有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100OBQJ (EDINETへの外部リンク)
オンコセラピー・サイエンス株式会社 研究開発活動 (2022年3月期)
当連結会計年度における研究開発費の総額は1,730百万円です。
(1)当社の事業基盤について
東京大学医科学研究所との共同研究の成果は当社の技術基盤となるものです。
① cDNAマイクロアレイについて
コンピューターのマイクロチップは大量の情報を高速に処理する道具として開発されたものですが、cDNA(※10)マイクロアレイ(※11)と呼ばれる技術も同様に小さな基盤上に非常に高密度にDNAを配置して、それらを手がかりに大量の遺伝子情報を獲得するために開発されたものです。また、遺伝子情報の解析においては、このように一度に全体像を捉え網羅的に解析するシステムは有用なものとして考えられております。
当社が共同研究において使用しているのは上述のcDNAをマイクロアレイ上の特定の区画に固定している(これを「スポットしている」といい、このスポットを実施する機械を「スポッター」といいます)cDNAマイクロアレイであります。これは共同研究先である東京大学医科学研究所および当社研究施設でスポッターを利用し、cDNAと、それをスポットしたcDNAマイクロアレイを作製しております。
このcDNAの作製方法は、大変に時間と労力のかかるものですが、以下に簡単にご説明いたします。
まず研究用に市販されているヒトの各種正常臓器の細胞からとったmRNA(※10)と同時に、発生過程の初期のmRNAもつかまえるために胎児のmRNAを入手します。そして、逆転写酵素でcDNAを作ります。さらに、このcDNAをもとにPCR法と呼ばれる方法でcDNAを増幅します。
このcDNAマイクロアレイの特長は、主に以下の2点です。
a 32,000種類の遺伝子をスポットしていること
2003年4月に発表されたヒトゲノムの完全解読終了時の情報では、約35,000個の遺伝子があるとされておりましたが、その後の解析では25,000-30,000個と一般的には考えられております。当社のマイクロアレイは32,000種類のcDNAをスポットしていることから、ほぼ全遺伝子を網羅しております。
またマイクロアレイにスポットするcDNAの合成は、ヒトの12種類の臓器よりプールしたmRNAにより実施しているため、およそヒトの発生過程以降に発現する遺伝子はほぼ検出することができます。これをマイクロアレイ上にスポットして使っているため、ヒトの細胞内での実際の遺伝子発現に近い状態で、かつ機能が未知の遺伝子まで解析することができます。
b cDNAを利用していること
マイクロアレイには、合成で作った25~50個くらいの核酸塩基からなるオリゴDNAとよばれるものを用いる方法と、cDNAを用いる方法があり、導入の簡便性からオリゴDNAを用いる方法が一般的です。当社はcDNAを用いる方法を採用しておりますが、これはオリゴDNAに比較してシステム構築に手間がかかる欠点はありますが、cDNAが200から1,100個までの長い核酸塩基からなっており個々の塩基の結合力が強く、マイクロアレイ洗浄時に、より厳しい条件(塩濃度や温度等の条件)で洗浄可能なため、その結果正常(相補性が正しい)な結合のみがマイクロアレイ上に残ることになり、再現性の面でオリゴDNAの方式より優れていると考えております。
② 抗がん剤探索のための網羅的ながん遺伝子の解析方法について
LMM法による細胞切片からのがん細胞の切り出し
がん組織を顕微鏡下で観察すると正常細胞とがん細胞が複雑に入り混じっており、精度の高いがん遺伝子解析のためには、まずこのような組織からがん細胞の集団のみを取り出す必要があります。当社共同研究においては、LMM(Laser Microbeam Microdissection)(※12)法と呼ばれる技術を採用しております。
がん細胞で特異的に発現する遺伝子を特定
ステップ①で回収したがん細胞からRNA(※10)を抽出し、逆転写酵素を用い蛍光色素で標識したcDNAを作成し、がん細胞に対応する正常細胞からも同様にRNAを抽出してがん細胞とは異なる蛍光色素で標識したcDNAを作成します。
これらを、cDNAマイクロアレイ上でがん細胞と正常細胞での遺伝子発現量の比を検出し、がん細胞で特異的に発現する遺伝子を特定します。
がんの分子標的治療薬の標的となり得る候補遺伝子の選択
上記で特定した候補遺伝子について、がんの分子標的治療薬のターゲットとなり得るか否かを下記の実験により検証します。
a がん細胞の増殖に関与しているか否かを、遺伝子を直接細胞に入れた際の細胞増殖促進効果の有無で確認する。
b 遺伝子の働きを阻害することにより、がん細胞の増殖が阻害されるか否かを確認する。
c 心臓や肺など、生命の維持に重要な臓器で発現が低いか否かを、cDNAマイクロアレイで得た正常臓器における発現データベース等により確認する。
③ 研究の特徴について
当該共同研究における主な特徴は、以下のとおりであります。当社は、これらの各要素を組み合わせた解析スキームに研究の優位性があり、各種のがんにおいて得られた遺伝子情報等は、治療効果が高く、かつ副作用が少ない抗がん剤等の開発や、特異性の高いがん診断薬の開発に有用であると認識しております。なお、現時点においては、第三者が同様の遺伝子解析を高精度で大規模に実施することは極めて困難であるものと考えておりますが、新たな研究手法等が確立された場合においては、今後における当該優位性が継続する保証はありません。
a 臨床症例に基づいた研究成果であること
当社の東京大学との共同研究は、同大学の医科学研究所が協力医療機関から収集した臨床症例に基づくものであり、各がん種について多数の症例の解析が可能となっております。
b LMM法によるがん細胞の分離により精度の高い解析が可能であること
従来の研究開発においては、がん組織から直接RNAを回収していたので、がん細胞に加え正常細胞の混入も多く、結果としてがん細胞での遺伝子発現変化が反映できないことが少なからず生じておりました。当社共同研究においては、高度な病理学的知識を有する研究者ががん細胞および正常細胞を判別した上でLMM法によりがん組織からのがん細胞の切り出し作業を実施しており、多くの手間と時間が必要となるものの、ほぼ100%の純度のがん細胞分離が可能であり、当該がん細胞のみを解析に用いることにより解析結果の正確性が向上しております。
c 遺伝子解析においてcDNAマイクロアレイを利用していること
当社が使用しているcDNAマイクロアレイは、元東京大学医科学研究所教授である中村祐輔氏が独自に開発したものであり、その特徴として、ア)精度を高めるため独自に開発したcDNAのセットを利用していること、イ)現在32,000種類の遺伝子をスポットしていること、ウ)機能未知の遺伝子および新規遺伝子も解析対象となること、等であります。
d 特定された候補遺伝子とがんとの関連を複数の実験により検証していること
前述のとおり、近年においては分子標的治療薬という概念が確立し、肺がん、乳がんおよび慢性骨髄性白血病に対する抗がん剤の開発がなされており、特定のがん患者に対して一定の効果が生じているものと考えられます。しかしながら、当社においては、これらの抗がん剤について効果、特異性や副作用の観点から見ると必ずしも十分なものではないと認識しております。
抗がん剤のターゲットとなる遺伝子はがん細胞のみに特異的に発現するのではなく、多くの正常臓器にも共通に発現している場合があることから、それらの副作用の原因として、抗がん剤が正常細胞に対しても作用してしまうことが考えられます。当該解析スキームにおいては、マイクロアレイによる解析から特定されたがん細胞で特異的に発現上昇している候補遺伝子について、ア)細胞の増殖に関与するもの、イ)働きを阻害するとがん細胞が増殖を停止する、もしくは死滅するもの、ウ)生命の維持に不可欠な臓器では発現していないもの等の条件により、分子標的抗がん剤のターゲットとして適当か否かを複数の実験により検証し、絞込みを行っており、がん細胞に対してより特異的で、かつ副作用の少ない抗がん剤等の開発に結びつくシーズの提供が可能になるものと考えております。
(2)研究開発活動
当社グループは、元東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長(現 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所理事長、東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授)中村祐輔教授と共同で、ほぼ全てのがんを対象とした網羅的な遺伝子発現解析等を実施し、既にがん治療薬開発に適した多くの標的分子を同定(※13)しております。また、それらの標的に対し、低分子医薬、がんペプチドワクチン、抗体医薬等の、各領域における創薬研究を積極的に展開し、これら創薬研究の成果を基にした複数の臨床試験を実施しており、臨床試験準備中の医薬品候補物質も複数有しております。
このような、「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業に加えて、がんプレシジョン医療関連事業を実施しております。
がんは遺伝子の異常により引き起こされる病気です。がん細胞での遺伝子の網羅的な解析は、がんの診断及びがん治療薬・治療法を選択するために非常に重要です。この解析を利用して、がんの早期診断や、がん患者さん一人ひとりの遺伝子情報に基づいた治療薬・治療法の選択をすることや新規の免疫療法につなげていくことをがんプレシジョン医療といい、近年、より効果的ながん治療をがん患者さんに提供できる手段として注目されています。
当社は、グローバルなゲノム・トランスクリプトム・エピゲノム等の次世代シーケンス解析サービスを行っているTheragen Bio Co., Ltd.(本社:韓国、以下「TB社」という。旧Theragen Etex Co., Ltd.)との資本・業務提携により、がん遺伝子の大規模解析検査及びがん免疫療法の研究開発を行う子会社として、株式会社Cancer Precision Medicine(以下「CPM社」という)を設立し、がんプレシジョン医療関連事業を実施しております。
具体的な「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業及びがんプレシジョン医療関連事業の内容については、以下(a)及び(b)のとおりでございます。
なお、2022年3月31日現在、当社は全世界で631件の特許を取得しております。
(a)「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業
創薬ターゲットの特定等を行う基礎研究領域においては、ヒト全遺伝子の遺伝子発現パターンを網羅的に検索できるcDNAマイクロアレイのシステムによる大腸がん、胃がん、肝臓がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、食道がん、前立腺がん、膵臓がん、乳がん、腎臓がん、膀胱がん及び軟部肉腫等について発現解析が終了しております。これらの発現解析情報からがんで発現が高く正常臓器では発現がほとんどない遺伝子を選択し、さらに機能解析により、がん細胞の生存に必須な多数の遺伝子を分子標的治療薬(※14)の標的として同定しております。
医薬品候補物質の同定及び最適化を行う創薬研究領域においては、医薬品の用途毎に、より製品に近い研究を積極的に展開しております。
低分子医薬につきましては、複数のがん特異的タンパク質を標的とする創薬研究を進めております。そのうち1種の標的であるリン酸化酵素(キナーゼ)(※15)については、医薬品候補化合物の臨床試験を実施中です(詳細は、別記「(ⅰ)低分子医薬」をご参照ください。)。他のリン酸化酵素については、これまでに得た高活性化合物に基づきリード最適化(※16)を進め、in vivo(※17)で強力な腫瘍増殖抑制効果を示す複数の高活性化合物を同定しております。これらにつき、医薬品候補化合物として臨床開発するための薬効薬理(※18)・薬物動態(※19)・毒性試験を進めております。さらに、別の3種の標的酵素タンパク質に関して、これまでに得た高活性化合物のうちin vivoで有意な腫瘍増殖抑制効果を示す化合物の構造に基づき、薬効向上のためのさらなるリード最適化を実施中です。また、さらに別の2種の標的酵素タンパク質に関して、これまでに得た高活性化合物に基づき、リード化合物(※16)の獲得に向けた新規化合物合成と構造活性相関研究を進めております。
がんペプチドワクチンにつきましては、これまでに日本人及び欧米人に多く見られるHLA(※20)-A*24:02及びA*02:01を中心に、大腸がん、胃がん、肺がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、乳がん及び肝臓がん等を標的とした計43遺伝子を対象としたエピトープペプチド(※21)を既に同定しておりますが、それら以外にもA*11:01, A*33:03, A*01:01及びA*03:01等、様々なHLAに対応したより多くのエピトープペプチドを同定しております。
このように、独創的な分子標的治療薬の創製を目指した創薬研究を積極的に展開しております。
これらに加えて、当社は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染制御及び重症化の抑制を目指したペプチドワクチンの研究開発に着手しております。
医薬開発領域においては、当社グループ独自での開発及び複数の製薬企業との提携による開発を、以下の通りそれぞれ進めております。
(ⅰ)低分子医薬
がん幹細胞の維持に重要なリン酸化酵素(キナーゼ)であるMELK(Maternal Embryonic Leucine zipper Kinase)を標的としたOTS167については、急性骨髄性白血病に対する第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を米国シカゴ大学及びコーネル大学にて実施しておりましたが、2021年11月に患者登録が終了いたしました。本試験では、急性骨髄性白血病を含む血液がんの患者さんを対象に、OTS167の静脈内反復投与における安全性を確認いたしました。また、OTS167の乳がんに対する第Ⅰ相臨床試験を米国テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター、米国ノーウォーク・ホスピタル及び米国メモリアルスローンケタリングがんセンターにて実施しており、さらに、日本国内でも当該臨床試験への患者登録を開始致しました。この臨床試験は、トリプルネガティブ乳がん(※22)を含む乳がんの患者さんを対象とし、OTS167のカプセル剤による経口投与における安全性及び推奨投与量の確認を主目的とし、副次的にトリプルネガティブ乳がんに対する臨床上の有効性を確認するものです。なお、OTS167は、オーストラリアで実施しておりました健常成人を対象とした経口投与による消化管吸収性(バイオアベイラビリティ)の確認を主たる目的とする臨床試験において、ヒトでの良好な経口吸収性が確認されています。
OTS167の標的であるMELKは、がん幹細胞に高発現し、その維持に重要な役割をしているリン酸化酵素(キナーゼ)です。OTS167は、そのキナーゼを阻害し、強い細胞増殖抑制効果が期待できる新しい作用機序(ファースト・イン・クラス)の分子標的治療薬であり、すでに動物試験において、肺がん、前立腺がん、乳がん、膵臓がん等に対し、強力な抗腫瘍効果が確認されています。
また、細胞分裂に重要ながん特異的新規標的分子(TOPK)に対する複数の最終化合物を同定しております。動物実験で、顕著な結果が得られたことから、製剤化検討及び非臨床試験を進めております。
(ⅱ)がんペプチドワクチン
がんペプチドワクチンにつきましては、提携先製薬企業との戦略的対話を促進し、提携先が実施する臨床開発の側面支援、後方支援を強化して参りました。
当社が塩野義製薬株式会社にライセンスアウトしているがん特異的ペプチドワクチンS-588410について、食道がん患者さんを対象とした第Ⅲ相臨床試験を塩野義製薬株式会社が実施し、完了いたしました。本試験の主要評価項目である無再発生存期間(RFS)に関して、S-588410群とプラセボ群の比較では、S-588410群におけるRFS延長について統計学的な有意差は認められませんでした。一方で、食道がん発生部位別あるいはリンパ節転移グレード別の探索的な部分集団解析では、S-588410投与により一定の発生部位の患者さん集団で全生存期間(OS)が有意に延長され、またリンパ節転移が多い患者さん集団ではRFSやOSの改善が認められる傾向を確認しております。また、副次評価項目のひとつである細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導に関してはS-588410投与により高い誘導率が確認され、主な副作用は注射部位の皮膚反応であり、重篤な皮膚反応は認められませんでした。本試験で得られた結果については更に詳細な解析を行い、今後のがんペプチドワクチン開発方針の一助にする予定であります。今後の開発計画については、契約締結先である塩野義製薬株式会社と協議を継続して参ります。なお、塩野義製薬株式会社は、S-588410の食道がん第Ⅲ相臨床試験のほか、膀胱がんを対象としたS-588410について日欧で第Ⅱ相臨床試験を完了しており、頭頸部がんを対象としたS-488210は欧州で第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を、また、固形がんを対象としたS-588210は英国で第Ⅰ相臨床試験を、それぞれ実施しております。
また、シンガポールのNUH(National University Hospital)並びに韓国のYonsei University Health System, Severance Hospitalにて、胃がんを対象としたがんペプチドカクテルワクチンOTSGC-A24と免疫チェックポイント阻害剤オプジーボの併用第I相試験を、医師主導治験として実施しております。
上記以外にも、複数の企業に対してがん治療用ペプチドワクチンに関する開発・製造・販売権を供与しております。
(ⅲ)抗体医薬
がん治療用抗体医薬OTSA101については、日本における滑膜肉腫に対する第Ⅰ相臨床試験を実施しております。本試験は、難治性又は再発性の滑膜肉腫患者を対象に、放射性同位元素を結合したOTSA101投与における安全性及び体内薬物動態の確認を主たる目的とするものです。
また、当社連結子会社であるイムナス・ファーマ株式会社が協和キリン株式会社にライセンスアウトしております抗アミロイドβ(Aβ)ペプチド抗体KHK6640については、協和キリン株式会社が、アルツハイマー型認知症に対する第Ⅰ相臨床試験を欧州及び日本にて実施しております。
(b)がんプレシジョン医療関連事業
(ⅰ)がん遺伝子の大規模解析検査ならびにがん免疫療法の研究開発を行う合弁会社設立
当社は、2017年に、がん遺伝子の大規模解析検査及びがん免疫療法の研究開発を行う子会社として、CPM社を設立致しました。CPM社に対しては、グローバルなゲノム・トランスクリプトム・エピゲノム(※23)等の次世代シーケンス解析(※24)サービスを行っているTB社が資本・業務提携したことから、当社とTB社との合弁会社となっております。また、当社の事業部門であり、オンコアンチゲン(※25)をはじめとしたがん免疫療法の研究開発及びT/B細胞受容体(TCR/BCR)レパトア解析(※26)サービスを行っていた腫瘍免疫解析部の事業について、会社分割(簡易分割)をし、CPM社に事業を承継させました。CPM社は、日本におけるがんプレシジョン医療を加速するため、以下の検査、治療法研究を行っております。
・ネオアンチゲン解析(※27)
・がん遺伝子変異解析
・がん遺伝子発現解析
・リキッドバイオプシー(※28)(パネル解析、デジタルPCR法、cfDNA定量検査)
・免疫反応解析(IFN-γ ELISPOT解析、MHCテトラマー解析、TCR/BCRレパトア解析)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査 核酸増幅法(唾液を用いたRT-PCR法(※29))
・全エクソームシーケンス解析(※30)
・RNAシーケンス解析(※31)
・全ゲノムシーケンス解析(※32)
・シングルセルRNAシーケンス解析(※33)
・メタゲノムシーケンス解析(※34)
・リキッドバイオプシー
・免疫反応解析(IFN-γ ELISPOT解析、MHCテトラマー解析、TCR/BCRレパトア解析)
・ネオアンチゲン樹状細胞療法(※35)
・TCR遺伝子導入T細胞療法(※36)
(ⅱ)製薬企業、医療機関、研究機関等に対してのTCR/BCRレパトア解析サービスの提供
がん免疫療法における最先端の取組みとして、シカゴ大学医学部中村祐輔研究室において開発された、次世代シーケンサーを用いてTCR/BCRレパトアを解析する方法を導入し、製薬企業、医療機関、研究機関等に対してTCR/BCRレパトア解析サービスを提供する事業を行っております。また、ワクチン投与前後の腫瘍組織及び末梢血におけるTCRレパトア解析を行うことにより、ワクチン投与によるペプチド特異的T細胞(※37)の増加を科学的に検証し、免疫チェックポイント阻害剤(※38)との併用による相乗効果に関する検討を進めております。
(ⅲ)DCワクチンコンソーシアムとの樹状細胞療法(※39)による治療法の共同研究
当社は、大阪、福岡、東京を拠点とする3医療法人(医療法人協林会 大阪がん免疫化学療法クリニック、医療法人慈生会 福岡がん総合クリニック及び医療法人社団ビオセラ会 ビオセラクリニック)からなる樹状細胞免疫療法懇話会(DCワクチンコンソーシアム)と、当社がライセンスを保有するペプチドワクチンについて、その非独占的実施権をDCワクチンコンソーシアムに供与し、樹状細胞療法によるがん治療法の研究・開発を共同で進めております。この共同研究により、当社及びCPM社が支援する、がん臨床領域でのプレシジョン医療の実施において、オンコアンチゲンやネオアンチゲンを利用した免疫療法に大きな役割を果たすと考えております。
(ⅳ)IMSグループとの共同研究
CPM社は、IMSグループ傘下の医療法人社団明芳会、医療法人財団明理会及び株式会社アイルとの間で、リキッドバイオプシーによる、胃がん及び大腸がんの手術後のがん細胞の残存並びにがん再発の早期発見法を検討する共同研究契約を締結しております。本共同研究は、胃がん及び大腸がんの患者さんに対し、リキッドバイオプシーの手法を用いた遺伝子解析により、手術前後の特定遺伝子における突然変異を検出することで、がん細胞の残存及びがん再発を早期に発見する可能性の探究を目的とするものです。本共同研究には、中村祐輔教授及びIMSグループ傘下の医療法人社団明芳会 板橋中央総合病院、医療法人社団明芳会 横浜旭中央総合病院、医療法人社団明理会 新松戸中央総合病院及び株式会社アイルが参加して実施しております。
本共同研究による成果を確認した後、IMSグループ各医療機関において、がん診断のためにリキッドバイオプシーを臨床応用する予定であり、さらに、CPM社とIMSグループ各医療機関とは、がん患者さん一人ひとりの遺伝子解析のためのクリニカルシーケンス等がんプレシジョン医療について幅広く提携して参ります。
(ⅴ)公益財団法人がん研究会との共同研究の実施
CPM社は、公益財団法人がん研究会(以下「がん研」という。)と、リキッドバイオプシーによるがん遺伝子変異の検出に係る共同研究を実施しております。この共同研究は、固形がん(肺がん、大腸がん、乳がん等)の診断を目的として、がん遺伝子変異を検出するためのリキッドバイオプシー技術の改良、新規技術(新規遺伝子パネルを含む)の研究開発を共同で実施し、それらの臨床応用可能性を探求するもので、固形がん患者から採取した血液等を利用した、がん研独自技術を含むリキッドバイオプシーの評価、がんのスクリーニング、分子標的治療薬の選択、再発のモニタリング等におけるリキッドバイオプシー技術の課題抽出とそれらの解決法の検討を共同で行っております。
また、ネオアンチゲン予測アルゴリズム(全自動化パイプラインを含む)に関わる共同研究も実施しております。この共同研究は個別化がん免疫療法のために正確なネオアンチゲン予測アルゴリズムの開発と関連技術の改良を目的とするもので、シーケンスデータからネオアンチゲン予測用コンピュータアルゴリズムの開発及び評価、全自動化したネオアンチゲン予測パイプラインの開発、並びに予測されたネオアンチゲンについて樹状細胞療法の治療効果に関わる科学的検証を共同で行っております。
(ⅵ)コスモ・バイオ株式会社とのペプチド合成委受託契約の締結
CPM社は、コスモ・バイオ株式会社と、がん免疫療法のためのペプチド合成に関する委受託契約を締結しました。
CPM社のネオアンチゲン解析により得られた結果に基づき、ペプチド合成をコスモ・バイオ株式会社に委託してがん免疫療法におけるペプチド合成期間の短縮を図るとともに、CPM社が行うがん検体を用いたネオアンチゲン解析サービスに、コスモ・バイオ株式会社が合成したペプチドをCPM社から医療機関ならびに研究機関に提供するサービスを付加したものを、パッケージ化して提供します。
[用語解説]
(※10)mRNA、cDNA、RNA
RNAはリボ核酸、mRNAはRNAのうち、メッセンジャーすなわち「伝令」の役割をするものであります。人間の体は約60兆個の細胞によって作られていますが、体の構造や働きはおもにタンパク質によって決まっております。そのタンパク質の設計図は遺伝子であり、そして、遺伝子の本体はDNAであります。このDNAは細胞の核の中にある染色体に存在しておりますが、タンパク質は設計図であるDNAから直接作られるのではなく、一旦、DNAからRNAが作られ、そのRNAが翻訳されてタンパク質となります。この一旦作られるRNAを「伝令」すなわちメッセンジャーRNA(mRNA)といいます。つまり、遺伝子情報の流れはDNA→mRNA→タンパク質というようになっております。cDNAは、mRNAから逆転写酵素を用いた逆転写反応によって合成されたDNAで、イントロンを含まない状態の遺伝子(塩基配列)を知ることができることから、遺伝子のクローニングに広く利用されております。
(※11)マイクロアレイ
小さな基盤上に非常に高密度にDNAを配置し、それらを手がかりに大量の遺伝子情報を獲得することを目的として開発されたシステム。
(※12)LMM(Laser Microbeam Microdissection)
がん組織を顕微鏡下で観察すると正常細胞とがん細胞が複雑に入り混じっており、がん遺伝子の解析のためには、まずこのような組織からがん細胞の集団だけを取り出す必要があります。当社では共同研究において、LMM(Laser Microbeam Microdissection)法と呼ばれる技術を採用しております。LMM法による手順の概要は、以下のとおりであります。
イ)ガラススライドに置いた組織片上に特別なフィルムを貼り付ける。
ロ)コンピューターの画面を見ながら顕微鏡下に取り出したい部分を指定する。
ハ)その部分だけにレーザー光を当てることによって、フィルムの基質を溶かし、目的の組織部分をフィルムに固定し、がん細胞だけを取り出す。
(※13)同定
ある物質の正体を特定すること。例えば、細胞の中からある現象に関係する分子を選り分けて取り出しその種類を特定することや、多数の化合物群を含むライブラリの中から望ましい活性を持つ化合物を見つけてその種類を特定すること等は、そのような分子や化合物を「同定する」と呼ばれます。
(※14)分子標的治療薬
ある分子に作用することがわかっている低分子化合物や抗体等を選択することによって作られ、疾患に関係がある細胞だけに働きかける機能を持った新しいタイプの治療薬のこと。従来の治療薬に比べて効果が高くかつ副作用が少ないとされ、近年、がん治療等で注目されております。
(※15)リン酸化酵素(キナーゼ)
化学反応を触媒するタンパク質は、「酵素」と呼ばれます。酵素のうち、反応の対象となる分子(「基質」)へのリン酸の付加(「リン酸化」)を触媒するものが、「リン酸化酵素(キナーゼ)」(kinase)です。特に、基質がタンパク質であるリン酸化酵素は、タンパク質リン酸化酵素(protein kinase)と呼ばれます。タンパク質の中には、リン酸化されることによってはじめて活性化するものが多くあります。活性化したタンパク質は、細胞レベルでの様々な現象の生起に関与することになります。がん細胞においては、正常細胞では不活発なタンパク質リン酸化酵素が活発化し、それによってリン酸化されて活性化したタンパク質が、異常な細胞増殖の発生に関与する場合があることが知られています。当社が創薬標的としているリン酸化酵素は、そのようなタンパク質リン酸化酵素です。
(※16)リード化合物、リード最適化
創薬研究で多数の化合物を探索する中で、標的タンパク質に対し十分な活性を有し、以降の新規化合物設計の原型(プロトタイプ)となるような化合物が得られた時、それを「リード化合物」(lead compound)と称します。リード化合物の化学構造を様々に修飾して生体内での効果を高めていき、開発候補化合物を獲得するまでの過程が、「リード最適化」(lead optimization)です。
(※17)in vivo
in vitroと対比的に用いられ、「体の中で」を意味する医学・化学用語です。一般に生体内(主に実験動物)での実験的検証を意味します。
(※18)薬効薬理
薬が、その効果(薬効)を発揮する際に生体に対して及ぼす作用の様相(薬理)が、「薬効薬理」(pharmacology)です。例えば、がん細胞を移植したマウスに薬を投与して抗腫瘍効果の現れ方を調べる試験は、「薬効薬理試験」の一種です。
(※19)薬物動態
薬物は、生体に投与された時、吸収・分配・代謝・排泄の過程を経て、体内での存在状態を時間的に変化させていきます。その変化の様子のことを、「薬物動態」(pharmacokinetics)と呼びます。薬物動態を調べるために、例えば、血中の薬物濃度を経時的に測定する等の試験を行ないます。薬物動態の理解は、薬を効果的に作用させるのに必要な投与量や投与法、投与スケジュール等を検討するために役立ちます。
(※20)HLA
免疫の活性化に関与する分子(ヒト白血球抗原)です。断片化されたペプチドを挟んだ状態で細胞の表面に出てくることで、ペプチド(抗原)を提示します。このHLAに挟まった状態のペプチドを免疫細胞が認識し、免疫反応が誘導されます。
(※21)エピトープペプチド
細胞の表面に出てくる断片化されたタンパク質(ペプチド)です。細胞表面のペプチドが目印となり、そのペプチドを発現しているがん細胞を免疫細胞が認識し攻撃します。
(※22)トリプルネガティブ乳がん
HER2及びホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)が陰性の乳がん。そのため、HER2に対する分子標的薬(ハーセプチン等)やホルモン療法の対象にならない。
(※23)ゲノム・トランスクリプトム・エピゲノム
ゲノムは、全ての染色体を構成するDNAの全塩基配列です。ヒトのゲノムは約30億塩基対のDNAから成り立っています。ゲノムの遺伝情報は、DNAからmRNA、mRNAからタンパク質の順で伝達され、機能します。トランスクリプトムは、ゲノムDNAから合成される全ての遺伝子転写産物(mRNA)の総体を示します。また、ゲノムの遺伝情報はゲノムの塩基配列を変えずに遺伝子発現を制御するしくみにより、調節されます。この仕組みをエピジェネティクスと呼び、ゲノム上に施される制御情報をエピゲノムと呼びます。
(※24)次世代シーケンス解析
数千万、数億のDNA断片の塩基配列を高速に決定することができる基盤技術です。
(※25)オンコアンチゲン
がん細胞において発現の上昇が認められる一方、正常細胞ではほとんど発現が認められず、がん細胞の生存や増殖に必須の機能を持ち、さらに免疫反応を引き起こす抗原性を有するタンパクです。このタンパクに由来するペプチドを用いると、がん細胞を傷害する活性化されたT細胞を誘導することができます。
(※26)T/B細胞受容体(TCR/BCR)レパトア解析
リンパ球の一種であるT細胞やB細胞の細胞表面に発現している受容体の塩基配列を網羅的に取得し解析する技術です。これら受容体が他の細胞表面に出ている目印(抗原)を認識し、攻撃(免疫反応誘導)します。
(※27)ネオアンチゲン解析
がん細胞に生じた体細胞変異に由来し、免疫細胞の標的となる新規抗原(ネオアンチゲン)を解析する手法です。
(※28)リキッドバイオプシー
シーケンス技術の進展により血液や尿等の液体(リキッド)を利用して、がんの存在を見つけることができるようになりました。がん細胞に由来するDNAが非常に少量ですが血液中や尿中に混入しており、これを高感度に検出することができるようになったからです。この液体を利用して調べる方法を、リキッドバイオプシーと呼んでいます。CT等の画像診断よりも早く、再発を見つけることができる可能性があります。また、がん組織を採取することは患者さんに大きな負担となり、合併症の危険を伴いますが、リキッドバイオプシーは、負担が非常に軽いので頻回に検出を行うことができます。
(※29)RT-PCR法
逆転写酵素(reverse transcriptase)を用いて微量なRNAからcDNAに合成した後、cDNAを検出可能な濃度まで増幅して解析する方法です。
(※30)全エクソームシーケンス解析
ヒトゲノムのうちタンパク質を翻訳するエクソン領域(エクソーム)を解析する手法です。
(※31)RNAシーケンス解析
細胞中に存在する全てのmRNA(遺伝子転写産物)の配列および発現量を解析する手法です。
(※32)全ゲノムシーケンス解析
ゲノムの全域を対象にDNA塩基の変異を検出する解析です。以前から提供している全エクソームシーケンス解析は、タンパク質を作る情報を持つ遺伝子の部分を集中的に解読するもので、その領域はゲノム全体の約2%に相当します。そのため全エクソームシーケンス解析は高効率、低コストで実施できますが、がん細胞でしばしば見られるゲノムの大規模な入れ替わりや欠如などの変異を検出するのは難しいとされています。これに対し、全ゲノムシーケンス解析はこれらの変異も検出することができるため、より包括的な情報を取得することが期待できます。
(※33)シングルセルRNAシーケンス解析
検体の細胞を一つ一つ分離し、それぞれの細胞の遺伝子発現量を個別に測定する解析です。腫瘍組織において、がん細胞は分裂を繰り返す中で個別の変異を持つ複数の細胞集団に分化し増殖します。様々な細胞集団が混在した状態で腫瘍組織を解析すると、がんの特徴を正確に理解することが困難な場合があります。シングルセルRNAシーケンス解析では、腫瘍組織中の個別の細胞の特徴を捉えられ、治療方法の選択や予後の予測などをより正確に行うことが期待できます。
(※34)メタゲノムシーケンス解析
多種多様な微生物が混在する検体からそれぞれの微生物のゲノムを同時に解読し、検体中に存在する生物種やその存在比などを明らかにする解析です。がん研究においては主に腸内細菌の解析に用いられ、大腸がんの原因となり得る腸内細菌の検出や体内の免疫や薬剤の代謝との関連性等についての研究が進んでいます。
(※35)ネオアンチゲン樹状細胞療法
がん細胞に生じた体細胞変異に由来する新規抗原(ネオアンチゲン)は、正常細胞には発現していません。そのため、非自己の抗原として非常に強い免疫反応を引き起こすと考えられています。ネオアンチゲン由来のペプチドを利用する樹状細胞療法は、ネオアンチゲン樹状細胞療法と呼ばれています。
(※36)TCR遺伝子導入T細胞療法
T細胞は、がん細胞がHLA分子上に提示しているペプチドをT細胞受容体(TCR)を介して認識すると、活性化され、がん細胞を傷害します。がん細胞に由来するペプチドを認識するTCRを同定し、遺伝子導入によって同じTCRを発現するT細胞を大量に調製したのち体内に投与する治療法は、TCR遺伝子導入T細胞療法と呼ばれています。
(※37)ペプチド特異的T細胞
がん細胞表面のHLA分子上に提示されたペプチドを認識し、がん細胞を直接傷害するT細胞です。
(※38)免疫チェックポイント阻害剤
がん細胞は免疫抑制分子を作り出し、免疫細胞の機能を抑制し、免疫細胞からの攻撃を逃れる仕組みを持っています。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫抑制分子に結合し、免疫細胞の機能抑制を解除する抗体です。これによって、免疫細胞ががん細胞を攻撃するようになります。
(※39)樹状細胞療法
がん細胞由来の抗原を提示した樹状細胞(免疫細胞の一種、がん細胞のような異物を細胞内に取り込み、取り込んだ細胞由来のタンパク質断片を細胞表面に出し、他の免疫細胞に提示することで免疫反応を誘導します)を大量に調製し、体内へ投与する治療法です。がん細胞を認識するT細胞が効率よく誘導され、抗腫瘍効果を発揮することが期待されます。
(1)当社の事業基盤について
東京大学医科学研究所との共同研究の成果は当社の技術基盤となるものです。
① cDNAマイクロアレイについて
コンピューターのマイクロチップは大量の情報を高速に処理する道具として開発されたものですが、cDNA(※10)マイクロアレイ(※11)と呼ばれる技術も同様に小さな基盤上に非常に高密度にDNAを配置して、それらを手がかりに大量の遺伝子情報を獲得するために開発されたものです。また、遺伝子情報の解析においては、このように一度に全体像を捉え網羅的に解析するシステムは有用なものとして考えられております。
当社が共同研究において使用しているのは上述のcDNAをマイクロアレイ上の特定の区画に固定している(これを「スポットしている」といい、このスポットを実施する機械を「スポッター」といいます)cDNAマイクロアレイであります。これは共同研究先である東京大学医科学研究所および当社研究施設でスポッターを利用し、cDNAと、それをスポットしたcDNAマイクロアレイを作製しております。
このcDNAの作製方法は、大変に時間と労力のかかるものですが、以下に簡単にご説明いたします。
まず研究用に市販されているヒトの各種正常臓器の細胞からとったmRNA(※10)と同時に、発生過程の初期のmRNAもつかまえるために胎児のmRNAを入手します。そして、逆転写酵素でcDNAを作ります。さらに、このcDNAをもとにPCR法と呼ばれる方法でcDNAを増幅します。
このcDNAマイクロアレイの特長は、主に以下の2点です。
a 32,000種類の遺伝子をスポットしていること
2003年4月に発表されたヒトゲノムの完全解読終了時の情報では、約35,000個の遺伝子があるとされておりましたが、その後の解析では25,000-30,000個と一般的には考えられております。当社のマイクロアレイは32,000種類のcDNAをスポットしていることから、ほぼ全遺伝子を網羅しております。
またマイクロアレイにスポットするcDNAの合成は、ヒトの12種類の臓器よりプールしたmRNAにより実施しているため、およそヒトの発生過程以降に発現する遺伝子はほぼ検出することができます。これをマイクロアレイ上にスポットして使っているため、ヒトの細胞内での実際の遺伝子発現に近い状態で、かつ機能が未知の遺伝子まで解析することができます。
b cDNAを利用していること
マイクロアレイには、合成で作った25~50個くらいの核酸塩基からなるオリゴDNAとよばれるものを用いる方法と、cDNAを用いる方法があり、導入の簡便性からオリゴDNAを用いる方法が一般的です。当社はcDNAを用いる方法を採用しておりますが、これはオリゴDNAに比較してシステム構築に手間がかかる欠点はありますが、cDNAが200から1,100個までの長い核酸塩基からなっており個々の塩基の結合力が強く、マイクロアレイ洗浄時に、より厳しい条件(塩濃度や温度等の条件)で洗浄可能なため、その結果正常(相補性が正しい)な結合のみがマイクロアレイ上に残ることになり、再現性の面でオリゴDNAの方式より優れていると考えております。
② 抗がん剤探索のための網羅的ながん遺伝子の解析方法について
LMM法による細胞切片からのがん細胞の切り出し
がん組織を顕微鏡下で観察すると正常細胞とがん細胞が複雑に入り混じっており、精度の高いがん遺伝子解析のためには、まずこのような組織からがん細胞の集団のみを取り出す必要があります。当社共同研究においては、LMM(Laser Microbeam Microdissection)(※12)法と呼ばれる技術を採用しております。
がん細胞で特異的に発現する遺伝子を特定
ステップ①で回収したがん細胞からRNA(※10)を抽出し、逆転写酵素を用い蛍光色素で標識したcDNAを作成し、がん細胞に対応する正常細胞からも同様にRNAを抽出してがん細胞とは異なる蛍光色素で標識したcDNAを作成します。
これらを、cDNAマイクロアレイ上でがん細胞と正常細胞での遺伝子発現量の比を検出し、がん細胞で特異的に発現する遺伝子を特定します。
がんの分子標的治療薬の標的となり得る候補遺伝子の選択
上記で特定した候補遺伝子について、がんの分子標的治療薬のターゲットとなり得るか否かを下記の実験により検証します。
a がん細胞の増殖に関与しているか否かを、遺伝子を直接細胞に入れた際の細胞増殖促進効果の有無で確認する。
b 遺伝子の働きを阻害することにより、がん細胞の増殖が阻害されるか否かを確認する。
c 心臓や肺など、生命の維持に重要な臓器で発現が低いか否かを、cDNAマイクロアレイで得た正常臓器における発現データベース等により確認する。
③ 研究の特徴について
当該共同研究における主な特徴は、以下のとおりであります。当社は、これらの各要素を組み合わせた解析スキームに研究の優位性があり、各種のがんにおいて得られた遺伝子情報等は、治療効果が高く、かつ副作用が少ない抗がん剤等の開発や、特異性の高いがん診断薬の開発に有用であると認識しております。なお、現時点においては、第三者が同様の遺伝子解析を高精度で大規模に実施することは極めて困難であるものと考えておりますが、新たな研究手法等が確立された場合においては、今後における当該優位性が継続する保証はありません。
a 臨床症例に基づいた研究成果であること
当社の東京大学との共同研究は、同大学の医科学研究所が協力医療機関から収集した臨床症例に基づくものであり、各がん種について多数の症例の解析が可能となっております。
b LMM法によるがん細胞の分離により精度の高い解析が可能であること
従来の研究開発においては、がん組織から直接RNAを回収していたので、がん細胞に加え正常細胞の混入も多く、結果としてがん細胞での遺伝子発現変化が反映できないことが少なからず生じておりました。当社共同研究においては、高度な病理学的知識を有する研究者ががん細胞および正常細胞を判別した上でLMM法によりがん組織からのがん細胞の切り出し作業を実施しており、多くの手間と時間が必要となるものの、ほぼ100%の純度のがん細胞分離が可能であり、当該がん細胞のみを解析に用いることにより解析結果の正確性が向上しております。
c 遺伝子解析においてcDNAマイクロアレイを利用していること
当社が使用しているcDNAマイクロアレイは、元東京大学医科学研究所教授である中村祐輔氏が独自に開発したものであり、その特徴として、ア)精度を高めるため独自に開発したcDNAのセットを利用していること、イ)現在32,000種類の遺伝子をスポットしていること、ウ)機能未知の遺伝子および新規遺伝子も解析対象となること、等であります。
d 特定された候補遺伝子とがんとの関連を複数の実験により検証していること
前述のとおり、近年においては分子標的治療薬という概念が確立し、肺がん、乳がんおよび慢性骨髄性白血病に対する抗がん剤の開発がなされており、特定のがん患者に対して一定の効果が生じているものと考えられます。しかしながら、当社においては、これらの抗がん剤について効果、特異性や副作用の観点から見ると必ずしも十分なものではないと認識しております。
抗がん剤のターゲットとなる遺伝子はがん細胞のみに特異的に発現するのではなく、多くの正常臓器にも共通に発現している場合があることから、それらの副作用の原因として、抗がん剤が正常細胞に対しても作用してしまうことが考えられます。当該解析スキームにおいては、マイクロアレイによる解析から特定されたがん細胞で特異的に発現上昇している候補遺伝子について、ア)細胞の増殖に関与するもの、イ)働きを阻害するとがん細胞が増殖を停止する、もしくは死滅するもの、ウ)生命の維持に不可欠な臓器では発現していないもの等の条件により、分子標的抗がん剤のターゲットとして適当か否かを複数の実験により検証し、絞込みを行っており、がん細胞に対してより特異的で、かつ副作用の少ない抗がん剤等の開発に結びつくシーズの提供が可能になるものと考えております。
(2)研究開発活動
当社グループは、元東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長(現 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所理事長、東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授)中村祐輔教授と共同で、ほぼ全てのがんを対象とした網羅的な遺伝子発現解析等を実施し、既にがん治療薬開発に適した多くの標的分子を同定(※13)しております。また、それらの標的に対し、低分子医薬、がんペプチドワクチン、抗体医薬等の、各領域における創薬研究を積極的に展開し、これら創薬研究の成果を基にした複数の臨床試験を実施しており、臨床試験準備中の医薬品候補物質も複数有しております。
このような、「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業に加えて、がんプレシジョン医療関連事業を実施しております。
がんは遺伝子の異常により引き起こされる病気です。がん細胞での遺伝子の網羅的な解析は、がんの診断及びがん治療薬・治療法を選択するために非常に重要です。この解析を利用して、がんの早期診断や、がん患者さん一人ひとりの遺伝子情報に基づいた治療薬・治療法の選択をすることや新規の免疫療法につなげていくことをがんプレシジョン医療といい、近年、より効果的ながん治療をがん患者さんに提供できる手段として注目されています。
当社は、グローバルなゲノム・トランスクリプトム・エピゲノム等の次世代シーケンス解析サービスを行っているTheragen Bio Co., Ltd.(本社:韓国、以下「TB社」という。旧Theragen Etex Co., Ltd.)との資本・業務提携により、がん遺伝子の大規模解析検査及びがん免疫療法の研究開発を行う子会社として、株式会社Cancer Precision Medicine(以下「CPM社」という)を設立し、がんプレシジョン医療関連事業を実施しております。
具体的な「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業及びがんプレシジョン医療関連事業の内容については、以下(a)及び(b)のとおりでございます。
なお、2022年3月31日現在、当社は全世界で631件の特許を取得しております。
(a)「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業
創薬ターゲットの特定等を行う基礎研究領域においては、ヒト全遺伝子の遺伝子発現パターンを網羅的に検索できるcDNAマイクロアレイのシステムによる大腸がん、胃がん、肝臓がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、食道がん、前立腺がん、膵臓がん、乳がん、腎臓がん、膀胱がん及び軟部肉腫等について発現解析が終了しております。これらの発現解析情報からがんで発現が高く正常臓器では発現がほとんどない遺伝子を選択し、さらに機能解析により、がん細胞の生存に必須な多数の遺伝子を分子標的治療薬(※14)の標的として同定しております。
医薬品候補物質の同定及び最適化を行う創薬研究領域においては、医薬品の用途毎に、より製品に近い研究を積極的に展開しております。
低分子医薬につきましては、複数のがん特異的タンパク質を標的とする創薬研究を進めております。そのうち1種の標的であるリン酸化酵素(キナーゼ)(※15)については、医薬品候補化合物の臨床試験を実施中です(詳細は、別記「(ⅰ)低分子医薬」をご参照ください。)。他のリン酸化酵素については、これまでに得た高活性化合物に基づきリード最適化(※16)を進め、in vivo(※17)で強力な腫瘍増殖抑制効果を示す複数の高活性化合物を同定しております。これらにつき、医薬品候補化合物として臨床開発するための薬効薬理(※18)・薬物動態(※19)・毒性試験を進めております。さらに、別の3種の標的酵素タンパク質に関して、これまでに得た高活性化合物のうちin vivoで有意な腫瘍増殖抑制効果を示す化合物の構造に基づき、薬効向上のためのさらなるリード最適化を実施中です。また、さらに別の2種の標的酵素タンパク質に関して、これまでに得た高活性化合物に基づき、リード化合物(※16)の獲得に向けた新規化合物合成と構造活性相関研究を進めております。
がんペプチドワクチンにつきましては、これまでに日本人及び欧米人に多く見られるHLA(※20)-A*24:02及びA*02:01を中心に、大腸がん、胃がん、肺がん、膀胱がん、腎臓がん、膵臓がん、乳がん及び肝臓がん等を標的とした計43遺伝子を対象としたエピトープペプチド(※21)を既に同定しておりますが、それら以外にもA*11:01, A*33:03, A*01:01及びA*03:01等、様々なHLAに対応したより多くのエピトープペプチドを同定しております。
このように、独創的な分子標的治療薬の創製を目指した創薬研究を積極的に展開しております。
これらに加えて、当社は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染制御及び重症化の抑制を目指したペプチドワクチンの研究開発に着手しております。
医薬開発領域においては、当社グループ独自での開発及び複数の製薬企業との提携による開発を、以下の通りそれぞれ進めております。
(ⅰ)低分子医薬
がん幹細胞の維持に重要なリン酸化酵素(キナーゼ)であるMELK(Maternal Embryonic Leucine zipper Kinase)を標的としたOTS167については、急性骨髄性白血病に対する第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を米国シカゴ大学及びコーネル大学にて実施しておりましたが、2021年11月に患者登録が終了いたしました。本試験では、急性骨髄性白血病を含む血液がんの患者さんを対象に、OTS167の静脈内反復投与における安全性を確認いたしました。また、OTS167の乳がんに対する第Ⅰ相臨床試験を米国テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター、米国ノーウォーク・ホスピタル及び米国メモリアルスローンケタリングがんセンターにて実施しており、さらに、日本国内でも当該臨床試験への患者登録を開始致しました。この臨床試験は、トリプルネガティブ乳がん(※22)を含む乳がんの患者さんを対象とし、OTS167のカプセル剤による経口投与における安全性及び推奨投与量の確認を主目的とし、副次的にトリプルネガティブ乳がんに対する臨床上の有効性を確認するものです。なお、OTS167は、オーストラリアで実施しておりました健常成人を対象とした経口投与による消化管吸収性(バイオアベイラビリティ)の確認を主たる目的とする臨床試験において、ヒトでの良好な経口吸収性が確認されています。
OTS167の標的であるMELKは、がん幹細胞に高発現し、その維持に重要な役割をしているリン酸化酵素(キナーゼ)です。OTS167は、そのキナーゼを阻害し、強い細胞増殖抑制効果が期待できる新しい作用機序(ファースト・イン・クラス)の分子標的治療薬であり、すでに動物試験において、肺がん、前立腺がん、乳がん、膵臓がん等に対し、強力な抗腫瘍効果が確認されています。
また、細胞分裂に重要ながん特異的新規標的分子(TOPK)に対する複数の最終化合物を同定しております。動物実験で、顕著な結果が得られたことから、製剤化検討及び非臨床試験を進めております。
(ⅱ)がんペプチドワクチン
がんペプチドワクチンにつきましては、提携先製薬企業との戦略的対話を促進し、提携先が実施する臨床開発の側面支援、後方支援を強化して参りました。
当社が塩野義製薬株式会社にライセンスアウトしているがん特異的ペプチドワクチンS-588410について、食道がん患者さんを対象とした第Ⅲ相臨床試験を塩野義製薬株式会社が実施し、完了いたしました。本試験の主要評価項目である無再発生存期間(RFS)に関して、S-588410群とプラセボ群の比較では、S-588410群におけるRFS延長について統計学的な有意差は認められませんでした。一方で、食道がん発生部位別あるいはリンパ節転移グレード別の探索的な部分集団解析では、S-588410投与により一定の発生部位の患者さん集団で全生存期間(OS)が有意に延長され、またリンパ節転移が多い患者さん集団ではRFSやOSの改善が認められる傾向を確認しております。また、副次評価項目のひとつである細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導に関してはS-588410投与により高い誘導率が確認され、主な副作用は注射部位の皮膚反応であり、重篤な皮膚反応は認められませんでした。本試験で得られた結果については更に詳細な解析を行い、今後のがんペプチドワクチン開発方針の一助にする予定であります。今後の開発計画については、契約締結先である塩野義製薬株式会社と協議を継続して参ります。なお、塩野義製薬株式会社は、S-588410の食道がん第Ⅲ相臨床試験のほか、膀胱がんを対象としたS-588410について日欧で第Ⅱ相臨床試験を完了しており、頭頸部がんを対象としたS-488210は欧州で第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験を、また、固形がんを対象としたS-588210は英国で第Ⅰ相臨床試験を、それぞれ実施しております。
また、シンガポールのNUH(National University Hospital)並びに韓国のYonsei University Health System, Severance Hospitalにて、胃がんを対象としたがんペプチドカクテルワクチンOTSGC-A24と免疫チェックポイント阻害剤オプジーボの併用第I相試験を、医師主導治験として実施しております。
上記以外にも、複数の企業に対してがん治療用ペプチドワクチンに関する開発・製造・販売権を供与しております。
(ⅲ)抗体医薬
がん治療用抗体医薬OTSA101については、日本における滑膜肉腫に対する第Ⅰ相臨床試験を実施しております。本試験は、難治性又は再発性の滑膜肉腫患者を対象に、放射性同位元素を結合したOTSA101投与における安全性及び体内薬物動態の確認を主たる目的とするものです。
また、当社連結子会社であるイムナス・ファーマ株式会社が協和キリン株式会社にライセンスアウトしております抗アミロイドβ(Aβ)ペプチド抗体KHK6640については、協和キリン株式会社が、アルツハイマー型認知症に対する第Ⅰ相臨床試験を欧州及び日本にて実施しております。
(b)がんプレシジョン医療関連事業
(ⅰ)がん遺伝子の大規模解析検査ならびにがん免疫療法の研究開発を行う合弁会社設立
当社は、2017年に、がん遺伝子の大規模解析検査及びがん免疫療法の研究開発を行う子会社として、CPM社を設立致しました。CPM社に対しては、グローバルなゲノム・トランスクリプトム・エピゲノム(※23)等の次世代シーケンス解析(※24)サービスを行っているTB社が資本・業務提携したことから、当社とTB社との合弁会社となっております。また、当社の事業部門であり、オンコアンチゲン(※25)をはじめとしたがん免疫療法の研究開発及びT/B細胞受容体(TCR/BCR)レパトア解析(※26)サービスを行っていた腫瘍免疫解析部の事業について、会社分割(簡易分割)をし、CPM社に事業を承継させました。CPM社は、日本におけるがんプレシジョン医療を加速するため、以下の検査、治療法研究を行っております。
・ネオアンチゲン解析(※27)
・がん遺伝子変異解析
・がん遺伝子発現解析
・リキッドバイオプシー(※28)(パネル解析、デジタルPCR法、cfDNA定量検査)
・免疫反応解析(IFN-γ ELISPOT解析、MHCテトラマー解析、TCR/BCRレパトア解析)
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査 核酸増幅法(唾液を用いたRT-PCR法(※29))
・全エクソームシーケンス解析(※30)
・RNAシーケンス解析(※31)
・全ゲノムシーケンス解析(※32)
・シングルセルRNAシーケンス解析(※33)
・メタゲノムシーケンス解析(※34)
・リキッドバイオプシー
・免疫反応解析(IFN-γ ELISPOT解析、MHCテトラマー解析、TCR/BCRレパトア解析)
・ネオアンチゲン樹状細胞療法(※35)
・TCR遺伝子導入T細胞療法(※36)
(ⅱ)製薬企業、医療機関、研究機関等に対してのTCR/BCRレパトア解析サービスの提供
がん免疫療法における最先端の取組みとして、シカゴ大学医学部中村祐輔研究室において開発された、次世代シーケンサーを用いてTCR/BCRレパトアを解析する方法を導入し、製薬企業、医療機関、研究機関等に対してTCR/BCRレパトア解析サービスを提供する事業を行っております。また、ワクチン投与前後の腫瘍組織及び末梢血におけるTCRレパトア解析を行うことにより、ワクチン投与によるペプチド特異的T細胞(※37)の増加を科学的に検証し、免疫チェックポイント阻害剤(※38)との併用による相乗効果に関する検討を進めております。
(ⅲ)DCワクチンコンソーシアムとの樹状細胞療法(※39)による治療法の共同研究
当社は、大阪、福岡、東京を拠点とする3医療法人(医療法人協林会 大阪がん免疫化学療法クリニック、医療法人慈生会 福岡がん総合クリニック及び医療法人社団ビオセラ会 ビオセラクリニック)からなる樹状細胞免疫療法懇話会(DCワクチンコンソーシアム)と、当社がライセンスを保有するペプチドワクチンについて、その非独占的実施権をDCワクチンコンソーシアムに供与し、樹状細胞療法によるがん治療法の研究・開発を共同で進めております。この共同研究により、当社及びCPM社が支援する、がん臨床領域でのプレシジョン医療の実施において、オンコアンチゲンやネオアンチゲンを利用した免疫療法に大きな役割を果たすと考えております。
(ⅳ)IMSグループとの共同研究
CPM社は、IMSグループ傘下の医療法人社団明芳会、医療法人財団明理会及び株式会社アイルとの間で、リキッドバイオプシーによる、胃がん及び大腸がんの手術後のがん細胞の残存並びにがん再発の早期発見法を検討する共同研究契約を締結しております。本共同研究は、胃がん及び大腸がんの患者さんに対し、リキッドバイオプシーの手法を用いた遺伝子解析により、手術前後の特定遺伝子における突然変異を検出することで、がん細胞の残存及びがん再発を早期に発見する可能性の探究を目的とするものです。本共同研究には、中村祐輔教授及びIMSグループ傘下の医療法人社団明芳会 板橋中央総合病院、医療法人社団明芳会 横浜旭中央総合病院、医療法人社団明理会 新松戸中央総合病院及び株式会社アイルが参加して実施しております。
本共同研究による成果を確認した後、IMSグループ各医療機関において、がん診断のためにリキッドバイオプシーを臨床応用する予定であり、さらに、CPM社とIMSグループ各医療機関とは、がん患者さん一人ひとりの遺伝子解析のためのクリニカルシーケンス等がんプレシジョン医療について幅広く提携して参ります。
(ⅴ)公益財団法人がん研究会との共同研究の実施
CPM社は、公益財団法人がん研究会(以下「がん研」という。)と、リキッドバイオプシーによるがん遺伝子変異の検出に係る共同研究を実施しております。この共同研究は、固形がん(肺がん、大腸がん、乳がん等)の診断を目的として、がん遺伝子変異を検出するためのリキッドバイオプシー技術の改良、新規技術(新規遺伝子パネルを含む)の研究開発を共同で実施し、それらの臨床応用可能性を探求するもので、固形がん患者から採取した血液等を利用した、がん研独自技術を含むリキッドバイオプシーの評価、がんのスクリーニング、分子標的治療薬の選択、再発のモニタリング等におけるリキッドバイオプシー技術の課題抽出とそれらの解決法の検討を共同で行っております。
また、ネオアンチゲン予測アルゴリズム(全自動化パイプラインを含む)に関わる共同研究も実施しております。この共同研究は個別化がん免疫療法のために正確なネオアンチゲン予測アルゴリズムの開発と関連技術の改良を目的とするもので、シーケンスデータからネオアンチゲン予測用コンピュータアルゴリズムの開発及び評価、全自動化したネオアンチゲン予測パイプラインの開発、並びに予測されたネオアンチゲンについて樹状細胞療法の治療効果に関わる科学的検証を共同で行っております。
(ⅵ)コスモ・バイオ株式会社とのペプチド合成委受託契約の締結
CPM社は、コスモ・バイオ株式会社と、がん免疫療法のためのペプチド合成に関する委受託契約を締結しました。
CPM社のネオアンチゲン解析により得られた結果に基づき、ペプチド合成をコスモ・バイオ株式会社に委託してがん免疫療法におけるペプチド合成期間の短縮を図るとともに、CPM社が行うがん検体を用いたネオアンチゲン解析サービスに、コスモ・バイオ株式会社が合成したペプチドをCPM社から医療機関ならびに研究機関に提供するサービスを付加したものを、パッケージ化して提供します。
[用語解説]
(※10)mRNA、cDNA、RNA
RNAはリボ核酸、mRNAはRNAのうち、メッセンジャーすなわち「伝令」の役割をするものであります。人間の体は約60兆個の細胞によって作られていますが、体の構造や働きはおもにタンパク質によって決まっております。そのタンパク質の設計図は遺伝子であり、そして、遺伝子の本体はDNAであります。このDNAは細胞の核の中にある染色体に存在しておりますが、タンパク質は設計図であるDNAから直接作られるのではなく、一旦、DNAからRNAが作られ、そのRNAが翻訳されてタンパク質となります。この一旦作られるRNAを「伝令」すなわちメッセンジャーRNA(mRNA)といいます。つまり、遺伝子情報の流れはDNA→mRNA→タンパク質というようになっております。cDNAは、mRNAから逆転写酵素を用いた逆転写反応によって合成されたDNAで、イントロンを含まない状態の遺伝子(塩基配列)を知ることができることから、遺伝子のクローニングに広く利用されております。
(※11)マイクロアレイ
小さな基盤上に非常に高密度にDNAを配置し、それらを手がかりに大量の遺伝子情報を獲得することを目的として開発されたシステム。
(※12)LMM(Laser Microbeam Microdissection)
がん組織を顕微鏡下で観察すると正常細胞とがん細胞が複雑に入り混じっており、がん遺伝子の解析のためには、まずこのような組織からがん細胞の集団だけを取り出す必要があります。当社では共同研究において、LMM(Laser Microbeam Microdissection)法と呼ばれる技術を採用しております。LMM法による手順の概要は、以下のとおりであります。
イ)ガラススライドに置いた組織片上に特別なフィルムを貼り付ける。
ロ)コンピューターの画面を見ながら顕微鏡下に取り出したい部分を指定する。
ハ)その部分だけにレーザー光を当てることによって、フィルムの基質を溶かし、目的の組織部分をフィルムに固定し、がん細胞だけを取り出す。
(※13)同定
ある物質の正体を特定すること。例えば、細胞の中からある現象に関係する分子を選り分けて取り出しその種類を特定することや、多数の化合物群を含むライブラリの中から望ましい活性を持つ化合物を見つけてその種類を特定すること等は、そのような分子や化合物を「同定する」と呼ばれます。
(※14)分子標的治療薬
ある分子に作用することがわかっている低分子化合物や抗体等を選択することによって作られ、疾患に関係がある細胞だけに働きかける機能を持った新しいタイプの治療薬のこと。従来の治療薬に比べて効果が高くかつ副作用が少ないとされ、近年、がん治療等で注目されております。
(※15)リン酸化酵素(キナーゼ)
化学反応を触媒するタンパク質は、「酵素」と呼ばれます。酵素のうち、反応の対象となる分子(「基質」)へのリン酸の付加(「リン酸化」)を触媒するものが、「リン酸化酵素(キナーゼ)」(kinase)です。特に、基質がタンパク質であるリン酸化酵素は、タンパク質リン酸化酵素(protein kinase)と呼ばれます。タンパク質の中には、リン酸化されることによってはじめて活性化するものが多くあります。活性化したタンパク質は、細胞レベルでの様々な現象の生起に関与することになります。がん細胞においては、正常細胞では不活発なタンパク質リン酸化酵素が活発化し、それによってリン酸化されて活性化したタンパク質が、異常な細胞増殖の発生に関与する場合があることが知られています。当社が創薬標的としているリン酸化酵素は、そのようなタンパク質リン酸化酵素です。
(※16)リード化合物、リード最適化
創薬研究で多数の化合物を探索する中で、標的タンパク質に対し十分な活性を有し、以降の新規化合物設計の原型(プロトタイプ)となるような化合物が得られた時、それを「リード化合物」(lead compound)と称します。リード化合物の化学構造を様々に修飾して生体内での効果を高めていき、開発候補化合物を獲得するまでの過程が、「リード最適化」(lead optimization)です。
(※17)in vivo
in vitroと対比的に用いられ、「体の中で」を意味する医学・化学用語です。一般に生体内(主に実験動物)での実験的検証を意味します。
(※18)薬効薬理
薬が、その効果(薬効)を発揮する際に生体に対して及ぼす作用の様相(薬理)が、「薬効薬理」(pharmacology)です。例えば、がん細胞を移植したマウスに薬を投与して抗腫瘍効果の現れ方を調べる試験は、「薬効薬理試験」の一種です。
(※19)薬物動態
薬物は、生体に投与された時、吸収・分配・代謝・排泄の過程を経て、体内での存在状態を時間的に変化させていきます。その変化の様子のことを、「薬物動態」(pharmacokinetics)と呼びます。薬物動態を調べるために、例えば、血中の薬物濃度を経時的に測定する等の試験を行ないます。薬物動態の理解は、薬を効果的に作用させるのに必要な投与量や投与法、投与スケジュール等を検討するために役立ちます。
(※20)HLA
免疫の活性化に関与する分子(ヒト白血球抗原)です。断片化されたペプチドを挟んだ状態で細胞の表面に出てくることで、ペプチド(抗原)を提示します。このHLAに挟まった状態のペプチドを免疫細胞が認識し、免疫反応が誘導されます。
(※21)エピトープペプチド
細胞の表面に出てくる断片化されたタンパク質(ペプチド)です。細胞表面のペプチドが目印となり、そのペプチドを発現しているがん細胞を免疫細胞が認識し攻撃します。
(※22)トリプルネガティブ乳がん
HER2及びホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)が陰性の乳がん。そのため、HER2に対する分子標的薬(ハーセプチン等)やホルモン療法の対象にならない。
(※23)ゲノム・トランスクリプトム・エピゲノム
ゲノムは、全ての染色体を構成するDNAの全塩基配列です。ヒトのゲノムは約30億塩基対のDNAから成り立っています。ゲノムの遺伝情報は、DNAからmRNA、mRNAからタンパク質の順で伝達され、機能します。トランスクリプトムは、ゲノムDNAから合成される全ての遺伝子転写産物(mRNA)の総体を示します。また、ゲノムの遺伝情報はゲノムの塩基配列を変えずに遺伝子発現を制御するしくみにより、調節されます。この仕組みをエピジェネティクスと呼び、ゲノム上に施される制御情報をエピゲノムと呼びます。
(※24)次世代シーケンス解析
数千万、数億のDNA断片の塩基配列を高速に決定することができる基盤技術です。
(※25)オンコアンチゲン
がん細胞において発現の上昇が認められる一方、正常細胞ではほとんど発現が認められず、がん細胞の生存や増殖に必須の機能を持ち、さらに免疫反応を引き起こす抗原性を有するタンパクです。このタンパクに由来するペプチドを用いると、がん細胞を傷害する活性化されたT細胞を誘導することができます。
(※26)T/B細胞受容体(TCR/BCR)レパトア解析
リンパ球の一種であるT細胞やB細胞の細胞表面に発現している受容体の塩基配列を網羅的に取得し解析する技術です。これら受容体が他の細胞表面に出ている目印(抗原)を認識し、攻撃(免疫反応誘導)します。
(※27)ネオアンチゲン解析
がん細胞に生じた体細胞変異に由来し、免疫細胞の標的となる新規抗原(ネオアンチゲン)を解析する手法です。
(※28)リキッドバイオプシー
シーケンス技術の進展により血液や尿等の液体(リキッド)を利用して、がんの存在を見つけることができるようになりました。がん細胞に由来するDNAが非常に少量ですが血液中や尿中に混入しており、これを高感度に検出することができるようになったからです。この液体を利用して調べる方法を、リキッドバイオプシーと呼んでいます。CT等の画像診断よりも早く、再発を見つけることができる可能性があります。また、がん組織を採取することは患者さんに大きな負担となり、合併症の危険を伴いますが、リキッドバイオプシーは、負担が非常に軽いので頻回に検出を行うことができます。
(※29)RT-PCR法
逆転写酵素(reverse transcriptase)を用いて微量なRNAからcDNAに合成した後、cDNAを検出可能な濃度まで増幅して解析する方法です。
(※30)全エクソームシーケンス解析
ヒトゲノムのうちタンパク質を翻訳するエクソン領域(エクソーム)を解析する手法です。
(※31)RNAシーケンス解析
細胞中に存在する全てのmRNA(遺伝子転写産物)の配列および発現量を解析する手法です。
(※32)全ゲノムシーケンス解析
ゲノムの全域を対象にDNA塩基の変異を検出する解析です。以前から提供している全エクソームシーケンス解析は、タンパク質を作る情報を持つ遺伝子の部分を集中的に解読するもので、その領域はゲノム全体の約2%に相当します。そのため全エクソームシーケンス解析は高効率、低コストで実施できますが、がん細胞でしばしば見られるゲノムの大規模な入れ替わりや欠如などの変異を検出するのは難しいとされています。これに対し、全ゲノムシーケンス解析はこれらの変異も検出することができるため、より包括的な情報を取得することが期待できます。
(※33)シングルセルRNAシーケンス解析
検体の細胞を一つ一つ分離し、それぞれの細胞の遺伝子発現量を個別に測定する解析です。腫瘍組織において、がん細胞は分裂を繰り返す中で個別の変異を持つ複数の細胞集団に分化し増殖します。様々な細胞集団が混在した状態で腫瘍組織を解析すると、がんの特徴を正確に理解することが困難な場合があります。シングルセルRNAシーケンス解析では、腫瘍組織中の個別の細胞の特徴を捉えられ、治療方法の選択や予後の予測などをより正確に行うことが期待できます。
(※34)メタゲノムシーケンス解析
多種多様な微生物が混在する検体からそれぞれの微生物のゲノムを同時に解読し、検体中に存在する生物種やその存在比などを明らかにする解析です。がん研究においては主に腸内細菌の解析に用いられ、大腸がんの原因となり得る腸内細菌の検出や体内の免疫や薬剤の代謝との関連性等についての研究が進んでいます。
(※35)ネオアンチゲン樹状細胞療法
がん細胞に生じた体細胞変異に由来する新規抗原(ネオアンチゲン)は、正常細胞には発現していません。そのため、非自己の抗原として非常に強い免疫反応を引き起こすと考えられています。ネオアンチゲン由来のペプチドを利用する樹状細胞療法は、ネオアンチゲン樹状細胞療法と呼ばれています。
(※36)TCR遺伝子導入T細胞療法
T細胞は、がん細胞がHLA分子上に提示しているペプチドをT細胞受容体(TCR)を介して認識すると、活性化され、がん細胞を傷害します。がん細胞に由来するペプチドを認識するTCRを同定し、遺伝子導入によって同じTCRを発現するT細胞を大量に調製したのち体内に投与する治療法は、TCR遺伝子導入T細胞療法と呼ばれています。
(※37)ペプチド特異的T細胞
がん細胞表面のHLA分子上に提示されたペプチドを認識し、がん細胞を直接傷害するT細胞です。
(※38)免疫チェックポイント阻害剤
がん細胞は免疫抑制分子を作り出し、免疫細胞の機能を抑制し、免疫細胞からの攻撃を逃れる仕組みを持っています。免疫チェックポイント阻害剤は、免疫抑制分子に結合し、免疫細胞の機能抑制を解除する抗体です。これによって、免疫細胞ががん細胞を攻撃するようになります。
(※39)樹状細胞療法
がん細胞由来の抗原を提示した樹状細胞(免疫細胞の一種、がん細胞のような異物を細胞内に取り込み、取り込んだ細胞由来のタンパク質断片を細胞表面に出し、他の免疫細胞に提示することで免疫反応を誘導します)を大量に調製し、体内へ投与する治療法です。がん細胞を認識するT細胞が効率よく誘導され、抗腫瘍効果を発揮することが期待されます。
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