有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100TVFX (EDINETへの外部リンク)
日揮ホールディングス株式会社 研究開発活動 (2024年3月期)
当連結会計年度は、長期経営ビジョン「2040年ビジョン」の1stフェーズ「挑戦の5年間」と位置付ける中期経営計画「BSP2025」の3年目として、引き続き3つの重点戦略①EPC事業のさらなる深化、②高機能材製造事業の拡大、③将来の成長エンジンの確立に注力してきました。プロジェクト遂行力の高度化を図るEPC DXの実装、高機能材製品の用途拡大・設備投資、及び将来ビジネスの核となるクリーンエネルギー・資源循環等の各種技術の新事業を推進しております。「2040年ビジョン」に掲げているビジネスモデルのトランスフォーメーションでは、技術ライセンス等の非EPCビジネス領域への参入を達成するため、各種技術の開発・実証、産学連携等を進めております。例えば、バイオものづくりでは、微生物の改良による糖やCO2を原料としたバイオプラスチック、化成品等の生産の社会実装に向けて、パートナー企業との連携を深めております。
また、当社グループでは、持続的成長の経営基盤となる知的財産を重視しております。上記重点戦略に知財戦略を一体化し、コア事業と成長・将来事業の両ビジネスを拡大していくため、当社内にガバナンス統括オフィス知的資産ユニット、及びコーポレート機能業務を集約した日揮コーポレートソリューションズ株式会社内に知的財産部を配置する体制に移行しました。当社グループ内の様々なアイデアを多角的に捉えた「知の創造」及びグループ外の優れた技術を見出してパートナーと協創する「知の融合」の活動に知的財産部が積極的に関与し、イノベーションを創出するための環境整備に取り組んでおります。既存ビジネスの拡大や非EPCモデルの確立、新市場への参入等を見据えた知財戦略の立案と遂行を行い、知的財産の戦略的活用の視点から技術開発成果の保護及びグループ会社の事業支援を進めてまいります。
なお、研究開発費については、当社で行っている各セグメントに配分できない研究開発費用3,511百万円が含まれており、当連結会計年度の研究開発費の総額は、10,454百万円です。
① 総合エンジニアリング事業
設計・調達・建設(EPC)ビジネス分野現地セキュリティが厳しい地域や自然環境が過酷な地域、労働者の確保が困難な地域等、建設工事の遂行が困難な地域においてEPCプロジェクトが増加する傾向にある中で、当社グループは大型モジュール工法の採用や、EPCプロジェクト遂行の効率性向上のためにAWP(Advanced Work Packaging)による工事管理の採用などを実践しております。さらに、当社グループのIT戦略「ITグランドプラン2030」による新しい設計手法(AI設計やデジタルツイン)や現場省人化につながるような新しい工法(ロボティクスによる自動化、3Dプリンター導入、中・小型モジュール工法、リモート化など)、要素技術の導入(新素材、設計へのAIやBIM導入など)、EPC全領域でのAWP採用拡大などを図り実装することによって、熟練労働者不足や不安定な現場生産性、スケジュール遅延などのEPCプロジェクトリスクを低減することを目指しております。同時にこうした取組みが当社グループの競争力強化にもつながると考え、EPCを担う事業会社を中心に全社的な活動を展開しております。
IT/DX関連
1. EPC効率向上を目指して行っているもの
(1) プロットプラン自動化Auto Plot PATHFINDER®
プラント全体の配置図であるプロットプランの設計は、プラントの運転・メンテナンスのし易さ、安全性の確保、環境保全はもちろんのこと、建設コストを決定付ける最も重要なものとして位置付けられております。したがって、複雑な制約条件のもとで様々な要求を最適化するという大変難しい技術が必要であり、従来、経験豊富なシニア技術者の感覚に頼る部分が大きい領域でしたが、当社グループのIT戦略「ITグランドプラン2030」においてAI設計イノベーションを掲げ、プロットプラン設計を自動化するAuto Plot PATHFINDER®を開発しました。Auto Plot PATHFINDER®による設計は、形式知化・コード化されたシニア技術とAIによるユニット分割をもとにしたユニット単位・機器単位の自動配置、位置確定などのエンジニアによる指示取込み、最適配置のステップで行われます。Auto Plot PATHFINDER®により、多数のプロットプラン案を超短時間で作成することが可能になり、人間が思いつかないものを含む多くの提案が瞬時にできることから、新しい提案型設計 (Generative Design)へ変革し、基本設計の段階から顧客の検討に貢献できると考えております。2023年度はFS(フィージビリティスタディ)やFEED(基本設計)業務でプロットプランの提案に適用しました。今後は、さらに適用プロジェクトを増やし、顧客により良い価値を提供してまいります。
(2) Data Centric EPC遂行、AWP
Data Centric EPC遂行は、従来の人の手を介した図書ベースの情報交換に代え、ICT技術を最大活用したデータ中心の効率の良い情報交換とタイムリーな意思決定を図ることを目指した新たなEPCプロジェクト遂行手法であり、EPCプロジェクト遂行におけるリスクを低減し品質・コスト・納期それぞれの要素を向上させることが期待されております。当社グループにおけるData Centric EPC開発においては、設計・調達・建設の作業対象となるタグを一元管理し、そのタグのデータをデータソースとなるシステムから集約し、またそのデータを活用するシステムへ連携する仕組みを構築しております。AWPは、Data Centric EPC遂行の仕組みを活用した一例であり、対象作業の開始を制限する可能性がある先行作業の特定とモニタリングが可能となります。現在進行中の複数プロジェクトにおいて、建設工事に実装したほか、設計・調達業務との連携と効果波及を目指してAWP管理の拡大を進めております。また、当社グループでは、Data Centric EPC遂行とAWPの統合を主軸に置き、EPC全体におけるデジタルトランスフォーメーション (Digital Project Delivery) へも取り組んでおります。
(3) 3D プリンタ導入
3Dプリンタは、省力化施工による生産性向上やリードタイム低減による工期短縮など、建設産業においても大きな革新をもたらすポテンシャルを持つ技術として注目を集めており、当社グループのIT戦略「ITグランドプラン2030」においても「3Dプリンタ導入や建設自動化による建設工法最適化」を掲げ取組みを進めております。具体的には、セメント系材料を扱うデンマークのCOBOD International A/S社の3Dプリンタを導入し、国内EPCプロジェクトでの基礎型枠としての適用などを経て、海外EPCプロジェクトにおいても適用を進めております。また、金属系材料を扱うオランダのMX3D社との共同研究を通して、炭素鋼を用い形状最適化を取り入れて、配管部材の重量削減や強度向上への本技術の寄与を確認いたしました。当社グループの競争力強化へと繋げるべく、検証活動及びEPCプロジェクトへの導入を継続してまいります。
2. 顧客によるオペレーション&メンテナンス(O&M)業務の面からの要求に応えるもの
(1) アセットインフォメーションマネジメント(IM)
アセットインフォメーションは、顧客が安定したプラント操業を維持するために重要な情報です。近年は本分野の顧客要求の高まりもあり、複数のEPCプロジェクトでアセットインフォメーションマネジメントを実現するシステムの実装が進み、当社グループにおける技術の蓄積が進んでおります。EPCの各フェーズの中で、プラントを構成する膨大な量の各種のアセットのインフォメーションが生成されます。これらを一貫性をもって管理・統合するため、当社グループではデジタルツイン技術への取組みを進めております。社内標準化を進めることでインフォメーションの精度を飛躍的に向上させるとともに、データハンドオーバーの国際業界標準規格である「CFIHOS」に準拠したインフォメーションマネジメント遂行を実現しております。これにより遂行したプラントの完成・引渡し後においては、顧客がスムーズに運転・保全に移行でき、アセットやプラントのオペレーション&メンテナンス(O&M)コストの低減という付加価値を提供し、顧客の事業価値向上に貢献しております。
(2) スマート保全ビジネス
プラントの高経年化や人材確保が難しくなる中で、正常運転のために一層重要性が増している保全業務に対して、当社グループは、プラントの設備診断業務を強力に支援する設備管理システム(A-MIS®)の販売・運用を行ってきました。また、このシステムも包含するIoTやビッグデータを活用した統合型スマート保全サービス(INTEGNANCE®)の事業化を進めております。
INTEGNANCE®では、検査結果や運転情報などをもとに検査ポイントの推奨を行うAI予兆保全と定期修理計画の立案を保全戦略支援サービスとして提供するほか、モバイル端末タブレットやスマートフォンを活用した作業状況の電子化とタイムリーな情報共有による工事進捗管理を行っております。
また、当社グループでは、3Dビューア「INTEGNANCE® VR」を開発し、デジタルツインの構築・運用を行うため、事業会社である「ブラウンリバース株式会社」を設立し、2022年9月より有償提供を開始しました。本ビューアでは、既存プラント全体を撮影した360°パノラマ写真上にアノテーション(関連データをタグ登録)することで、各機器や部材の関係を可視化する、いわば“プラントのストリートビュー※”を実現、プラント内のあらゆる情報に視覚的に迅速にアクセスすることで実務者の運用・保守業務の大幅な効率化を可能にし、多くのプラント保全の現場で活用頂いております。
さらに、当社グループは、英国の原子力業界をはじめ、高度かつ確実な安全管理が求められる分野で幅広く利用されている事故想定シナリオ管理手法「フォルトスケジュール」をベースに開発したスマート保安の最適化を支援するリスクマネジメントソフトウェア(CoreSafety®)を提供しております。
※ストリートビューは、Google LLCの登録商標です。
天然ガス分野
昨今、温室効果ガスの1つである二酸化炭素(CO2)の排出量削減が求められておりますが、当社グループでは、CO2の排出抑制、分離回収、有効利用・貯留、資源再生というカーボンマネジメント・サイクルの各要素で技術・知見を継続して積み上げております。
CO2-EOR(原油増進回収)においては、原油とともに随伴されるCO2を有効に活用するために、当社グループは、特殊なゼオライト膜で効率的にCO2を分離回収することを可能とする技術を開発し、米国テキサス州での実証試験を継続して実施中です。本技術とともにカーボンマネジメント・サイクルの知見と合わせて、産油ガス国、企業向けにCO2に関する課題解決に向けたトータルソリューションを提供していく方針です。
さらに、「マレーシア・サラワク州CCS事業」に取り組み、日本から排出されるCO2を回収、輸送し、大規模貯留適地でのCCSを実現、日本の脱炭素の推進に寄与するとともに、マレーシアLNGプラントから排出されるCO2も貯留することにより、LNGの低炭素化実現も目指していきます。本プロジェクトが実現すれば、アジア地域における国境を越えたCCS事業のモデルになるものと期待しております。
また、温室効果ガスの中でもメタンの排出量は、既往の計算では精度高く求めることが困難とされており、欧州や米国などではセンサーによる実測が求められつつありますが、実際に計測をしている企業は多くありません。精度の高いメタン排出量の計測がなされていないために、排出源が特定されておらず、正しいメタン削減ソリューションに繋げられていない現状があります。当社は石油・天然ガス設備からのメタン排出を想定した「メタン排出計測技術評価設備」を技術研究所に建設し、国内外の計測器メーカーなどと幅広い協働を通じて計測技術を向上させることにより、一層効果的なメタン排出対策を実現していきます。今後、メタン排出量削減が温室効果ガス削減に向けて重要であることを引き続きアピールし、優れた温室効果ガス測定技術とエンジニアリング技術を駆使し、温室効果ガス排出の少ない設備の実現を目指していきます。
さらに、既設LNGプラント関連のAI・IoTビジネスとして、運転ビッグデータ解析及び気象解析を通じて得られた知見を基に操業改善によるLNG増産サービスを海外顧客向けに展開しております。例えば、空冷式LNGプラントの場合、生産量減退の要因となるHot Air Recirculationに対しFoggingを適用しLNG増産に繋げた試みのほか、アジアの国営石油会社向けにHot Air Recirculationの予測モデルを開発し、本モデルを操業と連携させ増産するシステムを構築、運用中です。増産量を正確に把握するため、機械学習やシミュレータを利用したデジタルツインの開発も行っております。加えて、デジタルツインを活用したLNGプラントのスタートアップを含む全自動運転の制御システム構築にも取り組んでおります。
オフショア分野
世界には未開発の中小規模海洋ガス田や、発生する随伴ガスを再圧入・フレアリングしている既存石油生産設備が多数存在し、それらのガス資源の効率的な開発手段が期待されております。その最有力候補は、当社グループが世界有数の建造実績を持つ洋上LNGプラント(以下、「FLNG」という。)です。
FLNGは、現地ガス消費市場規模に限界のある、またセキュリティ・環境問題を抱えるような地域での陸上パイプラインガス、並びに操業中の洋上石油生産設備で大量に生産される随伴ガスなどの現金化ソリューションでもあります。また、当連結会計年度では、海洋石油・ガス開発分野において、低炭素化・脱炭素化に代表されるSDGs達成に向けたソリューションへのニーズのさらなる高まりを受け、当社グループは、社会と顧客の課題に応えるべく、昨年から浮体式海洋石油生産・貯蔵・出荷設備上で効率的に高濃度CO2を分離し、海底への再注入を目指す、CO2を分離回収するゼオライト膜の適用技術開発を継続して取り組んでおります。
低炭素・脱炭素化分野
温室効果ガス排出量削減に向けた取組みとして、当社ではCO2フリー燃料の導入促進やカーボンリサイクル及びEMS(エネルギーマネジメントシステム)の観点で研究開発を行っております。
CO2フリー燃料としてCO2フリーアンモニアが国内で着目されており、2020年代半ばの日本でのCO2フリーアンモニアの商業実装に向けた検討が進められております。当社グループは、2014~2018年度に実施した内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のエネルギーキャリアプロジェクトの成果を活用し、再生可能エネルギーや化石資源からのCO2フリーアンモニアの製造・供給の社会実装を目指して、様々な案件のフィージビリティスタディに参画するとともに、CO2フリーアンモニアのより効率的な製造方法やコストダウンに向けた研究開発を行っております。特に、変動する再生可能エネルギー由来のCO2フリーアンモニア製造について、従来にはないダイナミックな変動型アンモニア合成を目指したシステムを開発しております。
再生可能エネルギー由来の水素を利用したグリーンケミカルの普及に際しては、天候・時刻・季節によって変動する再生可能エネルギーを利用し、いかにして安定的・効率的にケミカルを製造するかが課題になります。その課題解決のためには、統合制御システムの開発が必須となります。
当社グループは、福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で製造される水素利用を想定したアンモニア製造プラントの基本設計や、統合制御システムの要件定義を行ってきました。この統合制御システムを組み込んだ再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア製造技術の実証プラントを福島県浪江町に建設しており、技術実証に向けて大きく進展しました。当社グループは、本実証プロジェクトを通じて、再生可能エネルギー由来の水素を原料とするグリーンアンモニア製造技術の確立を引き続き目指していきます。
また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」という。)の支援を受けて輸入したアンモニアを熱分解し、水素を製造する技術の開発を行っております。現在、アンモニアを分解して水素を製造する技術は、要素技術の多くが商業レベルに達する一方で、実際は小型の装置でしか商業利用されておらず、大規模には行われていません。中でもアンモニア分解管と、アンモニア分解ガスから窒素ガスとアンモニアを分離精製する一段ガス製造装置(PSA方式)については、さらなる要素試験による検証・開発が必要であり、本開発による進展が期待されております。今後、国内外で水素の利用拡大が見込まれる2030年の社会実装を視野に入れ、カーボンニュートラル社会に欠かせない大規模な水素製造の技術開発を行ってまいります。
資源循環分野
当社グループでは、中期経営計画「BSP2025」において、ケミカルリサイクルを注力分野の1つと位置づけており、ガス化(EUPガス化ケミカルリサイクル)、油化、モノマー化(廃繊維リサイクル)を含め、幅広いプロセス技術を通じてケミカルリサイクルを推進し、循環型社会の構築に貢献していくことを目指しております。
廃プラスチックのケミカルリサイクルは、リサイクルが困難な異種素材や不純物を含むプラスチックを分解し、様々な化学物質に再生することが可能であり、リサイクル率の大幅な向上をもたらす技術として期待されております。
当社グループは、荏原環境プラント株式会社とUBE株式会社からEUP(Ebara Ube Process)に関する技術供与、また株式会社レゾナック・ホールディングスから量産化技術の供与と運転支援を受け、廃プラスチックのリサイクル推進に向けて、①廃プラスチックのガス化設備並びにガス化設備から製造される合成ガスを用いた化学品製造設備の提案、②廃プラスチックを原料とする水素製造装置の提案、及び③廃プラスチックリサイクルを実現するためのバリューチェーン構築を行っております。このEUPは、2003年より稼働を続けているガス化設備で、世界で唯一の長期商業運転実績を有する極めて信頼性が高いプロセスです。さらにEUPでは混合プラスチックや不純物を含むプラスチックの活用が可能となります。2022年度から岩谷産業株式会社、豊田通商株式会社と共同で、NEDOの委託事業にて、都市部における廃プラスチックガス化リサイクルによる地域低炭素水素モデル構築に向けた調査を実施し、その調査結果として、3社は、廃プラスチックガス化設備を活用した低炭素水素製造に関して、愛知県名古屋港近郊での協業を検討する基本合意書を締結いたしました。また、廃プラスチックガス化設備を活用した低炭素水素製造事業の実現に向け、14の市町村など会員自治体と、12の政府・自治体・団体・大学のオブザーバーとともに、廃プラスチックのケミカルリサイクルによる水素製造検討会を発足いたしました。2020年代での水素製造開始を目標として取組みを継続しており、廃プラスチックの活用及び地産地消水素の製造により水素社会の実現にも貢献してまいります。
プラスチックのケミカルリサイクル技術の1つに油化技術があり、当社グループは、10年間の運転実績を有する国内大型商用装置をベースに、廃プラスチックの油化ケミカルリサイクルに関する自社ライセンス(Pyro-Blue®)の開発・提供を推進しております。当社グループの油化技術は、他の油化プロセスでは事前除去する必要があるPVC(塩化ビニル)やPET(ポリエステル)を含む混入プラスチックの処理が可能です。顧客が処理したい廃プラスチックを試験的に処理し、サンプル油を製造できるベンチ装置も完成し、実際にサンプルを希望している顧客向けに提供を始めました。今後、処理できるプラスチックの種類拡大、装置の大型化による経済性向上、効率化等を進め、プラスチックの資源循環社会の実現に貢献していきます。
繊維産業においては、製造工程における大量のCO2排出や衣類の大量廃棄が課題となっております。使用済繊維製品の利用は、現状、熱利用を目的とする「サーマルリカバリー」や別の製品原料とする「マテリアルリサイクル」が一般的ですが、「ケミカルリサイクル」は繊維製品を再び繊維の原料へ化学分解することにより、繊維 to 繊維のリサイクルができる画期的な方法です。
PET(ポリエステル)は、繊維製品だけではなく、ボトルをはじめ、フィルムや食品トレーなど多くの製品に使用されております。当社グループが提供するケミカルリサイクル技術は、着色されたポリエステルから染料や不純物を除去できるため、添加物、付着物等の影響によりメカニカルリサイクルできないポリエステル製品の受け皿としても機能し、製品を限定せず素材としてのポリエステル全体の資源循環を目指すことが可能な技術です。当社グループは、本技術のライセンスを提供する目的において「株式会社RePEaT(リピート)」を設立し、既に中国の浙江建信佳人新材料有限公司とライセンス契約を締結いたしました。
2050年のカーボンニュートラルに向けて、航空分野における脱炭素化として、「空のカーボンニュートラル」の機運が高まっております。中・大型機に対しては、機体の軽量化、効率化もほぼ限界と言われております。そして、空のカーボンニュートラル達成のためには、実質的にはSAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)が切り札とも言われており、その利用拡大は急務となっております。当社グループは、使用済食用油を原料としたSAF製造体制の確立とバリューチェーンを構築していくことを目指しております。具体的には、国内初の国産SAF大規模生産に向けて「合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY」を設立し、2025年に年間3万キロリットルのSAFの国内供給を目指しております。個人や自治体、企業がSAFの原料となる使用済食用油の提供を通じて、国内における資源循環の促進に直接参加ができる場として「Fry to Fly Project」を開始し、既に多くの企業、自治体、学校などの方々に参加していただいております。今後とも、国内において脱炭素化に向けた資源循環の促進に積極的に参加できる機会の創出、これらの活動を通じて、市民・自治体、企業の行動変容に繋げていくことを目指しております。
バイオ分野
CO2削減やサステナビリティなどの観点から、バイオマスを原料とする化学品や燃料の社会的需要が高まっております。当社グループでは、CO2の削減効果が高く、かつ食料と競合しない非可食バイオマス原料を効率的にバイオエタノールやバイオプラスチック等の原料に転換するための技術開発を進めております。
今後も自動車・交通需要の増加に伴い、タイヤ需要の増加が見込まれております。将来、資源の枯渇やCO2排出量の増加による気候変動などの問題に直面する可能性が指摘されている中、今後もより持続可能な形でタイヤを提供し続ける必要があります。当社グループは、バイオマス由来の原料(エタノール)を使用してタイヤの原料となるブタジエンを製造するプロセス開発に取組み中です。競合技術より「タイヤ原料のブタジエン選択率が高い」独自の触媒を保有しており、今後、関係する企業と生産プロセスを確立し、持続可能な社会実現への貢献を目指します。
日本は、国土の約7割を森林が占めております。その森林の未利用バイオマスを化石燃料の代替原料として活用する「グリーンリファイナリー」の機運が高まっております。森林の未利用バイオマスは、化石燃料と同じ炭素と水素を持っているため、森林の未利用バイオマスを化石燃料の代替として利用できれば、製品の炭素を固定することになり、再生可能な取組みとなります。「バイオリファイナリー」実現のために、具体的なプロセス選定(急速熱分解)のみならず、川上(森林)から川下(製造)までのプレーヤーインテグレーション&バリューチェーン構築が進みつつあります。当社グループは、今まで培ってきたプロセスエンジニアリング力を活かして、「森林×化学」で化石燃料に頼らない暮らし、つまり、脱化石燃料社会の実現を引き続き目指していきます。
バイオものづくり分野における取組では、昨年度採択されたグリーンイノベーション基金事業「バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進/CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」について共同提案者の株式会社カネカ、株式会社バッカス・バイオイノベーション、株式会社島津製作所とともに社会実装に向けた開発を推進しております。また、神戸市ポートアイランド地区にCO2からのバイオものづくりのための研究開発基盤を整備するため、用地を購入し、研究棟建設の準備を進めております。
ライフサイエンス・ヘルスケア分野
医薬品業界では、これまでの低分子合成医薬品に加え中分子合成医薬品、バイオ医薬品を主体とする高分子医薬品、再生医療等製品の開発が増加傾向であり、これらの複合製剤など従来にない複雑な医薬品や活性の強い医薬品など、付加価値の高い医薬品が開発されております。当社グループは、高薬理活性物質の製造に適応するために確立した高度な封じ込め技術とそれを正しく評価する測定手法について医薬品業界内への浸透を進めております。合成医薬品製造については、近年注目度が高まっている連続生産について、知財戦略に基づき製造技術を開発し実機への導入を進め、中分子医薬品に関しては独自製造設備をコアに新規案件に展開しております。バイオ医薬品製造に関しては、マイクロバブル発生技術に高性能撹拌技術を付加したバイオリアクター、大量培養に向けたスケールアップ技術など、培養を強化する技術の他、合成医薬品製造と同様に連続生産に向けた技術などの開発を進め、自社開発した製造DXシステムの浸透を進めております。再生医療等製品に関しては、再生医療関連施設の多くの建設実績を踏まえ、効率的な細胞・組織培養環境基準の構築、及び関連要素技術の高度化を進めております。固形製剤、無菌製剤製造工場ではロボット活用による無人(塵)化の実現、スマート工場化の開発を進めております。このような研究開発活動の成果として、当社グループが建設するプラント・施設への導入事例も増えており、当社グループの技術差別化に繋がっております。
医療分野においては、医療法人社団鵬友会と協働で地域住民向けデジタルヘルスケアの新サービスを提供します。ゆめが丘総合病院と健診プラザを地域医療の中核として、ICTによって健康診断のデータを活用することで体調を「見える化」し、医療と「つながり」を持ち、健康を「守る」、新しい健康Webサービスに取り組みます。2024年4月のゆめが丘総合病院の開院に合わせ、健診プラザでの健康診断受診者を対象に「クラウド健診データ管理システム」を利用した日々の健康管理と健康相談のサービスを開始し、将来的には、ゆめが丘地区及び周辺地域住民の健康を管理できる仕組みを構築し、「健康になれるまちづくり」、その先にある「ヘルスケアシティ」の実現を目指します。
また、カンボジア王国で当社が出資するSunrise Japan Hospitalにおいては、高度な医療サービスを提供することを通じてカンボジア王国での医療水準の向上に貢献しております。加えて、病院経営に参画することで得た医療、経営、運営の知見と、医療施設の設計との融合を図り、高い機能性とホスピタリティを持つ病院づくりを進めております。
原子力分野
当社グループは、原子力発電所及び再処理工場の廃止措置に係わるプロジェクトマネジメントのサービス提供と廃棄物処理関連技術の開発を進めております。このうち、原子力発電所の廃止措置について、発電所内に貯蔵されている放射線量の高い使用済イオン交換樹脂を安全、かつ安定的に貯蔵するための分解技術の実用化に目処が得られつつあります。また、分解されたイオン交換樹脂を含む、多種・多様な放射性廃棄物への適用を目指し、閉じ込め性能の高い固型化技術の開発を進めております。さらに、再処理工場を含む様々な原子力施設の廃止措置を対象に、長期間にわたる廃止措置プロジェクトを安全かつ効率的に実施するためのマネジメント支援システムを開発中です。
国内外で注目されている小型モジュール炉(以下、「SMR」という。)をはじめとする次世代原子炉技術については、水素や再生可能エネルギーと並んで脱炭素社会の実現への貢献が期待され多くの炉型が提案されておりますが、なかでも米国NuScale Power, LLC(以下、「ニュースケール社」という。)が開発を進めるSMRが米国で初となる設計認証を取得しており、商業化に最も近いSMR技術であると言われております。この様な状況を踏まえ、当社グループは2021年3月に米国の特別目的会社を通じてニュースケール社に出資いたしました。また、2022年4月には株式会社国際協力銀行(JBIC)が、2023年9月には中部電力がそれぞれニュースケール社に出資しております。米国初のニュースケール社SMR実証プラントとして計画されていたプロジェクトは建設に至ることなく終了しましたが、新たな建設プロジェクトに向けた検討が進められており、当社グループも新規案件に向けてEPC準備業務を実施中です。
当社グループは、SMRの将来的な市場拡大に伴って、中長期的には海外市場を中心にSMRのEPCプロジェクトを受注・遂行していくことを視野に入れ活動していくほか、SMRと再生可能エネルギー設備、水素製造設備とのインテグレーションも検討していく予定です。
洋上風力発電分野
国内の洋上風力発電は、現在進行中の港湾区域に続いて一般海域の促進区域におけるプロジェクトの動きがより活発になってきております。洋上風力発電事業の公募について、ラウンド1及びラウンド2の事業者グループが決まり、ラウンド3の公募入札も進行中です。加えて、国内の洋上風力発電は2030年までの継続的な開発と運転開始が現実的になってきており、当社グループは洋上風力分野の主力EPCコントラクターを目指し、事業性検討や基本設計など早い段階から計画に関与し、昨年公表した電力ケーブルの最適設計技術を活用するなど、プロジェクトの受注を目指しております。
今後特に成長が期待されている浮体式洋上風力分野に関しても、NEDOのグリーンイノベーション基金における浮体式洋上風力実証の公募結果が本年夏までには発表され、対象海域と事業者が決まる見込みとなっております。当社もこれまで取り組んできた撤去実証事業やフィージビリティスタディ、浮体の要素技術の検討などに加えて、継続的に技術力・競争力の強化を図りながら、プロジェクト全体の最適化とマネジメント力を武器に受注拡大を目指して取り組んでまいります。
なお、当事業での研究開発費は3,944百万円です。
② 機能材製造事業
石油精製分野石油精製企業は、従来の安定的な化石燃料供給に加え、カーボンニュートラルに向けたエネルギーシフトに対応する製油所の事業変革が求められております。石油精製分野はこれら顧客のニーズ変化に対応する触媒及び触媒素材開発に取り組んでおります。FCC触媒に関しては、各製油所ニーズを取り込んだ改良型触媒での国内外製油所への展開を図るとともに、高液収と高オクタン価が両立する新規マトリックス素材を使用したFCC触媒を開発しており、顧客評価が行われております。水素化処理触媒に関しては、高活性、長寿命触媒を開発し、国内製油所に採用が決まりました。また、海外の石油会社と共同開発した水素化分解触媒は、既に採用されている製油所での継続採用に加え、他製油所への展開に取り組みました。
当社グループの触媒調製技術を活用して開発されたゼオライトや非晶質シリカアルミナなどの触媒素材は、水素化分解触媒素材として既に触媒メーカーにも採用されておりますが、石油精製分野だけでなくケミカル分野にも素材販売拡大に向けて、固体酸や細孔径制御に訴求性を有する素材の開発を行い、製品種の拡大や新規用途開拓に取り組みました。
石油化学分野
国内ケミカルメーカーは汎用石化市場の低迷により、事業再編と高付加価値ケミカル製品への転換を図っております。また、カーボンニュートラル、循環型社会実現に向けたCO2・ケミカルリサイクルやバイオマス由来原料、生分解性プラスチックへの原料転換の検討が加速しております。
当社グループでは、高付加価値ケミカル製品に用いられる高活性、高選択性水添触媒を数種類開発し、顧客からの良好な評価を得ました。現在、量産化検討を行っており、実証化段階に進む見込みです。また、CO2・ケミカルリサイクルに用いられる触媒や吸着剤は数多くの引き合いがありますが、ケミカルリサイクルの前処理に用いられる塩素、硫黄などの各種吸着剤は現ケミカルプロセスでも使用されており、実証化テストを兼ねたプロモーション展開を図っております。また、新たなニーズに対応する触媒や吸着剤の拡充を図っていきます。
環境保全分野・クリーンエネルギー分野
環境保全・クリーンエネルギー分野では、カーボンニュートラルへの取組みとして、バイオマス専焼用の新規脱硝触媒を顧客実機プラントで検証を進め、早期の実商化及び拡販を目指しております。また、当社グループの特殊ゼオライトを活用した、CO2吸着剤の開発を、新たな評価設備を導入することで加速させております。さらに、クリーンエネルギーとして期待されているアンモニアを燃料として混焼させた時に排出される窒素酸化物(NO/N2Oなど)を、効率的に除去するための新規触媒の開発にも着手いたしました。
生活関連・化粧品分野
薄肉化(高屈折率化)が進むプラスチック眼鏡レンズ用ハードコート向け材料として、既存の高屈折率チタニアナノ粒子に加え、レンズの耐候性をさらに高めたチタニアナノ粒子の顧客評価が進んでおります。またブルーライトカット機能を有する高屈折率粒子の検討も進めており、多様な機能を持つチタニアナノ粒子により市場拡大に取り組んでおります。
地球環境汚染問題から脱マイクロプラスチックビーズが進む化粧品市場において、プラスチックビーズの感触に近いシリカマイクロビースを開発し代替展開を図っております。また、ボタニカルマイクロビーズ開発も着手しており、第一弾として米澱粉(でんぷん)を原料とする化粧品材を、2023年5月の展示会で発表、商品化に向けた顧客評価が行われております。さらに、もみ殻由来の化粧品材開発も進んでおり、環境と人にやさしい化粧品材料開発に取り組んでおります。
電子材料分野
世界的な半導体、ハードディスク市場の需要減少により市場は低迷しておりますが、記憶容量や処理速度がアップした製品での半導体市場やテレビ以外では需要が拡大すると見込まれております。またディスプレイ市場も同様に低迷しておりますが、テレビ市場の回復に加え車載ディスプレイやデジタルサイネージュへの拡大が見込まれております。
現在、シリカゾル砥粒はハードディスクやシリコンウェハー分野を中心に展開を図っておりますが、今後の販売拡大に向け、シリカゾル新プラントの建設を進めております。また、新たに、半導体CMP向け研磨材参入を目指し、研磨速度と表面粗さの両立を狙った研磨砥粒の顧客による採用評価が進んでおります。さらに、高速通信用低誘電率シリカバルーン封止材が顧客中量テスト段階に進捗し、2026年の量産化検討も並行して進めております。
高品位テレビ用機能性光学材料は、有機ELテレビ、QLEDテレビなどに展開しておりますが、デジタルサイネージュ、車載ディスプレイ、光学デバイスなど多用途展開に向けた更なる機能向上に向けた開発を進めております。
ファインセラミックス分野
ハイブリッド車、電気自動車、太陽光発電、LEDなどの高出力化や省エネルギーを達成するために、パワー半導体の高性能化が進んでおりますが、同時に絶縁放熱基板への要求が厳しくなってきております。その要求に応えるため、当社グループでは、ファインセラミックス分野における開発加速のためのオープンイノベーション及びアライアンスを強化し、推進しております。新規市場への参入を見据えた知財戦略に関しては、日本ファインセラミックス株式会社が当社ガバナンス統括オフィス知的資産ユニットと連携して立案し、実施しております。
当社グループでは、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同開発した独自の製造方法により世界最高レベルの放熱性・信頼性を持つ「高熱伝導窒化ケイ素基板」の開発及び事業化を推進してきました。既に新量産工場を立ち上げ、製品の品質及び生産性向上を実現しながら、更なる高性能品開発にも取り組んでおります。
通信分野においては、自動運転やIoTの普及に欠かせない5Gが本格導入され、今後、更なるデータ量の増大に向けたBeyond5Gなどの無線通信や光通信回線の大容量化・高速化が必須になります。当社グループは、最先端の無線通信技術、光通信技術に対応できる薄膜回路基板、単板コンデンサなどの性能・信頼性向上などの開発・製造・販売を行っております。
今後成長が期待される再生医療分野においては、最先端の骨再生材料について国立大学法人東北大学などとの共同研究を継続しております。その他、当社グループ独自のセラミックス材料技術と高精度加工技術により、補助人工心臓用部品や「はやぶさ2」などの宇宙衛星用部品、次世代Liイオン2次電池や燃料電池用部材など、先端分野で使用される製品の開発や新材料の開発に大学や各研究機関などと連携して取り組んでおります。
なお、当事業での研究開発費は2,970百万円です。
また、総合エンジニアリング事業及び機能材製造事業に加え、その他の事業において27百万円の研究開発費を計上しております。
このコンテンツは、EDINET閲覧(提出)サイトに掲載された有価証券報告書(文書番号: [E01575] S100TVFX)をもとにシーフル株式会社によって作成された抜粋レポート(以下、本レポート)です。有価証券報告書から該当の情報を取得し、小さい画面の端末でも見られるようソフトウェアで機械的に情報の見栄えを調整しています。ソフトウェアに不具合等がないことを保証しておらず、一部図や表が崩れたり、文字が欠落して表示される場合があります。また、本レポートは、会計の学習に役立つ情報を提供することを目的とするもので、投資活動等を勧誘又は誘引するものではなく、投資等に関するいかなる助言も提供しません。本レポートを投資等の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。本レポートを利用して生じたいかなる損害に関しても、弊社は一切の責任を負いません。
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