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有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100L2EY (EDINETへの外部リンク)

有価証券報告書抜粋 窪田製薬ホールディングス株式会社 事業の内容 (2020年12月期)


沿革メニュー関係会社の状況

(1)事業の概要
当社グループは、世界中で眼疾患に悩む皆さまの視力維持と回復に貢献することを目的として、イノベーションをさまざまな医薬品・医療機器の開発及び実用化に繋げる眼科医療ソリューション・カンパニーです。当社の100%子会社であるクボタビジョン・インク(米国)が研究開発の拠点となり、革新的な治療薬・医療技術の探索及び開発に取り組んでいます。
当社グループのパイプライン(開発品群)については、エミクススタト塩酸塩を中心とする低分子化合物に加えて、近年は今後高い成長が期待されている医療機器や遺伝子治療の分野にも注力することにより、パイプラインの価値最大化を図っています。
低分子化合物については、当社グループ独自の視覚サイクルモジュレーション技術に基づくエミクススタト塩酸塩をコア開発品と位置付け、スターガルト病及び糖尿病網膜症の治療薬として開発を進めています。医療機器分野においては、患者が自宅にいながら網膜の検査ができる超小型モバイルOCT、当社グループ独自のアクティブスティムレーション技術「クボタメガネ・テクノロジー」を活用して近視を抑制するウェアラブル近視デバイスの開発を行っております。なお、超小型モバイルOCTについては、有人火星探査に携行可能な超小型眼科診療装置の開発をNASAと共同で進めています。遺伝子治療については、網膜色素変性における視機能再生を目指す研究を行っています。
その他にも、医療用医薬品、医療機器において、早期段階の研究開発を行っております。

当社グループのパイプラインの詳細については、「(3)パイプライン」をご参照ください。
なお、当社は、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令第49条第2項に規定する特定上場会社等に該当しており、インサイダー取引規制の重要事実の軽微基準については連結ベースの数値に基づいて判断されます。

(2)当社グループが研究開発の対象としている眼科疾患
[網膜疾患]
網膜変性疾患は、世界の失明の主要原因と言われています。網膜疾患を対象とした医薬品の市場は2018年に105億米ドル、2025年には約160億米ドルに成長すると予想されています(Visiongain, Macular Degeneration and Other Retinal Diseases: World Drug Industry and Market 2017-2027)。網膜とは、何百万もの光受容細胞及び神経細胞を含む眼の奥の内側にある薄い組織の層のことで、視覚情報を受け取り整理します。網膜はこの情報を、視神経を介して脳に送り、その結果モノを見ることができます。網膜疾患は、中心視力を司る網膜の領域(黄斑及び黄斑の中心にある中心窩)に影響を及ぼします。

当社グループが開発対象とする重要な網膜疾患の概要は次のとおりです。

・糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症のひとつで、高血糖、高血圧、糖尿病を長く患っていることなどが主要原因として挙げられます。そのような状況下では血液中の糖分(高血糖)により網膜の細小血管が障害され、機能しなくなった血管の代わりに新しいもろい血管が作られます。その新生血管からの血液成分の漏出により、視野の中心部が黒ずんだりぼやけたりする視力低下がこの疾患の特徴です。病態進行により非増殖糖尿病網膜症と増殖糖尿病網膜症に分類されます。糖尿病黄斑浮腫は、糖尿病網膜症のどの段階でも発症する可能性があります。世界中で約1億500万人の人々が罹患しており、糖尿病患者の視力喪失の主要原因で、また労働年齢の成人の視力障害及び失明の主要原因であると報告されています(Market Scope、The Global Retinal Pharmaceuticals&Biologic Market ,2015;及びNational Eye Institute)。

・スターガルト病
スターガルト病は、目の網膜に障害をきたす稀少遺伝性疾患で若年者に発症し、緩やかに視力が低下していきます。スターガルト黄斑ジストロフィーもしくは若年性黄斑変性とも言われます。スターガルト病は若年性黄斑変性の中で最も多く、米国、欧州及び日本で約15万人の患者がいます(Market Scope, 2015 report on the Retinal Pharmaceuticals & Biologics Market; UN World Population Prospects 2015)。スターガルト病の主な要因とされるABCA4遺伝子異常により、徐々に光受容体が損傷し視力が低下します。スターガルト病患者には、視野の欠損、色覚異常、歪み、ぼやけ、中心部が見えにくいといった様々な症状が見られます。典型的なスターガルト病は、小児期から青年期にかけて発症しますが、中には成人期まで視力低下を自覚しない患者もいます。

・網膜色素変性
網膜色素変性は、一つまたは複数の遺伝子変異が、光を捕らえ視覚認知につなげる働きを持つ視細胞(光受容細胞)において、緩やかに進行して変性を引き起こす遺伝性の網膜疾患です。網膜色素変性の多くは、最初に明暗を認識する杆体(かんたい)細胞が損傷され、周辺視野及び夜間視力が障害されます。その後に、色を認識する錐体(すいたい)細胞が損傷され、色覚異常や中心視力の低下をきたし、最終的には失明に至ります。米国及び欧州では約4,000人に1人が罹患する稀少疾病です(Genetics Home Reference)。米国では約10万人が網膜色素変性を患っており(Foundation Fighting Blindness)、世界中で約150万人が罹患しています(Vaidya P, Vaidya A (2015) Retinitis Pigmentosa: Disease Encumbrance in the Eurozone. Int J Ophthalmol Clin Res 2:3)。網膜色素変性は、幼少期に発症する例も多く見られます。進行は緩やかな症例もありますが、典型的に数十年経つと重度が増し、生涯的な視力低下をきたします。小児期に網膜色素変性と診断された患者のほとんどは40歳までに社会的失明(矯正視力0.1以下)に至ると報告されています(Foundation Fighting Blindness)。

[近視]
近視は、2050年には、世界の約半数の人が陥ると予測されている疾患です(※1)。特に、日本を含む、中国、香港、台湾、韓国、シンガポールといった東アジアの国々で近視が急激に増加しており、ソウルでは、19歳の男性の96.5%が近視というデータも示されています(※2)。また、2019年3月に文部科学省が発表した学校保健統計調査によると、小学生~高校生の裸眼視力における1.0以上の割合が過去最低と発表されています(※3)。
近視の進行により、緑内障視野障害、白内障、網膜剥離、黄斑変性などの疾患を合併するリスクが高まることも知られており(※4)、強度近視患者の増加は大きな社会課題の一つですが、未だ本邦で薬事承認を受けた治療法はありません。近視は、屈折性近視、軸性近視、偽近視、核性近視などに区分されますが、その多くは軸性近視と診断され、眼軸が伸展することによりおこるとされています。眼軸長が伸びると、眼球の中で焦点が網膜より手前に位置づけられるために、遠くが見えにくくなります。

※1 Holden BA,etal.Ophthalmology.(2016)
※2 Elie Dolgin(2015)『The Myopia Boom』(Nature)
※3 文部科学省2018年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)の公表について
※4 Flitcroft D.I. The complex interactions of retinal, optical and environmental factors in myopia aetiology. Progress in Retinal and Eye Research 31 (2012) 622e660

(3)パイプライン
① 低分子化合物(エミクススタト塩酸塩)
(a)スターガルト病の治療薬候補
眼球の奥にある網膜には、脳に映像を認識させるために光を電気信号に変える働きをする「視覚サイクル」と呼ばれる仕組みがあります。この視覚サイクルでは、まず光が網膜の光受容細胞(視細胞)にあるレチナール(ビタミンAの一種)とオプシンと呼ばれるタンパクが結合した光受容タンパク(視物質)により吸収され、その視物質の構造変化が起きます。この構造変化が視細胞内のシグナル伝達系を活性化して膜電位を変化させ、生じたシグナルが脳へと伝わる、という仕組みです。
この視覚サイクル中、光受容時に生じる構造が変化した視物質からビタミンA構造由来の有害代謝産物が生成されます。この有害物質が、後述の理由で網膜色素上皮(RPE)細胞内に蓄積されると、RPE細胞の機能喪失及びアポトーシス(細胞死)が起こり、ひいては視細胞の喪失による視力低下あるいは失明にいたります。この有害物質のRPE細胞内の蓄積がスターガルト病の直接的病因です。
正常の網膜には、こうした有害代謝産物の前駆物質を視細胞内から外に運搬する膜輸送タンパクがあるため、RPE細胞は守られています。スターガルト病は遺伝性の網膜疾患で、この視覚サイクルにおける視物質の膜輸送タンパクABCRをコードするABCA4遺伝子の変異があり、その変異が本疾患の根本原因と考えられています。現時点では治療法はありません。
エミクススタトは、視覚サイクルに不可欠な酵素であるRPE65を抑制することで、視覚サイクルを調節し、ビタミンAの代謝率を低下させます。これにより、スターガルト病の発症に関与すると考えられているビタミンA由来の有害代謝産物の産生が低下するため、スターガルト病において網膜の機能維持に有用であると理論づけられています。視覚サイクルを抑制する新薬候補で第3相臨床試験まで進んでいるものは現在のところ本剤のみです。
前臨床試験においては、有害代謝産物の蓄積、光障害による網膜変性、新生血管の増生を軽減することを実証しており、2017年1月から同年12月まで米国でスターガルト病患者を対象に実施した前期第2相臨床試験(※)では、エミクススタトの作用メカニズムである視覚サイクルの抑制を網膜電図で確認したところ、用量依存的で最大90%を超える抑制効果が見られました。
この結果を受け、当社グループは2018年11月に第3相臨床試験を開始し、世界11ヶ国、29施設において現在も継続して実施しております。当該臨床試験は、194名の被験者をランダムに10mgのエミクススタト投与群とプラセボ群に2対1で割り当て、1日1回の経口投与にて24ヶ月間実施するもので、主要評価項目には、プラセボに対し、被験薬のスターガルト病患者における黄斑部の萎縮の進行を抑制する効果の検証、副次的評価項目には、最良矯正視力のスコアや読速度などの視機能の変化が含まれます。
なお、本剤は経口投与可能なスターガルト病の新規治療薬候補として、FDA及びEMAからオーファンドラッグ認定を受けています。また上記の第3相臨床試験は、FDAによりOrphan Products Clinical Trials Grants Programの助成プログラムに選定されています。

※ 多施設共同無作為化二重盲検試験で、スターガルト病患者に対するエミクススタトの薬理作用、安全性及び忍容性を評価することを目的に、米国で実施しました。22名の被験者を2.5mg、5mg、10mgに割り当て、1ヶ月間1日1回夕方にエミクススタトを経口投与致しました。薬理作用は、網膜の機能を検査する網膜電図を用いて、網膜の中で光を感じる細胞のうち光感度の高い杆体細胞の働きの変化を検討しました。杆体の反応は、網膜電図ではb波で示されます。エミクススタトは視覚サイクルにおいて重要な役割を果たす酵素であるRPE65を阻害して杆体を休ませることで視覚サイクルを抑制する働きが確認されています。このことから、本試験では、スターガルト病患者に対して、杆体b波の振幅が投与1ヶ月後にどれくらいの割合で抑制されるかを主要評価項目に設定して実施致しました。その結果、用量依存的で最大90%を超える抑制効果が見られたこと、また投与用量における安全性及び忍容性が確認されたことを受け、主要評価項目は達成したと判断致しました。

(b)糖尿病網膜症の治療薬候補
網膜には脳に映像を認識させるために光を電気信号に変える働きをする「視覚サイクル」と呼ばれる仕組みがあります。この視覚サイクルは明るい光や強い光に曝露されると有害副産物を生成します。これが長期にわたり消化されないまま蓄積されると、視覚サイクルの働きに支障をきたすだけではなく、網膜が損傷され、視力低下あるいは失明に至ると考えられています。
網膜は明るい場所よりも暗い環境のほうが視覚サイクルによる代謝が高く、より多くのエネルギーと酸素を消費することが知られています。このことから、視覚サイクルを調節して夜間の代謝を抑制することにより、総合的に網膜の代謝が軽減されるとともに網膜の酸素需要も減らすことができると考えられています。
視覚サイクルの働きに不可欠な酵素に、RPE65があります。エミクススタトは、このRPE65に特異的に作用し、その働きを抑制します。これにより、網膜疾患の原因の一つと考えられているビタミンA由来の毒性代謝産物の過剰生成や蓄積、さらに網膜が低酸素状態になるのを防ぐことが期待されています。
2016年4月から2017年11月までの期間で、増殖糖尿病網膜症の患者を対象とする第2相臨床試験(※)を米国で実施しました。その結果、プラセボ投与群に比べ、エミクススタト投与群では網膜症の発症や悪化に関連するバイオマーカーであるVEGF濃度に軽度の改善が認められました。本報告書提出日現在、開発方針を検討しております。
これまでの外科的な治療法とは異なり、エミクススタトは経口投与であるため、糖尿病網膜症に対する革新的な治療法になるものと期待されています。レーザーによる網膜光凝固術や硝子体内注射などは合併症のリスクを伴う恐れがあり、患者に身体的負担がかかる現在の治療のあり方を抜本的に変える可能性があります。

※ 増殖糖尿病網膜症の患者18名を対象に実施した多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験。被験者は、エミクススタトあるいはプラセボを1日1回、12週間にわたり経口投与し、エミクススタト投与群は、5mgから40mgへの漸増試験(1週目は5mg、2週目は10mg、3週目は20mg、4週目は40mgへと用量を増やし、4週目以降は40mgの経口投与を継続)を行いました。評価項目は、増殖糖尿病網膜症に関連する各種バイオマーカーの変化と、網膜出血や血管新生、視力への効果。副作用はこれまでに実施されたエミクススタトの臨床試験と同様に暗順応の遅れや軽度の色視症などの症状が認められましたが予後への影響はなく、安全性は確認されています。これらは杆体の働きを抑えるエミクススタトの薬理作用によるものと考えられます。

② 在宅・遠隔医療モニタリング機器 ― PBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)―
当社グループでは、眼科治療薬のほか、医療機器の研究開発にも力を入れています。
PBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)とは、眼科において網膜の状態の検査に用いられるOCT(光干渉断層計)の超小型モデルのことで、モバイルヘルス(mHealth)(※1)を含む、今後成長が期待される在宅・遠隔医療分野において新たなソリューションを提供する医療機器です。
当社グループのPBOSは、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫等の網膜血管新生による網膜疾患が対象で、患者が自宅で網膜の状態を測定することを可能にする検査デバイスです。インターネットを介して、網膜の構造や視力の変化といった病状の経過を、医師が遠隔で診断できるシステムを確立することにより、個別の患者に適した眼科治療を実現し、視力の維持向上を目指します。
抗VEGF療法は血管新生を伴う網膜疾患に対する革新的な治療法です。しかしながら、病気の進行は患者によって異なり、来院した時が必ずしも適切な治療のタイミングになるとは限りません。また、「もう少し早く来院していれば、悪化を抑えることができたのに」といった逆のケースもあります。抗VEGF療法は、眼球に注射(硝子体内注入)をするため治療を受ける患者には身体的負担であり、医療現場でも最適なタイミングで治療が行えることが望まれています。
定期的に通院することが難しくても、網膜の状態を日々検査できれば、適切なタイミングでの治療が可能になります。網膜の病気は自覚症状がわかりにくいため、こうした客観的な測定を日頃から行うことで、治療しないまま重症化することを防げるものと考えています。

当社グループのモバイルヘルス開発の柱となる眼科医療機器ソリューションは、以下のとおり構成される予定です。
1)患者がご自身で検査を行うための超小型OCT(※2)機能を含む小型ハンドヘルドデバイス(小型可搬型携帯デバイス)
2)クラウド(※3)にデータをアップロードするためのネットワーク機能
3)検査結果を解析するソフトウェア
4)医師及び医療機関が解析されたデータや3D画像にアクセスできるクラウドサービス

開発の第一段階として、ウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫をはじめとする、網膜血管新生による眼疾患の治療中及び治療後の病変と経過のモニタリングを提供する予定です。
2018年3月より試作機での臨床試験を米国で開始し、同年10月に予定通り完了致しました。この試験では米国内の1施設において、12人の健常者と20人のウェット型加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫などの網膜疾患の患者を対象に、PBOSで網膜の状態を測定し、その精度と解像度を評価しました。健常者グループは1日目と35日目に、患者グループは1日目、30日目、65日目に測定しました。
網膜疾患は、通常、医療機関等で網膜の精密な断層画像を撮影できるOCT(光干渉断層計)を使って病状を調べます。本試験では、健常者と黄斑に浮腫がある網膜疾患患者を対象に、網膜の「厚みの計測における再現性」、「厚みの変化を捉える性能」、及び「医療機関等で使用されている設置型OCTで撮影した画像との相関性」について評価しました。その結果、再現性、性能、相関性の全ての評価ポイントにおいて、良好な結果が得られました。
侵襲性の低い診断系の医療機器は、臨床試験などを通して安全性や性能を確認しながら改良を重ね製品化に向けて開発します。第1相、第2相、第3相と、長期に渡る臨床試験で薬効や安全性の確認が求められる医薬品と比較すると臨床試験も含めた開発期間が大幅に短く、一般的に上市の可能性が医薬品と比べ高いことが期待されます。2020年に完成した初期型試作機に更なる機能改善を加え、パートナー企業との共同開発、商業化を模索しております。

※1 モバイルヘルス(mHealth)とは、スマートフォン、ウェアラブルデバイスなどの携帯及びモバイル端末を医療行為、医療データ管理、診断、モニタリングなどに利用すること。
※2 OCT(Optical Coherence Tomography)は光干渉断層計であり、網膜の断面の構造を見ることができる装置。
※3 クラウドとは、データをインターネット上に保存することで、様々なデバイス(コンピューター、携帯電話端末等)から情報を取得することができるサービス。

③ 遺伝子治療
当社グループは、マンチェスター大学から遺伝子治療の技術を導入し、網膜色素変性の治療を目的として遺伝子治療の研究を行っています。これは、光感度を持たなくなった細胞に再び光感度を持たせようというもので、細胞の電気信号を活用します。これまでにも眼科以外の領域において様々な研究が行われてきました。遺伝性網膜変性の治療の選択肢として、眼科でも研究が行われるようになったのはつい最近のことです。
当社グループが開発する遺伝子療法は、網膜のオン型双極細胞(※1)にヒトロドプシン(杆体細胞の視物質で光を受容するタンパク質)を形質導入するためにアデノ随伴ウイルスベクター(※2)を利用します。アデノ随伴ウイルスベクターは、いわゆる遺伝子の運び屋で、病原性を持たず安全であることが知られています。2018年からは、治療用ウイルスを運ぶ新規の組換えアデノ随伴ウイルスベクターの確立を目指し、ドイツのシリオン社と共同で研究開発に取り組んでいます。
すでに前臨床試験では、本治療を受けた失明していたマウスが、襲いかかるフクロウの映像に対して回避しようと行動的反応を示したことが確認されています。また、光感度の高いヒトロドプシンを用いることにより、他のタンパク質を用いる場合と比較して、光に対してより高い感度を獲得できることが期待されています。さらにヒト型タンパク質であるため、免疫の働きによる炎症反応がおきる可能性も最小限に抑えることができるものと考えております。
網膜色素変性の発症と進行に影響する原因として、100種類以上の遺伝子変異が同定されておりますが(※3)、当社が開発する遺伝子療法は遺伝子変異の型に依存しない治療法として有用性が期待されています。

※1 オン型双極細胞:双極細胞は視細胞(杆体細胞と錐体細胞)と神経節細胞を接合している網膜ニューロン。杆体細胞はオン型のみで錐体細胞はオン型とオフ型がある。
※2 ウイルスベクター:治療する細胞に治療遺伝子を導入するために利用されるウイルス。
※3 National Human Genome Research Institute. Leaning About Retinitis Pigmentosa. https://www.genome.gov/13514348. Retrieved Nov 7, 2016.

④ ウェアラブル近視デバイス(医療機器)
当社グループは、独自のアクティブスティミュレーション技術「クボタメガネ・テクノロジー」を活用して近視の進行抑制・治療目指すウェアラブル近視デバイスの開発を行っています。
クボタメガネ・テクノロジーは、網膜に人工的な光刺激を与えて近視の進行の抑制、治療を目指す当社独自の技術です。網膜に光刺激を与えて近視の進行の抑制、治療を目指す技術は既に実用化されており、米国ではCooperVision社の「MiSight 1 Day」という製品が近視抑制効果があるとしてFDAより認可を受け、販売されています。これらの製品は、多焦点コンタクトレンズの仕組みを応用し、自然光をぼかして網膜周辺部に刺激を与えることで、単焦点コンタクトレンズと比較して、近視の進行を抑制することを証明したコンタクトレンズです。一方、当社グループの「クボタメガネ・テクノロジー」は、この理論的根拠をもとにナノテクノロジーを駆使してメガネに投影装置を組み込むことで、自然光をぼかすことなく、直接一番効果的な映像を網膜周辺部に投影することを実現し、先行品よりも短時間の使用でより自然な見え方を維持しながら、高い近視抑制効果を実現することを目指しています。
近視は、屈折性近視、軸性近視、偽近視、核性近視などに区分されますが、その多くは軸性近視と診断され、眼軸が伸展することにより起こるとされています。眼軸長が伸びると、眼球の中で焦点が網膜より手前に位置づけられるために、遠くが見えにくくなります。
当社グループでは、すでに「クボタメガネ・テクノロジー」が、眼軸長に与える効果を検証しております。まず同技術を用いた卓上デバイスでは、21歳~32歳の被験者12名に対して行った概念実証試験において、眼軸長が対照眼と比較して短縮することを確認しました。次いで、同技術を用いたウェアラブルデバイスでも、18歳~35歳の25名の近視傾向のある被験者に対しても同様の効果検証が完了しました。通常、眼軸長は、年齢と共に伸びる、もしくは成長が止まるものであり、人工的な光により眼軸長が対照眼と比較して短くなるということは、世界でも前例がありません。当社グループでは、早期商業化へ向けて開発を継続するとともに、メガネのいらない世界の実現に向けて開発を推進する方針です。

(4)中長期的な会社の経営戦略
当社グループの経営目標は、眼疾患に苦しむ人々の負担を軽減するための医薬品及び医療機器を開発し、上市することであります。当社グループは、眼科領域の革新的な医薬品や医療機器を開発するために、自社開発を行いますが、経営戦略の一環としてパイプライン拡充のため、外部とのパートナーシップやインライセンス、M&Aの機会も常に追求しています。
この目標に向けて、当社グループはパイプラインの選定に当たり、以下の基準を設けています。

・製品候補が、患者数や症例数、価格及び還付機会、特許権保護並びに競争の位置づけ等を評価した結果、優れた市場潜在能力を有していること。

・医薬品及びバイオテクノロジー領域における製品候補が、標的とする疾病の科学的データと密接な関連性を有する分子標的に作用すること。かかる関連性が、科学的な成功可能性を強化するため、外部専門家により証明されていること。医療機器製品候補は、期待される結果を実現するために、工学技術との間に説得力のある関連性及び作用機序を有すること。

・当社グループが、POC試験(概念実証試験)において、限られた時間と資源を用いて市場価値を生み出せる製品候補の潜在的な医療効果を確立できること。


沿革関係会社の状況


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