有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100NSW0 (EDINETへの外部リンク)
アンジェス株式会社 事業等のリスク (2021年12月期)
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。将来に関する事項については有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。なお、当社グループは、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、以下の記載事項及び本項以外の記載事項を慎重に検討した上で行われる必要があると考えております。
(1) 遺伝子治療の現状について
遺伝子治療とは、遺伝子を用いて病気を治療することです。世界初の遺伝子治療は1990年に米国で、アデノシン・デアミナーゼ(ADA)欠損症という先天的に免疫が正常に働かない遺伝子疾患を対象に実施されました。その後、遺伝子疾患に加え、有効な治療法がない癌や後天性免疫不全症候群などに対しても、遺伝子治療が実施されてきました。国内でも1995年に北海道大学においてADA欠損症を対象とした初めての遺伝子治療が行われ以来、過去20年以上に亘り数多くの臨床試験が行われてきました。
遺伝子治療が有効と考えられる対象疾患としてはまず、遺伝子の変異が原因の遺伝子疾患があります。遺伝子疾患では、遺伝子治療により正常な遺伝子を補充することで治療効果が期待しやすいと考えられます。
最近では「ゲノム編集」技術の医療への応用が急速に進歩しています。「ゲノム編集」とは、ヒトゲノムの特定の部位で外因性の遺伝子を追加・挿入、あるいは遺伝子変異を修正、削除できる最新の遺伝子工学技術であり、従来の遺伝子組み換え技術と比べて著しく精度と効率が高いため、今後医療や科学にとって不可欠な技術になるとみられております。
「ゲノム編集」の前段階として、1990年代に本格的に始まった遺伝子治療(Gene Therapy)の研究は患者の骨髄から幹細胞を取り出し、正常な遺伝子をその幹細胞の核に組み込み、再度その細胞を患者の体内へ戻すことにより、正常な遺伝子が体内で機能するようにするものでした。 2010年代になり遺伝子を自在に書き換える「ゲノム編集」(Genome Editing)技術が開発され、その技術は今日ますます発展を遂げております。特に遺伝子異常による難病を持つ患者の治療方法として開発が進んでおり、医療・ヘルスケア業界だけでなく、農業・食品分野に革命的な影響を及ぼしており事業性の面からも注目されております。
ただし最新の「ゲノム編集」技術を利用した遺伝子(細胞)治療は新規性が高く有効性が期待されるものの、現段階では未知のリスクを否定できず、幅広い実用化には至らないリスクがあります。
(2) 今後の事業展開について
慢性動脈閉塞症を適応症としたHGF遺伝子治療用製品に関しては、田辺三菱製薬株式会社に対し末梢性血管疾患を対象とした米国と日本における独占的販売権を付与しており、開発の進捗に伴ったマイルストーンを、さらに上市後には売上高の一定料率を対価として受け取る予定です。HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」は2019年度に厚生労働省から条件及び期限付きの製造販売承認を受けておりますが、今後の本承認を目指して実施される製造販売後承認調査評価における条件(投薬量、投薬回数、投薬期間)やその他の理由により、製造販売承認を取得できない可能性があります。
また、イスラエルにおけるHGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」の独占的販売権の許諾について同国Kamada社と基本合意書を締結しております。更にスペシャルティ薬(特定疾患専門薬)を扱うトルコのEr-Kim社と「コラテジェン®」のトルコでの導出(独占的販売権許諾)に関する基本合意書を締結しました。今後これらの導出先がそれぞれの国での使用の承認を受けた場合、海外での売り上げを見込むことができます。しかしながら導出先のイスラエルやトルコの薬事承認制度は異なるため、それらの国の当局による判断次第で販売承認を取得できないこともあり、事業計画が実現しない可能性があります。
NF-κBデコイオリゴDNAについては、塩野義製薬株式会社との間で外用剤全般の全世界における独占的な販売権を付与する契約を締結しており、その契約に基づいて当社グループは、開発の進捗に伴いマイルストーンを受け取ります。
NF-κBデコイオリゴDNAの新たな対象疾患として、椎間板性腰痛を対象とした臨床開発を実施しています。初期段階の臨床試験が良好な結果であったため、その後大手製薬企業に開発・販売権を導出する計画で、実現すれば契約締結に伴う一時金、開発の進捗に伴ったマイルストーンを、さらに上市後には売上高の一定料率を対価として受け取る予定です。しかしながら、導出条件やその他の理由により、こうした事業計画が実現しない可能性があります。
当社グループは遺伝子治療薬、デコイオリゴDNAに続く第三の事業の柱としてDNAワクチン事業の推進を掲げています。その一環として高血圧を対象としたDNAワクチンの臨床開発を実施しています。初期段階の臨床試験の結果、安全性並びにアンジオテンシンⅡに対する抗体産生が確認できたことから、さらに今後臨床開発を進め、その後大手製薬企業に開発・販売権を導出する計画であり、実現すれば契約締結に伴う一時金、開発の進捗に伴ったマイルストーン、さらに上市後には売上高の一定率を対価として受け取る予定です。しかしながら、不十分な臨床効果やその他の理由により、こうした事業計画が実現しない可能性があります。
また、DNAワクチンでは新型コロナウイルスの感染を予防するDNAワクチンの臨床開発を実施しています。今後大規模な臨床での効果を確認し、早期に大手製薬企業に開発・販売権を導出する計画であり、実現すれば契約締結に伴う一時金、開発の進捗に伴ったマイルストーン、さらに上市後には売上高の一定料率を対価として受け取る予定です。しかしながら、現在世界的大流行の新型コロナウイルス感染症については、今後の感染状況の推移、変異株の影響などは不明であり、また、不十分な臨床効果やその他の理由により、こうした事業計画が実現しない可能性があります。
カナダのVasomune社と新型コロナウイルス感染症治療薬として共同開発しているAV-001は、米国で実施した第Ⅰ相臨床試験で安全性、忍容性が確認されたことから、前期第Ⅱ相臨床試験の準備を進めるとともに、大手製薬企業に開発・販売権を導出する計画であり、実現すれば契約締結に伴う一時金、開発の進捗に伴ったマイルストーン、さらに上市後には売上高の一定料率を対価として受け取る予定です。しかし、DNAワクチンと同様、今後の感染状況の推移、変異株の影響などは不明であり、また、不十分な臨床効果やその他の理由により、こうした事業計画が実現しない可能性があります。
また、長期的観点から、Brickell Biotech,Inc.(旧バイカル社)及びMyBiotics Pharma Ltd.に資本参加しています。しかしながら、これらの事業が計画通りに進展しなかった場合やその他の理由により、投資資金を回収できない可能性があります。
(3)研究開発について
一般に新薬の開発には、長期に亘る期間と多額の費用が必要です。それにもかかわらず、医薬品の開発は計画通りに進行するとは限らず、臨床試験のために必要とされる症例数を適時に確保できないこと、臨床試験の実施に係る各種業務を支援・代行するCRO(医薬品開発業務受託機関)における業務が計画通り進行しないこと等の様々な要因によって遅延する可能性があります。さらに、様々な試験の結果、期待した有効性を確認できなかったり、安全性に関する許容できない問題が生じたりした場合には、研究開発を中止するリスクがあります。このような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
(4) 製造について
当社グループは、製品及び治験薬等を自社で製造しておらず、他社からの供給に依存しております。従って、製品や治験薬等について、何らかの要因により、品質上の問題が生じたり、もしくは予定通りに必要な数量を確保できない場合には、開発に遅れが生じたり、製品供給の不足により当社グループの業績が影響を受けたりする可能性があります。
(5) 販売について
当社グループが開発中の医薬品については、国内、米国及び欧州等の各地域において、将来競合する可能性のある製品及び開発品が存在します。当社グループは、競争力の高い製品を早期に開発、上市することで、一定の市場シェアの獲得を目指しております。しかしながら、競合他社が当社の想定以上のシェアを獲得した場合には、当社グループが開発した製品が上市された場合においても期待通りの収益をあげられない可能性があります。
また、日本や欧州においては新薬の価格は原則として政府あるいはそれに準じた公的機関により決定され、また、米国においては保険会社・マネージドケア(健康保険運営団体)及び政府のメディケア・プログラムとの交渉により決定されます。そのため、当社グループが開発した製品について当社グループが想定した薬価とならない場合があり期待通りの収益をあげられない可能性があります。
加えて、当社が販売する医薬品について、予期しない副作用が発生した場合には売上高の減少要因となり、当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
(6) 薬事法制による規制について
薬事法制は、医薬品・医療機器等の品質、有効性、安全性確保の観点から、企業が行う開発・製造・販売等に関して必要な規制を行う法律であり、当社グループが実施している医薬品の研究開発は日本をはじめ各国の薬事法制の規制を受けております。
各国において、様々な要因による承認要件の変更、さらに薬事法制度の変更により、承認を計画通りに取得できない可能性があります。このような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
(7)知的財産権について
① 特許戦略
当社グループが現在展開しているHGF遺伝子治療用製品、NF-κBデコイオリゴDNAの研究開発活動は、主に当社グループが保有する又は当社グループが実施権を有する特許権あるいは特許出願中の権利に基づき実施しております。以下において、それらのうち特に重要なものを記載しております。
しかしながら、当社グループが現在出願中の特許が全て登録されるとは限りません。また、当社グループの研究開発を超える優れた研究開発により当社グループの特許が淘汰される可能性は、常に存在しております。仮に当社グループの研究開発を超える優れた研究開発がなされた場合、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループの今後の事業展開の中でライセンスを受けることが必要な特許が生じ、そのライセンスが受けられなかった場合には、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
対象 | 表題 | 保有者 | 登録(出願)状況 |
HGF遺伝子治療用製品 | 糖尿病性虚血性疾患遺伝子治療 | 当社 | 日本において延長登録済 |
リンパ管新生促進剤 | 当社 | 日本、欧州(EP)にて成立済 | |
NF-κBデコイオリゴDNA | NF-κBに起因する疾患の治療及び予防剤 | 当社 | 米国、欧州(EP)にて成立済。 日本においては、物質特許及び虚血性疾患・臓器移植・癌などの医薬用途特許について成立済 |
デコイを含む薬学的組成物及びその使用方法(アトピー性皮膚炎が対象) | 当社 | 日本、米国、欧州(EP)にて成立済。なお日本においては乾癬に対する用途特許も分割出願として成立済 | |
椎間板の疾患を治療、阻害及び回復するための方法及び組成物 | 当社 ラッシュ大学(米国) | 日本、米国、欧州(EP)、カナダにて成立済 | |
キメラデコイ | 当社 株式会社ジーンデザイン | 物質特許。日本、欧州(EP)にて成立済、米国出願中 |
② 知的財産権に関する訴訟、クレーム
連結会計年度末現在において、当社グループの開発に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟やクレームが発生したという事実はありません。
ただし、他社が当社グループと同様の研究開発を行っていないという保証はなく、今後とも知的財産について問題が発生しないという保証はありません。
当社グループとしても、このような問題を未然に防止するため、事業展開にあたっては特許調査を実施しており、当社グループ特許が他社の特許に抵触しているという事実は認識しておりません。しかしながら、当社グループのような研究開発型企業にとって、このような知的財産権侵害問題の発生を完全に回避することは困難であります。
(8) 業績の推移について
当社グループの主要な経営指標等の推移は以下のとおりであります。
第19期 | 第20期 | 第21期 | 第22期 | 第23期 | ||
2017年12月期 | 2018年12月期 | 2019年12月期 | 2020年12月期 | 2021年12月期 | ||
(1) 連結経営指標等 | ||||||
事業収益 | (千円) | 365,183 | 610,050 | 326,759 | 39,998 | 64,148 |
経常損失 | (千円) | △3,307,139 | △3,096,213 | △3,293,214 | △6,618,353 | △13,588,973 |
親会社株主に帰属する当期純損失 | (千円) | △3,764,699 | △2,996,629 | △3,750,823 | △4,209,511 | △13,675,587 |
純資産額 | (千円) | 3,621,881 | 7,734,459 | 12,055,351 | 32,679,675 | 38,634,741 |
総資産額 | (千円) | 3,963,609 | 8,050,672 | 12,524,600 | 38,354,611 | 45,455,746 |
営業活動による キャッシュ・フロー | (千円) | △2,991,223 | △2,522,501 | △2,179,918 | △2,961,329 | △11,380,546 |
投資活動による キャッシュ・フロー | (千円) | 227,062 | △122,742 | △1,249,757 | △6,963,969 | △154,873 |
財務活動による キャッシュ・フロー | (千円) | 2,916,035 | 7,283,345 | 7,676,981 | 11,403,576 | 17,378,670 |
現金及び現金同等物の期末残高 | (千円) | 1,147,753 | 5,784,894 | 10,040,595 | 11,537,028 | 17,835,704 |
(2) 個別経営指標等 | ||||||
事業収益 | (千円) | 365,183 | 610,050 | 326,759 | 39,998 | 64,148 |
経常損失 | (千円) | △3,349,163 | △3,103,216 | △3,310,372 | △5,318,582 | △7,932,836 |
当期純損失 | (千円) | △3,777,738 | △3,015,015 | △3,773,328 | △5,318,038 | △8,086,792 |
資本金 | (千円) | 5,658,349 | 9,395,825 | 13,291,912 | 24,612,076 | 33,359,568 |
純資産額 | (千円) | 3,522,855 | 7,619,304 | 11,919,841 | 29,356,326 | 38,688,587 |
総資産額 | (千円) | 3,861,671 | 7,939,245 | 12,434,672 | 34,147,677 | 44,879,500 |
(注) 事業収益には消費税等は含まれておりません。
当社グループは、事業のステージが先行投資の段階にあるため、現時点では、上記記載のように、第19期から第23期において親会社株主に帰属する当期純損失を計上しておりますが、現在の研究開発を着実に進め、パイプラインの拡充を図り、将来医薬品の販売から得られる収益によって損益を改善し、さらには利益の拡大を目指してまいります。
ただし、現在の事業計画に沿った医薬品の研究開発や販売が実現しない場合には、当社グループが将来においても親会社株主に帰属する当期純利益を計上できない可能性もあります。
また、上記記載のように、第19期から第23期においては、営業活動によるキャッシュ・フローもマイナスであり、現状の事業計画に沿った医薬品の研究開発や販売が実現しない場合には、将来においても営業活動によるキャッシュ・フローがプラスにならない可能性もあります。
(9)経営上の重要な契約等について
当社グループのビジネス展開上重要と思われる契約の内容を本報告書「第2 事業の状況 4 経営上の重要な契約等」に記載しております。なお、当社グループは、これらの契約に関して、いずれも当社グループの根幹に関わる重要な契約であると認識しております。したがって、当該契約の破棄が行われた場合、当社グループにとって不利な契約改定が行われた場合及び契約期間満了後に契約が継続されない場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(10)組織体制について
① 人材の確保
当社グループの競争力は研究開発力にあり、専門性の高い研究及び開発担当者の確保が不可欠です。また、事業の成長拡大を支えるためには事業開発、営業、製造、内部管理等の人材も充実させる必要があります。当社グループは、優秀な人材の確保及び社内人材の教育に努めますが、人材の確保及び社内人材の教育が計画どおりに進まない場合には、当社グループの業務に支障をきたす可能性があります。
一方、当社グループは、業務遂行体制の充実に努めますが、小規模組織であり、限りある人的資源に依存しているために、社員に業務遂行上の支障が生じた場合、あるいは社員が社外流出した場合には、当社グループの業務に支障をきたす可能性があります。
② 特定人物への依存
当社グループの事業の推進者は、代表取締役である山田英です。代表取締役山田英は、当社グループの最高責任者として、当社グループの経営戦略の決定、研究開発、事業開発及び管理業務の遂行に大きな影響力を有しております。また、当社メディカルアドバイザーである森下竜一には、研究開発の面でアドバイスを受けております。
当社グループではこれらの特定人物に過度に依存しない体制を構築すべく、経営組織の強化を図っていますが、当面の間はこれらの特定人物への依存度が高い状態で推移すると見込まれます。このような状況のなかで、これらの特定人物が何らかの理由により当社グループの業務を継続することが困難になった場合には、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(11)訴訟について
当社グループは、医薬品の副作用、製造物責任、知的財産権及び労務問題等に関して、訴訟を提起される可能性があります。将来、当社グループが提訴された場合には、その内容次第で当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
(12)配当政策について
当社グループは、創薬系バイオベンチャーであり、2019年9月よりHGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」を販売しているものの、「コラテジェン®」は条件及び期限付の承認であります。また他の主要なプロジェクトにおいても医薬品の開発段階であり、事業のステージは、先行投資の段階にあります。このため、現時点においては、親会社株主に帰属する当期純損失を計上しており、剰余金の配当は実施しておりません。
ただし、株主への利益還元については重要な経営課題と認識しており、将来、現在開発中の新薬が上市され、その販売によって利益が計上され分配可能額が生じる時期においては、経営成績及び財政状態を勘案しながら、剰余金の配当を検討したいと考えております。
(13)外国為替変動について
当社グループは、事業活動をグローバルに展開しており、海外での研究開発活動、海外企業とのライセンス、海外からの製品及び治験薬の仕入等において外貨建取引が存在します。また、当社グループが現在開発を行っている製品は、日本のみならず、米国を含む海外市場での販売が見込まれます。そのため、急激な為替変動によって為替リスクが顕在化した場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
(14)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)向け予防ワクチン開発プロジェクトのリスク
当社グループは2020年3月より大阪大学とDNAプラスミド製造技術を用いた新型コロナウイルス感染症予防ワクチン(以下、「本ワクチン」といいます。)の開発を行っております。本ワクチンは、不活化ワクチンとは異なり、危険なコロナウイルスを使用せず、対象とする当該ウイルスの一部であるタンパク質をコードする環状DNAプラスミド(DNAワクチン)を接種することで、当該ウイルスのタンパク質を体内で生産し、当該ウイルスに対する免疫を付与します。非臨床試験で動物への本ワクチンの投与を行い、抗体価の上昇及び各種試験結果が確認され、これまでに第Ⅰ/Ⅱ相および第Ⅱ/Ⅲ相の臨床実験を実施した結果、安全性において問題なく、細胞性免疫においてある程度上昇を確認したものの、液性免疫については期待する効果を得ることが出来ませんでした。現在は、より有効性を高める取り組みとして2021年8月より開始した高用量製剤での第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験に絞って開発を進めております。本ワクチンの製造は大腸菌を用いて行うため、鶏卵を用いる不活化ワクチンと比べて安全で短期間に製造することができます。しかしながら、本ワクチンの開発は従来の開発プロジェクトで想定されるリスクに加え、下記のリスクが想定され、今後の事業戦略、財政状態、経営成績及び当社の株価に影響を及ぼす可能性があります。
①開発の進捗に関するリスク
本プロジェクトは緊急性が高く、短期間での非臨床試験、臨床試験から承認を経ての製品化が要請されております。この状況下で緊急性は要するものの、健常者に投与するワクチン開発において、安全性および有効性を様々な角度から慎重に検証していく必要があり、また2021年2月より国内で接種が開始されたワクチンの安全性情報によっては、一層慎重な安全性評価を求められる可能性があり、その結果、想定していたよりも工数や時間がかかり、スケジュール遅延が起こる可能性があります。さらに、様々な試験の結果、期待した有効性を確認出来ない、安全性に関して許容出来ない等の問題が生じた場合には、研究開発を中止するリスクがあります。
②開発競争のリスク
新型コロナウイルスワクチン開発は国内外の大手製薬会社からベンチャー企業まで、参入企業が増加し開発競争が激化しております。当社はプラスミドDNA製造技術を用いた新型コロナウイルスワクチンの開発で優位性があるものと認識しておりますが、将来的に競業他社による様々な開発ワクチンの開発進捗・技術力・有効性・安全性等により当社の優位が低下する可能性があります。
③開発戦略のリスク
新型コロナウイルス感染症パンデミックの発端となったのは従来型の新型コロナウイルスでしたが、その後相次いで変異型が見つかり、それらの中には従来型より感染力が高く、致死率が高いものもあると言われております。本プロジェクトのワクチンは、従来型ウイルスの遺伝子配列に基づいて作られたものですが、その有効性が減弱あるいは消失する変異型ウイルスが主流となった場合には、それに対応したワクチンに切り替えるなど開発戦略の見直しを迫られる可能性があります。
④供給体制のリスク
開発の進捗に関するリスクで記載のとおり、本ワクチン開発は緊急性が高く、一方で短期間での供給体制の確立が必要となっております。しかしながら、予測不能の製造設備の稼働問題等の要因から、充分な供給体制の構築ができない可能性があります。
(15)新型コロナウイルス感染症拡大に伴うリスク
当社グループはHGF遺伝子治療用製品について、適応拡大を目的として、慢性動脈閉塞症の安静時疼痛を有する患者を対象とする第Ⅲ相臨床試験を実施しております。また、米国においては、下肢潰瘍を有する慢性動脈閉塞症を対象とした後期第Ⅱ相臨床試験を実施しておりますが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、治験施設への訪問制限や新規患者の登録組み入れ鈍化などの影響が出ており、臨床開発ステージにあるプロジェクトの進捗に影響を受ける可能性があります。また、臨床試験以外にも研究開発材料の調達や外部委託をおこなう各種試験の遅延など事業活動全般に制約を受ける可能性が想定され、当該事象が長期化した場合は、当社グループの財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(16)継続企業の前提に関する重要事象等について
医薬品事業は、製品化までに多額の資金と長い時間を要する等の特性があり、創薬ベンチャーである当社グループにおいては、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあります。そのため、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。
当社グループは当該状況を解消すべく、下記を重要な課題として取り組んでおります。
①自社既存プロジェクトの推進
当社グループでは、2019年3月に国内初の遺伝子治療用製品「コラテジェン®」の条件及び期限付承認を厚生労働省から取得し、同年9月から販売を開始いたしました。現在、製造販売後承認条件評価を行うとともに国内での同製品の適応拡大のための臨床試験及び米国での閉塞性動脈硬化症を対象とした臨床試験を進めております。また、現在海外で臨床試験を進めております椎間板性腰痛症向けの核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNA、高血圧DNAワクチンに加え、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延を機に2020年3月に開発を開始した、新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチン、Vasomune社と共同開発している新型コロナウイルス感染症治療薬を含めた5プロジェクトを推進しております。これらのプロジェクトを確実に推進していくことが最優先課題であると考えております。
②開発パイプラインの拡充と事業基盤の拡大
当社グループでは新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延を機に予防用ワクチンおよび治療薬の開発を進めています。また、ゲノム編集における先進技術を持つEmendo社を子会社化し、究極の遺伝子治療ともいわれるゲノム編集で具体的なプロジェクト化に向けて準備を進めています。これらの開発パイプラインの拡充や事業基盤の拡大により、当社グループは遺伝子治療の世界でグローバルリーダーを目指します。
今後も、ライセンス導入や共同開発、創薬プラットフォーム技術の獲得を目指した事業提携に加え、他社に対する資本参加や他社の買収等により開発品パイプラインの拡充による事業基盤の拡大を図り、将来の成長を実現してまいります。
③開発プロジェクトにおける提携先の確保
当社グループでは、開発プロジェクトのリスクを低減するために、製薬会社と提携し、契約金・マイルストーンや開発協力金を受け取ることにより財務リスクを低減しながら開発を進めるという提携モデルを基本方針としております。
「コラテジェン®」について日本と米国を対象とした独占的販売契約を田辺三菱製薬と締結しており、マイルストーン収入やロイヤリティ収入が見込めます。また、2019年2月にイスラエルにおけるHGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」の独占的販売権の許諾について同国Kamada社と基本合意書を締結しております。さらに2020年10月にスペシャルティ薬(特定疾患専門薬)を扱うトルコのEr-Kim社と「コラテジェン®」のトルコでの導出(独占的販売権許諾)に関する基本合意書を締結しました。椎間板性腰痛症向けの核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNA、高血圧DNAワクチンにつきましては臨床試験が予定どおり進捗しており、製薬企業等へ早期に導出することで、契約一時金、ロイヤリティー等を確保し、開発費の負担削減と定期的な収入確保を目指してまいります。今後も、製薬会社との提携を進めることにより、事業基盤の強化に努めてまいります
④資金調達の実施
当社グループにとって、研究開発活動及び事業基盤の拡大を推進することは継続的な発展のために重要であり、そのためには状況に応じ機動的に資金調達を行うことが必要となります。2021年3月24日に発行したCantor Fitzgerald & Co.を割当先とする第41回新株予約権(第三者割当て)について2021年5月までに全数が行使され、当連結会計年度において174億74百万円を調達いたしました。今後も、研究開発活動推進及び企業維持のために必要となる資金調達の可能性を適宜検討してまいります。
これら諸施策の実施により、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
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