有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100VZEN (EDINETへの外部リンク)
出光興産株式会社 研究開発活動 (2025年3月期)
当社グループは、燃料油、高機能材、資源、更には新規事業創出のための研究開発に取り組んでいます。現在、図に示した研究開発体制の下、互いに密接に連携して研究開発活動を行っています。
なお、研究開発費については、各セグメントに配賦できない全社共通研究費等206億円が含まれており、当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費の総額は前年同期比51億円増加の339億円です。
(当社グループの研究開発体制)
当連結会計年度における各セグメントの研究開発内容、研究開発費及び研究開発成果は次のとおりです。
(1)燃料油セグメント
バイオエタノールや動植物油脂からのジェット燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)、回収したCO₂からの合成燃料、使用済みプラスチックを原料とした油化ケミカルリサイクルなど、カーボンニュートラル及び循環型社会の実現に向けた社会実装のための技術開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は4億円です。
(2)高機能材セグメント
高機能材セグメントでは、環境に配慮した潤滑油製品の開発、機能舗装材(アスファルト)の開発、機能材料及び樹脂加工製品の競争力強化に向けた保有技術の改良や新規材料の開発、電子材料事業、農薬・機能性飼料事業における研究開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は125億円です。
①潤滑油事業では、カーボンニュートラルの実現に向け、3つの海外研究開発拠点と連携し、地域特性に応じた様々な環境対応型高機能・省エネルギー型商品の開発と環境・人・安全に配慮した技術の開発をグローバルで展開しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・高機能水溶性切削油(商品名:ダフニーアルファクールEX-NV、WX-NV)は、潤滑油使用量の削減や作業者の健康リスク低減が評価され、「第21回2024年"超"モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議、日刊工業新聞社)」を受賞しました。
・スマートフォンのカメラ機能を利用し、潤滑油の色と異物から潤滑油の寿命を予測し、機械の保守管理を行う「Idemitsu Smart OC」を商品化しました。
・環境に配慮したサステナブルな製品開発を進めており、ベースオイルに植物由来の原材料を使用したエンジンオイル「IDEMITSU IFG Plantech Racing」を商品化しました。また、電動車両用トランスアクスルフルード、バッテリー冷却剤、及びそれら兼用オイルについて継続して開発を進めています。
・将来的に成長が期待される半導体産業における材料加工油開発、自然冷媒や低GWP冷媒に対応する冷凍機油の開発、また、データセンターでの電力使用量削減に貢献する高性能液浸冷却油「IDEMITSU ICFシリーズ」の製品開発を進めています。
・当社独自技術であるナノウレアグリースの低トルク、低ノイズ、低温始動性という優れた特長を活かし、自動車や産業用ロボットをはじめとした幅広い分野において環境配慮とユーザー価値の向上を両立する製品の開発を進めています。
・近年では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を積極的に活用し、潤滑剤油及びその基材(添加剤、基油)の開発を促進するとともに、分析技術、機械要素評価技術等、トライボロジーにおいて先進的且つ幅広い研究開発を行っています。
②機能舗装材(アスファルト)事業では、省資源・省エネルギーや環境に配慮した舗装材料、例えば耐水性を強化し長寿命化を可能にした舗装材などを独自開発しています。また、アスファルトの特性を活かした屋根用防水材や、建物の地盤沈下による損傷を防ぐための基礎杭に塗布するアスファルトなど、工業用製品も開発し日本国内で製造販売しています。特に舗装材の製品開発においては、当社の長年の舗装材開発の実績から、行政機関や施設管理者と、十分連携しながら進めています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・水に起因する道路の損傷を大幅に抑制する舗装の耐水性強化技術について、高荷重のかかる空港滑走路において開発を行って参りましたが、2025年1月1日より、国内各空港の滑走路や誘導路向け製品として「ミナフォルティスCX」の発売を開始しました。新技術を用いて水の浸透による舗装内部の損傷を抑制することで耐久性を高め、滑走路等の安全性向上や長寿命化による補修工事の回数削減に貢献します。
・京都大学経営管理大学院のインフラ物性産学共同講座に当社社員が特命教授として出向し、また東京大学とのCN領域における包括連携協働研究に参画するなど、学との共創を通じて道路舗装の長寿命化、安全性の向上を追求したイノベーションを創出し社会実装していくことを目指します。
③機能化学品事業では、機能材料研究所にてエンジニアリングプラスチックであるシンジオタクチックポリスチレン樹脂やポリカーボネート樹脂の高付加価値商品の開発及び新機能を有した各種機能材料製品や粘接着基材の開発に取り組んでいます。また、出光ユニテック㈱商品開発センターにて様々な機能をもつシート・フィルムの包装材料開発を、出光ファインコンポジット㈱複合材料研究所にてポリオレフィンなど様々なプラスチックの機能を強化させた複合材料開発、にも取り組んでいます。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・シンジオタクチックポリスチレン樹脂(商品名:ザレック™)では、マレーシアの第2装置稼働に合わせ、新規用途開発を更に加速しています。自動車分野では、電動化に伴い軽量、絶縁特性が要求される電装部品への展開を一層強化し、耐ヒートショック性に優れる改良グレードやCAE技術の提案を通じた顧客との関係強化を図り、新規採用に至るまでの期間短縮化を実現しています。また新規用途として、ザレックの特徴を活かしたフィルム、シート、繊維への展開も推進、顧客採用活動を推進しました。
・ポリカーボネート樹脂(商品名:タフロン™)では、透明性や流動性に優れた光学グレードの開発、耐久性や耐薬品性、難燃性に優れる各種用途に適した共重合グレードの開発を行っています。光学グレードにおいて、自動車照明用DRL(Daytime Running Light)部品や液晶ディスプレイ部品向けに、更なる耐久性や導光性に優れた材料の展開、販売強化を図っています。共重合グレード(商品名:TARFLON NEO™)においては、自動車や通信分野をはじめ屋外で使用される製品等に、耐久性や耐薬品性、耐低温衝撃性を活かして新規採用に至っています。
・ポリオレフィンシート(商品名:マルチレイ™)では、東京科学大学の技術指導を受けながら新規表面微細構造設計技術を開発しており、その機能発現メカニズム解明と用途探索を実施しました。メカニズムの解明により目指すべき方向性を見出し、将来の食品ロス低減を目指した撥水撥油包装の実績化に着実に近づけました。また製品の安定供給のため、原料ソースの多様化を目指し、各国原料の調査と評価を実施、重要原料に関しては海外原料の使用を開始しました。
・ジッパーテープ(商品名:プラロック™)では、ピロー包装分野への拡販に向けて、内容物の充填を容易にする特殊なジッパーテープ(商品名:ポケットジップ™)付ロールフィルムの開発及び製袋・充填技術の確立を機械メーカーと共創して実施し、大手ハムメーカーで新規採用が決定しました。また生産性向上に向けて新規技術を用いた設備導入の仕様検討を行い、実生産機への導入を決定しました。
・複合材料において、ポリオレフィン系の樹脂コンパウンド(商品名:カルプ™)では、植物由来材料やリサイクル材等の原料化の検討、主力商品である難燃グレードにおける市場ニーズに対応した改良グレードの市場投入及び環境安全性を高める非ハロゲン化グレードの開発を推進しました。また、ポリフェニレンサルファイド系の樹脂コンパウンドにおいては、生成AI普及拡大に伴う情報通信分野での需要増への対応、機械・自動車用途向けに開発した水中・油中において良摺動性を示すグレードや電装部品向けに開発した絶縁熱伝導グレードの顧客採用活動を進めました。さらに、高機能性付与に向けてポリフェニレンサルファイド以外の高耐熱エンジニアリングプラスチック樹脂のコンパウンド開発も進めています。
④電子材料事業では、有機EL材料の研究開発を行っています。有機EL材料においては、顧客との連携強化、大学との共同研究などを通じて商材の更なる高性能化から次世代技術の開発まで、幅広い開発活動を推進しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・ディスプレイ関連の世界最大の学会であるthe Society of Information Display(以下、SID)において、当社社員の熊均が「2024 SID FELLOW AWARD」を受賞しました。この度の受賞は、青色蛍光有機ELの発光効率を大幅に向上させるTTF(Triplet-Triplet Fusion)技術を中心とした、有機EL材料・デバイス技術の開発、有機ELディスプレイの大幅な消費電力低減への貢献が高く評価されたものです。
・当社社員の舟橋正和が2024年春の褒章「紫綬褒章」を受章しました。今回の受章は、高効率かつ長寿命の青色発光技術の発明により、有機EL発光において実用レベルでの三原色発光が可能となり、近年の有機ELフルカラーディスプレイを搭載した高機能機器の実用化に大きく貢献したことが評価されました。
・顧客への提案活動を通じて、出光独自技術である積層発光方式を更に浸透させることができました。また、当該技術を更に発展させた技術論文が、SID主催のシンポジウム「Display Week 2025」においてDistinguished Paper Awardに選定されました。
・SK materials JNC CO., LTD.と有機EL材料である、ホウ素系蛍光青色ドーパント材料と、ホウ素系蛍光青色ドーパント材料に最適な蛍光青色ホスト材料の共同開発を目的とした覚書(MOU-Memorandum Of Understanding)を締結しました。
・設立から2年となる出光アドバンストマテリアルズコリアは、有機EL材料の研究開発体制を強化し、材料開発活動を順調に進捗させることができました。また、顧客ニーズを的確に把握するため、顧客との連携強化に努めました。
⑤農薬・機能性飼料事業では、主要関係会社のアグロ カネショウ㈱と㈱エス・ディー・エス バイオテックを中心に、商品化に至るまでの一連の研究開発を行っています。
ア.アグロ カネショウ㈱では、高い安全性を有するユニークな新規農薬成分の創生、生産現場のニーズに合致した製品の創出に加え、他社からの製品導入や無形資産の買収に取り組み、ポートフォリオの拡充に努めています。農業生産における社会課題として、欧州の「Farm to fork」や日本の「みどりの食料システム戦略」に掲げられる化学農薬や化成肥料の低減がクローズアップされつつある状況下、様々な防除対策を組み合わせて行う総合的病害虫・雑草管理(IPM)に資する製品群を投入すべく、2023年に新設したバイオロジカル・ソリューション室を軸に、微生物や天然物由来の農薬・資材等の研究開発を加速させています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・国内農薬登録を芝生用除草剤で1件新規取得、殺虫剤で1件譲渡を受け、国内の適用拡大登録を土壌消毒剤2件、ダニ剤1件、殺虫剤5件、殺菌剤4件取得しました。海外農薬登録をダニ剤で3件(3か国)新規取得し、海外適用拡大登録をダニ剤5件取得しました。
イ.㈱エス・ディー・エス バイオテックでは「食の安全・安心」「増大する食料需要への対応」をキーワードに、合成・微生物培養・生物学的評価・製剤・分析技術といった研究開発力を駆使することで、世界の「食」に貢献する農薬、飼料添加物などの商品のラインアップを拡充しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・国内の新規農薬登録を殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件、水稲用植物成長調整剤1件取得し、国内の適用拡大登録を殺菌剤15件、生物農薬殺虫剤3件、生物農薬殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件取得しました。
(3)資源セグメント
石炭事業では、顧客ニーズに応える技術サービスと石炭のクリーン利用技術の開発に取り組んでおり、近年では、バイオマス混焼によるCO₂排出量の削減や、排ガス中のCO₂を炭酸塩として固定化させる技術開発を積極的に推進しています。当セグメントに係る研究開発費は5億円です。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・石炭火力のCO₂排出削減に繋がる木質バイオマス(ブラックペレット)の製造・販売の事業化に向け、ブラックペレットを自社コールセンターで受入・貯蔵し、共に取組む需要家の石炭ボイラにて混焼試験を実施することにより、ブラックペレットを安全かつ円滑に取り扱うための技術及び実用的な混焼評価システムの開発を推進しています。これら貯蔵・混焼試験結果を踏まえた自社の知見を基に、ブラックペレットの品質向上や需要家へのコンサルティングに反映させています。
・CO₂を資源として活用するとともにCO₂の排出削減を行うため、廃コンクリートなどに含まれるカルシウムと発電所や工場から排出されるCO₂を作用させ炭酸塩(炭酸カルシウム)を製造するプロセスの研究開発を進めています。
・石炭鉱山での植栽を活用した新規事業創出を目的に、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同でバイオマス炭素材料の研究開発を実施しました。
(4)全社共通(コーポレート研究)
中期経営計画(2023~2025年度)に掲げた事業ポートフォリオ転換に向け、社会や技術のトレンドを踏まえた新規事業創出のための研究開発を実施しています。
①次世代技術研究所ではカーボンニュートラル社会、循環型社会の実現に向けたバイオマスやCO₂等を出発原料とするクリーンな素材・燃料を提供する技術の開発を実施しています。また高機能材事業の成長に向けて、保有している有機・無機合成、生物変換技術、触媒・電気・光化学の要素技術を活かしたモビリティ向け軽量/強靭化素材や酸化物半導体材料、宇宙用太陽電池等の開発に取り組んでいます。研究開発の推進にあたっては、高度な分析・解析技術や、MIやAIを駆使して大幅な省力化や各事業部も含めた研究開発のスピードアップに取り組むとともに、国家プロジェクトや国公立研究所、アカデミアとのオープンイノベーションを積極的に推進しています。アカデミアとの連携では東京科学大学との「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」、神戸大学との「出光バイオものづくり共同研究部門」に加えて2024年4月から新たに東京大学との「カーボンニュートラル領域における包括連携共同研究」を開始しました。さらに、アカデミア連携を海外大学へと拡大し世界中から最適な技術獲得を図り研究開発の早期成果創出に取り組んでいます。当連結会計年度に公開された主な実績は以下のとおりです。
・NEDO「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」の課題の1つである「常温、常圧下アンモニア製造技術の開発」において、性能向上・コスト競争力向上にむけ、触媒開発及び電解反応系の改良を進め、窒素と水からアンモニアへの連続電解合成で世界最高収率を達成しました。
②リチウム電池材料部では、早期実用化が望まれる全固体電池の材料となる固体電解質を中心に、2027-2028年の全固体電池実用化、その先の事業化を目指して、次世代電池用材料及びその量産化の研究開発を推進しました。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・2024年10月に、固体電解質の大型パイロット装置について基本設計を開始しました。(2025年度内に投資最終決定を予定)
・2025年2月に、固体電解質の原料である硫化リチウムの大型製造装置建設を決定しました。(2027年6月完工を予定)
・2025年3月に、小型実証設備第1プラントの能力増強工事を完了し、お客様へのサンプル供給能力の強化と、次のステージとなる大型パイロット装置での量産技術確立を見据えた、実証設備の拡充を行いました。
・今後の事業領域拡大を見据え、硫黄系正極の開発、及び全固体電池のリサイクルについて技術探索を進めました。
なお、研究開発費については、各セグメントに配賦できない全社共通研究費等206億円が含まれており、当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費の総額は前年同期比51億円増加の339億円です。
(当社グループの研究開発体制)
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当連結会計年度における各セグメントの研究開発内容、研究開発費及び研究開発成果は次のとおりです。
(1)燃料油セグメント
バイオエタノールや動植物油脂からのジェット燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)、回収したCO₂からの合成燃料、使用済みプラスチックを原料とした油化ケミカルリサイクルなど、カーボンニュートラル及び循環型社会の実現に向けた社会実装のための技術開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は4億円です。
(2)高機能材セグメント
高機能材セグメントでは、環境に配慮した潤滑油製品の開発、機能舗装材(アスファルト)の開発、機能材料及び樹脂加工製品の競争力強化に向けた保有技術の改良や新規材料の開発、電子材料事業、農薬・機能性飼料事業における研究開発を推進しています。当セグメントに係る研究開発費は125億円です。
①潤滑油事業では、カーボンニュートラルの実現に向け、3つの海外研究開発拠点と連携し、地域特性に応じた様々な環境対応型高機能・省エネルギー型商品の開発と環境・人・安全に配慮した技術の開発をグローバルで展開しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・高機能水溶性切削油(商品名:ダフニーアルファクールEX-NV、WX-NV)は、潤滑油使用量の削減や作業者の健康リスク低減が評価され、「第21回2024年"超"モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議、日刊工業新聞社)」を受賞しました。
・スマートフォンのカメラ機能を利用し、潤滑油の色と異物から潤滑油の寿命を予測し、機械の保守管理を行う「Idemitsu Smart OC」を商品化しました。
・環境に配慮したサステナブルな製品開発を進めており、ベースオイルに植物由来の原材料を使用したエンジンオイル「IDEMITSU IFG Plantech Racing」を商品化しました。また、電動車両用トランスアクスルフルード、バッテリー冷却剤、及びそれら兼用オイルについて継続して開発を進めています。
・将来的に成長が期待される半導体産業における材料加工油開発、自然冷媒や低GWP冷媒に対応する冷凍機油の開発、また、データセンターでの電力使用量削減に貢献する高性能液浸冷却油「IDEMITSU ICFシリーズ」の製品開発を進めています。
・当社独自技術であるナノウレアグリースの低トルク、低ノイズ、低温始動性という優れた特長を活かし、自動車や産業用ロボットをはじめとした幅広い分野において環境配慮とユーザー価値の向上を両立する製品の開発を進めています。
・近年では、マテリアルズインフォマティクス(MI)を積極的に活用し、潤滑剤油及びその基材(添加剤、基油)の開発を促進するとともに、分析技術、機械要素評価技術等、トライボロジーにおいて先進的且つ幅広い研究開発を行っています。
②機能舗装材(アスファルト)事業では、省資源・省エネルギーや環境に配慮した舗装材料、例えば耐水性を強化し長寿命化を可能にした舗装材などを独自開発しています。また、アスファルトの特性を活かした屋根用防水材や、建物の地盤沈下による損傷を防ぐための基礎杭に塗布するアスファルトなど、工業用製品も開発し日本国内で製造販売しています。特に舗装材の製品開発においては、当社の長年の舗装材開発の実績から、行政機関や施設管理者と、十分連携しながら進めています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・水に起因する道路の損傷を大幅に抑制する舗装の耐水性強化技術について、高荷重のかかる空港滑走路において開発を行って参りましたが、2025年1月1日より、国内各空港の滑走路や誘導路向け製品として「ミナフォルティスCX」の発売を開始しました。新技術を用いて水の浸透による舗装内部の損傷を抑制することで耐久性を高め、滑走路等の安全性向上や長寿命化による補修工事の回数削減に貢献します。
・京都大学経営管理大学院のインフラ物性産学共同講座に当社社員が特命教授として出向し、また東京大学とのCN領域における包括連携協働研究に参画するなど、学との共創を通じて道路舗装の長寿命化、安全性の向上を追求したイノベーションを創出し社会実装していくことを目指します。
③機能化学品事業では、機能材料研究所にてエンジニアリングプラスチックであるシンジオタクチックポリスチレン樹脂やポリカーボネート樹脂の高付加価値商品の開発及び新機能を有した各種機能材料製品や粘接着基材の開発に取り組んでいます。また、出光ユニテック㈱商品開発センターにて様々な機能をもつシート・フィルムの包装材料開発を、出光ファインコンポジット㈱複合材料研究所にてポリオレフィンなど様々なプラスチックの機能を強化させた複合材料開発、にも取り組んでいます。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・シンジオタクチックポリスチレン樹脂(商品名:ザレック™)では、マレーシアの第2装置稼働に合わせ、新規用途開発を更に加速しています。自動車分野では、電動化に伴い軽量、絶縁特性が要求される電装部品への展開を一層強化し、耐ヒートショック性に優れる改良グレードやCAE技術の提案を通じた顧客との関係強化を図り、新規採用に至るまでの期間短縮化を実現しています。また新規用途として、ザレックの特徴を活かしたフィルム、シート、繊維への展開も推進、顧客採用活動を推進しました。
・ポリカーボネート樹脂(商品名:タフロン™)では、透明性や流動性に優れた光学グレードの開発、耐久性や耐薬品性、難燃性に優れる各種用途に適した共重合グレードの開発を行っています。光学グレードにおいて、自動車照明用DRL(Daytime Running Light)部品や液晶ディスプレイ部品向けに、更なる耐久性や導光性に優れた材料の展開、販売強化を図っています。共重合グレード(商品名:TARFLON NEO™)においては、自動車や通信分野をはじめ屋外で使用される製品等に、耐久性や耐薬品性、耐低温衝撃性を活かして新規採用に至っています。
・ポリオレフィンシート(商品名:マルチレイ™)では、東京科学大学の技術指導を受けながら新規表面微細構造設計技術を開発しており、その機能発現メカニズム解明と用途探索を実施しました。メカニズムの解明により目指すべき方向性を見出し、将来の食品ロス低減を目指した撥水撥油包装の実績化に着実に近づけました。また製品の安定供給のため、原料ソースの多様化を目指し、各国原料の調査と評価を実施、重要原料に関しては海外原料の使用を開始しました。
・ジッパーテープ(商品名:プラロック™)では、ピロー包装分野への拡販に向けて、内容物の充填を容易にする特殊なジッパーテープ(商品名:ポケットジップ™)付ロールフィルムの開発及び製袋・充填技術の確立を機械メーカーと共創して実施し、大手ハムメーカーで新規採用が決定しました。また生産性向上に向けて新規技術を用いた設備導入の仕様検討を行い、実生産機への導入を決定しました。
・複合材料において、ポリオレフィン系の樹脂コンパウンド(商品名:カルプ™)では、植物由来材料やリサイクル材等の原料化の検討、主力商品である難燃グレードにおける市場ニーズに対応した改良グレードの市場投入及び環境安全性を高める非ハロゲン化グレードの開発を推進しました。また、ポリフェニレンサルファイド系の樹脂コンパウンドにおいては、生成AI普及拡大に伴う情報通信分野での需要増への対応、機械・自動車用途向けに開発した水中・油中において良摺動性を示すグレードや電装部品向けに開発した絶縁熱伝導グレードの顧客採用活動を進めました。さらに、高機能性付与に向けてポリフェニレンサルファイド以外の高耐熱エンジニアリングプラスチック樹脂のコンパウンド開発も進めています。
④電子材料事業では、有機EL材料の研究開発を行っています。有機EL材料においては、顧客との連携強化、大学との共同研究などを通じて商材の更なる高性能化から次世代技術の開発まで、幅広い開発活動を推進しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・ディスプレイ関連の世界最大の学会であるthe Society of Information Display(以下、SID)において、当社社員の熊均が「2024 SID FELLOW AWARD」を受賞しました。この度の受賞は、青色蛍光有機ELの発光効率を大幅に向上させるTTF(Triplet-Triplet Fusion)技術を中心とした、有機EL材料・デバイス技術の開発、有機ELディスプレイの大幅な消費電力低減への貢献が高く評価されたものです。
・当社社員の舟橋正和が2024年春の褒章「紫綬褒章」を受章しました。今回の受章は、高効率かつ長寿命の青色発光技術の発明により、有機EL発光において実用レベルでの三原色発光が可能となり、近年の有機ELフルカラーディスプレイを搭載した高機能機器の実用化に大きく貢献したことが評価されました。
・顧客への提案活動を通じて、出光独自技術である積層発光方式を更に浸透させることができました。また、当該技術を更に発展させた技術論文が、SID主催のシンポジウム「Display Week 2025」においてDistinguished Paper Awardに選定されました。
・SK materials JNC CO., LTD.と有機EL材料である、ホウ素系蛍光青色ドーパント材料と、ホウ素系蛍光青色ドーパント材料に最適な蛍光青色ホスト材料の共同開発を目的とした覚書(MOU-Memorandum Of Understanding)を締結しました。
・設立から2年となる出光アドバンストマテリアルズコリアは、有機EL材料の研究開発体制を強化し、材料開発活動を順調に進捗させることができました。また、顧客ニーズを的確に把握するため、顧客との連携強化に努めました。
⑤農薬・機能性飼料事業では、主要関係会社のアグロ カネショウ㈱と㈱エス・ディー・エス バイオテックを中心に、商品化に至るまでの一連の研究開発を行っています。
ア.アグロ カネショウ㈱では、高い安全性を有するユニークな新規農薬成分の創生、生産現場のニーズに合致した製品の創出に加え、他社からの製品導入や無形資産の買収に取り組み、ポートフォリオの拡充に努めています。農業生産における社会課題として、欧州の「Farm to fork」や日本の「みどりの食料システム戦略」に掲げられる化学農薬や化成肥料の低減がクローズアップされつつある状況下、様々な防除対策を組み合わせて行う総合的病害虫・雑草管理(IPM)に資する製品群を投入すべく、2023年に新設したバイオロジカル・ソリューション室を軸に、微生物や天然物由来の農薬・資材等の研究開発を加速させています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・国内農薬登録を芝生用除草剤で1件新規取得、殺虫剤で1件譲渡を受け、国内の適用拡大登録を土壌消毒剤2件、ダニ剤1件、殺虫剤5件、殺菌剤4件取得しました。海外農薬登録をダニ剤で3件(3か国)新規取得し、海外適用拡大登録をダニ剤5件取得しました。
イ.㈱エス・ディー・エス バイオテックでは「食の安全・安心」「増大する食料需要への対応」をキーワードに、合成・微生物培養・生物学的評価・製剤・分析技術といった研究開発力を駆使することで、世界の「食」に貢献する農薬、飼料添加物などの商品のラインアップを拡充しています。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・国内の新規農薬登録を殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件、水稲用植物成長調整剤1件取得し、国内の適用拡大登録を殺菌剤15件、生物農薬殺虫剤3件、生物農薬殺菌剤1件、緑地管理用除草剤2件取得しました。
(3)資源セグメント
石炭事業では、顧客ニーズに応える技術サービスと石炭のクリーン利用技術の開発に取り組んでおり、近年では、バイオマス混焼によるCO₂排出量の削減や、排ガス中のCO₂を炭酸塩として固定化させる技術開発を積極的に推進しています。当セグメントに係る研究開発費は5億円です。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・石炭火力のCO₂排出削減に繋がる木質バイオマス(ブラックペレット)の製造・販売の事業化に向け、ブラックペレットを自社コールセンターで受入・貯蔵し、共に取組む需要家の石炭ボイラにて混焼試験を実施することにより、ブラックペレットを安全かつ円滑に取り扱うための技術及び実用的な混焼評価システムの開発を推進しています。これら貯蔵・混焼試験結果を踏まえた自社の知見を基に、ブラックペレットの品質向上や需要家へのコンサルティングに反映させています。
・CO₂を資源として活用するとともにCO₂の排出削減を行うため、廃コンクリートなどに含まれるカルシウムと発電所や工場から排出されるCO₂を作用させ炭酸塩(炭酸カルシウム)を製造するプロセスの研究開発を進めています。
・石炭鉱山での植栽を活用した新規事業創出を目的に、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同でバイオマス炭素材料の研究開発を実施しました。
(4)全社共通(コーポレート研究)
中期経営計画(2023~2025年度)に掲げた事業ポートフォリオ転換に向け、社会や技術のトレンドを踏まえた新規事業創出のための研究開発を実施しています。
①次世代技術研究所ではカーボンニュートラル社会、循環型社会の実現に向けたバイオマスやCO₂等を出発原料とするクリーンな素材・燃料を提供する技術の開発を実施しています。また高機能材事業の成長に向けて、保有している有機・無機合成、生物変換技術、触媒・電気・光化学の要素技術を活かしたモビリティ向け軽量/強靭化素材や酸化物半導体材料、宇宙用太陽電池等の開発に取り組んでいます。研究開発の推進にあたっては、高度な分析・解析技術や、MIやAIを駆使して大幅な省力化や各事業部も含めた研究開発のスピードアップに取り組むとともに、国家プロジェクトや国公立研究所、アカデミアとのオープンイノベーションを積極的に推進しています。アカデミアとの連携では東京科学大学との「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」、神戸大学との「出光バイオものづくり共同研究部門」に加えて2024年4月から新たに東京大学との「カーボンニュートラル領域における包括連携共同研究」を開始しました。さらに、アカデミア連携を海外大学へと拡大し世界中から最適な技術獲得を図り研究開発の早期成果創出に取り組んでいます。当連結会計年度に公開された主な実績は以下のとおりです。
・NEDO「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」の課題の1つである「常温、常圧下アンモニア製造技術の開発」において、性能向上・コスト競争力向上にむけ、触媒開発及び電解反応系の改良を進め、窒素と水からアンモニアへの連続電解合成で世界最高収率を達成しました。
②リチウム電池材料部では、早期実用化が望まれる全固体電池の材料となる固体電解質を中心に、2027-2028年の全固体電池実用化、その先の事業化を目指して、次世代電池用材料及びその量産化の研究開発を推進しました。当連結会計年度の主な実績は以下のとおりです。
・2024年10月に、固体電解質の大型パイロット装置について基本設計を開始しました。(2025年度内に投資最終決定を予定)
・2025年2月に、固体電解質の原料である硫化リチウムの大型製造装置建設を決定しました。(2027年6月完工を予定)
・2025年3月に、小型実証設備第1プラントの能力増強工事を完了し、お客様へのサンプル供給能力の強化と、次のステージとなる大型パイロット装置での量産技術確立を見据えた、実証設備の拡充を行いました。
・今後の事業領域拡大を見据え、硫黄系正極の開発、及び全固体電池のリサイクルについて技術探索を進めました。
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ご利用にあたっては、こちらもご覧ください。「ご利用規約」「どんぶり会計β版について」。
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