有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100J2EA (EDINETへの外部リンク)
富士フイルムホールディングス株式会社 研究開発活動 (2020年3月期)
当社グループは、写真感光材料やドキュメント等の事業で培った材料化学、光学、解析、画像等の幅広い基盤技術のもと、機能性材料、ファインケミカル、エレクトロニクス、メカトロニクス、生産プロセス等の技術領域で多様なコア技術を有しています。現在、さまざまな分野でビジネスを展開している当社グループでは、これらの基盤技術とコア技術を融合した商品設計によって、重点事業分野への研究開発を進める一方、将来を担う新規事業の創出も進めています。2019年11月には富士ゼロックス㈱を100%子会社化しました。この取引により、富士フイルムグループ内での連携を強化し、これまで以上にシナジー創出を加速させます。例えば、富士フイルムグループが保有する画像処理技術と、富士ゼロックス㈱の言語処理技術を組み合わせてメディカル分野の診断レポート生成に活かす等革新的製品・サービスを展開し、成長領域で事業を拡大していきます。
富士フイルム富山化学㈱では2020年3月よりCOVID-19の患者を対象とした抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠」(一般名:ファビピラビル)(以下、「アビガン」と記載します。)の国内臨床第Ⅲ相試験を開始しました。米国では2020年4月より臨床第Ⅱ相試験を開始しています。本臨床試験でCOVID-19に対するアビガンの有効性と安全性を確認することで、治療薬としての承認取得を進めていきます。また、国内外からの提供要請に応えるべく、既にアビガンの増産を開始しております。加えて、富士フイルム和光純薬㈱では2020年4月よりPCR検査時間の大幅な短縮を実現する遺伝子検出キットの開発・販売も行っております。当社グループはヘルスケア事業を幅広く展開する企業として、政府とも連携しながらCOVID-19の感染拡大防止・流行終息に貢献すべく、取り組んでいます。
また、富士フイルム㈱では再生医療や遺伝子治療等バイオ医療分野の研究基盤をさらに強化するため、米国に「バイオサイエンス&エンジニアリング研究所(アメリカ)」(以下、「米バイオ研」と記載します。)を設立し、2019年12月より米バイオ研での研究を本格的に開始しました。米バイオ研は、バイオ医療の基礎研究から生産プロセス開発までを一貫して行うとともに、細胞を用いた新たな創薬支援の基盤研究を担う研究所です。今後、当社は、日本・米国の2拠点体制でバイオ医療の研究を強力に推進し、グループの研究開発力をさらに高めていきます。
このように当社グループでは、富士フイルム㈱、富士ゼロックス㈱及びその他の子会社とのグループシナジーを強化するとともに、他社とのアライアンス、M&A及び産官学との連携を強力に推進し、新たな成長軌道を確立していきます。
当連結会計年度における研究開発費の総額は157,880百万円(前年度比1.1%増)、売上高比6.8%となりました。各セグメントに配賦していない汎用性の高い上記基盤技術の強化、新規事業創出のための基礎研究費は27,540百万円です。
当連結会計年度の主な研究開発の成果は次のとおりであります。
(1)イメージング ソリューション部門
フォトイメージング事業では、インスタントカメラinstax“チェキ”シリーズの新たなラインアップとして、伝えたいメッセージ等の音声をQRコード化して写真とともにプリントできる「サウンド機能」や、スマートフォンの画像もチェキフィルムにプリントできる便利な「ダイレクトプリント機能」等の新機能を搭載した「instax mini LiPlay(リプレイ)」を発売しました。また、世界最高水準の粒状性と立体的な階調再現で超高画質を実現し、幅広い分野の撮影に適した、黒白フィルム「ネオパン100 ACROSII」を新たに開発しました。イメージング分野におけるリーディングカンパニーとして今後も“アナログからデジタルまで”幅広い分野において多様化するニーズにお応えし、より良い製品・サービスを提供し続けることで、「一枚の写真の持つ力、素晴らしさ」を伝え続けます。
光学・電子映像事業の電子映像分野では、世界最高※11億2百万画素のラージフォーマットセンサーや独自の色再現技術等により、世界最高峰の写真画質を実現するミラーレスデジタルカメラ「FUJIFILM GFX100」を発売しました。また、独自の色再現技術で卓越した写真画質を実現するデジタルカメラ「Xシリーズ」用交換レンズのラインアップとして、世界最高※26.0段手ブレ補正機能と5倍ズームを備えた「フジノンレンズ XF16-80mmF4 R OIS WR」を発売しました。光学デバイス分野では、ラージフォーマットセンサーに対応し、圧倒的な解像力、自然で美しいボケ味、ハイダイナミックレンジを活かした豊かな階調を実現するシネマカメラ用ズームレンズ「Premista(プレミスタ)」シリーズを発売しました。また、世界最高※3の125倍ズームを実現した4K対応放送用レンズ「FUJINON UA125×8BESM」を発売しました。今後も当社は、長年培ってきた光学技術や精密加工・組立技術等により最先端の製品を開発・提供し、多様化する映像制作現場のニーズに応えていきます。
本部門の研究開発費は、10,085百万円となりました。
※1 民生用ミラーレスデジタルカメラとして。2020年5月18日時点。富士フイルム調べ。
※2 デジタルカメラ用交換レンズとして。2019年7月18日時点。当社調べ。
※3 2019年11月13日時点。当社調べ。
(2)ヘルスケア&マテリアルズ ソリューション部門
メディカルシステム事業では、手の「うるおい」と「清潔」の両方を実現する「薬用ハンドジェルHA(医薬部外品)」を、全国の医療施設向けに発売しました。本製品は、化粧品の開発で培った技術や、アルコールと銀系材料を組み合わせた「Hydro Ag+(ハイドロエージープラス)」技術を生かして開発した製品で、水溶性ポリマーによる高い保湿性を持つとともに、殺菌有効成分及び抗炎症有効成分配合によって手荒れを防ぎ、手の「うるおい」と「清潔」の両方を実現します。超音波画像診断の分野では、携帯性に優れた軽量・コンパクトなワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air (アイビズ エアー)」を開発しました。本製品は5.5インチ画面のスマートフォン型の本体と、ワイヤレスのプローブで構成され、在宅医療や救急、院内回診等での高画質な超音波画像診断を可能にします。また、2019年12月には㈱日立製作所の画像診断関連事業(以下、「対象事業」と記載します。)を買収する契約を締結しました。今後、当社の画像処理技術・AI技術を対象事業の幅広い製品ラインアップに搭載し、新たな付加価値を創出することにより、医療の質の向上に貢献していきます。加えて、当社は日本マイクロソフト㈱と革新的な医療現場支援の実現に向けた協業を開始しました。具体的には、内視鏡予知保全サービスのクラウド基盤に、マイクロソフトのパブリッククラウドプラットフォーム Microsoft Azureを採用します。当社のIoT及びデータ分析AI技術と、Microsoft Azureのリアルタイムでの大容量情報処理能力を組み合わせ、医療機関で稼働している内視鏡の予知保全サービスを実現し、メンテナンス作業の効率を大幅に向上させ、革新的な医療現場支援を推進します。
医薬品事業では、米国において、進行性の固形がんを対象とする抗がん剤「FF-10850」の臨床第I相試験を開始しました。「FF-10850」は、既存の抗がん剤「トポテカン」を新規開発のリポソームに内包したリポソーム製剤です。リポソームは、細胞膜や生体膜の構成成分である有機物のリン脂質等をカプセル状にした微粒子のことで、体内で必要な量の薬剤を必要な部位に必要なタイミングで送達する技術であるドラッグ・デリバリー・システム技術の一種です。抗がん剤には、がん組織以外の正常組織に対しても作用し、強い副作用を引き起こすケースがありますが、薬剤をリポソームに内包することで、がん組織にのみ薬剤を選択的に送達し、副作用を抑制して、薬効を高めることができると期待されています。また、2020年3月には、リポソーム製剤の開発・製造受託サービスを開始し、核酸を内包するリポソーム製造装置の開発・製造・販売のリーディングカンパニーであるカナダのPrecision NanoSystems Inc.とパートナーシップ契約も締結しました。今後、当社は、低分子医薬品や核酸医薬品をターゲットに、リポソーム製剤の生産プロセス開発や製造の受託を行っていきます。
バイオCDMO事業では、バイオ医薬品の開発・製造受託業界で初めて※4、培養から精製までの高性能・高効率な全工程連続生産システムを開発しました。本システムはバイオ医薬品の開発・製造受託業界で初めて、バイオ医薬品の原薬の製造工程である培養から精製までをシームレスに繋ぎ一貫生産を可能とする画期的なシステムで、連続的かつ効率的に高品質な原薬を製造することができます。
再生医療事業では、2019年9月に薬物の吸収性の評価に最適なヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞「F-hiSIEC™」を、発売しました。本製品は、ヒトiPS細胞を小腸の腸管上皮細胞に分化誘導した創薬支援用細胞です。ヒト生体に近い機能を有し、薬物の吸収性を高精度に評価できる画期的な細胞であるため、経口剤開発の効率化に大きく貢献します。また、2020年3月には米国子会社で、iPS細胞の開発・製造・販売のリーディングカンパニーであるFUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.(フジフイルム・セルラー・ダイナミクス)は、cGM1に対応した、治療用iPS細胞の新生産施設を稼働させます。今後、生産したiPS細胞を用いて自社再生医療製品の開発を加速させるとともに、本施設を活用したiPS細胞及びiPS細胞由来分化細胞の開発・製造受託も展開していきます。
ライフサイエンス事業では、「ASTALIFT(アスタリフト)」ブランドのインナーケアシリーズの新ラインアップとして、「紫外線刺激から肌を保護するのを助ける」機能を持つ、機能性表示食品「アスタリフト サプリメント ホワイトシールド」と「アスタリフト ドリンク ホワイトシールド」を2020年4月に発売いたしました。これら2製品に配合されている機能性関与成分「アスタキサンチン」は、当社の研究によりヒトが経口摂取することで、一定量の紫外線を照射した際に生じる肌の赤身が低減されること、また、紫外線照射部位の皮膚の水分量の低下が抑制されることが確認されております。さらに、異物の侵入を防ぎ、対外への水分城塞を抑制する、肌のバリア機能を維持するうえで重要な役割を担うセラミドが、ストレスによって減少するメカニズムを解明しました。加えて、生薬として広く使われている「アセンヤクエキス」に肌のバリア機能を改善する作用を見出しました。本研究成果を応用し、当社独自のナノ分散技術により世界最小※520nmに微粒子化し、浸透力を高めた保湿成分「ヒト型ナノセラミド」及び「ヒト型ナノアシルセラミド」を従来に比べて増量配合し、また、植物由来成分「アセンヤクエキス」を新たに配合することで保湿機能を強化した、ジェリー状先行美容液「ASTALIFT JELLY AQUARYSTA (アスタリフト ジェリー アクアリスタ)」をリニューアル発売いたしました。
ファインケミカル事業では、当社が開発した実験動物を用いず化学物質の皮膚へのアレルギー反応の有無を評価する皮膚感作性試験代替法「Amino acid Derivative Reactivity Assay」(以下、「ADRA」と記載します。)がOECD(経済協力開発機構)テストガイドラインに収載されました。ADRAは、当社が持つ化学合成力・分子設計力により開発した検出感度が高い試薬を用いることで、従来より幅広い化学物質の皮膚感作性を試験できる評価法です。標準的な評価法として国際的に認められたことを機に、実験動物を用いずに化学物質の安全性を評価する試験法の普及に貢献していきます。
記録メディア事業では、大容量データのバックアップやアーカイブに最適な「FUJIFILM LTO Ultirum8データカートリッジ」(以下、「LTO8」と記載します。)を発売いたしました。当社は、磁気特性・長期保存性に優れる微粒子「BaFe(バリウムフェライト)磁性体」を開発し、2011年に世界で初めて「BaFe磁性体」を用いた磁気テープを実用化しております。LTO8においては、当社独自の「NANOCUBIC技術」を進化させ、従来のLTO7に対してさらに微粒子化した「BaFe磁性体」を均一に分散し、テープ表面のうねりや厚みムラのない平滑な薄層磁性層を塗布しています。LTO7の2倍となる最大記録容量30TB(非圧縮時12TB)を実現するとともに、最大750MB/秒(非圧縮時360MB/秒)の高速データ転送も可能で、高い利便性を発揮します。今後は、LTO8をデータアーカイブストレージシステムと組み合わせて活用し、省エネルギーで大容量データを保管したいというニーズに応えます。
グラフィックシステム事業では、新聞用完全無処理サーマルCTPプレート「SUPERIA ZN-Ⅱ」が、第2回「エコプロアワード」において同アワードの最高位賞となる「大臣賞」のひとつである「経済産業大臣賞」を受賞しました。本受賞は、新聞用完全無処理CTPプレート「SUPERIA ZN-Ⅱ」が、省材料、省エネルギー、省排出、省ウォーターにおいていずれも優れた効果をもたらしていること、また、製品のライフサイクル全体のCO2排出量を製品に表示する仕組みであるカーボンフットプリントにより、主原材料であるアルミニウムのリサイクルシステムやライフサイクルにおけるCO2排出量を把握できる体制を整えている点が高く評価されたものです。当社は、印刷市場において、今後も省資源・省エネ型製品の開発を積極的に推進し、社会の持続可能な発展に貢献していきます。
本部門の研究開発費は、69,536百万円となりました。
※4 当社調べ。
※5 国内外論文、国内特許の自社調査結果。2019年7月2日時点。
当社グループにおける新薬開発状況は以下のとおりです。(2020年6月現在)
(3)ドキュメント ソリューション部門
ドキュメント事業領域ではデジタルフルカラー複合機「ApeosPort-VII C 3372/DocuCentre-VII C 3372」を発売しました。シリーズの低速機ラインアップを拡充する連続複写速度30枚/分の新モデルで、一度のログインでクラウドストレージサービスや移動先での複合機プリントを可能にする認証連携機能を搭載、クラウド連携機能を強化しました。
オフィス向け小サイズプリンタ「DocuPrint」シリーズでは、ゴールド、シルバー、ホワイトを使った印刷物を出力できる業界初の特殊色専用A4プリンタ「DocuPrint CP310 st」を発売しました。デザインオフィスや小売、サービス業の店舗等、スペースが限られる場所でも、特殊色を使った印刷物の出力を可能とします。
印刷業務向けには、業務効率化に貢献するソフトウェア商品「Production Cockpit 2.0」を発売しました。他社の機器を含めたワークフロー全体の生産性を向上します。
働き方改革に向けた取り組みとしては、駅構内やオフィスビルのロビー等に設置する個室型ワークスペース「CocoDesk」によるシェアオフィスサービス事業を開始しました。また、オフィスのセキュアなネットワーク環境を提供する閉域網サービス「Smart Cyber Security」にモバイル機器や海外拠点から接続できる「Smart Cyber Security Mobile SIM」「Smart Cyber Security 海外拠点接続サービス」の提供を開始し、次世代セキュリティサービスを強化しました。
富士ゼロックス㈱は、2021年に米ゼロックスとの技術契約を終了し、富士フイルムブランドのもとでグループ内の連携を強化して、革新的な価値の提供を目指します。また、米ゼロックスへの商品供給の継続に加え、2021年4月以降、従来の販売テリトリーを超えたワールドワイドなビジネス展開を進めます。
本部門の研究開発費は、50,719百万円となりました。
富士フイルム富山化学㈱では2020年3月よりCOVID-19の患者を対象とした抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠」(一般名:ファビピラビル)(以下、「アビガン」と記載します。)の国内臨床第Ⅲ相試験を開始しました。米国では2020年4月より臨床第Ⅱ相試験を開始しています。本臨床試験でCOVID-19に対するアビガンの有効性と安全性を確認することで、治療薬としての承認取得を進めていきます。また、国内外からの提供要請に応えるべく、既にアビガンの増産を開始しております。加えて、富士フイルム和光純薬㈱では2020年4月よりPCR検査時間の大幅な短縮を実現する遺伝子検出キットの開発・販売も行っております。当社グループはヘルスケア事業を幅広く展開する企業として、政府とも連携しながらCOVID-19の感染拡大防止・流行終息に貢献すべく、取り組んでいます。
また、富士フイルム㈱では再生医療や遺伝子治療等バイオ医療分野の研究基盤をさらに強化するため、米国に「バイオサイエンス&エンジニアリング研究所(アメリカ)」(以下、「米バイオ研」と記載します。)を設立し、2019年12月より米バイオ研での研究を本格的に開始しました。米バイオ研は、バイオ医療の基礎研究から生産プロセス開発までを一貫して行うとともに、細胞を用いた新たな創薬支援の基盤研究を担う研究所です。今後、当社は、日本・米国の2拠点体制でバイオ医療の研究を強力に推進し、グループの研究開発力をさらに高めていきます。
このように当社グループでは、富士フイルム㈱、富士ゼロックス㈱及びその他の子会社とのグループシナジーを強化するとともに、他社とのアライアンス、M&A及び産官学との連携を強力に推進し、新たな成長軌道を確立していきます。
当連結会計年度における研究開発費の総額は157,880百万円(前年度比1.1%増)、売上高比6.8%となりました。各セグメントに配賦していない汎用性の高い上記基盤技術の強化、新規事業創出のための基礎研究費は27,540百万円です。
当連結会計年度の主な研究開発の成果は次のとおりであります。
(1)イメージング ソリューション部門
フォトイメージング事業では、インスタントカメラinstax“チェキ”シリーズの新たなラインアップとして、伝えたいメッセージ等の音声をQRコード化して写真とともにプリントできる「サウンド機能」や、スマートフォンの画像もチェキフィルムにプリントできる便利な「ダイレクトプリント機能」等の新機能を搭載した「instax mini LiPlay(リプレイ)」を発売しました。また、世界最高水準の粒状性と立体的な階調再現で超高画質を実現し、幅広い分野の撮影に適した、黒白フィルム「ネオパン100 ACROSII」を新たに開発しました。イメージング分野におけるリーディングカンパニーとして今後も“アナログからデジタルまで”幅広い分野において多様化するニーズにお応えし、より良い製品・サービスを提供し続けることで、「一枚の写真の持つ力、素晴らしさ」を伝え続けます。
光学・電子映像事業の電子映像分野では、世界最高※11億2百万画素のラージフォーマットセンサーや独自の色再現技術等により、世界最高峰の写真画質を実現するミラーレスデジタルカメラ「FUJIFILM GFX100」を発売しました。また、独自の色再現技術で卓越した写真画質を実現するデジタルカメラ「Xシリーズ」用交換レンズのラインアップとして、世界最高※26.0段手ブレ補正機能と5倍ズームを備えた「フジノンレンズ XF16-80mmF4 R OIS WR」を発売しました。光学デバイス分野では、ラージフォーマットセンサーに対応し、圧倒的な解像力、自然で美しいボケ味、ハイダイナミックレンジを活かした豊かな階調を実現するシネマカメラ用ズームレンズ「Premista(プレミスタ)」シリーズを発売しました。また、世界最高※3の125倍ズームを実現した4K対応放送用レンズ「FUJINON UA125×8BESM」を発売しました。今後も当社は、長年培ってきた光学技術や精密加工・組立技術等により最先端の製品を開発・提供し、多様化する映像制作現場のニーズに応えていきます。
本部門の研究開発費は、10,085百万円となりました。
※1 民生用ミラーレスデジタルカメラとして。2020年5月18日時点。富士フイルム調べ。
※2 デジタルカメラ用交換レンズとして。2019年7月18日時点。当社調べ。
※3 2019年11月13日時点。当社調べ。
(2)ヘルスケア&マテリアルズ ソリューション部門
メディカルシステム事業では、手の「うるおい」と「清潔」の両方を実現する「薬用ハンドジェルHA(医薬部外品)」を、全国の医療施設向けに発売しました。本製品は、化粧品の開発で培った技術や、アルコールと銀系材料を組み合わせた「Hydro Ag+(ハイドロエージープラス)」技術を生かして開発した製品で、水溶性ポリマーによる高い保湿性を持つとともに、殺菌有効成分及び抗炎症有効成分配合によって手荒れを防ぎ、手の「うるおい」と「清潔」の両方を実現します。超音波画像診断の分野では、携帯性に優れた軽量・コンパクトなワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air (アイビズ エアー)」を開発しました。本製品は5.5インチ画面のスマートフォン型の本体と、ワイヤレスのプローブで構成され、在宅医療や救急、院内回診等での高画質な超音波画像診断を可能にします。また、2019年12月には㈱日立製作所の画像診断関連事業(以下、「対象事業」と記載します。)を買収する契約を締結しました。今後、当社の画像処理技術・AI技術を対象事業の幅広い製品ラインアップに搭載し、新たな付加価値を創出することにより、医療の質の向上に貢献していきます。加えて、当社は日本マイクロソフト㈱と革新的な医療現場支援の実現に向けた協業を開始しました。具体的には、内視鏡予知保全サービスのクラウド基盤に、マイクロソフトのパブリッククラウドプラットフォーム Microsoft Azureを採用します。当社のIoT及びデータ分析AI技術と、Microsoft Azureのリアルタイムでの大容量情報処理能力を組み合わせ、医療機関で稼働している内視鏡の予知保全サービスを実現し、メンテナンス作業の効率を大幅に向上させ、革新的な医療現場支援を推進します。
医薬品事業では、米国において、進行性の固形がんを対象とする抗がん剤「FF-10850」の臨床第I相試験を開始しました。「FF-10850」は、既存の抗がん剤「トポテカン」を新規開発のリポソームに内包したリポソーム製剤です。リポソームは、細胞膜や生体膜の構成成分である有機物のリン脂質等をカプセル状にした微粒子のことで、体内で必要な量の薬剤を必要な部位に必要なタイミングで送達する技術であるドラッグ・デリバリー・システム技術の一種です。抗がん剤には、がん組織以外の正常組織に対しても作用し、強い副作用を引き起こすケースがありますが、薬剤をリポソームに内包することで、がん組織にのみ薬剤を選択的に送達し、副作用を抑制して、薬効を高めることができると期待されています。また、2020年3月には、リポソーム製剤の開発・製造受託サービスを開始し、核酸を内包するリポソーム製造装置の開発・製造・販売のリーディングカンパニーであるカナダのPrecision NanoSystems Inc.とパートナーシップ契約も締結しました。今後、当社は、低分子医薬品や核酸医薬品をターゲットに、リポソーム製剤の生産プロセス開発や製造の受託を行っていきます。
バイオCDMO事業では、バイオ医薬品の開発・製造受託業界で初めて※4、培養から精製までの高性能・高効率な全工程連続生産システムを開発しました。本システムはバイオ医薬品の開発・製造受託業界で初めて、バイオ医薬品の原薬の製造工程である培養から精製までをシームレスに繋ぎ一貫生産を可能とする画期的なシステムで、連続的かつ効率的に高品質な原薬を製造することができます。
再生医療事業では、2019年9月に薬物の吸収性の評価に最適なヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞「F-hiSIEC™」を、発売しました。本製品は、ヒトiPS細胞を小腸の腸管上皮細胞に分化誘導した創薬支援用細胞です。ヒト生体に近い機能を有し、薬物の吸収性を高精度に評価できる画期的な細胞であるため、経口剤開発の効率化に大きく貢献します。また、2020年3月には米国子会社で、iPS細胞の開発・製造・販売のリーディングカンパニーであるFUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.(フジフイルム・セルラー・ダイナミクス)は、cGM1に対応した、治療用iPS細胞の新生産施設を稼働させます。今後、生産したiPS細胞を用いて自社再生医療製品の開発を加速させるとともに、本施設を活用したiPS細胞及びiPS細胞由来分化細胞の開発・製造受託も展開していきます。
ライフサイエンス事業では、「ASTALIFT(アスタリフト)」ブランドのインナーケアシリーズの新ラインアップとして、「紫外線刺激から肌を保護するのを助ける」機能を持つ、機能性表示食品「アスタリフト サプリメント ホワイトシールド」と「アスタリフト ドリンク ホワイトシールド」を2020年4月に発売いたしました。これら2製品に配合されている機能性関与成分「アスタキサンチン」は、当社の研究によりヒトが経口摂取することで、一定量の紫外線を照射した際に生じる肌の赤身が低減されること、また、紫外線照射部位の皮膚の水分量の低下が抑制されることが確認されております。さらに、異物の侵入を防ぎ、対外への水分城塞を抑制する、肌のバリア機能を維持するうえで重要な役割を担うセラミドが、ストレスによって減少するメカニズムを解明しました。加えて、生薬として広く使われている「アセンヤクエキス」に肌のバリア機能を改善する作用を見出しました。本研究成果を応用し、当社独自のナノ分散技術により世界最小※520nmに微粒子化し、浸透力を高めた保湿成分「ヒト型ナノセラミド」及び「ヒト型ナノアシルセラミド」を従来に比べて増量配合し、また、植物由来成分「アセンヤクエキス」を新たに配合することで保湿機能を強化した、ジェリー状先行美容液「ASTALIFT JELLY AQUARYSTA (アスタリフト ジェリー アクアリスタ)」をリニューアル発売いたしました。
ファインケミカル事業では、当社が開発した実験動物を用いず化学物質の皮膚へのアレルギー反応の有無を評価する皮膚感作性試験代替法「Amino acid Derivative Reactivity Assay」(以下、「ADRA」と記載します。)がOECD(経済協力開発機構)テストガイドラインに収載されました。ADRAは、当社が持つ化学合成力・分子設計力により開発した検出感度が高い試薬を用いることで、従来より幅広い化学物質の皮膚感作性を試験できる評価法です。標準的な評価法として国際的に認められたことを機に、実験動物を用いずに化学物質の安全性を評価する試験法の普及に貢献していきます。
記録メディア事業では、大容量データのバックアップやアーカイブに最適な「FUJIFILM LTO Ultirum8データカートリッジ」(以下、「LTO8」と記載します。)を発売いたしました。当社は、磁気特性・長期保存性に優れる微粒子「BaFe(バリウムフェライト)磁性体」を開発し、2011年に世界で初めて「BaFe磁性体」を用いた磁気テープを実用化しております。LTO8においては、当社独自の「NANOCUBIC技術」を進化させ、従来のLTO7に対してさらに微粒子化した「BaFe磁性体」を均一に分散し、テープ表面のうねりや厚みムラのない平滑な薄層磁性層を塗布しています。LTO7の2倍となる最大記録容量30TB(非圧縮時12TB)を実現するとともに、最大750MB/秒(非圧縮時360MB/秒)の高速データ転送も可能で、高い利便性を発揮します。今後は、LTO8をデータアーカイブストレージシステムと組み合わせて活用し、省エネルギーで大容量データを保管したいというニーズに応えます。
グラフィックシステム事業では、新聞用完全無処理サーマルCTPプレート「SUPERIA ZN-Ⅱ」が、第2回「エコプロアワード」において同アワードの最高位賞となる「大臣賞」のひとつである「経済産業大臣賞」を受賞しました。本受賞は、新聞用完全無処理CTPプレート「SUPERIA ZN-Ⅱ」が、省材料、省エネルギー、省排出、省ウォーターにおいていずれも優れた効果をもたらしていること、また、製品のライフサイクル全体のCO2排出量を製品に表示する仕組みであるカーボンフットプリントにより、主原材料であるアルミニウムのリサイクルシステムやライフサイクルにおけるCO2排出量を把握できる体制を整えている点が高く評価されたものです。当社は、印刷市場において、今後も省資源・省エネ型製品の開発を積極的に推進し、社会の持続可能な発展に貢献していきます。
本部門の研究開発費は、69,536百万円となりました。
※4 当社調べ。
※5 国内外論文、国内特許の自社調査結果。2019年7月2日時点。
当社グループにおける新薬開発状況は以下のとおりです。(2020年6月現在)
開発番号 | 薬効・適応症 | 剤形 | 地域 | 開発段階 |
T-705 | 抗インフルエンザウィルス薬 | 経口 | 米国 | PhⅢ |
抗新型コロナウイルス(COVID-19)薬 | 経口 | 日本 米国 | PhⅢ PhⅡ | |
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)治療薬 | 経口 | 日本 | PhⅢ | |
T-817MA | アルツハイマー型認知症治療薬 | 経口 | 米国 日本 欧州 | PhⅡ PhⅡ PhⅡ |
脳卒中後のリハビリテーション効果促進薬 | 経口 | 日本 | PhⅡ | |
T-4288 | 新規フルオロケトライド系抗菌薬 | 経口 | 日本 | 承認申請中 |
FF-10501 | 骨髄異形成症候群治療薬 | 経口 | 日本 米国 | PhⅠ PhⅡ |
FF-10502 | 進行・再発固形がん治療薬 | 注射 | 米国 | PhⅡ |
FF-21101 | 進行・再発固形がん治療薬(Armed抗体) | 注射 | 米国 日本 | PhⅠ/Ⅱa PhⅠ |
F-1311 | 前立腺がん診断薬(放射性医薬品) | 注射 | 日本 | PhⅡ |
FF-10101 | 急性骨髄性白血病治療薬 | 経口 | 米国 | PhⅠ |
F-1515 | 神経内分泌腫瘍治療薬(放射性医薬品) | 注射 | 日本 | PhⅠ/Ⅱ |
FF-10832 | 進行性固形がん治療薬(ゲムシタビンリポソーム) | 注射 | 米国 | PhⅠ |
FF-10850 | 進行性固形がん治療薬(トポテカンリポソーム) | 注射 | 米国 | PhⅠ |
F-1614 | 難治性褐色細胞腫治療薬(放射性医薬品) | 注射 | 日本 | PhⅡ |
(3)ドキュメント ソリューション部門
ドキュメント事業領域ではデジタルフルカラー複合機「ApeosPort-VII C 3372/DocuCentre-VII C 3372」を発売しました。シリーズの低速機ラインアップを拡充する連続複写速度30枚/分の新モデルで、一度のログインでクラウドストレージサービスや移動先での複合機プリントを可能にする認証連携機能を搭載、クラウド連携機能を強化しました。
オフィス向け小サイズプリンタ「DocuPrint」シリーズでは、ゴールド、シルバー、ホワイトを使った印刷物を出力できる業界初の特殊色専用A4プリンタ「DocuPrint CP310 st」を発売しました。デザインオフィスや小売、サービス業の店舗等、スペースが限られる場所でも、特殊色を使った印刷物の出力を可能とします。
印刷業務向けには、業務効率化に貢献するソフトウェア商品「Production Cockpit 2.0」を発売しました。他社の機器を含めたワークフロー全体の生産性を向上します。
働き方改革に向けた取り組みとしては、駅構内やオフィスビルのロビー等に設置する個室型ワークスペース「CocoDesk」によるシェアオフィスサービス事業を開始しました。また、オフィスのセキュアなネットワーク環境を提供する閉域網サービス「Smart Cyber Security」にモバイル機器や海外拠点から接続できる「Smart Cyber Security Mobile SIM」「Smart Cyber Security 海外拠点接続サービス」の提供を開始し、次世代セキュリティサービスを強化しました。
富士ゼロックス㈱は、2021年に米ゼロックスとの技術契約を終了し、富士フイルムブランドのもとでグループ内の連携を強化して、革新的な価値の提供を目指します。また、米ゼロックスへの商品供給の継続に加え、2021年4月以降、従来の販売テリトリーを超えたワールドワイドなビジネス展開を進めます。
本部門の研究開発費は、50,719百万円となりました。
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