有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100AKPY
五洋建設株式会社 研究開発活動 (2017年3月期)
経営上の重要な契約等メニュー財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
当連結会計年度は、技術基盤の強化を技術開発方針として、ブランド技術の開発や技術提案力の向上に資する技術開発を推進した。
なお、当連結会計年度における研究開発費は、1,952百万円であった。
また、当連結会計年度における主要な研究開発内容および成果は次のとおりである。
(国内土木事業、国内建築事業及び海外建設事業)
1.土木分野
(1)衛星画像データを用いたモニタリング技術の研究開発
港湾施設の維持管理を進めるに当たって、施設の点検は必須である。しかし、港湾施設は点検範囲が広域にわたる場合が多く、離島港湾や点検が急がれる災害時などには施設へのアクセス自体に問題があるなど管理上の課題も挙げられる。これらの課題を解決する港湾施設のモニタリング手法を2014年度後半から宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発している。衛星画像データを用いることで港湾施設の変動を広域かつ定期的に捉え、高精度に解析評価する。災害時は緊急モニタリングを実施することで対応可能である。当連結会計年度は人工衛星(ALOSないしALOS-2)の観測データから実証港湾空港における災害時の被災速報図の作成を行ったほか、埋立土の鉛直変動や屋外に設置した構造物へ与えた変動などを衛星データからこれまで以上に高精度に解析することに成功した。なお本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーションプログラム)に公募採用された技術であり、5年計画の3年目に相当する。
(2)遠隔操作無人探査機を利用した大水深水中調査ロボットの開発
高度経済成長期を中心に整備された社会インフラは、老朽化が進行しており、効率的・効果的な維持管理を行う必要が生じている。構造物の維持管理を行う上で点検・調査が基本となるが、ダム堤体などの水深40m以上の大水深の条件では、安全面と効率面から潜水士による目視調査が難しい。このような背景を踏まえ、遠隔操作無人探査機(Remotely operated vehicle : ROV)を利用した水中調査ロボットを開発した。当連結会計年度は国土交通省が実施した「次世代社会インフラ用ロボット現場検証の試行的導入」に参加し、ダム堤体の調査において、ROVに追加搭載した漏水量計測装置の実用性を確認した。今後は、さらに検査技術の高度化や自律航行技術の開発などを進め、様々な大水深域の構造物へ適用できるように、本技術の汎用性の向上に取り組んでいく予定である。
(3)ラジコンボートを用いた港湾構造物の点検・診断システムの開発
港湾施設の目視調査では、専門知識を有する者が小型船に乗り、船上から観察して劣化状態を把握するが、施設の供用中に調査することも多く、相応の人員、時間およびコストが必要である。そこで、2014年度からラジコンボートを用いた港湾構造物の点検・診断システムの開発を行っている。当連結会計年度は、3年計画の最終年として、ラジコンボートを用いて実際の桟橋下面の画像を撮影し、SfM/MVS(Structure from Motion/Multi-view Stereo)技術による画像解析と専用ソフトによる劣化診断を行い、本技術が実構造物の点検・診断に活用できることを確認した。本技術によりこれまでの人による調査の2倍以上の速度で実施可能であることから、調査・点検の効率化が図れる。
今後は、開発したシステムを実構造物の点検・診断に積極的に展開していく予定である。なお、本技術の開発は内閣府総合科学技術・イノベーション会議のSIPに公募採用されて実施した。
(4)港湾工事へのCIM適用
国土交通省が推進するCIM(Construction Information Modeling)は、社会インフラの調査設計から施工、維持管理段階まで、ライフサイクル全般にわたる合理化に対する期待から、建設業全体で広く適用されつつある。しかしながら、港湾工事ではCIMの実施例は少なく、あまり活用されていないのが現状である。当社では前連結会計年度より、港湾の桟橋工事において、他社に先がけて本格的にCIMへの取り組みを開始した。当連結会計年度は、①ボーリングデータを基に支持層の3Dモデルを確認しながら杭の打設を行うとともに、②工場製作のジャケットの既設杭への据付や仮設部材設置・撤去時の干渉などを事前に3Dモデルでシミュレーションするなど、桟橋工事における効果的なCIMの活用手法を確立したことにより、施工の確実性が向上した。今後は、今回得られた知見を踏まえ、様々な港湾工事へのCIMの適用を進めていく予定である。
(5)鋼管杭式桟橋の耐震補強工法の開発
民間が保有する桟橋は、地震による災害対応のための対策が遅れがちである。しかしながら、2013年6月の改正港湾法の公布により、今後、耐震補強の必要性が高まるものと考えられる。耐震補強の方法として、民間の顧客からは、施設を供用しながら対策を実施できる方法を強く望まれることが多い。当社は、桟橋施設を供用しながら杭に設置できる制震ダンパーを用いる耐震補強工法を考案した。水中振動台による実験により耐震補強効果の検証を踏まえ、数値解析モデルにより効果を評価する技術を構築し、ダンパーの最適配置に関する設計手法も確立している。
今後は、民間顧客の老朽化により耐力が低下している桟橋に対して本工法を積極的に提案していく予定である。
(6)ジオグリッド補強材を用いた矢板式護岸・岸壁の開発
補強材を用いた補強土壁工法は優れた耐震性を有し、擁壁等の陸上工事において広く用いられている。一方、港湾の係船岸では、ケーソンやL型ブロックに代表される重力式、あるいは鋼管杭や鋼矢板を用いた鋼(管)矢板式が一般的であり、補強材を利用した形式は適用されていない。当社は国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所との共同研究により、矢板の補強材としてジオグリッドを配置する新しい護岸・岸壁の開発を行っている。遠心載荷実験により、開発した係船岸の耐震性能を確認するとともに、ジオグリッドの最適配置方法等の設計法および最適施工方法を検討した。今後は、試験施工等を通して設計法や施工方法を確立し、護岸や岸壁工事に対して本工法を提案していく予定である。
(7)新船種作業船の開発・建造
近年、海洋工事も沖合へと展開していくなか、洋上風力や離島での各種土木工事、大水深防波堤の築造、海洋資源開発など外洋における様々な工事が見込まれている。これらを競合他社より効率的に受注するためにSEP型多目的起重機船の開発・建造に着手した。本船は800t吊全旋回式起重機船にSEP機能を付加することにより、気象・海象条件の厳しい海域であっても安全性、稼働率、施工精度の高いクレーン作業(施工)が可能である。また、充分な居住スペースと人員輸送のヘリデッキを備えており、遠隔地での作業と長期滞在を可能としている。完成後(2018年9月予定)は、当社が保有する自航式多目的起重機船「CP-5001」などと併用することにより、多種多様な工事に積極的に投入していく予定である。
2.建築分野
(1)梁・スラブコンクリートの打ち分け工法
異種強度のコンクリートで構成される鉄筋コンクリート(RC)梁に対する現行規準(RC規準等)の適用について、構造性能確認実験の範囲内(スラブ:設計基準強度30N/mm2、梁:同48N/mm2)で妥当性を検証し、確認することができた。本工法により、コンクリート止めの処置を施すことなく、異種強度コンクリートが打ち分けられ、梁部高強度コンクリートによるひび割れ発生を防止することができる。(2)設計・施工へのBIM適用と効果検証
① 実施検証実案件の実施設計において、実施設計図を作成するとともに、防熱の納まり確認や建築・設備の納まり調整を行い、実施設計段階へのBIM(Building Information Modeling)適用の効果を確認した。
② 施工図作成検証
実案件において、自社開発の施工図テンプレートを用いて施工図(基礎伏図、床伏図、平面詳細図、天井伏図)を作成し、各図面間の整合性を確保することができた。
③ 営業・施工支援
7案件について、施工ステップの作成や納まり調整を行い、関係者間の共通認識の形成、現場作業の効率化に寄与することができた。
(3)動的破砕による杭頭処理工法の最適化
今回新たに、施工による影響を受け難い後施工方式を検討し、横孔を放射状に配置する装薬方法による動的破砕・杭頭処理工法を確立した。さらに、水平破断位置に、横孔を放射状に4本配置する装薬方法を標準工法とし、装薬孔長に対する装薬長の比率及び杭径と装薬孔長の比率の最適値を検証した。これにより、杭径によらず、適切な破砕規模で動的破砕による杭頭処理を行うことが可能になった。(4)150N級コンクリートの構造性能検証
150N級のコンクリートを用いた柱部材は、建築学会の主な規準の適用範囲外であり、変形角が小さい範囲で、かぶり部のコンクリートが剥落することが知られている。そこで、今回は、かぶりコンクリートの剥落防止のために、コンクリートに鋼繊維を所定量混入した柱部材試験体により、構造性能確認実験を行った。その結果、容積比0.5%以上の鋼繊維を混入させることにより、150N級コンクリート柱部材の所要構造性能が確認されるとともに、最適な曲げ耐力式、せん断耐力式が検証された。(5)ZEB(Zero Energy Building)化実現へ向けた省エネ技術の開発
① 本社別館を対象に、事務所ビルの消費エネルギー状況を把握し、導入した各省エネ技術の効果を検証した。② 事務所ビルにおいて、消費エネルギー比率が高い空調について、気流制御により効率的に空調する手法の有効性を検証した。
③ 同空調について、自然換気システムによる空調消費エネルギーの低減効果を検証した。
④ ZEB実現性について、エネルギー、コスト面での実現性を検証するため、モデルケースでの試算を実施した。
(6)環境配慮型コンクリート
① 高流動再生骨材コンクリート外部環境の影響が緩和されるCFTコンクリート造適用の高流動再生骨材コンクリートについて、室内および実機試し練りを実施し、所要性能を有する同コンクリートの製造・施工・品質管理に関する手法を整備した。
② 低炭素型再生骨材コンクリート
環境配慮型混和材である高炉スラグ微粉末、フライアッシュを比較的多量に用いるとともにリサイクル材である再生骨材を併用した低炭素型再生骨材コンクリートについて、室内実験により基礎性状を確認するとともに、CO2排出量低減効果を確認した。
3.環境・リサイクル分野
(1)石炭灰を主材料とする土質系遮水材の開発
変形追随遮水工法(Clay Guard工法)は、浚渫工事等で発生する粘性土を主材料とし、遮水性を高めるためにベントナイトを添加混合することにより、変形に追随する土質系遮水材を製造し、管理型海面処分場の底面・側面遮水工を構築する技術であり、すでに多くの実績がある。新たに、石炭火力発電所から排出される石炭灰を有効活用することを目的として、粘性土の代わりに石炭灰を主材料とした土質系遮水材の開発を行い、一般財団法人沿岸技術研究センターが実施する港湾関連民間技術の確認審査・評価事業において、評価証(部分変更)を取得した。今後、再生資源の有効活用、環境保全に貢献しながら、開発した工法を管理型処分場の建設工事へ展開していく予定である。
(2)亜熱帯・遠隔離島の沿岸環境保全技術の開発
亜熱帯沿岸や遠隔離島の開発ではサンゴをはじめとする特有の生物の保全が不可欠なことは言うまでもない。2004年度より小笠原や沖縄地区でサンゴの付着基盤や、サンゴ礁の地形成立に関する研究を実施してきた。これらの海域における波浪や濁りなどがサンゴや海草の分布へ及ぼす影響を評価する技術の開発や現地データを用いた実証などを引き続き継続している。また、これまでに得られた知見を基にした実施工への対応について、検討を進めている。(3)干潟・浅場等沿岸環境保全技術の開発
沿岸環境にとって干潟・浅場等の保全や再生は重要なテーマである。当社は数多くの人工干潟や浅場を施工しており、東京湾奥部や瀬戸内海での施工場所について、長期的な環境や機能の変化等のモニタリング及び改善提案を継続的に行っている。また、当連結会計年度から、既設護岸に簡易的な工夫を付加して生物的多様性を高める環境共生護岸の実証実験を東京湾及び大阪湾で開始した。
(4)発生土砂分別・再利用基地の建設・運営
建設発生土は積極的に有効利用されているものの、大量に発生する建設発生土の再利用には課題が多い。当社では、船舶による大量輸送を活用した建設発生土の広域利用の取組みを進めており、建設発生土を集積・保管し、船舶へ積出する土壌再利用センター事業を展開している。これまで関東地域を対象に、千葉県市川市に整備した拠点基地を運営していたのに加え、当連結会計年度には横浜にも拠点基地を整備し運営を開始した。さらに、2018年度の開設を目標に名古屋にも拠点を整備し、中部地域への展開を進める。4.技術評価証等の取得
・変形追随遮水工法(Clay Guard工法、部分変更):港湾関連民間技術の確認審査・評価 評価証(一般財団法人沿岸技術研究センター) 2016年3月
・高流動再生骨材コンクリート:国土交通大臣認定(一般)を取得 2016年7月
・異形鉄筋を用いるひび割れ誘発目地付耐震壁構法(CCB-NAC工法[Crack Control Bar No Additional Concrete]):建築技術性能証明(曲げ破壊型適用) 2016年10月
なお、連結子会社においては、研究開発活動は特段行っていない。
(国内開発事業及びその他事業)
研究開発活動は特段行っていない。
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