泰德製薬の副董事長として同社研究所での指導や医薬品開発の支援も行っています。
このような沿革からお分かり頂けますように当社には他のバイオベンチャーにはない、以下に挙げる多くの特徴(財産)を持っています。
①DDSとDRという効率的な創薬手法において、世界をリードするコア技術
②産学官に広がる人的ネットワーク(特に、アカデミアとの繋がり)
③中国有数の製薬企業に成長した北京泰德製薬との強い繋がり
④会社の継続実績に基づく信頼と、創薬ノウハウの蓄積(経験豊かな社員・役員)
⑤安定的な収益に基づく医薬品開発推進力
当社はこれまでの研究開発の更なる発展を目指すと共に、新たな試みを開始しております。一つは大学や他企業との共同研究により、既存パイプラインを発展させると共に、新たなパイプラインを増やしていくことです。二つ目は北京泰德製薬との密接な連携による創薬です。三つ目は自社ラボを整備し研究を加速させることです。さらに、他企業やアカデミアが持つ候補医薬品を当社がライセンスインし、一緒に開発を進める事業を開始しました。これらの試みは全て、前述の当社の財産を活かしたものです。
この新しい試みの成果も産まれ始めています。例えば、2020年3月には、長年の課題であったPC-SOD(LT-1001)に関する国内製薬企業との共同研究契約の調印に成功しました。2018年3月に開始したノーベルファーマ株式会社との共同開発に関しては、DRに関する臨床試験を2019年4月に開始しました。また当事業年度には新たに北海道大学、東京薬科大学、国立成育医療研究センターと共同研究契約を結び共同研究を開始しました。北京泰德製薬との連携による創薬も進んでおります。さらに、前事業年度に新設した湘南研究所も本格稼働しています。今後も当社独自のパイプラインを進展させると共に、新しい取り組みにも邁進して参ります。
(1)DDSについて
DDSは、医薬品を必要な場所に、必要な時間、必要な量だけ送達する技術です。この技術によって薬物投与量や投与回数の軽減が可能になります。つまり薬の効果を高める一方で副作用を軽減することで、患者様の負担を減らすことができます。DDSは、既に臨床で使用されている既承認薬(既に疾患治療薬として承認されている医薬品)を使用しますので、一部の安全性試験などを省略でき、効率的かつ高い成功確率で医薬品を開発できます。また、望ましい薬効がありながら、その副作用や製剤上の理由で開発を断念した薬物をDDSにより復活させることも可能です。さらに最近では、最初からDDS化して開発しなければならないもの(例えば、核酸医薬や抗体-薬物複合体[ADC:Antibody-Drug Conjugate]など)も増えています。このようにDDSは、新薬開発に要する開発期間の大幅な短縮とコストの削減、開発リスクの低減、及び上市の早期実現を可能にします。
当社はDDS分野のリーディングカンパニーであると自負しています。当社の開発したDDS製剤・リポPGE1はピーク時の日本での売り上げが500億円を超える医薬品となりました。また当社のその他の関係会社・北京泰德製薬は、中国でのリポPGE1の上市に成功し、その売上はピーク時300億円を超えました(全医薬品中、売上4位)。リポPGE1は脂肪微粒子に封入することによりPGE1の失活を防ぐと共に、疾患部位へターゲッティングするDDS製剤で、脂肪微粒子を使ったDDS製剤としては世界初でした。我々はこの技術を応用し、リポNSAIDなど複数の脂肪微粒子製剤の開発に成功しました。なお、リポNSAIDも北京泰徳製薬の主力医薬品に成長し、その売上は200億円を超えました。
(脂肪微粒子の構造)
その後も、世界初の新しいDDS技術を開発し、医薬品としての上市を目指して来ました。例えば、当社が現在一番力を入れて開発しているPC-SOD(LT-1001、LT-1002)は、SODというタンパク質にリン脂質を結合させ(レシチン化)、その医薬品としての効果を格段に高めたDDS製剤です。タンパク質のレシチン化技術を持っているのは当社のみであり、この技術は他のタンパク質にも適応可能です。
(SOD(2量体)にリン脂質(phosphatidylcholine)を4分子共有結合させたDDS製剤)
また、我々が開発したステルス型ナノ粒子も画期的なDDS技術です。これまでのDDS技術は、ターゲッティング(疾患部位に薬物を選択的に送達させる)、あるいは徐放化(薬物を徐々に放出させる)のどちらかだけを狙っていましたが、ステルス型ナノ粒子は、この両方の目的を同時に達成した世界初のDDS製剤です。例えば、この粒子にPGE1を封入したナノ粒子(ナノPGE1、LT-2003)は、血管病変部に集積しそこでPGE1を放出するため、我々が上市したリポPGE1よりも、少ない量と投与回数でもより高い薬効を発揮することが期待されています。
リポソーム医薬品は既に世界で20品目が上市されています。抗がん剤、核酸を含む多くの薬物をリポソーム(リピドナノパーティクルを含む)に封入することにより、標的とする組織・細胞へのパッシブターゲティング、アクティブターゲティングが可能となります。湘南研究所長は企業で38年間以上、リポソームを中心としたDDS研究に従事してきており、大量生産、安定性保証、治験薬製造、レギュレーション対応、日米欧の製薬会社・化粧品会社との共同開発等で多くの実績と経験を有しています。現在は、この知識と経験を活かした他社との連携も始まり出しております。
(2)DRについて
当社は、DRも推進しています。DRとは、ヒトでの安全性・体内動態が充分に証明されている既承認薬の新しい薬理効果を発見し、その薬を別の疾患治療薬として開発(適応拡大)することです。
DRのメリットは、既に臨床で使われている医薬品なので、ヒトでの安全性や体内動態などがよく分かっており、臨床試験で予想外の副作用や体内動態の問題が発見され開発が失敗する可能性が少ない、即ち医薬品開発の成功確率が高いことです。さらに、既にあるデータ(試験管内での毒性試験、動物での毒性試験やADME試験、第Ⅰ相臨床試験など)を再利用し、開発にかかる時間とコストを削減できることもDRのメリットです。
既承認薬の適応拡大はこれまでも行われていましたが、臨床の現場でたまたま見つかった効果を基にした適応拡大であったり、製薬企業が自社医薬品の適応を類似疾患へ拡大したりするパターンでした。これに対し当社では、網羅的・体系的・科学的なDRを行っています。具体的には、日本で承認された薬(既承認薬)だけを集めた化合物ライブラリーを独自に構築し、これを用いて様々なスクリーニングを実施し、DR研究を進めてまいりました(COPD、ドライアイ、肺線維症など)。また、このライブラリーを無償で提供し共同でDRを進める共同事業を展開しています。さらに、スクリーニングで得られた既承認薬の薬効をさらに高めるために、あるいは物質特許を得るために当社は、既承認薬をリード化合物として誘導体を合成し、新規物質を創成してきております(LT-3001、LT-3002など)。
臨床での安全性は確認されたものの、薬効不足などにより臨床開発が中断した化合物(お蔵入り新薬)を抱える製薬企業は多く、DRにより新たな薬理効果を発見し別の疾患治療薬として開発することができれば、大きなメリットとなります。当社は大手企業からこのようなDRを受託するビジネスも展開しています。
欧米では、2007年頃からメガファーマが急激にDRへ創薬戦略をシフトし、DRによる成果も次々に産まれています。一方、我が国ではDRへのシフトが遅れていました。しかし、当社の研究成果がマスコミ等で紹介された結果、我が国でもDRが注目されるようになってきました。このように我が国でDRへの関心が急速に高まっている中で、DRのリーディングカンパニーである当社は、その更なる推進を図っています。
(3)北京泰德制药股份有限公司と連携した医薬品開発について
1995年に当社と中国の政府系病院が設立した北京泰德製薬は、中国有数の大手製薬企業に成長しました。自社MRが1,300人以上在籍し、販売網は中国全域をカバーしており、その販売力には定評があります。また、多くの医薬品の中国での上市に成功しておりその開発力も抜群です。当社は北京泰徳製薬と資本業務提携、並びに包括支援契約を結び、密接に連携してきました。さらに最近は、北京泰徳製薬の成長を取り込むために、北京泰徳製薬が必要としている薬を当社が研究開発したり、他社の中国での医療ビジネス展開を支援したりする新たなビジネスも行っております。
(4)パイプラインについて
①心筋梗塞、ARDS、腎障害治療薬としてのPC-SOD
多くの病気の根本的な原因となっている活性酸素を効果的に消去するPC-SODは、様々な疾患の治療薬として有望です。実際、特発性肺線維症と潰瘍性大腸炎に関しては、当社が行った臨床試験で有効性が示唆されています。また動物モデルで有効性が示された疾患は、この二つの疾患に加えて、COPD、ドライマウス、脳梗塞、脊髄損傷、熱傷、外傷性脳損傷、移植時傷害、心筋梗塞、強皮症、ARDSなど多岐に渡っています。まず、注射剤(LT-1001)として第Ⅱ相臨床試験まで研究開発を進めましたが、静脈内投与では患者様が長期の入院を余儀なくされるため、通院のみで治療が可能な新しい投与方法(ネブライザーを用いた吸入投与、LT-1002)を考案しました。しかし特発性肺線維症を対象とした臨床試験では、安全性は確認できたものの、有効性を証明することが出来ませんでした。そこで現在では、急性、かつ臨床ニーズが高い疾患を対象に、注射剤での開発を進めています。特に、腎障害、脳梗塞、心筋梗塞、ARDSに注目しています。この内心筋梗塞に関しては、北京泰徳製薬が中国で第一・二相臨床試験実施の許可を得て、既に第二相試験を開始しています。また当社が新たなに発見した画期的な適応症(疾患名不開示)に関しては、臨床試験の準備を進めております。
開発コード:LT-1001(注射剤)、LT-1002(吸入剤)(PC-SOD)
対象疾患:腎障害、脳梗塞、心筋梗塞、ARDS、潰瘍性大腸炎、特発性肺線維症など
開発ステージ:第Ⅰ相臨床試験終了、一部第Ⅱ相臨床試験終了
知財:物質特許、用途特許、製剤特許
②集積性と徐放性を併せ持つDDSキャリア・ステルス型ナノ粒子
これまでのDDSキャリアは、集積性、あるいは徐放性のどちらかだけを目指したものでしたが、当社はその両者を同時に達成するステルス型ナノ粒子の開発に世界で初めて成功しました。次に記載の③と④はこの技術を利用したものですが、この粒子を使った他社との共同開発も行っています。
③末梢動脈閉塞症治療薬としてのナノPGE1
当社が開発したリポPGE1は、多くの患者様の治療に貢献してきました。しかし、毎日注射をする必要があり、QOLの点では問題がありました。そこで当社は、集積性と徐放性を併せ持つDDSキャリア・ステルス型ナノ粒子にPGE1を封入したナノPGE1を開発しました。この製剤は、二週間に一回程度の投与で、リポPGE1の毎日投与を上回る効果が期待されています。
開発コード:LT-2002(ナノPGE1)
対象疾患:末梢動脈閉塞症
開発ステージ:基礎研究
知財:製剤特許
④肺高血圧症治療薬としての、ナノPGI2誘導体
現在、肺高血圧症の治療には、PGI2のポンプによる持続投与、あるいはPGI2誘導体の経口投与が行われていますが、前者はQOLの面で、後者は効果の面で問題があります。そこで当社は、集積性と徐放性を併せ持つDDSキャリア・ステルス型ナノ粒子に、PGI2誘導体を封入したナノPGI2誘導体を開発しました。この製剤は血管病変部に集積し、そこでPGI2誘導体を徐放しますので、二週間に一回程度の投与でも、十分な効果を発揮することが期待されます。
開発コード:LT-2003(ナノPGI2誘導体)
対象疾患:肺高血圧症
開発ステージ:基礎研究
知財:製剤特許
※QOL(Quality of Life)とは、生活を物質的な面から量的にのみとらえるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含めて、質的にとらえる考え方であります。
⑤胃潰瘍を起こしにくく、かつ速効性に優れた新規NSAID
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は、解熱鎮痛抗炎症薬として臨床上必要不可欠ですが、胃潰瘍副作用が大きな問題になっています。当社は、既存のNSAIDに比べ,格段に胃潰瘍を起こしにくく、かつより速やかに鎮痛効果を発揮する新規NSAID(LT-3001)を発見しました。
開発コード:LT-3001(新規物質)
対象疾患:炎症性疾患
開発ステージ:非臨床試験実施中
知財:物質特許
⑥長時間作用性の気管支拡張効果と抗炎症効果を併せ持つCOPD治療薬
COPD治療には現在、症状を改善するための長時間作用型気管支拡張薬と、病気の進行を抑制するためのステロイドが使用されています。これに対して当社が発見したLT-3002は、動物実験において、既存の気管支拡張薬よりも長く気管支を拡張するだけでなく、ステロイドよりも強力な抗炎症作用を発揮します。このようにLT-3002はCOPD治療薬として大変有望な新規物質です。
開発コード:LT-3002(新規物質)
対象疾患:COPD
開発ステージ:非臨床試験実施中
知財:物質特許
⑦気管支拡張効果と抗炎症効果を併せ持つCOPD治療薬(既承認薬)
COPD治療には現在、症状を改善するための長時間作用型気管支拡張薬と、病気の進行を抑制するためのステロイドの両者が使用されています。これに対して当社では、既承認薬ライブラリーから、気管支拡張効果と抗炎症効果を併せ持つ既承認薬LT-4001を発見しました。
開発コード:LT-4001(既承認薬)
対象疾患:COPD
開発ステージ:既承認薬のため、非臨床試験は完了
知財:用途特許、製剤特許
⑧新しいメカニズムのドライアイ治療薬
ドライアイに対しては、様々なメカニズムの医薬品が上市・開発されていますが、未だ治療法は確立されていません。現在、涙液の高浸透圧化による傷害から角膜を守る薬がないことに着目し、当社では医薬品を既承認薬ライブラリーから検索し、既承認薬LT-4002を発見しました。また、前期第Ⅱ相臨床試験を実施し有効性と安全性を確認しました。当事業年度には後期第Ⅱ相臨床試験を実施し完了しました。現在、結果の解析を行っておりますが、終了次第なるべく早く結果をお知らせする予定です。
開発コード:LT-4002(既承認薬)
対象疾患:ドライアイ
開発ステージ:後期第Ⅱ相臨床試験終了
知財:用途特許、製剤特許
⑨抗がん剤の効果を高める既承認薬
抗がん剤による治療において、併用薬により抗がん剤の有効濃度を下げることが出来れば、作用の増強・副作用の低減に繋がります。抗がん剤Aはある種の難治性癌に有効性を示す一方で、重篤な消化管障害のためその使用を制限しなくてはならないことが臨床で問題になっています。そこで我々は静岡県立大学と共同で、抗がん剤Aの抗がん作用を増強する医薬品を既承認薬ライブラリーからスクリーニングし既承認薬LT-4009を発見しました。
開発コード:LT-4009(既承認薬)
対象疾患:がん
開発ステージ:既承認薬のため、非臨床試験は完了
知財:用途特許、製剤特許
⑩新しいメカニズムの肺線維症治療薬
特発性肺線維症は肺が徐々に線維化し呼吸機能が低下する疾患で、5年生存率は40%以下で肺がんよりも予後が悪いと言われています。この疾患では筋線維芽細胞が活性化することが原因と考えられています。そこで我々は武蔵野大学と共同で、筋線維芽細胞の活性を医薬品を既承認薬ライブラリーからスクリーニングし既承認薬LT-4010を発見しました。
開発コード:LT-4010(既承認薬)
対象疾患:肺線維症
開発ステージ:既承認薬のため、非臨床試験は完了
知財:用途特許
⑪ノーベルファーマ株式会社と共同開発している既承認薬(同社との契約により詳細は非開示)
開発コード:LT-5001(既承認薬)
対象疾患:非開示
開発ステージ:後期第Ⅱ相臨床試験実施中
知財:非開示
〔事業系統図〕
研究開発に係る事業系統図は次のとおりであります。
(注)北京泰德制药股份有限公司は、その他の関係会社であります。
当社は、聖マリアンナ医科大学発ベンチャーである株式会社エルティーティー研究所(1988年設立)の創薬事業を継承した企業であります。当社の経営理念は、最先端の科学技術を医療に応用し、世界中の人々の健康と命を守ることへの貢献です。
創設者で初代会長の水島裕は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)研究の草分け的存在であり、リポPGE1(パルクス、リプル)を始め、多くの新薬開発を成功に導きました。また、いち早く中国での医薬品ビジネスの将来性を見抜き、1995年に中国政府系病院と共同で北京泰德制药股份有限公司(以下、北京泰徳製薬)を設立し、リポPGE1を始め多くの新薬を開発しました。2008年に会長を引き継いだ水島徹は、わが国にドラッグ・リポジショニング(DR)を広めた研究者です。現在北京泰德製薬の副董事長として同社研究所での指導や医薬品開発の支援も行っています。
このような沿革からお分かり頂けますように当社には他のバイオベンチャーにはない、以下に挙げる多くの特徴(財産)を持っています。
①DDSとDRという効率的な創薬手法において、世界をリードするコア技術
②産学官に広がる人的ネットワーク(特に、アカデミアとの繋がり)
③中国有数の製薬企業に成長した北京泰德製薬との強い繋がり
④会社の継続実績に基づく信頼と、創薬ノウハウの蓄積(経験豊かな社員・役員)
⑤安定的な収益に基づく医薬品開発推進力
当社はこれまでの研究開発の更なる発展を目指すと共に、新たな試みを開始しております。一つは大学や他企業との共同研究により、既存パイプラインを発展させると共に、新たなパイプラインを増やしていくことです。二つ目は北京泰德製薬との密接な連携による創薬です。三つ目は自社ラボを整備し研究を加速させることです。さらに、他企業やアカデミアが持つ候補医薬品を当社がライセンスインし、一緒に開発を進める事業を開始しました。これらの試みは全て、前述の当社の財産を活かしたものです。
この新しい試みの成果も産まれ始めています。例えば、2020年3月には、長年の課題であったPC-SOD(LT-1001)に関する国内製薬企業との共同研究契約の調印に成功しました。2018年3月に開始したノーベルファーマ株式会社との共同開発に関しては、DRに関する臨床試験を2019年4月に開始しました。また当事業年度には新たに北海道大学、東京薬科大学、国立成育医療研究センターと共同研究契約を結び共同研究を開始しました。北京泰德製薬との連携による創薬も進んでおります。さらに、前事業年度に新設した湘南研究所も本格稼働しています。今後も当社独自のパイプラインを進展させると共に、新しい取り組みにも邁進して参ります。
(1)DDSについて
DDSは、医薬品を必要な場所に、必要な時間、必要な量だけ送達する技術です。この技術によって薬物投与量や投与回数の軽減が可能になります。つまり薬の効果を高める一方で副作用を軽減することで、患者様の負担を減らすことができます。DDSは、既に臨床で使用されている既承認薬(既に疾患治療薬として承認されている医薬品)を使用しますので、一部の安全性試験などを省略でき、効率的かつ高い成功確率で医薬品を開発できます。また、望ましい薬効がありながら、その副作用や製剤上の理由で開発を断念した薬物をDDSにより復活させることも可能です。さらに最近では、最初からDDS化して開発しなければならないもの(例えば、核酸医薬や抗体-薬物複合体[ADC:Antibody-Drug Conjugate]など)も増えています。このようにDDSは、新薬開発に要する開発期間の大幅な短縮とコストの削減、開発リスクの低減、及び上市の早期実現を可能にします。
当社はDDS分野のリーディングカンパニーであると自負しています。当社の開発したDDS製剤・リポPGE1はピーク時の日本での売り上げが500億円を超える医薬品となりました。また当社のその他の関係会社・北京泰德製薬は、中国でのリポPGE1の上市に成功し、その売上はピーク時300億円を超えました(全医薬品中、売上4位)。リポPGE1は脂肪微粒子に封入することによりPGE1の失活を防ぐと共に、疾患部位へターゲッティングするDDS製剤で、脂肪微粒子を使ったDDS製剤としては世界初でした。我々はこの技術を応用し、リポNSAIDなど複数の脂肪微粒子製剤の開発に成功しました。なお、リポNSAIDも北京泰徳製薬の主力医薬品に成長し、その売上は200億円を超えました。
(脂肪微粒子の構造)
その後も、世界初の新しいDDS技術を開発し、医薬品としての上市を目指して来ました。例えば、当社が現在一番力を入れて開発しているPC-SOD(LT-1001、LT-1002)は、SODというタンパク質にリン脂質を結合させ(レシチン化)、その医薬品としての効果を格段に高めたDDS製剤です。タンパク質のレシチン化技術を持っているのは当社のみであり、この技術は他のタンパク質にも適応可能です。
(SOD(2量体)にリン脂質(phosphatidylcholine)を4分子共有結合させたDDS製剤)
また、我々が開発したステルス型ナノ粒子も画期的なDDS技術です。これまでのDDS技術は、ターゲッティング(疾患部位に薬物を選択的に送達させる)、あるいは徐放化(薬物を徐々に放出させる)のどちらかだけを狙っていましたが、ステルス型ナノ粒子は、この両方の目的を同時に達成した世界初のDDS製剤です。例えば、この粒子にPGE1を封入したナノ粒子(ナノPGE1、LT-2003)は、血管病変部に集積しそこでPGE1を放出するため、我々が上市したリポPGE1よりも、少ない量と投与回数でもより高い薬効を発揮することが期待されています。
リポソーム医薬品は既に世界で20品目が上市されています。抗がん剤、核酸を含む多くの薬物をリポソーム(リピドナノパーティクルを含む)に封入することにより、標的とする組織・細胞へのパッシブターゲティング、アクティブターゲティングが可能となります。湘南研究所長は企業で38年間以上、リポソームを中心としたDDS研究に従事してきており、大量生産、安定性保証、治験薬製造、レギュレーション対応、日米欧の製薬会社・化粧品会社との共同開発等で多くの実績と経験を有しています。現在は、この知識と経験を活かした他社との連携も始まり出しております。
(2)DRについて
当社は、DRも推進しています。DRとは、ヒトでの安全性・体内動態が充分に証明されている既承認薬の新しい薬理効果を発見し、その薬を別の疾患治療薬として開発(適応拡大)することです。
DRのメリットは、既に臨床で使われている医薬品なので、ヒトでの安全性や体内動態などがよく分かっており、臨床試験で予想外の副作用や体内動態の問題が発見され開発が失敗する可能性が少ない、即ち医薬品開発の成功確率が高いことです。さらに、既にあるデータ(試験管内での毒性試験、動物での毒性試験やADME試験、第Ⅰ相臨床試験など)を再利用し、開発にかかる時間とコストを削減できることもDRのメリットです。
既承認薬の適応拡大はこれまでも行われていましたが、臨床の現場でたまたま見つかった効果を基にした適応拡大であったり、製薬企業が自社医薬品の適応を類似疾患へ拡大したりするパターンでした。これに対し当社では、網羅的・体系的・科学的なDRを行っています。具体的には、日本で承認された薬(既承認薬)だけを集めた化合物ライブラリーを独自に構築し、これを用いて様々なスクリーニングを実施し、DR研究を進めてまいりました(COPD、ドライアイ、肺線維症など)。また、このライブラリーを無償で提供し共同でDRを進める共同事業を展開しています。さらに、スクリーニングで得られた既承認薬の薬効をさらに高めるために、あるいは物質特許を得るために当社は、既承認薬をリード化合物として誘導体を合成し、新規物質を創成してきております(LT-3001、LT-3002など)。
臨床での安全性は確認されたものの、薬効不足などにより臨床開発が中断した化合物(お蔵入り新薬)を抱える製薬企業は多く、DRにより新たな薬理効果を発見し別の疾患治療薬として開発することができれば、大きなメリットとなります。当社は大手企業からこのようなDRを受託するビジネスも展開しています。
欧米では、2007年頃からメガファーマが急激にDRへ創薬戦略をシフトし、DRによる成果も次々に産まれています。一方、我が国ではDRへのシフトが遅れていました。しかし、当社の研究成果がマスコミ等で紹介された結果、我が国でもDRが注目されるようになってきました。このように我が国でDRへの関心が急速に高まっている中で、DRのリーディングカンパニーである当社は、その更なる推進を図っています。
(3)北京泰德制药股份有限公司と連携した医薬品開発について
1995年に当社と中国の政府系病院が設立した北京泰德製薬は、中国有数の大手製薬企業に成長しました。自社MRが1,300人以上在籍し、販売網は中国全域をカバーしており、その販売力には定評があります。また、多くの医薬品の中国での上市に成功しておりその開発力も抜群です。当社は北京泰徳製薬と資本業務提携、並びに包括支援契約を結び、密接に連携してきました。さらに最近は、北京泰徳製薬の成長を取り込むために、北京泰徳製薬が必要としている薬を当社が研究開発したり、他社の中国での医療ビジネス展開を支援したりする新たなビジネスも行っております。
(4)パイプラインについて
①心筋梗塞、ARDS、腎障害治療薬としてのPC-SOD
多くの病気の根本的な原因となっている活性酸素を効果的に消去するPC-SODは、様々な疾患の治療薬として有望です。実際、特発性肺線維症と潰瘍性大腸炎に関しては、当社が行った臨床試験で有効性が示唆されています。また動物モデルで有効性が示された疾患は、この二つの疾患に加えて、COPD、ドライマウス、脳梗塞、脊髄損傷、熱傷、外傷性脳損傷、移植時傷害、心筋梗塞、強皮症、ARDSなど多岐に渡っています。まず、注射剤(LT-1001)として第Ⅱ相臨床試験まで研究開発を進めましたが、静脈内投与では患者様が長期の入院を余儀なくされるため、通院のみで治療が可能な新しい投与方法(ネブライザーを用いた吸入投与、LT-1002)を考案しました。しかし特発性肺線維症を対象とした臨床試験では、安全性は確認できたものの、有効性を証明することが出来ませんでした。そこで現在では、急性、かつ臨床ニーズが高い疾患を対象に、注射剤での開発を進めています。特に、腎障害、脳梗塞、心筋梗塞、ARDSに注目しています。この内心筋梗塞に関しては、北京泰徳製薬が中国で第一・二相臨床試験実施の許可を得て、既に第二相試験を開始しています。また当社が新たなに発見した画期的な適応症(疾患名不開示)に関しては、臨床試験の準備を進めております。
開発コード:LT-1001(注射剤)、LT-1002(吸入剤)(PC-SOD)
対象疾患:腎障害、脳梗塞、心筋梗塞、ARDS、潰瘍性大腸炎、特発性肺線維症など
開発ステージ:第Ⅰ相臨床試験終了、一部第Ⅱ相臨床試験終了
知財:物質特許、用途特許、製剤特許
②集積性と徐放性を併せ持つDDSキャリア・ステルス型ナノ粒子
これまでのDDSキャリアは、集積性、あるいは徐放性のどちらかだけを目指したものでしたが、当社はその両者を同時に達成するステルス型ナノ粒子の開発に世界で初めて成功しました。次に記載の③と④はこの技術を利用したものですが、この粒子を使った他社との共同開発も行っています。
③末梢動脈閉塞症治療薬としてのナノPGE1
当社が開発したリポPGE1は、多くの患者様の治療に貢献してきました。しかし、毎日注射をする必要があり、QOLの点では問題がありました。そこで当社は、集積性と徐放性を併せ持つDDSキャリア・ステルス型ナノ粒子にPGE1を封入したナノPGE1を開発しました。この製剤は、二週間に一回程度の投与で、リポPGE1の毎日投与を上回る効果が期待されています。
開発コード:LT-2002(ナノPGE1)
対象疾患:末梢動脈閉塞症
開発ステージ:基礎研究
知財:製剤特許
④肺高血圧症治療薬としての、ナノPGI2誘導体
現在、肺高血圧症の治療には、PGI2のポンプによる持続投与、あるいはPGI2誘導体の経口投与が行われていますが、前者はQOLの面で、後者は効果の面で問題があります。そこで当社は、集積性と徐放性を併せ持つDDSキャリア・ステルス型ナノ粒子に、PGI2誘導体を封入したナノPGI2誘導体を開発しました。この製剤は血管病変部に集積し、そこでPGI2誘導体を徐放しますので、二週間に一回程度の投与でも、十分な効果を発揮することが期待されます。
開発コード:LT-2003(ナノPGI2誘導体)
対象疾患:肺高血圧症
開発ステージ:基礎研究
知財:製剤特許
※QOL(Quality of Life)とは、生活を物質的な面から量的にのみとらえるのではなく、精神的な豊かさや満足度も含めて、質的にとらえる考え方であります。
⑤胃潰瘍を起こしにくく、かつ速効性に優れた新規NSAID
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は、解熱鎮痛抗炎症薬として臨床上必要不可欠ですが、胃潰瘍副作用が大きな問題になっています。当社は、既存のNSAIDに比べ,格段に胃潰瘍を起こしにくく、かつより速やかに鎮痛効果を発揮する新規NSAID(LT-3001)を発見しました。
開発コード:LT-3001(新規物質)
対象疾患:炎症性疾患
開発ステージ:非臨床試験実施中
知財:物質特許
⑥長時間作用性の気管支拡張効果と抗炎症効果を併せ持つCOPD治療薬
COPD治療には現在、症状を改善するための長時間作用型気管支拡張薬と、病気の進行を抑制するためのステロイドが使用されています。これに対して当社が発見したLT-3002は、動物実験において、既存の気管支拡張薬よりも長く気管支を拡張するだけでなく、ステロイドよりも強力な抗炎症作用を発揮します。このようにLT-3002はCOPD治療薬として大変有望な新規物質です。
開発コード:LT-3002(新規物質)
対象疾患:COPD
開発ステージ:非臨床試験実施中
知財:物質特許
⑦気管支拡張効果と抗炎症効果を併せ持つCOPD治療薬(既承認薬)
COPD治療には現在、症状を改善するための長時間作用型気管支拡張薬と、病気の進行を抑制するためのステロイドの両者が使用されています。これに対して当社では、既承認薬ライブラリーから、気管支拡張効果と抗炎症効果を併せ持つ既承認薬LT-4001を発見しました。
開発コード:LT-4001(既承認薬)
対象疾患:COPD
開発ステージ:既承認薬のため、非臨床試験は完了
知財:用途特許、製剤特許
⑧新しいメカニズムのドライアイ治療薬
ドライアイに対しては、様々なメカニズムの医薬品が上市・開発されていますが、未だ治療法は確立されていません。現在、涙液の高浸透圧化による傷害から角膜を守る薬がないことに着目し、当社では医薬品を既承認薬ライブラリーから検索し、既承認薬LT-4002を発見しました。また、前期第Ⅱ相臨床試験を実施し有効性と安全性を確認しました。当事業年度には後期第Ⅱ相臨床試験を実施し完了しました。現在、結果の解析を行っておりますが、終了次第なるべく早く結果をお知らせする予定です。
開発コード:LT-4002(既承認薬)
対象疾患:ドライアイ
開発ステージ:後期第Ⅱ相臨床試験終了
知財:用途特許、製剤特許
⑨抗がん剤の効果を高める既承認薬
抗がん剤による治療において、併用薬により抗がん剤の有効濃度を下げることが出来れば、作用の増強・副作用の低減に繋がります。抗がん剤Aはある種の難治性癌に有効性を示す一方で、重篤な消化管障害のためその使用を制限しなくてはならないことが臨床で問題になっています。そこで我々は静岡県立大学と共同で、抗がん剤Aの抗がん作用を増強する医薬品を既承認薬ライブラリーからスクリーニングし既承認薬LT-4009を発見しました。
開発コード:LT-4009(既承認薬)
対象疾患:がん
開発ステージ:既承認薬のため、非臨床試験は完了
知財:用途特許、製剤特許
⑩新しいメカニズムの肺線維症治療薬
特発性肺線維症は肺が徐々に線維化し呼吸機能が低下する疾患で、5年生存率は40%以下で肺がんよりも予後が悪いと言われています。この疾患では筋線維芽細胞が活性化することが原因と考えられています。そこで我々は武蔵野大学と共同で、筋線維芽細胞の活性を医薬品を既承認薬ライブラリーからスクリーニングし既承認薬LT-4010を発見しました。
開発コード:LT-4010(既承認薬)
対象疾患:肺線維症
開発ステージ:既承認薬のため、非臨床試験は完了
知財:用途特許
⑪ノーベルファーマ株式会社と共同開発している既承認薬(同社との契約により詳細は非開示)
開発コード:LT-5001(既承認薬)
対象疾患:非開示
開発ステージ:後期第Ⅱ相臨床試験実施中
知財:非開示
〔事業系統図〕
研究開発に係る事業系統図は次のとおりであります。
(注)北京泰德制药股份有限公司は、その他の関係会社であります。
このコンテンツは、EDINET閲覧(提出)サイトに掲載された有価証券報告書(文書番号: [E00982] S100IZHR)をもとにシーフル株式会社によって作成された抜粋レポート(以下、本レポート)です。有価証券報告書から該当の情報を取得し、小さい画面の端末でも見られるようソフトウェアで機械的に情報の見栄えを調整しています。ソフトウェアに不具合等がないことを保証しておらず、一部図や表が崩れたり、文字が欠落して表示される場合があります。また、本レポートは、会計の学習に役立つ情報を提供することを目的とするもので、投資活動等を勧誘又は誘引するものではなく、投資等に関するいかなる助言も提供しません。本レポートを投資等の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。本レポートを利用して生じたいかなる損害に関しても、弊社は一切の責任を負いません。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。