有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100QU70 (EDINETへの外部リンク)
J.フロント リテイリング株式会社 事業等のリスク (2023年2月期)
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2023年5月26日)において当社グループが判断したものであります。
(1)リスクマネジメントの考え方と体制
・リスクマネジメント
当社グループは、リスクを「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しています。そして、リスクマネジメントを「リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理することにより企業価値を高める活動」と位置づけ、リスクのプラス面・マイナス面に適切に対応することにより、企業の持続的な成長につなげています。
・リスクマネジメント体制
当社は、代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、執行役などをメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置しており、リスクの抽出及び評価、戦略に反映させるリスクの決定など重要事項を審議し、リスクマネジメントを経営の意思決定に活用しています。なお、同委員会での審議内容については、適時に取締役会に報告します。
同委員会には、リスク管理担当役員を長とする事務局を置き、委員会で決定した重要な決定事項を事業子会社に共有し、ERM(全社的リスクマネジメント)を推進しています。また、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることにより、リスクマネジメントを企業価値向上につなげるよう努めています。
なお、効果的なリスクマネジメントを行うため、次のとおり3ラインを構築しています。
・第1ライン(事業子会社などの業務執行部門):自らリスクの特定及び必要な対策を行う。
・第2ライン(持株会社の各部門):業務執行部門から独立した立場でリスクマネジメントの支
援・指導・モニタリングを行う。
・第3ライン(内部監査部門):業務執行部門及び持株会社の各部門などから独立した立場でリ
スク管理機能及び内部統制システムの有効性について監査を行う。
リスクマネジメント体制図
(2)リスクマネジメントプロセス
当社グループでは、下記のプロセスにより、リスクマネジメントを推進しています。具体的には、外部・内部環境分析や、取締役、経営層および実務責任者の認識をもとに当社グループにとって重要度の高いリスクの抜け漏れが生じないように努めています。
中期的に当社のグループ経営において極めて重要度が高いものは、「企業リスク」と位置づけ「グループ中期経営計画」の起点としています。
また、「企業リスク」を受けて識別した年度リスクを「JFRグループリスク一覧」にまとめ、「リスクマップ」を用いて評価を行い、優先度をつけて対応策を実行しています。「企業リスク」「JFRグループリスク一覧」は、半年に一度の頻度で、リスクを取り巻く環境変化と対応策の進捗についてモニタリングを行い、リスクマネジメント委員会で論議後、その内容を取締役会に報告しています。
下図は当社グループが、中長期にわたりJFRグループの成長・存続を左右する最重要のリスクと位置づけている「企業リスク」です。
その中でも「1.サステナビリティ経営の高度化」「2.既存の事業モデルの衰退」「3.加速度を増すデジタル化への対応」「4.ポストコロナにおける消費行動の変化」は、当社のグループ経営に及ぼす影響が極めて大きいため、中期経営計画において最優先で対応すべきリスクと位置づけています。
影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク
上記リスク以外の「企業リスク」
(3)直近の環境変化とリスク認識
当社グループの経営にとって未曾有の打撃をもたらしてきた新型コロナウイルス感染症の影響は、政府がコロナ対策と経済正常化の両立に舵を切ったことに伴い、徐々に小さくなっています。2023年度に入り、感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられ、外国人渡航者に対する水際対策も撤廃されるなど、コロナ禍による経済社会活動への制約は段階的に解消され、景気が感染状況に左右されないアフターコロナ期に着実に移行しています。
その一方で、国際社会は世界的な物価高に直面しており、米欧を中心に政策金利の引き上げが行われてきました。その効果もあり、物価上昇は鈍化しましたが、他方で複数の金融機関が経営危機に陥るなど、金利引き上げの悪影響も顕在化しつつあります。また、ウクライナ情勢や米中対立の激化など地政学リスクも高まっており、当面不安定かつ不透明な情勢が継続していくと認識しております。
一方、我が国に目を転じますと、景気の本格回復に向け金融緩和を継続しており、これが一因となり昨年度は急激な円安が進展しました。この円安は物価高に拍車をかけ、消費者心理を確実に冷やしました。足許、円安自体は終息する方向にありますが、物価は引続き高止まっており、この傾向が続く場合には、個人消費が想定通りに回復しない可能性があります。
さらに、諸外国が景気後退に陥り、株価をはじめとする資産価格が暴落する場合には、我が国もその影響を受け、より一層の消費停滞につながっていくなど、当社グループの業績にも大きな影響を与える可能性があります。
このように、本年度も先行き不透明、かつ極めて厳しい経営環境の中で事業活動を強いられる ことになります。
この3年間にわたる新型コロナウイルス感染症の影響は、消費者の価値観や消費行動、小売業に求めるものなどの変化を加速させてきました。人々の価値観、生活スタイルや消費行動、さらには都市のあり方も大きく変わってきており、当社グループも新しい事業モデルへの進化が不可避な状況です。
その対応策として、中期経営計画(2021‐2023年度)に基づき、コロナ危機からの「完全復活」と2024年度以降の「再成長」に向けた重点戦略(リアル×デジタル戦略、プライムライフ戦略、デベロッパー戦略)と経営構造改革の推進、中長期の成長を支える経営基盤強化を進めてきました。さらに「早期の収益力回復」に向けた重点戦略と、経営構造改革を加速させるとともに、事業ポートフォリオの変革に向け、グループ将来像を定め、既存事業のビジネスモデル変革、非商業分野での事業成長や新規事業の創出など「再成長への道筋」の明確化、中長期の成長実現に向けた経営基盤の強化に取り組んでまいります。
また、コロナ禍によって、持続可能な社会への意識が高まっており、多くの企業も改めて自社の存在意義を再定義しようとしています。幸いにも、当社グループは、300年、400年前から続いている、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という、サステナビリティ経営につながる社是を有しており、今後も持続的な成長に向けて着実に歩みを進めてまいります。
上記の環境変化を踏まえて更新した「企業リスク」は、有価証券報告書提出日現在において、皆様の投資等の判断に影響を与える可能性があるリスクと認識しており、当社グループのリスク定義(企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある)に則し、リスク認識および対応策を次頁以降に記載いたします。
(*)中期経営計画期間内のリスク変化を、当社グループへの影響度や対応策等を考慮して見通したもの。
■戦略リスク
■戦略リスク
■ハザードリスク
■ファイナンスリスク
JFRグループ「企業リスク」一覧
(*)中期経営計画期間内のリスク変化を、当社グループへの影響度や対応策等を考慮して見通したもの。
(4)TCFD提言に沿った情報開示
①JFRグループが目指すサステナビリティ経営
当社グループは300年、400年という歴史の中で数々の危機に遭遇してきました。そうした状況に直面するたびに、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という社是に立ち返り、お客様や社会の変化を機敏に捉えながら事業活動を愚直に実践してきたことが、今日の経営につながっています。社会との共存なくして企業の発展はありません。いま経営には、一層の長期視点により、社会に存在意義を放つ将来のあるべき企業像を描くことが不可欠となっています。環境や社会、人権などの課題から目を背けて企業活動を行うことができないのは明らかです。そのような課題の解決に向けたサステナビリティの概念を企業戦略や事業戦略に組み込むことにより、将来の成長に向けた持続可能な経営の枠組みを獲得できるものと考えています。
このような考えのもと、当社は、2021年度からスタートした中期経営計画において、社是を基軸にサステナビリティを経営の中核に据え、事業活動を通じた社会課題の解決に取り組むことを明確にしました。特定した7つのマテリアリティそれぞれについて、リスクと機会の両面を捉え、ビジネスチャンスを創出することで、社会価値と経済価値を両立するCSV(共通価値の創造)を実践するとともに、お客様、従業員、お取引先様などすべてのステークホルダーの「Well-Being Life」を実現していきます。(図1・表1)
図1 サステナビリティ経営の全体像
表1 JFRグループが取り組む7つのマテリアリティ
②「JFRグループ 2050年ネットゼロ」実現に向けた対応策
昨今、気候変動が極めて深刻なレベルまで進行し、将来世代はもちろんのこと、現世代の私たちを含め人類がその危機に晒されています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2018年、「1.5℃特別報告書」において、
「1.5℃目標の達成には2050年までのネットゼロ※1 が必要である」との科学的指標を示し、また、SBT(Science Based Targets)イニシアチブ※2 が、2021年、科学的知見に基づいた「企業ネットゼロ基準」を公表しました。今や、遅くとも2050年までの1.5℃目標達成に向けたネットゼロの必要性は、企業にとって看過できない状況となっています。
以上の社会情勢を踏まえ、当社グループは、気候変動をサステナビリティ経営上の重要課題と位置づけており、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、対策に取り組んでいます。当社グループは、2019年に、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標において、SBTイニシアチブによる認定を取得しました。2021年には、2030年のScope1・2温室効果ガス排出量削減目標を、従来の40%から60%削減(基準年2017年度比)に引き上げ、SBTイニシアチブが定める「1.5℃目標」として認定を再取得しました。また、2023年2月には、Scope1・2・3温室効果ガス排出量について、2050年までの「ネットゼロ目標」の認定を取得しました。
当社グループは、マテリアリティ(表1)に掲げている「脱炭素社会の実現」と「サーキュラー・エコノミーの推進」の両輪で取り組み、バリューチェーン全体で2050年までのネットゼロを目指します。
具体的には、省エネの徹底や店舗の再生可能エネルギー切り替え拡大等によるScope1・2温室効果ガス排出量削減、お取引先様やお客様との協働によるScope3温室効果ガス排出量削減に取り組むとともに、3R強化やサーキュラー型ビジネスの拡大等の取り組みを推進していきます。
※1 温室効果ガスの排出量を徹底して削減し、残りの排出量について、森林吸収やCCS(CO2の回収・貯留)等による
除去量を差し引いて実質ゼロにすること
※2 企業が最新の気候科学に沿った野心的な排出削減目標の設定を可能にすることを目的として、2014年、CDP、
国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4団体が共同で設立
③TCFD提言が推奨する4つの開示項目に沿った情報開示
当社グループは、2019年、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。TCFD提言は、世界共通の比較可能な気候関連情報開示の枠組みであり、企業に対し、4つの項目「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って開示することを推奨しています。(表2)
当社グループは、TCFD提言を気候変動対応の適切さを検証するガイドラインとして活用するとともに、機関投資家等との積極的な対話を実施し、効果的な情報開示を行っていきます。
表2 TCFD提言が企業に求める4つの開示推奨項目
出典:気候関連財務情報開示タスクフォース「気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(最終版)」(2017年)
(a)取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象
当社グループでは、サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、環境課題に関する具体的な取り組みについて、業務執行の最高意思決定機関であるグループ経営会議で協議・決議しています。また、年2回以上開催されるサステナビリティ委員会において、グループ経営会議で協議・決議された環境課題への対応方針等を共有し、当社グループの環境課題に対する実行計画の策定と進捗モニタリングを行っています。
取締役会は、グループ経営会議およびサステナビリティ委員会で協議・決議された内容の報告を受け、当社グループの環境課題への対応方針および実行計画等についての論議・監督を行っています。(図2)
なお、当社は、取締役候補者の選任にあたり、取締役に期待する専門性および経験等についてスキルマトリックスで明確にしており、その項目の一つに「環境」を掲げています。事業活動を通じた環境課題の解決に向けた中長期目標を含む環境計画に対し、具体的な行動計画や定期的なレビュー、継続的改善の取り組み状況を適切に監督できる取締役を選任することで、環境課題に対する取り組みの実効性を高めています。
(b)経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス、モニタリング方法
代表執行役社長は、グループ経営会議の長を担うと同時に、直轄の諮問委員会であるリスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会の委員長も担っており、環境課題に係る経営判断の最終責任を負っています。グループ経営会議およびサステナビリティ委員会で協議・決議された内容は、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表3・表4)
図2 JFRグループ 環境マネジメント体制
表3 JFRグループの環境マネジメントにおける会議体および実行主体と役割
表4 サステナビリティ委員会における気候変動に関する主な議題
(a)気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細
当社グループは、リスクを戦略の起点と位置づけ、「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しており、企業が適切に対応することで、持続的な成長につながると考えています。
当社グループは、気候関連リスク・機会は、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、下記のプロセスを通じて気候関連リスク・機会を特定し、その重要性を評価しています。(図3)
はじめに、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目である「商品調達」「輸送・配送」「店舗販売」「商品、サービスの利用」「廃棄」の活動項目ごとに、気候関連リスク・機会を網羅的に抽出します。次に、網羅的に抽出した気候関連リスク・機会の中から、当社にとって重要な気候関連リスク・機会を特定します。最後に、特定した気候関連リスク・機会について、「自社にとっての重要性(影響度×緊急度)」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの評価基準に基づき評価しています。
(b)重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細
当社グループは、環境課題に係るリスクについて、サステナビリティ委員会の中でより詳細に検討を行い、各事業会社と共有化を図っています。各事業会社では、気候変動の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。その内容について、グループ経営会議やリスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表5)
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況
当社グループは、リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、リスクマネジメント委員会を設置しています。リスクマネジメント委員会では、毎年実施する環境分析をもとに、リスクが顕在化する可能性の程度・時期や事業への影響の観点で、気候関連を含む包括的なリスク・機会を特定し、対応策を審議しています。また、中期的に当社グループ経営において極めて重要度が高いものは「企業リスク」として中期経営計画に反映し、対応しています。リスクマネジメント委員会での協議内容は、グループ経営会議に報告されるとともに、サステナビリティ委員会に共有されます。
なお、上記一連のプロセスにおけるリスクマネジメント委員会、サステナビリティ委員会での協議内容、グループ経営会議での決議事項については、それぞれ適時取締役会に報告しており、取締役会による監督体制の下、当社グループの戦略に反映し、対応しています。
(※全社リスク管理の仕組みは15-17ページ参照)
(a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細
当社グループは、気候関連リスク・機会は、長期間にわたり自社の事業活動に影響を与える可能性があるため、適切なマイルストーンにおいて検討することが重要であると考えています。それを踏まえ、当社グループは、中期経営計画の実行期間である2023年度までを短期、SBTにおける目標達成年度である2030年度までを中期、SBTネットゼロ目標年度である2050年度までを長期と位置づけました。(表6)
当社グループは、気候関連リスク・機会に対し、ネットゼロを実現する2050年までを見据えたバックキャスティングにより、当社グループの戦略を策定し、対応しています。
表6 JFRグループにおける気候関連リスクと機会の検討期間の定義
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度
当社グループは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および2030年度時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上、パリ協定の目標である「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、および、新たな気候関連政策・規制は導入されない世界を想定した4℃シナリオの2つの世界を想定しています。(表7)
この2つのシナリオを踏まえ、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目ごとに、TCFD提言に沿って、気候関連リスク・機会を抽出しました。その上で、気候変動がもたらす移行リスク(政策規制、技術、市場、評判)や物理リスク(急性、慢性)、また、気候変動への適切な対応による機会(資源効率、エネルギー源、製品およびサービス、市場、レジリエンス)を特定しました。(表8)
表7 参照した既存シナリオ
表8 JFRグループにおける気候関連リスク・機会の概要
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス
当社グループは、網羅的に抽出・特定した気候関連リスク・機会の中から、「自社にとっての重要性(影響度×緊急度)」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。特に重要性が高いと評価した項目について、2030年度を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、および4℃シナリオの2つのシナリオにおける財務影響を定量、定性の両側面から評価し、それぞれの対応策を策定しました。(表9)
なお、定性的財務影響については、矢印の傾きによって3段階で表示しています。
表9 JFRグループにとって特に重要な気候関連リスク・機会、および2030年度の財務影響
※CVC(Corporate Venture Capital):将来性のあるスタートアップ企業への投資を通じて、事業共創を効率的・効果的に推進する仕組み。当社は、2022年度、「JFR MIRAI CREATORS Fund」を設立し、オープンイノベーションを推進。
(2030年度時点を想定した定量的財務影響の算出根拠)
※1 2030年度時点のJFRグループScope1・2温室効果ガス排出量に1t-CO2あたりの炭素
価格を乗じて試算
※2 2030年度時点のJFRグループ電気使用量に通常の電気料金と比較した1kWhあたりの
再エネ由来電気料金価格高を乗じて試算
※3 過去の自然災害による店舗休業に伴う売上損失額に洪水発生頻度を乗じて試算
※4 2030年度時点のJFRグループ省エネルギー量にエネルギー調達コストを乗じて試算
※5 2030年度時点のJFRグループ不動産収益に環境認証取得ビルの新規成約賃料変動率を
乗じて試算
当社グループは、マテリアリティ「脱炭素社会の実現」に向け、当社グループの事業活動について、上記シナリオを前提に気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討し、当社グループの戦略レジリエンス(強靭性)を検証しています。
・JFRグループ 2050年ネットゼロ移行計画
当社グループは、2050年ネットゼロの実現に向け、1.5℃/2℃未満シナリオおよび4℃シナリオのいずれのシナリオ下においても、中長期視点から戦略レジリエンスを強化していく必要があると考えています。
そのため、当社グループは、2050年ネットゼロ実現に向けた移行計画を策定しました。(図4)同計画では、事業戦略において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指すため、短期・中期・長期的視点から、具体的取り組みを明確化しています。
図4 2050年ネットゼロ移行計画※
(a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
当社グループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率の2つの指標を定めています。
また、役員報酬では、業績連動株式報酬を決定する非財務指標の一つとして、Scope1・2温室効果ガス排出量削減率目標を設定し、気候変動問題に対する執行役の責任を明確化しています。
(※役員報酬と非財務指標は86ページ参照)
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)
当社グループは、2017年度から、グループ全体の温室効果ガス排出量の算定に取り組んでいます。当社グループの2022年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約11万t-CO2(2017年度比43.5%削減)、Scope3温室効果ガス排出量は、約277万t-CO2(2017年度比5.5%削減)を見込んでいます。また、再エネ比率は33.6%となる見通しです。(表10・図5・6・7)
なお、2022年度のScope1・2・3温室効果ガス排出量および再エネ電力使用量は、第三者保証を取得する見込みです。
表10 JFRグループ Scope1・2・3温室効果ガス排出量実績および見通し
(単位:t-CO2)
※1 LRQAによる第三者保証を取得。
2 「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドラインver3.3(2023年3月 環境省
経済産業省)」・IDEAv2.3(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)に基づき算出
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標および実績
当社グループは、世界全体の1.5℃目標達成のため、2018年に長期的な温室効果ガス排出量削減目標を設定し、2019年にScope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標について「SBTイニシアチブ」による認定を取得しました。2021年には、マテリアリティの進化に伴い、2030年のScope1・2温室効果ガス排出量削減目標を従来の40%から60%削減(基準年2017年度比)に引き上げ、SBTイニシアチブが定める「1.5℃目標」として認定を再取得しました。また、2023年2月には、Scope1・2・3温室効果ガス排出量について、2050年までの「ネットゼロ目標」の認定を取得しました。(表11)
これらの長期目標達成のため、当社グループは、2019年度から、自社施設における再生可能エネルギー由来電力の調達を開始し、2020年10月に「RE100※」に加盟し、2050年までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率100%を目指します。また、その中間目標として、2030年までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率60%を目指します。
今後も、2050年までのネットゼロの実現に向け、再生可能エネルギー由来電力の調達拡大に取り組みます。
※事業活動で使用する電力を2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際的イニシアチブ
表11 JFRグループの気候関連リスク・機会の管理に用いる目標
※1 SBT認定取得
※2 2020年 RE100に加盟
今後も、当社グループは、取締役会による監督体制のもと、環境マネジメントにおけるガバナンスの強化を進め、中長期の目標達成に向けた実行計画の立案・実行等、全社的な取り組みを進めていきます。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在(2023年5月26日)において当社グループが判断したものであります。
(1)リスクマネジメントの考え方と体制
・リスクマネジメント
当社グループは、リスクを「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しています。そして、リスクマネジメントを「リスクを全社的な視点で合理的かつ最適な方法で管理することにより企業価値を高める活動」と位置づけ、リスクのプラス面・マイナス面に適切に対応することにより、企業の持続的な成長につなげています。
・リスクマネジメント体制
当社は、代表執行役社長の諮問機関として、代表執行役社長を委員長、執行役などをメンバーとするリスクマネジメント委員会を設置しており、リスクの抽出及び評価、戦略に反映させるリスクの決定など重要事項を審議し、リスクマネジメントを経営の意思決定に活用しています。なお、同委員会での審議内容については、適時に取締役会に報告します。
同委員会には、リスク管理担当役員を長とする事務局を置き、委員会で決定した重要な決定事項を事業子会社に共有し、ERM(全社的リスクマネジメント)を推進しています。また、リスクを戦略の起点と位置づけ、リスクと戦略を連動させることにより、リスクマネジメントを企業価値向上につなげるよう努めています。
なお、効果的なリスクマネジメントを行うため、次のとおり3ラインを構築しています。
・第1ライン(事業子会社などの業務執行部門):自らリスクの特定及び必要な対策を行う。
・第2ライン(持株会社の各部門):業務執行部門から独立した立場でリスクマネジメントの支
援・指導・モニタリングを行う。
・第3ライン(内部監査部門):業務執行部門及び持株会社の各部門などから独立した立場でリ
スク管理機能及び内部統制システムの有効性について監査を行う。
リスクマネジメント体制図
(2)リスクマネジメントプロセス
当社グループでは、下記のプロセスにより、リスクマネジメントを推進しています。具体的には、外部・内部環境分析や、取締役、経営層および実務責任者の認識をもとに当社グループにとって重要度の高いリスクの抜け漏れが生じないように努めています。
中期的に当社のグループ経営において極めて重要度が高いものは、「企業リスク」と位置づけ「グループ中期経営計画」の起点としています。
また、「企業リスク」を受けて識別した年度リスクを「JFRグループリスク一覧」にまとめ、「リスクマップ」を用いて評価を行い、優先度をつけて対応策を実行しています。「企業リスク」「JFRグループリスク一覧」は、半年に一度の頻度で、リスクを取り巻く環境変化と対応策の進捗についてモニタリングを行い、リスクマネジメント委員会で論議後、その内容を取締役会に報告しています。
下図は当社グループが、中長期にわたりJFRグループの成長・存続を左右する最重要のリスクと位置づけている「企業リスク」です。
その中でも「1.サステナビリティ経営の高度化」「2.既存の事業モデルの衰退」「3.加速度を増すデジタル化への対応」「4.ポストコロナにおける消費行動の変化」は、当社のグループ経営に及ぼす影響が極めて大きいため、中期経営計画において最優先で対応すべきリスクと位置づけています。
影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク
上記リスク以外の「企業リスク」
(3)直近の環境変化とリスク認識
当社グループの経営にとって未曾有の打撃をもたらしてきた新型コロナウイルス感染症の影響は、政府がコロナ対策と経済正常化の両立に舵を切ったことに伴い、徐々に小さくなっています。2023年度に入り、感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられ、外国人渡航者に対する水際対策も撤廃されるなど、コロナ禍による経済社会活動への制約は段階的に解消され、景気が感染状況に左右されないアフターコロナ期に着実に移行しています。
その一方で、国際社会は世界的な物価高に直面しており、米欧を中心に政策金利の引き上げが行われてきました。その効果もあり、物価上昇は鈍化しましたが、他方で複数の金融機関が経営危機に陥るなど、金利引き上げの悪影響も顕在化しつつあります。また、ウクライナ情勢や米中対立の激化など地政学リスクも高まっており、当面不安定かつ不透明な情勢が継続していくと認識しております。
一方、我が国に目を転じますと、景気の本格回復に向け金融緩和を継続しており、これが一因となり昨年度は急激な円安が進展しました。この円安は物価高に拍車をかけ、消費者心理を確実に冷やしました。足許、円安自体は終息する方向にありますが、物価は引続き高止まっており、この傾向が続く場合には、個人消費が想定通りに回復しない可能性があります。
さらに、諸外国が景気後退に陥り、株価をはじめとする資産価格が暴落する場合には、我が国もその影響を受け、より一層の消費停滞につながっていくなど、当社グループの業績にも大きな影響を与える可能性があります。
このように、本年度も先行き不透明、かつ極めて厳しい経営環境の中で事業活動を強いられる ことになります。
この3年間にわたる新型コロナウイルス感染症の影響は、消費者の価値観や消費行動、小売業に求めるものなどの変化を加速させてきました。人々の価値観、生活スタイルや消費行動、さらには都市のあり方も大きく変わってきており、当社グループも新しい事業モデルへの進化が不可避な状況です。
その対応策として、中期経営計画(2021‐2023年度)に基づき、コロナ危機からの「完全復活」と2024年度以降の「再成長」に向けた重点戦略(リアル×デジタル戦略、プライムライフ戦略、デベロッパー戦略)と経営構造改革の推進、中長期の成長を支える経営基盤強化を進めてきました。さらに「早期の収益力回復」に向けた重点戦略と、経営構造改革を加速させるとともに、事業ポートフォリオの変革に向け、グループ将来像を定め、既存事業のビジネスモデル変革、非商業分野での事業成長や新規事業の創出など「再成長への道筋」の明確化、中長期の成長実現に向けた経営基盤の強化に取り組んでまいります。
また、コロナ禍によって、持続可能な社会への意識が高まっており、多くの企業も改めて自社の存在意義を再定義しようとしています。幸いにも、当社グループは、300年、400年前から続いている、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という、サステナビリティ経営につながる社是を有しており、今後も持続的な成長に向けて着実に歩みを進めてまいります。
上記の環境変化を踏まえて更新した「企業リスク」は、有価証券報告書提出日現在において、皆様の投資等の判断に影響を与える可能性があるリスクと認識しており、当社グループのリスク定義(企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある)に則し、リスク認識および対応策を次頁以降に記載いたします。
1 | サステナビリティ経営の高度化 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し(*) | |||
当社の リスク認識 | 地球温暖化や海洋汚染など地球環境問題の深刻化、生物多様性の喪失、サプライチェーン上の人権問題など、企業を取り巻く環境への不確実性が高まる中、サステナビリティ経営への要請は、当社にとって重要性が高く、最上位に位置づけるリスクです。ステークホルダーの期待は、当社が持続可能な社会の実現に企業としていかに貢献するかであり、その期待に応える取り組みなしには当社自体の持続的な成長も望めないと考えています。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・ステークホルダーの離反、格付・ブランド力の低下 ・持続的な成長、当社グループのプレゼンス向上 | ||||
対応策 | 当社グループが掲げるサステナビリティ経営は、事業を通じて社会課題解決と企業の利益を両立する、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)を実践することです。 当社グループでは、ステークホルダーの「Well-Being Life(心身ともに豊かなくらし)」の実現に向けて7つのマテリアリティ(※重要課題)を特定し、対応を図っています。 ※「脱炭素社会の実現」「サーキュラー・エコノミーの推進」「サプライチェーン全体のマネジメント」「お客様の健康・安全・安心なくらしの実現」 「地域社会との共生」「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」 「ワーク・ライフ・インテグレーションの実現」 環境問題や人権問題などについては企業の基本姿勢としてそれらの解決に向けて積極的に取り組む必要があります。 一方でこういった問題の解決も含め、上記マテリアリティの中にビジネスチャンスを見出すことで、社会的価値と経済的価値の両方を同時に生み出すことも可能です。当社グループは、事業を通じて出会う多くの顧客、地域社会、お取引先様など重要なステークホルダーと連携し、社会課題を解決し付加価値を生み出す潜在的ニーズを発掘することで、CSVを実践しています。 サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の伸長を見通して、ファッションサブスクリプション事業(定額制のファッションレンタルサービス)を拡大しました。また、地域社会との共生の一環として、地域コミュニティやパートナーと協働した地域開発、地産地消の推進等を通じた賑わいのある街づくり、地域の魅力向上に取り組みました。 今後もグループ将来像を見据えた新たな価値創造に取り組み、ステークホルダーのWell-Being Lifeを実現していきます。 |
2 | 既存の事業モデルの衰退 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し | |||
当社の リスク認識 | 当社グループの各事業は、対面型のビジネスモデルが中心です。対面ビジネスは新型コロナウイルス感染症で大きな制約を受けましたが、この間に生じたお客様、お取引先様などの変化は、既存の事業モデルを取り巻く環境に非常に大きな影響を及ぼしました。この影響を回避するためには、事業モデルの変革と、主力事業へ過度に依存しない事業ポートフォリオへの転換が不可欠です。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・大型店舗型小売業の業績低迷によるグループ全体の活力の低下 ・大型店舗型小売業の事業モデルの抜本的な変革による再成長 | ||||
対応策 | 既存事業モデルを取り巻く環境変化に対し、当社グループでは以下の方向で取り組みを進めています。 一つ目は顧客接点のデジタル化です。アプリ会員の拡大によりカード顧客に限定しない顧客づくりを行い、お客様一人ひとりに最適化された情報を提供します。場所・時間の制約のないデジタルにおいて顧客と販売員がつながり店舗と同様の付加価値サービスを提供することにより、従来の対面型ビジネスの弱みの克服に取り組んでいます。また、デジタルでの接点を通じて得られる行動データを分析することにより、マーケティングの精度向上につなげています。さらに、好きな時に買い物がしたいという顧客ニーズに応えるため、オンラインストアをリニューアルするなど、UX(体験価値)向上、OMO(リアル店舗とオンラインの融合)を強化しています。 二つ目は、店舗の役割の見直しです。都市の店舗において、物を販売する以外にリアルな体験や新たな物との出会い、人とのつながりなど様々な価値を提供することが可能です。当期はアミューズメント要素の導入や、オリジナルの動員催事を開催し多くのお客様に来店いただくことができました。好立地な場所の強みを活かして様々な情報を発信するメディア機能、価値の高いモノ・コトを紹介するギャラリー機能、エンタテインメント機能、ソリューション機能なども継続して強化しており、店舗の魅力化と収益の多元化の実現に努めています。 三つ目は、百貨店・SC事業に依存しない事業ポートフォリオへの転換に向け、デベロッパー事業や決済・金融事業の強化、新規事業開発を進めていきます。新設のCVC「JFR MIRAI CREATORS FUND」やM&Aを活用した他社提携、協働による事業開発に取組みます。 これらの変革をスピーディに推進することで、当社事業の完全復活、再成長への道筋を確かなものとしていきます。 |
3 | 加速度を増すデジタル化への対応 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し | |||
当社の リスク認識 | EC化の進展などデジタルシフトによる消費行動の変化は、従来のリアル店舗に依存したビジネスからの変革や新たな事業領域でのビジネスモデル構築の必要性を高めました。 デジタル化への対応方法やスピードと、それを支える人財の育成は、当社グループ全体の成長を左右する重要なものであり、また同時に業務の生産性向上においても極めて重要なものであると考えています。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・グループ全体の成長の停滞 ・デジタル化の遅延による競争力の低下 ・デジタルの活用によるビジネスモデルの変革 ・業務の効率化、ペーパーレス化 | ||||
対応策 | デジタル化への対応策として、マーケティングの高度化に向けた統合データベースの活用や、テクノロジー活用による新ビジネスモデル構築を推進しました。さらにメタバース・WEB3.0関連企業への出資やパルコでのNFTでの取り組み等も積極的に進めており、今後はグループの既存事業の対応と新規事業の創出、両方につなげていきたいと考えています。 業務の生産性向上の視点としては、事務所移転を行い、リモート会議に適したブースの設置、インターネット接続環境の改善などにより、リモートワーク勤務においてもコミュニケーションの質と量を向上させるためのオフィス環境の整備を行いました。 デジタル人財育成の観点では、JFRグループデジタル戦略で掲げている、カスタマーデータドリブン経営の実践による3つの戦略への寄与を目的として、その実現を支えるために必要となる「データ活用」と「ビジネスデザイン」の強化のため、「データアナリスト」「デジタルデザイナー」の育成を始めています。 (*1)メタバース:「メタ(超)」「ユニバース(宇宙)」の造語。仮想空間やそこでコミュニケーションを行えるサービスプロダクト全般 WEB3.0:主にブロックチェーン技術によって実現されようとしている、新しい分散型のウェブ世界 NFT:Non-Fungible-Token(ノン・ファンジャブル・トークン)。唯一無二性をブロックチェーン技術を利用して証明する技術 |
4 | ポストコロナにおける消費行動の変化 | ||||
影響度 | 非常に大 | 将来の見通し | |||
当社の リスク認識 | 2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ5類に変更されることになり、経済社会活動への制約が解消に向い、景気への影響は徐々に小さくなっていくと考えます。コロナ禍を契機として、「自分がどうありたいか」を重視する価値観への変化や社会的価値に重きを置いた消費行動が進み、生活者のサステナビリティ志向が拡大し、シェアリングエコノミー市場も広がりを見せています。 多岐に渡るモノ・サービスを扱う事業を展開する当社グループでは、ポストコロナの消費の行方に目配りをし、どう適応していくのかを見極めて事業を展開していくことが重要です。 消費行動・ニーズの変容に適応できないなど、リスクが顕在化し、業績が急速に悪化することで、固定資産の減損や、繰延税金資産の減額が必要となる場合には、経営成績や財政状態等に更に悪影響を及ぼす会計・税務上のリスクも存在しています。 | ||||
マイナス面 プラス面 | ・消費者ニーズとのアンマッチによる顧客離反 ・新規マーケットの創造 | ||||
対応策 | 当社グループでは、「自分がどうありたいか」を重視する価値観の台頭に対応するビジネスを検討しています。一例として、化粧品OMOショッピングサイト「DEPACO」がECとメディア機能が融合した「メディアコマース」としてリニューアルオープンしました。メディアでお客様は有益な情報を得ながら、同じサイト内を回遊して便利にお買い物ができる構造になっています。お客様の購買体験の魅力化や利便性向上に資するOMOについては今後も進めていきます。また、ラグジュアリー、時計、アートなど、商品そのものが持つ価値やその背景が豊かな生活につながるような商品はお客様に支持され、順調に売上を拡大しています。 社会的価値に貢献することに重きを置いた消費行動に応えるものとしては、サステナブルをキーワードとした商品・サービスの開発に力を入れています。サーキュラーエコノミーの取り組みとして、ファッションサブスクリプションのアナザーアドレスはメンズラインを2023年3月よりスタートし、さらに促進していきます。また、地域社会への貢献として地域のステークホルダーとの共創、中小企業との連携による地域魅力発信なども推進しています。 会計・税務上のリスクである固定資産の減損は、将来キャッシュ・フローの見積りについて、また繰延税金資産の回収可能性の評価は、将来課税所得の見積りについて、事業計画を基礎としており、適正な計画を維持すべく適時に見直しを行っています。 |
■戦略リスク
都市の分散化(都市と地方のリバランス) | ||||||
5 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・当社グループが保有する不動産は全国に点在しているため、それぞれの立地の特性や動向は、事業を展開していく上で常に注視すべき重要なリスクと捉えています。 ・多くの都市がインフラ更新の時期を迎えており、また、将来の人口減を見据え、魅力的な街づくりを模索している中、その都市の特徴を捉え、都市開発に貢献していくことができれば、地域の発展とJFRグループ収益の拡大という両面を実現できると考えています。 | |||||
対応策 | ・2022年10月にデベロッパー事業の組織再編として、デベロッパー新会社「J.フロント都市開発株式会社」をJFR直下に設置することを発表、2023年3月から稼働を開始しました。 ・また、グループ各社が保有する不動産の戦略的活用を迅速かつ円滑に進めるため、2023年3月よりJFRに「CRE戦略統括部」を新設し、経営戦略統括部の配下にあった「CRE企画部」の機能を移管しました。 ・上記組織再編を通じ、従来以上にグループの全体最適、かつ中長期の視点から機動的かつ迅速な意思決定を可能とし、地域との共生や魅力的な街づくりを推進しています。 | |||||
加速する所得の二極化 | ||||||
6 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・ロシアのウクライナ侵攻に起因する物価高は、中間層に打撃を与えています。消費行動はシビアになっており、需要の取込が一層難しくなっています。 ・一方で、富裕層は世界的に増加しており、日本においても増加しています。その中には、若年層やパワーカップルも含まれており、高い購買力を有しております。 ・お客様一人ひとりのニーズを捉え、いかに対応できるかが重要な課題となっています。 | |||||
対応策 | ・マスマーケットの商品・サービスは、適正規模に見直し、細分化を図っています。 ・一方で、拡大する富裕層マーケットにおいては、ラグジュアリー、アート、時計など需要の高いカテゴリーを強化し、富裕層のニーズに対応しています。 ・戦略的に改装投資を行い、対象商品を充実させるとともに、現代アートにおける当社プレゼンスを高め、ギャラリーとの協業による希少性の高い商品の提供も実施しています。 | |||||
顧客の変化、特に少子高齢化・長寿命化 | ||||||
7 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・コロナ禍で婚姻数も低下し、2022年度は出生者数が統計史上最低を更新しました。 ・岸田政権では、抜本的な少子化対策を検討していますが、その成果が表れ消費の担い手となるまでには相応の期間が必要となります。 ・当面は、人口減が継続し、高齢化が進展する社会を前提に、当社グループの戦略を検討していく必要があると認識しています。 | |||||
対応策 | ・少子化、所得の二極化と呼応して子ども市場も二極化している中、当社グループは、上質な子供服・用品市場や教育事業へ重点的に対応しています。英語教育を特徴とする保育事業に参入しているのもその一環です。 ・一方、「ライフシフト(人生100年時代への移行)」が進み、経済力があり生活を楽しむシニア層が増加しています。シニア層の外商顧客に対して、係員が寄り添いオンラインでの商品紹介・販売を通じて利便性を高めています。 |
■戦略リスク
外国人マーケットの不透明さ | ||||||
8 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・2023年度に入り、外国人渡航者に対する水際対策が撤廃されました。今後は、中国人渡航者の増加や諸外国との定期便の増加が予想され、近い将来インバウンド消費はコロナ前の水準まで回復する見込みです。 ・更に、日本政府は、2030年の訪日外国人旅行者数6,000万人、同消費額15兆円を目標としており、中長期的にインバウンド消費は拡大していくと予想しています。 | |||||
対応策 | ・大丸心斎橋店では、インバウンド顧客専用のVIPラウンジを設置し対応を強化しました。 ・また、「越境EC」において、日本の優れたビューティーケア商品の紹介・販売を通じた新たなインバウンドでの売れ筋商品の育成・発掘に取組んでいます。 ・また、現状の物販だけにとどまらず、旅行サロンを運営しているラグジュアリーツアーの提供など、新たなコンテンツを開発、提供出来るよう検討しています。 | |||||
業際を超えた再編、M&Aの加速 | ||||||
9 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・上場企業における事業の選択と集中の必要性の高まり、非上場企業における経営者の高齢化に伴う事業承継ニーズの増加、継続する金融緩和による良好な資金調達環境等を背景に、M&Aニーズは高まっており、今後M&Aは一段と増加すると考えています。 ・ステークホルダーの価値観が大きく変わっていく中、M&Aは、確実に必要性・重要性が高まっており、攻めと守りの両方の観点から、注力すべき領域と認識しています。 | |||||
対応策 | ・攻めの観点では、JFRグループのCVCを設立し、スタートアップ企業との資本・業務提携によるR&D強化を実践しています。 ・また、eスポーツチーム「SCARZ」を運営する「株式会社XENOZ」を買収し子会社化することにより、今後成長が期待されるeスポーツ事業に本格的に参入するとともに、パルコや百貨店など既存事業とのシナジー創出、新たな価値創造に取り組んでいます。 ・守りの観点では、グループ事業の選別と経営資源配分の最適化を進め、成長性や資本効率性を高めることにより、企業価値を向上させていきます。 | |||||
ニューノーマル時代の働き方、人財・組織改革の進展 | ||||||
14 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・労働力人口の減少、雇用の流動化進展を背景に、専門人財をはじめとする獲得競争が激化する中、企業成長を支える、人財の獲得と人財の質向上は、企業の主要な課題です。 ・企業には人財を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す投資を続けることにより企業価値を向上させていくことが求められます。人財が十分に力を発揮できる組織の構築も重要であり、人財・組織改革の進展は今後の企業経営に深く関わるリスクです。 | |||||
対応策 | ・当社の人財価値基準である「人財力主義」に基づき人的資本を可視化し、戦略遂行に必要な人財ビジョン実現に向けた効果的な人財投資をすることを通じて、グループビジョンの実現を後押しし、従業員を含むステークホルダーのWell-being Lifeの実現に努めます。 ・人財確保・育成に向けて、高度専門人財の採用強化や公募を活用したグループ人財交流を進めていますが、今後はリスキリングを含む人財育成・教育の強化に重点的に資源投下を行っていきます。 |
■ハザードリスク
頻発する自然災害・疫病 | ||||||
10 | ||||||
影響度:非常に大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・南海トラフ地震や首都直下地震など巨大地震の発生リスクは高まっています。また巨大台風や集中豪雨など異常気象による自然災害についても、発生頻度、被害規模ともに増大しています。 ・新型コロナウイルス感染症については、感染状況の収束、社会活動の正常化が見通されるものの、新たな変異株の感染再拡大や新たな疫病の発生など類似のパンデミック(世界的な大流行)の可能性があります。 ・このようなリスクが顕在化し、人的被害、事業活動の停止、サプライチェーンの分断、施設改修に係る費用の発生など事業運営に重大な支障が生じた場合、当社グループの業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。 | |||||
対応策 | ・事業継続を脅かす自然災害等のリスクに対し、事業継続計画に基づき重要業務(資金、支払業務等)、重要インフラ(システム等)確保の観点から業務継続体制を整備し、定期的な訓練の実施等により体制を強化していきます。 ・新型コロナウイルス感染症の対応分析をふまえ、今後新たな感染症が発生した際にも、人命の安全確保や事業への影響の極小化、平時における体制整備に関する事項などを定めた「新型感染症対応マニュアル」に基づき対応していきます。また、感染症の動向を注視し、流行の予兆が見られる場合には、複数のシナリオによる影響分析を行い能動的に対応していきます。 | |||||
情報セキュリティの重要性向上 | ||||||
11 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・リモートワークの定着、クラウドやモバイル利用などの業務が拡大していく一方、サイバー攻撃や不正アクセスなどの手法の多様化、高度化が急速に進展しており、当社グループを取り巻くサイバーリスクは一層深刻化しています。また、当社グループは顧客情報や個人情報を多く保有しており、情報の保管、取り扱いについてより堅牢な仕組みの導入やシステムセキュリティ対策が必須となっています。 ・当社グループにおいては、情報セキュリティについて重要性が増しており対応の優先度が高いリスクの一つと位置づけています。しかしながら、外部からの攻撃や人為的なミス、委託先の管理不備等により重要情報の外部流出やサービスの大規模停止などのリスクが顕在化した場合、被害の規模によっては当社グループの業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。 | |||||
対応策 | ・当社グループ共通のシステムインフラの整備・高度化、情報システムの安全稼動及び堅牢性の高いセキュリティの構築を継続して推進していきます。サイバーインシデントは年々多様化・複雑化してきており、ハード・ソフト両面での一層の取り組みが必要であると考えています。 ・セキュリティ型ネットワークの構築や新認証基盤(多要素認証)の拡大などグループ共通のシステムインフラの整備を推進していくとともに、新ソリューションや外部監視サービスを活用した監視体制の強化、脆弱性に関する管理対象範囲の拡大、対応品質の向上による情報漏洩等の未然防止などセキュリティ運用の高度化を推進していきます。また、グループセキュリティガイドラインの改訂、セキュリティインシデント対応体制の強化などリスクの最小化に向けた取り組みを推進していきます。同時に、IT担当者を対象としたインシデント対応訓練の実施、全従業員を対象とした情報セキュリティe-ラーニングや標的型攻撃メール訓練の継続的実施などにより、セキュリティ意識とリテラシーの向上を図っていきます。 |
■ファイナンスリスク
資金調達マネジメントの重要性の向上 | ||||||
12 | ||||||
影響度:大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・日本銀行総裁の交代により、今後の金融政策の変更、及び資金調達環境の変化を注視していく必要があります。 ・新型コロナウイルス感染症の事業に対する影響は沈静化傾向にあるとみており、緊急に資金を調達する必要性は低下してきていますが、資金調達マネジメントは、グループ全体の成長を支える経営基盤構築のためにも引き続き影響度が大きなリスクです。 | |||||
対応策 | ・当社は、従来から事業特性を勘案して、固定金利での長期調達比率を高くしており、金利上昇によって急激に支払利息が増加するなど、短期的に大きな影響を受けることのない仕組みを導入しております。 ・一方で、今後は成長戦略の推進に伴う大型投資を想定しており、資金需要の面からも支払利息が増加していく可能性があるとみています。新規での資金調達局面においては、調達手段を適切に選択することにより、金融費用を極力抑制する施策に取り組んでいきます。 | |||||
環境変化に対応できるコスト構造の必要性 | ||||||
13 | ||||||
影響度:非常に大 | 将来の見通し | |||||
リスク認識 | ・ウクライナ侵攻に端を発する原材料・物価高、世界経済の減速など当社グループの業績に打撃を与える環境変化が起こっていますが、今後も社会情勢の変化による企業影響の先行きは不透明です。 ・このような状況下で、損益分岐点を引き下げ、環境変化に対応できる体制への変革は、事業基盤を強固にし、再成長に向かうため、対応への成否が問われる非常に重要なリスクです。 | |||||
対応策 | ・コスト削減策として、働き方の見直しを伴う事務所再編、業務委託など経費構造改革や要員構成見直し、グループ横断で経費を管理する体制を強化などに取り組んできました。 ・今後は、固定費を中心とした構造改革の推進に加えて、エネルギー価格の高騰などを踏まえて、変動費を中心とした管理可能経費の削減にも注力し、利益確保につながる経費対策を実施していきます。 |
JFRグループ「企業リスク」一覧
分類 | 番号 | 項目 | 影響度 | 将来の 見通し (*) | マイナス面 | プラス面 | 対応策 | |
戦 略 リ ス ク | 1 | サステナビリティ 経営の高度化 | 非常に大 | ・ステークホルダーの離反、格付・ブランド力の低下 | ・持続的な成長、当社グループのプレゼンス向上 | ・社会的価値と経済的価値を両立するCSV実践 ・マテリアリティへの対応 | ||
2 | 既存の事業モデルの衰退 | 非常に大 | ・大型店舗型小売業の業績低迷によるグループ全体の活力の低下 | ・大型店舗型小売業の事業モデルの抜本的な変革による再成長 | ・顧客接点のデジタル化 ・店舗の役割の見直し ・事業ポートフォリオの転換に向けた既存事業強化、事業開発 | |||
3 | 加速度を増すデジタル化への対応 | 非常に大 | ・グループ全体の成長の停滞 ・デジタル化の遅延による競争力の低下 | ・デジタル活用によるビジネスモデルの変革 ・業務の効率化、ペーパーレス化 | ・統合データベース活用 ・メタバースなど新たな市場でのビジネスモデルの構築 ・デジタル人財の育成 | |||
4 | ポストコロナにおける消費行動の変化 | 非常に大 | ・消費者ニーズとのアンマッチによる顧客離反 | ・新規マーケットの創造 | ・購買体験の魅力化や利便性向上に資するOMO促進 ・サステナブルな商品・サービス開発 ・事業計画の適正な適時見直しの実施 | |||
5 | 都市の分散化 (都市と地方のリバランス) | 大 | ・都心立地の従来型商業施設の集客力低下 | ・都市のニーズ、街づくりへの貢献を通じた事業展開 | ・グループ不動産の戦略的活用を迅速かつ円滑に進めるため、組織を再編 ・エリアとの共生、多様な都市生活提案と複合再開発による魅力的な街づくりの推進 | |||
6 | 加速する所得の二極化 | 大 | ・マスマーケットの縮小による売上減少 | ・新たな中間層需要の掘り起こし ・新富裕層マーケットの開拓 | ・マスマーケットの商品・サービスの適正規模への見直し、細分化 ・ラグジュアリー、アート、時計など需要の高いカテゴリーの強化、希少性の高い商品の提供 | |||
7 | 顧客の変化、特に少子高齢化・長寿命化 | 大 | ・国内市場規模の縮小 | ・シニアマーケットの拡大 | ・上質な子供服用品、教育事業への重点対応 ・シニア顧客の買い物の利便性向上やウェルネスなど関心の高いカテゴリーの強化 | |||
8 | 外国人マーケットの不透明さ | 大 | ・インバウンド売上回復の遅延 | ・インバウンド売上の回復、拡大 ・ECやライブコマースの展開による外需獲得 | ・インバウンド顧客専用ラウンジ設置 ・越境ECによるインバウンドでの売れ筋商品の育成・発掘 ・ラグジュアリーツアーの提供など、新たなコンテンツの開発、提供準備 | |||
9 | 業際を超えた再編、 M&Aの加速 | 大 | ・当社グループの敵対的買収 | ・事業ポートフォリオの組み換え ・M&A活用による新規事業への参入、既存ビジネスとのシナジー | ・既存事業の選別、経営資源配分の最適化 ・スタートアップ企業との資本・業務提携によるR&D強化 ・eスポーツ事業に本格的に参入 | |||
14 | ニューノーマル時代の働き方、人財・ 組織改革の進展 | 大 | ・優秀人財の流出、人財獲得競争での劣後 ・従業員のモチベーション低下 | ・従業員のエンゲージメント、組織力の向上 ・事業戦略の推進、イノベーションの創出 | ・「人財力主義」に基づく人財投資を通じた従業員のWell₋Being Life実現 ・専門人財の採用環境整備、グループ人財交流、人財教育 |
分類 | 番号 | 項目 | 影響度 | 将来の 見通し (*) | マイナス面 | プラス面 | 対応策 | |
ハ ザ | ド リ ス ク | 10 | 頻発する自然災害・疫病 | 非常に大 | ・お客様・従業員の人命損傷 ・事業継続の危機 | ・事業の安定運営 | ・実践的なBCP訓練の継続的な実施 ・事業継続計画の定期的な見直しの実施 ・新たな感染症への備えの強化 | ||
11 | 情報セキュリティの重要性向上 | 大 | ・個人情報の漏洩、訴訟・損害賠償の発生、社会的信用失墜 ・業務の遅延・停滞 | ・業務やシステムの安定稼動 ・業務の効率化、リモートワークの推進 | ・グループ共通のシステムインフラの整備、高度化の推進 ・セキュリティ運用の高度化推進と対応体制の強化 ・グループセキュリティガイドラインの見直しと訓練等を通じた従業員のセキュリティ意識、リテラシーの向上 | |||
ファイナンス リ ス ク | 12 | 資金調達マネジメントの重要性の向上 | 大 | ・資金コストの高止まり | ・資金コストの引下げ ・成長戦略推進のサポート | ・固定金利での長期調達 ・新規資金調達局面での適切な調達手段の選択 | ||
13 | 環境変化に対応できるコスト構造の必要性 | 非常に大 | ・収益性の低下 ・投資の抑制 | ・事業ポートフォリオの変革 ・事業基盤の強化 | ・オフィス再編、要員構成の見直しなどによるコスト削減 ・グループ横断での経費管理体制の強化 |
:影響が極めて大きく、最優先で対応しているリスク |
(4)TCFD提言に沿った情報開示
①JFRグループが目指すサステナビリティ経営
当社グループは300年、400年という歴史の中で数々の危機に遭遇してきました。そうした状況に直面するたびに、「先義後利」「諸悪莫作、衆善奉行」という社是に立ち返り、お客様や社会の変化を機敏に捉えながら事業活動を愚直に実践してきたことが、今日の経営につながっています。社会との共存なくして企業の発展はありません。いま経営には、一層の長期視点により、社会に存在意義を放つ将来のあるべき企業像を描くことが不可欠となっています。環境や社会、人権などの課題から目を背けて企業活動を行うことができないのは明らかです。そのような課題の解決に向けたサステナビリティの概念を企業戦略や事業戦略に組み込むことにより、将来の成長に向けた持続可能な経営の枠組みを獲得できるものと考えています。
このような考えのもと、当社は、2021年度からスタートした中期経営計画において、社是を基軸にサステナビリティを経営の中核に据え、事業活動を通じた社会課題の解決に取り組むことを明確にしました。特定した7つのマテリアリティそれぞれについて、リスクと機会の両面を捉え、ビジネスチャンスを創出することで、社会価値と経済価値を両立するCSV(共通価値の創造)を実践するとともに、お客様、従業員、お取引先様などすべてのステークホルダーの「Well-Being Life」を実現していきます。(図1・表1)
図1 サステナビリティ経営の全体像
表1 JFRグループが取り組む7つのマテリアリティ
マテリアリティ | 2030年度目標 | JFRグループの持続可能な社会の実現に向けた コミットメント |
脱炭素社会の実現 | 脱炭素社会をリードし次世代へつなぐ地球環境の創造 | 私たちは、かけがえのない地球環境を次世代に引き継ぐため、再生可能エネルギーの調達拡大や、省エネルギーの徹底等に全社一丸となって取り組み、脱炭素社会の実現に貢献します。 |
サーキュラー・ エコノミーの推進 | サーキュラー・エコノミーの推進による未来に向けたサステナブルな地球環境と企業成長の実現 | 私たちは、お取引先様やお客様との協働により、新たな環境価値を生み出すための革新的なビジネスモデルを創造し、サーキュラー・エコノミーにおける競争優位性を獲得します。 |
サプライチェーン全体のマネジメント | お取引先様とともに創造するサステナブルなサプライチェーンの実現 | 私たちは、お取引先様とサステナビリティに対する考え方を共有し、共に社会的責任を果たすことを通じて、サプライチェーン全体で持続可能な未来の社会づくりに貢献します。 |
お取引先様とともに創造するサプライチェーン全体での脱炭素化の実現 | 私たちは、お取引先様とともに、環境に配慮した製品やサービスの調達等に取り組むと同時に、再生可能エネルギー化、省エネルギー化に取り組み、サプライチェーン全体での脱炭素社会の実現に貢献します。 | |
お取引先様とともにサプライチェーンで働く人々の人権と健康を守るWell-Beingの実現 | 私たちは、お取引先様とともに、サプライチェーンで働く人々の人権が守られ、健康に働き続けることができる職場環境づくりを実現します。 | |
地域社会との共生 | 地域の皆様とともに店舗を基点とした人々が集う豊かな未来に向けた街づくりの実現 | 私たちは、地域のコミュニティ、行政、NGO・NPOとともに、店舗を基点として、地域資産をいかした持続可能な街づくりに貢献します。また、地域の魅力を発掘・発信することで、街に集う人々にワクワクするあたらしい体験を提供します。 |
お客様の健康・安全・ 安心なくらしの実現 | 未来に向けたお客様の心と身体を満たすWell-Beingなくらしの実現 | 私たちは、お客様の心身ともに健康なくらし、安心なくらしに寄り添う高質で心地よい商品やサービスを提供することにより、お客様それぞれの自分らしいWell-Beingと心豊かなワクワクする未来を提案します。 |
未来を見据え安全・安心でレジリエントな店づくりの実現 | 私たちは、防災や感染症リスク、BCP(事業継続)に対応し、店舗のレジリエンスを高めます。また、それと同時にデジタルを活用したオペレーションを構築することで、安全・安心に配慮した新しい顧客接点を創造し、社会の期待に応える店づくりを推進します。 | |
ダイバーシティ& インクルージョンの推進 | すべての人々がより互いの多様性を認め個性を柔軟に発揮できるダイバーシティに富んだ社会の実現 | 私たちは、多様性と柔軟性をキーワードにステークホルダーすべての人がダイバーシティの本質である異なる個性や視点を大切にし、多様な能力を発揮できる企業をつくります。また、多様な個性や能力が相互に影響し、機能し合うこと(インクルージョン)により、イノベーションを生み出し、多様なお客様の期待に応え事業の成長を目指します。 |
ワーク・ライフ・インテグレーションの実現 | 多様性と柔軟性を実現する未来に向けた新しい働き方による従業員とその家族のWell-Beingの実現 | 私たちは、ニューノーマル時代の新しい働き方として、多様性と柔軟性をキーワードにした働き方を促進し、同時に心身の健康を保ちます。これにより、従業員と家族のWell-Beingを実現し、組織の生産性向上につなげます。 |
②「JFRグループ 2050年ネットゼロ」実現に向けた対応策
昨今、気候変動が極めて深刻なレベルまで進行し、将来世代はもちろんのこと、現世代の私たちを含め人類がその危機に晒されています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2018年、「1.5℃特別報告書」において、
「1.5℃目標の達成には2050年までのネットゼロ※1 が必要である」との科学的指標を示し、また、SBT(Science Based Targets)イニシアチブ※2 が、2021年、科学的知見に基づいた「企業ネットゼロ基準」を公表しました。今や、遅くとも2050年までの1.5℃目標達成に向けたネットゼロの必要性は、企業にとって看過できない状況となっています。
以上の社会情勢を踏まえ、当社グループは、気候変動をサステナビリティ経営上の重要課題と位置づけており、気候変動に伴うリスクや機会は、事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、対策に取り組んでいます。当社グループは、2019年に、Scope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標において、SBTイニシアチブによる認定を取得しました。2021年には、2030年のScope1・2温室効果ガス排出量削減目標を、従来の40%から60%削減(基準年2017年度比)に引き上げ、SBTイニシアチブが定める「1.5℃目標」として認定を再取得しました。また、2023年2月には、Scope1・2・3温室効果ガス排出量について、2050年までの「ネットゼロ目標」の認定を取得しました。
当社グループは、マテリアリティ(表1)に掲げている「脱炭素社会の実現」と「サーキュラー・エコノミーの推進」の両輪で取り組み、バリューチェーン全体で2050年までのネットゼロを目指します。
具体的には、省エネの徹底や店舗の再生可能エネルギー切り替え拡大等によるScope1・2温室効果ガス排出量削減、お取引先様やお客様との協働によるScope3温室効果ガス排出量削減に取り組むとともに、3R強化やサーキュラー型ビジネスの拡大等の取り組みを推進していきます。
※1 温室効果ガスの排出量を徹底して削減し、残りの排出量について、森林吸収やCCS(CO2の回収・貯留)等による
除去量を差し引いて実質ゼロにすること
※2 企業が最新の気候科学に沿った野心的な排出削減目標の設定を可能にすることを目的として、2014年、CDP、
国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4団体が共同で設立
③TCFD提言が推奨する4つの開示項目に沿った情報開示
当社グループは、2019年、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。TCFD提言は、世界共通の比較可能な気候関連情報開示の枠組みであり、企業に対し、4つの項目「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って開示することを推奨しています。(表2)
当社グループは、TCFD提言を気候変動対応の適切さを検証するガイドラインとして活用するとともに、機関投資家等との積極的な対話を実施し、効果的な情報開示を行っていきます。
表2 TCFD提言が企業に求める4つの開示推奨項目
開示項目 | 具体的な開示内容 |
ガバナンス | (a)取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象 |
(b)経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス、モニタリング方法 | |
リスク管理 | (a)気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細 |
(b)重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細 | |
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況 | |
戦略 | (a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細 |
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度 | |
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス | |
指標と目標 | (a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標 |
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3) | |
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標および実績 |
(a)取締役会が気候関連課題について報告を受けるプロセス、議題として取り上げる頻度、監視対象
当社グループでは、サステナビリティ経営をグループ全社で横断的に推進するため、環境課題に関する具体的な取り組みについて、業務執行の最高意思決定機関であるグループ経営会議で協議・決議しています。また、年2回以上開催されるサステナビリティ委員会において、グループ経営会議で協議・決議された環境課題への対応方針等を共有し、当社グループの環境課題に対する実行計画の策定と進捗モニタリングを行っています。
取締役会は、グループ経営会議およびサステナビリティ委員会で協議・決議された内容の報告を受け、当社グループの環境課題への対応方針および実行計画等についての論議・監督を行っています。(図2)
なお、当社は、取締役候補者の選任にあたり、取締役に期待する専門性および経験等についてスキルマトリックスで明確にしており、その項目の一つに「環境」を掲げています。事業活動を通じた環境課題の解決に向けた中長期目標を含む環境計画に対し、具体的な行動計画や定期的なレビュー、継続的改善の取り組み状況を適切に監督できる取締役を選任することで、環境課題に対する取り組みの実効性を高めています。
(b)経営者の気候関連課題に対する責任、報告を受けるプロセス、モニタリング方法
代表執行役社長は、グループ経営会議の長を担うと同時に、直轄の諮問委員会であるリスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会の委員長も担っており、環境課題に係る経営判断の最終責任を負っています。グループ経営会議およびサステナビリティ委員会で協議・決議された内容は、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表3・表4)
図2 JFRグループ 環境マネジメント体制
表3 JFRグループの環境マネジメントにおける会議体および実行主体と役割
会議体および実行主体 | 役割 | |
会議体 | 取締役会 | 業務執行において論議・承認された環境課題に関する取り組みの進捗を監督する。毎月開催。 |
グループ経営会議 | 業務執行の最高意思決定機関として、全社的な経営に係る方針や施策について協議・決議する。リスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会で論議された環境課題を含む包括的なリスク・機会に対する全社的な経営方針等についても協議・決議を行い、決議した事項は取締役会へ報告される。毎週開催。 | |
リスクマネジメント委員会 | 環境課題を含む包括的なリスク・機会の特定、評価および対応策等について協議を行うとともに、事業会社のリスク対応のモニタリングを実施する。委員会での協議内容は取締役会へ報告される。年3回開催。 | |
サステナビリティ委員会 | グループ経営会議で協議・決議された環境課題を含むサステナビリティに係るより詳細な課題への具体的な対応策を協議する。気候関連についてはリスク・機会を踏まえたグループ長期計画とKGI/KPIに基づく各事業会社の進捗状況のモニタリング等を実施する。また、気候関連に精通した有識者との対話も行う。協議内容は取締役会へ報告される。年2回以上開催。 | |
実行主体 | 代表執行役社長 | グループ経営会議の長を担うと同時に、リスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会の委員長を担う。気候関連のリスク・機会の特定・評価・対応、環境課題解決に向けたグループ全体の取り組み推進など、環境課題に係る経営判断の最終責任を負う。 |
事業会社 | 経営会議での決議事項、リスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会での協議内容を受け、各事業会社における環境課題への具体的施策を計画・実行するとともに、その進捗状況をJFRグループのリスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会へ報告する。 | |
サステナビリティ推進部 | サステナビリティ経営を推進するためのグループ方針等について立案・提案を行う。気候関連については、リスクおよび機会に関する情報を収集するとともに、中・長期的な取り組みの方向性等を立案し、グループ経営会議やサステナビリティ委員会へ報告する。 |
表4 サステナビリティ委員会における気候変動に関する主な議題
2021年度 | 4月 | ・Scope3温室効果ガス削減に向けたお取引先様との取り組み ・2021年度サステナビリティ実行計画 ・2021年度お取引先様アセスメント(環境含む)実施概要 ・サステナビリティ方針の改定 ・グループ全体の2020年度KPI進捗状況 |
9月 | ・外部講師講演「ESG情報開示の重要性」 ・お取引先様アセスメント(環境含む)実施 ・グループ全体の2021年度上期KPI進捗状況 | |
2022年度 | 4月 | ・外部講師講演「ESG・サステナビリティ経営」 ・2022年度サステナビリティ実行計画 ・2021年度お取引先様アセスメント(環境含む)結果 ・グループ全体の2021年度KPI進捗状況 |
9月 | ・グループ全体の2022年度上期KPI進捗状況 |
(a)気候関連リスクの特定・評価プロセスの詳細
当社グループは、リスクを戦略の起点と位置づけ、「企業経営の目標達成に影響を与える不確実性であり、プラスとマイナスの両面がある」と定義しており、企業が適切に対応することで、持続的な成長につながると考えています。
当社グループは、気候関連リスク・機会は、自社の事業戦略に大きな影響を及ぼすとの認識のもと、下記のプロセスを通じて気候関連リスク・機会を特定し、その重要性を評価しています。(図3)
はじめに、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目である「商品調達」「輸送・配送」「店舗販売」「商品、サービスの利用」「廃棄」の活動項目ごとに、気候関連リスク・機会を網羅的に抽出します。次に、網羅的に抽出した気候関連リスク・機会の中から、当社にとって重要な気候関連リスク・機会を特定します。最後に、特定した気候関連リスク・機会について、「自社にとっての重要性(影響度×緊急度)」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの評価基準に基づき評価しています。
(b)重要な気候関連リスクの管理プロセスの詳細
当社グループは、環境課題に係るリスクについて、サステナビリティ委員会の中でより詳細に検討を行い、各事業会社と共有化を図っています。各事業会社では、気候変動の取り組みを実行計画に落とし込み、各事業会社社長を長とする会議の中で論議しながら実行計画の進捗確認を行っています。その内容について、グループ経営会議やリスクマネジメント委員会およびサステナビリティ委員会において、進捗のモニタリングを行い、最終的に取締役会へ報告を行っています。(表5)
(c)全社リスク管理の仕組みへの統合状況
当社グループは、リスクを全社的に管理する体制を構築することが重要であることを踏まえ、リスクマネジメント委員会を設置しています。リスクマネジメント委員会では、毎年実施する環境分析をもとに、リスクが顕在化する可能性の程度・時期や事業への影響の観点で、気候関連を含む包括的なリスク・機会を特定し、対応策を審議しています。また、中期的に当社グループ経営において極めて重要度が高いものは「企業リスク」として中期経営計画に反映し、対応しています。リスクマネジメント委員会での協議内容は、グループ経営会議に報告されるとともに、サステナビリティ委員会に共有されます。
なお、上記一連のプロセスにおけるリスクマネジメント委員会、サステナビリティ委員会での協議内容、グループ経営会議での決議事項については、それぞれ適時取締役会に報告しており、取締役会による監督体制の下、当社グループの戦略に反映し、対応しています。
(※全社リスク管理の仕組みは15-17ページ参照)
図3 JFRグループ リスク管理プロセス | 表5 JFRグループ リスク管理体制 | |||||||||
|
(a)短期・中期・長期のリスク・機会の詳細
当社グループは、気候関連リスク・機会は、長期間にわたり自社の事業活動に影響を与える可能性があるため、適切なマイルストーンにおいて検討することが重要であると考えています。それを踏まえ、当社グループは、中期経営計画の実行期間である2023年度までを短期、SBTにおける目標達成年度である2030年度までを中期、SBTネットゼロ目標年度である2050年度までを長期と位置づけました。(表6)
当社グループは、気候関連リスク・機会に対し、ネットゼロを実現する2050年までを見据えたバックキャスティングにより、当社グループの戦略を策定し、対応しています。
表6 JFRグループにおける気候関連リスクと機会の検討期間の定義
気候関連リスク・機会の 検討期間 | JFRグループの定義 | |
短期 | 2023年度まで | 中期経営計画の実行期間 |
中期 | 2030年度まで | SBTにおける目標達成年度までの期間 |
長期 | 2050年度まで | SBTネットゼロ目標年度までの期間 |
(b)リスク・機会が事業・戦略・財務計画に及ぼす影響の内容・程度
当社グループは、気候変動が当社グループに与えるリスク・機会とそのインパクトの把握、および2030年度時点の世界を想定した当社グループの戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数の既存シナリオを参照の上、パリ協定の目標である「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること」を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、および、新たな気候関連政策・規制は導入されない世界を想定した4℃シナリオの2つの世界を想定しています。(表7)
この2つのシナリオを踏まえ、当社グループは、サプライチェーン・プロセスの活動項目ごとに、TCFD提言に沿って、気候関連リスク・機会を抽出しました。その上で、気候変動がもたらす移行リスク(政策規制、技術、市場、評判)や物理リスク(急性、慢性)、また、気候変動への適切な対応による機会(資源効率、エネルギー源、製品およびサービス、市場、レジリエンス)を特定しました。(表8)
表7 参照した既存シナリオ
想定される世界 | 既存シナリオ |
1.5℃/2℃未満シナリオ | 「Net‐Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)」(IEA、2022年) |
「Representative Concentration Pathways (RCP2.6)」(IPCC、2014年) | |
4℃シナリオ | 「Stated Policy Scenario(STEPS)」(IEA、2022年) |
「Representative Concentration Pathways (RCP8.5)」(IPCC、2014年) |
表8 JFRグループにおける気候関連リスク・機会の概要
気候関連 リスク・機会の 種類 | 発現時期 | JFRグループの気候関連リスク・機会の概要 | ||||
短 期 | 中 期 | 長 期 | ||||
リスク | 移行リスク | 政策 規制 | ● | ● | ・炭素税等の導入に伴うコストの増加 ・地政学的リスクに伴うエネルギー調達コストの増加 | |
技術 | ● | ● | ● | ・再エネ調達の分散化と創エネ(PPAなど)によるコストの増加 ・環境性能の高い物件の開発と設備導入に係るコストの増加 ・高効率省エネルギー機器導入に係る投資の増加 | ||
市場 | ● | ● | ・再エネ由来電力需要増による再エネ調達コストの増加 ・環境配慮型商品の需要増等、マーケット変化への対応遅れによる成長機会の喪失 | |||
評判 | ● | ● | ・環境課題への対応遅れや、消費行動多様化への対応遅れによるレピュテーションの低下 ・投資家からの環境情報開示要求への対応不備による資金調達への悪影響 ・レピュテーション低下による人財採用および従業員エンゲージメントへの悪影響 | |||
物理リスク | 急性 | ● | ● | ・自然災害による物流ルートの断絶 ・自然災害による店舗休業に伴う収益の減少 | ||
慢性 | ● | ● | ・降雨量等気象パターンの変化に伴う農畜水産物の収量・品質の不安定化による調達コストの増加 ・気候変動に起因する感染症リスクによる従業員の健康被害の増加 | |||
機会 | 資源効率 | ● | ● | ・省エネルギー施策の強化によるエネルギー調達コストの減少 ・環境価値の高い店舗への転換によるエネルギー調達コストの減少 | ||
エネルギー源 | ● | ● | ● | ・高効率省エネルギー機器導入によるエネルギー調達コストの減少 ・創エネルギー導入によるエネルギー調達コストの減少 ・再エネに係る新たな政策・制度の進展による再エネ調達コストの減少 | ||
製品および サービス | ● | ● | ・サステナブルなライフスタイルを提案することによる新規顧客の獲得に伴う収益の拡大 ・環境配慮型商品・サービスの需要増への対応によるサプライチェーン全体の脱炭素化および収益の拡大 | |||
市場 | ● | ● | ● | ・グリーンボンド等による資金調達先の拡大 ・サーキュラー型ビジネスへの新規参入による新たな成長機会の拡大 ・小売業の枠を超えた事業ポートフォリオの再構築と、環境配慮型商品市場への参入・拡大による収益力の向上 ・環境価値の高い店舗への転換による新たなテナントの獲得機会増に伴う収益の拡大 | ||
レジリエンス | ● | ● | ・再エネ・省エネ・創エネ推進および調達先の多様化に伴うエネルギーレジリエンスの向上 |
(c)関連するシナリオに基づくリスク・機会および財務影響とそれに対する戦略・レジリエンス
当社グループは、網羅的に抽出・特定した気候関連リスク・機会の中から、「自社にとっての重要性(影響度×緊急度)」と、「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの評価基準に基づき、その重要性を評価しました。特に重要性が高いと評価した項目について、2030年度を想定した1.5℃/2℃未満シナリオ、および4℃シナリオの2つのシナリオにおける財務影響を定量、定性の両側面から評価し、それぞれの対応策を策定しました。(表9)
なお、定性的財務影響については、矢印の傾きによって3段階で表示しています。
表9 JFRグループにとって特に重要な気候関連リスク・機会、および2030年度の財務影響
:JFRグループの事業および財務への影響が非常に大きくなることが想定される | ||
:JFRグループの事業および財務への影響がやや大きくなることが想定される | ||
:JFRグループの事業および財務への影響が軽微であることが想定される |
JFRグループにとって特に重要な 気候関連リスク・機会 | 財務影響 | 対応策 | |||
1.5℃/2℃未満 シナリオ | 4℃ シナリオ | ||||
リスク | ・炭素税等の導入に伴うコストの増加 | 約14億円※1 | 約9億円※1 | ●2050年ネットゼロ目標達成に向けた店舗における積極的な省エネ施策や再エネ切り替え拡大による温室効果ガス排出量削減 | |
・環境性能の高い物件の開発と設備導入に係るコストの増加 | ●グリーンボンド等を活用した資金調達 ●コスト効率的な設備導入 | ||||
・高効率省エネルギー機器導入に係る投資の増加 | ●インターナルカーボンプライシングの導入検討 ●コスト効率的かつ計画的な投資の検討 | ||||
・再エネ由来電力需要増による再エネ調達コストの増加 | 約7億円※2 | 約3億円※2 | ●再エネ調達手法の分散化による再エネ調達リスクの低減と中長期的なコストの低減 ●自社施設への再エネ設備導入等、再エネ自給率の向上 | ||
・自然災害による店舗休業に伴う収益の減少 | 約52億円※3 | 約103億円※3 | ●BCP整備による店舗・事業所のレジリエンス強化 ●店舗の防災性能の向上 | ||
機会 | ・高効率省エネルギー機器導入によるエネルギー調達コストの減少 | 約5億円※4 | ●高効率省エネルギー機器への適切なタイミングでの更新 | ||
・サステナブルなライフスタイルを提案することによる新規顧客の獲得に伴う収益の拡大 | ●シェアリング・アップサイクル等サーキュラー型ビジネスの拡大 | ||||
・環境配慮型商品・サービスの需要増への対応によるサプライチェーン全体の脱炭素化および収益の拡大 | ●環境配慮型包装資材への切り替え等、環境配慮型製品・サービスの取扱い拡大 ●廃棄物削減のためのAI需要予測サービスの導入等、お取引先様との協働による脱炭素に向けた取り組み | ||||
・サーキュラー型ビジネスへの新規参入による新たな成長機会の拡大 | ●M&AやCVC※投資を有効活用したサーキュラー型ビジネスの立ち上げ ●中期経営計画で策定した「リアル&デジタル戦略」の推進による販売チャネルの多様化 | ||||
・環境価値の高い店舗への転換による新たなテナントの獲得機会増に伴う収益の拡大 | 約10億円※5 | ― | ●新規開発物件の環境認証の取得(ZEB、CASBEE等) ●RE100実現に向けた店舗の再エネ化の促進 |
(2030年度時点を想定した定量的財務影響の算出根拠)
※1 2030年度時点のJFRグループScope1・2温室効果ガス排出量に1t-CO2あたりの炭素
価格を乗じて試算
※2 2030年度時点のJFRグループ電気使用量に通常の電気料金と比較した1kWhあたりの
再エネ由来電気料金価格高を乗じて試算
※3 過去の自然災害による店舗休業に伴う売上損失額に洪水発生頻度を乗じて試算
※4 2030年度時点のJFRグループ省エネルギー量にエネルギー調達コストを乗じて試算
※5 2030年度時点のJFRグループ不動産収益に環境認証取得ビルの新規成約賃料変動率を
乗じて試算
当社グループは、マテリアリティ「脱炭素社会の実現」に向け、当社グループの事業活動について、上記シナリオを前提に気候変動がもたらす影響を分析し、その対応策を検討し、当社グループの戦略レジリエンス(強靭性)を検証しています。
・JFRグループ 2050年ネットゼロ移行計画
当社グループは、2050年ネットゼロの実現に向け、1.5℃/2℃未満シナリオおよび4℃シナリオのいずれのシナリオ下においても、中長期視点から戦略レジリエンスを強化していく必要があると考えています。
そのため、当社グループは、2050年ネットゼロ実現に向けた移行計画を策定しました。(図4)同計画では、事業戦略において、マイナスのリスクに対しては適切な回避策を策定する一方、プラスの機会に対しては、マーケット変化へ積極的に対応する等、新たな成長機会の獲得を目指すため、短期・中期・長期的視点から、具体的取り組みを明確化しています。
図4 2050年ネットゼロ移行計画※
(a)気候関連リスク・機会の管理に用いる指標
当社グループは、気候関連リスク・機会を管理するための指標として、Scope1・2・3温室効果ガス排出量、および事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率の2つの指標を定めています。
また、役員報酬では、業績連動株式報酬を決定する非財務指標の一つとして、Scope1・2温室効果ガス排出量削減率目標を設定し、気候変動問題に対する執行役の責任を明確化しています。
(※役員報酬と非財務指標は86ページ参照)
(b)温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)
当社グループは、2017年度から、グループ全体の温室効果ガス排出量の算定に取り組んでいます。当社グループの2022年度Scope1・2温室効果ガス排出量は、約11万t-CO2(2017年度比43.5%削減)、Scope3温室効果ガス排出量は、約277万t-CO2(2017年度比5.5%削減)を見込んでいます。また、再エネ比率は33.6%となる見通しです。(表10・図5・6・7)
なお、2022年度のScope1・2・3温室効果ガス排出量および再エネ電力使用量は、第三者保証を取得する見込みです。
表10 JFRグループ Scope1・2・3温室効果ガス排出量実績および見通し
(単位:t-CO2)
2017年度 | 2021年度 | 2022年度見通し | |||
実績※1 | 実績※1 | 見通し | 2017年度比 (基準年度比) | ||
Scope1・2排出量 合計 | 194,154 | 122,812 | 109,792 | ▲43.5% | |
内訳 | Scope1排出量 | 16,052 | 14,004 | 13,715 | ▲14.6% |
Scope2排出量 | 178,102 | 108,808 | 96,077 | ▲46.1% | |
Scope3排出量※2 合計 | 2,927,320 | 2,420,492 | 2,766,700 | ▲5.5% | |
再エネ比率(%) | - | 20.3 | 33.6 | - |
2 「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドラインver3.3(2023年3月 環境省
経済産業省)」・IDEAv2.3(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)に基づき算出
(c)気候関連リスク・機会の管理に用いる目標および実績
当社グループは、世界全体の1.5℃目標達成のため、2018年に長期的な温室効果ガス排出量削減目標を設定し、2019年にScope1・2・3温室効果ガス排出量削減目標について「SBTイニシアチブ」による認定を取得しました。2021年には、マテリアリティの進化に伴い、2030年のScope1・2温室効果ガス排出量削減目標を従来の40%から60%削減(基準年2017年度比)に引き上げ、SBTイニシアチブが定める「1.5℃目標」として認定を再取得しました。また、2023年2月には、Scope1・2・3温室効果ガス排出量について、2050年までの「ネットゼロ目標」の認定を取得しました。(表11)
これらの長期目標達成のため、当社グループは、2019年度から、自社施設における再生可能エネルギー由来電力の調達を開始し、2020年10月に「RE100※」に加盟し、2050年までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率100%を目指します。また、その中間目標として、2030年までに、事業活動で使用する電力に占める再生可能エネルギー比率60%を目指します。
今後も、2050年までのネットゼロの実現に向け、再生可能エネルギー由来電力の調達拡大に取り組みます。
※事業活動で使用する電力を2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを目標とする国際的イニシアチブ
表11 JFRグループの気候関連リスク・機会の管理に用いる目標
指標 | 目標年度 | 目標内容 |
温室効果ガス排出量 | 2050年 | Scope1・2・3温室効果ガス排出量ネットゼロ |
2030年 | Scope1・2温室効果ガス排出量60%削減(2017年度比)※1 Scope3温室効果ガス排出量40%削減(2017年度比)※1 | |
事業活動で使用する 電力に占める 再エネ比率 | 2050年 | 事業活動で使用する電力に占める再エネ比率100%※2 |
2030年 | 事業活動で使用する電力に占める再エネ比率60% |
※2 2020年 RE100に加盟
図5 Scope1・2排出量 | 図6 Scope3排出量 | ||
図7 再エネ比率 | |||
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