有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100W6KM (EDINETへの外部リンク)
TOPPANホールディングス株式会社 研究開発活動 (2025年3月期)
当社グループ共通の価値観である「TOPPAN's Purpose & Values」で示している「人を想う感性と心に響く技術で、多様な文化が息づく世界に。」を実現するべく、独自の「印刷テクノロジー」をベースに総合研究所を中心に、事業会社の技術関連部門、知的財産部門及びグループ会社が連携して研究開発を進めております。
当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は26,934百万円であり、セグメントにおける主な研究開発とその成果は次のとおりであります。なお、研究開発費につきましては、当社の本社部門及び総合研究所で行っている基礎研究に係る費用を次の各セグメントに配分することができないため、研究開発費の総額のみを記載しております。
(1) 情報コミュニケーション事業分野
当社グループでは、価値共創パートナーとして顧客のデジタル変革を支援し、高い成長を実現するErhoeht-X®(※1)を推進しております。
インターネットを活用したオンライン診療や電子商取引などのサービスは、現在、暗号技術によって安全性が保たれておりますが、将来的には量子コンピュータによる脅威が懸念されております。そのため、特に医療・金融・行政分野など重要情報を扱うシステムでは、量子コンピュータでも解読が困難なPQC(耐量子計算機暗号)への早期移行が求められております。2024年8月には米国NISTによるPQCアルゴリズムが発表されており、移行に向けた動きが本格化しつつあります。しかし、情報システムの複雑化により、PQCへの完全移行には時間がかかることが想定され、移行済みと未移行のシステムが混在する期間には認証や暗号通信の課題が発生します。そこで2024年10月、TOPPANデジタル株式会社、NICT、ISARAは、PQCと従来暗号の両方に対応したICカードシステム「SecureBridge™(セキュアブリッジ)」を開発し、H-LINCOS(※2)との連携による動作検証を実施いたしました。これにより、安全な社会インフラの実現に向けた円滑なPQC移行を目指してまいります。
また、オフィスの入退室管理においては、顔認証技術の普及が進んでおりますが、なりすましや誤認証のリスクを完全に排除することは難しく、入館カードを廃止するには課題が残っております。そこでTOPPANエッジ株式会社とSinumy株式会社は、顔認証とBluetooth所持認証を組み合わせた新たな多要素認証ソリューションを開発いたしました。これにより、ハンズフリーで認証ができる利便性を維持しつつ、なりすましや端末の貸し借りによるリスクを低減し、従来の認証方式よりも高速な認証を実現しております。三菱HCキャピタル株式会社とも協業(※3)し、2025年度中の商用化を目指して実証実験を進めております。
さらに、TOPPAN株式会社は、H2L株式会社、株式会社NTTドコモ、トヨタ自動車株式会社、ミズノ株式会社、株式会社三菱総合研究所とともに、人間の感覚や動作をネットワークで拡張する「人間拡張コンソーシアム」(※4 ※5)に2024年12月から参画いたしました。このコンソーシアムでは、デバイスやプラットフォームの実証や国際標準化の推進を通じて、人間拡張技術の社会実装とエコシステムの形成を目指しております。教育格差や労働人口減少などの社会課題解決に向けて、今後も業界横断で取り組みを進めてまいります。
(2) 生活・産業事業分野
当社グループは、脱炭素社会や循環型社会の実現に向け、環境配慮型のSX商材やサービスを積極的に展開しております。中でも、サステナブルブランド「SMARTS™(スマーツ)(※6)」を中心に、社会課題に対応したパッケージの開発を推進しております。
世界的に持続可能な社会の実現に向けた動きが加速する中、日本では2022年にプラスチック資源循環促進法が施行され、製品の3R+Renewable(※7)の取り組みが重視されております。EUでも、2030年までに全ての包装材を再利用・リサイクル可能とする目標が掲げられるなど、各国で資源循環への取り組みが進んでおります。パウチや袋などの軟包装は複合素材が主流ですが、リサイクル性向上のため単一素材化が有効とされ、ポリオレフィンやポリエチレン、ポリプロピレンなどによる単一素材化の動きが広がっております。当社では、ポリオレフィン単一素材でありながら従来と同等の耐衝撃性やカット性を持つ液体用スタンディングパウチを開発し、ユニリーバ・ジャパン株式会社の「ダヴ(DOVE)」詰め替え用商品に2024年4月から採用されております。これにより、従来は難しかった液体用途への単一素材化を実現し、リサイクル適性の向上が期待されております。
さらに、日本政府のプラスチック資源循環戦略では、2025年までにリユース・リサイクル可能な材質への置き換えや、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクルするなどの目標が設定されております。官民連携のCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)(※8)でも、2030年までに容器包装プラスチックへの再生材使用率30%という目標「Circular 30 by 30」が掲げられております。当社は、シーラント用リサイクルポリエチレンフィルムとリサイクルPETフィルムを組み合わせ、パウチ全体の再生材使用比率約30%を実現(※9)した製品を開発いたしました。本製品は株式会社ヴィークレアの新製品「&Cream セラムシャンプー モイスト/スムース 詰め替え」に2025年4月から採用され、従来比でCO2排出量を約7%(※10)削減できる見込みです。
気候変動の影響が拡大する中、当社グループは脱炭素社会の実現を経営の重要課題と位置づけ、地球環境宣言に基づき持続可能な社会への貢献を進めております。パッケージ製品の環境負荷はLCA(ライフサイクルアセスメント)(※11)によるCO2排出量で定量的に評価し、根拠に基づいた環境配慮型の提案を行うことで、顧客のCO2削減にも貢献しております。加えて、「水性フレキソ印刷」と「ノンソルベントラミネーション」を組み合わせたレトルト対応かつ電子レンジで加熱できるパウチを2024年10月より提供開始し、このパッケージの開発により、VOCやCO2排出量の大幅削減を実現いたしました。これはパッケージの材質変更が難しい場合でも生産方式の工夫で環境負荷を低減できることを示しております。
また、当社グループのデジタルトランスフォーメーションと建装材技術によって提供されるソリューションとして、近年普及が進むLEDサイネージや大型ディスプレイが、インテリア空間に違和感を与えるという課題に対し、TOPPAN株式会社は特殊印刷技術による「ダブルビュー®フィルム」を開発し、2024年4月に販売を開始いたしました。これにより、そこにディスプレイが存在しないかのような佇まいの壁面から、直接鮮明な映像が浮かび上がる演出が可能となり、かつてない「体験」を提供いたします。今後この技術をモビリティなど新市場へも展開していく予定です。
(3) エレクトロニクス事業分野
当社グループでは、これまで独自に培ってきた技術力を基盤として、多様化するニーズに対応した独創的なキーデバイスを供給することで事業価値の最大化を図っております。
急速に需要が拡大している生成AIや自動運転向けなどの次世代半導体では、2.5D、3D(※12)パッケージなど、半導体パッケージの構造の複雑化に伴い、使用される材料の種類も増加しております。近年では、米国を中心に、大手ファブレス半導体メーカーや大手テック企業が、自社で半導体の設計・開発を進める動きが活発化しており、顧客のすぐ近くで、スピーディーかつ緊密な共創・すり合わせができる体制が求められております。
TOPPAN株式会社は、株式会社レゾナックが主導、米国シリコンバレーを拠点とし、日米の有力な材料・装置等のメーカー10社(2024年11月時点)からなる、半導体パッケージング技術開発の共創プラットフォーム「US-JOINT」に2024年11月よりパッケージ基板メーカーとして参画いたしました。この「US-JOINT」に参画することで、当社グループの強みであるハイエンドのパッケージ基板の技術開発力を活かし、顧客の関心の高い先端半導体パッケージング技術の課題解決に貢献し、新たなビジネスの機会創出に繋げるとともに、半導体パッケージ基板事業の強化を目指してまいります。
(4) その他(新事業)
当社グループは、ヘルスケアやライフサイエンス、エネルギー分野を新たな成長領域と位置づけ、研究・事業開発に注力しております。
がん治療では遺伝子検査やがん患者の腫瘍組織を移植したマウスを用いた抗がん剤評価が行われてきましたが、コストや技術的課題が存在します。近年、動物実験から非動物実験への移行が国際的にも求められる中、大阪大学と共同で独自のバイオマテリアルを活用した3D細胞培養技術「invivoid®(インビボイド)」を開発いたしました。この技術により、患者のがん微小環境を体外で再現できました。また、複数の抗がん剤の効果を評価する臨床研究を実施し、体外での抗がん剤評価結果と実際の患者への投薬結果が高い精度で一致しました。本結果は2024年7月22日国際学術誌「Acta Biomaterialia」に掲載され、個別化医療や医薬品開発への応用可能性が示されました。
また、当社は匿名加工された電子カルテデータをもとにした医療情報分析・提供サービス「DATuM IDEA®(デイタムイデア)」に2025年3月31日から、新たに医科レセプトデータを連結いたしました。これにより、より正確な患者の診療実態把握や費用対効果分析を行えるようになり、エビデンスに基づく個別化医療の実現に貢献してまいります。
加えて、ロボティクスやスマートグラス分野において、障害物検知や自己位置把握に用いられる3D ToFセンサ(※13)の技術開発も推進いたしました。2023年には「ハイブリッドToF®(※14)」による4つの性能(長距離測定、屋外測定、高速撮像、複数台同時駆動)を実現した第一世代センサを開発し、2024年11月にはさらに小型化や省電力化を進めるとともに、新たに「HDR機能(※15)」「画素ビニング機能(※16)」を搭載した第二世代「TPHT4040」を開発いたしました。これにより、配膳ロボットやロボット掃除機、スマートグラスなど多様なデバイスへの搭載が可能となり、3Dセンシングの用途拡大に貢献しております。
流通小売業界においては、需給予測の精度向上や製品ライフサイクル全体の可視化が課題となっております。当社は東京大学と2024年10月に社会連携講座「サプライチェーンの全体最適の科学と実践」(講座長:松尾豊教授)を開設いたしました。本社会連携講座を通じて、高精度な需給予測を実現するAI技術の開発と社会実装を目指すなど、様々な分野で社会課題の解決に取り組んでおります。
(※1)Erhoeht-X®
当社グループ全体で、社会や企業のデジタル革新を支援するとともに、当社自体のデジタル変革を推進するコンセプト。DX事業においてイノベーションを創出し、社会やお客さまのデジタル変革を推進し、それを通してSDGsの実現、脱炭素社会の実現など「SX」にも貢献していく。
(※2)H-LINCOS
Healthcare long-term integrity and confidentiality protection systemの略称。秘密分散と量子暗号など秘匿通信及び公開鍵認証基盤の技術により、電子カルテデータのセキュアかつ可用性の高いバックアップや、医療機関間での相互利用などを行う保健医療用の長期セキュアデータ保管・交換システム。
参考:2019年12月12日NICTプレスリリース https://www.nict.go.jp/press/2019/12/12-1.html
(※3)2023年11月16日リリース-三菱HCキャピタルとTOPPANエッジが顔写真収集・認証サービス「CloakOne®」をサブスクリプションモデルにて提供開始
https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2023/11/newsrelease231116_1.html
(※4)プレスリリース-「人間拡張コンソーシアム」設立、活動を開始
https://human-aug.com/news/detail/article_01.html
(※5)人間拡張コンソーシアム
ホームページ http://human-aug.com
(※6)SMARTS™
パッケージを起点とした当社グループのサステナブルブランド。パッケージで培った技術・ノウハウに、マーケティング・DX・BPOなどのリソースを掛け合わせ、バリューチェーンに沿った最適な選択肢を提供する。
(※7)3R+Renewable
Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の頭文字を取った3つのアクションの総称3Rに、Renewable(リニューアブル、再生可能な資源に替える取り組み)を加えた、プラスチックの資源循環を促進するための考え方。
(※8)CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)
海洋プラスチックごみの問題解決に向けて、プラスチック製品のより持続可能な使用並びにプラスチック廃棄物の削減に繋がる革新的な代替品の開発及び導入普及を図るなど、業界の垣根を越えて経済界全体としての活動を官民連携で企画・推進する団体、プラットフォーム。
(※9)パウチに使用するフィルム全体の再生材使用比率
当社算定。フィルムの重量から算定した設計値。
(※10)CO2排出量
当社算定。PEやPETなどのバージン樹脂100%のフィルムを使用したスタンディングパウチの従来品との比較。算定範囲はスタンディングパウチに関わるCradle to Grave(①原料の調達・製造、②製造、③輸送、④リサイクル・廃棄)。
(※11)LCA(ライフサイクルアセスメント)
原材料(資源採取から原材料製造)から製品の製造・使用・リサイクル・廃棄など、製品のライフサイクルにおける投入資源や排出する環境負荷を定量的に評価する手法。
(※12)2.5D、3D
2.5Dは複数のチップをインターポーザーと呼ばれるシリコン基板上に実装する技術。3Dは複数のチップを積層する技術。
(※13)3D ToFセンサ
赤外線を用いてカメラから物体までの3次元距離を測定する距離画像センサ。
(※14)ハイブリッドToF®
ショートパルス型ToF方式とマルチタイムウインドウ技術によるセンサ制御を融合した技術及びその技術を搭載した3D ToF センサ・カメラ。強力な外光耐性と被写体ブレに強い特長を持ち、屋外環境で太陽光の影響を受けずに使用でき、動きの速い物体を逃さず捉えられるメリットがある。
https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2022/06/newsrelease220616_2.html
(※15)HDR機能
ハイダイナミックレンジの略称。露光時間が異なる複数の距離データを1枚の距離画像として撮像する技術。
(※16)画素ビニング機能
複数の画素を組み合わせて見かけ上大きな1つの画素として扱う機能。
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