有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100SIVV (EDINETへの外部リンク)
浜松ホトニクス株式会社 研究開発活動 (2023年9月期)
当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。
光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。
当連結会計年度の研究開発費の総額は、12,304百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,832百万円、光半導体事業1,622百万円、画像計測機器事業868百万円、その他事業804百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,176百万円であります。
当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。
超小型化、低コスト化、高速応答を実現したガス分析用途向けセンサを開発
工場等における排ガスの分析には、赤外光をガスに照射しその吸収量を検出することで、ガスに含まれる成分や量を計測する手法が一般に用いられています。当社は、これまでガス分析向けセンサとして検出素子と電子回路等を一体化したモジュール製品を販売してまいりましたが、試料を測定室に持ち込むことなく現場で分析を行えるよう小型なセンサが求められておりました。
このような中、当社は、最新のInAsSb(注1)検出素子を採用するとともに、独自の回路設計技術により素子と電子回路等を直径約9㎜のパッケージに内蔵したセンサの開発に成功いたしました。これにより、従来品と同等の感度を有しながら、体積を約200分の1にまで大幅に小型化いたしました。また、配線等の構造を最適化することで、応答速度を従来の約2倍まで高めるとともに、低コスト化も実現しました。これまでガス分析向けのセンサでは、テルル化カドミウム水銀を用いたものが主流でしたが、同物質がRoHS指令(注2)の制限物質に指定されたことから、今後、当該物質を含まない本製品への置き換えが見込まれます。
本製品は、排ガス等をリアルタイムに分析する可搬型の分析機器への応用が期待されており、高精度な環境分析用デバイスの供給を通じて大気汚染といった環境問題の解決に貢献してまいります。
広視野かつ高解像度での撮像に適したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」
生命科学やバイオ等の分野の研究では、細胞等の微細な構造や瞬間的な生命活動を観察するため、顕微鏡とデジタルカメラを組み合わせたイメージング手法が広く用いられており、特に近年では、低倍率のレンズを用いて、広い視野で一度に多くの細胞等を観察するニーズが高まっております。このような低倍率でのイメージングにおいて、観察対象の細部まで解像度の高い画像を取得するためには、画素サイズの小さなカメラが適しておりますが、このような性能を十分に有するカメラはこれまで存在しておりませんでした。
このような中、当社は、最新の裏面入射型イメージセンサを搭載したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」を開発いたしました。本製品は、独自の設計・製造技術を用いて、センサ全体の面積を大面積化するとともに、センサを構成する1つ1つの画素サイズを4.6μmという非常に微細なサイズにすることで、低倍率でのイメージングにおける広視野かつ高解像度な画像取得を可能にしております。
今後も当社は、高性能なカメラの開発・供給を通じて、再生医療や創薬といった最先端の生命科学やバイオ分野の研究の発展に貢献してまいります。
体動補正機能付き頭部用PET装置の開発・AIによるPET画像再構成の実現
当社は、PETに関する研究を積極的に推進しており、この度、新規装置の開発とPET画像直接再構成手法の確立を実現しました。
当社と一般財団法人浜松光医学財団は、被検者の体動によるPET画像のボケを補正する機能を搭載した頭部用PET装置を開発いたしました。本装置は、静止状態を保つことが困難な認知症や多動性精神疾患の被検者の脳の状態を高精度に計測できます。本装置を臨床現場で用いることにより、医師の診断精度の向上や治療薬の開発促進などが期待されます。今後も、同財団とともに、認知症や精神疾患の早期発見、病態解明に向けた研究を加速してまいります。
また、当社はAIを用いた高品質なPET画像を取得する手法を世界に先駆けて実現いたしました(注3)。PETの診断画像は、収集した観測データに対し画像再構成と呼ばれる演算を行うことにより取得することが一般的ですが、その処理の過程で診断画像の劣化が発生してしまうことが課題でした。このような中、当社はAIを用いた画像再構成手法を新たに開発し、これまでの画像再構成に必要であった処理を省略することに成功いたしました。これを用いることで、画像劣化の発生を最小限に抑えつつ観測データから高画質な診断画像の取得を可能といたしました。これにより、計測時間の短縮や放射性薬剤の使用量削減による被検者の被ばく低減が期待されます。
当社は今後もPETに関する研究開発を推進し、健康長寿社会の実現に貢献してまいります。
新たな応用が期待される赤外領域のレーザ・センサを開発
医療や産業から宇宙分野まで幅広く利用されている赤外線は、今後も応用の拡大が期待されており、当社でもその光源及びセンサの研究開発に取り組んでおります。
光源につきまして、波長1.4~2.6μmの光は自動車の高度な自動運転に不可欠な長距離センシング等への応用が見込まれておりますが、高い出力を保つことが課題でした。当社では、これまでの研究成果をベースに新たな構造を採用することで、素子製造工程におけるレーザ出力の阻害要因を排除するとともに、レーザが素子内に吸収されてしまう割合を低減させることにより、従来の10倍以上である100mW超の出力を有した波長1.5μmのフォトニック結晶面発光レーザを開発いたしました。
また、センサにつきましては、波長1.1μm以上の光は一般に広く用いられているシリコンフォトダイオードなどでは検出困難であるため、有機材料を用いた研究を進めております。この度、当社は有機半導体薄膜の形成技術や電極形成技術など独自の技術をいかすとともに、新たな材料を用いることで、波長1.5μmまでに感度をもつ有機光センサの開発に成功いたしました。本センサは、曲がる・大面積・低コストなどの特徴をもつため、組み込む装置の設計の自由度が高く、様々な使い方が期待されます。
今後も、赤外領域におけるレーザのさらなる高出力化やセンサの感度範囲拡大・応答高速化などを進め、早期実用化を目指してまいります。
(注)1 インジウム(In)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)の略称です。
2 特定の有害物質を一定の濃度以上含む電気電子機器のEU市場での販売を禁止するものです。
3 本研究は、JSPS科研費 JP22K07762の助成を受けたものです。
光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。
当連結会計年度の研究開発費の総額は、12,304百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,832百万円、光半導体事業1,622百万円、画像計測機器事業868百万円、その他事業804百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究5,176百万円であります。
当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。
超小型化、低コスト化、高速応答を実現したガス分析用途向けセンサを開発
工場等における排ガスの分析には、赤外光をガスに照射しその吸収量を検出することで、ガスに含まれる成分や量を計測する手法が一般に用いられています。当社は、これまでガス分析向けセンサとして検出素子と電子回路等を一体化したモジュール製品を販売してまいりましたが、試料を測定室に持ち込むことなく現場で分析を行えるよう小型なセンサが求められておりました。
このような中、当社は、最新のInAsSb(注1)検出素子を採用するとともに、独自の回路設計技術により素子と電子回路等を直径約9㎜のパッケージに内蔵したセンサの開発に成功いたしました。これにより、従来品と同等の感度を有しながら、体積を約200分の1にまで大幅に小型化いたしました。また、配線等の構造を最適化することで、応答速度を従来の約2倍まで高めるとともに、低コスト化も実現しました。これまでガス分析向けのセンサでは、テルル化カドミウム水銀を用いたものが主流でしたが、同物質がRoHS指令(注2)の制限物質に指定されたことから、今後、当該物質を含まない本製品への置き換えが見込まれます。
本製品は、排ガス等をリアルタイムに分析する可搬型の分析機器への応用が期待されており、高精度な環境分析用デバイスの供給を通じて大気汚染といった環境問題の解決に貢献してまいります。
広視野かつ高解像度での撮像に適したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」
生命科学やバイオ等の分野の研究では、細胞等の微細な構造や瞬間的な生命活動を観察するため、顕微鏡とデジタルカメラを組み合わせたイメージング手法が広く用いられており、特に近年では、低倍率のレンズを用いて、広い視野で一度に多くの細胞等を観察するニーズが高まっております。このような低倍率でのイメージングにおいて、観察対象の細部まで解像度の高い画像を取得するためには、画素サイズの小さなカメラが適しておりますが、このような性能を十分に有するカメラはこれまで存在しておりませんでした。
このような中、当社は、最新の裏面入射型イメージセンサを搭載したデジタルカメラ「ORCA®‐Fire」を開発いたしました。本製品は、独自の設計・製造技術を用いて、センサ全体の面積を大面積化するとともに、センサを構成する1つ1つの画素サイズを4.6μmという非常に微細なサイズにすることで、低倍率でのイメージングにおける広視野かつ高解像度な画像取得を可能にしております。
今後も当社は、高性能なカメラの開発・供給を通じて、再生医療や創薬といった最先端の生命科学やバイオ分野の研究の発展に貢献してまいります。
体動補正機能付き頭部用PET装置の開発・AIによるPET画像再構成の実現
当社は、PETに関する研究を積極的に推進しており、この度、新規装置の開発とPET画像直接再構成手法の確立を実現しました。
当社と一般財団法人浜松光医学財団は、被検者の体動によるPET画像のボケを補正する機能を搭載した頭部用PET装置を開発いたしました。本装置は、静止状態を保つことが困難な認知症や多動性精神疾患の被検者の脳の状態を高精度に計測できます。本装置を臨床現場で用いることにより、医師の診断精度の向上や治療薬の開発促進などが期待されます。今後も、同財団とともに、認知症や精神疾患の早期発見、病態解明に向けた研究を加速してまいります。
また、当社はAIを用いた高品質なPET画像を取得する手法を世界に先駆けて実現いたしました(注3)。PETの診断画像は、収集した観測データに対し画像再構成と呼ばれる演算を行うことにより取得することが一般的ですが、その処理の過程で診断画像の劣化が発生してしまうことが課題でした。このような中、当社はAIを用いた画像再構成手法を新たに開発し、これまでの画像再構成に必要であった処理を省略することに成功いたしました。これを用いることで、画像劣化の発生を最小限に抑えつつ観測データから高画質な診断画像の取得を可能といたしました。これにより、計測時間の短縮や放射性薬剤の使用量削減による被検者の被ばく低減が期待されます。
当社は今後もPETに関する研究開発を推進し、健康長寿社会の実現に貢献してまいります。
新たな応用が期待される赤外領域のレーザ・センサを開発
医療や産業から宇宙分野まで幅広く利用されている赤外線は、今後も応用の拡大が期待されており、当社でもその光源及びセンサの研究開発に取り組んでおります。
光源につきまして、波長1.4~2.6μmの光は自動車の高度な自動運転に不可欠な長距離センシング等への応用が見込まれておりますが、高い出力を保つことが課題でした。当社では、これまでの研究成果をベースに新たな構造を採用することで、素子製造工程におけるレーザ出力の阻害要因を排除するとともに、レーザが素子内に吸収されてしまう割合を低減させることにより、従来の10倍以上である100mW超の出力を有した波長1.5μmのフォトニック結晶面発光レーザを開発いたしました。
また、センサにつきましては、波長1.1μm以上の光は一般に広く用いられているシリコンフォトダイオードなどでは検出困難であるため、有機材料を用いた研究を進めております。この度、当社は有機半導体薄膜の形成技術や電極形成技術など独自の技術をいかすとともに、新たな材料を用いることで、波長1.5μmまでに感度をもつ有機光センサの開発に成功いたしました。本センサは、曲がる・大面積・低コストなどの特徴をもつため、組み込む装置の設計の自由度が高く、様々な使い方が期待されます。
今後も、赤外領域におけるレーザのさらなる高出力化やセンサの感度範囲拡大・応答高速化などを進め、早期実用化を目指してまいります。
(注)1 インジウム(In)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)の略称です。
2 特定の有害物質を一定の濃度以上含む電気電子機器のEU市場での販売を禁止するものです。
3 本研究は、JSPS科研費 JP22K07762の助成を受けたものです。
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