有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100O4WX (EDINETへの外部リンク)
J.フロント リテイリング株式会社 事業等のリスク (2022年2月期)
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2022年5月27日)において当社グループが判断したものであります。
(1)リスクマネジメントの考え方と体制
・リスクマネジメント
当社グループは、リスクを「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しています。そして、リスクマネジメントを「リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理することにより企業価値を高める活動」と位置づけ、リスクのプラス面・マイナス面に適切に対応することにより、企業の持続的な成長につなげています。
・リスクマネジメント体制
当社は、代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、執行役などをメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置しており、リスクの抽出及び評価、戦略に反映させるリスクの決定など重要事項を審議し、リスクマネジメントを経営の意思決定に活用しています。なお、同委員会での審議内容については、適時に取締役会に報告します。
同委員会には、リスク管理担当役員を長とする事務局を置き、委員会で決定した重要な決定事項を事業子会社に共有し、ERM(全社的リスクマネジメント)を推進しています。また、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることにより、リスクマネジメントを企業価値向上につなげるよう努めています。
なお、効果的なリスクマネジメントを行うため、次のとおり3ラインを構築しています。
・第1ライン(事業子会社などの業務執行部門):自らリスクの特定及び必要な対策を行う。
・第2ライン(持株会社の各部門):業務執行部門から独立した立場でリスクマネジメントの支
援・指導・モニタリングを行う。
・第3ライン(内部監査部門):業務執行部門及び持株会社の各部門などから独立した立場でリ
スク管理機能及び内部統制システムの有効性について監査を行う。
リスクマネジメント体制図
(2)リスクマネジメントプロセス
当社グループでは、下記のプロセスにより、リスクマネジメントを推進しています。具体的には、外部・内部環境分析や、取締役、経営層および実務責任者の認識をもとに当社グループにとって重要度の高いリスクの抜け漏れが生じないように努めています。
中期的に当社のグループ経営において極めて重要度が高いものは、「企業リスク」と位置づけ「グループ中期経営計画」の起点としています。
また、「企業リスク」を受けて識別した年度リスクを「JFRグループリスク一覧」にまとめ、「リスクマップ」を用いて評価を行い、優先度をつけて対応策を実行しています。「企業リスク」「JFRグループリスク一覧」は、半年に一度の頻度で、リスクを取り巻く環境変化と対応策の進捗についてモニタリングを行い、リスクマネジメント委員会で論議後、その内容を取締役会に報告しています。
下図は当社グループが、中長期にわたりJFRグループの成長・存続を左右する最重要のリスクと位置づけている「企業リスク」です。
その中でも「1.サステナビリティ経営の高度化」「2.既存の事業モデルの衰退」「3.加速度を増すデジタル化への対応」「4.ポストコロナにおける消費行動の変化」は、当社のグループ経営に及ぼす影響が極めて大きいため、中期経営計画において最優先で対応すべきリスクと位置づけています。
影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク
上記リスク以外の「企業リスク」
(3)直近の環境変化とリスク認識
当社グループの経営にとって未曾有の打撃をもたらしている新型コロナウイルス感染症は、足許ではオミクロン株亜種への置き換わりが進み、新規感染者数は依然として高い水準を維持しています。今後も断続的に拡大する蓋然性は高く、予断を許さない状況です。
ただし、これまでの感染対策の経験や、3回目のワクチン接種の進展、および経口治療薬の普及等により、感染拡大の影響は徐々に小さくなっていくと考えております。
その一方で、ロシアのウクライナ侵攻は、当社グループに様々な影響を与えています。この侵攻を起因とした燃料価格や穀物価格の高騰が、その他の商品にも波及し、世界的な物価高をひき起こしています。この物価高への対応として、米国では既に政策金利の引上げを開始しており、欧州でも金利引上げに向けて準備を進めていますが、金利の引上げ幅やスピード次第で、景気後退や株価下落を招く可能性を有しています。
一方、我が国では、景気回復に向け低金利を継続しており、これが急激な円安の一因となっています。この円安は物価高に拍車をかけ、消費者心理を確実に冷やしていき、さらに世界的な株安となった場合には、我が国の株価も追随し、より一層の消費停滞につながっていくなど、当社グループの業績にも大きな影響を与えます。
また、上記以外にも、鉱物資源や半導体不足による納品遅延や価格の高騰、ロシア上空の航路迂回に伴う輸送費の引上げや入荷日の遅延など、様々な面で影響を受けています。
このように、本年度も先行き不透明、かつ極めて厳しい経営環境の中で事業活動を強いられることになります。
新型コロナウイルス感染症の影響は、消費者の価値観や消費行動、小売業に求めるものなどの変化をさらに加速させています。リモートワークの定着や人々の生活スタイル、さらには都市のあり方も大きく変わってきており、当社グループの中核事業である百貨店事業・SC事業は、新しい事業モデルへの進化が不可避な状況です。
その対応策の一つとして、「リアル×デジタル戦略」を推進しています。リアルではラグジュアリーやアート、時計などの領域に重点投資しつつ、デジタルではオンライン活用ビジネスの拡大を進めることでリアルと融合した多様なチャネルを整備し、真に価値のある商品を適時・適切に提供していきます。
また、コロナ禍で改めて認識したのは、サステナブルな取り組みでなければ支持されないということです。コロナ禍によって、生活者の「持続可能な地域や社会」への意識が高まっており、多くの企業もそれに合わせる形で自社の存在意義を再定義しようとしています。幸いにも、当社グループは、300年、400年前から続いている、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という、サステナビリティ経営につながる社是を有しており、今後も持続的な成長に向けて着実に歩みを進めてまいります。
上記の環境変化を踏まえて更新した「企業リスク」は、有価証券報告書提出日現在において、皆様の投資等の判断に影響を与える可能性があるリスクと認識しており、当社グループのリスク定義(企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある)に則し、リスク認識および対応策を次頁以降に記載いたします。
(*)中期経営計画期間内のリスク変化を、当社グループへの影響度や対応策等を考慮して見通したもの。
JFRグループ「企業リスク」一覧
(*)中期経営計画期間内のリスク変化を、当社グループへの影響度や対応策等を考慮して見通したもの。
(4)TCFD提言に沿った情報開示
①JFRグループが目指すサステナビリティ経営
JFRグループは、2021年度からスタートした中期経営計画において、サステナビリティ経営の考え方を明確にし、グループビジョンである“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”ことのゴールとして「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」を掲げました。
新型コロナウイルスの感染拡大により世界が一変し、社会構造や消費構造が変わろうとしており、小売業に求める価値も変化しつつあります。不透明感が増す中、サステナビリティへの取り組みを推進し、グループビジョンを実現していくために、私たちは、コロナ禍を経たこれからの新しい豊かさ、安心、幸福につながるモデルについて、熟慮し、論議を重ねました。その結果、私たちが目指すべきグループビジョンのゴールは、すべての人の「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」の実現との結論に至りました。(図1)
当社グループが考える「Well-Being Life」とは、従来の物質的豊かさ、経済的豊かさに加え、精神的豊かさ(知的、文化的豊かさ)、身体的豊かさ、社会的豊かさ、そしてそれらを取り巻く環境の豊かさを実現した「心身ともに豊かなくらし」です。JFRグループは、世界中、日本中の文化に根差すモノ・コトと消費者をつなぎ、「美」「健康」「高質」「カルチャー」「信頼」と「持続可能性」「つくる人とつかう人をつなぐ能力」を掛け合わせた視点で提案することで、ステークホルダーの皆様の「Well-Being Life」を実現していきます。
図1 サステナビリティ経営の全体像
サステナビリティ経営とは、社会課題の解決と企業成長を両立する経営です。当社グループのサステナビリティ経営は、価値創造ストーリー=「社会的課題の解決と同時に、経済価値と社会価値をどう両立させるのか」を突き詰めて、CSVを実現していくフェーズに入りました。当社グループが取り組む重要課題である7つのマテリアリティ(表1)をベースにした価値創造ストーリーを描き、実践し、お客様、従業員、お取引先様などすべてのステークホルダーの「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」を実現していきます。
当社グループは、今後もサステナビリティへの取り組みを推進し、日本政府の掲げる「脱炭素社会の実現」に企業として貢献するとともに、事業の成長を通してひとつでも多くの社会課題を解決することに取り組んでいきます。
表1 JFRグループが取り組む7つのマテリアリティ
②「JFRグループ 2050年度ネットゼロ」実現に向けた対応策
昨今、気候変動が極めて深刻なレベルまで進行し、将来世代はもちろんのこと、現世代の私たちを含め人類がその危機に晒されています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2018年、「1.5℃特別報告書」において、
「1.5℃目標の達成には2050年度までのネットゼロ※1 が必要である」との科学的指標を示し、また、SBT(Science Based Targets)イニシアチブ※2 が、2021年、科学的知見に基づいた「企業のネットゼロ基準」を新たに公表しました。今や、遅くとも2050年度までの1.5℃目標達成に向けたネットゼロの必要性は、企業にとって看過できない状況となっています。
以上の社会情勢を踏まえ、JFRグループは、気候変動をサステナビリティ経営上の最重要課題と位置づけており、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、対策に取り組んでいます。当社グループは、2019年度に、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標において、SBTイニシアチブによる認定を取得しました。また、2021年度には、マテリアリティの進化に伴い、Scope1・2温室効果ガス排出量削減目標を、2017年度(基準年度)比で、従来の40%から60%に引き上げ、SBTイニシアチブが定める新基準となる「1.5℃目標」の認定を再取得しました。今後は、SBTイニシアチブの「企業のネットゼロ基準」に基づき、Scope1・2・3温室効果ガス排出量の範囲において、「2050年度ネットゼロ」を目指します。
当社グループが目指す「2050年度ネットゼロ」とは、7つのマテリアリティのうち、「脱炭素社会の実現」「サプライチェーン全体のマネジメント」「サーキュラー・エコノミーの推進」の3つを組み合わせて取り組むことで、サプライチェーン全体の脱炭素化と当社グループの企業成長を同時に実現することです。
今後、当社グループは、サプライヤーであるお取引先様や、消費者であるお客様と協働し、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減等に取り組むと同時に、3R強化およびサーキュラー型ビジネスモデルの拡大に取り組み、ビジネスリスク低減とビジネス機会獲得の両立を目指します。
※1 温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理等による吸収量や、温室効果ガスの回収・地中への貯留等による
除去量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること
※2 産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えるため、科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出削減目標達成
を推進することを目的として、2014年、CDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世
界自然保護基金)の4団体が共同で設立
③TCFD提言が推奨する4つの開示項目に沿った情報開示
JFRグループは、2019年、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。TCFD提言は、世界共通の比較可能な気候関連情報開示の枠組みであり、すべての企業に対し、4つの開示推奨項目である「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って開示することを推奨しています。(表2)
当社グループは、TCFD提言を気候変動対応の適切さを検証するガイドラインとして活用するとともに、機関投資家等との積極的な対話を実施し、効果的な情報開示を行っていきます。
表2 TCFD提言が企業に求める4つの開示推奨項目
出典:気候関連財務情報開示タスクフォース「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(最終版)」(2017年)
(a)取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象
JFRグループでは、サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、環境課題に関する具体的な取り組み施策について、業務執行の最高意思決定機関である「グループ経営会議」で協議・決議しています。また、半期に一度開催される「サステナビリティ委員会」において、「グループ経営会議」で協議・決議された環境課題への対応方針等を共有し、当社グループの環境課題に対する実行計画の策定と進捗モニタリングを行っています。
取締役会は、「グループ経営会議」および「サステナビリティ委員会」で協議・決議された内容の報告を受け、当社グループの環境課題への対応方針および実行計画等についての論議・監督を行っています。(図2)
(b)経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス(委員会等)、モニタリング方法
代表執行役社長は、「グループ経営会議」の長を担うと同時に、直轄の諮問委員会である「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」の委員長も担っており、環境課題に係る経営判断の最終責任を負っています。「グループ経営会議」および「サステナビリティ委員会」で協議・決議された内容は、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表3)
図2 JFRグループ 環境マネジメント体制
表3 JFRグループの環境マネジメントにおける会議体および実行主体と役割
(a)気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細、重要性の決定方法
JFRグループは、リスクを戦略の起点と位置づけ、「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しており、企業が適切に対応することで、持続的な成長につながると考えています。
当社グループは、環境課題に係るリスクについて、「サステナビリティ委員会」の中でより詳細に検討を行い、各事業子会社と共有化を図っています。各事業子会社では、気候変動の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業子会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。その内容について、「グループ経営会議」や「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表4)
(b)重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細、優先順位付けの方法
JFRグループは、気候関連リスク・機会は、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、下記のプロセスを通じて気候関連リスク・機会を特定し、その重要性を評価しました。
はじめに、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目である「商品調達」「輸送・顧客の移動」「店舗販売」「商品、サービスの利用」「廃棄」の活動項目ごとに、気候関連リスク・機会を網羅的に抽出しました。次に、網羅的に抽出した気候関連リスク・機会の中から、当社にとって重要な気候関連リスク・機会を特定しました。最後に、特定した気候関連リスク・機会について、「自社にとっての影響度および発生可能性」と、「ステークホルダーにとっての影響度」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。
当社グループは、上記のプロセスを経て、特に重要と評価された気候関連リスク・機会について、取締役会による監督体制の下、当社における企業リスクの一つとして当社グループの戦略に反映し、対応しています。
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況
JFRグループは、リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、「リスクマネジメント委員会」を設置しています。「リスクマネジメント委員会」では、外部環境分析をもとに、環境課題に係るリスクを含めた企業リスクを識別・評価し、優先的に対応すべき企業リスクの絞り込みを行い、進捗のモニタリングを行っています。(図3)
「リスクマネジメント委員会」で論議・承認された内容は、取締役会による監督体制の下、当社グループの戦略に反映し、対応しています。
(a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細
JFRグループは、気候関連リスク・機会は、長期間にわたり自社の事業活動に影響を与える可能性があるため、適切なマイルストーンにおいて検討することが重要であると考えています。それを踏まえ、当社グループは、中期経営計画の実行期間である2023年度までを短期、Scope1・2・3温室効果ガス排出量のSBT設定年度である2030年度までを中期、Scope1・2・3温室効果ガス排出量のSBTネットゼロ目標設定年度である2050年度までを長期と位置づけました。(表5)
当社グループは、気候関連リスク・機会に対し、ネットゼロを実現する2050年度を見据えたバックキャスティングにより、当社グループの戦略を策定し、対応しています。
表5 JFRグループにおける気候関連リスクと機会の検討期間の定義
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度
JFRグループは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および2030年度時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上、パリ協定の目標である「産業革命前からの全世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることを努力目標とすること」を想定したシナリオ(1.5℃/2℃未満シナリオ)※、および新たな政策・制度が導入されず、世界の温室効果ガス排出量が、現在より増加するシナリオ(4℃シナリオ)の2つの世界を想定しています。(表6)
この2つのシナリオを踏まえ、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目ごとに、TCFD提言に沿って、気候関連リスク・機会を抽出しました。その上で、気候変動がもたらす移行リスク(政策規制、技術、市場、評判)や物理リスク(急性、慢性)、また、気候変動への適切な対応による機会(資源効率、エネルギー源、製品およびサービス、市場、レジリエンス)を特定しました。(表7)
表6 参照した既存シナリオ
表7 JFRグループにおける気候関連リスク・機会の概要
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス
JFRグループは、網羅的に抽出・特定した気候関連リスク・機会の中から、「自社にとっての影響度および発生可能性」と、「ステークホルダーにとっての影響度」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。
また、当社グループは、特に重要性が高いと評価した気候関連リスク・機会について、2030年度を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、および4℃シナリオの2つのシナリオにおける財務影響を定量、定性の両側面から試算し、それぞれの対応策を策定しました。(表8)
なお、定性的財務影響については、矢印の傾きによって3段階で表示しています。
表8 JFRグループにとって特に重要な気候関連リスク・機会、および財務影響
(2030年度時点を想定した定量的財務影響の算出根拠)
※1 2030年度時点のJFRグループScope1・2温室効果ガス排出量に対して、1t-CO2あたりの炭素税価格を乗じて試
算
※2 2030年度時点のJFRグループ電気使用量に対し、通常の電気料金と比較した1kWhあたりの再生可能エネルギー
由来電気料金の価格高を乗じて試算
※3 過去の自然災害に伴う休業等による売上損失額に対して、洪水発生頻度を乗じて試算
※4 2030年度時点のJFRグループの不動産収入利益に対して、環境認証取得ビルの新規成約賃料変動率を乗じて試算
当社グループは、最重要マテリアリティである「脱炭素社会の実現」に向け、当社グループの事業活動について、上記シナリオを前提に気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討し、当社グループの戦略レジリエンス(強靭性)を検証しています。
そのため、事業戦略や中期経営計画において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指します。
・JFRグループ 2050年度ネットゼロ移行計画
JFRグループは、2050年度ネットゼロの実現に向けて、1.5℃/2℃未満シナリオおよび4℃シナリオのいずれのシナリオ下においても、中長期視点から高い戦略レジリエンスを強化していく必要があると考えています。
そのため、当社グループは、2050年度ネットゼロ実現に向けた移行計画を策定しました。(図4)同計画では、事業戦略において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指すため、短期・中期・長期的視点から、具体的取り組みを明確化しています。
図4 2050年度 ネットゼロ移行計画※
※ 2022年5月末時点の計画であり、今後の事業戦略に応じて修正する可能性があります。
(a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
JFRグループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率の2つの指標を定めています。
また、2021年4月に改訂した役員報酬ポリシーでは、業績連動報酬を決定する指標として、Scope1・2温室効果ガス排出量削減目標を設定し、気候変動問題に対する執行役の責任を明確化しています。
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)
JFRグループは、2017年度から、グループ全体の温室効果ガス排出量の算定に取り組んでいます。当社グループの2021年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約13万t-CO2(2020年度比1.6%削減、2017年度比33.0%削減)を見込んでいます。また、2021年度Scope3温室効果ガス排出量は、約285万t-CO2(2020年度比15.4%増加、2017年度比2.6%削減)を見込んでいます。(表9)
なお、2021年度のScope1・2・3温室効果ガス排出量は、第三者保証を取得する見込みです。
表9 JFRグループ Scope1・2・3温室効果ガス排出量実績および見通し
(単位:t-CO2、%)
※1 LRQAによる第三者保証を取得。
2 「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン ver2.4(2022年3月 環境省
経済産業省)」に基づき、カテゴリ別の「活動量×排出原単位」という算定式を用いて算出
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標および実績
JFRグループは、世界全体の2℃未満目標達成のため、2018年度から、長期的な温室効果ガス排出量削減目標を設定し、2019年度に、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標において、「SBTイニシアチブ」による認定を取得しました。2021年度には、マテリアリティの進化に伴い、Scope1・2温室効果ガス排出量削減目標を、2017年度(基準年度)比で、従来の40%から60%に引き上げ、SBTが定める新基準となる「1.5℃目標」の認定を再取得しました。また、SBTイニシアチブの「企業のネットゼロ基準」に基づき、Scope1・2・3温室効果ガス排出量の範囲において、「2050年度ネットゼロ」という目標を設定しました。
これらの長期目標達成のため、当社グループは、2019年度から、自社施設における再生可能エネルギー由来電力の調達を開始し、2020年10月に「RE100※」に加盟し、2050年度までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率100%を目指します。また、その中間目標として、2030年度までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率60%を目指します。
今後も、2050年度ネットゼロの実現に向け、再生可能エネルギー由来電力の調達拡大に取り組みます。
※事業活動で使用する電力を、2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際的イニシアチブ
表10 JFRグループの気候関連リスク・機会の管理に用いる目標
※1 SBTイニシアチブにより認定
※2 2020年 RE100に加盟
今後も、当社グループは、取締役会による監督体制のもと、環境マネジメントにおけるガバナンスの強化を進め、中長期の目標達成に向けた実行計画の立案等、全社的な取り組みを進めていきます。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2022年5月27日)において当社グループが判断したものであります。
(1)リスクマネジメントの考え方と体制
・リスクマネジメント
当社グループは、リスクを「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しています。そして、リスクマネジメントを「リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理することにより企業価値を高める活動」と位置づけ、リスクのプラス面・マイナス面に適切に対応することにより、企業の持続的な成長につなげています。
・リスクマネジメント体制
当社は、代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、執行役などをメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置しており、リスクの抽出及び評価、戦略に反映させるリスクの決定など重要事項を審議し、リスクマネジメントを経営の意思決定に活用しています。なお、同委員会での審議内容については、適時に取締役会に報告します。
同委員会には、リスク管理担当役員を長とする事務局を置き、委員会で決定した重要な決定事項を事業子会社に共有し、ERM(全社的リスクマネジメント)を推進しています。また、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることにより、リスクマネジメントを企業価値向上につなげるよう努めています。
なお、効果的なリスクマネジメントを行うため、次のとおり3ラインを構築しています。
・第1ライン(事業子会社などの業務執行部門):自らリスクの特定及び必要な対策を行う。
・第2ライン(持株会社の各部門):業務執行部門から独立した立場でリスクマネジメントの支
援・指導・モニタリングを行う。
・第3ライン(内部監査部門):業務執行部門及び持株会社の各部門などから独立した立場でリ
スク管理機能及び内部統制システムの有効性について監査を行う。
リスクマネジメント体制図
(2)リスクマネジメントプロセス
当社グループでは、下記のプロセスにより、リスクマネジメントを推進しています。具体的には、外部・内部環境分析や、取締役、経営層および実務責任者の認識をもとに当社グループにとって重要度の高いリスクの抜け漏れが生じないように努めています。
中期的に当社のグループ経営において極めて重要度が高いものは、「企業リスク」と位置づけ「グループ中期経営計画」の起点としています。
また、「企業リスク」を受けて識別した年度リスクを「JFRグループリスク一覧」にまとめ、「リスクマップ」を用いて評価を行い、優先度をつけて対応策を実行しています。「企業リスク」「JFRグループリスク一覧」は、半年に一度の頻度で、リスクを取り巻く環境変化と対応策の進捗についてモニタリングを行い、リスクマネジメント委員会で論議後、その内容を取締役会に報告しています。
下図は当社グループが、中長期にわたりJFRグループの成長・存続を左右する最重要のリスクと位置づけている「企業リスク」です。
その中でも「1.サステナビリティ経営の高度化」「2.既存の事業モデルの衰退」「3.加速度を増すデジタル化への対応」「4.ポストコロナにおける消費行動の変化」は、当社のグループ経営に及ぼす影響が極めて大きいため、中期経営計画において最優先で対応すべきリスクと位置づけています。
影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク
上記リスク以外の「企業リスク」
(3)直近の環境変化とリスク認識
当社グループの経営にとって未曾有の打撃をもたらしている新型コロナウイルス感染症は、足許ではオミクロン株亜種への置き換わりが進み、新規感染者数は依然として高い水準を維持しています。今後も断続的に拡大する蓋然性は高く、予断を許さない状況です。
ただし、これまでの感染対策の経験や、3回目のワクチン接種の進展、および経口治療薬の普及等により、感染拡大の影響は徐々に小さくなっていくと考えております。
その一方で、ロシアのウクライナ侵攻は、当社グループに様々な影響を与えています。この侵攻を起因とした燃料価格や穀物価格の高騰が、その他の商品にも波及し、世界的な物価高をひき起こしています。この物価高への対応として、米国では既に政策金利の引上げを開始しており、欧州でも金利引上げに向けて準備を進めていますが、金利の引上げ幅やスピード次第で、景気後退や株価下落を招く可能性を有しています。
一方、我が国では、景気回復に向け低金利を継続しており、これが急激な円安の一因となっています。この円安は物価高に拍車をかけ、消費者心理を確実に冷やしていき、さらに世界的な株安となった場合には、我が国の株価も追随し、より一層の消費停滞につながっていくなど、当社グループの業績にも大きな影響を与えます。
また、上記以外にも、鉱物資源や半導体不足による納品遅延や価格の高騰、ロシア上空の航路迂回に伴う輸送費の引上げや入荷日の遅延など、様々な面で影響を受けています。
このように、本年度も先行き不透明、かつ極めて厳しい経営環境の中で事業活動を強いられることになります。
新型コロナウイルス感染症の影響は、消費者の価値観や消費行動、小売業に求めるものなどの変化をさらに加速させています。リモートワークの定着や人々の生活スタイル、さらには都市のあり方も大きく変わってきており、当社グループの中核事業である百貨店事業・SC事業は、新しい事業モデルへの進化が不可避な状況です。
その対応策の一つとして、「リアル×デジタル戦略」を推進しています。リアルではラグジュアリーやアート、時計などの領域に重点投資しつつ、デジタルではオンライン活用ビジネスの拡大を進めることでリアルと融合した多様なチャネルを整備し、真に価値のある商品を適時・適切に提供していきます。
また、コロナ禍で改めて認識したのは、サステナブルな取り組みでなければ支持されないということです。コロナ禍によって、生活者の「持続可能な地域や社会」への意識が高まっており、多くの企業もそれに合わせる形で自社の存在意義を再定義しようとしています。幸いにも、当社グループは、300年、400年前から続いている、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という、サステナビリティ経営につながる社是を有しており、今後も持続的な成長に向けて着実に歩みを進めてまいります。
上記の環境変化を踏まえて更新した「企業リスク」は、有価証券報告書提出日現在において、皆様の投資等の判断に影響を与える可能性があるリスクと認識しており、当社グループのリスク定義(企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある)に則し、リスク認識および対応策を次頁以降に記載いたします。
1 | サステナビリティ経営の高度化 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し(*) | |||
当社の リスク認識 | 地球温暖化や海洋汚染、新型コロナウイルス感染症の長期化、またサプライチェーン上の人権をめぐる問題など、企業を取り巻く環境への不確実性が高まる中、サステナビリティ経営への取り組みは、益々重要性を増しており、最上位に位置づけるリスクです。ステークホルダーの期待は、当社が持続可能な社会の実現に企業としていかに貢献するかであり、その期待に応える取り組みなしには当社自体の持続的な成長も望めないと考えています。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・ステークホルダーの離反、格付・ブランド力の低下 ・持続的な成長、当社グループのプレゼンス向上 | ||||
対応策 | 当社グループでは、グループビジョン“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”のゴールの姿をステークホルダーの「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」と位置づけています。その実現に向けて7つのマテリアリティ(※重要課題)を特定し、対応を図っています。 ※「脱炭素社会の実現」「サーキュラーエコノミーの推進」「サプライチェーン全体のマネジメント」「お客様の健康・安全・安心なくらしの実現」 「地域社会との共生」「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」 「ワーク・ライフ・インテグレーションの実現」 言うまでもなく、環境問題や人権問題などについては企業の基本姿勢としてそれらの解決に向けて積極的に取り組む必要があります。 一方でこういった問題の解決も含め、上記マテリアリティの中にビジネスチャンスを見出すことで、社会的価値と経済的価値の両方を同時に生み出すことも可能です。このようなCSVにおける価値創造ストーリーを明確にした取り組みが重要となっています。 当期は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)モデルであるファッションサブスクリプション事業(定額制のファッションレンタルサービス)を立ち上げ、また、お客様の健康・安全・安心なくらしの実現の一環として、医療から物販・サービスをシームレスに提供する新しいコンセプトの医療ウェルネスモールの開発などを進めました。今後も当社グループの事業を通じて出会う多くの顧客、地域社会、お取引先様など重要なステークホルダーと連携し、社会課題を解決し付加価値を生み出す潜在的ニーズを発掘していきます。 今後も当社らしい価値創造ストーリーを模索し、ステークホルダーのWell-Being Lifeを実現していきます。 |
2 | 既存の事業モデルの衰退 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し | |||
当社の リスク認識 | 当社グループの各事業は、対面型のビジネスモデルが中心です。対面型のビジネスはコロナ禍で大きな制約を受けました。新型コロナウイルス感染症は見えない脅威から共生するものへと変化していますが、この間に生じた消費者、お取引先様などの変化はニューノーマル(新常態)となるものも多く、従来の事業モデルのままでは既存事業の衰退は避けられません。 特に当社グループの主力である小売店舗の場の価値や役割は加速度を増して変化しており、事業モデルの変革が欠かせないと考えています。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・大型店舗型小売業の業績低迷によるグループ全体の活力の低下 ・大型店舗型小売業の事業モデルの抜本的な変革による再成長 | ||||
対応策 | 既存事業モデルの衰退につながる環境変化に対し、当社グループでは2つの方向で取り組みを進めています。 一つは顧客接点のデジタル化です。場所・時間の制約のないデジタルにおいて顧客と販売員がつながり店舗と同様の付加価値サービスを提供することにより、従来の対面型ビジネスの弱みの克服に努めています。また、デジタルでの接点を通じて得られる購買にとどまらない行動データを分析することにより、マーケティングの精度向上につなげています。 さらに、自由な時に自由に買い物がしたいという顧客ニーズに応えるため、オンラインでのUX(体験価値)を向上させ、OMO(リアル店舗とオンラインの融合)を強化しています。 もう一つは、店舗の役割の見直しです。都心・準都心の大型店舗では、 物を販売する以外にリアルな体験や新たな物との出会い、人とのつながりなど様々な価値を提供することが可能です。当期は、D2C(クリエイター・生産者と消費者の直接取引)ブランドを集積した売場を開発しました。好立地な場所の強みを活かして様々な情報を発信するメディア機能、価値の高いモノ・コトを紹介するギャラリー機能、エンタテインメント機能、ソリューション機能なども継続して強化しており、店舗の魅力化と収益の多元化の実現に努めています。 中心となる小売機能においてもマーケットの細分化が進む中、お取引先様と提携し、多様な消費者ニーズを満たす新たな売場開発に取り組んでいます。 これらの変革を環境変化に劣らないスピードで推進することで、既存事業の再成長への道筋を確かなものとしていきます。 |
3 | 加速度を増すデジタル化への対応 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し | |||
当社の リスク認識 | EC化の進展などデジタルシフトによる消費行動の変化は、従来のリアル店舗に依存したビジネスからの変革や新たな事業領域でのビジネスモデル構築の必要性を高めました。 デジタル化への対応方法やスピードは、当社グループ全体の成長を左右する重要なものであり、また同時に業務の生産性向上においても極めて重要なものであると考えています。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・グループ全体の成長の停滞 ・デジタル化の遅延による競争力の低下 ・デジタルの活用によるビジネスモデルの変革 ・業務の効率化、ペーパーレス化 | ||||
対応策 | デジタル化への対応は、成長に不可避なものであり、ビジネスモデルの変革および業務変革の両面から進めています。 ビジネスモデルの変革においては、百貨店のバーチャルマーケット出店やOMOによる顧客体験価値の最大化、決済手段の多様化、CRMの高度化に取り組みました。 今後は、WEB3.0、メタバース、NFT(*1)等が消費者のライフスタイルを大きく変化させていく可能性が見込まれます。 当社では、当年度より「グループデジタル統括部」と「グループシステム統括部」を新設しました。 前者は、デジタル活用による収益拡大と統合データベースの環境整備、新ビジネスモデル構築の検討など、攻めのデジタル戦略を進めていきます。後者はシステムインフラの整備・高度化に取り組み、スピーディなビジネス展開、情報システムの安定稼働と堅牢なセキュリティの実現などを進めます。組織再編に伴い、デジタル人材の確保・育成も一層強化します。 こういった取り組みの中には、テレワークやオンライン会議の拡大、ビジネス書類や印鑑などの電子化なども含まれていますが、これらは生産性、働き方の柔軟性を向上し、「ワーク・ライフ・インテグレーションの実現」にもつながっています。 (*1)WEB3.0:主にブロックチェーン技術によって実現されようとしている、新しい分散型の ウェブ世界 メタバース:「メタ(超)」「ユニバース(宇宙)」の造語。仮想空間やそこでコミュニ ケーションを行えるサービスプロダクト全般 NFT:Non-Fungible-Token(ノン・ファンジャブル・トークン)。唯一無二性をブロック チェーン技術を利用して証明する技術 |
4 | ポストコロナにおける消費行動の変化 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し | |||
当社の リスク認識 | 消費者の価値観や消費行動は時代とともに変化するものですが、新型コロナウイルス感染症を契機として生じた変化の多くは、ポストコロナにおいても定着していくと想定しています。中でも他人の目よりも「自分がどうありたいか」を重視する価値観や、社会的価値に貢献することに重きを置いた消費行動は、今後も大きな潮流となっていくと考えます。 多岐に渡るモノ・サービスを扱う事業を展開する当社グループでは、ポストコロナの消費の行方に目配りをし、どう適応していくのかを見極めて事業を展開していくことが重要です。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・消費者ニーズとのアンマッチによる顧客離反 ・新規マーケットの創造 | ||||
対応策 | 当社グループでは、「自分がどうありたいか」を重視する価値観の台頭に対応するビジネスを検討しています。一例として、内外両面から豊かさや幸せを生み出すアートやコスメに着目し、当社グループの財産である「人」の力との掛け合わせで付加価値を高め、店舗とオンラインの二軸で提供しています。 社会的価値に貢献することに重きを置いた消費行動に応えるものとしては、サステナブルをキーワードとした商品・サービスの開発に力を入れています。具体的には、環境への配慮としてサーキュラーエコノミーモデルの事業の立ち上げやリサイクルキャンペーン、廃棄物削減などを、地域社会への貢献として地域のモノ・コトの発掘・紹介やクラウドファンディングによる地元企業の応援などを推進しています。 差別化が難しく価格や買いやすさを重視して消費行動が行われるコモディティ商品については圧縮を図り、新たな付加価値を提供するコンテンツへと入れ替えを進めています。 現状の取り組みにとどまることなく、社内データの活用などにより絶えず消費行動の変化を捉え、新規マーケットを創造していきます。 |
都市の分散化(都市と地方のリバランス) | ||||||
5 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・リモートワークや職住近接などライフスタイルの変化が定着してきており、消費の場とし ての都心の優位性は相対的に低下し、その一方で地方都市や郊外が活性化してきていま す。 ・ただし、都心立地のオフィスや商業の期待利回りは直近でも安定しており、オフィスの賃 料も長期的に回復傾向にあるなど、都心の不動産需要は引続き底堅いと分析しています。 ・当社グループが保有する不動産は全国に点在しているため、都市と地方のリバランスにつ いては、事業を展開していく上で常に注視すべき重要なリスクと捉えています。 | |||||
対応策 | ・当社グループは、2022年3月に「CRE(企業不動産)企画部」を新設し、グループ全体の不 動産開発や保有不動産に関する戦略の立案、および所有不動産価値の最大化を図っていま す。具体的には、グループ各社の保有不動産の取得、処分、売却に関する計画の立案や新 たな物件開発スキームの構築などを行い、当社グループのデベロッパー戦略を実現してい きます。 ・東京・名古屋・大阪・神戸・京都・福岡・札幌といった国内主要大都市のプライム立地の 店舗不動産については、既に大型商業施設の開発を中心に一定の成果をあげていますが、 その中でも、百貨店とパルコが隣接する心斎橋、名古屋、福岡地区を重点エリアと位置づ け、エリアとの共生、多様な都市生活提案と魅力的な街づくりを目指し、複合再開発を推 進しています。 | |||||
加速する所得の二極化 | ||||||
6 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・所得の二極化は確実に進んでおり、新型コロナウイルス感染症や、ロシアのウクライナ侵 攻に起因する物価高の影響は、中間層に打撃を与えています。 ・一方で富裕層の潜在的な購買力は引き続き高い水準を維持しています。今後も富裕層の資 産価値は増加が見込まれ、政策による格差是正がなされない限り、二極化はさらに進むと 認識しています。 | |||||
対応策 | ・中間層の消費行動はシビアになっており、需要の取り込みが一層難しくなっています。そ こで、大量生産されるマスマーケットの商品・サービスは適正規模に見直し、細分化を図 ることで競争力のある商品を提供していきます。 ・一方で拡大する富裕層マーケットを見据え、プライムライフ戦略の目指す「こころ豊か で、サステナブルなライフスタイルを楽しむ生活者」への提案強化に取り組んでいます。 具体的には、百貨店の店舗においてラグジュアリー、アートをはじめ需要の高いカテゴリ ーの強化や専用ラウンジの設置などを、オンラインにおいて特別な顧客体験の提供やコン シェルジュサービス、希少性の高い商品の拡充などに力を注いでいます。 ・さらに、保険・金融商品、高級レジデンスなど小売領域にとどまらないコンテンツの提供 により、新たな富裕層の開拓を進めています。 |
顧客の変化、特に少子高齢化・長寿命化 | ||||||
7 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・2021年は出生者数が統計史上最低を更新し、少子高齢化が継続しています。コロナ禍で婚 姻数も低下していることから、少子化は続くと見込まれます。 一方、医療技術の進歩や健康意識の高まりにより、長寿命化はさらに進み健康寿命も延び ることが想定されます。 ・このような人口動態は消費と関わりが深く、当社グループの戦略上、常に重要なリスクで す。 | |||||
対応策 | ・少子化、所得の二極化と呼応して子ども市場も二極化している中、当社グループは、上質 な子供服・用品市場や教育事業へ重点的に対応しています。英語教育を特徴とする保育事 業に参入しているのもその一環です。 ・一方、「ライフシフト(人生100年時代への移行)」が進み、経済力があり生活を楽しむシ ニア層が増加しています。シニア層の外商顧客に対して、係員が寄り添いオンラインでの 商品紹介・販売を通じて利便性を高めています。 ・加えて、アートやカルチャー、ウェルネスなどシニア層の関心が高いカテゴリーの強化、 三世代で楽しむことができる図書館や水族館の導入など、モノ・コト両面でリアル店舗へ 足を運ぶ機会を提供しています。シニア顧客は当社グループの強みであり、今後も「Well- Being Life」の実現をサポートしていきたいと考えています。 | |||||
外国人マーケットの不透明さ | ||||||
8 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・入国制限の緩和は緩やかであり、インバウンドは年度末まで見える変化がないことが危惧 されます。中国では厳格な感染症対策が敷かれ、経済の減速も顕著なほか、東アジア諸国 も経済成長の伸びが鈍化しています。 ・一方、外国人の日本への観光や日本製品に対する需要は底堅く、人の往来、経済の回復と ともに、外国人マーケットは以前の水準に戻ってくると見ています。 | |||||
対応策 | ・インバウンド消費の回復には、まだ相当の期間を要します。消費スタイルの変化で化粧品 などの大量購入は少なくなることも予想されます。 ・一方、日本製品の品質・ブランドへの信頼は厚く、円安も追い風となることから、ニーズ に的確に対応し消費を喚起することは可能と考えています。人の往来の回復時に遅滞なく アプローチできるよう、情報収集するとともに、取引先連携や販売促進策の準備を進めて います。 ・また、ECやライブコマースをアジア圏において強化するなど、日本コンテンツの展開にも 取り組んでいます。 |
業際を超えた再編、M&Aの加速 | ||||||
9 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・我が国におけるM&Aは件数・金額とも増加し、小売業界においても業際を超えたM&Aが活発 化しています。この要因として、上場企業における事業の選択と集中の必要性の高まり、 非上場企業における経営者の高齢化に伴う事業承継ニーズの増加、金融緩和による良好な 資金調達環境が挙げられます。 ・今後、新型コロナウイルス感染症の経済影響が減少に向かえば、M&Aは一段と増加すると考 えています。 ・お客様の行動や価値観が大きく変わっていく中、M&Aは、確実に必要性・重要性が高まって おり、攻めと守りの両方の観点から、注力すべき領域と認識しています。 | |||||
対応策 | ・グループ全体において、成長性や資本効率性の観点から、事業の選別と経営資源配分の最 適化を進めています。このことが、各事業の競争力や資本効率、ひいてはグループ全体の 企業価値を高め、敵対的買収への備えになると考えています。 ・他方、攻めの施策としては、「事業ポートフォリオ変革推進部」を新設し、リテール、デ ベロッパー、金融に次ぐ柱となる新規事業の検討・探索を行うと共に、それを担う事業会 社の事業創出・育成を支援します。 ・M&Aは、グループ事業ポートフォリオの最適化や経営の自由度を高めるための重要な選択肢 の一つであり、対象企業への出資や業務提携も含め、最適な形態を幅広く検討していきま す。 | |||||
頻発する自然災害・疫病 | ||||||
10 | ||||||
影響度:非常に大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・経済のグローバル化により、国をまたぐ人の流れが常態化し、新型コロナウイルス感染症 と類似のパンデミック(世界的な大流行)が、近い将来また起こり得ると考えます。 ・2022年1月には南海トラフの地震発生確率が引き上げられるなど、地震リスクは高まって います。地球温暖化の影響もあり、台風・豪雨などがもたらす自然災害は、年を追うごと に発生頻度、被害規模ともに増大しています。 ・このようなリスクが顕在化し、業績が急速に悪化することで、固定資産の減損や、繰延税 金資産の減額が必要となる場合には、経営成績や財政状態等に更に悪影響を及ぼす会計・ 税務上のリスクも存在しています。 | |||||
対応策 | ・新型コロナウイルス感染症での対応分析を踏まえ、今後新たな感染症が発生した際に、人 命の安全確保や事業への影響を極小化する緊急時対応と、平時における体制整備に関する 事項を定めた「新型感染症対応マニュアル」を刷新しました。 ・また、感染症の動向を注視し、流行の予兆が見られる場合には、複数のシナリオによる影 響分析を行い、能動的に対応していきます。 ・事業継続を脅かす自然災害に対する備えとしては、重要業務(資金、支払業務)の継続、 重要インフラ(システム等)確保の観点から体制を強化しています。また、被災からの迅 速な復旧・営業再開のためのBCP訓練を継続的に実施しています。 ・会計・税務上のリスクである固定資産の減損は、将来キャッシュ・フローの見積りについ て、また繰延税金資産の回収可能性の評価は、将来課税所得の見積りについて、事業計画 を基礎としていますので、適正な計画を維持すべく適時に見直しを行っています。 |
情報セキュリティの重要性向上 | ||||||
11 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・リモートワークやクラウド利用拡大に伴い、企業の重要情報を狙ったサイバー攻撃やシス テムへの不正アクセスなどが世界的に増加しており、攻撃手口も巧妙化してきています。 また、プライバシー保護に対する意識も高まっており、顧客データの活用においては、よ り堅牢な仕組みの導入や、システムセキュリティの対策が必須となっています。 ・当社グループでは、情報セキュリティについては、重要性が増しており対応の優先度が高 いリスクの一つと位置づけています。 | |||||
対応策 | ・2022年3月に、当社グループ全体のシステムインフラの整備・高度化や情報システムの安 全稼動と堅牢性の高いセキュリティの実現等を目的に、「グループシステム統括部」を新 設しました。昨今のインシデントは年々多様化・複雑化してきており、ハード・ソフト両 面での一層の取り組みが必要であると考えています。 ・ハード面では、端末の不審な挙動の検知や事故発生時に迅速に対応できるセキュリティ製 品および監視サービスを順次導入します。また、システム接続時の多要素認証により接続 可能なデバイスを限定し、パスワード漏洩時の不正ログインを防ぎます。 ・ソフト面では、近年のIT利用環境の変化を踏まえ、グループセキュリティガイドラインを 刷新します。また、最新のインシデントに関する情報に基づいた全従業員対象のeラーニン グや標的型攻撃メール訓練などを行い、リテラシーの向上を図っています。 | |||||
資金調達マネジメントの重要性の向上 | ||||||
12 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・日本銀行による新型コロナウイルス感染症の金融政策のうち、大企業向けの政策は終了 し、調達金利の上昇が懸念されます。また、ウクライナ危機に起因する物価高も中長期的 には金利上昇につながっていくなど、資金調達環境には変化が生じてきています。 ・新型コロナウイルス感染症の不確定さは徐々に解消しており、突発的に資金を調達する必 要性は低下してきていますが、資金調達マネジメントは、グループ全体の成長を支える基 盤構築のためにも影響度がなお大きいリスクです。 | |||||
対応策 | ・新型コロナウイルス感染症の対応として、手許資金を平時に比べ厚く保有してきました が、その必要性は低下してきています。金利も上昇することが想定されることから手許資 金及び有利子負債は、感染症の動向など安全性に十分注意を払いながら適正化を図りま す。それに加えて、サステナビリティボンドなどのESG債、ESGローンでの調達を検討する など資金調達を多様化することで、サステナビリティ経営の推進をサポートしていきま す。 ・さらに、不動産やクレジット債権など当社グループが保有する資産を活用したアセットフ ァイナンスの強化も検討し、成長戦略の推進を側面から支えていきます。 |
環境変化に対応できるコスト構造の必要性 | ||||||
13 | ||||||
影響度:非常に大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・行政の休業要請等で店舗が営業制約を受ける可能性は後退しているものの、ウクライナ危 機による原材料・物価高、世界経済の減速など当社グループの業績に打撃を与える新たな 環境変化が起こっています。 ・損益分岐点を引き下げ、環境変化に対応できる体制への変革は、事業基盤を強固にし、再 成長に向かうため、対応への成否が問われる非常に重要なリスクです。 | |||||
対応策 | ・当社グループでは、専門部署を設置して「ビジネスモデル改革によるコスト削減」「事業 基盤の絞り込み」の2つを柱に構造改革を推進してきました。2022年3月からは、業務を 所管する各部門が専門性を発揮し、スピードを高めて改革を推進しています。 ・コスト削減については、オフィス再編、各事業での業務設計や要員構成の見直し、グルー プ横断で経費を管理する体制を強化するなどに取り組んでいます。 ・事業基盤の絞り込みについては、非事業用資産の売却やグループシナジーの低減が見込ま れる連結子会社の株式譲渡などを進めてきましたが、2022年3月に「事業ポートフォリオ 変革推進部」を新設し、M&Aでの買収や提携を通じた当該事業の強化も視野に入れ、事業ポ ートフォリオの最適化を推進していきます。 | |||||
ニューノーマル時代の働き方、人財・組織改革の進展 | ||||||
14 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・当社グループの経営戦略の遂行の成否は、戦略に適合した人財の確保が鍵となります。人 財確保においては、テレワークと出社のハイブリッドな働き方、家族や自分時間のプラ イオリティの向上などコロナ禍で加速した変化への対応が欠かせません。 ・さらに、人財が十分に力を発揮できる組織の構築も重要であり、人財・組織改革の進展は 今後の企業運営に深く関わるリスクです。 | |||||
対応策 | ・事業戦略の変更に適応するため、当社の人財価値基準である「人財力主義」に基づき人財 ポートフォリオの可視化を進めています。それをもとに、リカレント(生涯を通じて学ぶ 意識の醸成)およびリスキリング(業務に必要なスキルの習得)プログラムによる人財開 発を進めるとともに、専門性の高い領域では、キャリア採用を積極的に行い人的資本の強 化に努めていきます。 ・人財の確保に際しては、生産性の向上に重きを置き、ワークライフバランスを重視する価 値観やライフステージの変化に柔軟に対応できる人事施策を実行します。 ・組織改革としては、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性を受け入れ活かし合うこ と)を柱とし、女性活躍を推進する社長直轄のプロジェクトを立ち上げ、女性管理職比率 の向上を重点指標に置き活動を開始しています。若手人財についても社長との対話機会の 設定や、成長戦略の一翼を担うプロジェクトへの参加などを通じ育成を図っています。 |
JFRグループ「企業リスク」一覧
分類 | 番号 | 項目 | 影響度 | 将来の 見通し (*) | マイナス面 | プラス面 | 対応策 | |
戦 略 リ ス ク | 1 | サステナビリティ 経営の高度化 | 非常に大 | ・ステークホルダーの離反、格付・ブランド力の低下 | ・持続的な成長、当社グループのプレゼンス向上 | ・社会的価値と経済的価値の両方を同時に生み出す価値創造ストーリーの明確化 ・ステークホルダーの「Well-Being Life」の実現 | ||
2 | 既存の事業モデルの衰退 | 非常に大 | ・大型店舗型小売業の業績低迷によるグループ全体の活力の低下 | ・大型店舗型小売業の事業モデルの抜本的な変革による再成長 | ・顧客接点のデジタル化 ~店舗同様の付加価値の提供とマーケティングの精度向上 ・店舗の役割の見直し ~体験、出会い、人との繋がりの場の提供 | |||
3 | 加速度を増すデジタル化への対応 | 非常に大 | ・グループ全体の成長の停滞 ・テクノロジー活用遅延による競争力の低下 | ・デジタル活用によるビジネスモデルの変革 ・業務の効率化、ペーパーレス化 | ・顧客体験価値の最大化などビジネスモデルの変革 ・メタバースなど新たな市場でのビジネスモデルの構築 ・業務システムの標準化・効率化 | |||
4 | ポストコロナにおける消費行動の変化 | 非常に大 | ・消費者ニーズとのアンマッチによる顧客離反 | ・新規マーケットの創造 | ・消費行動の変化内容の分析 ・サステナブルな商品・サービスなど新規マーケットの創造 | |||
5 | 都市の分散化 (都市と地方のリバランス) | 大 | ・都心立地の従来型商業施設の集客力低下 | ・都市の分散化に対応した事業展開 | ・グループ全体の不動産開発や保有不動産に関する戦略立案、所有不動産価値の最大化 ・エリアとの共生、多様な都市生活提案と複合再開発による魅力的な街づくりの推進 | |||
6 | 加速する所得の二極化 | 大 | ・マスマーケットの縮小による売上減少 | ・新たな中間層需要の掘り起こし ・新富裕層マーケットの開拓 | ・マスマーケットの商品・サービスの適正規模への見直し、細分化 ・リアル、デジタル両面での富裕層マーケットの深耕 | |||
7 | 顧客の変化、特に少子高齢化・長寿命化 | 大 | ・国内市場規模の縮小 | ・シニアマーケットの拡大 | ・上質な子供服用品、教育事業への重点対応 ・シニア顧客の買い物の利便性向上やウェルネスなど関心の高いカテゴリーの強化 | |||
8 | 外国人マーケットの不透明さ | 大 | ・インバウンド売上低迷の長期化 | ・インバウンド売上の段階的回復 ・ECやライブコマースの展開による外需獲得 | ・インバウンドマーケット回復を見据えた販促策の準備 ・ECやライブコマースの展開強化 | |||
9 | 業際を超えた再編、 M&Aの加速 | 大 | ・当社グループの敵対的買収 | ・事業ポートフォリオの変革 ・M&A活用による企業成長 | ・既存事業の選別、経営資源配分の最適化 ・新規事業の検討・探索と、それを担う事業子会社の開発促進や事業育成 | |||
14 | ニューノーマル時代の働き方、人財・ 組織改革の進展 | 大 | ・優秀人財の流出、人財獲得競争での劣後 ・従業員のモチベーション低下 | ・従業員のエンゲージメント、組織力の向上 ・事業戦略の推進、イノベーションの創出 | ・「人財力主義」に基づいた人的資本の強化 ・働き方の柔軟性を高める施策の実行 ・多様性を尊重した組織改革 ・様々な機会を通じた若手人財の育成 |
分類 | 番号 | 項目 | 影響度 | 将来の 見通し (*) | マイナス面 | プラス面 | 対応策 | |
ハ ザ | ド リ ス ク | 10 | 頻発する自然災害・疫病 | 非常に大 | ・お客様・従業員の人命損傷 ・事業継続の危機 | ・事業の安定運営 | ・新型コロナウイルス感染症の対応分析による新たな感染症への備えの強化 ・複数のシナリオ策定と事業への影響分析 ・実践的なBCP訓練の継続的な実施 ・事業計画の適正な適時見直しの実施 | ||
11 | 情報セキュリティの重要性向上 | 大 | ・個人情報の漏洩、訴訟・損害賠償の発生、社会的信用失墜 ・業務の遅延・停滞 | ・業務やシステムの安定稼動 ・業務の効率化、リモートワークの推進 | ・インシデントの予防・検知を向上させる新たなセキュリティ対策の実施 ・グループセキュリティガイドラインの見直しと訓練等を通じた従業員のリテラシーの向上 | |||
ファイナンス リ ス ク | 12 | 資金調達マネジメントの重要性の向上 | 大 | ・資金コストの高止まり | ・資金コストの引下げ ・成長戦略推進のサポート | ・手許資金及び有利子負債の適正化 ・サステナビリティボンドなど調達手段の多様化 | ||
13 | 環境変化に対応できるコスト構造の必要性 | 非常に大 | ・収益性の低下 ・投資の抑制 | ・事業ポートフォリオの変革 ・事業基盤の強化 | ・ビジネスモデル改革やオフィス再編、要員構成の見直しなどによるコスト削減 ・事業ポートフォリオ最適化の推進 |
:影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク |
(4)TCFD提言に沿った情報開示
①JFRグループが目指すサステナビリティ経営
JFRグループは、2021年度からスタートした中期経営計画において、サステナビリティ経営の考え方を明確にし、グループビジョンである“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”ことのゴールとして「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」を掲げました。
新型コロナウイルスの感染拡大により世界が一変し、社会構造や消費構造が変わろうとしており、小売業に求める価値も変化しつつあります。不透明感が増す中、サステナビリティへの取り組みを推進し、グループビジョンを実現していくために、私たちは、コロナ禍を経たこれからの新しい豊かさ、安心、幸福につながるモデルについて、熟慮し、論議を重ねました。その結果、私たちが目指すべきグループビジョンのゴールは、すべての人の「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」の実現との結論に至りました。(図1)
当社グループが考える「Well-Being Life」とは、従来の物質的豊かさ、経済的豊かさに加え、精神的豊かさ(知的、文化的豊かさ)、身体的豊かさ、社会的豊かさ、そしてそれらを取り巻く環境の豊かさを実現した「心身ともに豊かなくらし」です。JFRグループは、世界中、日本中の文化に根差すモノ・コトと消費者をつなぎ、「美」「健康」「高質」「カルチャー」「信頼」と「持続可能性」「つくる人とつかう人をつなぐ能力」を掛け合わせた視点で提案することで、ステークホルダーの皆様の「Well-Being Life」を実現していきます。
図1 サステナビリティ経営の全体像
サステナビリティ経営とは、社会課題の解決と企業成長を両立する経営です。当社グループのサステナビリティ経営は、価値創造ストーリー=「社会的課題の解決と同時に、経済価値と社会価値をどう両立させるのか」を突き詰めて、CSVを実現していくフェーズに入りました。当社グループが取り組む重要課題である7つのマテリアリティ(表1)をベースにした価値創造ストーリーを描き、実践し、お客様、従業員、お取引先様などすべてのステークホルダーの「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」を実現していきます。
当社グループは、今後もサステナビリティへの取り組みを推進し、日本政府の掲げる「脱炭素社会の実現」に企業として貢献するとともに、事業の成長を通してひとつでも多くの社会課題を解決することに取り組んでいきます。
表1 JFRグループが取り組む7つのマテリアリティ
マテリアリティ | 2030年度KGI | JFRグループの持続可能な社会の実現に向けた コミットメント |
脱炭素社会の実現 | 脱炭素社会をリードし次世代へつなぐ地球環境の創造 | 私たちは、かけがえのない地球環境を次世代に引き継ぐため、再生可能エネルギーの調達拡大や、省エネルギーの徹底等に全社一丸となって取り組み、脱炭素社会の実現に貢献します。 |
サーキュラー・ エコノミーの推進 | サーキュラー・エコノミーの推進による未来に向けたサステナブルな地球環境と企業成長の実現 | 私たちは、お取引先様やお客様との協働により、新たな環境価値を生み出すための革新的なビジネスモデルを創造し、サーキュラー・エコノミーにおける競争優位性を獲得します。 |
サプライチェーン全体のマネジメント | お取引先様とともに創造するサステナブルなサプライチェーンの実現 | 私たちは、お取引先様とサステナビリティに対する考え方を共有し、共に社会的責任を果たすことを通じて、サプライチェーン全体で持続可能な未来の社会づくりに貢献します。 |
お取引先様とともに創造するサプライチェーン全体での脱炭素化の実現 | 私たちは、お取引先様とともに、環境に配慮した製品やサービスの調達等に取り組むと同時に、再生可能エネルギー化、省エネルギー化に取り組み、サプライチェーン全体での脱炭素社会の実現に貢献します。 | |
お取引先様とともにサプライチェーンで働く人々の人権と健康を守るWell-Beingの実現 | 私たちは、お取引先様とともに、サプライチェーンで働く人々の人権が守られ、健康に働き続けることができる職場環境づくりを実現します。 | |
地域社会との共生 | 地域の皆様とともに店舗を基点とした人々が集う豊かな未来に向けた街づくりの実現 | 私たちは、地域のコミュニティ、行政、NGO・NPOとともに、店舗を基点として、地域資産をいかした持続可能な街づくりに貢献します。また、地域の魅力を発掘・発信することで、街に集う人々にワクワクするあたらしい体験を提供します。 |
お客様の健康・安全・ 安心なくらしの実現 | 未来に向けたお客様の心と身体を満たすWell-Beingなくらしの実現 | 私たちは、お客様の心身ともに健康なくらし、安心なくらしに寄り添う高質で心地よい商品やサービスを提供することにより、お客様それぞれの自分らしいWell-Beingと心豊かなワクワクする未来を提案します。 |
未来を見据え安全・安心でレジリエントな店づくりの実現 | 私たちは、防災や感染症リスク、BCP(事業継続)に対応し、店舗のレジリエンスを高めます。また、それと同時にデジタルを活用したオペレーションを構築することで、安全・安心に配慮した新しい顧客接点を創造し、社会の期待に応える店づくりを推進します。 | |
ダイバーシティ& インクルージョンの 推進 | すべての人々がより互いの多様性を認め個性を柔軟に発揮できるダイバーシティに富んだ社会の実現 | 私たちは、多様性と柔軟性をキーワードにステークホルダーすべての人がダイバーシティの本質である異なる個性や視点を大切にし、多様な能力を発揮できる企業をつくります。また、多様な個性や能力が相互に影響し、機能し合うこと(インクルージョン)により、イノベーションを生み出し、多様なお客様の期待に応え事業の成長を目指します。 |
ワーク・ライフ・インテグレーションの実現 | 多様性と柔軟性を実現する未来に向けた新しい働き方による従業員とその家族のWell-Beingの実現 | 私たちは、ニューノーマル時代の新しい働き方として、多様性と柔軟性をキーワードにした働き方を促進し、同時に心身の健康を保ちます。これにより、従業員と家族のWell-Beingを実現し、組織の生産性向上につなげます。 |
②「JFRグループ 2050年度ネットゼロ」実現に向けた対応策
昨今、気候変動が極めて深刻なレベルまで進行し、将来世代はもちろんのこと、現世代の私たちを含め人類がその危機に晒されています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2018年、「1.5℃特別報告書」において、
「1.5℃目標の達成には2050年度までのネットゼロ※1 が必要である」との科学的指標を示し、また、SBT(Science Based Targets)イニシアチブ※2 が、2021年、科学的知見に基づいた「企業のネットゼロ基準」を新たに公表しました。今や、遅くとも2050年度までの1.5℃目標達成に向けたネットゼロの必要性は、企業にとって看過できない状況となっています。
以上の社会情勢を踏まえ、JFRグループは、気候変動をサステナビリティ経営上の最重要課題と位置づけており、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、対策に取り組んでいます。当社グループは、2019年度に、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標において、SBTイニシアチブによる認定を取得しました。また、2021年度には、マテリアリティの進化に伴い、Scope1・2温室効果ガス排出量削減目標を、2017年度(基準年度)比で、従来の40%から60%に引き上げ、SBTイニシアチブが定める新基準となる「1.5℃目標」の認定を再取得しました。今後は、SBTイニシアチブの「企業のネットゼロ基準」に基づき、Scope1・2・3温室効果ガス排出量の範囲において、「2050年度ネットゼロ」を目指します。
当社グループが目指す「2050年度ネットゼロ」とは、7つのマテリアリティのうち、「脱炭素社会の実現」「サプライチェーン全体のマネジメント」「サーキュラー・エコノミーの推進」の3つを組み合わせて取り組むことで、サプライチェーン全体の脱炭素化と当社グループの企業成長を同時に実現することです。
今後、当社グループは、サプライヤーであるお取引先様や、消費者であるお客様と協働し、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減等に取り組むと同時に、3R強化およびサーキュラー型ビジネスモデルの拡大に取り組み、ビジネスリスク低減とビジネス機会獲得の両立を目指します。
※1 温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理等による吸収量や、温室効果ガスの回収・地中への貯留等による
除去量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること
※2 産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えるため、科学的根拠に基づいた温室効果ガスの排出削減目標達成
を推進することを目的として、2014年、CDP、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世
界自然保護基金)の4団体が共同で設立
③TCFD提言が推奨する4つの開示項目に沿った情報開示
JFRグループは、2019年、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。TCFD提言は、世界共通の比較可能な気候関連情報開示の枠組みであり、すべての企業に対し、4つの開示推奨項目である「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って開示することを推奨しています。(表2)
当社グループは、TCFD提言を気候変動対応の適切さを検証するガイドラインとして活用するとともに、機関投資家等との積極的な対話を実施し、効果的な情報開示を行っていきます。
表2 TCFD提言が企業に求める4つの開示推奨項目
開示項目 | 具体的な開示内容 |
ガバナンス | (a)取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象 |
(b)経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス(委員会等)、モニタリング方法 | |
リスク管理 | (a)気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細、重要性の決定方法 |
(b)重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細、優先順位付けの方法 | |
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況 | |
戦略 | (a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細 |
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度 | |
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス | |
指標と目標 | (a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標 |
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3) | |
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標および実績 |
(a)取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象
JFRグループでは、サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、環境課題に関する具体的な取り組み施策について、業務執行の最高意思決定機関である「グループ経営会議」で協議・決議しています。また、半期に一度開催される「サステナビリティ委員会」において、「グループ経営会議」で協議・決議された環境課題への対応方針等を共有し、当社グループの環境課題に対する実行計画の策定と進捗モニタリングを行っています。
取締役会は、「グループ経営会議」および「サステナビリティ委員会」で協議・決議された内容の報告を受け、当社グループの環境課題への対応方針および実行計画等についての論議・監督を行っています。(図2)
(b)経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス(委員会等)、モニタリング方法
代表執行役社長は、「グループ経営会議」の長を担うと同時に、直轄の諮問委員会である「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」の委員長も担っており、環境課題に係る経営判断の最終責任を負っています。「グループ経営会議」および「サステナビリティ委員会」で協議・決議された内容は、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表3)
図2 JFRグループ 環境マネジメント体制
表3 JFRグループの環境マネジメントにおける会議体および実行主体と役割
会議体および実行主体 | 役割 | |
会議体 | 取締役会 | 業務執行において論議・承認された環境課題に関する取り組み施策の進捗を監督する。毎月開催。 |
グループ経営会議 | 環境課題に対する具体的な取り組み施策を含む全社的な経営に係る施策について協議・決議する。決議事項は取締役会へ報告される。毎週開催。 | |
リスクマネジメント委員会 | 環境課題を含む包括的なリスクを抽出し、対策を協議・決議する。事業子会社の進捗状況のモニタリングなどを実施し、決議事項は取締役会へ報告される。都度開催。 | |
サステナビリティ委員会 | グループ経営会議で協議された環境課題への対応方針を協議・決議する。環境課題に関する長期計画とKGI/KPIの策定、各事業子会社の進捗状況のモニタリングなどを実施し、決議事項は取締役会へ報告される。半期に一度開催。 | |
実行主体 | 代表執行役社長 | 「グループ経営会議」の長を担うと同時に、「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」の委員長を担う。環境課題に係る経営判断の最終責任を負う。 |
事業子会社 (経営会議、リスクマネジメント委員会、サステナビリティ委員会等) | JFRグループのリスクマネジメント委員会やサステナビリティ委員会で協議・決議された環境課題への対応方針に基づき、事業子会社として環境課題への取り組み策を計画・実行する。また、進捗状況をJFRグループのリスクマネジメント委員会やサステナビリティ委員会へ報告する。 | |
サステナビリティ推進部 | 全社的な環境課題への対応を推進する。環境関連情報を収集し、グループ経営会議やサステナビリティ委員会、リスクマネジメント委員会へ報告する。 |
(a)気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細、重要性の決定方法
JFRグループは、リスクを戦略の起点と位置づけ、「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しており、企業が適切に対応することで、持続的な成長につながると考えています。
当社グループは、環境課題に係るリスクについて、「サステナビリティ委員会」の中でより詳細に検討を行い、各事業子会社と共有化を図っています。各事業子会社では、気候変動の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業子会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。その内容について、「グループ経営会議」や「リスクマネジメント委員会」および「サステナビリティ委員会」において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表4)
(b)重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細、優先順位付けの方法
JFRグループは、気候関連リスク・機会は、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、下記のプロセスを通じて気候関連リスク・機会を特定し、その重要性を評価しました。
はじめに、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目である「商品調達」「輸送・顧客の移動」「店舗販売」「商品、サービスの利用」「廃棄」の活動項目ごとに、気候関連リスク・機会を網羅的に抽出しました。次に、網羅的に抽出した気候関連リスク・機会の中から、当社にとって重要な気候関連リスク・機会を特定しました。最後に、特定した気候関連リスク・機会について、「自社にとっての影響度および発生可能性」と、「ステークホルダーにとっての影響度」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。
当社グループは、上記のプロセスを経て、特に重要と評価された気候関連リスク・機会について、取締役会による監督体制の下、当社における企業リスクの一つとして当社グループの戦略に反映し、対応しています。
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況
JFRグループは、リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、「リスクマネジメント委員会」を設置しています。「リスクマネジメント委員会」では、外部環境分析をもとに、環境課題に係るリスクを含めた企業リスクを識別・評価し、優先的に対応すべき企業リスクの絞り込みを行い、進捗のモニタリングを行っています。(図3)
「リスクマネジメント委員会」で論議・承認された内容は、取締役会による監督体制の下、当社グループの戦略に反映し、対応しています。
図3 JFRグループ リスク管理プロセス | 表4 JFRグループ リスク管理体制 | |||||||||
|
(a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細
JFRグループは、気候関連リスク・機会は、長期間にわたり自社の事業活動に影響を与える可能性があるため、適切なマイルストーンにおいて検討することが重要であると考えています。それを踏まえ、当社グループは、中期経営計画の実行期間である2023年度までを短期、Scope1・2・3温室効果ガス排出量のSBT設定年度である2030年度までを中期、Scope1・2・3温室効果ガス排出量のSBTネットゼロ目標設定年度である2050年度までを長期と位置づけました。(表5)
当社グループは、気候関連リスク・機会に対し、ネットゼロを実現する2050年度を見据えたバックキャスティングにより、当社グループの戦略を策定し、対応しています。
表5 JFRグループにおける気候関連リスクと機会の検討期間の定義
気候関連リスク・機会の 検討期間 | JFRグループの定義 | |
短期 | 2023年度まで | 中期経営計画の実行期間 |
中期 | 2030年度まで | Scope1・2・3温室効果ガス排出量のSBT設定年度までの期間 |
長期 | 2050年度まで | Scope1・2・3温室効果ガス排出量のSBTネットゼロ目標設定年度までの期間 |
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度
JFRグループは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および2030年度時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上、パリ協定の目標である「産業革命前からの全世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることを努力目標とすること」を想定したシナリオ(1.5℃/2℃未満シナリオ)※、および新たな政策・制度が導入されず、世界の温室効果ガス排出量が、現在より増加するシナリオ(4℃シナリオ)の2つの世界を想定しています。(表6)
この2つのシナリオを踏まえ、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目ごとに、TCFD提言に沿って、気候関連リスク・機会を抽出しました。その上で、気候変動がもたらす移行リスク(政策規制、技術、市場、評判)や物理リスク(急性、慢性)、また、気候変動への適切な対応による機会(資源効率、エネルギー源、製品およびサービス、市場、レジリエンス)を特定しました。(表7)
表6 参照した既存シナリオ
想定される世界 | 既存シナリオ |
1.5℃/2℃未満シナリオ | 「Net‐Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)」(IEA、2021年) |
「Sustainable Development Scenario(SDS)」(IEA、2021年) | |
「Representative Concentration Pathways (RCP2.6)」(IPCC、2014年) | |
4℃シナリオ | 「Stated Policy Scenario(STEPS)」(IEA、2021年) |
「Representative Concentration Pathways (RCP6.0、8.5)」(IPCC、2014年) |
表7 JFRグループにおける気候関連リスク・機会の概要
気候関連 リスク・機会の 種類 | 発現時期 | JFRグループの気候関連リスク・機会の概要 | ||
リスク | 移行リスク | 政策 規制 | 短・中期 | ・炭素税等、温室効果ガス排出を抑制する政策導入・規制強化によるエネルギーコストの増加 ・グリーン電力証書の購入等による温室効果ガス排出削減コストの増加 ・地政学的リスクに伴う再生可能エネルギー需要増によるエネルギー調達コストの増加 |
技術 | 短・長期 | ・高効率な省エネルギー機器への対応によるオペレーションコストの増加 ・水素やアンモニア等、新たな脱炭素エネルギーの普及によるエネルギー調達コストの増加 ・CCUS(CO2回収・転換・貯留技術)の活用や植林活動等によるオペレーションコストの増加 | ||
市場 | 短・中期 | ・再生可能エネルギー由来電力使用量の増加による再生可能エネルギー調達コストの増加 ・低炭素製品の需要増等、マーケット変化への対応遅れによる成長機会の喪失 ・気候変動に起因する感染症リスク(新型コロナウイルス感染症等)の増加への対応の遅れによる成長機会の喪失 | ||
評判 | 短・中期 | ・環境課題に対する対応の遅れや、消費行動の多様化への対応遅れによるレピュテーションの低下 ・投資家からの環境情報開示要求への対応不備によるレピュテーションの低下 ・ステークホルダーからのレピュテーション低下による新規採用および従業員エンゲージメントへの悪影響 | ||
物理リスク | 急性 | 短・中期 | ・気候変動に起因する自然災害による物流ルート断絶に伴う、製品・サービスの販売機会の喪失 ・気候変動に起因する自然災害による店舗・事業所の損害、休業による収益の減少 ・気候変動に起因する感染症リスク(新型コロナウイルス感染症等)の増加による店舗での販売機会の喪失 | |
慢性 | 中・長期 | ・降雨量増加や気象パターンの変化に伴う農業生産の不安定化による調達コストの増加 ・気候変動に起因する感染症 (新型コロナウイルス感染症等)による従業員の健康被害の増加 | ||
機会 | 資源効率 | 短・中期 | ・省エネルギー施策の強化によるエネルギー調達コストの減少 ・環境価値の高い店舗や事業所への転換によるエネルギー調達コストの減少 | |
エネルギー源 | 短・長期 | ・最新のエネルギー高効率機器導入によるエネルギー調達コストの減少 ・創エネルギー導入によるエネルギー調達コストの減少 ・再生可能エネルギーに係る新たな政策・制度の進展による再生可能エネルギー調達コストの減少 | ||
製品および サービス | 短・中期 | ・お取引先様との協働によるシェアリング、アップサイクル製品の需要増への対応による収益の拡大 ・リユース製品・リサイクル製品等、お客様からの環境配慮型製品・サービスの需要増への対応による収益の拡大 | ||
市場 | 短・長期 | ・サーキュラー型ビジネスへの新規参入による新たな成長機会の拡大 ・小売業の枠を超えた事業ポートフォリオの再構築と、低炭素製品市場への参入・拡大による収益力の向上 ・環境価値の高い店舗や事業所への転換に伴う環境意識の高いテナントの出店による収益の拡大 ・気候変動に起因する感染症リスク(新型コロナウイルス感染症等)の増加への対応による新たな成長機会の獲得 | ||
レジリエンス | 中期 | ・再生可能エネルギー・省エネルギー推進に伴うエネルギーレジリエンスの向上 |
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス
JFRグループは、網羅的に抽出・特定した気候関連リスク・機会の中から、「自社にとっての影響度および発生可能性」と、「ステークホルダーにとっての影響度」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。
また、当社グループは、特に重要性が高いと評価した気候関連リスク・機会について、2030年度を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、および4℃シナリオの2つのシナリオにおける財務影響を定量、定性の両側面から試算し、それぞれの対応策を策定しました。(表8)
なお、定性的財務影響については、矢印の傾きによって3段階で表示しています。
表8 JFRグループにとって特に重要な気候関連リスク・機会、および財務影響
:JFRグループの事業および財務への影響が非常に大きくなることが想定される | ||
:JFRグループの事業および財務への影響がやや大きくなることが想定される | ||
:JFRグループの事業および財務への影響が軽微であることが想定される |
JFRグループにとって特に重要な 気候関連リスク・機会 | 財務影響 | 対応策 | ||||
1.5℃/2℃未満 シナリオ | 4℃ シナリオ | |||||
リスク | ・炭素税等、温室効果ガス排出を抑制する 政策導入・規制強化によるエネルギーコ ストの増加 | 約11億円※1 のコスト増 | 約6億円※1 のコスト増 | ・店舗・事業所における省エネルギー や再生可能エネルギーへの切り換え によるScope1・2温室効果ガス排出 量削減 | ||
・グリーン電力証書の購入等による温室効 果ガス排出削減コストの増加 | ・店舗・事業所における最新の高効率 機器の導入によるエネルギー使用量 の削減 | |||||
・再生可能エネルギー由来電力使用量の増 加による再生可能エネルギー調達コスト の増加 | 約7億円※2 のコスト増 | 約2億円※2 のコスト増 | ・自社施設への再生可能エネルギー設 備投資等、創エネルギーシステムの 導入による再生可能エネルギーの自 家消費 | |||
・気候変動に起因する自然災害による店 舗・事業所の損害、休業による収益の減 少 | 約52億円※3 の減収 | 約103億円※3 の減収 | ・BCP整備による店舗・事業所のレジ リエンス強化 | |||
・気候変動に起因する感染症リスク(新型 コロナウイルス感染症等)の増加による 店舗での販売機会の喪失 | ・中期経営計画で策定した「リアル& デジタル戦略」の推進による販売チ ャネルの多様化 | |||||
機会 | ・最新のエネルギー高効率機器導入による エネルギー調達コストの減少 | ・店舗・事業所における最新の高効率 機器の導入によるエネルギー使用量 の削減 | ||||
・環境価値の高い店舗や事業所への転換に 伴う環境意識の高いテナントの出店によ る収益の拡大 | 約10億円※4 の増収 | ― | ・省エネや再生可能エネルギーへの切 り換えによる、店舗・事業所の環境 認証取得 | |||
・お取引先様との協働によるシェアリン グ、アップサイクル製品の需要増への対 応による収益の拡大 | ・お取引先様との協働によるシェアリ ング、アップサイクル等のサーキュ ラー型ビジネスモデルへの転換 | |||||
・リユース製品・リサイクル製品等、お客 様からの環境配慮型製品・サービスの需 要増への対応による収益の拡大 | ・お取引先様やお客様との協働による 3Rの高度化や、環境配慮製品・サ ービスの取扱い拡大 | |||||
・気候変動に起因する感染症リスク(新型 コロナウイルス感染症等)の増加への対 応による新たな成長機会の獲得 | ・中期経営計画で策定した「リアル& デジタル戦略」の推進による販売チ ャネルの多様化 |
(2030年度時点を想定した定量的財務影響の算出根拠)
※1 2030年度時点のJFRグループScope1・2温室効果ガス排出量に対して、1t-CO2あたりの炭素税価格を乗じて試
算
※2 2030年度時点のJFRグループ電気使用量に対し、通常の電気料金と比較した1kWhあたりの再生可能エネルギー
由来電気料金の価格高を乗じて試算
※3 過去の自然災害に伴う休業等による売上損失額に対して、洪水発生頻度を乗じて試算
※4 2030年度時点のJFRグループの不動産収入利益に対して、環境認証取得ビルの新規成約賃料変動率を乗じて試算
当社グループは、最重要マテリアリティである「脱炭素社会の実現」に向け、当社グループの事業活動について、上記シナリオを前提に気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討し、当社グループの戦略レジリエンス(強靭性)を検証しています。
そのため、事業戦略や中期経営計画において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指します。
・JFRグループ 2050年度ネットゼロ移行計画
JFRグループは、2050年度ネットゼロの実現に向けて、1.5℃/2℃未満シナリオおよび4℃シナリオのいずれのシナリオ下においても、中長期視点から高い戦略レジリエンスを強化していく必要があると考えています。
そのため、当社グループは、2050年度ネットゼロ実現に向けた移行計画を策定しました。(図4)同計画では、事業戦略において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指すため、短期・中期・長期的視点から、具体的取り組みを明確化しています。
図4 2050年度 ネットゼロ移行計画※
※ 2022年5月末時点の計画であり、今後の事業戦略に応じて修正する可能性があります。
(a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
JFRグループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率の2つの指標を定めています。
また、2021年4月に改訂した役員報酬ポリシーでは、業績連動報酬を決定する指標として、Scope1・2温室効果ガス排出量削減目標を設定し、気候変動問題に対する執行役の責任を明確化しています。
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)
JFRグループは、2017年度から、グループ全体の温室効果ガス排出量の算定に取り組んでいます。当社グループの2021年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約13万t-CO2(2020年度比1.6%削減、2017年度比33.0%削減)を見込んでいます。また、2021年度Scope3温室効果ガス排出量は、約285万t-CO2(2020年度比15.4%増加、2017年度比2.6%削減)を見込んでいます。(表9)
なお、2021年度のScope1・2・3温室効果ガス排出量は、第三者保証を取得する見込みです。
表9 JFRグループ Scope1・2・3温室効果ガス排出量実績および見通し
(単位:t-CO2、%)
温室効果ガス排出量 実績 | 温室効果ガス排出量 見通し | |||||
2017年度 (基準年度) | 2020年度 | 2021年度 | 2020年度比 | 2017年度比 (基準年度比) | ||
Scope1・2排出量 合計 | 194,154※1 | 132,106※1 | 130,000 | ▲1.6 | ▲33.0 | |
内訳 | Scope1排出量 | 16,052※1 | 11,983※1 | 14,500 | +21.0 | ▲9.7 |
Scope2排出量 | 178,102※1 | 120,123※1 | 115,500 | ▲3.8 | ▲35.1 | |
Scope3排出量※2 合計 | 2,927,320 | 2,470,411※1 | 2,850,000 | +15.4 | ▲2.6 |
2 「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン ver2.4(2022年3月 環境省
経済産業省)」に基づき、カテゴリ別の「活動量×排出原単位」という算定式を用いて算出
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標および実績
JFRグループは、世界全体の2℃未満目標達成のため、2018年度から、長期的な温室効果ガス排出量削減目標を設定し、2019年度に、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標において、「SBTイニシアチブ」による認定を取得しました。2021年度には、マテリアリティの進化に伴い、Scope1・2温室効果ガス排出量削減目標を、2017年度(基準年度)比で、従来の40%から60%に引き上げ、SBTが定める新基準となる「1.5℃目標」の認定を再取得しました。また、SBTイニシアチブの「企業のネットゼロ基準」に基づき、Scope1・2・3温室効果ガス排出量の範囲において、「2050年度ネットゼロ」という目標を設定しました。
これらの長期目標達成のため、当社グループは、2019年度から、自社施設における再生可能エネルギー由来電力の調達を開始し、2020年10月に「RE100※」に加盟し、2050年度までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率100%を目指します。また、その中間目標として、2030年度までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率60%を目指します。
今後も、2050年度ネットゼロの実現に向け、再生可能エネルギー由来電力の調達拡大に取り組みます。
※事業活動で使用する電力を、2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際的イニシアチブ
表10 JFRグループの気候関連リスク・機会の管理に用いる目標
指標 | 目標年度 | 目標内容 |
温室効果ガス排出量 | 2050年 | Scope1・2・3温室効果ガス排出量ネットゼロ |
2030年 | Scope1・2温室効果ガス排出量60%削減(2017年度比)※1 Scope3温室効果ガス排出量40%削減(2017年度比)※1 | |
事業活動で使用する 電力に占める 再生可能エネルギー比率 | 2050年 | 事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率100%※2 |
2030年 | 事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率60% |
※2 2020年 RE100に加盟
今後も、当社グループは、取締役会による監督体制のもと、環境マネジメントにおけるガバナンスの強化を進め、中長期の目標達成に向けた実行計画の立案等、全社的な取り組みを進めていきます。
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