有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100LI2X (EDINETへの外部リンク)
川崎重工業株式会社 事業等のリスク (2021年3月期)
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは下記のとおりです。これらのリスクは、経営会議等での審議等を経て抽出しており、取締役会において財務諸表での重要性、影響度、網羅性を確認した上で選定しています。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
(1) 経営成績の見通しに重要な影響を与える可能性があると認識しているリスク
[景気・社会情勢に関するリスク]
① 民間航空機事業及び民間航空機向けエンジン事業の本格的回復が遅延するリスク
2020年度経営成績への影響が特に大きかった民間航空機事業については、旅客需要の見通しに基づく経営計画を策定した上で、余剰人員を他の成長事業等に再配置するなど固定費の圧縮に努めています。また、民間航空機向けエンジン事業においても、エンジンプログラムごとの運航見通しに基づく経営計画を策定した上で、人員の再配置をはじめとする固定費削減等、収益改善の実現に向けて注力しています。2021年度以降は、世界各国のワクチンの普及に応じてエアラインの運航が徐々に回復していく見通しですが、本格的な回復は2024年以降になると想定しています。なお、当社グループでは、自社のロボット技術を活用し高精度かつ大量に短時間の検査が可能となる自動PCR検査サービス事業(※)の普及拡大に注力しており、安全・安心な公共交通機関による人々の往来の活発化を促し、民間航空機事業の早期回復にも貢献していきます。
(※)自動PCR検査サービス事業については、5月11日公表時点での業績見通しには反映していません。
② 米中貿易摩擦の激化リスク
当社グループの連結売上高に占める海外向け売上高は約50%あり、なかでも米国向け及び中国向けの比率が高く、双方に多くの関係会社を保有しています。昨今、両国間の対立が激化し、安全保障輸出管理に係る規制の強化等により、当社グループの両国関連事業にも影響を及ぼすことが懸念されています。当社グループでは、厳格な輸出管理体制を構築し法令遵守を実践してきましたが、両国の規制強化の動向を注視しつつ、輸出管理法令遵守に必要な措置を講じ、輸出管理以外の新たな動向についても迅速に対応できるよう、社内の連絡体制を構築して情報共有・対応策の展開を行っています。
③ 物流混乱による製品供給リスクや部品供給不足による量産品の生産遅延リスク
当社グループでは、コロナ禍にあっても北米・欧州での各種消費刺激策やアウトドアレジャーの拡大に伴い、2020年度におけるモーターサイクルやオフロード四輪車の販売が従来以上に増加しました。一方で、世界的な輸送能力の逼迫により計画通りに出荷出来ず、現時点でもその傾向が続いています。また、半導体や樹脂材料の不足等により一部の生産用部品において納入遅れが生じています。今後の物流や部品調達の状況によっては、ロボット事業やモーターサイクル事業において販売が減少する可能性がありますが、代替品の活用や生産調整等の対策を実行し、利益の確保に努めて参ります。
④ 商談の停滞等により受注が確保できないリスク
コロナ禍による人流の抑制により、海外顧客との商談に支障が生じていることに加え、経済活動の停滞に伴う客先の資金不足なども相俟って、プロジェクトの遅延や見直しにより受注が想定を下回る場合には、数年先の操業に影響を与える可能性があります。
⑤ 民間航空エンジンの運航上の問題に係るリスク
当社グループは、民間航空エンジンプログラムの一部に、リスク&レベニューシェアリングパートナー(RRSP)方式で参画しています。RRSPは開発費と量産を分担し、その参画シェアに応じて販売収入を得る一方で、リスクも参画シェアに応じて負担する契約条件となっています。そのため、運航中のエンジンにおける不具合等は、そのすべてにおいて応分の負担が求められるリスクがあります。当社グループとしては、自社責の不具合発生を防ぐよう設計から製造段階までの品質管理を徹底するとともに、パートナーの一員としてエンジンプログラム全体にわたり、運航上の問題に係るリスクの回避にも貢献していきたいと考えています。
⑥ 景気減速リスク
当社グループでは、中国政府主導の財政出動による建設機械向け油圧機器の販売や、米国の個人消費刺激策及びコロナ禍でのアウトドアレジャーの普及によるオフロード(二輪車・四輪車)の販売が好調です。当面はこの傾向が継続すると見ていますが、コロナ禍が一段落した後には、金融引き締め政策等によって需要が減少する可能性があります。当社グループは、末端販売や販売店在庫の状況を注視し、販売状況に変化の兆候が表れた場合は、遅滞なく生産調整を行う等により適正在庫の管理に努めています。
[重点的に取り組んでいるリスク]
⑦ 大型プロジェクトの損失リスク
当社グループは、過去に鉄道車両、エネルギー関連機器、海洋資源開発支援船など大型プロジェクトにおいて多額の損失を発生させた反省を踏まえ、見積、契約条件、技術仕様等に対するリスク検知と適正な評価、実効性のあるリスク回避策の立案が重要との認識に立ち、受注前のリスクチェック機能を強化してきました。2020年度からは、この取組みに加え、過去の損失案件等から得た教訓を規律として社則化するとともに、過去の案件から統計的に導いた損失リスクの総量を組織の自己資本に見合った範囲に抑えるリスク統制アプローチの導入を進め、一部の事業においてその運用を開始しています。更に、受注後のプロジェクトについてはその進捗状況や市況等において、経営成績等に大きな影響を与える可能性がある兆候を、経営会議及び取締役会へ報告することで、モニタリング機能の強化にも努めています。現在履行中の大型プロジェクトのうち、北米向け地下鉄車両案件については、今後パイロット車両での性能試験、量産車の製造が本格化します。これに備え、プロジェクト遂行に伴うリスクを未然に防止するとともに、生産効率や製品品質を更に向上させるために全社横断的なタスクフォースを社長直轄組織として立上げ、事業採算性の向上、利益の拡大に努めています。
⑧ 為替変動に関するリスク
当社グループの業績見通しにおいては、毎期初時点で一定量の為替変動リスクが存在しています。そのため、実需の外貨建債権・債務に対し、投機的な要素を排除した形で日本円のディスカウントコストを考慮しながら為替予約等のリスクヘッジを行っています。また、モーターサイクル事業を中心として、為替影響分の価格転嫁、海外調達の拡大及び海外生産比率の増加等を通じて為替リスクの低減に取り組んでいます。
⑨ 品質管理リスク
当社グループは、2017年にN700系新幹線台車枠に亀裂が発生するという極めて重大なインシデントを引き起こしてしまいました。この事態を重く受け止め、社内に品質管理委員会を立上げ、原因究明と再発防止に努めてきました。また、2019年度に全社的なTQM(Total Quality Management)を推進する専門組織を立上げ、TQMに則った業務遂行体制の構築、品質管理教育、全員参加での品質向上に努めています。
⑩ 情報セキュリティリスク
当社グループは、事業活動を通じて顧客や取引先の個人情報及び機密情報を入手することがあり、設計・技術・営業等に係る機密情報を多数保有しています。サイバー攻撃などによるコンピュータウィルスの感染、不正アクセスや盗難、その他不測の事態により機密情報が消失、もしくは社外に漏洩する可能性もあり、漏洩防止のために当社グループ工場が生産を停止せざるを得ない場合の損失や、コンピュータウィルスによって顧客へ納入した製品が機能停止によって補償が求められる等のリスクがあります。当社グループにおいて、2020年に社外からの不正アクセスを受け、一部の情報が海外拠点から外部に流出した可能性があります。2020年度にサイバーセキュリティ総括部を設立し、厳格な情報管理体制の構築、インフラシステムの整備、従業員への教育等を通じて情報セキュリティを強化し情報漏洩の防止に努めています。
[財務・経理に関するリスク]
⑪ 資金調達リスク
当社グループの運転資金・投資向け資金等については、主として営業キャッシュフローで獲得した資金を財源としていますが、必要に応じて短期的資金を銀行借入やコマーシャル・ペーパー等により、長期的な資金については、設備投資や事業投資計画に基づき、金融市場動向や固定資産とのバランス、既存借入金及び既発行債の償還時期等を総合的に勘案し、長期借入金や社債などによって調達しています。
これらの金融機関からの借入金には、コベナンツ(財務制限条項)が付されていることがあり、コベナンツに抵触する事象が発生した場合、当該借入金についての期限の利益を喪失する可能性があるほか、その他の債務についても一括返済が求められる可能性があります。その結果、当社グループの信用力や財政状態に大きな影響を及ぼすこととなりますが、現在の財務状況に鑑みるとその可能性は低いと見ており、引き続き財務体質の向上に取り組んで参ります。
⑫ 減損リスク
当社グループは、継続的に設備投資を行いながら事業活動を進めており、多くの有形及び無形の固定資産を有しています。2020年度は船舶海洋事業及び車両事業において、事業環境の急激な変化等により、回収可能額が帳簿価格を下回ると検証・判断した結果、固定資産の減損処理を実施しました。現時点において、多額の減損を計上するような懸念事項はないと考えていますが、今後何らかの外部環境の変化により減損処理を行う必要性が生じた場合、損益が悪化するリスクがあります。なお、2021年度以降は、大規模事業投資(設備投資を含む)案件について、大型プロジェクトの受注前プロセスと同様、投資決定前のリスク審査を強化する取組みを開始します。
⑬ 繰延税金資産の回収可能性に関するリスク
当社グループは、税効果会計を適用し、税務上の繰越欠損金及び将来減算一時差異に対して繰延税金資産を計上しています。繰延税金資産は、事業計画を基礎として将来の一定期間における課税所得の発生やタックスプランニングに基づき、回収可能性を検討しています。また、新型コロナウイルス感染症の影響に関しても一定の仮定を置いたうえで事業計画へ織込んでいます。しかしながら、将来の見通しに変化が生じた際は、回収可能性の見直しが必要となり、繰延税金資産の一部又は全部の回収ができないと判断された場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、将来の見通しの変化等により事業計画にダウンサイドリスクが判明した場合には、繰延税金資産の回収可能性に関しての見直しの要否を適時に判断できるような体制を構築しています。
⑭ 貸倒リスク
当社グループは、取引開始前の与信管理を徹底するとともに、取引期間中はその相手先の財務状況を定期的にモニタリングし、財務状況の悪化等の早期把握に努める等、債権回収リスクの軽減を図っています。しかしながら相手先の信用不安や契約不履行等により、予期しない債権の回収不能な事象が生じた場合には貸倒れによる損失が発生する可能性があります。そのため、今後も相手先の財務状況の定期的なモニタリングや必要に応じて担保等の提供を受ける等により、貸倒リスクの低減に取り組んでいます。
⑮ 退職給付信託における株価変動リスク
当社グループでは保有株式の一部を拠出し、従業員の退職給付信託として設定しています。株式を保有する合理性については定期的に取締役会にて審議し、保有意義が薄れた株式については売却を進めています。退職給付信託に拠出している株式は、株式運用により収益を期待するものではないため、目標収益率等の設定をしておらず、ポートフォリオ管理をしていないため、市場での株価変動リスク以上に退職給付信託に拠出した株式の株価が変動するリスクがあります。期末日時点の株価による数理計算上の差異については、発生翌年度から従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(主として10年)を以って均等償却を行っています。その償却額については、業績見通しに反映しています。
(2) 経済動向・社会・制度等の変化により活動の継続が困難となる重要事象
① 脱炭素化社会・ゼロエミッション
当社グループが提供する輸送機器やエネルギーシステムの多くは、化石燃料をベースにしています。また、生産をはじめとする事業活動においてCO2を排出しています。脱炭素社会やゼロエミッションの到来によって、現在の製品・技術が各種規制によって使用不可となることや、顧客をはじめとする様々なステークホルダーへの価値を創出できなくなることで、事業そのものが淘汰される可能性があります。また、事業活動におけるCO2排出を削減するための莫大な追加コストの発生リスクも存在しています。
そのため、水素サプライチェーンの構築に向けた活動や、水素を燃料とする輸送機器・エネルギーシステム、電動機器など脱炭素社会に対応した事業に向けた研究開発を行うとともに、自社で使用する電力・動力をCO2フリーにするための様々な対策を進めています。
② 開発投資
当社グループは、社会課題の解決と持続的な企業価値向上のため、将来の収益が期待できる分野への研究開発投資や設備投資を行っています。開発の項目や内容の選定判断を誤ることで競合に対する競争力を失い、事業・製品のシェアを低下させるリスクがあります。また、水素利活用分野など基礎研究から実証、製品化へは長期にわたる投資が必要なものが多く、市場変化や顧客、競合動向、各国規制の変化等によっては開発戦略の見直しや撤退を迫られる分野もあり、過去には投入した開発費が回収できなかった事業も存在しています。これらが当社グループの経営に大きな影響を及ぼすことがないよう、開発投資を行う分野の選定やその開発内容、人財投入計画等については、経営戦略や事業ポートフォリオ上の位置付けなども踏まえて決定し、進捗管理を徹底して参ります。
③ ライフスタイル・ワークスタイルの変化
当社グループは、輸送機器システム、エネルギー・環境機器、産業インフラ機械など人々の生活に密着した事業を展開していますが、コロナ禍を契機にこれら人々の働き方や暮らし方が急激に大きく変わろうとしています。例えば、リモートワークの増加やイーコマースの増加による人とモノの移動の変化、パーソナル志向の高まりなどによって顧客価値が変化し、従来当社グループが提供してきた製品・サービスが多くの影響を受ける可能性があります。そのため、変化する世の中・市場を常に注視し、貨物輸送ニーズに対応した自律配送ロボットや無人輸送ヘリコプター、オフロード四輪などパーソナルユース向け製品の積極的な市場投入など、時代が求める様々なソリューションをタイムリーに提供できるよう製品開発を進めています。
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