有価証券報告書 抜粋 ドキュメント番号: S100R2GR (EDINETへの外部リンク)
鹿島建設株式会社 研究開発活動 (2023年3月期)
当社グループは、中期経営計画に基づき、建設生産システムの自動化・デジタル化やバリューチェーンの拡充による中核事業の一層の強化とともに、社会課題解決型ビジネスやオープンイノベーションによる新たな価値創出への挑戦を目指して技術開発を進めている。
当連結会計年度における研究開発費の総額は182億円であり、主な成果は次のとおりである。なお、当社は研究開発活動を土木事業、建築事業のセグメントごとに区分していないため建設事業として記載している。
(建設事業)
1 当社
(1) 中核事業の一層の強化
① 「全自動トンネル覆工コンクリート打設システム」を実工事に初導入
当社は、岐阜工業㈱及び㈱シンテックと共同で、「全自動トンネル覆工コンクリート打設システム」を開発し、新名神高速道路大津大石トンネル工事(滋賀県大津市)に初導入した。本システムは、2020年に開発した締固めが不要な覆工用高流動コンクリートによる完全自動打設システムを、軽微な締固めが必要な中流動覆工コンクリートにも対応できるよう進化させたものである。これにより、中流動覆工コンクリートにおいても全自動高速打設が可能となり、省力化による生産性向上及び品質向上を実現した。② 1車線規制で床版取替が可能な「スマート床版更新(SDR(*1))システム※」を開発
当社は、道路橋床版更新工事に伴う交通規制等によるソーシャルロスの大幅な低減を可能にする「スマート床版更新(SDR)システム※」の開発を進めており、今般、幅員方向分割(2車線道路の場合1車線規制)取替を対象とした「幅員方向分割SDRシステム」を開発した。SDRシステムは、床版取替に関わる4つの作業(既設床版の撤去、主桁ケレン、高さ調整及び新設床版の搬入・架設)を同時に並行して行う「移動式工場」を実現した施工システムで、標準的な工法と比べ、工期の大幅な短縮を実現する。*1:Smart Deck Renewal
③ ダム堤体打設工事における月間打設量の国内最高記録を樹立
当社は、成瀬ダム堤体打設工事(秋田県雄勝郡東成瀬村)において、堤体のCSG(*2)の打設に、当社が開発した多数の自動化建設機械を同時に自律運転させる次世代建設生産システム「A4CSEL※」(クワッドアクセル)を導入した。これにより自動化建設機械よる大量高速施工を実現し、2022年10月には、ダム工事における国内最高記録となる月間打設量27.1万m3を達成した。これまでの最高記録は、1960年8月の黒部(黒四)ダム工事の14.73万m3であり今回その記録を大幅に更新した。*2:Cemented Sand and Gravel
現地発生材(石や砂れき)とセメント、水を混合してつくる材料
④ 恵比寿ガーデンプレイスタワーの制震工事が完了
当社は、サッポロ不動産開発㈱が運営する恵比寿ガーデンプレイスタワー(東京都渋谷区)の屋上に、当社が開発したTMD(*3)型制震装置「D3SKY※-L」(ディースカイエル)を設置する制震リニューアル工事を完了した。この装置の設置により、長周期地震動を含む大地震から中規模地震まで、建物の揺れ幅や揺れを強く感じる時間が大幅に低減される。今般設置した「D3SKY※-L」は、多段積層ゴム式の大地震対応の大型TMDであり、専用開発の積層ゴムを用いて装置高さを低く抑えるとともに、TMDを3基連結した構造にすることで大幅な省スペース化を実現した。
*3:Tuned Mass Damper
揺れの周期を調整した錘が動くことにより建物の揺れを止める制震装置
(2) 新たな価値創出への挑戦
① スーパーコンピュータ「富岳」を用いた新型コロナの感染リスク評価と感染拡大抑止対策が日本オープンイノベーション大賞文部科学大臣賞を受賞
当社は、国立研究開発法人理化学研究所(以下、理化学研究所)、豊橋技術科学大学、京都工芸繊維大学及びダイキン工業㈱と共同で参画しているプロジェクト「スパコン「富岳」による新型コロナ飛沫感染リスク評価のデジタルトランスフォーメーションと社会実装」(代表者:理化学研究所/神戸大学 坪倉教授)が、内閣府主催の第5回日本オープンイノベーション大賞文部科学大臣賞を受賞した。当社は、このプロジェクトに建設会社として唯一参画している。今回、産学連携体制で飛沫・エアロゾル感染リスク評価を具現化したこと及びパンデミック初期から感染リスク評価と感染拡大抑止対策を提案してきた社会的な意義、更に最先端科学の成果を実社会に組み入れ目に見える成果を上げた事例として高く評価され、受賞に至った。② 自動車専用道路の管理ツールに光ファイバを初めて採用
当社は、自動車専用有料道路の熱海ビーチライン(静岡県熱海市)において、一定の区間を走行する車両の位置や速度を、道路上に敷設した光ファイバでリアルタイムに把握する実証試験を初めて行った。具体的には、ケーブル状の光ファイバセンサを車道と路肩の区画線上に設置し、高性能の光ファイバ計測器を用いて道路に生じる振動を計測した。その結果、同区間を走行する全ての車両の位置や速度などのデータが精密かつリアルタイムに取得でき、道路管理ツールとして活用可能であることを実証した。③ 水災害に対するトータルエンジニアリングサービスを提供開始
当社は、近年、激甚化・頻発化する水災害に対して、企業の水災害を想定したBCPを支援するトータルエンジニアリングサービスを実現するためのシステムを開発し、サービスの提供を開始した。本サービスはリスク評価、対策立案、対策工事及び運用支援から構成されており、当社グループが有する技術力を結集して合理的な対策を提供し、水災害を想定した顧客にとって最適なBCPをサポートするものである。本サービスは、既設・新設の個別施設に加え、広域なスマートシティの計画にも適用可能である。④ 空飛ぶ部屋「フライングボックス工法※」を実工事に適用
当社は、PC床版とCLT(*4)パネルを用いた新たなユニット化工法「フライングボックス工法※」を開発した。本工法は、現場敷地内の屋内地上部でPC床版にCLTパネルの壁と天井を組み立て、内装まで仕上げた後に揚重して所定の位置に取り付けるものである。在来工法に比べ、天候の影響を受けないため計画的に安定した施工が可能であり、仕上材等の揚重回数が大幅に減少するため生産性が向上する。また、作業の多くが地上部となるため安全性の向上にも繋がる。今般、当社の研修施設「鹿島テクニカルセンター」(横浜市鶴見区)に適用し、その有効性を確認した。*4:Cross Laminated Timber
ひき板を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料
⑤ 最高高さ162mの超高層ビルを「鹿島スラッシュカット工法※」で解体
当社は、超高層ビルの新たな解体工法「鹿島スラッシュカット工法※」を開発し、世界貿易センタービルディング既存本館解体工事(東京都港区)に適用した。本工法は、工期の短縮に加え、超高層ビルの解体工事に欠かせない強風・地震対策や第三者災害リスクの排除に寄与するとともに、騒音の大幅な低減や施工中のCO2排出量の削減など環境にもやさしい工法である。世界貿易センタービルディングの既存本館は最高高さ162mの超高層ビルであり、解体された建物としては国内最高である。(3) 成長・変革に向けた経営基盤整備とESG推進
① カーボンネガティブを実現するコンクリートを用いた「CUCO※(*5,6)-SUICOM型枠」(クーコスイコム型枠)を実工事に初適用
当社は、デンカ㈱及び㈱竹中工務店と共同で、コンソーシアム「CUCO※」の幹事会社として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」を推進している。今般、その最初の研究開発成果として、製造過程におけるCO2排出量が実質ゼロ以下となるカーボンネガティブコンクリートを用いた埋設型枠「CUCO※-SUICOM型枠」を国土交通省発注の放水路トンネル工事に適用し、一般的な高強度パネル使用時に比べ、CO2排出量677kg/m3の削減と実質排出量△62kg/m3のカーボンネガティブを実現した。
*5:Carbon Utilized Concrete
*6:当社、デンカ㈱及び㈱竹中工務店の登録商標
② 環境配慮型コンクリートの適用により181t-CO2のJ-クレジットを取得
当社は、2022年3月にコンクリートの製造・運搬に関わるCO2排出量を、ブロックチェーン技術により見える化するプラットフォームを開発した。同年5月、本プラットフォームを初めて活用し、国が運営するJ-クレジット制度(*7)において181t-CO2のクレジット(J-クレジット)を取得した。J-クレジットは、当社の単身寮「ドーミー南長崎アネックス」(東京都豊島区)において、通常のコンクリートよりもセメントの使用量が少ない環境配慮型コンクリートの「ECMコンクリート※(*8)」及び「エコクリート※BLS」を使用し、コンクリートの製造・運搬に関わるCO2排出量の削減によって取得した。
*7:省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度
*8:当社及び㈱竹中工務店の登録商標
③ 生物多様性や雨水の貯留・浸透に貢献する総合的なソリューションを提供
当社は、建物の屋上、壁面及び外構の緑化技術を最大限に活用した、生物多様性や雨水の貯留・浸透に貢献する総合的なソリューションの提供を開始した。本ソリューションは、今回新たに開発した外構緑地システム「DEWレインガーデン※」と、既存技術を改良した屋上緑化システム「エバクールガーデン※」及び壁面緑化システム「緑彩マルチパネル※.RT」を組み合わせたものである。今般、当社の研修施設「鹿島テクニカルセンター」(横浜市鶴見区)にこれら3つの技術を初めて同時に採用した。
④ 消失が危惧される地域固有の大型海藻類を再生・保全
当社は、近年、全国の沿岸域で深刻な問題となっている藻場衰退の解決に向けて、各地域に生育する固有の大型海藻類を年間を通じて生産できる技術を開発した。本技術は、大型海藻の種に相当する配偶体を少量の保存液に長期間保存し、随時、大量に増やして海藻の苗を生産するものである。当社技術研究所の葉山水域環境実験場(神奈川県三浦郡葉山町)では、人工漁礁に本技術を適用した現地試験で、大型海藻アラメの順調な生長を確認した。本技術は、脱炭素社会に向けたブルーカーボン(*9)創出やネイチャーポジティブ(*10)への貢献として注目されている。
*9:海藻などの海中植物が吸収・貯蔵した炭素のことで、CO2吸収源のひとつ
*10:生物多様性の減少傾向を食い止め、回復に向かわせること
(国内関係会社)
1 鹿島道路㈱
舗装に関する新技術の開発舗装建設機械の自動化等ICTを用いた省力化・省人化技術、CO2排出抑制技術、舗装現場のDX化及び重機の安全性向上技術等について、研究開発を進めている。
舗装建設機械の自動化として、自動運転ローラを開発した。本ローラは事前に設定した経路を自動的に往復走行するものであり、周囲に走行目標物がない場合や曲線部においても適正なパターン(往復距離及びラップ幅)での転圧が可能となった。
また、カーボンニュートラルの実現に向けて、リサイクル素材を100%使用した安定処理路盤材を開発した。これは、高炉スラグ微粉末及び刺激剤を用いたものであり、セメントを用いた従来の製造方法と比較して約77%のCO2排出削減が可能となった。
2 ケミカルグラウト㈱
高圧噴射撹拌工法の外部認証取得地盤改良用の高圧噴射撹拌工法である「ジェットクリート※」工法が、国土交通省が運営する新技術情報提供システム(以下、NETIS)の活用促進技術に指定された。活用促進技術とは、国土交通省各地方整備局等の新技術活用評価会議において全国的に普及することが有益と判断された技術であり、例えば入札時に指定技術を提案した場合には、他の技術と比較して高評価が得られるものである。なお、高圧噴射撹拌工法が地盤条件等の適用範囲を限定せずに指定されたのは現行のNETIS制度では初めてである。
また、建築基礎用の高圧噴射撹拌工法である「エコタイト※-S」工法について、一般財団法人日本建築総合試験所による審査の結果、建築技術性能証明の適用範囲拡大が認められた。本工法による地盤改良体の築造において、従来の円形断面形状の改良体に加え、扇形及び矩形断面形状の改良体についても性能が証明されたことで、施工の自由度が高まった。
外部認証の取得によって、両工法の信頼性が向上したことから、今後、更に積極的に提案していく。
(開発事業等及び海外関係会社)
研究開発活動は特段行われていない。(注) 工法等に「※」が付されているものは、当社及び関係会社の登録商標である。
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