有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100QYHM (EDINETへの外部リンク)
株式会社 神戸製鋼所 研究開発活動 (2023年3月期)
当社グループ(当社及び連結子会社)は、幅広い技術分野での高度な技術力を源泉として、当社グループならではの顧客価値を実現する製品の創出と、それに必要な「ものづくり力」の強化を中心に取り組み、また拡販のための技術支援、ソリューション提案など多くの成果をあげております。
2050年のカーボンニュートラル達成に向け、「ハイブリッド型水素ガス供給システム」の検討を進め、実証設備を建設した上で、2023年4月から当社高砂製作所内で実証試験を開始します。今後、工場の脱炭素化に向けた手段の一つとして、主要な熱エネルギー消費設備である工業炉・ボイラー等でのCO₂フリー水素の利用が期待されています。当社グループが提案するハイブリッド型水素ガス供給システムは、中小規模の事業者様にとって導入のカギとなる「安定かつ安価な水素づくり」に対するソリューションを提供するもので、機械事業部門の気化器、(株)神鋼環境ソリューションの水電解式水素製造装置、エンジニアリング事業部門の運転マネジメント技術といった、三つの製品・技術より構成されています。なお、本システム実証の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構による「水素社会構築技術開発事業」における調査委託及び助成事業に採択されています。※
※国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素社会構築技術開発事業」採択案件
a.「熱によるエネルギー消費が主体の工場の脱炭素化に向けた水素利活用モデルに関する調査」
b.「液化水素冷熱の利用を可能とする中間媒体式液体水素気化器の開発」
技術開発本部では、①カーボンニュートラルやデジタル化に関する先進技術の開発、②新規事業創出活動の加速、③既存事業の競争力向上、の3点に注力します。特に、将来の成長分野・新規分野への取組みを強化することで、KOBELCOの事業ポートフォリオ変革に挑戦していきます。また、開発した技術を積極的にグループ内に水平展開していくことで、複合経営ならではのシナジーを追求していきます。
2022年10月1日に、国立大学法人大阪大学産業科学研究所(以下、阪大産研)と「KOBELCO未来協働研究所」を設立しました。本協働研究所は、当社グループの多様な技術と阪大産研のAIの知見を掛け合わせて「ものづくりを革新するソリューション」の共創と社会実装に取り組む、産学連携のオープンイノベーションの場です。「人がシステムと共に成長しながら、創造性豊かにイキイキと活躍できる“ものづくりの世界”の実現」をビジョンに掲げ、広範な産業における課題解決と、新規事業創出による企業価値向上を目指していきます。
当連結会計年度における当社グループの研究開発費は、367億円であります。なお、本費用には、当社技術開発本部で行っている事業部門横断的又は基礎的研究開発などで、各事業区分に配分できない費用として計上する費用57億円が含まれております。
主な事業の種類別セグメント毎の研究開発活動の状況は、次のとおりであります。
[鉄鋼アルミ]
鉄鋼アルミでは、特殊鋼線材、自動車用高強度鋼、ディスク用アルミ板などの戦略製品の差別化による拡販と生産性・歩留まり向上による収益改善のための技術開発に注力しています。また、CO₂排出量削減に直接貢献できる技術開発にも引き続き取り組んでおります。
鉄鋼では、高炉工程におけるCO₂排出量を大幅に削減した低CO₂高炉鋼材「Kobenable Steel」を国内で初めて商品化しました。本商品は、2021年2月16日に公表した「KOBELCOグループの製鉄工程におけるCO₂低減ソリューション」に基づくものであり、エンジニアリング事業部門のミドレックス技術(天然ガスを使った還元鉄製鉄法)を用いて製造したHBI(熱間成形還元鉄)を加古川製鉄所の高炉に多量に装入することで、高炉からのCO₂排出量を大幅に削減できる技術を活用したものです。低CO₂高炉鋼材「Kobenable Steel」を社会に先駆けてご提供することにより、グリーン社会の実現に貢献していきます。
この「Kobenable Steel」が、日産自動車(株)の2023年1月以降の量産車及び(株)IHI、三菱地所(株)、鹿島建設(株)による「(仮称)豊洲4-2街区開発計画B棟(東京都江東区豊洲)」の新築工事に採用されることが決まりました。今回の採用では、製造時のCO₂排出量をマスバランス方式により100%削減した「Kobenable Premier」を使用する予定です。
また、加古川製鉄所において、UDトラックス開発のレベル4自動運転技術を搭載した大型トラック「クオン」を用いて自動搬送の実証実験を2022年に実施しました。重さ約17トンのスラグを積み、複数の異なる地点を自動搬送し、所定内での停止・搬送物の積み下ろしといった複雑な運行作業も自動で行いました。今回の実証実験で得た知見を活用し、自動運転技術を通した製造現場のDXを推進し、生産の効率化や人手不足などの課題解決を目指します。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、63億円であります。
[素形材]
素形材では、今中期の研究開発方針として、①将来においても事業の中核をなす製品の探索と製品開発への経営資源の選択と集中、②DX推進によるものづくり基盤の強化、③カーボンニュートラルに向けた技術開発の推進、を掲げ、各々の方針に対して、以下の取組みに重点を置いて研究開発活動を推進しております。
①コロナ禍やロシアウクライナ問題に端を発する世界的なサプライチェーンの変化に対応すべく、半導体向けのアルミ加工品や、航空機向けのチタン鍛造品に関連する研究開発に取り組んでおります。
②サスペンションの生産能力最大化(ものづくり力強化)に向けて、生産工程の自動化などの研究開発に取り組んでおります。
③アルミをはじめとするリサイクル・資源循環比率の向上に資する研究開発に取り組んでおります。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、16億円であります。
[溶接]
溶接では、「世界で最も信頼される溶接ソリューション企業」の実現を目指し、突出した単一の技術もしくは複数技術の組合せにより、お客様の溶接に関する課題解決を図ります。溶接材料と溶接プロセス・溶接機器・ロボットによる「溶接ソリューション」を提供する企業として、引き続き特徴ある製品の開発に注力しています。
溶接システムでは、新型多関節型ロボットARCMAN™ A60、新型ハイエンド溶接電源SENSARC™ RA500及びNEW REGARC™プロセスを搭載した、新・鉄骨溶接システムを開発しました。溶接品質をしっかり確保しながらも、NEW REGARC™の性能を最大限に活かす溶接施工条件の開発により溶接時間を短縮し、加えて、改良した周辺機器により非溶接時間も短縮することで、従来比10%以上のサイクルタイム短縮を実現しています。溶接技能者不足、溶接の自動化を課題にする国内外の建築鉄骨市場向けに、専用ワイヤFAMILIARC™ MG-56R(A)との組合せによる生産性向上を提案してまいります。
また、9%Ni鋼製LNGタンク用Ni基合金フラックス入りワイヤPREMIARC™ DW-N609SV、PREMIARC™ DW-N709SPで立向姿勢の自動溶接を可能にする小型可搬型ロボットKI-700を開発しました。タッチセンシングによる開先形状検知機能、検知した開先形状から最適な積層パターン及び溶接条件を自動生成する機能を有します。Ni基合金モードを搭載したデジタル溶接電源SENSARC™ AB500との組合せにより、難易度の高い9%Ni鋼の溶接でオペレータの技量に依らず安定した品質の溶接を行うことが可能です。さらに人手では不可能な長尺の連続溶接による高能率化にも寄与します。
ARCMAN™ Offline-Teaching Systemは、ARCMAN™と同じソフトを使用することで動作を正確に表現することができるオフラインティーチングソフトです。この度、新機能として従来では確認の難しかったケーブルの干渉や巻き付きを簡単かつ高速で確認することのできる「ケーブルシミュレーション機能」を開発しました。溶接品質低下や自動化を阻害する要因となっていたワイヤ送給ケーブルのワーク等への絡まりなどをPC上にてシミュレーションで確認、改善することが可能となります。ライン停止時間の短縮、実機での溶接確認作業の負荷軽減及び優れた溶接品質の確保に貢献することで、溶接ロボットシステムの更なる生産性向上に貢献してまいります。
溶接材料では、HT780MPa級鋼の溶接後熱処理に対応した被覆アーク溶接棒「TRUSTARC™ LB-80LSR」を開発しました。溶接金属部の組織制御のため化学成分を最適化し、従来困難であった溶接熱処理後の優れた機械的性質を実現しています。欧州北海でのCO₂回収・貯留プロジェクトにて建造される舶置液化CO₂タンクの要求事項に対応し、溶接部に同製品が採用されました。今後も世界各国のエネルギー産業に向け、気候変動問題の解決に貢献する製品の提案に積極的に取り組んでまいります。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、38億円であります。
[機械]
機械では、「2050年のカーボンニュートラルの実現に貢献する」をキーワードに、オンリーワン・ナンバーワン技術や商品を創出することで独自性を徹底追求するとともに、マーケット及び生産の両面から更なるグローバル化を推進し、世界トップレベルの「ものづくり」の実現を目指しています。
カーボンニュートラルに関わる事業活動や新事業創出活動をさらに加速させる目的の下、2022年4月1日付けで「新事業推進本部」を新設しました。カーボンニュートラルに関わる事業活動や新事業創出活動をさらに加速させる目的の下、新事業を担う開発・技術・営業の専任部署を統合することで、目まぐるしく変化する事業環境への対応力を高め、既存の枠にとらわれないイノベーション創出に取り組んでまいります。
産業機械関連分野では、日本理化学工業(株)向けに積層型多流路反応器(製品名:SMCR Stacked Multi-Channel Reactor)を納入し、運転を開始しました。SMCRは当社の50年以上にわたる熱交換器の設計・製造に関する技術を活かし、2012年に開発した小型反応器の一種です。ステンレスのプレートに幅1~2㎜の微細な流路を加工・積層し拡散接合※1をすることで流路の本数を増やし、コンパクトでありながら工業規模での大容量生産に対応可能としています。従来、医薬品・ファインケミカル分野の製造プロセスにおいては「バッチ生産」が主流でしたが、近年は省エネルギー性や生産効率の観点から「連続生産」が志向されています。日本理化学工業(株)では連続生産方式を積極的に導入されており、今回SMCRの特長である大容量で高効率、かつコンパクトである点を評価頂いたことで採用に至りました。
また、アークイオンプレーティング装置(AIP※2)において、従来品と比較し、生成する皮膜の長寿命化を達成した「AIP-iX」シリーズを開発しました。切削工具向けの代表的な皮膜であるAlCrN(窒化アルミクロム)は、コーティング皮膜中のAlの含有量が多いほど耐酸化性に優れ、高速切削や高切込みなどの難加工条件に適していますが、Alの含有量が多くなりすぎると(概ね65at%以上※3)、皮膜構造が高硬度な立方晶から六方晶へと変化し硬度が低下するという課題がありました。この課題に対し「AIP-iX」では、新開発した装置や成膜プロセスにより、皮膜の金属元素のうちAl含有率が70at%以上であっても立方晶を維持し、硬質なAlCrN皮膜のコーティングが可能となったことで、性能に特化したハイエンド工具と比較して約1.5倍の寿命向上を確認しました。来春より「AIP-iX」の販売を開始し、世界中の切削工具の寿命向上並びに機械加工の高速化へ貢献いたします。
圧縮機関連分野では、2022年7月4日に三浦工業(株)(以下、三浦工業)と船舶向けに搭載する舶用バイナリー発電システム(以下、舶用バイナリー発電)の技術ライセンス契約(開発・製造・販売)を締結しました。三浦工業とは主機エンジンに供給する高温の過給機からの排熱を利用した舶用バイナリー発電の共同開発を行い、実船搭載での海上試験を2017年に実施しました。また、当社ではこれを含む計4隻の長期実船運用試験を行い、実際の運用における性能や耐久性において確認を行ってきました。ライセンスを受けた三浦工業は舶用バイナリー発電について、2025年頃の販売開始を目指します。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、54億円であります。
※1 溶接など接合方法の一種。材料同士を密着させ、高温で加熱しながら加圧する事で、原子レベルで結びつける接合方法。一般的な溶接とは違い母材を溶かす事なく接合するため、微細な流路や複雑な三次元構造体の接合に適する。
※2 AIP(Arc Ion Plating)は物理蒸着と呼ばれる薄膜形成技術であるPVD(Physical Vapor Deposition)の一種で、真空中のアーク放電によって材料を蒸発・イオン化させて、母材に薄膜をコーティングする技術。耐摩耗性、低摩擦化等の特性を母材に付与することが可能で、工具や金型、機械部品などに用いられる。
※3 at%は物質に含まれる原子の数の比率。65at%は100個の原子があればそのうち65個を占めることを意味する。
[エンジニアリング]
エンジニアリングでは、循環型社会、脱炭素社会の実現に向け、将来の成長が見込まれる分野における独自プロセス・技術の開発、更なる差別化、競争力強化に向けた開発を推進しております。
廃棄物処理関連分野では、大栄環境(株)、DINS関西(株)、三菱ガス化学(株)、三菱化工機(株)との5社にて提案した「廃プラスチックのガス化及びメタノール化実証事業」が、環境省の「2022年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」に採択され、国内初となる当該実証事業を開始しました。世界では海洋プラスチック問題が社会問題化するなど環境保護等の観点から、プラスチックのリサイクル方法確立の必要性が急速に高まっており、本事業はこれまで廃棄されていたプラスチックについて、ケミカルリサイクルによる資源循環システム構築を目指すものです。
還元鉄関連分野では、天然ガスを還元剤とするMIDREX NG™に加え、天然ガスを最大100%まで柔軟に水素に置き換えることが出来るMIDREX Flex™や、水素を100%還元剤として用いるMIDREX H2™の競争力維持・強化に向けた開発を継続しております。こうした開発の成果として、MIDREX Flex™はドイツthyssenkrupp社から、MIDREX H2™はスウェーデン・H2グリーンスチール社から、それぞれ世界初となる商業機を受注しました。
水処理関連分野では、汚泥燃料化をはじめとするバイオマス・下水汚泥のエネルギー化技術の多様化を推進しております。
水素事業においては、グリーン水素需要の高まりを見据え、水電解式水素発生装置の大型化や次世代技術の開発を加速しております。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、35億円であります。
[建設機械]
建設機械では、主力製品である油圧ショベル、クローラクレーンなどの安全性向上、省エネ性向上、排ガス対応・騒音低減などの環境対応に加え、建設リサイクル機械・金属リサイクル機械の開発に取り組んでおります。クラウドやAI、IoT等の先進テクノロジーの活用により「建設現場のテレワーク化」を実現し、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保などを目指しています。
ショベルでは、コベルコ建機(株)(以下、コベルコ建機)は、2022年12月5日より重機ショベルの遠隔操作と稼働データを用いた現場改善ソリューションが実現できるK-DIVEサービスの提供を開始しました。本サービスでは、コックピットにモーションシート、音のフィードバック、可動式メインカメラ、よそ見検知機能などの機能を搭載しており、安全で快適な現場作業を行うことが可能となります。K-DIVEは多様な人を集め・活かし・育てる現場を作ることで「人」を起点に組織を活性化し、経営効率を上げ、お客様の業界全体を変えていくという未来像のもと、「働く人を中心とした、建設現場のテレワークシステム」をコンセプトとしています。建設機械の遠隔操作とマッチングサービスを融合させることで、特定の人・場所・時間などの制約を受けずに、建設現場での施工が可能となり、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保が可能になる未来の実現を目指しています。
また、コベルコ建機は2022年11月16日~17日にオーストリアのウィーンで開催された、解体業界のための国際的なネットワーク構築と教育を目的として毎年開催されるイベントであるWORLD DEMOLITION SUMMIT 2022において、Innovation Awardを受賞しました。今回、2021年4月1日より販売を開始した超大型建物解体専用機「SK1300DLC」の分解・組立性と搬送性を向上し、最大ピン高さと先端アタッチ最大装着可能質量のバランスを高次元で達成した革新性が、専門家によって構成される審査委員会に評価されました。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、91億円であります。
[その他]
(株)コベルコ科研では、エネルギー、自動車、エレクトロニクス、土木・建築、環境など広範囲にわたる分析・試験技術を蓄積するとともに、高度で先端的な評価・解析技術の開発を進めています。
受託試験研究事業では、カーボンニュートラルやDXなどの成長分野での事業拡大とソリューションビジネス強化に向けた技術開発に取り組んでおります。また、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同で、高精度なホットディスク法を用いた溶融アルミニウムの熱伝導率評価技術を確立しました。これまで測定できなかった材料の熱伝導率や比熱などの物性値を得ることにより、金属材料の鋳造や溶接に関するシミュレーションの精度向上が期待されます。
特殊溶解材料事業では、ディスプレイ向けや半導体デバイス向けのスパッタリングターゲット材の開発や、高付加価値の特殊合金素材の開発・商品化に向けて取り組んでおります。特殊溶解材料事業において、電子放出源向けの新材料としてCeIr2を開発しました。イリジウム(Ir)とセリウム(Ce)を原料として化合物化したものであり、一般的な電子放出源と比較し同等以上の電子放出効率と、低温域での動作という特徴を有しています。人工衛星等の電気推進機のコスト低減や長寿命化、X線CT装置の高解像度化や検査時間短縮、金属3Dプリンターの高出力化などに寄与することが期待されます。
半導体検査・測定装置事業では、半導体ウェハ向け装置の更なる高精度化・高機能化のための開発に取り組んでいます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、8億円であります。
2050年のカーボンニュートラル達成に向け、「ハイブリッド型水素ガス供給システム」の検討を進め、実証設備を建設した上で、2023年4月から当社高砂製作所内で実証試験を開始します。今後、工場の脱炭素化に向けた手段の一つとして、主要な熱エネルギー消費設備である工業炉・ボイラー等でのCO₂フリー水素の利用が期待されています。当社グループが提案するハイブリッド型水素ガス供給システムは、中小規模の事業者様にとって導入のカギとなる「安定かつ安価な水素づくり」に対するソリューションを提供するもので、機械事業部門の気化器、(株)神鋼環境ソリューションの水電解式水素製造装置、エンジニアリング事業部門の運転マネジメント技術といった、三つの製品・技術より構成されています。なお、本システム実証の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構による「水素社会構築技術開発事業」における調査委託及び助成事業に採択されています。※
※国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素社会構築技術開発事業」採択案件
a.「熱によるエネルギー消費が主体の工場の脱炭素化に向けた水素利活用モデルに関する調査」
b.「液化水素冷熱の利用を可能とする中間媒体式液体水素気化器の開発」
技術開発本部では、①カーボンニュートラルやデジタル化に関する先進技術の開発、②新規事業創出活動の加速、③既存事業の競争力向上、の3点に注力します。特に、将来の成長分野・新規分野への取組みを強化することで、KOBELCOの事業ポートフォリオ変革に挑戦していきます。また、開発した技術を積極的にグループ内に水平展開していくことで、複合経営ならではのシナジーを追求していきます。
2022年10月1日に、国立大学法人大阪大学産業科学研究所(以下、阪大産研)と「KOBELCO未来協働研究所」を設立しました。本協働研究所は、当社グループの多様な技術と阪大産研のAIの知見を掛け合わせて「ものづくりを革新するソリューション」の共創と社会実装に取り組む、産学連携のオープンイノベーションの場です。「人がシステムと共に成長しながら、創造性豊かにイキイキと活躍できる“ものづくりの世界”の実現」をビジョンに掲げ、広範な産業における課題解決と、新規事業創出による企業価値向上を目指していきます。
当連結会計年度における当社グループの研究開発費は、367億円であります。なお、本費用には、当社技術開発本部で行っている事業部門横断的又は基礎的研究開発などで、各事業区分に配分できない費用として計上する費用57億円が含まれております。
主な事業の種類別セグメント毎の研究開発活動の状況は、次のとおりであります。
[鉄鋼アルミ]
鉄鋼アルミでは、特殊鋼線材、自動車用高強度鋼、ディスク用アルミ板などの戦略製品の差別化による拡販と生産性・歩留まり向上による収益改善のための技術開発に注力しています。また、CO₂排出量削減に直接貢献できる技術開発にも引き続き取り組んでおります。
鉄鋼では、高炉工程におけるCO₂排出量を大幅に削減した低CO₂高炉鋼材「Kobenable Steel」を国内で初めて商品化しました。本商品は、2021年2月16日に公表した「KOBELCOグループの製鉄工程におけるCO₂低減ソリューション」に基づくものであり、エンジニアリング事業部門のミドレックス技術(天然ガスを使った還元鉄製鉄法)を用いて製造したHBI(熱間成形還元鉄)を加古川製鉄所の高炉に多量に装入することで、高炉からのCO₂排出量を大幅に削減できる技術を活用したものです。低CO₂高炉鋼材「Kobenable Steel」を社会に先駆けてご提供することにより、グリーン社会の実現に貢献していきます。
この「Kobenable Steel」が、日産自動車(株)の2023年1月以降の量産車及び(株)IHI、三菱地所(株)、鹿島建設(株)による「(仮称)豊洲4-2街区開発計画B棟(東京都江東区豊洲)」の新築工事に採用されることが決まりました。今回の採用では、製造時のCO₂排出量をマスバランス方式により100%削減した「Kobenable Premier」を使用する予定です。
また、加古川製鉄所において、UDトラックス開発のレベル4自動運転技術を搭載した大型トラック「クオン」を用いて自動搬送の実証実験を2022年に実施しました。重さ約17トンのスラグを積み、複数の異なる地点を自動搬送し、所定内での停止・搬送物の積み下ろしといった複雑な運行作業も自動で行いました。今回の実証実験で得た知見を活用し、自動運転技術を通した製造現場のDXを推進し、生産の効率化や人手不足などの課題解決を目指します。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、63億円であります。
[素形材]
素形材では、今中期の研究開発方針として、①将来においても事業の中核をなす製品の探索と製品開発への経営資源の選択と集中、②DX推進によるものづくり基盤の強化、③カーボンニュートラルに向けた技術開発の推進、を掲げ、各々の方針に対して、以下の取組みに重点を置いて研究開発活動を推進しております。
①コロナ禍やロシアウクライナ問題に端を発する世界的なサプライチェーンの変化に対応すべく、半導体向けのアルミ加工品や、航空機向けのチタン鍛造品に関連する研究開発に取り組んでおります。
②サスペンションの生産能力最大化(ものづくり力強化)に向けて、生産工程の自動化などの研究開発に取り組んでおります。
③アルミをはじめとするリサイクル・資源循環比率の向上に資する研究開発に取り組んでおります。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、16億円であります。
[溶接]
溶接では、「世界で最も信頼される溶接ソリューション企業」の実現を目指し、突出した単一の技術もしくは複数技術の組合せにより、お客様の溶接に関する課題解決を図ります。溶接材料と溶接プロセス・溶接機器・ロボットによる「溶接ソリューション」を提供する企業として、引き続き特徴ある製品の開発に注力しています。
溶接システムでは、新型多関節型ロボットARCMAN™ A60、新型ハイエンド溶接電源SENSARC™ RA500及びNEW REGARC™プロセスを搭載した、新・鉄骨溶接システムを開発しました。溶接品質をしっかり確保しながらも、NEW REGARC™の性能を最大限に活かす溶接施工条件の開発により溶接時間を短縮し、加えて、改良した周辺機器により非溶接時間も短縮することで、従来比10%以上のサイクルタイム短縮を実現しています。溶接技能者不足、溶接の自動化を課題にする国内外の建築鉄骨市場向けに、専用ワイヤFAMILIARC™ MG-56R(A)との組合せによる生産性向上を提案してまいります。
また、9%Ni鋼製LNGタンク用Ni基合金フラックス入りワイヤPREMIARC™ DW-N609SV、PREMIARC™ DW-N709SPで立向姿勢の自動溶接を可能にする小型可搬型ロボットKI-700を開発しました。タッチセンシングによる開先形状検知機能、検知した開先形状から最適な積層パターン及び溶接条件を自動生成する機能を有します。Ni基合金モードを搭載したデジタル溶接電源SENSARC™ AB500との組合せにより、難易度の高い9%Ni鋼の溶接でオペレータの技量に依らず安定した品質の溶接を行うことが可能です。さらに人手では不可能な長尺の連続溶接による高能率化にも寄与します。
ARCMAN™ Offline-Teaching Systemは、ARCMAN™と同じソフトを使用することで動作を正確に表現することができるオフラインティーチングソフトです。この度、新機能として従来では確認の難しかったケーブルの干渉や巻き付きを簡単かつ高速で確認することのできる「ケーブルシミュレーション機能」を開発しました。溶接品質低下や自動化を阻害する要因となっていたワイヤ送給ケーブルのワーク等への絡まりなどをPC上にてシミュレーションで確認、改善することが可能となります。ライン停止時間の短縮、実機での溶接確認作業の負荷軽減及び優れた溶接品質の確保に貢献することで、溶接ロボットシステムの更なる生産性向上に貢献してまいります。
溶接材料では、HT780MPa級鋼の溶接後熱処理に対応した被覆アーク溶接棒「TRUSTARC™ LB-80LSR」を開発しました。溶接金属部の組織制御のため化学成分を最適化し、従来困難であった溶接熱処理後の優れた機械的性質を実現しています。欧州北海でのCO₂回収・貯留プロジェクトにて建造される舶置液化CO₂タンクの要求事項に対応し、溶接部に同製品が採用されました。今後も世界各国のエネルギー産業に向け、気候変動問題の解決に貢献する製品の提案に積極的に取り組んでまいります。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、38億円であります。
[機械]
機械では、「2050年のカーボンニュートラルの実現に貢献する」をキーワードに、オンリーワン・ナンバーワン技術や商品を創出することで独自性を徹底追求するとともに、マーケット及び生産の両面から更なるグローバル化を推進し、世界トップレベルの「ものづくり」の実現を目指しています。
カーボンニュートラルに関わる事業活動や新事業創出活動をさらに加速させる目的の下、2022年4月1日付けで「新事業推進本部」を新設しました。カーボンニュートラルに関わる事業活動や新事業創出活動をさらに加速させる目的の下、新事業を担う開発・技術・営業の専任部署を統合することで、目まぐるしく変化する事業環境への対応力を高め、既存の枠にとらわれないイノベーション創出に取り組んでまいります。
産業機械関連分野では、日本理化学工業(株)向けに積層型多流路反応器(製品名:SMCR Stacked Multi-Channel Reactor)を納入し、運転を開始しました。SMCRは当社の50年以上にわたる熱交換器の設計・製造に関する技術を活かし、2012年に開発した小型反応器の一種です。ステンレスのプレートに幅1~2㎜の微細な流路を加工・積層し拡散接合※1をすることで流路の本数を増やし、コンパクトでありながら工業規模での大容量生産に対応可能としています。従来、医薬品・ファインケミカル分野の製造プロセスにおいては「バッチ生産」が主流でしたが、近年は省エネルギー性や生産効率の観点から「連続生産」が志向されています。日本理化学工業(株)では連続生産方式を積極的に導入されており、今回SMCRの特長である大容量で高効率、かつコンパクトである点を評価頂いたことで採用に至りました。
また、アークイオンプレーティング装置(AIP※2)において、従来品と比較し、生成する皮膜の長寿命化を達成した「AIP-iX」シリーズを開発しました。切削工具向けの代表的な皮膜であるAlCrN(窒化アルミクロム)は、コーティング皮膜中のAlの含有量が多いほど耐酸化性に優れ、高速切削や高切込みなどの難加工条件に適していますが、Alの含有量が多くなりすぎると(概ね65at%以上※3)、皮膜構造が高硬度な立方晶から六方晶へと変化し硬度が低下するという課題がありました。この課題に対し「AIP-iX」では、新開発した装置や成膜プロセスにより、皮膜の金属元素のうちAl含有率が70at%以上であっても立方晶を維持し、硬質なAlCrN皮膜のコーティングが可能となったことで、性能に特化したハイエンド工具と比較して約1.5倍の寿命向上を確認しました。来春より「AIP-iX」の販売を開始し、世界中の切削工具の寿命向上並びに機械加工の高速化へ貢献いたします。
圧縮機関連分野では、2022年7月4日に三浦工業(株)(以下、三浦工業)と船舶向けに搭載する舶用バイナリー発電システム(以下、舶用バイナリー発電)の技術ライセンス契約(開発・製造・販売)を締結しました。三浦工業とは主機エンジンに供給する高温の過給機からの排熱を利用した舶用バイナリー発電の共同開発を行い、実船搭載での海上試験を2017年に実施しました。また、当社ではこれを含む計4隻の長期実船運用試験を行い、実際の運用における性能や耐久性において確認を行ってきました。ライセンスを受けた三浦工業は舶用バイナリー発電について、2025年頃の販売開始を目指します。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、54億円であります。
※1 溶接など接合方法の一種。材料同士を密着させ、高温で加熱しながら加圧する事で、原子レベルで結びつける接合方法。一般的な溶接とは違い母材を溶かす事なく接合するため、微細な流路や複雑な三次元構造体の接合に適する。
※2 AIP(Arc Ion Plating)は物理蒸着と呼ばれる薄膜形成技術であるPVD(Physical Vapor Deposition)の一種で、真空中のアーク放電によって材料を蒸発・イオン化させて、母材に薄膜をコーティングする技術。耐摩耗性、低摩擦化等の特性を母材に付与することが可能で、工具や金型、機械部品などに用いられる。
※3 at%は物質に含まれる原子の数の比率。65at%は100個の原子があればそのうち65個を占めることを意味する。
[エンジニアリング]
エンジニアリングでは、循環型社会、脱炭素社会の実現に向け、将来の成長が見込まれる分野における独自プロセス・技術の開発、更なる差別化、競争力強化に向けた開発を推進しております。
廃棄物処理関連分野では、大栄環境(株)、DINS関西(株)、三菱ガス化学(株)、三菱化工機(株)との5社にて提案した「廃プラスチックのガス化及びメタノール化実証事業」が、環境省の「2022年度 二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」に採択され、国内初となる当該実証事業を開始しました。世界では海洋プラスチック問題が社会問題化するなど環境保護等の観点から、プラスチックのリサイクル方法確立の必要性が急速に高まっており、本事業はこれまで廃棄されていたプラスチックについて、ケミカルリサイクルによる資源循環システム構築を目指すものです。
還元鉄関連分野では、天然ガスを還元剤とするMIDREX NG™に加え、天然ガスを最大100%まで柔軟に水素に置き換えることが出来るMIDREX Flex™や、水素を100%還元剤として用いるMIDREX H2™の競争力維持・強化に向けた開発を継続しております。こうした開発の成果として、MIDREX Flex™はドイツthyssenkrupp社から、MIDREX H2™はスウェーデン・H2グリーンスチール社から、それぞれ世界初となる商業機を受注しました。
水処理関連分野では、汚泥燃料化をはじめとするバイオマス・下水汚泥のエネルギー化技術の多様化を推進しております。
水素事業においては、グリーン水素需要の高まりを見据え、水電解式水素発生装置の大型化や次世代技術の開発を加速しております。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、35億円であります。
[建設機械]
建設機械では、主力製品である油圧ショベル、クローラクレーンなどの安全性向上、省エネ性向上、排ガス対応・騒音低減などの環境対応に加え、建設リサイクル機械・金属リサイクル機械の開発に取り組んでおります。クラウドやAI、IoT等の先進テクノロジーの活用により「建設現場のテレワーク化」を実現し、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保などを目指しています。
ショベルでは、コベルコ建機(株)(以下、コベルコ建機)は、2022年12月5日より重機ショベルの遠隔操作と稼働データを用いた現場改善ソリューションが実現できるK-DIVEサービスの提供を開始しました。本サービスでは、コックピットにモーションシート、音のフィードバック、可動式メインカメラ、よそ見検知機能などの機能を搭載しており、安全で快適な現場作業を行うことが可能となります。K-DIVEは多様な人を集め・活かし・育てる現場を作ることで「人」を起点に組織を活性化し、経営効率を上げ、お客様の業界全体を変えていくという未来像のもと、「働く人を中心とした、建設現場のテレワークシステム」をコンセプトとしています。建設機械の遠隔操作とマッチングサービスを融合させることで、特定の人・場所・時間などの制約を受けずに、建設現場での施工が可能となり、深刻化する建設技能者の不足に対する多様な人材活用、現場生産性の向上、現場無人化による本質的な安全確保が可能になる未来の実現を目指しています。
また、コベルコ建機は2022年11月16日~17日にオーストリアのウィーンで開催された、解体業界のための国際的なネットワーク構築と教育を目的として毎年開催されるイベントであるWORLD DEMOLITION SUMMIT 2022において、Innovation Awardを受賞しました。今回、2021年4月1日より販売を開始した超大型建物解体専用機「SK1300DLC」の分解・組立性と搬送性を向上し、最大ピン高さと先端アタッチ最大装着可能質量のバランスを高次元で達成した革新性が、専門家によって構成される審査委員会に評価されました。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、91億円であります。
[その他]
(株)コベルコ科研では、エネルギー、自動車、エレクトロニクス、土木・建築、環境など広範囲にわたる分析・試験技術を蓄積するとともに、高度で先端的な評価・解析技術の開発を進めています。
受託試験研究事業では、カーボンニュートラルやDXなどの成長分野での事業拡大とソリューションビジネス強化に向けた技術開発に取り組んでおります。また、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同で、高精度なホットディスク法を用いた溶融アルミニウムの熱伝導率評価技術を確立しました。これまで測定できなかった材料の熱伝導率や比熱などの物性値を得ることにより、金属材料の鋳造や溶接に関するシミュレーションの精度向上が期待されます。
特殊溶解材料事業では、ディスプレイ向けや半導体デバイス向けのスパッタリングターゲット材の開発や、高付加価値の特殊合金素材の開発・商品化に向けて取り組んでおります。特殊溶解材料事業において、電子放出源向けの新材料としてCeIr2を開発しました。イリジウム(Ir)とセリウム(Ce)を原料として化合物化したものであり、一般的な電子放出源と比較し同等以上の電子放出効率と、低温域での動作という特徴を有しています。人工衛星等の電気推進機のコスト低減や長寿命化、X線CT装置の高解像度化や検査時間短縮、金属3Dプリンターの高出力化などに寄与することが期待されます。
半導体検査・測定装置事業では、半導体ウェハ向け装置の更なる高精度化・高機能化のための開発に取り組んでいます。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、8億円であります。
このコンテンツは、EDINET閲覧(提出)サイトに掲載された有価証券報告書(文書番号: [E01231] S100QYHM)をもとにシーフル株式会社によって作成された抜粋レポート(以下、本レポート)です。有価証券報告書から該当の情報を取得し、小さい画面の端末でも見られるようソフトウェアで機械的に情報の見栄えを調整しています。ソフトウェアに不具合等がないことを保証しておらず、一部図や表が崩れたり、文字が欠落して表示される場合があります。また、本レポートは、会計の学習に役立つ情報を提供することを目的とするもので、投資活動等を勧誘又は誘引するものではなく、投資等に関するいかなる助言も提供しません。本レポートを投資等の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。本レポートを利用して生じたいかなる損害に関しても、弊社は一切の責任を負いません。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
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