有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100LSQ5 (EDINETへの外部リンク)
戸田建設株式会社 研究開発活動 (2021年3月期)
当社グループは、社会、顧客及び社内各部門のニーズやCSRに的確に応えるため、技術開発センターを中心に技術部門の総力を結集して、基礎的研究から新製品開発までの幅広い研究開発活動を行っております。特に重要なテーマについては「技術研究開発プロジェクト」を起こし、全社的な取り組みで短期間に開発を行い着実に成果をあげております。また、西松建設㈱との共同研究をはじめ、公的機関、大学、異業種企業、同業他社との技術交流、共同開発を積極的に推進して、多様な分野での研究開発の効率化を図っております。
当連結会計年度における研究開発費の総額は2,721百万円であり、セグメントごとの研究開発活動は以下のとおりであります。
(建築及び土木)
(1)建築環境関連技術
当社は「エコ・ファースト企業」として環境大臣と当社が施工中に排出するCO2総量を2030年に1990年比70%削減、2050年には80%削減することなどを約束しております。また、前述の約束に相当する当社のCO2排出量の削減目標は、SBTイニシアチブよりパリ協定に整合するものであるという認定も受けています。
建設工事施工中に発生するCO2排出量を削減する活動を「低炭素施工システム(TO-MINICA)」と称し、全国の作業所で活用しております。
こうした活動は外部からも評価されており、全世界の企業の環境活動を評価するCDPイニシアチブからは、最高評価である「気候変動A List」に2018年、2019年、2020年と3年連続で選ばれました。また、2019年1月には、事業運営における電力を100%再生可能電力で調達する取り組みであるRE100に加盟し、同年5月には、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)に賛同しました。TCFDの推奨事項に基づき、2020年に当社では、今後世界の平均気温が最大4℃上昇した場合と1.5℃に抑制できた場合の2種類のシナリオを用いて当社の事業活動におけるリスクと機会を分析しました。その結果、1.5℃に抑制できた世界の実現を目指すことが当社の事業活動にとっても優位であることを確認しています。
環境配慮建築に対する各種要素技術を総合的に実験・検証するために、技術研究所に建設した「環境技術実証棟」における成果を生かしつつ、省エネルギーに加えてCO2排出量の削減に向けた「(仮称)カーボンマイナス棟」へのリニューアルを進めています。同棟では、断熱・遮熱の工夫や自然エネルギー利用、高効率設備などの導入によりZEB(ネット・ゼロエネルギー・ビル)を達成した上で、緑化や木材の利用などによるCO2の吸収・固定化などによりライフサイクルにおけるCO2収支をマイナスとすることを目指すとともに、ICT技術を活用した環境制御手法などの新しい技術開発にチャレンジしています。
さらに、技術研究所においては、構造・施工実験棟屋上に4種類の太陽光パネルを設置し、所内の省エネルギーを図るとともに、発電効率、天候や気温による性能、パネルの経年劣化、ライフサイクルコストの違いなどの比較検討を進めております。
当社ではZEBの普及を目指すことで、当社が引き渡した建物の運用中のエネルギー使用量及びCO2排出量の削減に取り組んでいます。
(2)生物多様性関連技術
植生や生物の地域特性を考慮し、緑化設計の妥当性を評価できる「生物多様性評価システム」、食品工場などの防 虫対策に関するノウハウまとめた「防虫学校」を開発し、社内展開を図っております。
また、関東・水と緑のネットワーク拠点百選にも選出されている研究所敷地には、新たに地域性在来植物のみで構 成されたビオトープ「つくば再生の里」を整備し、希少種・自生種などの保護・保全手法の研究に取り組んでおります。
(3)放射性廃棄物処分の関連技術
放射性廃棄物処分関連技術としては、地下深部での地震動測定と耐震性評価、ベントナイトに関する技術の開発に取り組んでおります。また、海外情報調査、新規制基準制定に伴う学会標準改定の業務、原子力発電所の廃炉に関する調査実績があります。
(4)超高層建物構工法関連技術
超高層RC造では、SuperHRCシステムを積極的に採用し、建設中を含めて延べ60棟に適用しております。2016年2月に竣工した55階建て超高層集合住宅では設計基準強度200N/mm2の超高強度コンクリートを採用しました。また、現在施工中の35階建て超高層集合住宅では、西松建設㈱と共同開発したコンクリート強度打ち分けプレキャスト梁工法(フュージョンビーム工法)を採用し、施工の効率化を図っております。また、一部をプレキャスト化した高強度コンクリート連層耐震壁(コアウォール)を開発し、弊社保有の端部RC中央S梁工法と組み合わせて、広い執務空間を有する超高層事務所ビル構築技術を確立し、(仮称)新TODAビルに適用します。
コンクリート充填鋼管(CFT)造では、鉄筋を内蔵した鋼管に高強度のコンクリートを充填した高強度Super CFT造を開発し、構造評定を取得しました。設計施工で高さ178mの複合ビルや設計中の案件を含めて12棟の実績があります。また、充填コンクリート強度150N/mm2のCFT柱を(仮称)新TODAビルに適用します。
(5)免震・制振技術
地震の揺れに応じて減衰性能を電気的に切り換え、小中地震から大地震まで幅広い範囲で揺れを抑えることが可能な「セミアクティブダンパー」を開発しました(2021年4月1日大臣認定取得)。また、電源を用いず減衰のON/OFFを切り換える「自己復元型トリガー機構」や、想定外の大地震に対して免震建物が周囲の擁壁などと衝突した場合の安全対策、津波や洪水などに対する免震構造の水害対策についても研究開発を進めております。
精密生産施設の微振動対策技術では、「オイルダンパー付き弾性すべり支承」を開発し、2016年2月に生産施設に適用しております。
(6)BCP関連技術
東日本大震災の教訓を受け、地震後の建物の損傷を迅速かつ的確に評価可能な地震モニタリングシステム「ユレかんち」を、BCPのためのソリューション技術として展開しております。「ユレかんち」はIoT技術を応用したローコストなシステムであり、遠隔地から事務所、工場等の複数建物の一括監視を可能にしております。社内物件29棟、社外物件65棟に適用しております。
(7)天井脱落対策技術
在来工法天井の落下・脱落防止対策として「天井耐震クリップ工法」を開発し、技術審査証明(ベターリビング2013年3月取得、2018年3月更新)を取得しました。また、特定天井にも適用可能な高い耐震性能を有する「ペアロッククリップ」を開発し、2016年9月より当社の施工現場で標準的に採用されております。
また、天井内に多数設置される斜め材の代わりに、門型の抵抗部材を集約して設置し、天井内に多くのスペースを確保しながら、高い耐震性能を実現する「門天工法」を開発しました。「門天工法」は、2017年12月に日本建築センターの評定を取得し、現在2物件での採用実績があります。
(8)基礎・地盤関連技術
場所打ちコンクリート杭について、常時及び地震時における支持力及び引抜き抵抗を向上させ基礎構造の減量化・合理化をはかるための「Me-A工法」を開発し、高層建物への適用など水平展開を進めております。2021年3月時点で共研他社も含めて470件を超える実績があります。
山留め壁の本設利用技術である「RCS合成壁/杭工法の剛性構造としての性能(TO-SCW工法)」及び「PSPⅡ工法-芯材を有するソイルセメント改良体工法-」を改良し、ベターリビングの評定及び日本建築総合試験所の性能証明を取得しました。現在改良後3物件で適用しております。
(9)建築仕上げ材料関連技術
高耐久性床、抗菌・防かび床、帯電防止床を開発し、実用化しております。また、臭気対策として「ゼオライト消臭塗料(オドキャッチャー)」、抗菌対策として光触媒技術を利用した抗菌コーティング材を開発し、病院等に展開しております。
また、木質材料の利用拡大を目指し、積極的に技術研究所内に採用するとともに、耐久性評価などの研究開発を進めております。
(10)建築生産システム関連技術
地上の施工技術では、BIMデータを活用した鉄骨柱自動計測・調整システムの新規開発、仮ボルト不要接合工法の改良を行い、社内展開を進めております。ロボット技術では、SLAM技術を用いた自律搬送ロボと工事用エレベータが連動する垂直・水平自動搬送システムを開発し、超高層オフィスビル作業所の仕上げ材搬送作業に適用しました。今後は搬送効率を向上させるべく、改良を進めていきます。また、BIMや衛星測位を利用したタワークレーン3次元自動誘導システムの開発・現場検証を進めており、吊荷旋回制御装置については、小型化・大型化・バランサーの追加開発など、適用範囲の拡大を進めております。
地下の施工技術では、水の凍結膨張圧を利用した現場造成杭の余盛りコンクリートを低騒音、低振動、無粉塵で杭頭処理を行うことができる「しずかちゃん」(凍結杭頭処理工法)を全支店展開しており、2021年3月時点で408本の実績があります。
また、周辺への振動が問題となるコンクリート構造物を解体するための技術として、水素系混合ガスと特殊な金属粉を使用することで、無振動でガス切断することができる「マスカット工法」、及び鉄筋コンクリート構造物の鉄筋を直流電源で通電加熱し、鉄筋の熱膨張と発熱を利用して鉄筋周辺のコンクリートを脆弱にする「マスホット工法」の開発を進めており、2物件に適用しました。
(11)ICT生産管理関連技術
ICT及びIoT技術を活用し、現場の安全・品質の向上、施工効率を高めることを目的に、様々なシステム開発に着手しました。AR・MR等の画像処理技術を活用したコンテンツやシステムの開発を行っております。場内通信については、無線メッシュネットワークのシステム検証と、建設中の建築・土木工事で新しいネットワーク環境の研究を進めております。
また、建設現場の作業者に対する熱中症の防止などを目的として、生体情報や周囲環境(作業環境)をヘルメット取り付け型センサデバイスでリアルタイムに監視する「作業者安全モニタリングシステム」を㈱村田製作所と共同で開発し、展開を図っております。
(12)音響・遮音関連技術
ホールなどの大空間における音楽・講演等をより快適に聴くことのできる空間を提供する室内音響関連技術、交通騒音や隣室騒音等の聞きたくない音を低減する遮音関連技術の双方の研究開発を実施し、多くの実物件に適用しております。
防音壁などの先端部に取り付けることで大きな騒音低減効果が得られるエッジ効果抑制パネル「エッジサイレンサー」を開発し、工事中の騒音対策だけでなく本設にも適用し、日本音響学会技術開発賞を受賞しました。
集合住宅で問題となる重量床衝撃音に対して、天井内に敷設するだけで低減できる、床衝撃音低減材「サイレント・ドロップ」をフクビ化学工業㈱と共同開発し、建材設備大賞を受賞しました。
また、敷地境界における騒音予測システムを開発し社内展開を図るとともに、音に関する様々な事象を高精度に体験できるよう、技術研究所内の音場シミュレーターを拡張・更新しております。
(13)シールド関連技術
シールド工法の分野では、狭隘な都市域において発進立坑用地の確保を容易にするために開発した「省面積立坑システム」は、当社施工28件、他社施工分を含めると47件の現場適用実績を持ちます。地盤変状の抑制を目的に開発した「掘進停止時裏込め注入システム」、気泡シールドで使用する安全性・経済性に優れる新たなる気泡剤「LT2」及びシールドの発進到達の効率化を図った「バサルト繊維を用いた仮壁直接切削技術」に関しては実用化を図るとともに、効率化・品質向上を図る目的でAIを活用した「AI Transformシールド」の開発も進めております。また、推進工法の分野では、呼び径3500を超える超大口径推進工事の実績を積み上げるとともに、推進工法を応用した「交差点アンダーパス工法」、「非開削トンネル構築工法」等の技術を開発し、営業展開、現場適用に取り組んでおります。
(14)山岳トンネル技術
増加基調の山岳トンネル工事に対応する技術として、覆工品質の向上、支保・補助工法技術の改良、調査計測技術の高度化、環境負荷低減、自動化・高速施工などに係る技術開発及び現場適用に積極的に取り組んでおります。
覆工品質の向上については、覆工コンクリートの充填センサである「ジュウテンミエルカ」の開発が完了し、打設状況の可視化ツールとして一般販売を開始しました。支保・補助工法技術については、吹付けリバウンドが低減できる「Me吹付けコンクリート」、ロックボルト軸力が可視化できる「Eye Washer」、防水シートの損傷防止に寄与する「突起レスロックボルト」、脚部補強工の「NT-Support」の現場適用に取り組んでおります。調査計測における切羽前方地山の可視化ツールとして開発した「DRiスコープ」は、2017岩の力学連合会フロンティア賞を受賞し、さらなる現場適用を推進しております。環境負荷低減技術についても、帯電ミストを用いた粉じん抑制技術や発破低周波音抑制技術の開発を行い現場適用に取り組んでおります。また、生産性向上を目指した自動化・高速施工技術としては、自動吹付けシステム、鋼製支保工切羽無人化施工システム、覆工セントルセット及び打設管理の自動化、防水シート台車及び覆工セントルの自動レールシステム、コンピュータジャンボの穿孔データとAI技術を活用した地山評価及び発破設計のシステム開発に取り組んでおります。
(15)コンクリート技術
設計基準強度200N/mm2の超高強度コンクリートや、収縮を低減させることでひび割れを防止し高耐久化を図るコンクリート(低収縮コンクリート)の開発・現場適用を行っております。さらに、収縮をほとんどゼロにした極低収縮コンクリートを共同開発し、複数の現場適用を行っているなか、2020年度にはBSL-4(バイオセーフティレベル4)を要求する高気密性実験施設の実験室躯体への適用も行いました。また、コンクリート工事の生産性及び品質を向上する高機能性流動化剤を開発し、全国に適用を開始しております。
品質管理に関して、コンクリートの現場受入時の品質管理システムやコンクリート施工時の打重ね時間管理システムを構築しました。また、(独)土木研究所との共同研究である「ボス供試体によるコンクリート構造物の品質検査法」については、JIS規格として制定され、国土交通省地方整備局の橋梁直轄工事に採用されております。
既設コンクリート構造物の健全度評価技術として、透気・透水試験器を用いた評価方法や小径のコア内で強度を推定する「孔内局部載荷試験」を開発し、実際の調査・点検業務に展開しております。
(16)インフラ再生技術
既設トンネル等の補修補強工法として、新しい無機系繊維材料を用いた「BFP修繕工法」を開発しました。本工法は連続繊維をプレート状に加工し、トンネル覆工内面に設置することで耐荷性や変形性能を向上させる工法であり、鉄道トンネルを主体として現場展開しております。また、高速道路等の「既設床版架替えに係る新型継手工法」を開発中であり、今後、老朽化したインフラ再生技術の開発について積極的に取り組んでいきます。
(17)基盤整備関連技術
わが国の持続的発展を図る上で、社会基盤整備は急務の課題であり、それらを支援するために各種の技術提案及び開発を実施しております。オーバーパスに対応した立体交差急速施工技術「すいすいMOP工法」(2現場竣工済)、アンダーパスに対応した非開削トンネル構築技術「さくさくJAWS工法」(鉄道工事に採用)、鉄道連続立体高架の工期短縮を実現するプレキャストアーチ式高架橋「すいすいSWAN工法」、開削地下構造物の急速構築技術「さくさくSLIT工法」を積極的に提案展開しております。液状化対策技術「ハイグリップグラウト工法」、排泥量削減を目指した地盤改良技術「ハイブラストジェット工法」、環境負荷の低減を可能とした地盤掘削技術「気泡掘削工法」及び「特殊ポリマー安定液工法」など、持続可能で災害に強い基盤整備に資する施工技術の向上を目指しております。また、大規模加速器計画などの地下岩盤利用分野についても積極的に取り組んでおります。
(18)医療施設関連技術
病院内の臭気対策として「ゼオライト消臭塗料(オドキャッチャー)」を開発し、さらに、光触媒技術の利用をはじめとした「院内感染対策トイレシステム」を開発しております。
また、無線通信技術を利用した次世代病院向け照明システム「スマートホスピタルライティングシステム」や、病室向けにコンパクト設計で施工の省力化も図れる「システム洗面ユニット」を開発し、複数の病院に採用頂いております。
さらに、新型コロナウイルス感染症による感染拡大対策として、医療施設において、簡易にゾーニング(区画)変更を実現する「感染対策ユニット」を開発・実用化するとともに、ウイルス対策としての空気清浄機の性能評価にも取り組んでおります。
(新領域)
(1)再生可能エネルギー関連技術
鋼とコンクリートを複合利用した浮体式洋上プラットフォームの技術を共同開発し、風力発電に応用、環境省による「浮体式洋上風力発電実証事業委託業務」を受託し、2013年度には実証機(2MW)の実海域設置を成功させ、2015年度に予定通り実証事業を終了しました。2016年度には日本初の実用化を実現し、発電事業として運転データを収集し、制御、設計技術に反映しております。また、コスト削減のための量産化や施工合理化、係留、調査、O&Mなど、普及拡大に向けた技術開発を継続しております。
(2)農業関連技術
茨城県常総市内に農業実証ハウス「TODA農房」を建設し、土地整備関連事業等における提案技術の一つとして、主に施設園芸農業の事業化や園芸ハウスの建設等に関する技術開発を開始しました。また、筑波技術研究所内に人工光栽培実験室を増設し、各種環境条件が植物の生育に与える影響等に関する技術開発を開始しました。
(3)連結子会社における主な研究開発
オフショアウィンドファームコンストラクション㈱において、環境省の「低炭素型浮体式洋上風力発電低コスト化・普及促進事業」の補助を受けて浜出船を建造し、2018年3月に完成しました。2020年度は補助事業を継続し、浜出船等を活用した実証施工を行い、浮体式洋上風力発電施設における建設費の低コスト化及び施工の低炭素化を検証しました。
(投資開発及び国内グループ会社)
研究開発活動は特段行われておりません。
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