有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S10076YI
オンコリスバイオファーマ株式会社 事業の内容 (2015年12月期)
当社の事業セグメントは、「医薬品事業」と「検査事業」の二つです。「医薬品事業」は、医薬品の研究・開発・製造・販売を事業目的とし、「検査事業」は、検査薬の研究・開発・製造・販売及び検査機器の開発・製造・販売並びに検査サービスの提供を事業目的としています。
当社はウイルス学に立脚した創薬技術を駆使した研究開発を行い、「がんと重症感染症」を初めとする難病の治療法にイノベーションを起こし、世界の医療に寄与することを使命としています。
医薬品事業においてはがんや重症感染症などの難病を対象に安全で有効な新薬を創出すること、また、検査事業においてはウイルスの遺伝子改変技術を活かした新しい検査法による特殊検査プラットホームビジネスの提供を基本的な事業方針としています。
なお、医薬品事業及び検査事業ともにアウトソーシングを積極的に活用することで、開発期間の短縮化・開発経費の最適化を図っています。当社の事業系統図は以下の通りです。当事業年度より、検査薬事業の名称を検査事業に変更しております。
[事業系統図]
(1) 当社の収益モデルと事業領域
① 効率化経営モデル
当社では'Planning & Operation'を基軸に開発体制を構築しています。すなわち、創薬プランを企画し、その製造、前臨床試験及び臨床試験をアウトソーシングする、いわゆるファブレス経営 [*1]による研究開発を行っており、これにより経費効率化・期間短縮を図っています。
〔本項の用語解説〕
[*1]ファブレス経営
ファブレス経営(Fabless Business)とは、自社で独自に企画・設計した製品を、他社に委託し製造する経営手法をいいます。生産設備のようなストックをできるだけ持たない手法であることからフロー型経営とも呼ばれる、製造業におけるアウトソーシングの一形態です。
② 医薬品事業の収益モデルと事業展開
医薬品事業においては、「がん及び重症感染症」などの難病を対象とする医薬品候補を大学等の研究機関や企業から導入し、当社で臨床開発の初期段階をアウトソーシングによって推進しています。その品目の製品的価値の初期評価であるProof of Concept(POC)を行った上で、大手製薬企業・バイオ企業等にライセンス許諾を行い、契約一時金、開発進捗に応じたマイルストーン収入、上市後のロイヤリティ収入を獲得する収益モデルを構築しています。
一般的な医薬品研究開発プロセスとの関係は以下の通りです。
[医薬品研究開発の一般的なプロセス]
[*1]探索
新薬のもとになる候補化合物を探し出すプロセスです。化学物質、微生物、遺伝子などの中から、将来薬になる可能性がある新しい物質(成分)を発見し、化学的に作り出す段階です。
[*2]前臨床試験
基礎研究で特定された薬剤候補化合物を対象に、生物化学的試験として、動物や培養細胞を用いて安全性や有効性について調べる試験です。化学的試験として、製造方法、原薬・製剤の規格・安定性などを調べる試験です。
[*3]Phase I臨床試験
第1相臨床試験とも呼ばれ、治療効果を見ることを主目的とせず、少数の健康な志願者を対象に、試験薬を初めてヒトに投与する試験で、主に安全性や体内における薬の分布や代謝を確認する試験です。
[*4]Phase Ⅱ臨床試験
第2相臨床試験とも呼ばれ、限定された患者に試験薬を投与し有効性と安全性を検討し、用法・用量の推定とPhase Ⅲ臨床試験のエンドポイントを決定することを目的とした試験です。Phase Ⅱa臨床試験は探索的試験とも言われ、Phase Ⅱb臨床試験と区分されることもあります。
[*5]Phase Ⅲ臨床試験
第3相臨床試験とも呼ばれ、多施設にわたる多数の患者に試験薬を投与する大規模な試験で、実際に市場で用いられる場合の有効性・安全性及び有用性を評価することを主目的とする試験です。検証的試験とも呼ばれ、承認申請に向けた効能・効果、用法・用量、使用上の注意等を最終的に決めることを目的とした試験です。
[*6]申請・承認
臨床試験で有効性や安全性などが証明された治験薬について、新薬承認申請書類を作成し、各国の規制当局に製造販売承認申請を行います。数段階の審査を受けた後に薬として承認され、市場に出ることになります。
③ 検査事業の収益モデルと事業展開
検査事業では、当社開発の遺伝子改変ウイルス検査薬を用いた検査システムを検査ユニットとして検査会社・医療機関に提供し、技術利用料、技術移転料などの収入を獲得します。本事業により継続的かつ安定的な収益性のある事業構造の構築を目指しています。この検査法は、これまでのバイオマーカーでは出来なかったがん患者の予後検査(再発予測)やがんの超早期発見に寄与する可能性があります。さらに、がん組織の生検(針刺し採取)をすることなしにがん組織の性質や遺伝子情報を知る事が可能になると考えられるため、患者様の予後予測や適正な医薬品の選定に寄与する全く新しいがん検査法として期待されています。
当社は、2015年11月にLiquid Biotech USA, Inc.(本社:米国ペンシルベニア州)と提携し、米国での新たな検査プラット・フォームの確立とマーケットの獲得を目指しています。
(2) 主要なパイプライン
当社は、ウイルス遺伝子改変技術を活用した新規がん治療薬、新規がん検査薬の開発を行い、さらにHIVやHBVの新たな治療薬の開発を行い、がんや重症感染症領域の医療ニーズ充足に貢献することを目指しています。
特にがん領域では、腫瘍溶解ウイルスのテロメライシン並びに第2世代テロメライシンであるOBP-702及びOBP-405の開発を進めると共に、がんの早期発見または術後検査を行う新しい検査薬のテロメスキャンや新規なエピジェネティックがん治療薬OBP-801を揃えることで、がんの早期発見・初期のがん局所治療・術後検査・転移がん治療を網羅するパイプラインを構築しています。
① 腫瘍溶解ウイルスOBP-301(テロメライシンⓇ)
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、がん細胞で特異的に増殖し、がん細胞を破壊することができるように遺伝子改変された5型のアデノウイルス[*1]です。5型のアデノウイルス自体は風邪の症状を引き起こすもので、自然界の空気中にも存在します。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することでがん細胞を溶解させる強い抗腫瘍活性を示すことや、正常な細胞の中では増殖能力が極めて低いということで、臨床的な安全性を保つことが期待されています。用法としては局所療法が中心となるため、体の負担も少なく、放射線治療や化学療法剤との併用により、更に強力な抗腫瘍活性が導き出せることも明らかになっています。さらに局所注射した部位以外でのがんの縮小効果が示唆されており、がん免疫療法等との併用効果が期待されています。これまで嘔吐・脱毛・造血器障害などの重篤な副作用は報告されていないことから患者様のQOL(Quality of Life)の向上が期待されます。
a)対象疾患
食道がん・肝臓がん・悪性黒色腫(メラノーマ、皮膚がん)などの固形がんを対象にします。
b)技術導入の概況
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、2006年10月に日本国内の特許(特許第3867968号)を、2012年4月に米国での特許(米国特許第8,163,892号)を取得したのをはじめ、世界10か国での特許取得が完了しています。欧州でも2013年9月に特許査定を受け、欧州内の14か国への登録手続きを進めています。日本の特許は、当社と関西ティー・エル・オー株式会社の共有、海外指定国における特許及び特許出願は当社単独で保有しています。
(特許取得済みの国)
日本・米国・南アフリカ・シンガポール・ニュージーランド・オーストラリア・中国・香港・韓国・カナダ
〈特許査定〉
欧州(14か国登録手続き中)
c)アライアンスの状況
2008年3月にMedigen Biotechnology Corp.(台湾)と戦略的アライアンス契約を締結致しました。現在同社とともに、韓国及び台湾での肝臓がんを対象としたPhase I/Ⅱ臨床試験を進めています。さらに、食道がんへの臨床研究も進捗しており、早期に臨床上の効果を確認した後、大手製薬企業へのライセンス導出を目指します。
d)研究開発の概況
当社がこれまでに実施した前臨床試験では、様々ながん細胞に対して優れた抗腫瘍効果を示し、毒性試験並びに生物学的分布試験において安全性上問題となるような所見を示しませんでした。その結果、2006年8月にFDA(米国食品医薬品局)/CBER(生物医薬品局)から各種固形がん患者を対象としたPhase I臨床試験実施の許可を得、米国において単回投与16例及び反復投与6例の試験を完了致しました。その結果、高度な副作用は認められず、一部患者での腫瘍縮小効果が認められました。特に悪性黒色腫患者においては、注射部位以外への縮小効果が認められ、本剤の免疫活性化作用が示唆されました。
国内では、岡山大学における食道がん及び頭頸部がんを対象とした放射線との併用療法に関する臨床研究について、2012年8月に厚生労働省より実施承認を得て、2013年11月から食道がん患者を対象とした臨床研究が開始されています。
また、アジア圏で増加傾向にある肝臓がんを対象とするPhase I/Ⅱ臨床試験のプロトコールについては、FDAの承認を得て、2014年11月から被験者への投与を開始しています。
e)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
f)販売体制
将来的に大手製薬会社などにライセンス導出し、導出先が販売をする予定です。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターをアデノウイルス5型遺伝子のE1領域[*2]に組み込み、更に同領域にIRES配列[*3]を導入することによってがん細胞内での複製効率を高めたがん細胞で特異的に増殖する腫瘍溶解ウイルスです。
OBP-301(テロメライシンⓇ)のDNA構造は以下の通りです。
② エピジェネティック[*4]がん治療薬OBP-801
OBP-801は分子標的抗がん剤[*5]であり、先天的発がんメカニズムではなく、後天的な発がんメカニズムを抑制できるエピジェネティック治療薬であるヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase; HDAC)阻害剤です。本剤は、細胞分裂を抑制する既存の化学療法剤とは全く異なり、HDACの活性を特異的かつ強力に阻害することで、がん細胞におけるがん抑制遺伝子[*6]の発現を促し、がん細胞の増殖抑制や細胞死を誘導するなどの抗腫瘍効果を示すことが期待されています。
同種同効品として、Merck社(米国)のZolinzaⓇ(vorinostat)が2006年(日本では2011年)に、Celgene社(米国)のIstodaxⓇ(romidepsin)が2009年に、Spectrum Pharmaceuticals, Inc(米国)のBeleodaq®(Beliostat)が2014年に、それぞれT細胞リンパ腫を対象として欧米で承認・上市されています。
OBP-801は、これまでの検討においてZolinzaⓇ及びIstodaxⓇを含む既存のHDAC阻害剤と比較して極めて強いHDAC阻害活性を示し、幅広いがん腫に対する効果が期待され、現在米国でPhase I臨床試験を実施中です。
a)対象疾患
OBP-801は、腎臓がん、中皮腫、卵巣がんなど幅広いがん種に対して有効性が期待されます。
b)技術導入の概況
当社は、2009年10月にアステラス製薬株式会社よりOBP-801に関する独占実施権を獲得しています。
c)研究開発の概況
2014年11月に米国FDAに対しPhase I試験のIND申請を行い、同年12月に承認を得ました。更に2015年5月には、Barbara Ann Karmanos Cancer Institute(米国)において固形がん患者への投与が開始されています。
このPhase I臨床試験は、他の治療法に抵抗性を示す進行性固形がん患者を対象に点滴静脈内投与を行い、安全性と予備的有効性などを評価することを目的としています。
d)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
e)販売体制
将来的に大手製薬企業等へのライセンス導出し、導出先が販売を行います。
③ HIV感染症治療薬OBP-601(Censavudine)
OBP-601(Censavudine)は、HIV[*7]の複製に必須である逆転写酵素を阻害することを作用機序とする、新規のHIV感染症治療薬です。鹿児島大学附属難治ウイルス病態制御研究センターの馬場昌範教授、元昭和大学薬学部の田中博道教授、Yale大学医学部(米国)のYung-Chi Cheng教授らの共同研究により見出された核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)[*8]です。既存のHIV感染症治療薬に耐性を持ったウイルスに対して幅広くかつ強力な抗HIV活性を示すとともに、これまでHIV感染症治療薬で問題となってきた神経障害や脂質代謝異常といった副作用が軽減される可能性があります。
当社のOBP-601(Censavudine)は、下図の通り細胞内に侵入したHIVウイルスの持つRNAが細胞内でDNAに逆転写される時に作用する酵素の働きを阻害することで、HIVの複製の第一段階を阻害します。
a)対象疾患
OBP-601(Censavudine)は、HIV感染症を対象疾患としています。
b)技術導入の概況
当社は、OBP-601(Censavudine)の特許を出願・保有するYale大学(米国)との独占的ライセンス契約を2006年6月に締結しています。
c)研究開発の概況
2008年5月から、安全性や体内での薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)などの検討を目的としたPhase Ia臨床試験を、米国で健康成人男性48名を対象に実施し、本剤の安全性と薬物動態が検討されました。
また、2008年11月からは、安全性と有効性を検討するためのPhase Ib/Ⅱa臨床試験を、フランス6施設でHIV感染症患者32名を対象に実施し、本剤のHIV患者に対する安全性と単剤投与による有効性が確認されました。
本試験結果をもって米国Bristol-Myers Squibb Coとライセンス導出交渉を行い、2010年12月に全世界におけるOBP-601(Censavudine)の開発・製造・販売権をBristol-Myers Squibb Coに付与する契約を締結しました。
2012年2月からは、用法用量設定を目的としたPhase Ⅱb臨床試験を、世界17か国94施設で約300名のHIV感染症患者を対象に行い、本剤の長期投与による有効性と安全性が確認され、Phase Ⅱb臨床試験のエンドポイントが達成されました。
2014年4月に、Bristol-Myers Squibb Co.側の事情によりライセンス契約が解消されました。
本剤は、既存のHIV感染症治療薬に対する耐性ウイルスのほぼ全てに対して強力な抗ウイルス活性を示すことが確認され、更に世界各地に存在するHIVウイルスの亜種に対しても同様に、強力な抗ウイルス活性を示しており、既存のHIV感染症治療薬に比べ優れた効果が期待できると判断されています。
d)製造体制
当社では、OBP-601(Censavudine)の自社製造しておらず、治験薬は他社に委託して製造しております。
e)販売体制
大手製薬会社などにライセンスし、導出先が販売してまいります。
④ 検査薬 OBP-401(テロメスキャンⓇ)、OBP-1101(テロメスキャンF35)
テロメスキャンⓇは、がん細胞内で特異的に増殖し、緑の蛍光色を発するタンパク質(GFP)を産生させてがん細胞を特異的に発光させる機能を持った遺伝子改変アデノウイルスです。
a)OBP-401(テロメスキャンⓇ)
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は5型のアデノウイルスの基本構造を持ったOBP-301(テロメライシンⓇ)にクラゲの発光遺伝子を組み入れ、がん細胞や炎症性細胞などのテロメラーゼ陽性細胞で特異的に蛍光発光させる検査用ウイルスです。
b)OBP-1101(テロメスキャンF35)
OBP-1101(テロメスキャンF35)は、OBP-401(テロメスキャンⓇ)の基本構造をもったウイルス遺伝子配列に、正常な血球細胞でその増殖を抑制するマイクロRNA標的配列を組み込み、更に35型のアデノウイルスのウイルスファイバーを導入し、OBP-401によりがん特異性を持たせた第2世代のがん検査用遺伝子改変ウイルスです。
c)当社の体外検査事業プラット・フォーム
テロメスキャンⓇを用いた検査プラット・フォームは、これまでの技術では検出が困難であった血液中の微量な生きたままのがん細胞(CTC)の検出を可能とし、幅広いがん種での体外検査による予後予測・がん遺伝子検査・超早期発見などへの応用を目指して開発を進めています。特に、既存技術では効率的に検出できなかった肺がんや前立腺がん・乳がんなどにおいては、CTCの個数だけではなく悪性度の評価をするサービス(T-CAS)によりがん患者の予後予測や治療法の選択を可能にすることが期待されています。更にCTCを用いた遺伝子解析サービス(T-GEN)により、危険を伴うがんの組織生検を行うことなく、血液採取でがん患者に適した抗がん剤の選択できる可能性があり、医療現場での高品質な検査への応用が期待されています。
d)技術導入の概況
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、OBP-301(テロメライシンⓇ)と同様に発明者及び関西ティー・エル・オー株式会社から「特許を受ける権利」や「特許権」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。現在、国内外において特許出願中です。
OBP-1101(テロメスキャンF35)は医薬基盤研究所より2011年4月28日付で世界における独占実施権を獲得しています。
また、2013年2月15日付で、当社は、Geron Corporationと全世界におけるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターの特許についてがん検査用途での実施権の許諾に関する契約を締結しています。
e)アライアンスの状況
当社は2014年12月にWONIK CUBE Corp.(韓国)に対し、CTC検査薬OBP-1101(テロメスキャンF35)に関する韓国での独占的使用権を付与するライセンス契約を締結いたしました。
また、2015年11月にペンシルベニア大学及び同大学元教授等による研究開発成果の商業化を目的に設立されたLiquid Biotech USA, Inc.(米国ペンシルベニア州フィラデルフィア市)との間で、がん検査薬OBP-401(テロメスキャンⓇ)の北米エリアでの独占使用権を付与するライセンス契約を締結いたしました。今後、欧州・アジア圏へライセンスエリアを拡大していくことを目指しています。
当社は、これらのライセンス契約に伴う対価として、契約一時金、マイルストーン収入やがん検査キットの販売収入を受け取る権利を有しております。
f)製造体制
当社は、兵庫県神戸市の神戸検査センターにおいて、自社製造体制を構築しています。また、必要に応じて他社に委託して製造する予定です。
g)販売体制
当面の活動は、OBP-401(テロメスキャンⓇ)及びOBP-1101(テロメスキャンF35)を用いた自由診療の範囲における血中循環がん細胞(CTC)検出の受託検査及び研究機関へのウイルス販売が主体となります。将来は、検査キットを検査会社や医療機関に提供していきます。
〔主要なパイプラインにかかる用語解説〕
[*1]アデノウイルス
アデノウイルスは、正二十面体構造の二本鎖DNAウイルスで、ヒトの場合は気道に感染し、のどの腫れなどのいわゆる風邪の症状を起こします。アデノウイルスには、1型から51型まで51の血清型があり、ヒトアデノウイルス5型は小児の上気道感染症の原因となるウイルスで、36 kbの2本鎖直線状のDNAゲノムを有しています。組換えDNA実験ではアデノウイルス5型がよく使われます。この属のウイルスは深刻な疾患の原因とはならず、サイズの大きな遺伝子を組み込むことができることから、遺伝子治療に応用されてきました。
[*2]E1領域
ヒトアデノウイルスゲノムは、5'逆方向末端反復配列(ITR)、パッケージングシグナル(ψ)、初期遺伝子領域E1A及びE1BからなるE1、E2、E3、E4、後期遺伝子領域L1~L5、及び3’ITRを含みます。E1及びE4は調節タンパク質を含み、E2は複製に必要なタンパク質をコードし、L領域はウイルスの構造タンパク質をコードします。E1A及びE1B遺伝子は、ウイルスの増殖に必須な初期遺伝子です。
[*3]IRES配列
IRES(Internal Ribosome Entry Site)と呼ばれる遺伝子配列は、一本のメッセンジャーRNAの途中から翻訳を開始させることができる配列です。このため複数の遺伝子を含むベクターに組み込んで使われています。
[*4]エピジェネティック
DNA配列の変異や欠失・置換等の遺伝子そのものの先天的な構造的な変化を伴わず、DNAのメチル化や染色体タンパク質ヒストンのアセチル化など、遺伝子構造の後天的な修飾により発現調節がなされることを、遺伝子のエピジェネティックな変化と呼びます。この遺伝子のエピジェネティックな変化に作用することで効果を発揮する薬をエピジェネティック治療薬と呼びます。
[*5]分子標的抗がん剤
がん細胞の増殖や転移に特異的に、あるいはがん細胞で多く発現している異常なタンパクや酵素を標的とする抗がん剤。従来の化学療法はがん細胞を殺す作用(殺細胞)によって治療効果を発揮するだけでなく、正常細胞にも障害を与えることで副作用を引き起こすのに対し、分子標的抗がん剤はがん細胞特異的にがんの増殖や転移を抑えることで副作用の軽減にも繋がることが期待されています。
[*6]がん抑制遺伝子
がん抑制遺伝子は私たちの正常細胞にも存在しており、細胞の増殖を抑制したり、細胞のDNAに生じた傷を修復したり、細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導したりする働きをします。DNAの傷が蓄積することによるがん化をDNAの修復によって抑制したり、異常細胞の増殖を感知してその細胞に細胞死を誘導するなど、がん抑制遺伝子はがんの発生を抑制します。がん抑制遺伝子の突然変異(DNAの変化)により、がんの発生をみることがあります。がん抑制遺伝子の突然変異は、遺伝により先天的に変異を受け継ぐ場合もあれば、遺伝に関係なく後天的に発生する場合もあります。主要ながん抑制遺伝子として、p25を初めとしてp16、p53、Rb、BRCA1などがあります。
[*7]HIV
HIV(ヒト免疫不全ウイルス=Human Immunodeficiency Virus)は、人の免疫細胞に感染し免疫細胞を破壊して、後天的に免疫不全を発症させるウイルスです。俗称的に「エイズウイルス」と呼ばれることがありますが、正式な名称ではありません。
[*8]核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素の働きを阻害する薬であり、ウイルス遺伝子から宿主細胞核に組み込まれるDNAへのコピーをできなくさせます。
逆転写酵素阻害剤は2種類に分けられます。
核酸 (ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は、核酸というDNAの部品と構造的に類似したまがいものであるため、正しいHIVのプロウイルスDNAができなくなります。
非核酸 (非ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素そのものに結びつき、その形を壊し、酵素の働きを失わせることにより、HIVのDNA複製を阻害します。
当社はウイルス学に立脚した創薬技術を駆使した研究開発を行い、「がんと重症感染症」を初めとする難病の治療法にイノベーションを起こし、世界の医療に寄与することを使命としています。
医薬品事業においてはがんや重症感染症などの難病を対象に安全で有効な新薬を創出すること、また、検査事業においてはウイルスの遺伝子改変技術を活かした新しい検査法による特殊検査プラットホームビジネスの提供を基本的な事業方針としています。
なお、医薬品事業及び検査事業ともにアウトソーシングを積極的に活用することで、開発期間の短縮化・開発経費の最適化を図っています。当社の事業系統図は以下の通りです。当事業年度より、検査薬事業の名称を検査事業に変更しております。
[事業系統図]
(1) 当社の収益モデルと事業領域
① 効率化経営モデル
当社では'Planning & Operation'を基軸に開発体制を構築しています。すなわち、創薬プランを企画し、その製造、前臨床試験及び臨床試験をアウトソーシングする、いわゆるファブレス経営 [*1]による研究開発を行っており、これにより経費効率化・期間短縮を図っています。
〔本項の用語解説〕
[*1]ファブレス経営
ファブレス経営(Fabless Business)とは、自社で独自に企画・設計した製品を、他社に委託し製造する経営手法をいいます。生産設備のようなストックをできるだけ持たない手法であることからフロー型経営とも呼ばれる、製造業におけるアウトソーシングの一形態です。
② 医薬品事業の収益モデルと事業展開
医薬品事業においては、「がん及び重症感染症」などの難病を対象とする医薬品候補を大学等の研究機関や企業から導入し、当社で臨床開発の初期段階をアウトソーシングによって推進しています。その品目の製品的価値の初期評価であるProof of Concept(POC)を行った上で、大手製薬企業・バイオ企業等にライセンス許諾を行い、契約一時金、開発進捗に応じたマイルストーン収入、上市後のロイヤリティ収入を獲得する収益モデルを構築しています。
一般的な医薬品研究開発プロセスとの関係は以下の通りです。
[医薬品研究開発の一般的なプロセス]
[*1]探索
新薬のもとになる候補化合物を探し出すプロセスです。化学物質、微生物、遺伝子などの中から、将来薬になる可能性がある新しい物質(成分)を発見し、化学的に作り出す段階です。
[*2]前臨床試験
基礎研究で特定された薬剤候補化合物を対象に、生物化学的試験として、動物や培養細胞を用いて安全性や有効性について調べる試験です。化学的試験として、製造方法、原薬・製剤の規格・安定性などを調べる試験です。
[*3]Phase I臨床試験
第1相臨床試験とも呼ばれ、治療効果を見ることを主目的とせず、少数の健康な志願者を対象に、試験薬を初めてヒトに投与する試験で、主に安全性や体内における薬の分布や代謝を確認する試験です。
[*4]Phase Ⅱ臨床試験
第2相臨床試験とも呼ばれ、限定された患者に試験薬を投与し有効性と安全性を検討し、用法・用量の推定とPhase Ⅲ臨床試験のエンドポイントを決定することを目的とした試験です。Phase Ⅱa臨床試験は探索的試験とも言われ、Phase Ⅱb臨床試験と区分されることもあります。
[*5]Phase Ⅲ臨床試験
第3相臨床試験とも呼ばれ、多施設にわたる多数の患者に試験薬を投与する大規模な試験で、実際に市場で用いられる場合の有効性・安全性及び有用性を評価することを主目的とする試験です。検証的試験とも呼ばれ、承認申請に向けた効能・効果、用法・用量、使用上の注意等を最終的に決めることを目的とした試験です。
[*6]申請・承認
臨床試験で有効性や安全性などが証明された治験薬について、新薬承認申請書類を作成し、各国の規制当局に製造販売承認申請を行います。数段階の審査を受けた後に薬として承認され、市場に出ることになります。
③ 検査事業の収益モデルと事業展開
検査事業では、当社開発の遺伝子改変ウイルス検査薬を用いた検査システムを検査ユニットとして検査会社・医療機関に提供し、技術利用料、技術移転料などの収入を獲得します。本事業により継続的かつ安定的な収益性のある事業構造の構築を目指しています。この検査法は、これまでのバイオマーカーでは出来なかったがん患者の予後検査(再発予測)やがんの超早期発見に寄与する可能性があります。さらに、がん組織の生検(針刺し採取)をすることなしにがん組織の性質や遺伝子情報を知る事が可能になると考えられるため、患者様の予後予測や適正な医薬品の選定に寄与する全く新しいがん検査法として期待されています。
当社は、2015年11月にLiquid Biotech USA, Inc.(本社:米国ペンシルベニア州)と提携し、米国での新たな検査プラット・フォームの確立とマーケットの獲得を目指しています。
(2) 主要なパイプライン
当社は、ウイルス遺伝子改変技術を活用した新規がん治療薬、新規がん検査薬の開発を行い、さらにHIVやHBVの新たな治療薬の開発を行い、がんや重症感染症領域の医療ニーズ充足に貢献することを目指しています。
特にがん領域では、腫瘍溶解ウイルスのテロメライシン並びに第2世代テロメライシンであるOBP-702及びOBP-405の開発を進めると共に、がんの早期発見または術後検査を行う新しい検査薬のテロメスキャンや新規なエピジェネティックがん治療薬OBP-801を揃えることで、がんの早期発見・初期のがん局所治療・術後検査・転移がん治療を網羅するパイプラインを構築しています。
① 腫瘍溶解ウイルスOBP-301(テロメライシンⓇ)
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、がん細胞で特異的に増殖し、がん細胞を破壊することができるように遺伝子改変された5型のアデノウイルス[*1]です。5型のアデノウイルス自体は風邪の症状を引き起こすもので、自然界の空気中にも存在します。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、テロメラーゼ活性の高いがん細胞で特異的に増殖することでがん細胞を溶解させる強い抗腫瘍活性を示すことや、正常な細胞の中では増殖能力が極めて低いということで、臨床的な安全性を保つことが期待されています。用法としては局所療法が中心となるため、体の負担も少なく、放射線治療や化学療法剤との併用により、更に強力な抗腫瘍活性が導き出せることも明らかになっています。さらに局所注射した部位以外でのがんの縮小効果が示唆されており、がん免疫療法等との併用効果が期待されています。これまで嘔吐・脱毛・造血器障害などの重篤な副作用は報告されていないことから患者様のQOL(Quality of Life)の向上が期待されます。
a)対象疾患
食道がん・肝臓がん・悪性黒色腫(メラノーマ、皮膚がん)などの固形がんを対象にします。
b)技術導入の概況
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、2006年10月に日本国内の特許(特許第3867968号)を、2012年4月に米国での特許(米国特許第8,163,892号)を取得したのをはじめ、世界10か国での特許取得が完了しています。欧州でも2013年9月に特許査定を受け、欧州内の14か国への登録手続きを進めています。日本の特許は、当社と関西ティー・エル・オー株式会社の共有、海外指定国における特許及び特許出願は当社単独で保有しています。
(特許取得済みの国)
日本・米国・南アフリカ・シンガポール・ニュージーランド・オーストラリア・中国・香港・韓国・カナダ
〈特許査定〉
欧州(14か国登録手続き中)
c)アライアンスの状況
2008年3月にMedigen Biotechnology Corp.(台湾)と戦略的アライアンス契約を締結致しました。現在同社とともに、韓国及び台湾での肝臓がんを対象としたPhase I/Ⅱ臨床試験を進めています。さらに、食道がんへの臨床研究も進捗しており、早期に臨床上の効果を確認した後、大手製薬企業へのライセンス導出を目指します。
d)研究開発の概況
当社がこれまでに実施した前臨床試験では、様々ながん細胞に対して優れた抗腫瘍効果を示し、毒性試験並びに生物学的分布試験において安全性上問題となるような所見を示しませんでした。その結果、2006年8月にFDA(米国食品医薬品局)/CBER(生物医薬品局)から各種固形がん患者を対象としたPhase I臨床試験実施の許可を得、米国において単回投与16例及び反復投与6例の試験を完了致しました。その結果、高度な副作用は認められず、一部患者での腫瘍縮小効果が認められました。特に悪性黒色腫患者においては、注射部位以外への縮小効果が認められ、本剤の免疫活性化作用が示唆されました。
国内では、岡山大学における食道がん及び頭頸部がんを対象とした放射線との併用療法に関する臨床研究について、2012年8月に厚生労働省より実施承認を得て、2013年11月から食道がん患者を対象とした臨床研究が開始されています。
また、アジア圏で増加傾向にある肝臓がんを対象とするPhase I/Ⅱ臨床試験のプロトコールについては、FDAの承認を得て、2014年11月から被験者への投与を開始しています。
e)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
f)販売体制
将来的に大手製薬会社などにライセンス導出し、導出先が販売をする予定です。
OBP-301(テロメライシンⓇ)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターをアデノウイルス5型遺伝子のE1領域[*2]に組み込み、更に同領域にIRES配列[*3]を導入することによってがん細胞内での複製効率を高めたがん細胞で特異的に増殖する腫瘍溶解ウイルスです。
OBP-301(テロメライシンⓇ)のDNA構造は以下の通りです。
② エピジェネティック[*4]がん治療薬OBP-801
OBP-801は分子標的抗がん剤[*5]であり、先天的発がんメカニズムではなく、後天的な発がんメカニズムを抑制できるエピジェネティック治療薬であるヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase; HDAC)阻害剤です。本剤は、細胞分裂を抑制する既存の化学療法剤とは全く異なり、HDACの活性を特異的かつ強力に阻害することで、がん細胞におけるがん抑制遺伝子[*6]の発現を促し、がん細胞の増殖抑制や細胞死を誘導するなどの抗腫瘍効果を示すことが期待されています。
同種同効品として、Merck社(米国)のZolinzaⓇ(vorinostat)が2006年(日本では2011年)に、Celgene社(米国)のIstodaxⓇ(romidepsin)が2009年に、Spectrum Pharmaceuticals, Inc(米国)のBeleodaq®(Beliostat)が2014年に、それぞれT細胞リンパ腫を対象として欧米で承認・上市されています。
OBP-801は、これまでの検討においてZolinzaⓇ及びIstodaxⓇを含む既存のHDAC阻害剤と比較して極めて強いHDAC阻害活性を示し、幅広いがん腫に対する効果が期待され、現在米国でPhase I臨床試験を実施中です。
a)対象疾患
OBP-801は、腎臓がん、中皮腫、卵巣がんなど幅広いがん種に対して有効性が期待されます。
b)技術導入の概況
当社は、2009年10月にアステラス製薬株式会社よりOBP-801に関する独占実施権を獲得しています。
c)研究開発の概況
2014年11月に米国FDAに対しPhase I試験のIND申請を行い、同年12月に承認を得ました。更に2015年5月には、Barbara Ann Karmanos Cancer Institute(米国)において固形がん患者への投与が開始されています。
このPhase I臨床試験は、他の治療法に抵抗性を示す進行性固形がん患者を対象に点滴静脈内投与を行い、安全性と予備的有効性などを評価することを目的としています。
d)製造体制
当社は、本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。
e)販売体制
将来的に大手製薬企業等へのライセンス導出し、導出先が販売を行います。
③ HIV感染症治療薬OBP-601(Censavudine)
OBP-601(Censavudine)は、HIV[*7]の複製に必須である逆転写酵素を阻害することを作用機序とする、新規のHIV感染症治療薬です。鹿児島大学附属難治ウイルス病態制御研究センターの馬場昌範教授、元昭和大学薬学部の田中博道教授、Yale大学医学部(米国)のYung-Chi Cheng教授らの共同研究により見出された核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)[*8]です。既存のHIV感染症治療薬に耐性を持ったウイルスに対して幅広くかつ強力な抗HIV活性を示すとともに、これまでHIV感染症治療薬で問題となってきた神経障害や脂質代謝異常といった副作用が軽減される可能性があります。
当社のOBP-601(Censavudine)は、下図の通り細胞内に侵入したHIVウイルスの持つRNAが細胞内でDNAに逆転写される時に作用する酵素の働きを阻害することで、HIVの複製の第一段階を阻害します。
a)対象疾患
OBP-601(Censavudine)は、HIV感染症を対象疾患としています。
b)技術導入の概況
当社は、OBP-601(Censavudine)の特許を出願・保有するYale大学(米国)との独占的ライセンス契約を2006年6月に締結しています。
c)研究開発の概況
2008年5月から、安全性や体内での薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)などの検討を目的としたPhase Ia臨床試験を、米国で健康成人男性48名を対象に実施し、本剤の安全性と薬物動態が検討されました。
また、2008年11月からは、安全性と有効性を検討するためのPhase Ib/Ⅱa臨床試験を、フランス6施設でHIV感染症患者32名を対象に実施し、本剤のHIV患者に対する安全性と単剤投与による有効性が確認されました。
本試験結果をもって米国Bristol-Myers Squibb Coとライセンス導出交渉を行い、2010年12月に全世界におけるOBP-601(Censavudine)の開発・製造・販売権をBristol-Myers Squibb Coに付与する契約を締結しました。
2012年2月からは、用法用量設定を目的としたPhase Ⅱb臨床試験を、世界17か国94施設で約300名のHIV感染症患者を対象に行い、本剤の長期投与による有効性と安全性が確認され、Phase Ⅱb臨床試験のエンドポイントが達成されました。
2014年4月に、Bristol-Myers Squibb Co.側の事情によりライセンス契約が解消されました。
本剤は、既存のHIV感染症治療薬に対する耐性ウイルスのほぼ全てに対して強力な抗ウイルス活性を示すことが確認され、更に世界各地に存在するHIVウイルスの亜種に対しても同様に、強力な抗ウイルス活性を示しており、既存のHIV感染症治療薬に比べ優れた効果が期待できると判断されています。
d)製造体制
当社では、OBP-601(Censavudine)の自社製造しておらず、治験薬は他社に委託して製造しております。
e)販売体制
大手製薬会社などにライセンスし、導出先が販売してまいります。
④ 検査薬 OBP-401(テロメスキャンⓇ)、OBP-1101(テロメスキャンF35)
テロメスキャンⓇは、がん細胞内で特異的に増殖し、緑の蛍光色を発するタンパク質(GFP)を産生させてがん細胞を特異的に発光させる機能を持った遺伝子改変アデノウイルスです。
a)OBP-401(テロメスキャンⓇ)
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は5型のアデノウイルスの基本構造を持ったOBP-301(テロメライシンⓇ)にクラゲの発光遺伝子を組み入れ、がん細胞や炎症性細胞などのテロメラーゼ陽性細胞で特異的に蛍光発光させる検査用ウイルスです。
b)OBP-1101(テロメスキャンF35)
OBP-1101(テロメスキャンF35)は、OBP-401(テロメスキャンⓇ)の基本構造をもったウイルス遺伝子配列に、正常な血球細胞でその増殖を抑制するマイクロRNA標的配列を組み込み、更に35型のアデノウイルスのウイルスファイバーを導入し、OBP-401によりがん特異性を持たせた第2世代のがん検査用遺伝子改変ウイルスです。
c)当社の体外検査事業プラット・フォーム
テロメスキャンⓇを用いた検査プラット・フォームは、これまでの技術では検出が困難であった血液中の微量な生きたままのがん細胞(CTC)の検出を可能とし、幅広いがん種での体外検査による予後予測・がん遺伝子検査・超早期発見などへの応用を目指して開発を進めています。特に、既存技術では効率的に検出できなかった肺がんや前立腺がん・乳がんなどにおいては、CTCの個数だけではなく悪性度の評価をするサービス(T-CAS)によりがん患者の予後予測や治療法の選択を可能にすることが期待されています。更にCTCを用いた遺伝子解析サービス(T-GEN)により、危険を伴うがんの組織生検を行うことなく、血液採取でがん患者に適した抗がん剤の選択できる可能性があり、医療現場での高品質な検査への応用が期待されています。
d)技術導入の概況
OBP-401(テロメスキャンⓇ)は、OBP-301(テロメライシンⓇ)と同様に発明者及び関西ティー・エル・オー株式会社から「特許を受ける権利」や「特許権」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。現在、国内外において特許出願中です。
OBP-1101(テロメスキャンF35)は医薬基盤研究所より2011年4月28日付で世界における独占実施権を獲得しています。
また、2013年2月15日付で、当社は、Geron Corporationと全世界におけるヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターの特許についてがん検査用途での実施権の許諾に関する契約を締結しています。
e)アライアンスの状況
当社は2014年12月にWONIK CUBE Corp.(韓国)に対し、CTC検査薬OBP-1101(テロメスキャンF35)に関する韓国での独占的使用権を付与するライセンス契約を締結いたしました。
また、2015年11月にペンシルベニア大学及び同大学元教授等による研究開発成果の商業化を目的に設立されたLiquid Biotech USA, Inc.(米国ペンシルベニア州フィラデルフィア市)との間で、がん検査薬OBP-401(テロメスキャンⓇ)の北米エリアでの独占使用権を付与するライセンス契約を締結いたしました。今後、欧州・アジア圏へライセンスエリアを拡大していくことを目指しています。
当社は、これらのライセンス契約に伴う対価として、契約一時金、マイルストーン収入やがん検査キットの販売収入を受け取る権利を有しております。
f)製造体制
当社は、兵庫県神戸市の神戸検査センターにおいて、自社製造体制を構築しています。また、必要に応じて他社に委託して製造する予定です。
g)販売体制
当面の活動は、OBP-401(テロメスキャンⓇ)及びOBP-1101(テロメスキャンF35)を用いた自由診療の範囲における血中循環がん細胞(CTC)検出の受託検査及び研究機関へのウイルス販売が主体となります。将来は、検査キットを検査会社や医療機関に提供していきます。
〔主要なパイプラインにかかる用語解説〕
[*1]アデノウイルス
アデノウイルスは、正二十面体構造の二本鎖DNAウイルスで、ヒトの場合は気道に感染し、のどの腫れなどのいわゆる風邪の症状を起こします。アデノウイルスには、1型から51型まで51の血清型があり、ヒトアデノウイルス5型は小児の上気道感染症の原因となるウイルスで、36 kbの2本鎖直線状のDNAゲノムを有しています。組換えDNA実験ではアデノウイルス5型がよく使われます。この属のウイルスは深刻な疾患の原因とはならず、サイズの大きな遺伝子を組み込むことができることから、遺伝子治療に応用されてきました。
[*2]E1領域
ヒトアデノウイルスゲノムは、5'逆方向末端反復配列(ITR)、パッケージングシグナル(ψ)、初期遺伝子領域E1A及びE1BからなるE1、E2、E3、E4、後期遺伝子領域L1~L5、及び3’ITRを含みます。E1及びE4は調節タンパク質を含み、E2は複製に必要なタンパク質をコードし、L領域はウイルスの構造タンパク質をコードします。E1A及びE1B遺伝子は、ウイルスの増殖に必須な初期遺伝子です。
[*3]IRES配列
IRES(Internal Ribosome Entry Site)と呼ばれる遺伝子配列は、一本のメッセンジャーRNAの途中から翻訳を開始させることができる配列です。このため複数の遺伝子を含むベクターに組み込んで使われています。
[*4]エピジェネティック
DNA配列の変異や欠失・置換等の遺伝子そのものの先天的な構造的な変化を伴わず、DNAのメチル化や染色体タンパク質ヒストンのアセチル化など、遺伝子構造の後天的な修飾により発現調節がなされることを、遺伝子のエピジェネティックな変化と呼びます。この遺伝子のエピジェネティックな変化に作用することで効果を発揮する薬をエピジェネティック治療薬と呼びます。
[*5]分子標的抗がん剤
がん細胞の増殖や転移に特異的に、あるいはがん細胞で多く発現している異常なタンパクや酵素を標的とする抗がん剤。従来の化学療法はがん細胞を殺す作用(殺細胞)によって治療効果を発揮するだけでなく、正常細胞にも障害を与えることで副作用を引き起こすのに対し、分子標的抗がん剤はがん細胞特異的にがんの増殖や転移を抑えることで副作用の軽減にも繋がることが期待されています。
[*6]がん抑制遺伝子
がん抑制遺伝子は私たちの正常細胞にも存在しており、細胞の増殖を抑制したり、細胞のDNAに生じた傷を修復したり、細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導したりする働きをします。DNAの傷が蓄積することによるがん化をDNAの修復によって抑制したり、異常細胞の増殖を感知してその細胞に細胞死を誘導するなど、がん抑制遺伝子はがんの発生を抑制します。がん抑制遺伝子の突然変異(DNAの変化)により、がんの発生をみることがあります。がん抑制遺伝子の突然変異は、遺伝により先天的に変異を受け継ぐ場合もあれば、遺伝に関係なく後天的に発生する場合もあります。主要ながん抑制遺伝子として、p25を初めとしてp16、p53、Rb、BRCA1などがあります。
[*7]HIV
HIV(ヒト免疫不全ウイルス=Human Immunodeficiency Virus)は、人の免疫細胞に感染し免疫細胞を破壊して、後天的に免疫不全を発症させるウイルスです。俗称的に「エイズウイルス」と呼ばれることがありますが、正式な名称ではありません。
[*8]核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)
逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素の働きを阻害する薬であり、ウイルス遺伝子から宿主細胞核に組み込まれるDNAへのコピーをできなくさせます。
逆転写酵素阻害剤は2種類に分けられます。
核酸 (ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は、核酸というDNAの部品と構造的に類似したまがいものであるため、正しいHIVのプロウイルスDNAができなくなります。
非核酸 (非ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤は逆転写酵素そのものに結びつき、その形を壊し、酵素の働きを失わせることにより、HIVのDNA複製を阻害します。
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