有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100LMW2 (EDINETへの外部リンク)
ヤマハ株式会社 研究開発活動 (2021年3月期)
当社グループは、「感動を・ともに・創る」を企業理念に掲げています。これを支えるために、「技術×感性(ヤマハらしさ)」で新たな価値を創造するべく、コア技術の更なる高度化と拡張のための研究開発を進めております。取り組んでいる研究開発の領域は、アコースティック技術、デジタル技術、感性評価技術、解析・シミュレーション技術、製造技術等、音そのものに留まらず、基礎から応用まで、音の活用を支える技術分野に大きく広がっています。
当連結会計年度は、「本質×革新」を追求するために、「飽くなき表現力の向上」、「感性を科学する」、「イノベーションの創出」、「AIによる技術革新」をテーマに研究開発を進めました。
当社グループの研究開発体制は、楽器事業については当社楽器事業本部、及びYamaha Guitar Group, Inc.の開発部門、音響機器事業については当社音響事業本部、NEXO S.A.、Steinberg Media Technologies GmbH、Yamaha Unified Communications, Inc.の開発部門、その他の事業については当社電子デバイス事業部、ゴルフHS事業推進部及びヤマハファインテック株式会社の開発部門、全社横断的R&Dについては当社技術本部研究開発統括部が担う形で構成しております。
当連結会計年度における主な成果をセグメントごとに示すと次のとおりであります。
なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は24,189百万円であります。
1 楽器事業
ピアノ関連では、プレミアムピアノづくりのノウハウを受け継いだグランドピアノの上位モデル「C3X espressivo」を開発しました。「C3X espressivo」は、音色や音量を演奏者のイメージどおりに変化させられることを目指して開発したモデルです。プレミアムピアノ「SXシリーズ」の開発を通して培った最新の技術やノウハウを、家庭に置きやすいサイズながら低音から高音までバランスのとれた豊かな響きに定評のあるグランドピアノ「C3X」に応用し、さらに丁寧に緻密な仕上げ作業を施すことで、演奏者が思い描く演奏表現に存分に応える高い表現力を実現しました。また、当社の自動演奏機能付きピアノ「Disklavier(ディスクラビア)」を用いて、フライブルク音楽大学(ドイツ・フライブルク)が実施した入学試験に協力しました。ドイツと日本、中国をインターネットで接続して、遠隔地からでもピアノ演奏の実技試験を受けることができるリモート入学試験をサポートしました。今回の実技試験は、ヤマハホール(日本)、グループ会社現地オフィス(中国)、フライブルク音楽大学(ドイツ)に設置した「Disklavier」をそれぞれネットワークで接続して、日本と中国の受験者による演奏を、遠く離れたドイツのピアノで忠実に再現し、それを試験官が評価する方法で実施しました。
管弦打楽器関連では、バリトンサクソフォンの新製品として、「YBS-82」を開発しました。「YBS-82」は当社バリトンサクソフォンで初のフラグシップモデルとなる「カスタムモデル」で、日本を代表するサクソフォン奏者の協力のもと、音色・音程、重量バランスなど細部にわたり検証をおこない、理想の響きと高い操作性を実現しました。また、デジタル管楽器の新製品として、デジタルサックス「YDS-150」を開発しました。「YDS-150」は、サクソフォンの本格的な表現力をそのままに静音化を実現した、気軽に演奏を楽しんでいただける全く新しい管楽器です。息を吹き込むだけですぐに音を出すことができ、息の圧力により繊細な音量や音色の変化をつけることができるので、管楽器初心者から経験者まで奏者の表現したいことに応えてくれます。また、電子ドラムの新製品として、「DTX6シリーズ」を開発しました。サウンドとユーザーインターフェースを刷新し、定評のある「DTX-PAD」を標準装備、キックパッドやラックシステムを新たに開発し、楽しみながら上達できる練習機能も豊富に搭載しています。
ギター関連では、エレキギターの新製品として、「PACIFICA 612VIIX」「PACIFICA 612VIIFMX」を開発しました。「PACIFICA 612VIIX」「PACIFICA 612VIIFMX」は、ボディにアルダー材、ネックにメイプル材、指板にはローズウッドを採用し、フロントとセンターにシングルコイル、リアにハムバッキングのピックアップを搭載した「PACIFICAシリーズ」の上位モデルです。3つのピックアップはもちろんのこと、トレモロユニット、コイルタップスイッチなど、各所に高品質なパーツを搭載し、ひとつひとつ丁寧に作り上げています。また、ギターアンプの新製品として、「THR30IIA Wireless」を開発しました。「THR30IIA Wireless」は、現代におけるアコースティック・ギタリストのニーズに応える音、デザイン、機能性を徹底的に追求したギターアンプです。「THR30II Wireless」のワイヤレス機能、外観を引き継ぎながら、アコースティックギターに最適なサウンドを刷新し、マイク入力端子をはじめとする弾き語りのニーズにマッチする機能を新たに搭載しました。
電子楽器関連では、電子ピアノ「Clavinova(クラビノーバ)」CLPシリーズの新製品として、「CLP-700シリーズ」を開発しました。「CLP-700シリーズ」は、グランドピアノの多彩な音色変化を再現する最新技術「グランド・エクスプレッション・モデリング」と、グランドピアノの音像や音場をリアルに再現する最新の音響技術「グランド・アコースティック・イメージング」により、高い表現力と臨場感のある響きを実現しています。さらに、ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」とベーゼンドルファーの「インペリアル」から新たにサンプリングした音源を搭載しているほか、ピアノの原型である古楽器フォルテピアノの音色を当社の電子ピアノとして初めて搭載し、さまざまな演奏表現を楽しんでいただけます。また、ステージキーボードの新製品として、「YC61」を開発しました。「YC61」は、アナログ機器の特性を忠実に再現する「VCM(Virtual Circuitry Modeling)」技術を元に開発した「VCMオルガン音源」、80年代を象徴するサウンドである「FM音源」、リアルな響きが高い評価を受けている「AWM2音源」を搭載し、ステージキーボーディストが求める音質に高い次元で応えます。特にオルガンサウンドは、アナログ回路を高精度にモデリングすることで、トーンホイールオルガンやロータリースピーカー特有の「音の飽和感」や「温かみ」などを再現しています。鍵盤にはグリッサンド奏法や高速連打に最適なセミウェイテッド ウォーターフォール鍵盤を搭載しました。
その他の楽器事業関連では、「離れていても音でつながる」リモート合奏サービス「SYNCROOM(シンクルーム)」を正式にスタートしました。「SYNCROOM」は、インターネット回線を介して、複数のユーザー同士(最大5拠点)でリモート合奏が楽しめるサービスです。一般的なリモート会議システムやIP電話は、通話や会議を想定して設計されており、一定の音声の遅れが生じることから、高いリアルタイム性が要求される合奏には適していません。そこで「SYNCROOM」は、当社独自の技術によってインターネット回線を介したオーディオデータの双方向送受信の遅れを極小化し、遠隔地間でも快適なオンラインセッションが楽しめるサービスを実現しました。
なお、ステージピアノ「CP88」とショルダーキーボード 「sonogenic SHS-500」が「German Design Award 2021」を受賞しました。「sonogenic SHS-500」は「アジアデザイン賞 2020」で「Silver Award」も受賞しました。また、歌声合成技術「VOCALOID(ボーカロイド)」は、「第9回技術経営・イノベーション大賞」(主催:一般社団法人科学技術と経済の会)の「選考委員特別賞」を、リモート合奏サービス「SYNCROOM」は、「2020年日経優秀製品・サービス賞」において「最優秀賞」を受賞しました。
楽器事業の研究開発費は9,730百万円であります。
2 音響機器事業
AV機器関連では、サウンドバーの新製品として「SR-C20A」を開発しました。「SR-C20A」は、当社史上最小となる横幅60cmのコンパクトボディでテレビやパソコンの前にも手軽に設置でき、リビングやプライベートルーム、寝室など、幅広いシーンで活躍するサウンドバーです。人の声やナレーションを聴きやすくする「クリアボイス」や低音を増強する「バスエクステンション」機能をはじめ、当社独自チューニングのサラウンド技術により、テレビの音をより聴きやすくグレードアップし、大型テレビにもマッチする豊かな低音と臨場感が楽しめます。また、好評の「リスニングケア」を搭載し、装着性、接続安定性をさらに高めた完全ワイヤレスBLUETOOTHイヤホンの新モデル「TW-E3B」を開発しました。ハウジングサイズを25%コンパクト化したデザインで耳へのフィット感、装着性を向上し、低域高域ともによりクリアな音質を実現するともに、ワイヤレス接続の安定性も向上しました。
業務用音響機器関連では、大規模ライブや設備音響、放送などでミキシングやエフェクトなどの音声信号処理などを行う、デジタルミキシングシステムの新ラインアップ「RIVAGE PM5」「RIVAGE PM3」のコアコンポーネントとなるコントロールサーフェス「CS-R5」「CS-R3」およびDSPエンジン「DSP-RX-EX」「DSP-RX」を開発しました。「RIVAGE PM5」「RIVAGE PM3」は、フラッグシップ「RIVAGE PMシリーズ」を拡張する新たなシステムです。“ステージで鳴っている音をありのままに取り込み、そこからさまざまな色付けを行う”という音質コンセプトや機能はそのままに、直感的な操作性や軽量・コンパクト化を追求しています。「CS-R5」は、シリーズで初めて3面のディスプレイを搭載し、筐体の奥行きを643mmに抑えてタッチパネルを操作者に近づけたことで、快適なタッチ操作と広いサイトラインを実現しました。「CS-R3」は、重量38kg、幅1,145mmとシリーズで最も軽量・コンパクトな筐体を持ち、設置場所に制限のある会場やモニター用途に最適なモデルです。また、DSPエンジンには既発売の「DSP-R10」に加え、288Mono入力搭載の「DSP-RX-EX」と120Mono入力搭載の「DSP-RX」の2モデルをラインアップ追加しました。
音楽制作機器・ソフトウェア関連では、Steinberg社の新製品として、「Cubase 11」を開発しました。「Cubase 11」は、作曲、アレンジ、レコーディング、波形編集、ミキシングなどをサポートする総合音楽制作ソフトウェアの最新バージョンです。ワンクリックでのスライス機能などが追加されたサンプラートラックや、キーエディターへのスケール表示機能の搭載に加え、ダイナミックEQ(「Cubase Pro」のみ)などのさまざまな機能やプラグインが追加されています。
ネットワーク機器関連では、中小企業ネットワークに必要なセキュリティーを1台で提供するUTMアプライアンス「UTX100」「UTX200」を開発しました。「UTX100」「UTX200」では、セキュリティー黎明期よりネットワークセキュリティー専業ベンダーとしてグローバルにビジネスを展開しているCheck Point Software Technologies Ltd.との協業により、世界最高レベルのセキュリティー機能を提供しています。ヤマハルーターの配下に本製品を追加することで、企業ネットワークのセキュリティーレベルを大きく向上させることが可能です。また、Wi-Fi 6対応・トライバンド搭載、最大500台の端末を接続可能な無線LANアクセスポイントの最上位モデル「WLX413」を開発しました。「WLX413」は、大規模なオフィスや学校、ホテルなどに向けて、高速、多数端末接続、広範囲なワイヤレス環境を提供する無線LANアクセスポイントです。本体内蔵コントローラーによるオンプレミス(自社運用)型管理に加え、独自のクラウド型ネットワーク統合管理サービス「YNO」にも対応し、複数拠点の無線LANの一括管理も行えます。
音声コミュニケーション機器関連では、遠隔会議用サウンドソリューション「ADECIA」を開発しました。「ADECIA」は、当社が長年培ってきた音を原点とする音声処理技術とネットワーク市場における経験を駆使し、新開発したシーリングアレイマイクロフォン「RM-CG」と専用プロセッサー「RM-CR」を中心としたシステムです。Dante/PoE対応ラインアレイスピーカー「VXL1-16P」とPoE給電対応のネットワークスイッチ「SWRシリーズ」を組み合わせることで、音とネットワークの技術の相乗効果を発揮する遠隔コミュニケーションのワンストップサウンドソリューションを実現し、多様な遠隔会議スタイルをサポートします。
その他音響機器関連では、リモート応援システム「Remote Cheerer powered by SoundUD(リモートチアラー パワード バイ サウンドユーディー)」を開発しました。「Remote Cheerer powered by SoundUD」は、試合展開に合わせてスマートフォン専用サイトの「応援ボタン」をタップした人数に応じて、スタジアム内に設置したスピーカーから歓声や拍手の音を流すことができるシステムです。「ケガや病気で入院中の子ども達、子育てなどで多忙な方、障がいや高齢などさまざまな理由でスタジアムに足を運ぶことができないサポーターが、スタジアムにいるサポーターと一緒に応援できるよう、その声援を現場に届けたい」との想いから開発されました。昨今の新型コロナウイルスの感染再拡大に備える状況下にあって、ソーシャルディスタンスを保ち、新しい生活様式に対応しながら応援を楽しめる技術としても高い注目を集めています。また、アーティストの迫力のあるライブパフォーマンスを忠実に記録し、ステージ上にバーチャル再現する次世代ライブビューイング「Distance Viewing(ディスタンス・ビューイング)」を開発しました。「Distance Viewing」は、ライブ時の迫力あふれる音を完全再現しながら、大型スクリーンを用いた等身大映像と、ライブさながらの照明演出などで、ライブパフォーマンスをステージ上によみがえらせます。「Distance Viewing」を導入することによって、会場でのバーチャルライブが可能になるほか、オンライン配信でもファンに存分に楽しんでいただけます。
なお、リモート応援システム「Remote Cheerer powered by SoundUD」が「2020年度グッドデザイン賞」を、遠隔会議用スピーカーフォン「YVC-330」がインターネットテクノロジーのイベントである「Interop Online」で「Best of Show Award」を受賞しました。
音響機器事業の研究開発費は10,820百万円であります。
3 その他の事業
電子デバイス事業関連では、開発した「車載向けヤマハブランドスピーカーシステム」が上海汽車グループMGの新型「MG5」の上位グレードに搭載される純正品として採用されました。当社は、“音楽が生まれた瞬間の感動を届けたい”という想いのもと「CLOSER TO THE ARTIST」 をユーザー体験として掲げ、車載向けブランドオーディオ事業を展開しています。高音質スピーカーユニットを提供するだけでなく、音響チューニングにヤマハのエンジニアが参画することで、信号処理にもヤマハのこだわりを反映させています。
ゴルフ事業関連では、“手にするだけでプラス2番手の飛び”をさらに進化させた“ぶっ飛び”に加え、“超まっすぐ”を実現したゴルフクラブ「inpres UD+2(インプレス・ユーディープラスツー)」シリーズの2021年モデルを開発しました。ドライバー、フェアウェイウッド、ユーティリティでは、フェース周辺の剛性を高めてエネルギーロスを防ぎ、ボール初速を上げる新テクノロジー「SPEEDBOX(スピードボックス)」を搭載しました。さらに同重量帯クラブの中でも最高クラスの重心角と慣性モーメントにより、“つかまって”“曲がらない”方向安定性も実現しています。アイアンは、フェースとソールの薄肉化による初速アップと、フェース裏面に5本のリブを配置することで高い打ち出しを実現する「SPEED RIBFACE(スピード リブフェース)」を新搭載し、“ぶっ飛び”と“高弾道”を同時に実現しました。
その他の事業の研究開発費は3,637百万円であります。
当社グループの当連結会計年度末における日本での特許及び実用新案の合計所有件数は2,508件であります。
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