有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100W66J (EDINETへの外部リンク)
東洋建設株式会社 研究開発活動 (2025年3月期)
当社は「夢と若さをもって全員一致協力し 新しい豊かな技術で 顧客と社会公共に奉仕することに努め 会社の安定成長と従業員の福祉向上を期する」を経営理念に掲げ、土木・建築技術の研究開発活動に日々取り組んでいます。
当連結会計年度においては「洋上風力関連事業をはじめとするカーボンニュートラルへの取り組み」「ICTおよび自動化技術の導入による生産性向上」「建設DXの推進」等の社会課題に対して研究開発を推進してまいりました。主な成果は以下のとおりです。なお国内土木事業、国内建築事業、海外建設事業及び洋上風力建設事業を対象に行った研究開発活動の総額は1,268百万円となりました。
(1) 浮体式洋上風力設備の係留基礎に関するAiPを日本海事協会から取得
当社と三井海洋開発株式会社(以下、三井海洋開発)は、「TLP方式の浮体式洋上風力発電設備における浮体・係留システム」に関する基本設計承認(Approval in Principle、以下「AiP」)を一般財団法人日本海事協会(以下「ClassNK」)から取得しました。
本AiPの取得は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により、当社と三井海洋開発に加え、古河電気工業株式会社、株式会社JERAとともに採択されたグリーンイノベーション基金事業の一環である「低コストと優れた社会受容性を実現するTLP方式による浮体式洋上発電設備の開発」の開発項目の一つである一体設計技術に関する成果となります。今回の審査範囲のうち係留索やコネクターを三井海洋開発、係留における杭基礎を当社が担当しております。
当社らは今後必要となるウィンドファーム認証(WF認証)及び船級検査に係る審査の一部を先取りして実施することを目的として、ClassNKでのAiPを取得しました。AiP取得にあたり、地震や津波に代表される日本特有の環境条件における検討も実施した上で、有識者も含め、ClassNKからは今後の開発や設計に資する貴重なご意見を頂いており、今後の検討に反映する所存です。
(2) 浮体式洋上風力建設システム技術研究組合への参画
当社は、浮体式洋上風力発電の大量導入に向けた合理的な建設システムの確立を目的として、海上工事並びに海洋鋼構造物、大型クレーン及び鋼製浮体の製作に実績のある7社で、浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)を設立しました。
当社は、洋上風力建設事業を「成長ドライバー」に掲げ、今後の主要事業とすべく事業活動を推進しており、今後も洋上風力発電に関する様々な取組みを強く推進していくことで、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献します。
(3) 統合検索プラットフォーム「TOYO ChatGPT RAG適用版」を導入
当社は、2024年9月に統合検索プラットフォーム「TOYO ChatGPT RAG※適用版」を導入しました。同プラットフォームは、株式会社UNAIITと当社が協働して開発を行ったもので、クローズドな環境で全職員が安全かつ安心して利用でき、生成AIを利用する際の情報漏洩リスクを低減すると同時に、RAG技術により回答精度の向上を図っています。各担当者がクラウド型ストレージにアップロードしたRAG用のファイルは、API連携により翌日自動的に参照されます。さらに、RAG参照を絞り込むためのフィルター機能、プロンプトアシスト機能などを搭載すると共に、社内規定を参照できる安全専用GPT、および全国の社内ドキュメントを検索できるAI社内ファイル検索システム等と連携しています。これらは、パソコンや全職員に支給されている業務用内線iPhone端末などからいつでもアクセス可能です。当社は今後も、同プラットフォームの社内利用を積極的に促進し、全職員のデジタル活用能力の向上と業務効率化を図ってまいります。
※Retrieval Augmented Generationの略。大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、独自の情報源を参照させることで、回答精度を向上させる技術です。
(4) 無線切離し装置「MIX」を開発
当社は、水中と陸上の両方でワイヤーの玉外し作業を無人化できる“無線切離し装置「MIX(ミックス)」”(本技術は特許出願中)を開発しました。
本装置は、切離しフックに音波と電波の無線通信機能を備えており、作業船上において操作ユニットを作動させることで、切離しフックが水中と気中のどちらの領域にあっても遠隔でワイヤーの玉外し操作が可能です。無線通信は、音波と電波の同時通信に対応し、本装置1台で水中から陸上まで全てのブロック据付に使用できます。
通常、消波ブロック(以下「ブロック」)の据付では、水中の基礎上から水面上までブロックを積み上げていきます。その際の玉外し作業は、潜水士や作業員によって実施されており、海域でのブロック据付は作業船が波浪の影響で動揺する中で行われるため、潜水士や作業員が動揺したブロックに挟まれる災害が懸念されます。本装置を使用することで、玉外し作業を無人化することができ、ブロック据付工事における安全性が向上します。また、無線の同時通信により水中や気中だけでなく、水面際の飛沫帯でも本装置を継続使用できるため作業の効率化に繋がります。
本装置を実際のブロック据付工事に導入した結果、通常の潜水士による玉外し作業を伴うブロック据付に比べて作業効率が約30%向上(当社比)し、装置の有効性と安全性を確認することができました。
(5) 実写VR空間で杭の位置誘導が行える「Pile T-Real」を開発
当社は、NETIS登録技術である打設杭トータル施工管理システムPile-T(NETIS、HRK-220004-A)を発展させて、実写VR空間で杭の位置誘導が行える「Pile T-Real」(本技術は特許出願中)を開発しました。
現行版のPile Tは、3台の自動追尾式トータルステーションの計測情報をもとに3Dモデルで表現した杭の打設状況や既設構造物、地層分布などをパソコン上のVR空間でリアルタイムに表示します。それにより、オペレータが360度の自由視点で杭の打設状況を確認しながら実際の杭を所定位置に誘導できます。今回開発したシステム「Pile T-Real」は、現行版のPile TのVR空間に360度カメラで撮影した現場のリアルタイム映像を背景として合成して実写VR空間とすることで、実際の映像と杭の打設状況などの3Dモデルを重ねて表示しながら杭の誘導を行うことが可能となりました。
本システムの開発により、3Dモデルでは表現が難しい動きのある作業員や移設が必要な杭の定規材なども実写VR空間でリアルタイムに確認できるため、実際の視覚に近い感覚で杭の誘導が行えます。また、杭の打設途中でも実写VR空間と現行版のVR空間のスムーズな切替えが可能です。結果、杭の打設精度だけでなく、作業の安全性や作業効率の向上が図れます。
当社では、これまでにVR技術を用いた様々な施工管理システムの開発を推進してまいりました。今後も建設DXを更に推進し、工事における安全性や生産性の向上を図ってまいります。
(6) 大型海上クレーンに対応した吊荷上下動低減装置「AHC-RMP」を開発
当社は、株式会社三井造船昭島研究所および株式会社SKKと共同で、“大型海上クレーンに対応した吊荷上下動低減装置「AHC-RMP」(Active Heave Compensation System using Real-time Motion Prediction)”を開発しました。本件は、国土交通省海事局の「2019年度 海洋資源開発関連技術高度化研究開発支援事業」の支援対策事業として採択されたものです。
従来、大型海上クレーンの作業海域は比較的静穏な港湾内がほとんどでしたが、今後は洋上風力発電をはじめとする外洋での作業が増えることが予想されます。港湾内よりも厳しい波浪条件で作業を行う外洋工事は、船舶が作業できる日や時間が限られることから長い工期を要し費用が高くなりますが、本装置の開発により稼働率が向上することでコスト低減が期待されます。
「AHC-RMP」は、船体の揺れを予測する「動揺予測システム」と吊荷を上下させるウィンチを制御する「ウィンチ制御システム」の2つのシステムで構成されており、船体に設置した計測器(姿勢計測装置・加速度センサー)の計測結果をもとに将来の動揺量を予測します。その予測結果から吊ワイヤーの巻出量を算出してクレーンPLC(Programmable Logic Controller)へ信号を送り、送られてきた信号をもとにクレーンPLCが揺れを相殺する方向へウィンチを回転させるようにトルクコンバーターを制御し吊荷の上下動を低減します。
「AHC-RMP」の開発により、吊荷重20~80tにおける吊荷上下動を20~60%低減することができ、作業中止基準の限界波高を高め、作業船の稼働率を向上することが可能となります。
(7) 当社作業船にバイオ燃料を初導入
大阪湾における神戸市発注工事において、初めて当社作業船に、NX商事株式会社からバイオ燃料の供給を受け施工しました。
工事の施工に伴うCO2排出量の削減は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた当社の重要課題の一つであります。特に、当社は海上工事用の作業船を数多く保有していることから、化石燃料使用によるCO2排出量が多い傾向があります。作業船の稼働によるCO2排出量削減が喫緊の課題であり、今回の試みは課題解決のための取り組みの一環として行いました。
バイオ燃料は軽油・重油の代替として既存のディーゼルエンジン換装などが不要なドロップイン燃料であり、船舶用燃料の代替候補として船舶での利用が拡大しています。
当社ではバイオ燃料を使用することがCO2の排出削減に有効な手段であると捉え、深層混合処理船「DCM6号船」でバイオ燃料を使用し、機器類への影響等を検証したうえで、海上土木工事においてバイオ燃料の導入を積極的に行い、CO2排出量の削減に努めてまいります。
今後もバイオ燃料の普及・導入を通して、カーボンニュートラルへの取り組みを推進してまいります。
(8) 環境配慮型コンクリートCELBIC-RAの国土交通大臣認定の取得
当社は、株式会社東京テクノと武蔵野土木工業株式会社とともに、結合材の70%に高炉スラグ微粉末を使用したCELBIC※1に、製造~保管の工程を経てCO2を固定したCCU材料である再生骨材を使用した環境配慮型コンクリート(CELBIC-RA)の国土交通大臣認定(MCON-4763)を取得しました。
CELBIC-RA(Consideration for Environmental Load using Blast furnace slag In Concrete – Recycled Aggregate)は、普通ポルトランドセメントの70%を高炉スラグ微粉末に置き換えて使用するとともに、製造から保管の過程でCO2を吸収・固定したリサイクル材である再生骨材を使用した「低炭素性」と「資源循環性」を兼ね備えた環境配慮型コンクリートです。再生骨材Mを使用しますが、国土交通大臣認定(MCON-4763)を取得していますので、場所打ち杭や地下構造物等に使用することができます。
なお,実機実験を通じてのCELBIC-RAの製造および品質管理手法の確立と,構造体コンクリートとしての性能の確認は, BFCCU*2研究会において実施したものです。
*1:CELBIC:建築コンクリート構造物に求められる所要の品質を確保しつつ、コンクリート材料に由来する二酸化炭素の排出量の約9~63%を削減する環境配慮型コンクリートで、一般社団法人日本建築総合試験所より2020年に建設材料技術性能証明を取得しています
*2:BFCCU:Blast Furnace slag + Carbon dioxide Capture and Utilization
(9) 小山水処理センター施設整備事業における環境配慮工事
当社は株式会社板橋組および株式会社斎藤組とともに、栃木県の南部に位置する小山市が発注した下水汚泥のエネルギー資源への転換を図る「小山水処理センター汚泥処理・有効利用施設整備(設計・建設期間:2021年11月~2024年3月)および運営事業(維持管理・運営機関:2024年4月~2044年3月(20年間))」を受注事業者の小山エナジーリサイクル株式会社より、施設整備の一環として各種設備基礎等の建設を請け負いました。
当社では本建設工事にあたり環境に配慮した工事を進めることを目指し、近年環境負荷低減の観点から着目されている、セメントの60%を製鉄産業の副産物である高炉スラグ微粉末(以下、BF)に置き換えてCO2の発生量を抑えた「低炭素型の環境配慮コンクリート」と、周辺建物への工事騒音・振動環境の配慮のため「TOSMO-SV」による騒音監視のほか、工事車両による発生音の低減策として「ANC 技術」を採用しました。その結果、「環境配慮型コンクリート」の採用により129tonのCO2削減に寄与するとともに、周辺建物へ有害な工事騒音・振動を発生させることがなくなりました。また、工事車両の騒音低減対策の効果も実証しました。
(10) バイオフィリックデザインを導入したABWオフィスにおけるワーカーの生産性・ウェルビーイング向上に関する研究開発
脱炭素社会への移行が求められる中、建築における環境配慮は重要な課題です。働き方改革によるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の普及とウェルビーイング重視の潮流から、ワーカーの知的生産性や心身の健康を高めるオフィス環境、特に自然との繋がりを重視する「バイオフィリックデザイン」への関心が高まっています。
本研究開発は、バイオフィリックデザイン要素を導入したABWオフィスに着目し、ワーカーの知的生産性、創造性、ウェルビーイング向上に資する設計・運用手法の確立を目的とします。ABWの多様な空間特性とバイオフィリックデザインの効果を組み合わせ、ワーカーへの影響を多角的に評価し、最適な空間構成・運用を提案することを目指しました。
2024年度は、バイオフィリックABW空間がワーカーへ与える影響評価手法の高度化を図りました。多様な感情を分析可能な最新の脳波計測機器を導入したうえで、客観的な生理・心理指標(ストレス、集中度、快感情等)を精密に測定し、ABWの活動空間タイプに応じたバイオフィリック要素の効果を検証しました。その結果、特定のデザイン要素がパフォーマンスやポジティブ感情に与える影響など、空間とデザイン要素の最適関係に関する知見を得ました。さらに、最新のBIM技術とXR(VR/AR/MR)装置を活用し、設計段階での空間体験シミュレーションや、実空間でのワーカー行動・空間利用状況の精密な把握・分析も行い、提案の精度を高めました。
本研究開発は、「バイオフィリックデザイン」と「ABW」を融合し、先端的な脳波計測やBIM/XR技術を用いた客観的評価を通じて、ワーカーの生産性・ウェルビーイング向上に貢献するオフィス環境の設計・運用に関する具体的な示唆を得ました。今後は、本研究成果に基づき、実オフィスでの効果検証を進め、提案手法の汎用性を高めます。脳波計測やBIM/XR技術をさらに活用し、バイオフィリック効果を最大化するABW空間の計画・評価を支援する設計ツールの開発や、長期的なワーカーへの影響調査も視野に入れ、人間的で創造的な働き方を支援する次世代オフィス空間の実現を目指します。
(11) 生成AIアプリ開発による設計・施工プロセスの革新と実業務への展開
建設プロジェクトは複雑化の一途を辿り、企画から維持管理まで膨大な情報が生成・共有されます。設計者は過去の指摘事項、法規、災害事例など、多岐にわたる情報を迅速に参照する必要があり、従来の検索方法では時間を要していました。当社では、働き方改革、若手育成、ベテラン技術者の暗黙知の形式知化が経営課題であり、この課題解決が急務でした。
そこで、Google Cloud Vertex AI Searchを活用したRetrieval-Augmented Generation(RAG)システムを開発・導入しました。過去のプロジェクトの指摘事項、法令データ、不具合・災害事例などを統合した知識ベースを構築し、自然言語による質問にチャットボット形式で回答する生成AIアプリです。
2024年度より実業務への展開を開始し、情報検索時間の短縮、容易な利用環境の構築、同種課題の早期解決、新たな価値創造、経験知の共有と人材育成、指摘事項検索時間の削減、不具合予測精度の向上、関係者間のコミュニケーション円滑化などの効果が確認されています。膨大なデータから必要な情報を迅速かつ正確に抽出でき、専門知識がない担当者でも容易に利用可能です。過去の類似事例の参照により、設計・施工における課題の早期解決に貢献しています。また、生成AIによる情報分析を通じて、潜在的なリスクの早期発見や新たな設計・施工方法の示唆といった新たな価値創造にも寄与しています。
今後も最新の生成AI技術の導入、利用範囲の拡大、検索対象となる情報ソースの拡充、外部情報との連携などを視野に入れ、建設プロジェクト全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させることを目指します。
生成AI技術を活用した本取り組みは、建設プロジェクトにおける情報共有の課題を解決し、生産性向上、品質改善、安全性強化に大きく貢献するものと確信しています。当社は、今後も積極的にデジタル技術の開発と活用を推進し、持続的な成長と社会への貢献に努めてまいります。
当連結会計年度においては「洋上風力関連事業をはじめとするカーボンニュートラルへの取り組み」「ICTおよび自動化技術の導入による生産性向上」「建設DXの推進」等の社会課題に対して研究開発を推進してまいりました。主な成果は以下のとおりです。なお国内土木事業、国内建築事業、海外建設事業及び洋上風力建設事業を対象に行った研究開発活動の総額は1,268百万円となりました。
(1) 浮体式洋上風力設備の係留基礎に関するAiPを日本海事協会から取得
当社と三井海洋開発株式会社(以下、三井海洋開発)は、「TLP方式の浮体式洋上風力発電設備における浮体・係留システム」に関する基本設計承認(Approval in Principle、以下「AiP」)を一般財団法人日本海事協会(以下「ClassNK」)から取得しました。
本AiPの取得は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により、当社と三井海洋開発に加え、古河電気工業株式会社、株式会社JERAとともに採択されたグリーンイノベーション基金事業の一環である「低コストと優れた社会受容性を実現するTLP方式による浮体式洋上発電設備の開発」の開発項目の一つである一体設計技術に関する成果となります。今回の審査範囲のうち係留索やコネクターを三井海洋開発、係留における杭基礎を当社が担当しております。
当社らは今後必要となるウィンドファーム認証(WF認証)及び船級検査に係る審査の一部を先取りして実施することを目的として、ClassNKでのAiPを取得しました。AiP取得にあたり、地震や津波に代表される日本特有の環境条件における検討も実施した上で、有識者も含め、ClassNKからは今後の開発や設計に資する貴重なご意見を頂いており、今後の検討に反映する所存です。
(2) 浮体式洋上風力建設システム技術研究組合への参画
当社は、浮体式洋上風力発電の大量導入に向けた合理的な建設システムの確立を目的として、海上工事並びに海洋鋼構造物、大型クレーン及び鋼製浮体の製作に実績のある7社で、浮体式洋上風力建設システム技術研究組合(FLOWCON)を設立しました。
当社は、洋上風力建設事業を「成長ドライバー」に掲げ、今後の主要事業とすべく事業活動を推進しており、今後も洋上風力発電に関する様々な取組みを強く推進していくことで、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献します。
(3) 統合検索プラットフォーム「TOYO ChatGPT RAG適用版」を導入
当社は、2024年9月に統合検索プラットフォーム「TOYO ChatGPT RAG※適用版」を導入しました。同プラットフォームは、株式会社UNAIITと当社が協働して開発を行ったもので、クローズドな環境で全職員が安全かつ安心して利用でき、生成AIを利用する際の情報漏洩リスクを低減すると同時に、RAG技術により回答精度の向上を図っています。各担当者がクラウド型ストレージにアップロードしたRAG用のファイルは、API連携により翌日自動的に参照されます。さらに、RAG参照を絞り込むためのフィルター機能、プロンプトアシスト機能などを搭載すると共に、社内規定を参照できる安全専用GPT、および全国の社内ドキュメントを検索できるAI社内ファイル検索システム等と連携しています。これらは、パソコンや全職員に支給されている業務用内線iPhone端末などからいつでもアクセス可能です。当社は今後も、同プラットフォームの社内利用を積極的に促進し、全職員のデジタル活用能力の向上と業務効率化を図ってまいります。
※Retrieval Augmented Generationの略。大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、独自の情報源を参照させることで、回答精度を向上させる技術です。
(4) 無線切離し装置「MIX」を開発
当社は、水中と陸上の両方でワイヤーの玉外し作業を無人化できる“無線切離し装置「MIX(ミックス)」”(本技術は特許出願中)を開発しました。
本装置は、切離しフックに音波と電波の無線通信機能を備えており、作業船上において操作ユニットを作動させることで、切離しフックが水中と気中のどちらの領域にあっても遠隔でワイヤーの玉外し操作が可能です。無線通信は、音波と電波の同時通信に対応し、本装置1台で水中から陸上まで全てのブロック据付に使用できます。
通常、消波ブロック(以下「ブロック」)の据付では、水中の基礎上から水面上までブロックを積み上げていきます。その際の玉外し作業は、潜水士や作業員によって実施されており、海域でのブロック据付は作業船が波浪の影響で動揺する中で行われるため、潜水士や作業員が動揺したブロックに挟まれる災害が懸念されます。本装置を使用することで、玉外し作業を無人化することができ、ブロック据付工事における安全性が向上します。また、無線の同時通信により水中や気中だけでなく、水面際の飛沫帯でも本装置を継続使用できるため作業の効率化に繋がります。
本装置を実際のブロック据付工事に導入した結果、通常の潜水士による玉外し作業を伴うブロック据付に比べて作業効率が約30%向上(当社比)し、装置の有効性と安全性を確認することができました。
(5) 実写VR空間で杭の位置誘導が行える「Pile T-Real」を開発
当社は、NETIS登録技術である打設杭トータル施工管理システムPile-T(NETIS、HRK-220004-A)を発展させて、実写VR空間で杭の位置誘導が行える「Pile T-Real」(本技術は特許出願中)を開発しました。
現行版のPile Tは、3台の自動追尾式トータルステーションの計測情報をもとに3Dモデルで表現した杭の打設状況や既設構造物、地層分布などをパソコン上のVR空間でリアルタイムに表示します。それにより、オペレータが360度の自由視点で杭の打設状況を確認しながら実際の杭を所定位置に誘導できます。今回開発したシステム「Pile T-Real」は、現行版のPile TのVR空間に360度カメラで撮影した現場のリアルタイム映像を背景として合成して実写VR空間とすることで、実際の映像と杭の打設状況などの3Dモデルを重ねて表示しながら杭の誘導を行うことが可能となりました。
本システムの開発により、3Dモデルでは表現が難しい動きのある作業員や移設が必要な杭の定規材なども実写VR空間でリアルタイムに確認できるため、実際の視覚に近い感覚で杭の誘導が行えます。また、杭の打設途中でも実写VR空間と現行版のVR空間のスムーズな切替えが可能です。結果、杭の打設精度だけでなく、作業の安全性や作業効率の向上が図れます。
当社では、これまでにVR技術を用いた様々な施工管理システムの開発を推進してまいりました。今後も建設DXを更に推進し、工事における安全性や生産性の向上を図ってまいります。
(6) 大型海上クレーンに対応した吊荷上下動低減装置「AHC-RMP」を開発
当社は、株式会社三井造船昭島研究所および株式会社SKKと共同で、“大型海上クレーンに対応した吊荷上下動低減装置「AHC-RMP」(Active Heave Compensation System using Real-time Motion Prediction)”を開発しました。本件は、国土交通省海事局の「2019年度 海洋資源開発関連技術高度化研究開発支援事業」の支援対策事業として採択されたものです。
従来、大型海上クレーンの作業海域は比較的静穏な港湾内がほとんどでしたが、今後は洋上風力発電をはじめとする外洋での作業が増えることが予想されます。港湾内よりも厳しい波浪条件で作業を行う外洋工事は、船舶が作業できる日や時間が限られることから長い工期を要し費用が高くなりますが、本装置の開発により稼働率が向上することでコスト低減が期待されます。
「AHC-RMP」は、船体の揺れを予測する「動揺予測システム」と吊荷を上下させるウィンチを制御する「ウィンチ制御システム」の2つのシステムで構成されており、船体に設置した計測器(姿勢計測装置・加速度センサー)の計測結果をもとに将来の動揺量を予測します。その予測結果から吊ワイヤーの巻出量を算出してクレーンPLC(Programmable Logic Controller)へ信号を送り、送られてきた信号をもとにクレーンPLCが揺れを相殺する方向へウィンチを回転させるようにトルクコンバーターを制御し吊荷の上下動を低減します。
「AHC-RMP」の開発により、吊荷重20~80tにおける吊荷上下動を20~60%低減することができ、作業中止基準の限界波高を高め、作業船の稼働率を向上することが可能となります。
(7) 当社作業船にバイオ燃料を初導入
大阪湾における神戸市発注工事において、初めて当社作業船に、NX商事株式会社からバイオ燃料の供給を受け施工しました。
工事の施工に伴うCO2排出量の削減は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた当社の重要課題の一つであります。特に、当社は海上工事用の作業船を数多く保有していることから、化石燃料使用によるCO2排出量が多い傾向があります。作業船の稼働によるCO2排出量削減が喫緊の課題であり、今回の試みは課題解決のための取り組みの一環として行いました。
バイオ燃料は軽油・重油の代替として既存のディーゼルエンジン換装などが不要なドロップイン燃料であり、船舶用燃料の代替候補として船舶での利用が拡大しています。
当社ではバイオ燃料を使用することがCO2の排出削減に有効な手段であると捉え、深層混合処理船「DCM6号船」でバイオ燃料を使用し、機器類への影響等を検証したうえで、海上土木工事においてバイオ燃料の導入を積極的に行い、CO2排出量の削減に努めてまいります。
今後もバイオ燃料の普及・導入を通して、カーボンニュートラルへの取り組みを推進してまいります。
(8) 環境配慮型コンクリートCELBIC-RAの国土交通大臣認定の取得
当社は、株式会社東京テクノと武蔵野土木工業株式会社とともに、結合材の70%に高炉スラグ微粉末を使用したCELBIC※1に、製造~保管の工程を経てCO2を固定したCCU材料である再生骨材を使用した環境配慮型コンクリート(CELBIC-RA)の国土交通大臣認定(MCON-4763)を取得しました。
CELBIC-RA(Consideration for Environmental Load using Blast furnace slag In Concrete – Recycled Aggregate)は、普通ポルトランドセメントの70%を高炉スラグ微粉末に置き換えて使用するとともに、製造から保管の過程でCO2を吸収・固定したリサイクル材である再生骨材を使用した「低炭素性」と「資源循環性」を兼ね備えた環境配慮型コンクリートです。再生骨材Mを使用しますが、国土交通大臣認定(MCON-4763)を取得していますので、場所打ち杭や地下構造物等に使用することができます。
なお,実機実験を通じてのCELBIC-RAの製造および品質管理手法の確立と,構造体コンクリートとしての性能の確認は, BFCCU*2研究会において実施したものです。
*1:CELBIC:建築コンクリート構造物に求められる所要の品質を確保しつつ、コンクリート材料に由来する二酸化炭素の排出量の約9~63%を削減する環境配慮型コンクリートで、一般社団法人日本建築総合試験所より2020年に建設材料技術性能証明を取得しています
*2:BFCCU:Blast Furnace slag + Carbon dioxide Capture and Utilization
(9) 小山水処理センター施設整備事業における環境配慮工事
当社は株式会社板橋組および株式会社斎藤組とともに、栃木県の南部に位置する小山市が発注した下水汚泥のエネルギー資源への転換を図る「小山水処理センター汚泥処理・有効利用施設整備(設計・建設期間:2021年11月~2024年3月)および運営事業(維持管理・運営機関:2024年4月~2044年3月(20年間))」を受注事業者の小山エナジーリサイクル株式会社より、施設整備の一環として各種設備基礎等の建設を請け負いました。
当社では本建設工事にあたり環境に配慮した工事を進めることを目指し、近年環境負荷低減の観点から着目されている、セメントの60%を製鉄産業の副産物である高炉スラグ微粉末(以下、BF)に置き換えてCO2の発生量を抑えた「低炭素型の環境配慮コンクリート」と、周辺建物への工事騒音・振動環境の配慮のため「TOSMO-SV」による騒音監視のほか、工事車両による発生音の低減策として「ANC 技術」を採用しました。その結果、「環境配慮型コンクリート」の採用により129tonのCO2削減に寄与するとともに、周辺建物へ有害な工事騒音・振動を発生させることがなくなりました。また、工事車両の騒音低減対策の効果も実証しました。
(10) バイオフィリックデザインを導入したABWオフィスにおけるワーカーの生産性・ウェルビーイング向上に関する研究開発
脱炭素社会への移行が求められる中、建築における環境配慮は重要な課題です。働き方改革によるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の普及とウェルビーイング重視の潮流から、ワーカーの知的生産性や心身の健康を高めるオフィス環境、特に自然との繋がりを重視する「バイオフィリックデザイン」への関心が高まっています。
本研究開発は、バイオフィリックデザイン要素を導入したABWオフィスに着目し、ワーカーの知的生産性、創造性、ウェルビーイング向上に資する設計・運用手法の確立を目的とします。ABWの多様な空間特性とバイオフィリックデザインの効果を組み合わせ、ワーカーへの影響を多角的に評価し、最適な空間構成・運用を提案することを目指しました。
2024年度は、バイオフィリックABW空間がワーカーへ与える影響評価手法の高度化を図りました。多様な感情を分析可能な最新の脳波計測機器を導入したうえで、客観的な生理・心理指標(ストレス、集中度、快感情等)を精密に測定し、ABWの活動空間タイプに応じたバイオフィリック要素の効果を検証しました。その結果、特定のデザイン要素がパフォーマンスやポジティブ感情に与える影響など、空間とデザイン要素の最適関係に関する知見を得ました。さらに、最新のBIM技術とXR(VR/AR/MR)装置を活用し、設計段階での空間体験シミュレーションや、実空間でのワーカー行動・空間利用状況の精密な把握・分析も行い、提案の精度を高めました。
本研究開発は、「バイオフィリックデザイン」と「ABW」を融合し、先端的な脳波計測やBIM/XR技術を用いた客観的評価を通じて、ワーカーの生産性・ウェルビーイング向上に貢献するオフィス環境の設計・運用に関する具体的な示唆を得ました。今後は、本研究成果に基づき、実オフィスでの効果検証を進め、提案手法の汎用性を高めます。脳波計測やBIM/XR技術をさらに活用し、バイオフィリック効果を最大化するABW空間の計画・評価を支援する設計ツールの開発や、長期的なワーカーへの影響調査も視野に入れ、人間的で創造的な働き方を支援する次世代オフィス空間の実現を目指します。
(11) 生成AIアプリ開発による設計・施工プロセスの革新と実業務への展開
建設プロジェクトは複雑化の一途を辿り、企画から維持管理まで膨大な情報が生成・共有されます。設計者は過去の指摘事項、法規、災害事例など、多岐にわたる情報を迅速に参照する必要があり、従来の検索方法では時間を要していました。当社では、働き方改革、若手育成、ベテラン技術者の暗黙知の形式知化が経営課題であり、この課題解決が急務でした。
そこで、Google Cloud Vertex AI Searchを活用したRetrieval-Augmented Generation(RAG)システムを開発・導入しました。過去のプロジェクトの指摘事項、法令データ、不具合・災害事例などを統合した知識ベースを構築し、自然言語による質問にチャットボット形式で回答する生成AIアプリです。
2024年度より実業務への展開を開始し、情報検索時間の短縮、容易な利用環境の構築、同種課題の早期解決、新たな価値創造、経験知の共有と人材育成、指摘事項検索時間の削減、不具合予測精度の向上、関係者間のコミュニケーション円滑化などの効果が確認されています。膨大なデータから必要な情報を迅速かつ正確に抽出でき、専門知識がない担当者でも容易に利用可能です。過去の類似事例の参照により、設計・施工における課題の早期解決に貢献しています。また、生成AIによる情報分析を通じて、潜在的なリスクの早期発見や新たな設計・施工方法の示唆といった新たな価値創造にも寄与しています。
今後も最新の生成AI技術の導入、利用範囲の拡大、検索対象となる情報ソースの拡充、外部情報との連携などを視野に入れ、建設プロジェクト全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させることを目指します。
生成AI技術を活用した本取り組みは、建設プロジェクトにおける情報共有の課題を解決し、生産性向上、品質改善、安全性強化に大きく貢献するものと確信しています。当社は、今後も積極的にデジタル技術の開発と活用を推進し、持続的な成長と社会への貢献に努めてまいります。
このコンテンツは、EDINET閲覧(提出)サイトに掲載された有価証券報告書(文書番号: [E00082] S100W66J)をもとにシーフル株式会社によって作成された抜粋レポート(以下、本レポート)です。有価証券報告書から該当の情報を取得し、小さい画面の端末でも見られるようソフトウェアで機械的に情報の見栄えを調整しています。ソフトウェアに不具合等がないことを保証しておらず、一部図や表が崩れたり、文字が欠落して表示される場合があります。また、本レポートは、会計の学習に役立つ情報を提供することを目的とするもので、投資活動等を勧誘又は誘引するものではなく、投資等に関するいかなる助言も提供しません。本レポートを投資等の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。本レポートを利用して生じたいかなる損害に関しても、弊社は一切の責任を負いません。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。